親や配偶者などの親族が亡くなり遺産を受け継ぐことになった際、多くの方が「相続税はいくらかかるのだろうか」と不安を抱えるものです。
相続税は、亡くなった方の財産を無条件で国に納めるものではなく、残された家族の生活を保障するためのさまざまな「控除」や「特例」が用意されています。
これらの制度を正しく活用すれば、相続税の負担をゼロにしたり、大幅に減額したりすることが可能です。 しかし、控除には「遺産総額から引くもの」や「税金から直接引くもの」があり、適用するための条件や計算方法もそれぞれ異なります。
さらに、控除を使った結果として相続税が0円になった場合でも、「税務署への申告が必要なケース」と「申告が不要なケース」に分かれます。 判断を誤ると無申告加算税などのペナルティを受ける恐れがあるため注意が必要です。
本記事では、相続税の基礎控除の計算方法をはじめ、配偶者や未成年者などの税額控除、土地 of 評価額を下げる特例について解説します。 あわせて、税制改正による生前贈与への影響まで網羅的に詳しく解説します。
【この記事の要約】
- 遺産総額が「基礎控除(3,000万円+600万円×法定相続人の数)」以下なら、相続税はかからず申告も不要です。
- 相続税から直接マイナスできる税額控除には、「配偶者の税額軽減」や「未成年者控除」など主に6種類があります。
- 「配偶者の税額軽減」や「小規模宅地等の特例」を使って税額が0円になる場合は、申告期限内での申告手続きが必須となります。
相続税の計算メカニズムと控除の全体像

相続税を最小限に抑えるためには、まず相続税がどのような順序で計算され、どのタイミングで控除が適用されるのかを正しく理解することが極めて重要です。
相続税の控除や特例は、行き当たりばったりで適用できるものではなく、大きく分けて「3つの段階(ステップ)」で順序立てて適用されます。
第一段階は、遺産の総額を減らす「非課税財産」と「債務控除」の適用です。 生命保険金や死亡退職金の非課税枠を利用したり、亡くなった方の借金や葬式費用を差し引いたりして、まずは課税の対象となる財産の総額を圧縮します。
第二段階は、課税対象となる遺産全体から差し引く「基礎控除」の適用です。 これはすべての人に平等に与えられている控除であり、第一段階で計算した遺産額がこの基礎控除額を下回っていれば、その時点で相続税の計算は終了し、税務署への申告も不要となります。
第三段階は、各相続人の相続税額を算出した後に、税金から直接差し引く「税額控除」の適用です。 配偶者や未成年者、障害者など、相続人それぞれの個人的な事情に配慮して税負担を直接減額するものであり、最終的な納付額をゼロにすることも可能な強力な節税効果を持ちます。
この全体像を把握した上で、それぞれの控除制度の詳細を見ていきましょう。
[参照元]:No.4152 相続税の計算|国税庁
すべての相続で適用される基礎控除の完全ガイド

相続税の計算において、最も基本となり、すべての方が最初に確認すべきなのが「基礎控除」です。 基礎控除は、遺産の総額から一定の金額を無条件で差し引くことができる非課税枠であり、多くの方が相続税を払わずに済んでいるのはこの基礎控除のおかげです。
基礎控除額の計算式と意味
基礎控除額は、固定 of 金額ではなく、亡くなった方(被相続人)の「法定相続人が何人いるか」によって変動する仕組みになっています。 具体的な計算式は以下の通り定められています。
基礎控除額 = 3,000万円 +(600万円 × 法定相続人の数)
この計算式が意味するのは、「最低でも3,600万円(法定相続人が1人の場合)までは無税になる」ということです。 法定相続人が増えれば増えるほど、1人あたり600万円ずつ非課税枠が広がっていくため、家族の人数が多いほど相続税はかかりにくくなります。
法定相続人の数え方と厳格なルール
基礎控除の額を左右する「法定相続人の数」には、民法で定められた相続人が該当します。 配偶者は常に法定相続人となり、それ以外の親族には優先順位(第1順位:子ども、第2順位:父母、第3順位:兄弟姉妹)があります。
ただし、相続税法上の法定相続人の数え方には、租税回避を防ぐための特別なルールが存在するため、単に親族の数を数えればよいわけではありません。 とくに注意すべき3つの特殊なケースについて解説します。
