相続税はいくらから?3,600万円で判定できない理由と実質的なしきい値の出し方

相続税_いくらから

相続税がかかるのはいくらからか調べると、多くの記事が「3,600万円から」と書いています。

これは法定相続人が1人のときの基礎控除の額で、計算の出発点としては正しい数字です。

しかし自分のケースに当てはめて判定しようとすると、この数字だけでは答えが出ません。

生命保険や死亡退職金があればしきい値は上がり、生前贈与を受けていればその分だけ下がるためです。

実際のしきい値は条件によって3倍以上の幅で動き、同じ遺産額でも0円になるか課税されるかが逆転します。判定を誤ると無申告になります。

つまり必要なのは一律の基準ではなく、自分の条件で計算したしきい値です。何がその金額を動かすのかを先に押さえてください。

この記事では基礎控除の確認から始めて、しきい値を上げる5つの要素、下げる3つの要素、同じ遺産額でも結論が変わる判定例、自分のしきい値を出す4ステップ、判定結果別に次に取るべき行動までを解説します。

▼ この記事の3行まとめ

  • 「3,600万円から」は相続人1人で加減算が何もない場合の数字で、実質的なしきい値は条件によって3倍以上動く
  • 生命保険・死亡退職金の非課税枠と債務・葬式費用がしきい値を上げ、生前贈与加算と相続時精算課税が下げる
  • 同じ遺産4,000万円でも、現金なら40万円・保険金500万円を含むなら0円・7年分の暦年贈与があれば110万5,000円になる
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相続税はいくらから?答えは条件で3倍以上変わる

相続税がかかるかどうかは基礎控除で判定します。ただし基礎控除の額そのものが自分のしきい値になるわけではありません

財産の中身によって、実際に課税が始まる金額は上下します。まず全体像を確認してください。

結論|「3,600万円」は相続人1人で何もない場合の数字

基礎控除は「3,000万円+600万円×法定相続人の数」で計算します。相続人が1人なら3,600万円で、これが最も低い金額です。

ただしこの3,600万円が当てはまるのは、財産が現金・預貯金だけで、保険金も退職金も生前贈与もないケースに限られます。

【上がる場合】保険金や退職金がある

生命保険金と死亡退職金には、それぞれ「500万円×法定相続人の数」の非課税枠があります。枠の分だけ課税価格から外れるため、しきい値は上がります。

【下がる場合】生前贈与を受けている

相続開始前の一定期間内に受けた贈与は課税価格に加算されます。加算される分だけ、しきい値は下がります。

【動かない場合】現金・預貯金だけ

加減算する要素がなければ、基礎控除の額がそのまましきい値になります。この場合だけ「3,600万円から」が正しい答えです。

保険金があるのに3,600万円で判定すると、課税されると誤解します。逆に贈与を受けていたのに3,600万円で判定すると、申告が必要なのに不要と誤判定します。

参照元:国税庁 No.4152 相続税の計算国税庁 No.4105 相続税がかかる財産

基礎控除の計算式と課税されるかの判定手順は、下記の記事で解説しています。

実質的なしきい値は条件で3倍以上動く

加減算を反映したしきい値を一覧にします。最小は2,930万円、最大は9,400万円で3.2倍の幅があります

条件 基礎控除 加減算 実質的なしきい値
相続人1人+生前贈与加算670万円 3,600万円 -贈与加算670万円 2,930万円
相続人1人(何もなし) 3,600万円 3,600万円
相続人1人+葬式費用200万円 3,600万円 +債務200万円 3,800万円
相続人1人+保険金500万円 3,600万円 +保険500万円 4,100万円
相続人1人+保険金500万円+退職金500万円 3,600万円 +保険・退職金1,000万円 4,600万円
相続人2人+生前贈与加算670万円 4,200万円 -贈与加算670万円 3,530万円
相続人2人(何もなし) 4,200万円 4,200万円
相続人2人+保険金1,000万円 4,200万円 +保険1,000万円 5,200万円
相続人2人+保険金・退職金2,000万円 4,200万円 +保険・退職金2,000万円 6,200万円
相続人3人(何もなし) 4,800万円 4,800万円
相続人3人+保険金1,500万円 4,800万円 +保険1,500万円 6,300万円
相続人3人+保険金・退職金3,000万円 4,800万円 +保険・退職金3,000万円 7,800万円
相続人4人+保険金・退職金4,000万円 5,400万円 +保険・退職金4,000万円 9,400万円

表の見方:「実質的なしきい値」は、遺産総額がこの額以下なら課税されない金額です。保険金と退職金は非課税枠を使い切る前提で計算しています。

重要ポイント:赤い行と黄色い行を比べてください。同じ「相続税はいくらから」という問いに対して、2,930万円と9,400万円という3倍以上違う答えが並びます

計算ロジック:しきい値は「基礎控除+生命保険の非課税枠+死亡退職金の非課税枠+債務・葬式費用-生前贈与加算」で求めます。相続人1人で保険金500万円なら3,600万円+500万円=4,100万円です。

この記事の地図|自分のしきい値を出す手順

やることは基礎控除を出したうえで、上げる要素と下げる要素を自分の状況に当てはめるだけです

STEP1

基礎控除を出す

法定相続人の数を数えて「3,000万円+600万円×人数」を計算します。これが出発点です。

STEP2

上げる要素を足す

生命保険金・死亡退職金の非課税枠、債務、葬式費用、非課税財産を足します。

STEP3

下げる要素を引く

生前贈与加算、相続時精算課税の適用財産、名義預金を引きます。

STEP4

遺産総額と比べて判定する

遺産総額がしきい値以下なら課税されません。超えていれば10ヶ月以内の申告が必要です

重要ポイント:この記事はSTEP2とSTEP3を厚く扱います。基礎控除の計算式そのものや法定相続人の細かい数え方は下記の記事で解説しています。

表向きのしきい値=基礎控除の確認

相続税_基礎控除

出発点である基礎控除を確認します。相続人が1人増えるごとに600万円ずつ上がります

あわせて、実際に相続税を納めている人がどれくらいいるのかも押さえておきます。

相続人別の基礎控除

法定相続人の数に応じた基礎控除の一覧です。

法定相続人の数 基礎控除=表向きのしきい値 該当する家族構成の例
1人 3,600万円 子1人のみ/配偶者のみ/兄弟姉妹1人のみ
2人 4,200万円 配偶者+子1人/子2人/配偶者+父母1人
3人 4,800万円 配偶者+子2人/子3人
4人 5,400万円 配偶者+子3人
5人 6,000万円 配偶者+子4人
6人 6,600万円 配偶者+子5人

