


不動産の法人化とは、会社を作って賃貸不動産をその会社の名義に移すことをいいます。家賃収入の受け皿を個人から法人に移す手続きです。
相続税の対策になるのは、名義が法人に変わればその不動産が親の相続財産から外れるためです。
鍵になるのは株主を誰にするかです。子を株主にすれば建物は親の財産に戻らず、親を株主にすると株式が相続財産として残ります。
家賃収入の行き先も変わります。個人で受け取れば財産に積み上がりますが、法人から家族に役員報酬として配れば、この積み上がりが止まります。
一方で、誰にでも勧められる方法ではありません。法人の維持に年間30万円から80万円かかるため、家賃収入が小さいと費用のほうが上回ります。
親を株主にする場合は時間の制約も加わります。法人が建物を取得してから3年以内の相続では、株式の評価でその建物を時価で計算することになるためです。
この記事では、3つの方式の違い、評価が下がる仕組み、メリットとデメリット、いくらから得になるかの目安、株主別の試算、落とし穴と維持コスト、法人化の手順までを解説します。
▼ この記事の3行まとめ

法人化と一口にいっても、建物を法人に移すか、賃貸だけを任せるか、管理だけを任せるかの3つの形があります。どれを選ぶかで節税の効果と手続きの重さが変わり、この2つは逆の関係になります。
3つを並べると、効果が大きい方式ほど手続きも重くなることが分かります。相続税の評価を下げたいなら、建物を法人に移す方式が必要です。
| 方式 | やること | 相続税への効果 | 手続きの重さ |
|---|---|---|---|
| 不動産所有方式 | 建物を法人に売却して法人の所有にする | 大きい。建物が株式に変わる | 重い。登記と譲渡の課税が発生する |
| サブリース方式(一括転貸) | 個人が法人に一括で貸し、法人が入居者に転貸する | 中程度。家賃の一部が法人に移る | 中程度。建物の移転は不要 |
| 管理委託方式 | 法人が管理業務だけを請け負う | 小さい。管理料の分だけ | 軽い。契約を結ぶだけ |
表の見方:黄色の不動産所有方式が相続税の評価を下げる効果がもっとも大きい形です。建物という個人財産が、法人の株式に置き換わります。
重要ポイント:薄赤の管理委託方式は相続税の対策としてはほとんど効きません。所得税の分散が主な目的で、相続財産の評価は変わりません。相続税を下げたいなら不動産所有方式を検討してください。
どれを選ぶかは、目的が相続税か所得税かで決まります。両方を狙うなら不動産所有方式になります。
| 目的 | 向く方式 | 理由 |
|---|---|---|
| 相続税を下げたい | 不動産所有方式 | 建物が株式に変わり、38%の控除が効く |
| 所得税を下げたい | サブリース方式か管理委託方式 | 家賃の一部を法人に移せる |
| 手間をかけたくない | 管理委託方式 | 契約を結ぶだけで済む |
| すぐに相続が起きそう | どの方式も向かない | 効果が出るまでに3年以上かかる |
表の見方:黄色の行が本記事の主題です。相続税の対策として意味があるのは不動産所有方式です。
重要ポイント:薄赤の行を最初に確認してください。高齢で相続が近い場合、法人化はかえって不利になります。設立から3年以内の相続では不動産が時価で評価されるためです。この点は後のH2で詳しく扱います。
地主の立場で使える対策を財産の種類ごとに整理したものは、下記の記事で解説しています。

3つのうち管理委託方式には注意が必要で、不動産の所有者が個人のままなので、相続財産の中身は法人化する前と変わりません。管理料として法人に移せる金額も、家賃収入の5%から10%が限度とされています。
つまり管理委託方式でできるのは、家賃収入のごく一部を法人に移して所得税を軽くすることだけです。相続税の評価額を下げる効果は期待できません。相続対策として法人化するなら、不動産所有方式かサブリース方式を選ぶことになります。
| 方式 | 不動産の名義 | 相続財産の評価が下がるか |
