相続税申告は自分で無理?税理士に頼まない判断基準と200時間の損益分岐

相続税申告は税理士に頼まない

相続税の申告を自分でやろうと調べ始めると、多くの人が土地の評価か申告書の様式で手が止まります。

「これは無理かもしれない」と感じたときに必要なのは、精神論ではなく割に合うかどうかを判断できる数字です。

自力申告にかかる作業時間は約200時間です。一方で税理士費用は遺産総額の0.5〜1.0%が相場なので、遺産1億円なら約80万円かかります。

この2つを割り算すると、時給4,000円が損益分岐になります。自分の時給がこれを超えるなら、依頼したほうが安く済む計算です。

ただし本当の分岐点は時給ではありません。小規模宅地等の特例を1つ見落とすだけで470万円を余分に払います。

実際に自分で申告している人は13.5%です。令和6年度の数字で、この5年間で最も低い水準になっています。

この記事では、200時間の損益分岐と年収別の判定、特例の適用漏れによる損失額、自分で申告できる5つの条件、実際に詰まる4つの壁までを解説します。

▼ この記事の3行まとめ

  • 自分で申告している人は13.5%(令和6年度)。5年間で最も低く、「増えている」というのは事実と逆
  • 自力申告は約200時間。遺産1億円なら税理士費用80万円で、時給4,000円が損益分岐になる
  • ただし本当の分岐点は特例の適用漏れ。小規模宅地の見落とし1件で470万円=税理士費用の5.9倍を失う
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結論|自分で申告している人は13.5%しかいない

まず全体像を確認します。相続税の申告で税理士に頼んでいる人は圧倒的多数です。令和6年度の税理士関与割合は86.5%で、自分で申告した人は13.5%です。ここでは実数と5年間の推移を確認し、自分がどちら側に立つべきかの入口を示します。

自分で申告した人は13.5%(令和6年度)

この数字は財務省が公表する「国税庁実績評価書」の参考指標に載っています。相続税の税理士関与割合が86.5%なので、残りの13.5%が自分で申告した計算です。

所得税の税理士関与割合は20.4%、法人税は89.8%です。相続税は法人税に近い水準で、専門家に任せる税目です。所得税は確定申告する人の8割が自分でやっているのに、相続税は逆の構図になっています。

参照元:令和6事務年度国税庁実績評価書 : 財務省

「自分で申告する人が増えている」は事実と逆

「最近は自分で申告する人が増えている」という説明をよく見かけますが、数字は逆を示しています。

年度 令和2 令和3 令和4 令和5 令和6
税理士関与割合 86.1% 86.1% 85.9% 86.3% 86.5%
自分で申告した割合 13.9% 13.9% 14.1% 13.7% 13.5%

表の見方:自分で申告した割合は13.5〜14.1%の範囲で動いているだけです。令和6年度の13.5%は5年間で最も低い数字です

重要ポイント:増えているのは申告件数そのものです。基礎控除の引き下げで課税対象者が増えたため、自分で申告する人の実数は増えました。しかし割合は横ばいから微減です

計算ロジック:数値は財務省「令和6事務年度 国税庁実績評価書」の参考指標2「税理士関与割合」です。相続税は各年分ともその年の10月末までに提出のあった前年の相続に係る申告書(修正申告書を除く)が対象です。

計算ロジック(続き):自分で申告した割合は100%から関与割合を引いて算出しています。

それでも自分でやる人が一定数いる理由

13.5%という数字は少数派ですが、ゼロではありません。自分でやる人には共通点があります。最も多いのは費用です。遺産5,000万円でも税理士費用は25万〜50万円かかります。

次に財産の単純さです。現金と預貯金だけなら、残高証明書の金額がそのまま評価額になります。三つ目は特例を使わないケースです。基礎控除を少し超える程度なら、計算も申告書も単純です。

逆に言えば、この3つに当てはまらない家庭が自力で進めると、後で紹介する4つの壁にぶつかります。

自分でできるかを3分で判定する

細かい条件は後で扱います。まず大まかな判定をしてください。

STEP1
土地があるか
自宅の土地があるなら評価が必要です。整形地で1件だけなら自力の余地があります。2件以上、または形が悪い土地があるなら次へ進むまでもありません。

STEP2
特例を使うか
小規模宅地等の特例や配偶者の税額軽減を使うなら、適用要件の判断が入ります。使わなくても税額が出る、または基礎控除以下なら自力で進められます

STEP3
200時間を確保できるか
平日の日中に役所・法務局・金融機関へ行く必要があります。有給を何日使えるかで判断してください。

STEP4
期限まで5か月以上あるか
申告期限は10か月です。残りが5か月を切っているなら、自力で始めても間に合わない可能性が高くなります。

重要ポイント:4つのうち1つでも引っかかったら、税理士に見積りだけ取ってから決めてください。見積りは無料で取れます

相続税申告の全体の流れと10か月の逆算スケジュールは、下記の記事で解説しています。

200時間の損益分岐|あなたの時給ならどちらが安いか

「手間がかかる」という説明はどこにでもありますが、何時間かかるかを書いた記事はほとんどありません。自力申告にかかる作業時間は約200時間です。これを税理士費用と比べれば、損益分岐が出せます。

ここでは作業時間の内訳と、遺産総額ごとの損益分岐時給を示します。

自力申告にかかる作業時間は約200時間

200時間は、平日8時間換算で25日分です。1日2時間ずつ進めるなら100日かかります。この数字は税理士法人が公表している作業時間の内訳を積み上げたものです。重いのは書類の収集と申告書の作成で、この2つで約90時間を占めます

財産の種類が多い家庭や相続人が多い家庭では、200時間を大きく超えます。

作業時間の内訳

どこに時間がかかるかを分解しました。自分のケースで削れる部分があるか確認してください。

作業 目安時間 内訳
必要書類の収集 約40時間 市役所・法務局の手続き各1時間+往復2時間、金融機関ごとに1時間
相続財産の評価 約10〜50時間 土地5〜25時間/投資信託2〜10時間/国債1〜5時間
遺産分割協議と協議書作成 約10〜50時間 相続人が多いほど伸びる
相続税申告書の作成 約50時間 調べながらの入力に45時間
提出・納税手続き 約10時間 税務署への提出と金融機関での納付
合計 約200時間

