


相続の相談先を司法書士と税理士のどちらにするかは、手続きの中身ではなく「相続税がかかるかどうか」で決まります。
不動産の名義を変える登記は司法書士、相続税の申告は税理士と、法律で担当が分かれているためです。
迷う原因は、どちらにも頼める仕事が真ん中にあることです。戸籍を集める、財産を調べる、遺産分割協議書を作る——この3つはどちらでも引き受けます。
そして両方に頼む必要がある家庭では、順番を間違えると同じ手続きを二度することになります。
相続税の申告期限は亡くなってから10か月です。一方の相続登記は3年以内で、先に来るのは申告のほうです。
争いがあるときだけは、弁護士が窓口になります。税理士も司法書士も、相続人の代理人として交渉することはできません。
本記事では、どちらに先に頼むかの判定、できること・できないことの違い、順番を間違えたときの損失額、分割が決まらないときの登記、費用の総額までを解説します。
▼ この記事の3行まとめ

相談先は仕事の内容で決めるものだと思われがちですが、実際に効くのは締切の順番です。相続税の申告は10か月、相続登記は3年と決まっており、先に来るのは申告のほうです。
まず相続税がかかるかどうかを確かめ、かかるなら税理士から動きます。かからないなら、登記を担当する司法書士が窓口になります。
相続税の申告と納税の期限は、亡くなったことを知った日の翌日から10か月です。この間に財産を調べ、評価し、誰が何を取るかを決め、申告書を作ります。
相続登記のほうは、所有権を取得したことを知った日から3年以内と不動産登記法76条の2に定められています。2024年4月から義務になりました。
数字だけ見ると3年のほうが長く、登記は後回しでよいように見えます。ただし登記の内容は遺産分割の結果そのものなので、分割を決める作業は両方に共通しています。
分割を決める段階で相続税を計算しておかないと、税額が高くなる分け方を選んでしまいます。だから先に動くのは税理士です。
| 手続き | 期限 | 起算日 | 担当 |
|---|---|---|---|
| 相続放棄・限定承認 | 3か月 | 自己のために相続の開始があったことを知った時 | 司法書士・弁護士 |
| 亡くなった人の所得税の申告 | 4か月 | 相続の開始を知った日の翌日 | 税理士 |
| 相続税の申告・納税 | 10か月 | 相続の開始を知った日の翌日 | 税理士 |
| 相続登記 | 3年 | 所有権を取得したことを知った日 | 司法書士 |
表の見方:上から順に締切が来ます。黄色の行が相続税の申告で、登記より7年近く早く来ます。
重要ポイント:相続放棄の3か月がいちばん早く、ここだけは司法書士か弁護士の領域です。借金があるかどうかが分からないうちは、まず財産調査を急ぎます。
参照元:e-Gov法令検索 不動産登記法(第76条の2・第164条)
自分がどちらに当てはまるかは、3つ確認すれば判定できます。財産の総額、不動産の有無、相続人の仲の3点です。
【この3つに答えると相談先が決まります】
| 質問1 相続税 |
質問2 不動産 |
質問3 争い |
最初に相談する相手 | 理由 |
|---|---|---|---|---|
| かかる | あり | なし | 税理士 | 10か月の申告が先。分割を決める前に税額を計算する |
| かかる | なし | なし | 税理士 | 登記が不要なので司法書士の出番がない |
| かからない | あり | なし | 司法書士 | 登記だけで完結する。税理士に頼む場面がない |
| かからない | なし | なし | 専門家は不要なことが多い | 預貯金の解約は自分でもできる |
| 問わない | 問わない | あり | 弁護士 | 代理人として交渉できるのは弁護士だけ |
表の見方:質問3が「あり」なら、上の4行に関係なく弁護士が先になります(赤い行)。交渉を代理できるのが弁護士だけだからです。
重要ポイント:判断が分かれるのは1行目だけです。相続税がかかり、かつ不動産もある家庭では両方に頼むことになり、そのときの順番が費用と税額を左右します。
司法書士と税理士で引き受けられる仕事が違うのは、それぞれの法律が業務の範囲を決めているためです。好き嫌いや得意不得意の問題ではありません。
司法書士法3条は、登記や供託の手続きの代理、法務局や裁判所に出す書類の作成、そしてそれらについての相談を司法書士の仕事と定めています。
税理士法2条は、税務代理・税務書類の作成・税務相談の3つを税理士の仕事としています。この3つは税理士以外がしてはいけないと52条が定めており、違反すると2年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金です(59条1項4号)。