|---|---|---|
| 管理委託方式 | 個人 | 下がらない |
| サブリース方式 | 個人 | 下がらない(家賃収入の移転だけ) |
| 不動産所有方式 | 法人 | 下がる |
表の見方:黄色の不動産所有方式だけが、相続税の評価に効きます。相続対策が目的なら、不動産所有方式を前提に検討してください。他の2つは所得税の対策として位置づけるものです。
重要ポイント:管理料の水準にも根拠が必要です。相場を超える管理料を払うと、法人への寄付とみなされて経費が否認されることがあります。近隣の管理会社の料率を調べて、その範囲で決めてください。

なぜ法人に移すと相続税が下がるのか、経路は3つあります。株主を子にして建物を親の財産から外すこと、株式の評価で38%が控除されること、家賃収入が個人に積み上がらなくなることです。このうちいちばん大きいのは1つめで、38%の控除は条件がそろったときだけ効きます。
会社を作るときに最初に決めるのが株主で、ここで結果の大半が決まります。子を株主にすれば、法人に移した建物は親の相続財産から完全に外れます。親が株主になると株式そのものが相続財産になるため、効果は控除の分だけに縮みます。
| 株主 | 建物の扱い | 相続財産への影響 |
|---|---|---|
| 子(後継者) | 法人の資産になり、株式も子のもの | 親の財産から完全に外れる |
| 親(本人) | 法人の資産だが、株式は親のもの | 株式として相続財産に残る |
表の見方:黄色と薄赤の差がこの対策でもっとも大きい分かれ目です。株主の決め方を誤ると、効果が3分の1程度に落ちます。
重要ポイント:子を株主にする場合、出資金を子自身の資金で払う必要があります。親が出資金を出すと贈与になります。出資金は数十万円で足りるため、建物の購入資金は法人が金融機関から借りる形にします。
親が株主の設計をとる場合は、ここからが本題になります。法人の株式を純資産価額方式で評価するとき、含み益に38%を掛けた金額を引けます。個人が直接持っている不動産には使えない控除です。
| 項目 | 金額 | 計算 |
|---|---|---|
| 建物の固定資産税評価額 | 1億5,000万円 | 築30年の賃貸マンションを想定 |
| 建物の相続税評価額(貸家として30%減) | 1億500万円 | 1億5,000万円 × (1 − 30%) |
| 帳簿価額 | 0円 | 減価償却が進んだ前提 |
| 含み益(評価差額) | 1億500万円 | 1億500万円 − 0円 |
| 法人税等相当額(38%) | 3,990万円 | 1億500万円 × 38% |
| 株式の純資産価額 | 6,510万円 | 1億500万円 − 3,990万円 |
表の見方:黄色の2行が控除の中身です。個人で持てば1億500万円の建物が、株式では6,510万円として評価されます。3,990万円が課税対象から外れる計算です。
あてはめ:比べる相手は固定資産税評価額ではなく、貸家として30%減らした後の金額です。個人が持っていても貸家の評価減は使えるため、この30%は法人化による効果ではありません。法人化で上乗せされるのは38%の控除の部分だけです。
重要ポイント:この割合は2026年4月1日以後の相続・贈与から37%が38%に上がっています。通達の本文には法人税・地方法人税・防衛特別法人税・事業税・特別法人事業税・道府県民税・市町村民税の税率の合計と書かれています。
計算ロジック:38%を掛けるのは含み益(評価差額)だけです。相続税評価額と帳簿価額の差が対象で、帳簿価額が大きく残っていると控除額は小さくなります。減価償却が進んだ古い建物ほど効果が大きくなります。
重要ポイント:新築や築浅の建物では逆になります。固定資産税評価額は建築費の5割から6割にとどまるため、帳簿価額のほうが高く含み損になります。この場合38%の控除は0円です。控除が効くのは、償却が進んで帳簿価額が相続税評価額を下回ってからです。