表の見方:基礎控除は相続人の数だけで決まります。誰が相続するか、どう分けるかは関係ありません。

重要ポイント:実際に相続する人の数ではなく法定相続人の数で計算します。相続放棄した人がいても人数は減りません。

参照元:国税庁 No.4152 相続税の計算国税庁 No.4132 相続人の範囲と法定相続分

法定相続人の数え方の要点

人数を間違えると基礎控除が600万円単位でずれます。特に間違えやすい3点だけ確認してください。

ケース 数え方 基礎控除への影響
相続放棄した人がいる 放棄した人も数に含める 減らない
養子がいる(実子あり) 養子は1人まで 2人以上の養子は加算されない
養子がいる(実子なし) 養子は2人まで 3人以上の養子は加算されない
子が先に亡くなり孫がいる 孫が代襲相続人として全員入る 孫の人数だけ増える

表の見方:相続放棄は民法上は相続人でなくなりますが、相続税の基礎控除の計算では人数に含めます。放棄によって基礎控除が下がることはありません。

重要ポイント:代襲相続では人数が増えるため、基礎控除も増えます。子2人のうち1人が先に亡くなり孫が3人いる場合、法定相続人は子1人+孫3人の4人で基礎控除5,400万円です。

数え方の詳細は下記の記事で解説しています。

参照元:国税庁 No.4170 相続人の中に養子がいるとき

相続放棄をした場合の基礎控除と使える控除は、下記の記事で解説しています。

課税されるのは10人に1人|課税割合9.9%

実際に相続税を納めている人の割合を確認します。国税庁が公表している最新の統計です。

項目 令和4年分 令和5年分 対前年比
被相続人数(死亡者数) 1,569,050人 1,576,016人 100.4%
申告書の提出に係る被相続人数 150,858人 155,740人 103.2%
課税割合 9.6% 9.9% +0.3ポイント
課税価格の総額 20兆6,840億円 21兆6,335億円 104.6%
申告税額の総額 2兆7,989億円 3兆53億円 107.4%
1人当たり課税価格 1億3,711万円 1億3,891万円 101.3%
1人当たり税額 1,855万円 1,930万円 104.0%

表の見方:課税割合は「申告書の提出に係る被相続人数÷被相続人数」です。令和5年分の9.9%は昭和42年分以降で過去最高です。

重要ポイント:約10人に1人が課税対象で、残る9割は課税されません。ただし課税された場合の1人当たりの税額は1,930万円で、小さい金額ではありません。

計算ロジック:1人当たり課税価格は課税価格の総額21兆6,335億円を被相続人数155,740人で割った金額です。1人当たり税額は申告税額の総額3兆53億円を同じ人数で割ります。

参照元:国税庁 令和5年分 相続税の申告事績の概要

しきい値を上げる5つの要素

まずしきい値を上げる要素です。これらがあると、基礎控除より多い遺産があっても課税されません

5つのうち最も影響が大きいのは生命保険金と死亡退職金の非課税枠です。順番に確認します。

①生命保険金の非課税枠

死亡保険金には「500万円×法定相続人の数」の非課税枠があります。枠の範囲内なら課税価格に入りません。

法定相続人の数 非課税枠 基礎控除 しきい値(保険金を使い切る場合)
1人 500万円 3,600万円 4,100万円
2人 1,000万円 4,200万円 5,200万円
3人 1,500万円 4,800万円 6,300万円
4人 2,000万円 5,400万円 7,400万円

表の見方:相続人2人で保険金1,000万円を受け取る場合、遺産総額5,200万円までなら課税されません。うち1,000万円が保険金なら課税価格は4,200万円で基礎控除と同額です。

重要ポイント:非課税枠が使えるのは被相続人が保険料を負担し、被相続人が被保険者、相続人が受取人という契約に限られます。契約形態が違うと所得税や贈与税の対象になります。

計算ロジック:しきい値は基礎控除に非課税枠を足した金額です。相続人3人なら4,800万円+(500万円×3人)=6,300万円になります。枠を超えた分は課税価格に加算されます。

参照元:国税庁 No.4114 相続税の課税対象になる死亡保険金

生命保険の非課税枠の計算と3つの税目の違いは、下記の記事で解説しています。

②死亡退職金の非課税枠

死亡退職金にも「500万円×法定相続人の数」の非課税枠があります。生命保険とは別枠なので、両方あれば非課税枠は2倍になります

法定相続人の数 保険の枠 退職金の枠 合計 しきい値
1人 500万円 500万円 1,000万円 4,600万円
2人 1,000万円 1,000万円 2,000万円 6,200万円
3人 1,500万円 1,500万円 3,000万円 7,800万円
4人 2,000万円 2,000万円 4,000万円 9,400万円

表の見方:相続人3人で保険金と退職金がそれぞれ1,500万円ある場合、合計3,000万円が非課税になり、しきい値は7,800万円まで上がります。

重要ポイント:会社員が在職中に亡くなった場合、死亡退職金と弔慰金の両方が支給されることがあります。弔慰金は業務外の死亡なら給与の6ヶ月分まで非課税で、退職金の枠とは別に扱います。

参照元:国税庁 No.4117 相続税の課税対象になる死亡退職金

死亡退職金の非課税枠と課税ルールは、下記の記事で解説しています。

③債務と④葬式費用

借入金や葬式費用は課税価格から差し引けます。差し引ける分だけしきい値が上がります。

区分 差し引けるもの 差し引けないもの
③債務 借入金・未払医療費・未払の税金・未払の公共料金 保証債務・団体信用生命保険で完済される住宅ローン
④葬式費用 通夜・葬儀・火葬・埋葬の費用、お布施、遺体の搬送費 香典返し・墓地の購入費・初七日以降の法要費用

表の見方:葬式費用のうち香典返しと法要費用は対象外です。住宅ローンは団体信用生命保険で完済される場合、債務として差し引けません。

重要ポイント:葬式費用は申告なしで差し引けます。相続人1人で葬儀費用200万円なら、しきい値は3,600万円から3,800万円に上がります。領収書を保管してください。

参照元:国税庁 No.4126 相続財産から控除できる債務国税庁 No.4129 相続財産から控除できる葬式費用

⑤非課税財産

そもそも相続税がかからない財産があります。これらは課税価格に含めません。

【主な非課税財産】

  • 墓地・墓石・仏壇・仏具・祭具(日常礼拝に使うもの)
  • 国や地方公共団体、特定の公益法人に寄付した財産
  • 心身障害者共済制度に基づく給付金の受給権
  • 生命保険金・死亡退職金の非課税枠の部分