つまり相続税がかかるかどうかの判断を司法書士に求めても、正面からは答えられません。無料であっても、税額の計算や有利不利の判断は税務相談にあたるためです。
【「税務相談」にあたるのはどこからか】
だから多くの司法書士事務所は税理士と提携しています。線を越えられないことを分かったうえで組んでいます。
参照元:e-Gov法令検索 税理士法(第2条・第52条・第59条)
税理士に相談できること・できないことの境界は下記の記事で解説しています。



相続の手続きには、登記・税金・交渉という3つの山があります。登記は司法書士、税金は税理士、交渉は弁護士と担当が決まっており、入れ替えはききません。その手前にある戸籍集めや書類づくりだけが、どの資格にも頼める共通の部分です。まず4つの資格を1つの表で並べます。
相続でよく名前が出るのは、司法書士・税理士・弁護士・行政書士の4つです。同じ「相続の専門家」と呼ばれますが、引き受けられる範囲は重なりません。
| 手続き | 司法書士 | 税理士 | 弁護士 | 行政書士 |
|---|---|---|---|---|
| 不動産の名義変更(相続登記) | ○ | × | ○ | × |
| 相続税の申告 | × | ○ | × | × |
| 相続放棄の書類作成 | ○ | × | ○ | × |
| 相続人の調査・戸籍集め | ○ | ○ | ○ | ○ |
| 財産の調査 | ○ | ○ | ○ | ○ |
| 遺産分割協議書の作成 | ○ | ○ | ○ | ○ |
| 相続人の代理で交渉する | × | × | ○ | × |
| 遺産分割の調停・訴訟 | △ (簡裁の一部のみ) |
× | ○ | × |
| 自動車・預貯金などの名義変更書類 | ○ | × | ○ | ○ |
表の見方:縦に見ると各資格の守備範囲、横に見ると「その手続きを誰に頼めるか」が分かります。○が1つしかない行が、その資格でなければできない仕事です。
重要ポイント:○が1つしかない行は3つだけです。相続登記は司法書士、相続税の申告は税理士、代理交渉は弁護士。残りの行は複数に○が付いており、誰に頼んでもかまいません。
計算ロジック:○×は各資格の根拠法から整理しています。司法書士は司法書士法3条、税理士は税理士法2条、弁護士は弁護士法3条(一般の法律事務)が根拠です。
行政書士は行政書士法1条の2により、他の法律で制限されたものを除く書類作成に限られます。そのため登記と相続税の申告はどちらもできません。
司法書士の中心は登記です。不動産の名義を亡くなった人から相続人に移す手続きは、代理でできるのが司法書士だけです(弁護士も可能ですが実務では稀です)。
この中で相続税と関係が深いのは法定相続情報一覧図です。相続税の申告書にも添付でき、戸籍の原本を何通も取り直さずに済みます。
税理士の中心は申告です。相続税の申告書を作って税務署に出すこと、そのために財産を評価すること、税額が下がる分け方を提案することが仕事になります。
この中で金額が大きく動くのは土地の評価と特例です。この記事の例では、小規模宅地等の特例を使えるかどうかで相続税が385万円と50万円に分かれます。
参照元:国税庁 No.4124 相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例)
相続の相談先として行政書士の名前が出ることもあります。報酬が抑えめなことが多く、書類の作成を頼む相手として案内されます。
行政書士法1条の2は、官公署に出す書類と権利義務に関する書類の作成を行政書士の仕事としています。ただし他の法律で制限されているものは除くという条件が付いています。
登記は司法書士法、相続税の申告は税理士法が制限しているため、どちらも行政書士にはできません。相続で不動産か相続税が関わるなら、行政書士だけでは完結しません。
不動産がなく相続税もかからない家庭では、行政書士だけで足りることがあります。逆に自宅があるなら、遅かれ早かれ司法書士が必要になります。
迷いの原因になっているのが、この真ん中の部分です。戸籍の収集、財産の調査、遺産分割協議書の作成は、どちらに頼んでも引き受けてもらえます。
同じ仕事なら安いほうへ、と考えたくなりますが、それぞれ次の工程が違うため、見ている場所が違います。
【同じ書類でも、見ているところが違います】
両方に頼む家庭では、税理士が分け方を決めてから司法書士が登記の形に整えるのが無駄のない順番です。
なお、どちらに頼んでも報酬は二重にはなりません。先に依頼したほうが作成し、もう一方はそれを使います。二重になるのは登記を2回する場合で、次の章で扱います。
小規模宅地等の特例と税理士の探し方は下記の記事で解説しています。