参照元:国税庁 財産評価基本通達 186-2(評価差額に対する法人税額等に相当する金額)
評価そのものとは別に、時間の経過で効いてくる要素があります。個人で持っていると、家賃収入がそのまま相続財産に積み上がります。法人に移せば、その増加が止まります。
| 個人で持つ場合 | 法人に移した場合 | |
|---|---|---|
| 家賃収入の帰属 | 個人の所得になる | 法人の収入になる |
| 相続財産への影響 | 手元に残った分が毎年積み上がる | 積み上がらない |
| 家族への移転 | 贈与すると贈与税がかかる | 役員報酬として払える(贈与税はかからない) |
| 所得税 | 個人1人に集まり税率が上がる | 家族に分散して税率を下げられる |
表の見方:薄赤と黄色の2行が効果です。家賃収入を家族への役員報酬に変えれば、財産を移しながら相続財産を増やしません。
あてはめ:家賃収入が年1,200万円で、子2人に各300万円の役員報酬を払う場合を考えます。10年で6,000万円が子に移り、個人に積み上がるはずだった財産が減ります。同額を贈与すると贈与税がかかるため、この差は大きくなります。
重要ポイント:役員報酬には条件があります。実際に業務に従事していない家族への報酬は否認されます。勤務の実態と、金額が業務内容に見合っているかが問われます。
不動産のうち法人に移すのは建物だけで、土地は個人に残したままにします。土地を移すと譲渡所得税が重くなり、費用倒れになりやすいためです。
| 移すもの | 個人にかかる税金 | 登記の費用 | 判断 |
|---|---|---|---|
| 建物だけ | ほぼ発生しない(帳簿価額で売却できる) | 建物の分だけ | 基本形 |
| 土地も一緒に | 譲渡所得税が多額に発生する(取得が古いと取得費が小さい) | 土地の分も必要 | 費用倒れになりやすい |
表の見方:黄色の建物だけが基本です。減価償却が進んだ建物は帳簿価額が小さく、その金額で法人に売れます。売却益がほとんど出ないため、個人に税金がかかりません。
重要ポイント:薄赤の土地は慎重に判断してください。先祖から受け継いだ土地は取得費が小さく、売却益が大きくなります。譲渡所得税が数千万円になることもあり、節税額を上回ります。
土地を移さない場合、地代の扱いを決める必要があります。地代を取らないと、法人に借地権があるものとして課税されることがあります。次のH2で扱います。
38%の控除が効くのは純資産価額方式で計算する部分です。会社の規模によって、どの方式で評価するかが決まります。規模が大きいほど類似業種比準価額方式の割合が増え、控除の効き方が変わります。
| 会社の規模 | 評価に使う方式 | 38%の控除の効き方 |
|---|---|---|
| 大会社 | 類似業種比準価額方式(純資産価額方式との選択も可) | 純資産価額方式を選んだ場合に効く |
| 中会社 | 類似業種比準価額と純資産価額を一定割合で組み合わせる | 純資産価額の部分に効く |
| 小会社 | 純資産価額方式(併用方式との選択も可) | 全額に効く |
表の見方:黄色の2行が不動産の法人化で多いパターンです。小規模な資産管理会社は小会社に区分されるため、38%の控除が全額に効きます。
重要ポイント:規模の区分は従業員数・総資産価額・取引金額の3つで判定します。不動産を1棟だけ持つ法人はほとんどが小会社です。複数の物件を持って規模が大きくなると、区分が変わって評価の方法も変わります。
計算ロジック:類似業種比準価額方式は、同業種の上場企業の株価をもとに配当・利益・純資産の3要素を比べて計算します。利益が出ていない法人ではこの方式のほうが評価が低くなることもあります。どちらが有利かは毎回計算して確認します。
自社株を持株会社に移して評価を下げる方法は、下記の記事で解説しています。

参照元:国税庁 財産評価基本通達 178(取引相場のない株式の評価上の区分)

法人を1つ作ると、相続税以外にも影響が及びます。所得税や社会保険料まで含めて、効果とコストを並べて判断する必要があります。