【相続財産ではないもの】

未支給年金は受け取った遺族自身の所得になるため相続財産に含めません。遺族年金や香典も同じ扱いです。

墓地や仏壇を生前に購入しておくと、その分だけ課税価格が減ります。ただし相続開始後に購入したものは対象外です。

参照元:国税庁 No.4108 相続税がかからない財産

5つの要素を足したしきい値

上げる要素をすべて反映した場合のしきい値です。相続人の数ごとに整理します。

相続人 基礎控除 保険+退職金 債務・葬式費用 しきい値
1人 3,600万円 1,000万円 200万円 4,800万円
2人 4,200万円 2,000万円 200万円 6,400万円
3人 4,800万円 3,000万円 200万円 8,000万円
4人 5,400万円 4,000万円 200万円 9,600万円

表の見方:葬式費用を200万円と仮定した場合の合計です。保険と退職金の非課税枠を使い切り、葬儀費用の領収書が揃っている前提です。

重要ポイント:相続人4人なら1億円近くまで課税されません。「3,600万円から課税される」という理解とは大きな開きがあります。

計算ロジック:相続人4人の場合、基礎控除5,400万円+保険2,000万円+退職金2,000万円+葬式費用200万円=9,600万円です。保険と退職金はそれぞれ500万円×4人で計算しています。

家族構成別のしきい値早見表

自分の家族構成と財産の中身から、しきい値を直接読み取れる表です。該当する行と列が交わるところが自分のしきい値です

家族構成(法定相続人) 保険・退職金なし 保険のみあり 保険+退職金あり
子1人のみ/配偶者のみ(1人) 3,600万円 4,100万円 4,600万円
配偶者+子1人/子2人(2人) 4,200万円 5,200万円 6,200万円
配偶者+子2人/子3人(3人) 4,800万円 6,300万円 7,800万円
配偶者+子3人(4人) 5,400万円 7,400万円 9,400万円

表の見方:「保険のみあり」は非課税枠(500万円×相続人の数)を使い切る前提です。「保険+退職金あり」は両方の枠を使い切った場合で、枠は2倍になります。

重要ポイント:左端の列と右端の列を比べてください。同じ家族構成でも保険と退職金の有無で1,000万円から4,000万円の差が出ます。この表に債務・葬式費用を足せばさらに上がります。

計算ロジック:各列は「基礎控除」「基礎控除+500万円×人数」「基礎控除+1,000万円×人数」です。相続人3人なら4,800万円/6,300万円/7,800万円になります。

ただし生前贈与を受けていた場合は、この表の金額から加算額を引いてください。7年分の暦年贈与があれば670万円下がります。

しきい値を下げる3つの要素

次はしきい値を下げる要素です。これがあると基礎控除より少ない遺産でも課税されます

上げる要素より見落とされやすく、判定を誤る原因になります。順番に確認します。

①生前贈与加算|7年分で670万円下がる

相続開始前の一定期間内に受けた贈与は、課税価格に加算されます。贈与税がかからなかった贈与も加算の対象です

項目 内容
年110万円の暦年贈与 贈与税の基礎控除内なので贈与税は0円
110万円以下の贈与の扱い 相続税では加算される(国税庁が明記)
相続開始前3年以内の贈与 全額が加算(控除なし)
3年超7年以内の贈与 合計額から総額100万円までは加算されない
100万円控除の適用開始 相続開始が令和9年1月2日以後の場合

表の見方:国税庁は「基礎控除額110万円以下の贈与財産や死亡した年に贈与されている財産の価額も加算する」と明記しています。贈与税の申告が不要だった贈与も対象です。

重要ポイント:100万円の控除は3年超7年以内の部分だけに適用されます。直近3年分には控除がないため、加算額を実際より小さく見積もらないでください。

参照元:国税庁 No.4161 贈与財産の加算と税額控除(暦年課税)

相続開始年別の加算額

加算の対象期間は3年から7年へ段階的に延長されています。毎年110万円ずつ贈与していた場合の加算額を年ごとに示します。

相続開始 加算対象期間 加算額 相続人1人のしきい値
2026年(令和8年)まで 相続開始前3年以内 330万円 3,270万円
2027年(令和9年) 令和6年1月1日〜死亡の日 340万円 3,260万円
2028年(令和10年) 同上 450万円 3,150万円
2029年(令和11年) 同上 560万円 3,040万円
2030年(令和12年) 同上 670万円 2,930万円
2031年(令和13年)以降 相続開始前7年以内 670万円 2,930万円

表の見方:加算対象期間は3段階で切り替わります。令和8年までは3年以内、令和9年から12年までは令和6年1月1日から死亡の日まで、令和13年以降は7年以内です。

重要ポイント:年を追うごとにしきい値が下がっていきます。相続人1人なら2026年は3,270万円ですが、2030年以降は2,930万円まで下がります。

計算ロジック:7年分770万円のうち直近3年分330万円は全額加算、3年超の440万円は100万円控除後340万円です。合計670万円で、しきい値は3,600万円-670万円=2,930万円になります。

※前提は毎年1回110万円を贈与し、相続開始までその回数分を継続した場合の概算です。実際の加算額は贈与日と相続開始日で決まります。

暦年贈与の7年加算ルールと節税効果は、下記の記事で解説しています。

②相続時精算課税の適用財産|期間の制限なく全額

相続時精算課税を選択して受けた贈与は、暦年課税とは扱いが違います。何年前の贈与でも全額が課税価格に加算されます

比較項目 暦年課税の贈与 相続時精算課税の贈与
加算される期間 最大7年以内 期間の制限なし
年110万円の基礎控除 加算される 加算されない(2024年改正で新設)
100万円の控除 3年超の部分にあり なし
しきい値への影響 最大670万円下がる 贈与額に応じて大きく下がる

表の見方:相続時精算課税を選択していると、10年前や20年前の贈与も加算されます。2,500万円の特別控除を使って贈与を受けていた場合、その2,500万円が課税価格に戻ります。

重要ポイント:2024年の改正で相続時精算課税にも年110万円の基礎控除が設けられ、この部分は加算されなくなりました。改正前に選択した人は、それ以前の贈与が全額加算対象です。

計算ロジック:相続人1人で相続時精算課税により2,500万円の贈与を受けていた場合、しきい値は3,600万円-2,500万円=1,100万円です。遺産が1,100万円を超えれば課税されます。