両方に頼む家庭でいちばん多い失敗は、分け方が決まらないうちに登記だけ先に済ませてしまうことです。登記の期限が迫っていると感じて動くのですが、あとで分け方が変わると、同じ不動産をもう一度登記することになります。
この章では、何がどれだけ余計にかかるのかを金額で示します。
遺産分割がまとまらないうちでも、法定相続分どおりの割合なら登記できます。相続人の1人が単独で申請できるため、急ぐときに選ばれる方法です。
問題はその後です。不動産登記法76条の2第2項は、法定相続分で登記したあとに遺産分割があったとき、分割で相続分を超えて取得した人は分割の日から3年以内にもう一度登記を申請しなければならない、と定めています。
つまり登記は2回です。1回目は法定相続分どおりの登記、2回目は分割で動いた持分の移転登記になります。
【登記が2回になると増えるもの】
先に分け方を決めてから1回で登記すれば、この2回目はまるごと不要になります。
では分け方を急いで決めればよいかというと、そうとも限りません。相続税には、誰がどの財産を取るかで使えたり使えなかったりする特例があるためです。
代表が小規模宅地等の特例です。自宅の土地を配偶者か同居していた親族が取得すると、330平方メートルまで評価額が80%下がります。
この記事の例で言うと、土地6,000万円が1,200万円として扱われ、課税対象が4,800万円減ります。
| 小規模宅地等の特例を使わない | 特例を使う | |
|---|---|---|
| 土地の評価額 | 6,000万円 | 1,200万円 |
| 課税価格の合計 | 1億円 | 5,200万円 |
| 基礎控除 | 4,200万円 | 4,200万円 |
| 相続税(配偶者の軽減を適用後) | 385万円 | 50万円 |
表の見方:左右で変えているのは土地の評価額だけです。それだけで最下行の相続税が335万円変わります。
重要ポイント:この特例には「申告期限まで持ち続けて住み続ける」という条件があります。先に登記を済ませて売る準備を始めると、条件から外れることがあります。
計算ロジック:土地6,000万円・建物500万円・預貯金3,500万円、相続人は配偶者と子1人、配偶者が2分の1を取得する前提です。基礎控除は3,000万円+600万円×2人=4,200万円、特例は6,000万円×80%=4,800万円の減額です。
ここまでの2つを合わせると、進め方によって最終的な負担が変わります。同じ家庭・同じ財産で、動く順番だけを変えた3通りを並べます。
| 進め方 | 登記の回数 | 登録免許税 | 司法書士報酬 | 税理士報酬 | 合計の目安 |
|---|---|---|---|---|---|
| ①税理士→分け方を決める→登記1回 | 1回 | 23万円 | 7万円〜15万円 | 50万円〜100万円 | 80万円〜138万円 |
| ②法定相続分で登記→あとで分け直す | 2回 | 34万円 | 14万円〜30万円 | 50万円〜100万円 | 98万円〜164万円 |
| ③相続税がかからない(登記だけ) | 1回 | 23万円 | 7万円〜15万円 | — | 30万円〜38万円 |
表の見方:①と②は同じ家庭です。違うのは動く順番だけで、税理士報酬も相続税も変わりません。増えているのは登記まわりの費用だけです。
重要ポイント:②は①より18万円〜26万円余計にかかります。急いで登記したことの代償がこの金額です。
計算ロジック:登録免許税は固定資産税評価額×0.4%で計算しています。固定資産税評価額は土地5,250万円+建物500万円=5,750万円と置きました。2回目は動く持分が2分の1なので12万円です。税理士報酬は遺産総額の0.5〜1%を目安にしています。
参照元:e-Gov法令検索 不動産登記法(第76条の2・第164条)
遺産分割協議書の書き方は下記の記事で解説しています。


ここまでの判断はすべて「相続税がかかるかどうか」を起点にしています。ところが多くの人は、それが分からないまま相談先を探しています。この判定だけは自分でも大まかにできます。
財産を足して基礎控除と比べるだけだからです。その手順と、判定を誤りやすい場面を見ていきます。
相続税がかかるのは、財産の合計が基礎控除を超えたときだけです。超えなければ申告も納税も要りません。
【3つの手順で大まかに判定できます】
この記事の例では相続人が2人なので、基礎控除は4,200万円です。財産は1億円なので超えています。
| 相続人の数 | 基礎控除 | 超えるかどうかの目安 |
|---|---|---|
| 1人 | 3,600万円 | 自宅があるとほぼ超える |