相続放棄をした人がいる場合 民法上、家庭裁判所で相続放棄の手続きをした人は「初めから相続人でなかった」ものとして扱われ、遺産を受け取る権利をすべて失います。 しかし、相続税の基礎控除の計算においては、「相続放棄がなかったもの」として法定相続人の数に含めて計算することが義務付けられています。
例えば、法定相続人が子ども3人で、そのうち1人が相続放棄をした場合でも、基礎控除の計算上の法定相続人は「3人」のままです。 これにより、誰かが借金を理由に相続放棄をしたことで、残された他の相続人の基礎控除枠が急激に減少し、相続税負担が跳ね上がるという事態を防いでいます。
養子がいる場合の人数制限 養子縁組をすると法律上の親子関係が生じるため、養子も実子と同じく第1順位の法定相続人となります。 しかし、基礎控除を増やす目的で無制限に養子縁組を繰り返す租税回避行為を防ぐため、法定相続人の数に含めることができる養子の人数には厳格な上限が設けられています。
被相続人に実子がいる場合は、何人養子がいても「養子1人まで」しか法定相続人の数に含めることはできません。 被相続人に実子がいない場合は、「養子2人まで」を法定相続人の数に含めることができます。 なお、配偶者の連れ子と養子縁組した場合や、特別養子縁組の場合は実子として扱われるため、この人数の制限は受けません。
代襲相続が発生している場合 被相続人の子どもがすでに亡くなっており、孫が代わりに相続人となることを「代襲相続」と呼びます。 この代襲相続によって相続人となった孫については、その全員が法定相続人としてカウントされます。
先ほどの養子の制限のような人数制限は受けないため、代襲相続人が多い場合はその分だけ基礎控除額が大きくなります。
[参照元]:No.4152 相続税の計算|国税庁
基礎控除の具体的な計算例
家族構成によって基礎控除額がどのように変化するのか、いくつかの具体的なケースでシミュレーションしてみましょう。
パターンA:配偶者と子ども2人がいる一般的なケース 法定相続人は、配偶者、長男、長女の合計3人です。 計算式:3,000万円 +(600万円 × 3人)= 4,800万円 このご家庭の場合、遺産総額が4,800万円以下であれば相続税はかかりません。
パターンB:配偶者と実子1人、養子2人がいるケース 法定相続人として数えられるのは、配偶者、実子1人、そして養子1人の合計3人となります。 実子がいる場合、養子は「1人まで」しかカウントできないルールが適用されるためです。
計算式:3,000万円 +(600万円 × 3人)= 4,800万円 残りの養子1人は実際の財産を受け取る権利はありますが、基礎控除の計算枠を広げることはできません。
パターンC:子ども3人のうち、1人が相続放棄をしたケース 配偶者はすでにおらず、法定相続人は子ども3人ですが、そのうち次男が相続放棄をしたとします。 相続放棄があっても基礎控除の計算上は人数に含めるため、法定相続人は3人として計算します。
計算式:3,000万円 +(600万円 × 3人)= 4,800万円 実際に財産を分けるのは長男と三男の2人だけになりますが、基礎控除は3人分が適用されます。
遺産総額が基礎控除以下なら無税かつ申告不要
計算した基礎控除額と、亡くなった方の遺産総額(現金、預貯金、不動産、有価証券などの合計)を比較します。 遺産総額が基礎控除額以下であった場合、相続税は1円もかからず、税務署に対する「相続税の申告手続き」そのものを行う必要がありません。
「税金が0円であることを申告しなくてよいのか」と不安になる方もいらっしゃいますが、基礎控除に収まっている限りは税務署への報告義務は生じません。
ただし、遺産の額を正しく把握できておらず、後になって申告漏れが発覚するケースがあるため注意が必要です。 申告不要と判断する場合でも、隠れた預金口座がないか、不動産の評価額が間違っていないかなど、遺産の漏れがないか慎重な調査を行うことが大前提となります。
遺産総額からマイナスできる非課税枠と債務控除

基礎控除を差し引く前の段階で、遺産そのものの額を減らすことができる重要な制度が存在します。 これらを適切に差し引くことで、課税対象となる遺産を基礎控除の枠内に収められる可能性が高まります。
生命保険金と死亡退職金の非課税枠
亡くなった方が自ら保険料を負担していた生命保険金や、勤務先から支払われる死亡退職金は、民法上の遺産分割の対象とはなりません。 しかし、これらのお金は被相続人の死亡をきっかけに支払われるため、相続税法上は「みなし相続財産」として課税の対象に含まれます。