表の見方:移動時間が大きな比重を占めます。書類の収集40時間のうち、実質の手続き時間より往復の移動が長くなります

重要ポイント:戸籍謄本の広域交付やオンライン請求を使えば収集時間は圧縮できます。一方、土地の評価と申告書の作成は短縮できません。ここが自力の限界を決めます。

相続税申告に必要な書類の一覧と集め方は、下記の記事で解説しています。

損益分岐時給の早見表

税理士費用を200時間で割ると、時給に換算できます。自分の時給と比べてください。

遺産総額 税理士費用(0.8%) 損益分岐時給 判定
4,000万円 32.0万円 1,600円/時 自力に分がある
5,000万円 40.0万円 2,000円/時 自力に分がある
8,000万円 64.0万円 3,200円/時 拮抗
1億円 80.0万円 4,000円/時 拮抗
2億円 160.0万円 8,000円/時 依頼が有利
3億円 240.0万円 12,000円/時 依頼が有利
5億円 400.0万円 20,000円/時 依頼が有利

表の見方:自分の時給がこの額を超えるなら、税理士に頼むほうが安く済みます。遺産2億円なら時給8,000円が分岐点です

重要ポイント:時給は年収を年間労働時間で割って出します。年収600万円で年2,000時間なら3,000円です。この場合、遺産8,000万円以上なら依頼したほうが得になります

計算ロジック:【前提】税理士費用=遺産総額×0.8%(相場0.5〜1.0%の中央値)・自力の作業時間200時間。損益分岐時給=税理士費用÷200時間です。遺産1億円なら80万円÷200時間=4,000円になります。

計算ロジック(続き):実際の費用は相続人の人数や土地の数で変わるため、見積りの金額で計算し直してください。

税理士費用の相場と見積書の見方は、下記の記事で解説しています。

年収別|自分の時給から逆算する

損益分岐時給を自分に当てはめるには、まず自分の時給を出します。年収を年間労働時間で割るだけです。年収600万円で年2,000時間なら時給3,000円です。その時給から逆算すると、遺産がいくらを超えたら依頼が有利になるかが分かります。

年収 時給 依頼が有利になる遺産総額
400万円 2,000円 5,000万円超
500万円 2,500円 6,200万円超
600万円 3,000円 7,500万円超
800万円 4,000円 1億円超
1,000万円 5,000円 1億2,500万円超
1,500万円 7,500円 1億8,800万円超

表の見方:年収600万円の人なら、遺産7,500万円が分岐点です。相続税がかかる家庭の多くはこの水準を超えます

重要ポイント:年収が高い人ほど、依頼が有利になる遺産額も上がります。時給が高い人は費用も高く感じにくいためです。ただしこれは時間だけの比較です。

計算ロジック:【前提】年間労働時間2,000時間・自力の作業時間200時間・税理士費用は遺産総額の0.8%。分岐点の遺産額=時給×200時間÷0.8%で計算しています。

計算式:年収600万円なら3,000円×200時間=60万円が時間コストで、費用60万円に相当する遺産額は7,500万円です。

時間で割り切れない部分もある

時給の比較は考え方の目安です。実際には数字にできない要素があります。相続の手続きは、親を亡くした直後に進めることになります。心理的な負担が通常の作業とは異なります。仕事の合間に200時間を捻出できるかは、時給とは別の問題です

逆に、時間に余裕があり手続きが苦にならない人なら、時給の計算より自力が向いています。数字は判断の材料であって、結論ではありません。次の章で見る適用漏れのリスクと合わせて考えてください。

200時間は「まとまった平日」が必要

時給の計算には現れない制約があります。作業の多くが平日にしかできない点です。市区町村役場・法務局・税務署の窓口は、基本的に平日の日中しか開いていません。金融機関の相続手続きも平日です。口座が5つあれば、5回別々に足を運ぶことになります。

有給休暇を10日以上使う前提になるなら、その分も費用として数えてください

注意:平日に動けない人が自力で進めると、期限直前に作業が集中します。残り3か月を切ってから税理士に依頼すると、加算報酬が発生することがあります

カレンダー上は5〜7か月かかる

作業時間200時間と、実際に完了するまでの期間は別です。待ち時間が入るためです。

段階 所要期間の目安 待ち時間が発生する理由
財産の洗い出しと資料収集 1〜2か月 戸籍の取り寄せ・残高証明書の発行待ち
遺産分割協議 1日〜数か月 相続人の合意が取れるまで動けない
財産の評価 数日〜2か月 土地の資料取得・現地確認
申告書の作成 1日〜2週間
提出と納付 1日〜数日

表の見方:合計すると最長で5〜7か月です。申告期限10か月のうち、余裕は3か月程度しかありません

重要ポイント:最も読めないのが遺産分割協議です。ここが長引くと、評価も申告書作成も始められません。相続人が3人以上なら余裕を多めに見てください。

参照元:国税庁 No.4205 相続税の申告と納税

本当の分岐点は時給ではない|特例の適用漏れで数百万円

時給の比較は入口にすぎません。自力申告の最大のリスクは時間ではなく金額です。小規模宅地等の特例を1つ見落とすだけで、税理士費用の10倍近くを余分に払います。ここでは適用漏れによる過大納付額を、実際の計算で示します。

小規模宅地等の特例の適用漏れ

被相続人が住んでいた宅地は、要件を満たせば330㎡まで評価額が80%減額されます。土地5,000万円が1,000万円になる制度です。適用を忘れると差額の4,000万円が課税対象に残ります。

財産構成 子1人の過大納付 子2人の過大納付
土地5,000万+建物1,000万+預金2,000万 640.0万円 470.0万円
土地8,000万+建物1,000万+預金3,000万 1,570.0万円 1,020.0万円
土地1億+建物2,000万+預金5,000万 2,740.0万円 1,820.0万円

