


相続では、葬儀費用や登記費用、税理士報酬など、さまざまな費用がかかります。
これらの費用が税金から引けるかどうかは、「相続税」と「所得税」で扱いが分かれます。
「相続にかかった費用は、当然すべて相続税から引けるはず」と考える人は少なくありません。
しかし相続税で引けるのは、実は「債務控除」という限られた費用だけです。
登記費用や税理士報酬など、相続後にかかった費用の多くは相続税では引けません。
一方で、それらが所得税の経費になるケースもあり、扱いを混同すると損をします。
本記事では、相続でかかった費用を「相続税で引ける/所得税で引ける/どちらも引けない」の3つに分類し、逆引きで整理します。
▼ この記事の3行まとめ

まず全体像です。相続でかかった費用は「相続税で引ける」「所得税で引ける」「どちらも引けない」の3つに分類できます。この区別が分かれば迷いません。
逆に、この区別を知らないと、引けない費用を計上したり、引ける費用を見逃したりします。
相続税を計算するとき、財産から引ける費用は法律で限定されています。
相続税法第13条により、引けるのは「亡くなった方の債務」と「葬式費用」の2種類だけです。
これをまとめて「債務控除」と呼びます。
つまり、相続にかかった費用なら何でも相続税から引ける、というわけではありません。
亡くなった方が残した借入金や未払いの税金、そして葬儀にかかった費用が中心です。
これらを財産から差し引くことで、課税される遺産の金額が小さくなり、相続税が減ります。
債務控除は、相続税を計算するうえで最初に押さえるべき基本の仕組みです。
この2種類をしっかり計上するだけでも、相続税の負担は変わってきます。
まずは債務と葬式費用を、漏れなく集めることから始めましょう。
逆にいえば、この2種類に当てはまらない費用は、相続税では引けないということになります。
この「2種類だけ」という原則を最初に押さえると、あとの判断がぐっと楽になります。
多くの人が費用を引けると誤解するのは、この原則を知らないためです。
ここで多くの人がつまずくのが、相続後にかかった費用の扱いです。
相続登記の費用、戸籍の取得費、税理士報酬、遺産分割でもめたときの弁護士費用などです。
どれも相続の場面で実際にかかる、身近な費用ばかりです。
これらは「亡くなった方の債務」ではなく、相続人が相続後に負担する費用のため、相続税では引けません。
相続税で引ける債務は、あくまで「亡くなった時点で存在した、亡くなった方の債務」に限られます。
相続手続きのために相続人が支払った費用は、この条件に当てはまらないのです。
登記も税理士への依頼も、亡くなった後に相続人が判断して行うものです。
だから「亡くなった方の債務」にはあたりません。
この考え方は、相続税全体を理解するうえでも重要な軸になります。
「亡くなった方の債務かどうか」という視点は、あらゆる費用の判断に使えます。
「相続のためにかかったお金なのに引けないの?」と感じるかもしれませんが、これが原則です。
ただし、これらの費用がまったく無駄になるわけではありません。
賃貸や売却をするなら、所得税で取り戻せる可能性があります。
ただし、相続税で引けない費用でも、あきらめるのはまだ早いです。
相続した不動産を賃貸したり売却したりする場合、これらの費用が所得税の経費になることがあります。
相続税で引けなかった費用が、所得税で活きる場面がある、ということです。
この記事では、その両面を費用ごとに整理していきます。
相続税だけで判断せず、所得税もあわせて考えるのが損をしないコツです。
たとえば賃貸に出す不動産の相続登記費用は、不動産所得の必要経費にできます。
相続税では引けなかった費用が、賃貸を続けるかぎり毎年の経費になります。
相続財産を売却するなら、登記費用などを譲渡所得の取得費に含められる場合もあります。
つまり「相続税では引けない=あきらめる」ではない、ということです。
同じ費用でも、「相続税では引けないが、所得税では引ける」というケースがあるのです。
だからこそ、費用ごとに相続税と所得税の両面で行き先を確認することが大切になります。
「相続税でダメでも所得税ならどうか」と考える習慣が、損を防ぎます。
この視点を持つだけで、取り戻せる費用が見つかることがあります。
とくに賃貸や売却をする人は、所得税での経費化を必ず確認しましょう。

ここが本記事の核心です。相続でかかる代表的な費用を、3分類の逆引き表で一気に確認しましょう。自分の費用がどこに当てはまるかが分かります。
まずは全体像をつかみ、そのあと個別の費用を詳しく見ていきましょう。
代表的な費用を、相続税と所得税の両面で整理すると次のようになります。