一方で、生命保険金や死亡退職金は、残された家族のその後の生活を支える重要な資金という側面があります。 そのため、これらのみなし相続財産には、それぞれ個別に強力な「非課税枠」が設けられています。
非課税限度額 = 500万円 × 法定相続人の数
例えば、法定相続人が妻と子ども2人の合計3人である場合、生命保険金で1,500万円、死亡退職金で1,500万円までがそれぞれ無税となります。 もし父親が亡くなり、妻が2,000万円の生命保険金を受け取った場合、非課税枠の1,500万円を差し引いた残りの500万円だけが、課税対象に加算されます。
この非課税枠は非常に節税効果が高く、現金を預貯金のまま残すよりも、一時払いの生命保険に変えておくことが推奨されます。 確実に相続税の対象となる財産を減らすことができるため、相続対策 of 王道として利用されています。
[参照元]:No.4114 相続税の課税対象になる死亡保険金|国税庁
非課税枠を利用する際の注意点
この強力な非課税枠を利用する際には、いくつかの注意点があります。 まず、非課税枠を利用できるのは、保険金や退職金を受け取った人が「法定相続人」である場合に限られます。
可愛い孫に現金を残したいと、孫を死亡保険金の受取人に指定するケースがありますが、孫は原則として法定相続人ではありません。 そのため、非課税枠は一切使えず、受け取った全額が課税対象となってしまいます。
また、家庭裁判所で相続放棄をした人が死亡保険金を受け取った場合も、もはや法定相続人とはみなされないため、非課税枠を適用することはできません。
さらに、この非課税枠は相続人全体で共有する枠であるため、複数の相続人が保険金を受け取った場合は割合に応じて按分して計算します。
借入金や葬式費用を差し引く債務控除
相続税は、亡くなった方のプラスの財産からマイナスの財産を差し引いた「純資産」に対して課税されます。 このマイナスの財産として遺産総額から差し引くことができるものを「債務控除」と呼びます。
差し引くことができる主な債務には、銀行からの借入金や住宅ローンの残債、亡くなる前に入院していた際の未払いの医療費などが含まれます。 また、未納となっている税金(固定資産税や住民税など)や、水道光熱費などの未払い金も控除の対象です。
これらが残っていた場合、支払いを負担する相続人の遺産額からその分をマイナスして計算できます。 また、亡くなった方の葬式にかかった費用も、社会通念上必然的に発生する支出であるため、遺産総額から差し引くことが認められています。
葬式費用として差し引けるもの
- お寺や神社、教会への読経料、戒名料、お布施、心付け
- 葬儀会社へ支払う通夜や告別式の設営費用、祭壇費用
- 通夜、告別式の際の飲食代(精進落としなど)
- 死亡診断書の作成費用、火葬や納骨にかかる費用、遺体の搬送費用
葬式費用として差し引けないもの
- 香典返しの費用(香典自体が非課税財産となるため)
- 初七日や四十九日、一周忌などの法会にかかる費用(葬式とは別の行事とみなされるため)
- 墓石、墓地、仏壇、仏具の購入費用(これら自体が非課税財産となるため)
これらの債務や葬式費用を漏れなく計上し、遺産総額から正確に差し引くことが、適正な相続税計算の第一歩となります。 領収書が出ないお布施や心付けなどは、いつ、誰に、いくら渡したかをメモに残しておくことで控除の証拠として認められます。
土地の評価額を大幅に下げる小規模宅地等の特例

日本の相続において、遺産総額の大きな割合を占めるのが土地や建物といった不動産です。 特に、亡くなった方が住んでいた自宅の土地は評価額が高額になりやすいため、そのまま相続税を計算すると多額の税金が発生する恐れがあります。
残された家族が税金を払うために住み慣れた自宅を売却しなければならない事態を防ぐために設けられているのが「小規模宅地等の特例」です。 この特例は、一定の要件を満たす親族が土地を相続した場合、その土地の相続税評価額を最大で80パーセントも減額できるという極めて節税効果の高い制度です。
適用される土地の用途(住んでいたか、事業をしていたか、人に貸していたか)によって減額される割合や面積の上限が異なります。 最も多く利用される「特定居住用宅地等(自宅の土地)」を中心に、詳細な適用要件を解説します。