参照元:国税庁 No.4103 相続時精算課税の選択

相続時精算課税制度の2,500万円の枠と使うべきケースは、下記の記事で解説しています。

③名義預金|もともと遺産に含めるべきもの

子や孫の名義になっている預金でも、実質的に被相続人が管理していたものは相続財産です。名義ではなく実質で判断されます。

【名義預金と判断される条件】

  • 入金の原資が被相続人のものだった
  • 通帳と印鑑を被相続人が管理していた
  • 名義人が口座の存在を知らなかった
  • 名義人が自由に引き出せる状態になかった

【贈与として認められる条件】

贈与契約書があり、名義人が口座を管理し、自由に使える状態であれば贈与が成立します。この場合は生前贈与加算の期間制限が適用されます。

贈与が成立していないと判断されると、加算期間の制限がなくなり全額が課税価格に入ります。7年より前の入金も対象です。

参照元:国税庁 No.4105 相続税がかかる財産

名義預金と判定される基準と税額への影響は、下記の記事で解説しています。

上げる要素と下げる要素を並べた一覧

8つの要素を向きと金額で整理します。自分に当てはまるものを確認してください。

要素 向き 金額 申告の要否
生命保険金の非課税枠 上げる 500万円×法定相続人の数 申告不要で適用
死亡退職金の非課税枠 上げる 500万円×法定相続人の数(別枠) 申告不要で適用
債務(借入金・未払金) 上げる 実額 申告不要で適用
葬式費用 上げる 実額(香典返し・法要費用は対象外) 申告不要で適用
非課税財産(墓地・仏具) 上げる 実額 申告不要で適用
生前贈与加算 下げる 7年フルで670万円
相続時精算課税の適用財産 下げる 期間の制限なく全額
名義預金 下げる 実額

表の見方:上げる5要素はいずれも申告なしで適用されます。小規模宅地等の特例や配偶者の税額軽減とは違い、申告書を出さなくても課税価格に反映されます。

重要ポイント:上げる要素と下げる要素は同時に存在します。保険金1,000万円があっても生前贈与加算670万円があれば、しきい値の上昇は330万円分にとどまります。

同じ遺産額でも結論が逆転する判定例

ここまでの要素が実際にどう効くのかを、遺産額が同じで結論が逆になる例で確認します

金額だけを見て判定できないことがはっきりします。

例A・B|4,000万円でも現金なら課税・保険金なら0円

相続人が子1人で、遺産総額が4,000万円という同じ条件です。財産の中身だけが違います。

遺産総額 内訳 課税価格 基礎控除 判定
A 4,000万円 現金4,000万円 4,000万円 3,600万円 課税される(40万円)
B 4,000万円 現金3,500万円+保険金500万円 3,500万円 3,600万円 0円

表の見方:Bは保険金500万円が非課税枠(500万円×1人)に収まるため、課税価格は3,500万円です。基礎控除3,600万円を下回るので課税されません。

重要ポイント:現金4,000万円のうち500万円を生命保険に換えるだけで、40万円が0円になります。財産の総額は変わっていません。

計算ロジック:Aは課税価格4,000万円から基礎控除3,600万円を引いた400万円に税率10%を掛けて40万円です。Bは課税価格が基礎控除を下回るため課税遺産総額が発生しません。

例C|同じ4,000万円でも7年分の暦年贈与があれば110万5,000円

同じ現金4,000万円ですが、生前に毎年110万円の贈与を受けていたケースです。

項目 金額
遺産総額(現金) 4,000万円
生前贈与加算(7年分・100万円控除後) +670万円
課税価格 4,670万円
基礎控除(相続人1人) 3,600万円
課税遺産総額 1,070万円
相続税 110万5,000円

表の見方:贈与税は7年間すべて0円でした。しかし相続税では670万円が課税価格に加算され、例Aの40万円より70万円以上重くなります。

重要ポイント:贈与を受けた人は「遺産は4,000万円だから40万円くらい」と考えがちです。実際は加算により110万5,000円になります。通帳で贈与の履歴を確認してください。

計算ロジック:課税遺産総額1,070万円は1,000万円を超えるため税率15%・控除額50万円が適用されます。1,070万円×15%-50万円=110万5,000円です。

例D・E|5,000万円でも保険金1,000万円なら0円

相続人が子2人で遺産総額5,000万円という条件です。こちらも中身だけが違います。

遺産総額 内訳 課税価格 基礎控除 判定
D 5,000万円 現金4,000万円+保険金1,000万円 4,000万円 4,200万円 0円
E 5,000万円 現金5,000万円 5,000万円 4,200万円 課税される(80万円)

表の見方:Dは保険金1,000万円が非課税枠(500万円×2人)に収まるため、課税価格は4,000万円で基礎控除を下回ります。

重要ポイント:相続人が2人になると非課税枠も1,000万円に増えます。枠は相続人の数に比例するため、人数が多いほどしきい値を押し上げる効果が大きくなります。

計算ロジック:Eは課税価格5,000万円から基礎控除4,200万円を引いた800万円を法定相続分1/2ずつで分け、各400万円に税率10%を掛けて各40万円、合計80万円です。

5例の比較|遺産額では判定できない

5つの例を並べます。遺産総額の順番と税額の順番が一致していません

遺産総額 相続人 特徴 税額
B 4,000万円 1人 保険金500万円 0円
D 5,000万円 2人 保険金1,000万円 0円
A 4,000万円 1人 現金のみ 40万円
E 5,000万円 2人 現金のみ 80万円
C 4,000万円 1人 7年分の暦年贈与 110万5,000円

表の見方:税額の少ない順に並べています。遺産5,000万円のDが0円で、遺産4,000万円のCが110万5,000円です。金額の大小が結論を決めていません。

重要ポイント:「いくらから」を遺産総額だけで答えられないのはこのためです。財産の中身と贈与の履歴を確認してから判定してください。

現金で持つか保険に換えるかの判断

例AとBの差は、現金の一部を生命保険に換えたかどうかだけです。ではしきい値を上げるために保険に換えるべきかというと、税金以外の要素も検討が必要です

比較項目 現金・預貯金のまま 生命保険に換える
課税価格への影響 全額が課税価格に入る 非課税枠の分だけ外れる
相続人1人・500万円分の効果 課税価格が500万円下がる
受け取りまでの期間 口座凍結後は解約手続きが必要 受取人が請求すれば数日〜2週間
遺産分割の対象 対象になる 対象外(受取人固有の財産)
生前に使えるか 自由に使える 解約すると元本を下回ることがある
加入できる年齢 高齢でも一時払い終身保険なら加入可能な商品がある