| 2人 | 4,200万円 | 自宅+預貯金で超えることが多い |
| 3人 | 4,800万円 | 都市部の自宅があると超えやすい |
| 4人 | 5,400万円 | 超えないことも多い |
表の見方:相続人が1人増えるごとに600万円ずつ枠が広がります。同じ財産でも、相続人の数によって結論が変わります。
重要ポイント:生命保険金と死亡退職金は、受取人が決まっていても財産に足します。ただし500万円×相続人の数までは非課税です。
判定でいちばん誤解が多いのがここです。「計算したら税額が0円だったから申告は要らない」と考えると、無申告になってしまうことがあります。
小規模宅地等の特例と配偶者の税額軽減は、申告書を出してはじめて使える仕組みだからです。使った結果として0円になる場合は、0円の申告書を出す必要があります。
| 状況 | 税額 | 申告 |
|---|---|---|
| 財産が基礎控除以下 | 0円 | 不要 |
| 小規模宅地等の特例を使って0円 | 0円 | 必要 |
| 配偶者の税額軽減を使って0円 | 0円 | 必要 |
| 特例を使わずに税額が出る | 1円以上 | 必要 |
表の見方:赤い2行が誤解されやすいところです。特例を使って0円になった場合は申告が必要です。
重要ポイント:この判断は税理士でなければできません。特例が使えるかどうかの判定そのものが税務相談にあたるためです。司法書士に「うちは相続税がかかりますか」と聞いても答えは返りません。
参照元:国税庁 No.4124 相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例)
先に司法書士へ相談した場合でも、課税の可能性に気づく機会はあります。登記のために財産を洗い出す工程があるためです。
相続登記には、亡くなった人の出生から死亡までの戸籍、不動産の登記事項証明書、固定資産評価証明書がそろいます。この時点で不動産の価格の目安が見えます。
ただし司法書士が見ているのは固定資産税の評価額です。相続税で使うのは路線価にもとづく評価額で、通常こちらのほうが高くなります。同じ土地でも2つの評価額があり、金額は一致しません。
【同じ土地に2つの評価額があります】
固定資産税評価額で「基礎控除を超えない」と判断すると、相続税評価額では超えていることがあります。境界に近い家庭ほど、税理士に確認する価値があります。
相続税がかかる基準と名義預金の扱いは下記の記事で解説しています。



弁護士は相続のすべてを扱える唯一の資格です。登記も税務以外の手続きも引き受けられます。それでも最初の相談先として弁護士を選ぶ家庭は多くありません。費用が高く、争いのない相続では出番が限られるからです。逆に、争いがあるときは弁護士でなければ動けません。
税理士も司法書士も、相続人の代理人として相手方と交渉することはできません。交渉や調停の代理は弁護士法が弁護士に限っているためです。
【この5つに当てはまるなら弁護士が先】
このうち遺留分の請求には期限があります。相続の開始と遺留分を侵害する贈与や遺贈を知った時から1年です。相続税の10か月より短くなることがあります。
争いがあるからといって、弁護士がすべてを引き受けられるわけではありません。相続税の申告は税理士の仕事だからです。
弁護士は税理士登録をすれば税理士業務も行えますが、登録していない弁護士は申告書を作れません。実務では提携している税理士に回ることになります。
そのため争いがあり、かつ相続税もかかる家庭では、弁護士と税理士の両方に頼むことになります。窓口は弁護士、税金は税理士という分担です。
| やること | 担当 | 理由 |
|---|---|---|
| 相手方との交渉・調停 | 弁護士 | 代理できるのは弁護士だけ |
| 財産の調査 | 弁護士・税理士 | 両方できる |
| 相続税の申告 | 税理士 | 税理士法2条の独占業務 |
| 分け方が決まったあとの登記 | 司法書士 | 登記の代理 |
表の見方:争いのある相続でも、税金と登記の担当は変わりません。弁護士が増えるだけです。
重要ポイント:分け方が決まらないまま10か月が来ても、相続税の申告は必要です。いったん法定相続分で申告し、決まってから直します。
弁護士報酬は自由化されており、事務所ごとに決められます。それでも多くの事務所が、かつての統一基準に近い形を採っています。
相続では、着手金と報酬金の計算のもとになる「得られた金額」の決め方が事務所によって違います。取得した財産全体で見るのか、争って増えた分だけで見るのかを必ず確認してください。
前者だと、話し合いがすんなり進んだ場合でも報酬が大きくなります。見積りの段階で計算のもとを聞いておくと、あとで驚かずに済みます。