[参照元]:No.4124 相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例)|国税庁
特定居住用宅地等の適用要件と絶大な節税効果
亡くなった方が居住していた自宅の敷地を相続する場合、「330平方メートル」までの部分について、土地の評価額が「80パーセント減額」されます。 例えば、評価額が5,000万円で広さが300平方メートルの自宅 of 土地があったとします。
特例を適用しない場合、5,000万円がそのまま遺産総額に加算されます。 しかし特例を適用できれば、5,000万円の80パーセントにあたる4,000万円がマイナスされ、残りの1,000万円だけが相続税の計算対象となります。
一気に4,000万円も課税対象額を減らすことができるため、相続税が数百万円から数千万円単位で安くなることも珍しくありません。 ただし、この特例を利用するためには、誰がその土地を相続するかによって厳格な条件が定められています。
配偶者、同居親族、家なき子の適用条件
小規模宅地等の特例を特定居住用宅地等として適用できるのは、原則として以下の3パターンのいずれかに該当する親族のみです。 それぞれの立場でクリアすべき条件が異なります。
第一に、亡くなった方の「配偶者(夫または妻)」が相続するケースです。 配偶者は、亡くなった方と生活を共にしていた最優先で保護されるべき存在であるため、無条件で特例を適用することができます。 相続した後にその家に住み続ける必要もなく、すぐに売却したとしても特例による80パーセント減額が認められます。
第二に、亡くなった方と「同居していた親族」が相続するケースです。 この場合、相続税の申告期限(亡くなった日の翌日から10ヶ月後)までその家に継続して住み続け、かつ、その土地を申告期限まで保有し続けることが条件となります。 申告期限が来る前に家を売却したり引っ越したりしてしまうと、特例は適用されなくなります。
第三に、亡くなった方と別居していた親族が相続するケースで、通称「家なき子特例」と呼ばれるものです。 亡くなった方に配偶者もおらず、同居していた親族もいない場合に限り、一定の条件を満たした別居の親族に特例の適用が認められます。
家なき子特例の主な条件は、相続開始前の3年間にわたって、自分や自分の配偶者などが所有する持ち家に住んだことがない(賃貸住まいである)ことなどです。
[参照元]:No.4124 相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例)|国税庁
申告期限までの遺産分割と申告の絶対義務
小規模宅地等の特例を利用する上で、絶対に忘れてはならない極めて重要な注意点があります。 それは、特例を適用した結果として相続税が0円になったとしても、必ず税務署への「相続税申告」を行わなければならないということです。
この特例は、申告書に必要書類を添付して提出することで初めて効力を発揮する制度です。 基礎控除のように自動的に計算から除外されるものではないため、申告を怠ると後日税務調査が入り、高額な税金を請求されることになります。
また、特例を適用するためには、相続税の申告期限までに遺産分割協議が成立し、「誰がその土地を相続するか」が確定していなければなりません。 もし親族間で揉めて遺産分割が長引いている場合は、一旦特例を使わずに税金を納め、後日還付を受けるという複雑な手続きが必要になります。
各相続人の税額計算と2割加算の落とし穴

基礎控除や小規模宅地等の特例を適用して課税対象となる遺産総額(課税遺産総額)が算出されたら、そこから具体的な相続税額を計算していきます。
日本の相続税は、遺産全体を法定相続分で分けたと仮定して一旦総額を算出し、それを実際の取得割合に応じて各相続人に振り分けるという独特の計算ステップを踏みます。
この振り分けられた税額に対して、税額控除を差し引く前に確認しなければならないのが「相続税額の2割加算」というルールです。 これは、遺産を受け取った人物が特定の範囲の親族以外であった場合、算出された相続税額が自動的に20パーセント上乗せされるという制度です。
[参照元]:No.4157 相続税額の2割加算|国税庁
2割加算の対象となる人物とペナルティの理由
相続税額の2割加算の対象とならない(加算されない)のは、亡くなった方の「配偶者」と「一親等の血族(父母、子ども)」のみです。 また、本来相続人になるはずだった子どもが亡くなって代襲相続人となった「孫」も加算の対象外となります。