表の見方:税金の面では保険が有利ですが、生前の資金の自由度は下がります。解約返戻金が払込額を下回る期間がある商品もあります。

重要ポイント:非課税枠を超えて加入しても税金の効果はありません。相続人2人なら1,000万円までが枠なので、それ以上の保険金は課税価格に加算されます。枠に合わせた金額で検討してください。

計算ロジック:相続人1人で現金4,000万円のうち500万円を保険に換えると、課税価格は3,500万円になります。基礎控除3,600万円を下回るため40万円が0円になります。効果は税額40万円分です。

受取人は相続人に指定してください。相続人以外を受取人にすると非課税枠が使えず、しきい値は上がりません。

遺産4,000万円のときの税額と0円にする方法は、下記の記事で解説しています。

自分のしきい値を出す4ステップ

ここまでの要素を使って、自分のしきい値を計算します。順番を守れば手戻りが起きません

実際の数値を当てはめながら進めてください。

STEP1〜STEP4|計算の手順

相続人2人(子2人)で、保険金1,000万円と葬式費用200万円があり、生前贈与加算が330万円あるケースで計算します。

STEP1

基礎控除を出す

3,000万円+600万円×2人=4,200万円

相続放棄した人も数に含めます。養子には人数制限があります。

STEP2

上げる要素を足す

保険金の非課税枠1,000万円+葬式費用200万円=+1,200万円

退職金があれば別枠でさらに足せます。

STEP3

下げる要素を引く

生前贈与加算330万円=-330万円

名義預金や相続時精算課税の贈与があればここで引きます。

STEP4

遺産総額と比べる

4,200万円+1,200万円-330万円=しきい値5,070万円

遺産総額が5,070万円以下なら課税されません

重要ポイント:このケースでは「3,600万円から」でも「4,200万円から」でもなく、5,070万円が自分のしきい値です。基礎控除より870万円高くなります。

計算ロジック:基礎控除4,200万円に保険の非課税枠1,000万円(500万円×2人)と葬式費用200万円を足し、生前贈与加算330万円を引いて5,070万円です。

判定でつまずきやすい3点

計算そのものは単純ですが、次の3点で誤りが起きます。

間違えやすい3点

  • 小規模宅地等の特例や配偶者の税額軽減をSTEP2に入れてしまう(これらは申告が条件なので別扱い)
  • 保険金の全額を非課税と考える(枠を超えた分は課税価格に加算される)
  • 生前贈与加算を3年分だけで計算する(相続開始年によって期間が違う)

1つ目が最も影響が大きい間違いです。小規模宅地等の特例を先に反映すると、申告が必要なのに不要と誤判定します。この特例は申告書を出すことが適用条件です。

国税庁の判定コーナーも使える

国税庁は「相続税の申告要否判定コーナー」をウェブ上で提供しています。財産の金額を入力すると申告の要否を判定できます。

【使いどころ】

相続人の数と財産の内訳が分かっていれば、入力するだけで判定できます。自分の計算が合っているかの確認に向いています。

【注意点】

入力する金額の正確さが前提です。名義預金や把握していない保険が漏れていれば、判定結果も変わります。

参照元:国税庁 No.4205 相続税の申告と納税

相続税の計算の7ステップと端数処理は、下記の記事で解説しています。

判定結果別の次のアクション

しきい値が出たら、遺産総額との距離で次にやることが決まります。「超えるか超えないか」の二択ではなく、ギリギリの帯を分けて考えてください

距離によって取るべき行動が変わります。

4区分の判定表

遺産総額がしきい値に対してどの位置にあるかで区分します。相続人1人(しきい値3,600万円)を例にした金額も示します。

判定 しきい値との関係 相続人1人の場合 やること
明らかに下回る しきい値の8割未満 2,880万円未満 申告不要。相続登記など他の手続きへ
ギリギリ下回る しきい値の8割〜100% 2,880万〜3,600万円 名義預金・保険・贈与を再確認。申告も選択肢
ギリギリ超える しきい値の100〜110% 3,600万〜3,960万円 債務・葬式費用の領収書を集める
明らかに超える しきい値の110%超 3,960万円超 10ヶ月以内に申告。税理士に相談

表の見方:黄色の2行が判断の分かれ目です。この帯にいる場合、財産の集計をやり直すと結論が変わる可能性があります。

重要ポイント:ギリギリの帯は相続人1人なら2,880万円から3,960万円の約1,000万円幅です。この範囲にいるなら概算のまま結論を出さないでください。

ギリギリ下回るとき|申告しておく利点

しきい値をわずかに下回る場合、申告義務はありません。ただし申告しておくと実務上の利点があります。

【申告しなかった場合】後から遺産が見つかると

申告義務があったと判明するため、無申告加算税と延滞税の両方が課されます。

【申告しておいた場合】後から遺産が見つかっても

修正申告として扱われるため、無申告加算税はかかりません。延滞税のみで済みます。

【判断の目安】

把握していない口座や保険がありそうな場合、名義預金の判定に不安がある場合は、申告しておく価値があります。

申告書を出すこと自体にペナルティはありません。税額が0円でも提出できます。判断に迷うなら出しておくほうが安全です。

ギリギリ超えるとき|真っ先にやること

わずかに超えている場合、先に確認すべきものがあります。申告なしで課税価格を下げられるものから手をつけてください。

1

債務・葬式費用の領収書を集める

申告なしで差し引けます。葬儀費用は100万円から200万円かかるため、これだけでしきい値以下に戻ることがあります

2

保険金・退職金の非課税枠を使い切っているか確認

受け取った保険金が非課税枠に収まっているかを確認します。退職金は保険とは別枠です。

3

不動産の評価を確認する

土地は路線価で評価します。売買価格のイメージで計上していると実際より高く見積もっています。

4

特例を使うなら10ヶ月以内に申告

小規模宅地等の特例や配偶者の税額軽減は申告が適用の条件です。期限を過ぎると使えません。

重要ポイント:1から3は申告なしで効きます。この3つでしきい値以下に戻れば申告そのものが不要になります。順番を守ってください。

参照元:国税庁 No.4124 相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例)