見落とされやすいのが、弁護士費用の税務上の扱いです。高額になることが多いため、相続税から引けると思われがちです。
相続税を計算するときに財産から引けるのは、亡くなった人が残した借金と葬式費用に限られています。相続人が自分の判断で払った弁護士費用は、どちらにも当たりません。
税理士報酬も同じです。相続人が申告のために払う報酬は、亡くなった人の債務ではないため引けません。
【相続税の計算で引けるもの・引けないもの】
費用の分だけ税金が減るわけではないので、報酬の額そのものを比べて決める必要があります。
遺留分と相続放棄は下記の記事で解説しています。


弁護士・司法書士の費用を含め、相続でかかる費用が相続税と所得税のどちらで引けるかは、下記の記事で解説しています。


2024年4月から相続登記が義務になり、3年という期限がつきました。ところが遺産分割は3年で終わらないことがあります。話し合いがつかない、相続人が多い、連絡が取れない——そうした家庭のために分け方が決まっていなくても義務を果たせる仕組みが同時に用意されました。
不動産登記法76条の2は、所有権を取得したことを知った日から3年以内に登記を申請しなければならないと定めています。
2024年4月1日より前に起きた相続も対象です。その場合の期限は2027年3月31日までとされています。
正当な理由なく申請を怠ると、10万円以下の過料の対象になります(不動産登記法164条1項)。
| 相続が起きた時期 | 期限 | 根拠 |
|---|---|---|
| 2024年4月1日以後 | 取得を知った日から3年以内 | 不動産登記法76条の2第1項 |
| 2024年4月1日より前 | 2027年3月31日まで | 改正法の経過措置 |
| 法定相続分で登記したあとに分割した | 分割の日から3年以内 | 不動産登記法76条の2第2項 |
表の見方:3行目が見落とされやすいところです。一度登記していても、分け方が変わればもう一度期限が始まります。
重要ポイント:過料は自動ではありません。条文には「正当な理由がないのに」とあり、相続人が多くて戸籍集めに時間がかかっている場合などは考慮されます。
参照元:e-Gov法令検索 不動産登記法(第76条の2・第164条)
分け方が決まらないときの受け皿が、不動産登記法76条の3の仕組みです。登記官に対して「この不動産の名義人について相続が始まり、自分はその相続人だ」と申し出る手続きです。
正式には相続人申告登記といいます。所有権が移るわけではなく、相続人の氏名と住所が登記に付記されるだけです。
それでも期限内に申し出れば、登記を申請する義務を果たしたものとみなされます(76条の3第2項)。過料の対象から外れます。
【相続人申告登記が向いている場面】
単独で申し出ることができ、他の相続人の同意は要りません。法定相続分で登記する場合と違って、自分の持分が登記されるわけではない点に注意してください。
相続人申告登記は「いったん」の措置にすぎないため、ここで手続きが終わるわけではありません。
不動産登記法76条の3第4項は、申し出をした人がその後の遺産分割で所有権を取得したときは、分割の日から3年以内に所有権移転の登記を申請しなければならない、と定めています。
この2回目を怠ると、やはり10万円以下の過料の対象です(164条1項)。申し出て終わりではありません。
| 進め方 | 1回目 | 2回目 | 登録免許税 |
|---|---|---|---|
| 分け方を決めてから登記 | 所有権移転の登記 | 不要 | 23万円 |
| 法定相続分で登記→あとで分割 | 所有権移転の登記 | 分割から3年以内に持分の移転 | 34万円 |
| 相続人申告登記→あとで分割 | 申し出(付記されるだけ) | 分割から3年以内に所有権移転 | 23万円 (申し出は非課税) |
表の見方:3つとも最終的に所有権の登記をします。違うのは回数と、その都度かかる登録免許税です。
重要ポイント:相続人申告登記そのものに登録免許税はかかりません。法定相続分で登記してから分け直すより、費用の面では軽く済みます。
計算ロジック:登録免許税は固定資産税評価額5,750万円×0.4%で計算しています。2行目の2回目は動く持分が2分の1なので12万円が上乗せされます。
登記と同じく、相続税の申告にも分割が決まらない場合の扱いがあります。10か月の期限は待ってくれないためです。
いったん法定相続分で取得したものとして申告し、納税します。分け方が決まったあとで、多く納めすぎた人は返してもらい、足りない人は追加で納めます。
この見込書を出し忘れると、あとから特例を使えなくなります。この記事の例では335万円の差になります。