それ以外の人物が遺産を相続、あるいは遺言によって受け取った場合は、すべて2割加算の対象となります。 具体的に2割加算の対象となるのは、被相続人の兄弟姉妹や、甥・姪、祖父母、内縁の妻、友人などです。
本来の相続の順位から遠い人物や、赤の他人が偶然に財産を得た場合には、課税の公平性を保つために重い税負担を求めるという趣旨で設けられています。
特に注意が必要なのが、可愛い孫に財産を残すために「孫を養子にした場合」です。 養子は法律上子どもと同じ一親等の血族として扱われますが、孫を養子にして遺産を渡す行為は相続税を1世代スキップする節税策として多用されます。
そのため、代襲相続のケースを除いて孫養子は例外的に2割加算の対象として扱われます。 孫に遺産を残したい場合は、この20パーセントの税率ペナルティを考慮した上で対策を練る必要があります。
[参照元]:No.4157 相続税額の2割加算|国税庁
相続税から直接差し引ける6つの税額控除の徹底解説

各相続人の負担すべき相続税額(2割加算がある場合は加算後の金額)が確定したら、最後に適用するのが「税額控除」です。
税額控除は、遺産の額を減らすのではなく、支払うべき税金から直接金額をマイナスすることができるため、非常に強力な節税効果を持ちます。
税額控除は主に6種類あり、国税庁の定めに従って計算して差し引いていきます。 それぞれの控除が持つ機能と適用条件について詳しく解説します。
配偶者の税額軽減(配偶者控除)の光と影
配偶者の税額軽減は、相続税におけるあらゆる控除のなかで最も手厚く、節税効果が大きい制度です。 長年連れ添い、財産の形成に貢献してきた配偶者の功労を認め、残された配偶者の生活を脅かすことがないように配慮されています。
具体的には、配偶者が相続や遺贈で受け取った遺産額が「1億6,000万円」までであれば、配偶者には相続税が一切かかりません。
また、もし遺産額が1億6,000万円を超えていたとしても、民法で定められた「法定相続分(例えば遺産の2分の1)」までであれば、同様に相続税はかかりません。
大半のご家庭において、配偶者の相続税はこの特例によって完全に無税となります。
[参照元]:No.4158 配偶者の税額の軽減|国税庁
二次相続の罠と遺産未分割への対応
配偶者控除は非常に強力ですが、「とりあえず全額を配偶者に相続させて無税にしよう」と安易に考えると、後で痛い目を見ることがあります。 これを「二次相続の罠」と呼びます。
例えば、父親が亡くなった最初の相続(一次相続)で、母親が配偶者控除を使ってすべての財産を無税で受け取ったとします。 数年後にその母親が亡くなり、子どもたちが遺産を引き継ぐ際(二次相続)には、もはや配偶者控除という強力な盾は使えません。
さらに、子どもたちの基礎控除額は一次相続のときよりも減っているため、一次相続で分散させていればかからなかったはずの多額の相続税が、子どもたちに一気にのしかかることになります。
この制度を利用する際は、将来の二次相続で子どもたちが負担する税金までシミュレーションし、あえて一次相続で子どもたちにも財産を分けておくバランス感覚が求められます。
また、この配偶者控除も小規模宅地等の特例と同様に、申告期限までの遺産分割と相続税申告が適用の必須条件となっています。
未成年者控除で子どもの将来を守る
相続が発生した際、法定相続人の中に未成年者がいる場合は、その子どもが成人して自立するまでの教育費や養育費の負担を和らげるため「未成年者控除」が適用されます。
民法改正により成年年齢が引き下げられたことに伴い、2022年4月以降に発生した相続については「18歳未満」の法定相続人が対象となります。
控除額は、その未成年者が18歳になるまでの期間に応じて計算されます。 計算式は以下の通りです。
控除額 =(18歳 - 相続開始時の年齢)× 10万円
年齢の計算にあたっては、1年未満の端数月がある場合は切り捨てて満年齢で計算します。 例えば、相続発生時の年齢が14歳5ヶ月であった場合、端数の5ヶ月は切り捨てて「14歳」として扱います。
したがって、18歳までの残り年数は4年となり、「4年 × 10万円 = 40万円」が未成年者控除として相続税から直接差し引かれます。
[参照元]:No.4164 未成年者の税額控除|国税庁
控除額が余った場合の扶養義務者への充当