小規模宅地等の特例の4類型の要件と計算方法は、下記の記事で解説しています。

明らかに超えるとき|スケジュール

申告が必要と分かった場合の期限を確認します。準備期間を逆算してください。

時期 やること
3ヶ月以内 相続放棄・限定承認の判断期限
4ヶ月以内 準確定申告(事業所得・不動産所得があった場合)
7ヶ月以内 税理士を決める目安(申告書の作成期間を確保するため)
10ヶ月以内 相続税の申告と納税(特例を使う場合も同じ期限)
3年以内 相続登記(2024年4月1日から義務化)

表の見方:期限の起算日は「相続開始を知った日の翌日」です。10ヶ月の期限に対して、税理士に依頼するなら7ヶ月以内が目安になります。

重要ポイント:遺産分割が終わっていなくても申告期限は延びません。未分割のまま法定相続分で申告し、分割後に更正の請求をする方法があります。

参照元:国税庁 No.4208 相続財産が分割されていないときの申告

判定を誤ったと後で気づいたときの対応

判定を終えた後に誤りに気づくことがあります。どちらの方向に誤ったかで取るべき手続きが変わります

誤りの方向 状況 手続き 期限
足りなかった 申告不要と判断したが、実際は超えていた 期限後申告(自主的に) 早いほど加算税が軽い
足りなかった 申告したが、名義預金などを漏らしていた 修正申告 調査の通知前なら加算税が軽減
払いすぎた 本来使えた特例を適用していなかった 更正の請求 申告期限から5年以内
払いすぎた 不動産の評価が高すぎた 更正の請求 申告期限から5年以内

表の見方:上2行は納税が足りなかったケース、下2行は払いすぎたケースです。払いすぎは申告期限から5年以内なら取り戻せます。

重要ポイント:税務調査の通知が来る前に自主的に申告すれば、無申告加算税は15%から5%に軽減されます。気づいた時点で早く動くほど負担が小さくなります。

計算ロジック:本税100万円の場合、通知後の無申告加算税は15万円ですが、通知前に自主申告すれば5万円です。差は10万円になります。

払いすぎに気づいた場合の手続きは下記の記事で解説しています。

申告期限の数え方と間に合わないときの対応は、下記の記事で解説しています。

しきい値を超えたときの税額

超えた場合にいくらになるのかを確認します。超えた直後の税額は数十万円にとどまります

いきなり大きな負担が生じるわけではないため、規模感を把握しておくと判断しやすくなります。

課税価格別の税額(子のみが相続人)

配偶者がいない場合の相続税の総額です。2割加算と税額控除を反映する前の金額を示します。

課税価格 相続人1人 相続人2人 相続人3人
3,600万円 0円 0円 0円
4,000万円 40万円 0円 0円
4,200万円 60万円 0円 0円
4,800万円 130万円 60万円 0円
5,000万円 160万円 80万円 19万9,800円
6,000万円 310万円 180万円 120万円
8,000万円 680万円 470万円 329万9,700円
1億円 1,220万円 770万円 629万9,850円

表の見方:相続人が増えると税額が下がります。基礎控除が増えるうえ、課税遺産総額を人数で分けてから税率を掛けるためです。

重要ポイント:兄弟姉妹や代襲相続でない孫が相続する場合は、この金額に2割加算が適用されて1.2倍になります

参照元:国税庁 No.4155 相続税の税率国税庁 No.4157 相続税額の2割加算

配偶者がいる場合の納税額

配偶者が法定相続分を取得し、配偶者の税額軽減を適用した後の納税額です。

課税価格 配偶者+子1人 配偶者+子2人 配偶者+子3人
5,000万円 40万円 10万円 0円
6,000万円 90万円 60万円 30万円
8,000万円 235万円 175万円 137万4,900円
1億円 385万円 315万円 262万4,900円
1億5,000万円 920万円 747万5,000円 665万円
2億円 1,670万円 1,350万円 1,217万4,900円

表の見方:配偶者がいると納税額は大きく下がります。配偶者の税額軽減により、配偶者が負担する分が0円になるためです。

重要ポイント:配偶者の税額軽減は申告書の提出が適用条件です。この表の金額は申告した場合のものです。申告しなければ軽減が使えず、税額はこの2倍近くになります。

参照元:国税庁 No.4158 配偶者の税額の軽減

配偶者の税額軽減の1億6,000万円の上限と適用方法は、下記の記事で解説しています。

実際に課税された人の平均額

統計上、課税された人はどれくらいの財産と税額なのかを確認します。

項目 令和5年分 意味
被相続人1人当たり課税価格 1億3,891万円 課税された人の平均的な財産規模
被相続人1人当たり税額 1,930万円 課税された場合の平均的な税額
実効的な負担率 約13.9% 税額÷課税価格

表の見方:課税された人の平均は課税価格1億3,891万円・税額1,930万円です。しきい値をわずかに超えた層より、財産規模の大きい層が平均を押し上げています。

重要ポイント:この平均額は「課税された人」だけの数字です。9割の人は課税されていないため、相続する人全体の平均ではありません。

計算ロジック:1人当たり課税価格は課税価格の総額21兆6,335億円を被相続人数155,740人で割った金額です。負担率は1,930万円÷1億3,891万円で約13.9%になります。

参照元:国税庁 令和5年分 相続税の申告事績の概要

超えても0円に戻せる特例

しきい値を超えても、特例を使って0円にできる場合があります。ただしこれらは申告が条件です。

特例・控除 効果 申告
配偶者の税額軽減 1億6,000万円または法定相続分まで非課税 必要
小規模宅地等の特例 自宅の土地の評価を80%減額 必要
未成年者控除 18歳になるまでの年数×10万円 不要
障害者控除 85歳になるまでの年数×10万円(特別障害者は20万円) 不要
相次相続控除 10年以内に相続が続いた場合に一定額を控除 不要

表の見方:上2つは申告が適用条件で、下3つは申告なしでも適用されます。この違いが次の章の判定基準になります。

重要ポイント:未成年者控除は10歳の相続人なら80万円です。しきい値をわずかに超えた程度なら、この控除だけで0円に戻ることがあります。

参照元:国税庁 No.4164 未成年者の税額控除

控除と特例の一覧と申告不要になる条件は、下記の記事で解説しています。

税額が0円でも申告が必要なケース

しきい値の判定とは別に、申告義務の有無という論点があります。税額が0円でも申告が必要な場合があります

判定の基準を確認してください。

申告が要件の特例と、要件でない控除の線引き

0円になった理由によって申告義務が分かれます。

0円になった理由 申告 申告しなかった場合
課税価格がしきい値以下 不要 問題なし
保険金・退職金の非課税枠で下回った 不要 問題なし
債務・葬式費用を引いて下回った 不要 問題なし
未成年者控除・障害者控除で0円 不要 問題なし
配偶者の税額軽減で0円 必要 軽減が使えず課税される
小規模宅地等の特例で下回った 必要 特例が使えず課税される