表の見方:一番上の行でも470万円です。この規模の遺産(8,000万円)なら税理士費用は約64万円なので、7.3倍の損失になります

重要ポイント:相続人が少ないほど損失が大きくなります。基礎控除が小さく、税率の帯が上がるためです。子1人で土地1億円なら2,740万円です

計算ロジック:【前提】特定居住用宅地等として土地の評価額を80%減額。相続人は子のみで法定相続分どおりに取得。適用なしの相続税総額から適用ありの総額を引いた差額を過大納付額としています。

計算ロジック(続き):1行目の子2人なら、適用ありは課税価格4,000万円で基礎控除4,200万円を下回るため税額0円です。

小規模宅地等の特例の4類型と要件は、下記の記事で解説しています。

配偶者の税額軽減の適用漏れ

配偶者は1億6,000万円または法定相続分までなら相続税がかかりません。ただしこの軽減は申告書に記載して初めて適用されます。自動では適用されません

遺産総額 相続税の総額 配偶者の按分税額=過大納付
8,000万円 350.0万円 175.0万円
1億円 630.0万円 315.0万円
2億円 2,700.0万円 1,350.0万円
3億円 5,720.0万円 2,860.0万円
5億円 13,110.0万円 6,555.0万円

表の見方:配偶者が法定相続分1/2を取得した場合、軽減を使えば配偶者の税額は全額消えます。遺産2億円なら1,350万円がまるごと不要になります

重要ポイント:配偶者の税額軽減は適用を忘れる人が少ない制度です。危ないのは「どこまで配偶者に寄せるか」の判断ミスで、二次相続で跳ね返ります

計算ロジック:【前提】相続人は配偶者と子2人・配偶者が法定相続分1/2を取得。相続税の総額に配偶者の取得割合50%を掛けた額が配偶者の按分税額で、軽減を使えばこれが0円になります。1億6,000万円の枠内なので全額が軽減の対象です。

参照元:国税庁 No.4158 配偶者の税額の軽減

配偶者控除の上限と申告後に適用する方法は、下記の記事で解説しています。

過大納付は税務署が教えてくれない

ここが自力申告で最も危険な構造です。税務署は税金の払いすぎを指摘しません。申告漏れがあれば調査で指摘されますが、払いすぎは放置されます。誰も教えてくれないまま終わります

自力で申告した人が過大納付に気づくのは、相続の話を他人から聞いたときや、二次相続で税理士に相談したときです。そのときには何年も経っています。取り戻せる期間には制限があります。

更正の請求は原則5年以内

払いすぎに気づいた場合、更正の請求という手続きで還付を受けられます。期限は法定申告期限から原則5年以内です。相続税の申告期限は10か月なので、相続開始から約5年10か月が目安になります。

この期限を過ぎると、いくら払いすぎていても取り戻せません。ただし小規模宅地等の特例は、申告書に記載していなかった場合、更正の請求では適用できないことがあります。当初申告での適用が原則です。

注意:特例の適用漏れは、後から直せるとは限りません。土地の評価の見直しは更正の請求で通ることがありますが、特例の未記載は取り返しがつかない場合があります

時給と過大納付を合わせた結論

ここまでの2つの数字を並べます。判断が変わるはずです。

比較項目 自分で申告する 税理士に依頼する
直接の支出 0円 約64万円(遺産8,000万円)
作業時間 約200時間 約20時間(資料の準備と面談)
時間コスト(時給3,000円) 60万円 6万円
特例の適用漏れリスク 470万円 低い
合計(適用漏れが起きた場合) 530万円 70万円

表の見方:適用漏れが起きなければ自力のほうが安く済みます。しかし1回起きた時点で7.6倍の差がつきます

重要ポイント:判断すべきは「適用漏れが起きる確率が自分のケースでどれくらいか」です。土地がなく特例も使わないなら、リスクはほぼゼロで自力が有利です

計算ロジック:【前提】遺産8,000万円・相続人は子2人・時給3,000円・税理士費用は遺産の0.8%で64万円。自分で申告する場合の時間コストは200時間×3,000円=60万円、依頼する場合は20時間×3,000円=6万円です。

計算ロジック(続き):適用漏れの470万円は小規模宅地の試算にもとづく金額です。

遺産規模別|自力と依頼のトータル比較

時間コストと適用漏れリスクを並べると、遺産規模ごとの答えが見えます。

遺産総額 税理士費用 自力の時間費用 依頼の時間費用 適用漏れリスク
5,000万円 40.0万円 60.0万円 6.0万円 80.0万円
8,000万円 64.0万円 60.0万円 6.0万円 470.0万円
1億円 80.0万円 60.0万円 6.0万円 670.0万円
2億円 160.0万円 60.0万円 6.0万円 2,500.0万円
3億円 240.0万円 60.0万円 6.0万円 4,900.0万円

表の見方:時間費用は遺産規模にかかわらず一定ですが、適用漏れリスクは急激に増えます。遺産3億円なら4,900万円と、税理士費用240万円の20倍を超えます

重要ポイント:遺産5,000万円では適用漏れリスクが80万円で、税理士費用40万円の2倍にとどまります。小規模な相続ほど自力の合理性が残ります

計算ロジック:【前提】時給3,000円・自力200時間・依頼20時間・税理士費用は遺産の0.8%・相続人は子2人。適用漏れリスクは、遺産の6割が土地で小規模宅地等の特例が使えたと仮定し、適用なしと適用ありの税額差で算出しています。

計算ロジック(続き):土地の割合が低い家庭では適用漏れリスクも下がります。土地がなければリスクはほぼゼロで、時間費用だけの比較になります。

依頼する側から見たメリットとデメリット

ここまでは金額で比べてきましたが、数字にならない要素もあります。依頼する場合としない場合の実感を整理しました。

観点 税理士に依頼するメリット デメリット
正確性 評価・特例の判定を任せられる 報酬が発生する(遺産の0.5〜1.0%)
節税 使える特例と補正を漏らさない 相続税に不慣れな税理士だと効果が出ない
時間 200時間が20時間程度に減る 資料の準備と面談は自分で行う
調査対応 代理人として立ち会ってもらえる 立会報酬が別途かかることがある
もめごと 中立の立場で税額の試算を示せる 相続人間の交渉には介入できない
心理面 期限に間に合うかの不安が消える 依頼先選びに手間がかかる