| 費用の種類 | 相続税 | 所得税 |
|---|---|---|
| 亡くなった方の借入金・未払いの税金 | ○(債務控除) | — |
| 葬式費用(通夜・告別式・火葬など) | ○(債務控除) | × |
| 相続登記の費用(賃貸・事業用の場合) | × | ○(経費・取得費) |
| 相続登記の費用(自宅など非事業用) | × | △(売却時の取得費のみ) |
| 税理士報酬(相続税申告) | × | × |
| 弁護士費用(遺産分割の争い) | × | × |
| 香典返し・墓石・法要の費用 | × | × |
表の見方:相続税で引けるのは上2つ(債務控除)だけです。相続手続きの費用は相続税では引けませんが、賃貸・売却なら所得税で引けることがあります。
この一覧にない費用も、「亡くなった方の債務か」「収入を生む財産に関わるか」で判断できます。
この2つの問いに答えれば、たいていの費用は3つのどれかに振り分けられます。
読み終えるころには、自分の費用の行き先を自分で判断できるようになります。
重要ポイント:「△」は、自宅などを売却したときにだけ取得費として使える、という意味です。賃貸や売却をしないなら、その費用は税金から引けません。
自宅を売る予定がまったくないなら、その登記費用はどこでも引けない、ということです。
将来売る可能性があるなら、資料を残しておく価値があります。
「今は使わないが、将来役立つ」費用の資料は、捨てずに取っておきましょう。
計算ロジック:相続税で引けるかは「亡くなった方の債務か・葬式費用か」で決まります。所得税で引けるかは「その費用が収入(家賃・売却益)を生む財産に対応するか」で決まります。判断の軸がまったく別なのです。
費用の扱いで混乱する最大の原因は、相続税と所得税を一緒に考えてしまうことです。
相続税は「亡くなった方の財産にかかる税金」、所得税は「相続人自身の収入にかかる税金」で、まったく別物です。
相続税で引けるかどうかは、亡くなった方の債務か葬式費用かで判断します。
所得税で引けるかどうかは、その費用が家賃収入や売却益を生む財産に関わるかで判断します。
2つの判断軸は、まったく別の基準で動いていると考えてください。
この違いを意識すれば、一つの費用を両面から見られるようになります。
この2つの軸を分けて考えれば、一つの費用について「相続税では×、所得税では○」といった判断も迷いません。
たとえば賃貸不動産の登記費用は、相続税では×でも所得税では○です。
軸を分けているからこそ、こうした一見ややこしい結論もすっきり理解できます。
個別の費用で迷ったら、次の3ステップで判断できます。
ステップ1は「亡くなった方の債務か、葬式費用か」を確認することです。どちらかに当てはまれば相続税で引けます。
ステップ2は「その費用が家賃収入や事業収入を生む財産に関わるか」を確認することです。関われば所得税の経費になります。
ステップ3は「相続財産を売却するか」を確認することです。売却するなら取得費に含められる費用があります。
この3ステップのどれにも当てはまらない費用は、税金では引けない費用と判断できます。
香典返しや墓石代、相続放棄した人が負担した費用などが、これにあたります。
これらはどの税金でも引けないため、自己負担になると覚えておきましょう。
まず相続税、次に所得税(賃貸・事業)、最後に譲渡、という順で当てはめると整理できます。
この順番で考えれば、複雑に見える費用の扱いも一つずつ切り分けられます。
3分類の早見表とこの3ステップを組み合わせれば、たいていの費用は自分で判断できます。
それでも判断に迷う費用があれば、次章以降の個別の解説を確認してください。
次の章から、それぞれの費用を詳しく見ていきます。
迷ったときは、この表に戻って「いま考えているのはどちらの税金の話か」を確認してください。

まず相続税で引ける1つ目、亡くなった方の債務です。亡くなった時点で確実に存在した債務なら、財産から差し引けます。代表的なものを確認しましょう。
亡くなった方が生前に負っていた借金や、まだ払っていなかった税金などが中心です。
相続税で引ける債務は、亡くなった時点で支払うことが確実だったものに限られます。
| 債務の種類 | 具体例 |
|---|---|
| 借入金 | 住宅ローン・自動車ローン・金融機関や個人からの借入 |
| 未払いの税金 | 所得税・住民税・固定資産税など(準確定申告分を含む) |
| 未払いの医療費 | 亡くなる前に発生し、死亡後に支払った入院・治療費 |
| 未払いの公共料金 | 電気・ガス・水道・電話代など |
| 事業上の未払金・敷金 | 買掛金、賃貸物件で預かっている敷金など |