法人化で得られるものは相続税の軽減だけではなく、所得税と将来の納税資金にも効きます。
| メリット | 中身 |
|---|---|
| 建物が親の財産から外れる | 子を株主にすれば、法人に移した建物は相続財産に入らない |
| 財産の増加が止まる | 家賃収入が法人に入り、個人に積み上がらない |
| 家族に所得を移せる | 役員報酬として払えるため、贈与税がかからない |
| 所得税の税率が下がる | 1人に集まっていた所得を家族に分散できる |
| 経費の範囲が広がる | 生命保険料や退職金などを法人の経費にできる |
| 株式で分けやすくなる | 不動産そのものより、株式のほうが相続人間で分けやすい |
| 株式の評価で38%が控除される | 親が株主の場合、含み益に38%を掛けた金額を引ける |
| 損失を長く繰り越せる | 個人は3年、法人は10年まで繰り越せる |
表の見方:黄色の3つが相続税に直接効くものです。評価を下げ、増加を止め、生前に移すという3方向から効きます。
重要ポイント:下の4つは所得税と実務の利点です。相続税の効果が小さくても、これらで法人化が正解になる場合があります。相続税だけで判断しないでください。
一方で、法人を持ち続けるための負担も同じだけ生じます。主なものは毎年かかる費用と、効果が出るまでの時間の2つです。
| デメリット | 中身 |
|---|---|
| 設立と移転の費用がかかる | 設立費用と専門家報酬で50万〜150万円。建物の移転にかかる不動産取得税と登録免許税は固定資産税評価額の5%前後 |
| 毎年の維持コストがかかる | 法人の申告と顧問料などで年30万〜80万円 |
| 親が株主なら効果が出るまで3年以上かかる | 設立から3年以内の相続では、株式の評価で不動産が時価になる |
| 社会保険への加入が必要になる | 役員報酬を払うと保険料の負担が発生する |
| 個人に譲渡所得税がかかることがある | 土地を移す場合や、帳簿価額より高く売る場合 |
| やめるのに費用がかかる | 法人の解散と清算に手続きと税負担が生じる |
| 土地保有特定会社に該当すると効果が減る | 評価の方法が制限される |
表の見方:薄赤の4つが必ず発生する負担です。とくに毎年30万〜80万円は、規模が小さいと節税額を食います。
重要ポイント:3つ目の3年が判断の分かれ目です。効果が出るまでに時間がかかるので、60代以降での設立は慎重に判断してください。間に相続が起きると、費用だけが残ります。
計算ロジック:設立費用50万〜150万円に、毎年30万〜80万円を10年分足すと、10年間の総コストは350万〜950万円になります。
あてはめ:建物の移転にかかる不動産取得税と登録免許税は別に必要です。固定資産税評価額1億5,000万円なら750万円前後になります。これらを上回る節税額が見込めるかが判断の基準です。
法人化はどんな不動産オーナーにも当てはまる対策ではありません。効果が出にくいケースを整理すると4つに分かれます。次の4つのいずれかに当てはまる場合、他の対策を先に検討してください。
【法人化を見送ったほうがよいケース】
とくに4つ目は誤解されやすい点です。ローンが残っている不動産は、債務控除によって実質的な相続財産がすでに小さくなっています。そこに法人化を重ねても、効果は限られます。
また、家族に法人の運営を任せられる人がいないケースも向きません。法人は毎年の申告と役員の管理が必要になるため、引き継ぐ人が不在だと維持できません。本人が高齢で、子が遠方に住んでいる場合などは、法人を残すことがかえって負担になります。
自宅の評価を下げる小規模宅地等の特例は、下記の記事で解説しています。


法人化するかどうかは、毎年の維持コストを超える効果が出るかどうかで決まります。判断に使える目安を3つの指標で示します。
判断に使うのは家賃収入・不動産の評価額・相続までの期間です。どれか1つが小さいと費用倒れになります。