表の見方:メリットは正確性と時間に集中しています。デメリットの多くは報酬と依頼先選びの手間で、事前の比較で減らせます

重要ポイント:最下段の「もめごと」は依頼しても解決しません。相続人どうしの交渉は弁護士の領域で、税理士は中立の立場でしか関われません。対立があるなら先に弁護士へ行ってください。

税理士に相談できることと頼めないことの境界は、下記の記事で解説しています。

費用を誰が負担するかも決めておく

依頼すると決めたら、相続人のうち誰が費用を払うかを先に合意しておいてください。申告後に請求書を見てから話し始めると揉めます。

配偶者が払うと二次相続の課税財産が減り、税額が下がる場合があります。節税額は「税理士費用×二次相続の限界税率」で決まります。

ただし配偶者の財産が二次相続の基礎控除以下なら効果はありません。子2人なら4,200万円が境界です。

誰が払うのが有利かの判定と財産額別の試算は、下記の記事で解説しています。

結局どう判断すればよいか

ここまでの数字を判断の順序に整理します。

【判断1】土地があるか

土地がなければ適用漏れリスクはほぼゼロです。時間費用だけの比較になり、自力の合理性が高くなります。

【判断2】特例を使う可能性があるか

使う可能性があるなら、適用可否だけでも専門家に確認してください。無料相談で足ります。

【判断3】遺産が1億円を超えるか

超えるなら適用漏れリスクが670万円以上になります。時給の計算をするまでもなく依頼が有利です。

【判断4】残り期間は何か月か

5か月を切っているなら、自力の選択肢は消えます。期限に間に合わないほうが損失が大きくなります。

判断1で土地がないと分かれば、残りを検討する必要はありません。自力で進めて構いません。土地がある場合は、判断2の確認だけは必ず行ってください。ここを飛ばすと最大の損失が確定します。

自分で申告できるケース|5つの条件

数字を踏まえたうえで、自力で進めてよいケースを具体的に示します。5つの条件をすべて満たすなら、自分で申告して問題ありません。1つでも欠けるなら見積りを取ってください。ここでは条件を1つずつ確認します。

条件1|相続人が1人、または少人数で揉めていない

相続人が1人なら遺産分割協議が不要です。課税価格に税率を掛けるだけで税額が出ます。2人以上でも、分け方に争いがなければ協議書の作成は難しくありません。危ないのは、分割の内容がまだ決まっていない状態で申告期限が近づくケースです

未分割のまま申告すると、小規模宅地等の特例も配偶者の税額軽減も使えません。いったん高い税額を納めることになります。

条件2|財産が現金・預貯金・上場株式だけ

評価が簡単な財産だけなら、自力の負担は大きく下がります。預貯金は残高証明書の金額がそのまま評価額です。上場株式も4つの価格から最も低いものを選ぶだけです。

一方、非上場株式・ゴルフ会員権・書画骨董・海外資産があると、評価そのものが専門領域になります。

重要ポイント:見落としやすいのが生命保険金と死亡退職金です。受取人固有の財産ですが、相続税では課税対象に含めます。非課税枠は500万円×法定相続人の数です。

条件3|土地がない、または自宅1件だけで整形地

土地は自力申告の最大の関門です。ない場合と、ある場合で難易度が変わります。自宅1件で、四つ角がそろった整形地で、路線価が1つしか接していないなら計算は単純です。路線価×地積で評価額が出ます

2件以上ある場合や、次の章で挙げる形状の土地がある場合は、自力の範囲を超えます。

条件4|特例を使わずに税額が出る、または申告不要

特例を使わなくても税額が計算できるなら、判断のミスが起きません。遺産総額が基礎控除以下なら、そもそも申告自体が不要です。基礎控除は3,000万円+600万円×法定相続人の数で計算します。

ただし特例を使って0円になる場合は、申告書の提出が必要です。ここを間違えると特例が使えなくなります。

参照元:国税庁 No.4152 相続税の計算

基礎控除の計算式と課税されるかの判定手順は、下記の記事で解説しています。

条件5|申告期限まで5か月以上ある

カレンダー上は5〜7か月かかります。残り期間から逆算してください。相続開始から5か月が経っているなら、残りは5か月です。ここが自力を選べる下限になります。残り3か月を切っているなら、自力で始めるべきではありません

期限に遅れると無申告加算税がかかり、小規模宅地等の特例も使えなくなります。損失は自力で節約した費用を大きく超えます。

5条件のチェックリスト

すべてに印が付くか確認してください。

  • □ 相続人が1人、または少人数で分け方に争いがない
  • □ 財産が現金・預貯金・上場株式だけで、非上場株式や海外資産がない
  • □ 土地がない、または自宅1件だけで整形地
  • □ 特例を使わずに税額が出る、または基礎控除以下で申告不要
  • □ 申告期限まで5か月以上ある
  • □ 平日の日中に10日以上動ける
  • □ 生命保険金・死亡退職金の有無を確認した

重要ポイント:7項目すべてに印が付くなら自力で構いません。1つでも欠けるなら、まず見積りを取ってから決めてください。見積り自体は無料です。

自分では無理なケース|詰まる4つの壁

自力申告に着手した人が実際に手を止めるのは、決まった4か所です。いずれも「調べれば分かる」ではなく「判断が必要」な領域です。答えが一つに決まりません。ここでは4つの壁と、ぶつかったときの選択肢を解説します。

壁1|土地の評価

最も多いのがここです。路線価に地積を掛けるだけで済む土地は、実はそう多くありません。形状や接道の状況に応じて補正率を掛けます。判断を誤ると評価額が数百万円単位で変わります。