重要ポイント:ポイントは「亡くなった時点で支払いが確実だったか」です。死亡後に相続人が支払った未払いの税金や医療費も、亡くなった方の債務として引けます。
相続人が立て替える形になりますが、もともとは亡くなった方が負担すべきものだからです。
この考え方を知っておくと、どこまでが債務控除の対象かを判断しやすくなります。
たとえば固定資産税は、その年の1月1日時点の所有者に納税義務が生じます。
亡くなる前に納税義務が確定していれば、未払い分は債務控除の対象になります。
たとえば1月1日を過ぎてから亡くなった場合、その年の固定資産税は債務控除できます。
納付書が届く前でも、納税義務が確定していれば対象になります。
医療費も同じで、亡くなる前の治療分を後で支払えば、その未払い分を引けます。
入院費の精算が死亡後になることは多いので、領収書を保管しておきましょう。
入院費は金額も大きくなりがちで、控除できるかどうかで負担が変わります。
医療費の領収書は、相続税の申告まで大切に保管しておきましょう。
未払金は見落とされやすいので、通帳や請求書を丁寧に確認することが大切です。
準確定申告で納める所得税や、未払いの住民税も、同じように引ける債務です。
これらは相続人が亡くなった後に支払うことになりますが、もとは亡くなった方の負担分です。
だから相続人が代わりに納めても、債務控除の対象になります。
個人からの借入金も債務控除できますが、実態があることが前提です。
借用書や返済の記録がなく、実際には贈与だったと疑われると、控除が認められないことがあります。
家族間の貸し借りはとくに、契約書や資金の動きで実態を示せるようにしておきましょう。
実態のない貸し借りは、税務調査で否認されるおそれがあります。
一方で、債務のように見えても引けないものがあります。
これらは「借金が残っているのに引けない」と誤解しやすい代表例です。
とくに団信付き住宅ローンは「ローンが残っているから引ける」と誤解しやすい代表例です。
契約時に団信に加入していれば、亡くなった時点でローンは保険で消える扱いです。
亡くなった時点で保険金による完済が確定しているため、債務としては存在しない扱いになります。
一方、団信が付いていない住宅ローンなら、残った債務は債務控除できます。
自分のローンに団信が付いているかは、契約内容で確認できます。
多くの住宅ローンには団信が付いているため、住宅ローンは引けないことが多いです。
債務控除がどれだけ効くのか、具体例で確認しましょう。
【前提】遺産1億円、亡くなった方の借入金1,000万円、葬式費用200万円、相続人が子3人のシナリオです。
まず財産1億円から、債務1,000万円と葬式費用200万円を引きます。
この2つを合わせた1,200万円が、財産から差し引ける金額です。
残りの8,800万円が、相続税の計算のスタート地点になります。
ここから基礎控除を引いた金額に、相続税の税率をかけていきます。
課税される財産は、1億円−1,200万円=8,800万円まで下がります。
ここから基礎控除(3,000万円+600万円×3人=4,800万円)を引くと、課税遺産総額は4,000万円です。
計算ロジック:債務控除がなければ課税財産は1億円のままです。1,200万円を引けたことで、その分に対応する相続税(税率帯によっては百数十万円)が軽くなります。債務や葬式費用を漏れなく計上することが、負担軽減に直結します。
このように、引ける費用を漏れなく差し引くことが、相続税を抑える基本になります。
とくに未払いの税金や医療費は見落としやすいので、通帳や請求書を確認しましょう。
小さな未払金でも積み重なれば、相続税の負担に差が出ます。
公共料金の未払いや、クレジットカードの未決済分も、亡くなった方の分なら引けます。
債務控除の対象となる債務は、ケースによって細かい判断が必要になります。
どの債務が引けるのか、より詳しい一覧と条件は、下記の記事で解説しています。


相続税で引ける2つ目は、葬式費用です。葬式費用は亡くなった方の債務ではありませんが、特例として財産から引けます。ただし引けるものと引けないものがあります。
葬儀は社会的に必要なものなので、政策的な配慮で控除が認められています。
社会通念上、葬儀に通常かかる費用は幅広く引けます。
| 引ける費用 | 具体例 |
|---|---|
| 通夜・告別式の費用 | 式場使用料・祭壇・棺・霊柩車など |
| 火葬・埋葬・納骨の費用 | 火葬料・埋葬料・納骨費用 |
| 飲食費 | 通夜ぶるまい・精進落としなど |
| 宗教者への謝礼 | お布施・読経料・戒名料 |
| その他 | 会葬御礼・遺体の搬送費・死亡診断書の発行費・心付け |