| 指標 | 目安 | 理由 |
|---|---|---|
| 年間の家賃収入 | 1,000万円以上 | これを下回ると維持コストで効果が消える |
| 建物の相続税評価額 | 1億円以上 | 親の財産から外す金額が費用を上回る規模が必要 |
| 相続までの見込み期間 | 10年以上 | 初期費用と維持コストを回収する期間が必要 |
| 個人の所得税率 | 課税所得900万円超(税率33%以上) | 法人税率のほうが低くなる |
| 所得を移せる家族 | 2人以上 | 役員報酬で分散できる人数が必要 |
表の見方:黄色の3つが必須の条件です。3つすべてを満たさない場合、法人化は見送ったほうが無難です。
重要ポイント:下の2つは所得税の観点です。課税所得900万円を超えると個人の税率が33%になり、法人のほうが有利になります。相続税の効果が小さくても、所得税だけで法人化が正解になる場合があります。
3つの指標のうち、いちばん確かめやすいのが家賃収入です。年30万〜80万円の維持コストを回収できるかが分岐点になります。
| 年間の家賃収入 | 法人に移せる所得の目安 | 維持コスト | 判定 |
|---|---|---|---|
| 500万円 | 200万〜300万円 | 年30万〜80万円 | 費用倒れになりやすい |
| 1,000万円 | 400万〜600万円 | 年30万〜80万円 | 検討の入口 |
| 2,000万円 | 800万〜1,200万円 | 年30万〜80万円 | 効果が出やすい |
| 3,000万円以上 | 1,200万円以上 | 年30万〜80万円 | 検討する価値が高い |
表の見方:薄赤の500万円では移せる所得に対して維持コストの比率が高すぎます。黄色の2,000万円以上で効果が明確になります。
重要ポイント:家賃収入がそのまま移るわけではありません。不動産所有方式でも、土地の地代を個人に払う必要があります。移せるのは家賃から地代と経費を引いた残りです。
5つのうち4つ以上に当てはまるなら検討する価値があります。3つ以下なら見送りを含めて再考してください。
重要ポイント:3つ目がもっとも動かせない条件です。年齢は変えられないので、検討するなら早いほうが有利になります。60代後半以降は、法人化より他の対策を先に検討してください。
もうひとつ、本人の努力では動かしようがないのが時間の余裕です。費用を回収する期間を確保できるかどうかは年齢と健康状態で決まります。効果が出るまでに時間がかかる対策なので、年齢が判断を左右します。
| 年齢 | 法人化の判定 | 理由 |
|---|---|---|
| 50代まで | 検討する価値が高い | 費用を回収する期間があり、所得税の分散も長く効く |
| 60代前半 | 条件を満たせば検討できる | 10年前後の期間は確保できる見込みがある |
| 70代以降 | 慎重に判断する | 費用を回収する前に相続が起きる可能性が高まる |
| 健康状態に不安がある | 他の対策を先に検討する | 効果が出る前に相続が起きる可能性がある |
表の見方:薄赤の2行では、法人化より生前贈与や小規模宅地等の特例を先に検討したほうが確実です。
重要ポイント:年齢が高い場合でも、所得税の分散だけを目的にするなら意味があります。相続税の効果を織り込まずに、家賃収入の税負担を軽くする目的だけで判断してください。その場合も維持コストとの比較は必要です。
親が認知症になる前にやっておくべき対策は、下記の記事で解説しています。


株主を子にした場合と、親のままにした場合と、個人で持ち続けた場合の3つを、同じ前提で並べて金額を出します。個人側にも貸家と貸家建付地の評価減を入れて、条件をそろえて比べます。
前提は土地の更地価額1億円・建物の固定資産税評価額1億5,000万円・その他の財産3,000万円です。借地権割合は60%、建物の帳簿価額は減価償却が進んで0円とします。
| 項目 | 個人で持ち続ける | 法人化・親が株主 | 法人化・子が株主 |