土地の状況 必要な処理 難易度
整形地・一方だけ道路に接する 路線価×地積 低い
角地・二方が道路に接する 側方路線影響加算
不整形地・旗竿地 不整形地補正・かげ地割合の算定 高い
間口が狭い・奥行が長い 間口狭小補正・奥行長大補正 高い
私道に接する・私道を含む 私道の評価(3割評価または0円) 高い
貸宅地・貸家建付地 借地権割合・借家権割合の適用 高い
市街化調整区域・広大な土地 地積規模の大きな宅地の評価 非常に高い

表の見方:上2行までなら自力で対応できます。3行目以降は補正率の判断が入るため、正解が一つに決まりません

重要ポイント:補正を使わずに評価すると、必ず評価額が高く出ます。税務署は「高すぎます」と教えてくれません。過大納付がそのまま確定します。

壁2|名義預金の判定

子や孫の名義になっている預金でも、実質的に被相続人のものなら相続財産に含めます。判定の決め手は原資が誰かです。通帳や印鑑を誰が管理していたか、贈与の事実があったかも見ます。

自分で「これは贈与済みだから相続財産ではない」と判断すると、税務調査で覆される可能性があります。相続税の税務調査で最も指摘が多いのが現金・預貯金です。名義預金の見落としは追徴の典型例になります。

名義預金と判定された場合に税額がいくら増えるかは、下記の記事で解説しています。

壁3|特例の適用要件の判断

小規模宅地等の特例は4つの類型があり、それぞれ要件が異なります。特定居住用宅地等だけでも、配偶者が取得する場合・同居していた親族が取得する場合・いわゆる家なき子が取得する場合で条件が変わります。

同居の実態があったか、持ち家がないかの判断は、書類だけでは決まりません。さらに宅地が複数ある場合は、どの宅地に適用するのが有利かの選択も必要です。面積の上限があるため、選び方で税額が変わります。

参照元:国税庁 No.4124 相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例)

壁4|非上場株式の評価

被相続人が会社を経営していた場合、その株式の評価が必要になります。会社の規模を判定し、類似業種比準方式か純資産価額方式かを決めます。両方を併用する場合もあります。

決算書3期分から数値を拾い、業種別の比準要素と比べる作業です。自力で正確に出すのは現実的ではありません。非上場株式がある時点で、税理士に依頼する前提で進めてください。

壁にぶつかったときの3つの選択肢

途中まで進めてから詰まった場合、選べる道は3つあります。

選択肢 費用の目安 向いている状況
全部を税理士に依頼する 遺産の0.5〜1.0% 期限まで余裕がなく、壁が複数ある
土地の評価だけ依頼する 1利用区分5〜10万円 土地以外は自力で進められている
ツールを使って自力で続ける 無料〜数万円 壁が1つだけで、期限に余裕がある

表の見方:中段の部分依頼が見落とされがちです。土地の評価だけなら5〜10万円で済み、最大のリスクを消せます

重要ポイント:部分依頼に応じるかは事務所によって異なります。見積りを取る段階で「土地の評価だけ頼めますか」と聞いてください

途中から税理士に切り替える手続きと費用は、下記の記事で解説しています。

税理士に頼まないことで被る5つのリスク

自力申告のリスクは「ミスをするかもしれない」という漠然としたものではありません。それぞれ金額に換算できます。数字にすると優先順位が見えます。ここでは5つのリスクを金額とともに整理します。

リスク1|過大納付

最も金額が大きく、最も気づきにくいリスクです。特例の適用漏れは数百万円単位になります。原因は特例の適用漏れと、土地の補正を使わない評価です。税務署は指摘しないため、自分で気づく以外に発覚の経路がありません

更正の請求の期限は原則5年です。それを過ぎれば確定します。

リスク2|追徴課税

逆に少なく申告していた場合は、修正申告と加算税が発生します。過少申告加算税は、増差税額のうち一定額までが10%、超える部分が15%です。加えて延滞税がかかります。意図的に隠したと判断されれば重加算税35〜40%です

ただし調査の通知を受ける前に自主的に修正申告すれば、過少申告加算税はかかりません。

修正申告のやり方と加算税・延滞税の計算は、下記の記事で解説しています。

リスク3|税務調査の対応を自分でやる

調査の連絡が来た場合、税理士に依頼していれば立会いを頼めます。自力申告なら自分で対応します。令和6事務年度の実地調査は9,512件でした。このうち82.3%にあたる7,826件で申告漏れなどが把握されています

調査は通常2日間で、被相続人の生前の生活状況から預金の動きまで質問されます。申告後に調査の連絡が来てから税理士を探すこともできますが、申告内容を作った本人ではないため対応に限界があります。

参照元:国税庁 令和6事務年度における相続税の調査等の状況

税務調査でどこまで調べられるかと当日の質問は、下記の記事で解説しています。

リスク4|期限に間に合わない

申告期限は相続開始を知った日の翌日から10か月です。延長は原則できません。間に合わないと無申告加算税がかかります。さらに深刻なのは特例が使えなくなることです。小規模宅地等の特例も配偶者の税額軽減も、期限内申告が原則の条件です

節約したはずの税理士費用の何倍もの税額を納めることになります。

リスク5|相続人の間でやり直しになる

分割の内容は税額に直結します。誰がどの財産を取得するかで、使える特例が変わります。申告してから「別の分け方のほうが安かった」と分かっても、遺産分割のやり直しは簡単ではありません。やり直すと贈与とみなされる可能性があります

分割案を複数試算してから決めるのが本来の手順ですが、自力ではその比較が難しくなります。

5つのリスクの金額比較

リスクを損失額の大きい順に並べました。

リスク 損失額の目安 気づけるか 回避方法
過大納付 470万〜6,555万円 気づけない 特例の適用可否を専門家に確認
期限に間に合わない 特例の不適用+無申告加算税 気づける 残り5か月で判断する
追徴課税 増差税額の10〜40%+延滞税 調査で判明 調査前に自主的に修正申告
分割のやり直し 贈与税のリスク 後から判明 分割案を複数試算してから決める
税務調査の自力対応 時間と精神的負担 連絡が来る 書面添付のある税理士に依頼