未分割のまま申告する手順は下記の記事で解説しています。
未分割のまま申告する手順と数次相続は下記の記事で解説しています。



報酬の決まり方は資格によって違います。税理士は遺産の額に対する割合、司法書士は手続きごとの定額が一般的です。同じ相続でも、頼む相手の組み合わせで総額は2倍以上ひらきます。この章では遺産1億円のケースで、誰に何を頼むといくらになるかを並べます。
相続登記の報酬は手続き単位です。不動産の名義変更だけを頼むか、戸籍集めや遺産分割協議書の作成まで含めるかで変わります。
これとは別に、国に納める登録免許税がかかります。固定資産税評価額の0.4%で、この記事の例では23万円です。報酬と違って交渉の余地はありません。
相続税の申告報酬は、遺産総額に対する割合で決まるのが一般的です。基本報酬に、財産の種類や相続人の数に応じた加算が乗ります。
| 遺産総額 | 基本報酬の目安(0.5〜1%) | 主な加算 |
|---|---|---|
| 5,000万円 | 25万円〜50万円 | 土地・非上場株式・相続人の数 |
| 1億円 | 50万円〜100万円 | 土地・非上場株式・相続人の数 |
| 2億円 | 100万円〜200万円 | 土地・非上場株式・相続人の数 |
| 5億円 | 250万円〜500万円 | 土地・非上場株式・相続人の数 |
表の見方:幅の下限と上限で2倍ひらきます。同じ財産でも事務所によってこれだけ違うということです。
重要ポイント:安さだけで選ぶと土地の評価が雑になることがあります。この記事の例では、特例を使えるかどうかで相続税が335万円動きます。報酬の差より大きい金額です。
計算ロジック:基本報酬は遺産総額×0.5〜1%で算出しています。加算は土地1件あたり数万円、非上場株式1社あたり十数万円、相続人が1人増えるごとに基本報酬の10%程度が上乗せされるのが一般的な体系です。
税理士報酬の相場と見積書の見方は下記の記事で解説しています。
ここまでの数字を、実際の頼み方ごとに足し合わせます。遺産1億円・自宅あり・相続人2人という同じ条件で比べます。
| 頼み方 | 税理士 | 司法書士 | 登録免許税 | 合計の目安 |
|---|---|---|---|---|
| 司法書士だけ(相続税がかからない) | — | 7万円〜15万円 | 23万円 | 30万円〜38万円 |
| 税理士だけ(不動産がない) | 50万円〜100万円 | — | — | 50万円〜100万円 |
| 税理士+司法書士(順番どおり) | 50万円〜100万円 | 7万円〜15万円 | 23万円 | 80万円〜138万円 |
| 税理士+司法書士(登記が2回) | 50万円〜100万円 | 14万円〜30万円 | 34万円 | 98万円〜164万円 |
表の見方:黄色が標準的な進め方、赤が順番を誤った場合です。上2行は「片方しか要らない家庭」なので、そもそも安く済みます。
重要ポイント:赤い行は黄色より18万円〜26万円高くなります。仕事の量は同じなのに、登記を2回したぶんだけ増えています。
計算ロジック:税理士報酬は遺産1億円×0.5〜1%、司法書士報酬は一式7万円〜15万円、登録免許税は固定資産税評価額5,750万円×0.4%=23万円で計算しています。
税理士報酬の相場と誰が払うかは下記の記事で解説しています。



取引のある銀行から相続の案内を受け取り、そのまま相談する人は少なくありません。窓口が1つで済むのは確かに楽です。ただし銀行は登記も相続税の申告もできません。実際に手を動かすのは提携先の司法書士と税理士で、そのぶんの費用が上乗せされます。
銀行が自社で行えるのは、自分のところにある口座に関する手続きだけです。相続の手続き全体から見ると、ごく一部にあたります。
| 手続き | 銀行が自社でできるか | 実際に誰がやるか |
|---|---|---|
| 残高証明書の発行 | ○ | 銀行 |
| 口座の解約・払戻し | ○ | 銀行 |
| 投資信託・株式の移管 | ○ | 銀行・証券会社 |
| 不動産の名義変更 | × | 提携先の司法書士 |
| 相続税の申告 | × | 提携先の税理士 |
| 相続人どうしの交渉 | × | 提携先の弁護士 |
表の見方:赤い3行が「銀行ではできない」部分です。相続で費用がかかるのはまさにこの3つです。
重要ポイント:銀行の遺産整理業務は、手続きの取りまとめであって代行ではありません。資格が要る部分はすべて外に出ます。
信託銀行などが提供する遺産整理業務は、遺産の額に応じた料率で手数料が決まり、最低手数料が設定されているのが一般的です。
この手数料に含まれるのは、相続人の確定、財産の目録づくり、金融機関の手続きの取りまとめ、そして各資格者との連絡調整です。