|---|---|---|---|
| 土地の評価 | 貸家建付地 8,200万円 | 貸宅地 8,000万円 | 貸宅地 8,000万円 |
| 建物の評価 | 貸家 1億500万円 | 株式として6,510万円 | 親の財産に入らない |
| 建物の売却代金 | — | 500万円 | 500万円 |
| その他の財産 | 3,000万円 | 3,000万円 | 3,000万円 |
| 遺産の合計 | 2億1,700万円 | 1億8,010万円 | 1億1,500万円 |
| 相続税の総額 | 3,850万円 | 2,743万円 | 1,060万円 |
| 個人で持つ場合との差 | — | 1,107万円の軽減 | 2,790万円の軽減 |
表の見方:右の2列を比べてください。株主を親にするか子にするかだけで、1,683万円の差が出ます。同じ法人化でも結果がまったく違います。
計算ロジック:個人で持つ場合の土地は貸家建付地として1億円 ×(1 − 60% × 30%)= 8,200万円、建物は貸家として1億5,000万円 ×(1 − 30%)= 1億500万円です。
あてはめ:法人化しても土地は貸宅地の8,000万円で、200万円しか下がりません。土地の評価減は法人化の主な効果ではありません。
重要ポイント:親が株主の列では、建物の貸家評価1億500万円から38%を引いた6,510万円が株式として相続財産に残ります。子が株主なら、この6,510万円がまるごと親の財産から外れます。これが効果の中心です。
あてはめ:建物の売却代金500万円は帳簿価額に相当する金額で、親の手元に現金として残ります。この現金を使わずに置いておくと、そのまま相続財産になります。生活費や生前贈与に充てれば、さらに財産を減らせます。
同じ設計でも規模が小さくなると結論が変わり、相続税は下がっても、初期費用と維持コストで相殺されます。土地の更地価額4,000万円・建物の固定資産税評価額2,500万円・その他2,000万円で確認します。
| 項目 | 個人で持ち続ける | 法人化・子が株主 |
|---|---|---|
| 土地の評価 | 貸家建付地 3,280万円 | 貸宅地 3,200万円 |
| 建物の評価 | 貸家 1,750万円 | 親の財産に入らない |
| 建物の売却代金 | — | 100万円 |
| その他の財産 | 2,000万円 | 2,000万円 |
| 遺産の合計 | 7,030万円 | 5,300万円 |
| 相続税の総額 | 325万円 | 110万円 |
| 10年間の初期費用と維持コスト | — | 500万〜1,000万円 |
表の見方:黄色の行のとおり相続税は215万円しか下がりません。薄赤の行の費用が上回るため、10年で見ると損になります。
計算ロジック:初期費用は不動産取得税(固定資産税評価額の3%から4%)と登録免許税(2%)と専門家報酬で200万円前後です。これに年30万〜80万円の維持コストを10年分足すと500万〜1,000万円になります。
重要ポイント:この規模では相続税だけを理由に法人化してはいけません。所得税の分散で回収できるかを合わせて判断してください。家賃収入が小さいと所得税の効果も出ないため、見送りが正解になります。
親を株主にする設計では、時間の制約が加わります。法人が取得してから3年以内は、不動産を通常の取引価額(時価)で評価します。新築の賃貸マンションを法人で建てた場合で確認します。
| 項目 | 3年以内に相続 | 3年経過後に相続 |
|---|---|---|
| 建物の時価(建築費) | 2億円 | 2億円 |
| 株式評価で使う建物の価額 | 通常の取引価額 2億円 | 貸家としての相続税評価額 1億500万円 |
| 帳簿価額 | 1億9,000万円 | 1億7,000万円 |
| 38%の控除 | 380万円 | 0円(含み損のため) |
| 株式の純資産価額 | 1億9,620万円 | 1億500万円 |