未成年者の年齢が低いほど控除額は大きくなります。 例えば0歳であれば最大180万円の控除が受けられます。
このとき、未成年者本人が支払うべき相続税額よりも控除額の方が大きく、控除しきれずに余ってしまうケースが多発します。 未成年者控除の優れた点は、この引ききれずに余った控除額を無駄にせず、その未成年者の「扶養義務者」の相続税から差し引くことができる点にあります。
扶養義務者とは、亡くなった方の配偶者(未成年者の親)や、未成年者の兄弟姉妹などを指します。 子どもの税金が0円になった上で、余った控除枠を使って親の相続税まで減らすことができるため、家族全体の税負担を効率的に引き下げることが可能です。
障害者控除による手厚い税負担の軽減
法定相続人の中に障害をお持ちの方がいる場合、今後の長期にわたる生活費や医療費、介護費用などに手厚く配慮するため「障害者控除」という制度が設けられています。
対象となるのは、相続発生時において日本国内に住所を有しており、85歳未満である障害者の法定相続人です。
障害の程度によって「一般障害者」と「特別障害者」に区分され、計算式における1年あたりの控除額が異なります。 身体障害者手帳の等級が1級または2級の方、あるいは重度の知的障害者と判定された方などが特別障害者に該当します。
一般障害者の控除額 =(85歳 - 相続開始時の年齢)× 10万円 特別障害者の控除額 =(85歳 - 相続開始時の年齢)× 20万円
例えば、相続発生時に42歳3ヶ月の特別障害者であった場合、端数を切り捨てて42歳として計算します。 85歳までの残り年数は43年となり、「43年 × 20万円 = 860万円」という非常に大きな金額が障害者控除として相続税から差し引かれます。
未成年者控除と同様に、障害者本人の相続税から引ききれずに余った控除額は、その扶養義務者の相続税から差し引くことができます。 特別障害者の場合は控除額が非常に大きくなるため、相続税が完全にゼロになるケースも多く見られます。
[参照元]:No.4167 障害者の税額控除|国税庁
相次相続控除で連続する相続の負担を和らげる
家族の中で、短期間に立て続けに不幸が起きることがあります。 例えば、父親が亡くなって相続税を納めた数年後に、今度は母親が亡くなり再び子どもたちに相続税が課されるようなケースです。
このように、同じ財産に対して10年以内に何度も相続税が課税されると、残された家族の財産が目減りし生活が立ち行かなくなってしまいます。 これを防ぐための救済措置が「相次相続控除(そうじそうぞくこうじょ)」です。
前回の相続(一次相続)から今回の相続(二次相続)までの期間が10年以内である場合、一次相続で課された相続税額の一部を、二次相続の相続税額からマイナスすることができます。
[参照元]:No.4168 相次相続控除|国税庁
控除できる金額は計算式が複雑ですが、基本的には一次相続から経過した年数が短いほど控除される金額が大きくなります。 1年経過するごとに控除枠が10パーセントずつ減少していく仕組みになっています。
この制度を適用するための絶対条件として、「前回の相続において、亡くなった方が実際に相続税を納付していること」が求められます。 もし前回の相続で、配偶者の税額軽減などを利用して相続税が0円になっていた場合は、今回の相続で相次相続控除を適用することはできません。
贈与税額控除で生前贈与の二重課税を防ぐ
相続税対策として生前贈与を行っていた場合、亡くなる前の一定期間内に行われた贈与財産は、相続税の計算上「なかったもの」として遺産に持ち戻して(足し戻して)計算しなければならないというルールがあります。 これを「生前贈与加算」と呼びます。
しかし、生前贈与の時点で既に贈与税を支払っていた場合、相続時に再び課税されると相続税と贈与税の二重課税になってしまいます。 これを精算するため、既に支払った贈与税額を相続税額からマイナスする制度が「贈与税額控除」です。
この控除は、一般的な「暦年課税(年間110万円の基礎控除)」による生前贈与の持ち戻しのケースと、「相続時精算課税制度」を選択して贈与を行っていたケースの両方で適用されます。
なお、暦年課税の持ち戻しにおいて引ききれなかった贈与税があったとしても、還付(返金)を受けることはできません。
一方、相続時精算課税制度の場合は、引ききれなかった贈与税があれば還付を受けることが可能です。