表の見方:最上段だけが「気づけない」リスクです。他の4つは発覚してから対処できますが、過大納付は永久に気づかない可能性があります

重要ポイント:優先して潰すべきは過大納付です。特例の適用可否だけを初回相談で確認すれば、最大のリスクは消せます。相談自体は無料の事務所が多くあります。

書面添付は税理士に頼んでも4件に3件はない

「税理士に頼めば税務調査が来にくい」という説明の根拠は書面添付制度です。ただし書面添付が付くのは、税理士が関与した申告書のうち24.6%だけです。依頼すれば自動で付くものではありません。ここでは制度の中身と確認の仕方を解説します。

書面添付制度とは

税理士が申告書の作成にあたって、どの資料をどう確認したかを書面にして添付する制度です。税理士法33条の2に基づくもので、税務署はこの書面がある申告について、調査の前に税理士へ意見を聞く手続きを取ります。

意見聴取の段階で疑問が解消すれば、実地調査に移行しません。自力申告では書面添付を使えません。税理士が作成した申告書にしか付けられないためです。

書面添付割合は24.6%

実際にどれくらい使われているかを確認します。

年度 令和2 令和3 令和4 令和5 令和6
相続税の書面添付割合 22.2% 23.1% 23.4% 24.3% 24.6%
所得税 1.4% 1.5% 1.5% 1.5% 1.5%
法人税 9.8% 9.8% 10.0% 10.0% 10.2%

表の見方:相続税は3税目のなかで最も書面添付が普及していますが、それでも24.6%です。税理士に頼んでも4件に3件は書面添付なしで提出されています

重要ポイント:この割合は「税理士が関与した申告書の件数のうち」の数字です。分母が申告書全体ではない点に注意してください

計算ロジック:数値は財務省「令和6事務年度 国税庁実績評価書」の参考指標1「税理士法第33条の2に規定する書面の添付割合」です。相続税は各年分ともその年の10月末までに提出のあった前年の相続に係る申告書(修正申告書を除く)が対象です。

参照元:令和6事務年度国税庁実績評価書 : 財務省

「税理士に頼めば調査が来ない」ではない

書面添付があっても調査がゼロになるわけではありません。意見聴取で解消しなければ実地調査に進みます。また、事務所によっては書面添付を扱っていません。作成に手間がかかり、記載内容に責任が伴うためです。

「調査率が低い」とうたう事務所には、書面添付の実施率を聞いてください。調査率の数字だけを比べても、母数や年度が違えば意味がありません。

依頼時に書面添付の有無と費用を確認する

見積りを取る段階で確認すべき点は3つです。

【確認1】書面添付に対応しているか

対応していない事務所もあります。まず有無を聞いてください。

【確認2】追加費用はいくらか

5万〜10万円の加算が一般的です。基本報酬に含まれる事務所もあります。

【確認3】どの範囲を書面に記載するか

形式的な記載だけでは意味がありません。財産の確認方法まで書くかを聞いてください。

この3点を聞けば、事務所の姿勢が分かります。答えられない事務所は候補から外して構いません。

どんな家庭が税務調査に選ばれやすいかは、下記の記事で解説しています。

自分で申告するときのツールと限界

自力申告を支えるツールは増えました。無料で申告書まで作れるサービスもあります。ただしどのツールも、土地の補正率の判断と名義預金の線引きはしてくれません。ここでは使える範囲と限界を整理します。

無料ソフトでどこまでできるか

入力フォームに沿って財産と相続人の情報を入れると、税額の計算と申告書の出力までできます。基礎控除の計算、法定相続分での按分、税率の適用は自動です。計算ミスという意味では、手計算より安全です

必要書類の一覧を表示する機能や、相続人を共有して一緒に入力できる機能を持つものもあります。財産が預貯金と上場株式だけなら、ツールだけで完結できます。

主なツールの比較

タイプごとに対応範囲が違います。自分のケースで足りるか確認してください。

タイプ 費用 対応範囲 土地の補正
無料の申告書作成サービス 無料 財産入力から申告書出力まで 非対応
有料の個人向けソフト 数千円〜数万円 申告書作成+簡易な土地評価 一部のみ
税理士向けの業務ソフト 年間数万円〜 評価明細書を含む全表 入力すれば計算可
国税庁の申告書様式 無料 様式のダウンロードのみ 非対応

表の見方:無料サービスは入力の負担を大きく減らしますが、土地の補正には対応していません。整形地の自宅1件までが守備範囲です

重要ポイント:税理士向けのソフトは補正率を入力すれば計算しますが、どの補正を使うかを決めるのは利用者です。判断そのものは代行してくれません。

ツールの限界は土地評価と名義預金

ツールが肩代わりしてくれるのは計算です。判断は肩代わりできません。土地の補正をどれだけ使うかは、現地の状況と登記簿と公図を突き合わせて決めます。入力する値が間違っていれば、出力も間違います。

名義預金も同じです。「相続財産に含めるかどうか」をツールが判定することはありません。この2つが自分のケースに関係ないなら、ツールで十分です。関係するなら、その部分だけでも専門家に確認してください。

注意:ツールで作成した申告書の内容に責任を負うのは提出した本人です。誤りがあっても、加算税を負担するのは納税者です

国税庁の様式とe-Tax

申告書の様式は国税庁のサイトからダウンロードできます。税務署の窓口でも受け取れます。相続税は令和元年10月からe-Taxでの電子申告に対応しました。書面の持参や郵送が不要になります。

ただし電子申告に対応していても、書き方が分かるわけではありません。申告書は第1表から第15表まであり、番号順ではなく決まった順序で記入します。この順序を知らないと計算が進みません。

参照元:国税庁 B1-2 相続税の申告手続

申告書の書く順番と記入のコツは、下記の記事で解説しています。

部分的に専門家を使う

全部を依頼するか自力でやるかの二択ではありません。中間があります。財産の洗い出しと書類の収集は自分でやり、土地の評価だけ依頼する形が現実的です。1利用区分5〜10万円で、最大のリスクである過大納付を回避できます