表の見方:判定の基準は「特例を使わない状態でしきい値を超えているか」です。超えていれば、特例で0円になる場合も申告が必要です。

重要ポイント:この記事のSTEP1〜4では小規模宅地等の特例と配偶者の税額軽減を計算に入れていません。この2つを先に反映すると、申告が必要なのに不要と誤判定するためです。

判定の詳細や落とし穴は下記の記事で解説しています。

申告期限を過ぎた場合のペナルティ

申告が必要だったのにしなかった場合、本税に加えて加算税と延滞税がかかります。

種類 内容 税率の目安
無申告加算税 期限内に申告しなかった場合 本税の15%(50万円超の部分は20%)
過少申告加算税 申告額が少なかった場合 追加本税の10%(一定額超は15%)
延滞税 納付が遅れた期間に応じた利息 期間と年により変動
重加算税 意図的に隠した場合 本税の35〜40%

表の見方:税務調査の通知前に自主的に申告すれば、無申告加算税は5%に軽減されます。気づいた時点で早く動くほど負担が小さくなります。

重要ポイント:金銭的な負担より重いのは特例が使えなくなることです。小規模宅地等の特例を使えば0円だったケースで期限を過ぎると、本来不要だった税額が発生します。

参照元:国税庁 No.4205 相続税の申告と納税

申告期限を過ぎた場合のペナルティと今すぐやることは、下記の記事で解説しています。

相続税がいくらからかの判定は相続税の対応実績がある税理士へ|一括相談・見積り

しきい値の計算そのものは自分でできます。難しいのは計算ではなく、課税価格に何を含めるかの判断です

名義預金の判定や不動産の評価は経験によって差が出ます。ギリギリの帯にいる場合は特に影響が大きくなります。

相続税の対応実績がある税理士が必要な理由

相続税の申告を扱う税理士は多くありません。法人税や所得税を主に扱う事務所では、名義預金や不動産評価の判定に慣れていないことがあります

この判定で実績が問われる場面

  • 名義預金の洗い出し(ギリギリの帯では判定が結論を左右する)
  • 生前贈与加算の対象期間の判定(3年・移行期・7年の3区分)
  • 贈与が成立しているかの確認(不成立なら期間の制限なく全額が加算される)
  • 不動産の評価(路線価・倍率方式の選択と減額補正)
  • 保険金・退職金の非課税枠の計算と契約形態の確認
  • 申告が必要か不要かの判定(0円でも申告が必要なケースの見極め)
  • 過大申告の回避(本来0円なのに納税してしまう事態を防ぐ)

実際の金額差で見ると次のようになります。相続人が子1人で、預貯金3,500万円と自宅の土地800万円があるケースです。

対応 小規模宅地等の特例 課税価格 納税額
特例を検討せず申告しなかった 適用なし 4,300万円 70万円+加算税
特例を適用して期限内に申告 適用(土地800万円→160万円) 3,660万円 6万円

表の見方:同じ財産でも特例を適用するかどうかで64万円の差が出ます。さらに申告しないまま期限を過ぎると加算税と延滞税が上乗せされます。

重要ポイント:最初に確認すべきは「そもそも申告が必要か」です。しきい値を明らかに下回っていれば依頼も不要です。判定だけを相談してから決めてください。

計算ロジック:特例なしの課税価格4,300万円から基礎控除3,600万円を引いた700万円に税率10%を掛けて70万円です。特例適用後は土地が160万円になり課税価格3,660万円、課税遺産総額60万円で6万円になります。

複数の税理士から見積りを取るメリット

見積りを比較するときは金額だけを見るのではなく、次の3つで実務力を判定できます。

判定ポイント1:「申告が必要かどうか」を先に判定してくれるか。A税理士は財産の概要を聞いた時点で「しきい値を下回るので申告不要です」と伝え、B税理士は判定せずに申告一式の見積りを出しました。→ A税理士の方が、この規模の案件の経験が豊富と判定できます。

判定ポイント2:保険金・退職金と贈与の履歴を確認してくるか。A税理士は「保険金はいくらですか」「贈与はいつからですか」を最初に質問し、B税理士は被相続人名義の財産だけを聞きました。→ A税理士の方が、しきい値の判定の経験が豊富と判定できます。

判定ポイント3:子や孫名義の口座を確認してくるか。A税理士は「お子さん名義の口座はありますか」「通帳は誰が管理していましたか」と質問し、B税理士は名義だけで判断しました。→ A税理士の方が、税務調査を見据えた申告の経験が豊富と判定できます。

報酬の目安は遺産5,000万円規模なら20万〜30万円です。申告が不要と判定されれば費用はかかりません。

相談しないまま進めるリスク

自分で判定して進めた場合に起きうることを整理します。

相談しないまま進めた場合のリスク

  • 「3,600万円から」で判定し、保険金があるのに課税されると誤解して不要な対策をする
  • 生前贈与加算を見落とし、しきい値を下回ると誤判定して無申告になる
  • 名義預金の判定を誤り、税務調査で指摘を受ける
  • 小規模宅地等の特例を先に反映して申告不要と判断し、期限を過ぎて特例を失う
  • 本来0円なのに不安から申告・納税してしまう(過大申告に気づかない)

これらはいずれも申告期限までに判定を済ませていれば避けられます。判定だけなら初回相談の範囲で済むことが多いため、まず相談してください。

一括相談・見積りの手順|STEP1〜STEP4

複数の税理士に同時に相談する場合の流れです。

STEP1

相続の概要を整理する

被相続人の資産内容(預貯金・不動産・保険)、資産額の概算、相続人の構成と人数、年齢、遺言の有無を整理します。

保険金・退職金の金額と、生前贈与の履歴を必ず含めてください

STEP2

一括見積り・相談サービスに依頼する

「相続税申告が必要かどうかの判定」「名義預金・生前贈与加算の確認」「不動産の評価」など希望内容を明記し、相続税の対応実績がある税理士3〜5社への同時打診を依頼します。

不動産がある場合は所在地と広さを記載してください。「財産の種類」「相続人の人数」を正確に伝えると見積りの精度が上がります。フォーム記入は5分程度です。

STEP3

見積りと初回相談を受ける

各税理士から「提案内容」「試算相続税額」「報酬額」が記載された見積りが届きます。気になる事務所と初回相談を行ってください。

この段階で「申告不要」と判定されれば依頼そのものが不要になります

STEP4

税理士を選定・正式依頼する

「提案内容の質」「説明の丁寧さ」「報酬の納得性」で最適な事務所を選びます。

申告が必要な場合は、相続開始から7ヶ月以内に決定してください。申告期限10ヶ月に対して作業期間を確保できます。

重要ポイント:しきい値を明らかに下回っている場合はSTEP3で終わります。判定してもらうだけで手続きが完了することも珍しくありません。

税理士の無料相談を含む7つの窓口の使い分けは、下記の記事で解説しています。

税理士費用の相場と費用を抑える方法は、下記の記事で解説しています。

よくある質問

Q1. 相続税は結局いくらから課税されるのですか?