相続税の申告報酬と登記の報酬は、たいてい別建てです。見積りを受け取ったら、どこまでが含まれているかを最初に確認してください。
【見積りで確かめておきたいこと】
金額よりも影響が大きいのがこちらです。銀行経由で進めると、申告を担当する税理士を自分で選ぶ機会がありません。
相続税は担当者によって結果が変わる税金です。土地の評価をどこまで下げられるか、特例をどう組み合わせるかは、経験の差がそのまま金額に出ます。
この記事の例で言えば、小規模宅地等の特例を使えるかどうかだけで335万円の差が出ます。紹介された1人に任せると、この判断を比べる機会がなくなります。
【銀行経由と自分で選ぶ場合の違い】
窓口の数を取るか、担当者を選べることを取るかの判断です。相続税がかかる家庭では、後者のほうが金額の差は大きくなります。
参照元:国税庁 No.4124 相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例)
相続税の相談窓口は下記の記事で解説しています。


相続の相談先を探すと「ワンストップ対応」という言葉によく出会います。1か所に頼めば登記も申告もまとめて進むという意味で使われます。
ただし中身は事務所ごとに違い、社内に両方の資格者がいる場合と、外部と提携しているだけの場合があります。どちらかで、選べる余地も費用も変わります。
同じ看板でも、実態は3つに分かれます。最初の面談で確認しておくと、あとで想定と違ったということが減ります。
| 形 | 中身 | 税理士を選べるか | 費用 |
|---|---|---|---|
| 社内に両方いる | 同じ法人に税理士と司法書士が在籍 | 選べない(社内の担当者) | 窓口は1つ。取次の上乗せはない |
| グループ内に別法人がある | 税理士法人と司法書士法人が同じグループ | 選べないことが多い | 窓口は1つ。請求は別々のことがある |
| 外部と提携している | 付き合いのある事務所に回す | 事務所によっては相談できる | 紹介の手数料が乗ることがある |
表の見方:上に行くほど社内で完結し、下に行くほど外部に出ます。どの形でも「税理士を自分で選ぶ」機会は基本的にありません。
重要ポイント:ワンストップの利点は手間が減ることで、金額が下がることではありません。手間と選べることのどちらを取るかで判断します。
相続税がかかる家庭では、この1点が結果を大きく左右します。土地の評価と特例の判断は担当者によって差が出るためです。
この記事の例では、小規模宅地等の特例が使えるかどうかだけで相続税が385万円と50万円に分かれます。差は335万円です。
司法書士に頼んだ流れでそのまま紹介を受けると、この判断を1人の税理士に委ねることになります。比べる相手がいないため、判断が妥当かどうかを確かめる手がかりがありません。
【紹介を受ける前に聞いておきたいこと】
登記は司法書士、申告は税理士と分けて頼む場合の進め方です。窓口は2つになりますが、それぞれを比べて選べます。
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この順番で進めると、税理士を比べる時間と、登記を1回で終える条件の両方が確保できます。
相続の手続きは長く、途中で不安になることがあります。連絡が返ってこない、質問に答えが返らないといった場合です。
税理士は途中で変更できます。契約と報酬の精算は必要ですが、申告書を出す前であれば別の税理士に引き継げます。
申告を終えたあとでも、納めすぎに気づけば取り戻せる場合があります。土地の評価を見直した結果、税額が下がるケースです。
申告後に評価を見直す手順は下記の記事で解説しています。
申告後に評価を見直す方法は下記の記事で解説しています。



ここまで見てきたとおり、相談先を分けるのは相続税がかかるかどうかです。そして相続税がかかる家庭では、どの税理士に頼むかで納税額が変わります。登記の報酬は事務所が違っても大きくは動きませんが、土地の評価と特例の判断は動きます。
相続税は、税理士なら誰でも同じ結果になる税目ではありません。土地の評価と特例の使い方で納税額が変わるため、相続税の対応実績がある税理士に依頼する必要があります。
【相続税の対応実績がある税理士が必要な理由】
金額で言えば、この記事の例では小規模宅地等の特例を使えるかどうかだけで相続税が335万円変わります。税理士報酬の差である50万円より大きい金額です。
同じ条件で複数の事務所に当たると、報酬と提案の両方を横に並べられます。1つの事務所だけでは、その提案が妥当かどうかを確かめる手がかりがありません。
見積りが揃ったら、金額だけを見比べないでください。次の3点を比べると実務力が見えます。