| 差 | — | 3年以内だと9,120万円も高く評価される |
表の見方:薄赤の2行が結果です。3年以内に相続が起きると、株式の評価が9,120万円も高くなります。固定資産税評価額は建築費の5割から6割にとどまるためです。
計算ロジック:通達185は、課税時期前3年以内に取得または新築した土地建物は、通常の取引価額で評価すると定めています。3年経過後は貸家としての相続税評価額を使えるため、評価が一気に下がります。
重要ポイント:この落とし穴は子を株主にしておけば起きません。株式が親の財産でなければ、株式をどう評価しても親の相続税には影響しないためです。親が株主になる設計をとる場合だけ、3年という期間を意識してください。
遺産全体から相続税の総額を出す手順は、下記の記事で解説しています。

ここまでは相続税だけを見てきましたが、所得税の分散と初期費用と維持コストを合わせた10年間の総額でも比べておきます。前提はケース1と同じで、株主は子、家賃から経費を引いた所得は年1,200万円とします。
| 項目 | 個人で持ち続ける | 法人に移す |
|---|---|---|
| 10年間の所得税と住民税 | 3,200万円 | 1,750万円 |
| 不動産取得税と登録免許税 | — | 750万円 |
| 設立費用と専門家報酬 | — | 100万円 |
| 10年間の維持コスト | — | 600万円 |
| 建物の移転にかかる譲渡所得税 | — | 0円(帳簿価額で売却するため) |
| 相続税 | 3,850万円 | 1,060万円 |
| 10年間の総額 | 7,050万円 | 4,260万円 |
| 差額 | — | 2,790万円の軽減 |
表の見方:黄色の2行が結論です。所得税で得た1,450万円は、初期費用と維持コストの1,450万円でちょうど相殺されます。残るのは相続税の差2,790万円です。
計算ロジック:所得税は年1,200万円の所得を個人1人で受け取る場合と本人・配偶者・子の3人に分散する場合で比べています。
あてはめ:法人化の効果を判断するときは、所得税の節税額を初期費用と維持コストと必ず並べてください。所得税の効果だけを示した提案は、費用を織り込んでいない可能性があります。
重要ポイント:この試算は10年間の家賃収入が変わらないことを前提にしています。空室が増えて収入が落ちると所得税の効果も小さくなりますが、維持コストは変わりません。収入の見通しは保守的に置いてください。

建物だけを法人に移すと、法人が個人の土地を使う関係になります。この地代の決め方で、土地の評価と課税が変わります。
実務でもっとも使われるのが、契約終了時に土地を無償で返すと約束し、税務署に届出書を出しておく形です。
| 地代と届出書の組み合わせ | 法人への課税 | 土地の相続税評価 |
|---|---|---|
| 通常の地代+無償返還の届出書あり | なし | 更地価額の80% |
| 権利金なし・届出書なし | 権利金相当額が法人の受贈益として課税される | 更地価額×(1−借地権割合) |
| 相当の地代(更地価額の年6%程度)を払う | なし | 更地価額の80% |
| 地代なし(使用貸借) | — | 更地価額の全額 |
表の見方:黄色の1行目が基本形です。届出書を出せば法人への課税を避けつつ、土地は更地価額の80%で評価されます。
重要ポイント:この20%減は法人化による上乗せではありません。個人が自分で賃貸経営をしていれば、土地は貸家建付地として約18%減で評価されます。
あてはめ:借地権割合60%の地域なら8,200万円が8,000万円になるだけで、差は200万円にとどまります。土地の評価減を目的に法人化しても意味がありません。
重要ポイント:薄赤の2行目が最大の失敗です。届出書を出さないと、権利金をもらう権利を法人に贈ったとみなされます。法人に受贈益として法人税がかかります。設立と同時に手続きを済ませてください。