特例の適用可否だけを初回相談で確認する方法もあります。無料相談を使えば費用はかかりません。

税理士の無料相談を含む7つの窓口の使い分けは、下記の記事で解説しています。

税務署はどこまで教えてくれるか

「分からなければ税務署で聞けばいい」と考えて自力を選ぶ人がいます。税務署は書き方は教えますが、有利不利の判断はしません。ここを誤解すると詰まります。ここでは答えてもらえる範囲を整理します。

税務署が答えること・答えないこと

境界を一覧にしました。

質問の内容 回答 理由
申告書のどの欄に何を書くか 手続きの案内の範囲
添付書類は何が必要か 手続きの案内の範囲
基礎控除の計算方法 法令の説明
この土地にどの補正を使うか × 個別の評価判断は行わない
複数の宅地のどれに特例を使うと得か × 有利選択の助言はしない
この預金は名義預金に当たるか × 事実認定は調査で行う
どう分けると税額が安くなるか × 節税の助言はしない
申告書の内容が正しいかの確認 × 内容の保証はしない

表の見方:○が付くのは「書き方」だけです。×が付く5項目は、自力申告で詰まる部分とほぼ一致します

重要ポイント:税務署は納税者の味方でも敵でもなく、手続きの窓口です。有利な選択を提案する立場ではありません。ここを期待すると当てが外れます。

相談の予約と持ち物

税務署の相談は事前予約制です。当日いきなり行っても対応してもらえないことがあります。予約は電話またはインターネットで取ります。混雑期は数週間先になることもあります。資料を持たずに行くと、一般論しか返ってきません

戸籍・残高証明書・固定資産評価証明書・登記事項証明書をそろえてから行ってください。

税務署に相談しても責任は自分

窓口で聞いたとおりに書いても、内容の責任は提出者にあります。誤りが後から見つかった場合、加算税と延滞税を負担するのは納税者です。税務署に責任を問うことはできません

税理士に依頼した場合は、申告内容について税理士が責任を負い、調査にも立ち会います。この違いは大きいです。

税務署に行く前にそろえる資料

相談の質は持ち込む資料で決まります。何もない状態で行くと一般論しか返ってきません。最低限そろえるべき書類を挙げます。

  • □ 被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本
  • □ 相続人全員の戸籍謄本
  • □ 預貯金の残高証明書(死亡日時点)
  • □ 固定資産評価証明書(土地・建物)
  • □ 登記事項証明書と公図
  • □ 生命保険金・死亡退職金の支払通知書
  • □ 死亡日前7年分の預金通帳

最後の通帳は忘れられがちですが、生前贈与と名義預金の確認に必要です

重要ポイント:7項目のうち登記事項証明書と公図は法務局でしか取れません。戸籍と一緒に取りに行けば往復が1回分減ります

相談先ごとの向き不向き

相談できる窓口は税務署だけではありません。目的で使い分けてください。

相談先 費用 答えてもらえること 答えてもらえないこと
税務署(予約相談) 無料 書き方・添付書類・法令の説明 評価の判断・有利選択
電話相談センター 無料 制度の一般論 個別の資料にもとづく回答
税理士の初回相談 無料の事務所が多い 特例の適用可否・概算税額 詳細な評価(要依頼)
市区町村の無料相談会 無料 一般的な手続きの流れ 継続的な対応

表の見方:特例の適用可否を聞けるのは税理士だけです。税務署は「使えますか」という質問には答えません

重要ポイント:自力で進めると決めている人でも、税理士の初回相談は使う価値があります。無料で最大のリスクを潰せます。依頼しなくても構いません。

電話相談センターとの使い分け

一般的な質問なら電話相談センターで足ります。予約は不要です。ただし個別の資料を見ながらの相談はできません。「うちの土地の場合は」という質問には答えられません

制度の一般論は電話、書類を見せながらの相談は予約、有利不利の判断は税理士という使い分けになります。

自分で申告するか迷ったら相続税の対応実績がある税理士へ|一括相談・見積り

自力でやるか依頼するかは、見積りを取ってから決めても遅くありません。見積りと初回相談は無料の事務所が多く、断っても費用は発生しません。複数の事務所から取って、特例の適用可否だけでも確認してください。

相続税の対応実績がある税理士が必要な理由

最大のリスクである過大納付は、特例の適用可否を判定できる税理士でなければ防げません

【理由1】特例の適用可否を先に判定できる

小規模宅地等の特例は4類型あり、同居や家なき子の要件判断が必要です。初回相談で可否が分かります。

【理由2】土地の補正を漏らさない

不整形地補正・間口狭小補正・私道の評価など、使える補正を全部当てられます。

【理由3】名義預金の線引きができる

原資と管理状況から判定し、含めるべきかを判断できます。調査での指摘を先回りできます。

【理由4】書面添付に対応できる

確認内容を書面にして添付すれば、調査前に意見聴取の手続きが取られます。

【理由5】評価だけの部分依頼に応じられる

全部を任せなくても、土地の評価だけを1利用区分5〜10万円で頼めます。

実例で示します。遺産8,000万円(土地5,000万円・建物1,000万円・預金2,000万円)で相続人が子2人のケースです。

A税理士は「自分でもできますよ」と答えました。B税理士は小規模宅地等の特例の要件を確認し、適用できると判定しました。

特例を使えば課税価格は4,000万円になり、基礎控除4,200万円を下回って税額は0円です。使わなければ470万円かかります。税理士費用64万円の7.3倍です。

税理士を比較するときの3つの判定ポイント

見積書と初回相談で、次の3点を確認してください。

判定ポイント1:見積りに書面添付の有無と費用が明記されているか。A税理士は記載なし、B税理士は「書面添付8万円(税務調査前の意見聴取に対応)」と書いた。→ B税理士のほうが、調査リスクまで見て設計していると判定できます。

判定ポイント2:土地の評価だけの部分依頼に応じるか。A税理士は「一式でお願いします」、B税理士は「評価だけなら1利用区分7万円で承ります」と答えた。→ B税理士のほうが、依頼者の状況に合わせられると判定できます。

判定ポイント3:特例の適用可否を初回相談で判定するか。A税理士は「資料を見てから」で終わり、B税理士は同居の有無と持ち家の状況を聞いて「この条件なら適用できます」と即答した。→ B税理士のほうが、過大納付を防げると判定できます。