[参照元]:No.4161 贈与財産の加算と税額控除(暦年課税)|国税庁
外国税額控除で国際的な二重課税を調整する
亡くなった方が海外に不動産や金融資産を保有していた場合、その国の法律に基づいて海外で相続税に相当する税金が課されることがあります。
一方で、日本の相続税法では、原則として国内外を問わずすべての遺産が課税対象となるため、同じ財産に日本と海外の双方で税金がかかる国際的な二重課税が生じます。
これを調整するのが外国税額控除です。 海外で納付した相続税に相当する税額と、日本の相続税額のうち海外財産に対応する部分の税額を比較し、少ない方の金額を日本の相続税から差し引くことができます。
税制改正対応 生前贈与ルールの激変と対策

相続税の控除や計算を考える上で、2024年(令和6年)1月1日から施行された税制改正は極めて重要な影響を及ぼしています。 富裕層への課税強化と、若年層への早期の資産移転を促す目的から、生前贈与のルールが大きく変更されました。
生前贈与加算の持ち戻し期間が3年から7年へ延長
最も影響が大きいのが、暦年課税(年間110万円の基礎控除を利用した贈与)における生前贈与の持ち戻し期間の延長です。 これまでは、亡くなる前「3年間」に行われた贈与のみが無効化され、相続財産に加算(持ち戻し)されて計算されていました。
しかし税制改正により、この持ち戻し期間が最大「7年間」へと大幅に延長されました。 このルールは2024年1月1日以降の贈与から段階的に適用され、2031年には完全に7年ルールへと移行します。
延長された4年間分(死亡の4年前〜7年前)については総額100万円まで控除されるという緩和措置はあるものの、毎年100万円を贈与し続けていた場合でも、改正前と比べて数百万円規模の資金が相続財産として再加算されることになり、富裕層にとっては大幅な増税リスクとなります。
[参照元]:No.4161 贈与財産の加算と税額控除(暦年課税)|国税庁
新・相続時精算課税制度の「年110万円非課税枠」を活用する
7年ルールの増税リスクへの強力な対抗策として注目されているのが、大改正された「新・相続時精算課税制度」の活用です。 これまでこの制度は、非課税で贈与できた分も結局は相続時に加算されるため、節税効果が薄いと敬遠されていました。
しかし改正により、従来の枠とは別に新たに「年間110万円の基礎控除」が創設されました。 この新しい110万円枠の最大のメリットは、年間110万円以内の贈与であれば贈与税が非課税になるだけでなく、将来の相続時においても「一切持ち戻し(生前贈与加算)の対象にならない」という点です。
暦年課税の7年ペナルティを完全に回避できる強力な制度として生まれ変わりました。
[参照元]:No.4103 相続時精算課税の選択|国税庁
「生存給付金付き生命保険」を使ったハイブリッド戦略
新・相続時精算課税制度と非常に相性が良く、相乗効果を発揮するのが「生存給付金付き生命保険」を活用したスキームです。
具体的な手順としては、親が一時払いでこの保険に加入し、生存給付金(数年ごと等に受け取れるキャッシュバック)の受取人を子どもや孫に設定します。
この給付金が年間110万円以下になるように設計し、子どもや孫はあらかじめ「相続時精算課税選択届出書」を税務署に提出しておきます。
これにより、子どもは親の資産から自動的に生み出される現金を毎年無税で、かつ持ち戻しリスクゼロで受け取り続けることができます。
さらに親が亡くなった際に出る最終的な死亡保険金には「500万円×法定相続人の数」の非課税枠がそのまま適用されるため、生前の無税贈与と死後の非課税枠を二重取りできる、現行税制における非常に有効な対策となります。
要注意 税金が0円でも申告が必要なケースと不要なケース

控除や特例を利用した結果、最終的な相続税額が「0円」と計算された場合、そこで安心してはいけません。 適用した控除の種類によっては、税務署への申告義務が残っているケースがあり、無申告となれば後から多額の税金を請求される恐れがあります。
申告不要 相続税の申告手続きをしなくてよいケース
以下の控除を利用して税額が0円になる場合や、そもそも課税対象に届かない場合は、申告手続き自体が不要です。
- 基礎控除の範囲内である場合:遺産総額が「3,000万円+600万円×法定相続人の数」以下であれば、申告は不要です。
- 未成年者控除・障害者控除・相次相続控除・外国税額控除:これらの税額控除を適用した結果、税額がゼロになった場合も申告は不要です。