重要ポイント:お布施や心付けは領収書が出ないことが多いですが、支払った日付・相手・金額をメモに残しておけば引けます。
とくにお布施は金額が大きくなりがちなので、必ず記録しておきましょう。
お寺への謝礼は数十万円になることもあり、控除できるかどうかで税額が変わります。
会葬御礼も引けますが、香典返しとは別物である点に注意が必要です。
会葬御礼は、参列者全員に渡すお礼の品で、葬儀に伴う費用として引けます。
式場でその場に渡すお礼の品、と考えると香典返しとの違いが分かります。
後日、香典をくれた人へ改めて送るのが香典返しで、こちらは引けません。
同じ「お礼」でも、渡すタイミングと相手で扱いが変わる点に注意しましょう。
一方、香典返しは香典をくれた人への後日のお返しで、これは引けません。
一方、葬儀に直接必要とはいえない費用は引けません。
「葬儀に関係する出費だから引ける」と思い込まず、香典返しや法要は対象外と覚えておきましょう。
香典返しが引けないのは、そもそも受け取った香典に相続税がかからないためです。
香典は非課税なので、そのお返しも費用として引けない、という整理になっています。
墓石や仏壇も、相続税がかからない非課税財産にあたります。
その購入費用は、葬式費用としても債務としても引けません。
ただし生前に墓石を購入しておけば、その分の現金が非課税財産に変わります。
結果として相続税の対象となる財産が減るため、生前の購入が対策になる場合もあります。
ただし相続後に買った墓石は、この効果はなく費用も引けません。
葬式費用を引くときは、金額が社会通念上相当な範囲であることが前提です。
不相応に高額な費用は、一部が認められないこともあります。
とはいえ、通常の葬儀にかかる費用であれば、幅広く認められるのが一般的です。
常識的な範囲の葬儀なら、費用が認められるかを過度に心配する必要はありません。
支払いを証明する領収書は必ず保管し、お布施などは支払いメモを残しておきます。
申告では、相続税申告書の第13表に葬式費用の明細を記入します。
支払先・日付・金額・誰が負担したかを記載するため、あらかじめ整理しておくとスムーズです。
葬式費用を引くと、相続税はどれくらい減るのでしょうか。
【前提】葬式費用200万円、その相続に適用される相続税率が20%のシナリオです。
200万円×20%=約40万円、相続税が軽くなる計算になります。
計算ロジック:葬式費用200万円を財産から引くと、その200万円に対応する相続税がかからなくなります。税率20%の帯なら約40万円の軽減です。金額が大きいほど軽減額も増えるため、領収書やメモの保管が重要になります。
葬儀費用は総額で数百万円になることも多く、控除の効果は小さくありません。
葬儀は社会通念上必要な出費のため、こうした控除が特例として認められています。
なお、葬式費用を引けるのは、実際にその費用を負担した相続人です。
喪主が全額を負担したなら、喪主の取得財産から葬式費用を差し引きます。
複数人で分担したときは、それぞれの負担額を分けて控除します。
誰がいくら支払ったか分かるよう、支払いの記録を残しておきましょう。
参照元:国税庁 No.4129 相続財産から控除できる葬式費用

ここからは相続税で引けない費用です。相続手続きのためにかかった費用の多くは、相続税から引けません。誤解が多いところなので整理します。
登記や申告など、相続に「必要」な手続きの費用でも、相続税では引けないのがポイントです。
相続した不動産の名義を変える相続登記には、費用がかかります。
登録免許税(固定資産評価額の0.4%)や、司法書士に頼んだ場合の報酬です。
評価額が高い不動産ほど、登録免許税も大きくなります。
これらの登記費用は、相続税の計算では債務控除の対象になりません。
戸籍謄本や住民票などの必要書類を取得する費用も、同じく相続税では引けません。
相続手続きでは戸籍を何通も取り寄せるため、費用がかさむこともあります。
これらも相続税では引けませんが、金額としては数千円程度が多いでしょう。
相続手続きのために相続人が支払う費用であり、亡くなった方の債務ではないためです。
ただし後述するように、賃貸や売却をする場合は所得税で経費になることがあります。
つまり相続登記の費用は「相続税では引けないが、使い道しだいで所得税では引ける」費用です。
自宅として住むだけなら引けませんが、賃貸や売却では扱いが変わります。
相続税申告を税理士に依頼したときの報酬も、相続税では引けません。
遺産分割でもめて弁護士に依頼した費用や、遺産整理を専門家に頼んだ費用も同様です。
これらは相続後に、相続人の判断で発生した費用だからです。