3点を比較するには最低3社の見積りが必要です。1社だけでは判断材料がありません。

税理士の選び方の判定軸は、下記の記事で解説しています。

相談しないまま自力で進めるリスク

見積りも取らずに自力で始めると、次のような結果になります。

  • 小規模宅地等の特例を使えたのに気づかず、470万円を余分に納める
  • 土地の補正を使わずに評価し、過大納付が確定する
  • 名義預金を含め忘れ、税務調査で追徴課税を受ける
  • 200時間を費やしたうえで期限に間に合わず、特例が使えなくなる
  • 書面添付が使えず、調査の対応を自分で行う
  • 払いすぎに気づかないまま更正の請求の5年が過ぎる

いずれも見積りと初回相談の段階で回避できます。相談したうえで自力を選ぶなら問題ありません。

一括相談・見積りの手順|STEP1〜STEP4

依頼までの流れは4段階です。

STEP1
相続の概要を整理する
被相続人の資産内容と概算額、相続人の構成と年齢、遺言の有無を書き出します。土地の件数と形状、同居していた人がいるかを必ず書き添えてください。特例の適用可否の判定に使います。

STEP2
一括見積り・相談サービスに依頼する
相続税申告・相続税の節税・確定申告・準確定申告など希望内容を明記し、3〜5社へ同時に打診します。所有している不動産があれば所在地と広さを記載してください。財産の種類や相続人の人数はできるだけ正確に伝えると見積り精度が上がります。フォーム記入は5分程度です。

STEP3
見積りと初回相談を受ける
各事務所から提案内容・試算相続税額・報酬額が届きます。初回相談では「特例は使えますか」と「評価だけ頼めますか」を必ず聞いてください。この2問で判定できます。

STEP4
自力か依頼かを決める
見積り額と特例の判定結果を見て決めます。相続開始から7か月以内に決めれば、どちらを選んでも期限に間に合います。自力を選んでも見積りは無駄になりません。

よくある質問(FAQ)

Q1. 税理士に頼まないと税務調査が入りやすくなりますか?

必ず入るわけではありませんが、自分で申告した場合はミスが起きやすいため、指摘を受ける可能性は上がります。令和6事務年度の実地調査は9,512件で、そのうち82.3%にあたる7,826件で申告漏れなどが把握されています。

税理士に依頼しても調査がゼロになるわけではありません。書面添付があれば調査の前に税理士への意見聴取が行われますが、書面添付が付くのは税理士が関与した申告書のうち24.6%だけです。

Q2. 自分で申告している人はどれくらいいますか?

令和6年度で13.5%です。財務省が公表する国税庁実績評価書の税理士関与割合86.5%の裏返しになります。

令和2年度から順に13.9%・13.9%・14.1%・13.7%・13.5%と推移しており、割合は横ばいから微減です。「自分で申告する人が増えている」という説明は、申告件数そのものが増えていることと混同したものです。

Q3. 自分で申告するとどれくらい時間がかかりますか?

約200時間が目安です。内訳は書類の収集約40時間、財産の評価10〜50時間、遺産分割協議と協議書作成10〜50時間、申告書の作成約50時間、提出と納税約10時間です。

カレンダー上は5〜7か月かかります。役所・法務局・金融機関は平日の日中しか開いていないため、有給休暇を10日以上使う前提になります。

Q4. 途中まで自分でやって、税理士に切り替えられますか?

できます。財産の洗い出しまでは自分で進めて、評価や申告書の作成から依頼するケースはよくあります。土地の評価だけなら1利用区分5〜10万円が目安です。

ただし申告期限が迫っている状態で依頼すると、断られることや加算報酬が発生することがあります。残り3か月を切る前に判断してください。

Q5. 税務署に相談すれば自分で申告できますか?

申告書の書き方や添付書類は教えてもらえますが、有利不利の判断はしてもらえません。土地にどの補正を使うか、複数の宅地のどれに特例を使うと得かといった質問には答えられません。

また、窓口で聞いたとおりに書いても内容の責任は提出者にあります。誤りがあった場合の加算税や延滞税は納税者が負担します。相談は事前予約制で、資料を持たずに行くと一般論しか返ってきません。

まとめ|土地と特例があるなら自分でやる理由はない

相続税の申告を自分でやっている人は13.5%です。令和6年度の数字で、この5年間で最も低い水準になっています。自力申告にかかる作業時間は約200時間です。遺産1億円なら税理士費用は約80万円なので、時給4,000円が損益分岐になります。

  • 「自分で申告する人が増えている」は事実と逆。割合は13.5〜14.1%で横ばいから微減
  • 損益分岐時給は遺産4,000万円で1,600円、1億円で4,000円、3億円で12,000円
  • 本当の分岐点は時給ではない。小規模宅地等の特例の適用漏れ1件で470万〜2,740万円を失う
  • 過大納付は税務署が指摘しない。更正の請求の期限は原則5年で、特例の未記載は直せないことがある
  • 詰まるのは土地の評価・名義預金・特例の要件・非上場株式の4か所。いずれも判断が必要な領域
  • 書面添付は税理士に頼んでも4件に3件はない。依頼時に有無と費用を確認する

今すぐ取るべき行動

  • 相続財産に土地があるか、何件あるか、形状が整形地かを確認する
  • 小規模宅地等の特例を使う可能性があるか(同居の有無・持ち家の有無)を整理する
  • 申告期限までの残り月数を数える。5か月を切っているなら自力は避ける
  • 自分の時給を年収÷年間労働時間で計算し、損益分岐時給と比べる
  • 3〜5社から見積りを取り、特例の適用可否と部分依頼の可否を聞く
  • 見積りに書面添付の有無と費用が明記されているか確認する
  • 相続開始から7か月以内に自力か依頼かを決める

※本記事は2026年8月時点の法令・通達に基づいて作成しています。相続税法の改正により取扱いが変更される場合があります。最新の制度については国税庁の公表資料をご確認いただくか、相続税の対応実績がある税理士にご相談ください。

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