- 生命保険・死亡退職金の非課税枠の範囲内である場合:受け取った保険金等が非課税枠内で、かつ他の遺産と合わせても基礎控除以下であれば申告不要です。
申告必須 税額が0円でも申告手続きが絶対に必要なケース
以下の特例や控除は、「税務署に申告書を提出すること」が適用の必須条件となっているため、税金が0円でも期限内(相続開始を知った日の翌日から10ヶ月以内)に申告しなければなりません。
- 配偶者の税額軽減(配偶者控除):1億6,000万円または法定相続分まで非課税にするためには、申告書と戸籍謄本、遺産分割協議書の提出が必須です。
- 小規模宅地等の特例:土地の評価額を最大80%減額するためには、適用要件を満たしていることを申告書で証明する必要があります。
期限内に申告を行わず、後から税務調査で指摘された場合、these の強力な特例が使えなくなり、本来払う必要のなかった多額の相続税に加えて、延滞税や無申告加算税を支払う事態に陥るため十分な注意が必要です。
よくある質問(FAQ)
相続税の基礎控除と配偶者控除は併用できますか
はい、併用できます。 まず遺産総額から基礎控除を差し引き、それでも残った課税対象額に対して相続税を計算します。
その後、配偶者が負担するはずだった相続税額から配偶者の税額軽減(配偶者控除)を直接差し引くという順番で計算されるため、無駄なく両方の制度を活用できます。
小規模宅地等の特例を使って基礎控除以下になった場合、申告は必要ですか
はい、申告が必要です。 小規模宅地等の特例は「申告をすること」が特例を適用するための絶対条件です。
特例を使う前の土地の評価額と他の遺産を足した金額が基礎控除を超えている場合は、最終的な税金が0円になっても必ず10ヶ月以内に申告を行ってください。
[参照元]:No.4124 相続した事業の用や居住の用の宅地等の特例|国税庁
障害者控除や未成年者控除で引ききれなかった分はどうなりますか
本人にかかる相続税額よりも控除額の方が大きく、引ききれない金額が発生した場合は、その未成年者や障害者の扶養義務者(親や兄弟姉妹など)の相続税額から差し引くことができます。 家族全体での税負担を減らすことができる非常に有利な仕組みです。
[参照元]:No.4167 障害者の税額控除|国税庁
生前贈与の持ち戻しが7年に延長されましたが、いつの贈与から対象ですか
持ち戻し期間の延長は、2024年(令和6年)1月1日以降に行われた贈与から対象となります。 それ以前(2023年12月31日まで)に行われた贈与については、引き続き過去3年分の持ち戻しルールが適用されます。
7年ルールへの完全移行は2031年1月1日以降の相続からとなります。
[参照元]:No.4161 贈与財産の加算と税額控除(暦年課税)|国税庁
生命保険金は基礎控除に含まれますか
生命保険金は遺産総額に加算されますが、その前に「500万円×法定相続人の数」の固有の非課税枠を差し引くことができます。 非課税枠を超えた部分だけが他の遺産と合算され、そこからさらに基礎控除を差し引くという二段構えの計算になります。
[参照元]:No.4114 相続税の課税対象になる死亡保険金|国税庁
まとめ 使える控除を漏れなく適用して正しい相続税申告を
相続税には、負担を軽減するための基礎控除をはじめ、特例や税額控除など数多くの制度が用意されています。 特に「配偶者の税額軽減」や「小規模宅地等の特例」、「生命保険の非課税枠」は効果が絶大であり、これらを活用することで大半のご家庭において相続税の負担を大幅に減らす、あるいはゼロにすることが可能です。
しかし、控除を適用する順番や、民法と税法で異なる法定相続人の数え方、そして何より「税金が0円でも申告が必要か否か」の判断を誤ると、後から手痛いペナルティを受けることになります。 また、2024年以降は生前贈与のルールが大きく変更されており、過去の知識のままでは思わぬ増税リスクを抱えることになりかねません。
自身の家族構成や遺産の内容に合わせて、どの控除が使えるのかを正確に把握し、不安がある場合は申告期限(10ヶ月以内)が来る前に早めに税理士などの専門家へ相談することをおすすめします。
※本記事の情報は2026年5月時点のものです。税制は改正される可能性があるため、具体的な納付手続きにあたっては最新の情報を確認し、税理士にご相談ください。