これらはいずれも相続開始後に、相続人の都合で発生した費用だからです。
遺言執行者への報酬も、相続税の債務控除の対象にはなりません。
これらの費用は高額になることもありますが、相続税では一切考慮されません。
だからこそ、所得税で経費にできないかを検討する価値があります。
税理士費用が控除できない理由や、費用負担の考え方は、下記の記事で解説しています。

相続手続きの費用が引けない理由は、債務控除のルールにあります。
相続税で引ける債務は「亡くなった時点で存在した、亡くなった方の債務」に限られます。
相続手続きの費用は、亡くなった後に相続人が負担するもので、この条件を満たしません。
言いかえれば「亡くなった方が生前に負っていた費用ではない」ということです。
相続人が相続のために動いて生じた費用は、この点で債務控除と性質が違います。
言いかえれば、亡くなった方本人が負っていた借金や税金ではない、ということです。
この線引きを知っておくと、「引ける費用」と「引けない費用」の区別がすっきりします。
「亡くなる前からあったか、亡くなった後に生じたか」で分けるのが基本の考え方です。
相続手続きの費用は原則として自己負担、というのが相続税での結論です。
この原則を知らないと、引けない費用を計上してしまい、後で修正が必要になります。
計上する前に「亡くなった方の債務か」を必ず確認しましょう。
登記費用や税理士報酬のほかにも、相続税で引けない費用があります。
これらはすべて相続開始後に発生した、相続人側の費用のため相続税では引けません。
「相続に関係する費用だから」という理由では、相続税の控除対象にはなりません。
感覚的には引けそうでも、制度上は引けない費用が多いのです。
だからこそ、賃貸や売却で所得税の経費にできないかを次に検討します。
あくまで基準は「亡くなった時点で存在した、亡くなった方の債務か」です。
この基準を1本持っておけば、どの費用でも自分で判断できるようになります。
迷ったら「亡くなる前からあった債務か」と自問するだけで、多くは判断できます。

相続税で引けない費用も、所得税では経費になることがあります。相続した不動産を賃貸したり、事業を引き継いだりする場合がその代表です。
収入を生む財産にかかった費用は、その収入から差し引ける、という考え方です。
相続した不動産を賃貸に出すと、家賃は不動産所得として所得税の対象になります。
この不動産所得を計算するとき、相続登記の費用を必要経費に入れられます。
登録免許税は「租税公課」、司法書士報酬は「支払手数料」として経費に計上できます。
帳簿への記録の仕方も決まっているので、確定申告でも扱いやすい費用です。
相続税では引けなかった登記費用が、所得税では経費になるわけです。
同じ1つの登記費用でも、相続税と所得税で扱いが正反対になる、分かりやすい例です。
この違いを知っているだけで、確定申告で経費を取りこぼさずに済みます。
賃貸を始めるなら、登記費用の領収書は確定申告まで保管しておきましょう。
確定申告で経費に入れ忘れると、その分だけ所得税を多く払うことになります。
また、賃貸物件の固定資産税も、不動産所得の必要経費になります。
相続した年の固定資産税のうち、賃貸に対応する分を経費に入れられる点も押さえておきましょう。
自宅部分と賃貸部分がある建物なら、面積などで按分して賃貸分だけを経費にします。
建物すべてを経費にできるわけではない点に注意しましょう。
亡くなった方の事業を引き継いだ場合も、考え方は同じです。
事業用の資産を相続して事業を続けるなら、その登記費用は事業所得の必要経費にできます。
亡くなった方の事業をそのまま引き継ぐ場合に、こうした扱いになります。
農地を相続して農業を続ける場合なども、同じように必要経費にできます。
事業を継いだ年の確定申告で、忘れずに経費に計上しましょう。
「収入を生む財産のためにかかった費用」は、所得税で経費になる、というのが基本の考え方です。
この基準は登記費用に限らず、修繕費や管理費などにも共通します。
反対に、自分が住むだけの自宅の登記費用は、収入を生まないため所得税でも経費になりません。
自宅は相続税でも所得税でも引けないため、将来売却するときの取得費として使うことになります。
同じ登記費用でも、その不動産を「賃貸・事業に使うか」で扱いが変わるのです。
収入を生まない財産にかかった費用は、所得税でも引けないのが原則です。
「この財産は収入を生むか」を基準に考えると、判断が分かりやすくなります。
相続した不動産を賃貸する場合、経費にできるのは登記費用だけではありません。
これらは家賃収入を得るためにかかる費用のため、不動産所得の必要経費になります。