条件によって2,930万円から9,400万円まで変わります。出発点は基礎控除で、相続人が1人なら3,600万円、2人なら4,200万円です。

ここに生命保険金と死亡退職金の非課税枠(各500万円×相続人の数)、債務、葬式費用を足すとしきい値は上がります。逆に生前贈与加算や相続時精算課税の適用財産があると下がります。

相続人1人で7年分の暦年贈与があれば2,930万円、相続人4人で保険金と退職金が各2,000万円あれば9,400万円です。「3,600万円から」は相続人1人で加減算が何もない場合の数字にすぎません。

Q2. 生命保険金があると本当に課税されないのですか?

非課税枠の範囲内なら課税価格に入りません。枠は「500万円×法定相続人の数」です。

たとえば相続人が子1人で遺産4,000万円のうち500万円が保険金なら、課税価格は3,500万円になります。基礎控除3,600万円を下回るため課税されません。現金4,000万円のままなら40万円かかります。

ただし非課税枠が使えるのは、被相続人が保険料を負担し、被相続人が被保険者、相続人が受取人という契約に限られます。契約形態が違うと所得税や贈与税の対象です。枠を超えた分は課税価格に加算されます。

Q3. 毎年110万円の贈与を受けていました。相続税に影響しますか?

影響します。国税庁は「基礎控除額110万円以下の贈与財産や死亡した年に贈与されている財産の価額も加算する」と明記しています。贈与税が0円だった贈与も課税価格に加算されます。

加算の対象期間は3段階で変わります。令和8年12月31日までの相続は3年以内、令和9年から12年までは令和6年1月1日から死亡の日まで、令和13年以降は7年以内です。

毎年110万円なら7年分で加算額は670万円です。直近3年分330万円は全額、3年超の440万円から100万円を控除した340万円を足した金額です。相続人1人ならしきい値が3,600万円から2,930万円に下がります。

Q4. 相続税を払っている人はどれくらいいますか?

令和5年分では9.9%です。国税庁の「相続税の申告事績の概要」によると、被相続人数1,576,016人のうち申告書の提出に係る被相続人数は155,740人でした。

この9.9%は昭和42年分以降で過去最高です。2015年に基礎控除が引き下げられて以降、課税割合は上昇傾向にあります。

約10人に1人が課税対象で、残る9割は課税されません。ただし課税された場合の1人当たり課税価格は1億3,891万円、1人当たり税額は1,930万円です。課税される層の平均的な負担は小さくありません。

Q5. しきい値を下回っていれば何もしなくていいですか?

相続税の申告は不要ですが、他の手続きは残ります。不動産がある場合、相続登記が2024年4月1日から義務化されました。取得を知った日から3年以内に登記が必要で、正当な理由なく怠ると10万円以下の過料が科されます。

また小規模宅地等の特例や配偶者の税額軽減を使ってしきい値以下にした場合は、申告が適用の条件です。この場合は税額0円でも申告が必要です。

しきい値をわずかに下回っている場合は、申告しておく選択肢もあります。後から遺産が見つかったとき、申告済みなら修正申告として扱われるため無申告加算税がかかりません。

まとめ

相続税がいくらからかかるかは、基礎控除だけでは決まりません。生命保険金と死亡退職金の非課税枠、債務、葬式費用がしきい値を上げ、生前贈与加算と相続時精算課税の適用財産が下げます。

その結果、実質的なしきい値は2,930万円から9,400万円まで3倍以上の幅で動きます。同じ遺産4,000万円でも、財産の中身と贈与の履歴によって0円から110万5,000円まで結論が変わります。

この記事で扱った内容を整理すると次のとおりです。

  • 「3,600万円から」は相続人1人で加減算が何もない場合の数字。実質的なしきい値は条件で3倍以上動く
  • しきい値を上げるのは生命保険金・死亡退職金の非課税枠(各500万円×相続人の数)、債務、葬式費用、非課税財産の5つ
  • しきい値を下げるのは生前贈与加算(7年フルで670万円)、相続時精算課税の適用財産(期間の制限なく全額)、名義預金の3つ
  • 上げる5要素はいずれも申告なしで適用される。小規模宅地等の特例や配偶者の税額軽減とは扱いが違う
  • 同じ遺産4,000万円でも、現金のみなら40万円、保険金500万円を含むなら0円、7年分の暦年贈与があれば110万5,000円
  • 自分のしきい値は「基礎控除+上げる要素-下げる要素」の4ステップで計算できる
  • ギリギリの帯(しきい値の8割〜110%)にいる場合は概算のまま結論を出さない
  • ギリギリ下回るなら申告しておくと、後から遺産が出ても修正申告扱いで無申告加算税を回避できる
  • 課税割合は令和5年分で9.9%と過去最高。課税された場合の1人当たり税額は1,930万円

今すぐ取るべき行動

  • 法定相続人の数を数えて基礎控除を計算する(相続放棄した人も人数に含める)
  • 生命保険金と死亡退職金の金額を確認し、非課税枠に収まっているかを確かめる
  • 生前贈与を受けていた時期を通帳で確認する(令和6年1月1日以降が加算の起点)
  • 相続時精算課税を選択した贈与がないかを確認する(期間の制限なく全額が加算される)
  • 子や孫の名義の口座に被相続人の資金が入っていないかを確認する
  • 債務と葬式費用の領収書を集める(申告なしで課税価格から差し引ける)
  • しきい値と遺産総額の距離を確認し、ギリギリの帯なら相続税の対応実績がある税理士に判定を相談する

※本記事は2026年8月時点の法令等に基づいています。相続税法の改正により内容が変更される場合があります。最新の制度については国税庁のウェブサイトまたは税理士にご確認ください。

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