判定ポイント1:土地の評価方針を具体的に話すか
自宅の土地について「小規模宅地等の特例が使えるか」「不整形地の補正をかけられるか」に、見積りの段階で触れているか。
→ 評価方針に触れる事務所のほうが、土地のある相続を数多く扱っていると判定できます。
判定ポイント2:登記との順番を提案するか
「分け方を決めてから登記すれば1回で済みます」のように、他の資格者との段取りまで説明があるか。
→ 順番を設計できる事務所のほうが、不動産のある相続の経験が豊富と判定できます。
判定ポイント3:報酬の内訳が書面にあるか
基本報酬・土地や非上場株式の加算・税務調査の立ち会いの有無が、口頭ではなく書面で示されているか。
→ 総額を書面で出せる事務所のほうが、あとから追加請求になるリスクが低いと判定できます。
比較せずに1つの事務所だけで進めた場合、あとから取り返せない損失が出ます。
【相談しないまま進めるリスク】
金額にすると次のとおりです。この記事の例では、特例を取りこぼすと相続税が335万円増え、登記を2回すると18万円〜26万円が上乗せされます。
合わせて最大で362万円の差が、フォーム入力5分をかけるかどうかで決まります。
一括見積りサービスを利用した依頼の流れは次の4段階です。
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初回相談は報酬を聞く場ではありません。次の7点をその場で確認してください。
【初回相談で確認すること】
見積りは総額だけを見ないでください。内訳が書面になっているかが分かれ目です。
【見積りで確認すること】
自分で申告する場合の判断基準と税務調査は下記の記事で解説しています。


できません。相続税の申告は税理士法2条が定める税理士の独占業務で、司法書士が代理で行うことはできません。
多くの司法書士事務所は税理士と提携しており、窓口を1つにしたまま申告まで進められます。ただしその場合、担当する税理士を自分で選ぶ機会はありません。
税理士です。財産の合計が基礎控除(3,000万円+600万円×相続人の数)を超えるかどうかの判定そのものが税務相談にあたるため、司法書士や行政書士は答えられません。
おおまかな判定は自分でもできます。不動産の固定資産評価証明書と預貯金の残高を足して、基礎控除と比べてください。境界に近いときは、相続税の評価額のほうが高くなる点に注意が必要です。
相続税がかかるなら税理士が先です。申告の期限が10か月、登記の期限が3年で、先に来るのは申告だからです。
もうひとつ理由があります。分け方を決める段階で相続税を計算しておかないと、税額が高くなる分け方を選んでしまいます。登記は分け方が決まってからで間に合います。
弁護士が窓口になります。相続人の代理で交渉できるのは弁護士だけだからです。税理士も司法書士も、一方の代理人として相手方と話すことはできません。
ただし相続税の申告は弁護士では行えないため、税理士にも依頼します。分け方が決まらないまま10か月が来る場合は、いったん法定相続分で申告し、決まってから修正します。
基礎控除に届かないことがはっきりしているなら、税理士に頼む場面はありません。登記が必要なら司法書士だけで完結します。
迷うのは境界に近い場合です。生命保険金や死亡退職金に加え、亡くなる前3年以内の生前贈与も財産に足します。2027年1月1日以後に始まった相続では、この期間が順次のびて最長7年になります。そのため自分の計算では届かなくても超えていることがあります。
相続人申告登記という手続きがあります。登記官に「自分はこの不動産の名義人の相続人だ」と申し出るもので、期限内に申し出れば登記の義務を果たしたものとみなされます。
注意点があります。その後の遺産分割で不動産を取得したときは、分割の日から3年以内にあらためて所有権移転の登記が必要です(不動産登記法76条の3第4項)。申し出て終わりではありません。
銀行が自社で行えるのは、口座の残高証明の発行と解約・払戻しまでです。登記も相続税の申告も、提携先の司法書士と税理士が担当します。
遺産整理業務を頼むと手続きの取りまとめは任せられますが、相続税の申告報酬と登記の報酬は別建てになるのが一般的です。見積りを受け取ったら、どこまでが含まれているかを先に確認してください。
司法書士と税理士のどちらに相談するかは、手続きの中身ではなく相続税がかかるかどうかで決まります。そして両方に頼む家庭では、動く順番が費用と税額を左右します。
今すぐ取るべき行動
※本記事は2026年9月時点の法令・税率に基づいて作成しています。税制改正や個別の事情により取り扱いが異なる場合があります。具体的な手続きについては税理士または税務署にご相談ください。