相続をきっかけに賃貸を始めると、初年度は登記費用なども経費に加わります。
相続をきっかけに賃貸を始めると、こうした経費を毎年の確定申告で計上していくことになります。
相続税では引けなかった費用が、賃貸を続けるかぎり所得税で経費になり続けるのです。
賃貸を始めるなら、経費になる費用の領収書はまとめて管理しておきましょう。
毎年の確定申告でこれらを計上すれば、家賃収入にかかる所得税を抑えられます。
相続をきっかけに所得税がかかる場面は、ほかにもあります。
準確定申告や、相続財産から生じる所得など、所得税の全体像は下記の記事で解説しています。

参照元:国税庁 No.1370 不動産収入を受け取ったとき(不動産所得)

相続した財産を売却する場合も、費用の扱いがポイントです。売却益(譲渡所得)を計算するとき、一定の費用を差し引けます。
取得費や譲渡費用を引けるほか、相続ならではの取得費加算という特例もあります。
相続した不動産や株式を売ると、値上がり分に譲渡所得として所得税がかかります。
この譲渡所得は「売却額−取得費−譲渡費用」で計算します。
取得費や譲渡費用が大きいほど、課税される売却益は小さくなります。
相続登記の費用は、この取得費に含めて売却益を圧縮できます。
売却のためにかかった仲介手数料などの譲渡費用も、あわせて差し引けます。
亡くなった方がその不動産を買ったときの代金や、当時の登記費用も取得費になります。
先祖代々の土地などで取得費が分からない場合は、売却額の5%を取得費とする概算法もあります。
取得費が分かる資料があれば、そちらを使うほうが有利になることが多いです。
上場株式を売る場合も、考え方は不動産と同じです。
亡くなった方が買ったときの取得価額を引き継ぎ、売却益に所得税がかかります。
株式でも取得費加算の特例が使えるため、早めの売却で税負担を抑えられます。
自宅など非事業用の不動産でも、売却するなら登記費用を取得費に使える点は覚えておきましょう。
取得費が大きいほど、売却益(譲渡所得)が小さくなり税金が減ります。
領収書などの資料は、売却するときまで捨てずに保管しておきましょう。
亡くなった方の購入時の契約書や領収書も、取得費を証明する大切な資料になります。
相続財産を早めに売る場合、負担を大きく減らせる特例があります。
それが「取得費加算の特例」です。
相続税の申告期限の翌日から3年以内(相続開始から約3年10ヶ月以内)に売却すれば、納めた相続税の一部を取得費に加算できます。
この期間内に売るかどうかで、譲渡所得の税負担が大きく変わります。
取得費が増えるぶん譲渡所得が小さくなり、所得税・住民税が軽くなります。
相続した不動産や株式を売る予定があるなら、この期限を意識することが大切です。
期限を1日でも過ぎると特例は使えず、譲渡所得が大きくなって税負担が増えます。
売却を考えているなら、相続税の申告後、できるだけ早めに動くのが有利です。
取得費加算で加算できるのは、売却した財産に対応する相続税の部分です。
相続税を多く納めた人ほど、この特例による軽減の効果は大きくなります。
高額な相続税を納めた場合は、この特例を使えるかを必ず検討しましょう。
取得費加算の詳しい計算方法や要件は、下記の記事で解説しています。

遺産分割で、一部の相続人が他の相続人へ「代償金」を払うことがあります。
不動産を一人が相続する代わりに、他の相続人へ現金を渡すようなケースです。
遺産を公平に分けるための調整として、実務ではよく使われます。
相続税には影響しますが、所得税の経費にはならないと覚えておきましょう。
この代償金は、支払った側の所得税の経費にはなりません。
相続人の間での財産の分け方の問題であり、収入を得るための費用ではないためです。
「大きな金額を払ったのに経費にならない」と誤解しやすいため、注意しておきましょう。
代償金は財産の分け方の調整であって、収入を得るための支出ではないためです。
所得税の通達でも、代償金は経費にならないと整理されています。
ただし代償金を払った側は、その分だけ実質的に取得した財産が減ります。
相続税の計算では、代償金の分を考慮して各人の取得額を調整します。
所得税では経費にならない、という点だけを押さえておきましょう。
参照元:国税庁 No.3267 相続財産を譲渡した場合の取得費の特例

債務控除や葬式費用は、誰でも引けるわけではありません。相続人の立場によって、控除できる人とできない人が分かれます。
同じ費用でも、負担した人や相続での立場によって引けるかどうかが変わります。
債務控除を使えるかどうかは、相続での立場によって次のように分かれます。
| 立場 | 債務控除の可否 |
|---|---|
| 相続人・包括受遺者 | ○ 使える |
| 相続を放棄した人 | × 使えない(葬式費用は例外) |
| 特定遺贈で財産だけ受け取った人 | × 使えない |
| 制限納税義務者(国外居住者など) | △ 国内財産に関する債務に限る |
重要ポイント:財産を包括的に引き継ぐ包括受遺者は債務控除を使えますが、特定の財産だけをもらう特定受遺者は使えません。
遺言で「この不動産を長男に」と特定して遺贈された場合などが、特定遺贈にあたります。
包括受遺者は、プラスの財産もマイナスの債務も一括で引き継ぐ立場だからです。
だから債務控除も、相続人と同じように使えます。
自分が包括受遺者か特定受遺者かは、遺言の文言で判断します。
一方、特定の不動産や預金だけを遺贈で受け取った人は、債務を引き継がないため控除もありません。
この違いは、遺言の書き方によって決まります。
自分がどの立場かは、遺言書や遺産分割協議の内容で確認できます。
相続を放棄した人は、亡くなった方の債務を引き継がないため債務控除を使えません。
ただし、葬式費用については例外があります。
相続放棄をした人でも、実際に葬式費用を負担し、生命保険金などで相続税がかかる場合は、その葬式費用を控除できます。
放棄していても、保険金という形で相続税がかかることがあるためです。
この場合、負担した葬式費用を保険金から差し引ける、という関係になります。
放棄しても喪主として葬儀を執り行うことは多く、その費用負担を考慮した扱いです。
相続放棄と葬式費用の関係は間違えやすいため、当てはまる場合は専門家に確認すると安心です。
相続放棄をしても、生命保険金は受取人として受け取れるケースがあります。
その保険金に相続税がかかる場合、負担した葬式費用を差し引ける、という関係です。
「放棄したから何も引けない」と思い込まないことが大切です。
実際に葬儀を執り行い費用を負担したなら、控除できる可能性を確認しましょう。
相続人が複数いる場合、債務や葬式費用は実際に負担した人の分から引きます。
たとえば長男が葬式費用をすべて負担したなら、長男の取得財産から葬式費用を差し引きます。
誰がいくら負担したかで控除できる人が決まるため、負担額を記録しておくことが大切です。
債務を複数人で分けて負担する場合は、それぞれの負担分を按分して控除します。
住宅ローンを相続人で分けて引き継ぐ場合などが、これにあたります。
第13表には負担者と負担額を記入するため、あらかじめ相続人の間で整理しておきましょう。
誰が何を負担したかがあいまいだと、控除できる人がはっきりしません。
支払いの記録を残し、負担を明確にしておくことが大切です。
とくに相続人が多い場合は、誰がどの費用を出したかを一覧にしておくと便利です。

最後に、間違えやすい費用と手続き上の注意点をまとめます。「引けると思っていたら引けなかった」という失敗を防ぎましょう。
多くの失敗は、「相続にかかった費用は引ける」という思い込みから生まれます。
次の費用は、引けそうに見えて実は引けない代表例です。
「相続にかかった費用=引ける」ではない、という原則を思い出してください。
迷ったら、本記事の3分類の早見表に戻って確認するのが確実です。
それでも判断がつかない費用は、税理士に確認するのが安全です。
債務控除や葬式費用を引いた結果、相続税が0円になることもあります。
遺産の総額が基礎控除以下になれば、相続税はかからず申告も不要です。
ただし小規模宅地等の特例など、申告を条件に使える特例で0円になる場合は、申告が必要です。
債務控除だけで基礎控除以下になったのか、特例を使った結果なのかで扱いが変わります。
自分が申告不要かどうかは、控除前後の金額を基礎控除と比べて判断しましょう。
債務控除で財産が基礎控除以下になれば、申告そのものが不要になります。
一方、特例で0円にする場合は申告が条件のため、忘れずに手続きします。
申告が必要なのに出さないと、特例が使えず相続税がかかってしまいます。
「0円だから大丈夫」と自己判断せず、申告の要否を必ず確認しましょう。
控除もれや誤りを防ぐため、次の項目を確認してください。
一つずつチェックしていけば、引ける費用の見落としを防げます。
これらを一つずつ確認するだけで、引ける費用の見落としをほぼ防げます。
重要ポイント:相続税と所得税の両面で確認するのがポイントです。相続税で引けない費用も、所得税で取り戻せないか一度チェックしましょう。
このひと手間で、数万円から数十万円の税負担が変わることもあります。
面倒でも、費用の行き先を一つずつ確認する価値があります。
判断に迷う費用があれば、専門家に相談すれば確実に整理できます。
費用の領収書は、相続税・所得税の両方の可能性を考えて保管しておきましょう。
費用を確実に控除するには、証拠となる記録が欠かせません。
葬式費用や債務は、領収書や請求書、支払いの記録を保管しておきます。
お布施や心付けのように領収書が出ない費用は、日付・相手・金額のメモを残せば認められます。
賃貸や売却で使う登記費用などの資料は、確定申告や売却時まで長期に保管が必要です。
売却は相続から何年も後になることもあるため、資料の管理が重要になります。
誰がどの費用を負担したかも、あとで控除する人を決めるために記録しておきましょう。
記録がないと、本来引けたはずの費用を証明できず、控除をあきらめることになりかねません。
「引けるはずだったのに証明できない」ほど、もったいないことはありません。
少しの手間で税負担を確実に減らせるのが、費用の控除です。

費用の控除は、判断を誤ると税額が変わります。依頼するなら、相続税の対応実績がある税理士に絞って一括相談・見積りで比較するのが確実です。
どの費用を引けるかの判断は、相続税と所得税の両方の知識が必要です。
債務控除のもれや、所得税で経費にできる費用の見落としは、そのまま税負担の差になります。
経験の浅いA税理士は、賃貸不動産の登記費用を所得税の経費に入れ忘れました。
相続税の対応実績があるB税理士は、相続税では債務控除を、所得税では登記費用の経費計上を漏れなく行いました。
同じ相続でも、税理士の実力しだいで最終的な負担が変わってきます。
相続税の対応実績がある税理士から複数の見積りを取ると、次の3つの判定ポイントで実務力を比較できます。
判定ポイント1:債務控除をもれなく拾うか。借入金・未払いの税金・医療費・葬式費用まで確認するか → もれなく拾える税理士のほうが、相続税を抑えられると判定できます。
判定ポイント2:相続税と所得税を通して見るか。相続税で引けない費用を所得税の経費や取得費で活かせるか提案するか → 両方を見られる税理士のほうが、トータルの負担を減らせると判定できます。
判定ポイント3:売却や賃貸まで見据えるか。取得費加算や不動産所得の経費まで含めて提案するか → 先を見据える税理士のほうが、将来の税金まで抑えられると判定できます。
1社だけに相談すると、その提案が最善かどうかを測る物差しがありません。
費用の扱いに不慣れな事務所では、引ける費用を見落としたまま申告が進んでしまうこともあります。
相続税の申告は一度きりで、後から気づいても取り返しにくいのが実情です。
複数の実績ある税理士の提案を並べることが、費用の取りこぼしを防ぐ最短ルートです。
| チェック項目 | 確認する内容 |
|---|---|
| 提案内容 | 債務控除のもれがなく、所得税での経費化まで提案があるか |
| 試算相続税額 | 債務・葬式費用を反映した相続税額が示されているか |
| 報酬額 | 相続税申告と、必要なら確定申告まで含めた総額か |
重要ポイント:賃貸や売却をする場合は、相続税だけでなく所得税の申告も関わります。両方をあわせて相談できる税理士だと安心です。
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重要ポイント:賃貸や売却の予定があるかは、所得税での節税に直結する重要な情報です。相談の際に必ず伝えましょう。
相続税で引けるのは、亡くなった方の債務と葬式費用の2種類(債務控除)だけです。
相続登記の費用や税理士報酬など、相続後にかかった費用は相続税では引けません。
相続税では控除できません。ただし相続した不動産を賃貸・事業に使うなら、登記費用は所得税の必要経費になります。
売却する場合は、譲渡所得の取得費に含められます。税理士報酬は相続税でも所得税でも原則引けません。
通夜・告別式・火葬・納骨の費用、お布施・戒名料、会葬御礼、遺体の搬送費などが引けます。
一方、香典返し・墓石や仏壇の購入費・初七日などの法要費用・解剖費用は引けません。
いずれも引けません。香典返しは、受け取った香典に相続税がかからないため対象外です。
墓石や仏壇は相続税がかからない非課税財産のため、その購入費用も引けません。
相続放棄した人は債務控除を使えませんが、葬式費用は例外です。
実際に葬式費用を負担し、生命保険金などで相続税がかかる場合は、その葬式費用を差し引けます。
相続でかかった費用の控除について、重要なポイントを整理します。
【相続税で引ける費用】
【相続税では引けないが所得税で引ける費用】
【今すぐ取るべき行動】
※本記事は2026年7月時点の法令・情報に基づいて作成しています。税制改正により、内容が変更となる可能性があります。最新の制度については国税庁の公式サイトや税理士にご確認ください。