計算ロジック:届出書は賃貸借契約を結んだ後、遅滞なく(法人の申告期限までに)貸主と借主の連名で提出します。提出した控えは相続まで保管してください。控えがないと、この扱いを主張できません。
4つのパターンごとの土地と借地権の評価は、下記の記事で解説しています。

親族間の感覚で地代を取らずに法人に使わせるケースがあります。この場合、土地の評価は下がりません。
| 通常の地代を払う | 地代を取らない | |
|---|---|---|
| 土地の相続税評価 | 更地価額の80% | 更地価額の全額 |
| 個人の所得 | 地代が不動産所得になる | なし |
| 更地価額1億円の場合の差 | 8,000万円 | 1億円(2,000万円の差) |
表の見方:薄赤の行が損失です。地代を取らないだけで2,000万円の評価差が生まれます。
重要ポイント:地代は個人の所得になるため所得税の分散という目的とは逆方向に働きます。相続税の評価を下げる効果と、所得税の負担を比べて水準を決めてください。
建物の名義を変える手続き自体にも費用がかかります。個人から法人への売買として扱われるため、譲渡所得税と不動産取得税が発生します。相続税の節税額と比べて、この初期費用を回収できるかを確認してください。
| 税金と費用 | 負担する人 | 目安 |
|---|---|---|
| 譲渡所得税と住民税 | 個人(売主) | 売却額から取得費と減価償却後の残額を引いた利益に20.315% |
| 不動産取得税 | 法人(買主) | 固定資産税評価額の4%(住宅は3%) |
| 登録免許税 | 法人(買主) | 固定資産税評価額の2% |
| 司法書士と税理士の報酬 | 法人または個人 | 30万〜100万円 |
表の見方:黄色の不動産取得税がまとまった額になります。固定資産税評価額5,000万円の賃貸建物なら200万円です。
重要ポイント:譲渡所得税は建物の帳簿価額次第です。減価償却が進んで帳簿価額が下がっている古い建物は、売却益が出て課税されます。逆に取得から間もない建物なら、ほとんど利益が出ません。移す時期によって負担が変わります。
計算ロジック:売買価額は適正な時価で設定する必要があります。安く売ると個人から法人への寄付とみなされ、法人に受贈益として課税されます。実務では固定資産税評価額や不動産鑑定評価を根拠にします。
参照元:国税庁 No.3202 譲渡所得の計算のしかた(分離課税)

相続税から離れて、毎年の税負担も比べておきます。家賃収入にかかる税率が、個人の所得税より法人税のほうが低くなる場合があります。相続税の効果が小さい規模でも、この差だけで法人化が正解になることがあります。
個人の所得税は所得が増えるほど税率が上がります。住民税10%を合わせると最高で55%です。法人税は規模による2段階なので、一定の所得を超えると法人のほうが軽くなります。
| 課税所得 | 個人(所得税+住民税) | 法人(実効税率の目安) | 有利なのは |
|---|---|---|---|
| 195万円以下 | 15% | 約21%〜25% | 個人 |
| 330万円超695万円以下 | 30% | 約21%〜25% | ほぼ同じ |
| 900万円超1,800万円以下 | 43% | 約33%〜35% | 法人 |
| 4,000万円超 | 55% | 約33%〜35% | 法人 |
表の見方:黄色の2行が法人化の効果が出る範囲です。課税所得900万円を超えたあたりが分岐点になります。
計算ロジック:法人の実効税率は、法人税・地方法人税・法人住民税・事業税を合わせた負担です。所得800万円以下の部分は軽減税率が使えるため、実効税率が約21%から25%に下がります。800万円を超える部分は約33%から35%です。
税率の差より大きいのが、受け取る人を増やせることです。家賃収入を配偶者や子への役員報酬として分けると、低い税率が何人分も使えます。個人のままでは、収入がすべて本人に集まります。
| 個人で受け取る | 法人から3人に分散 | |
|---|---|---|
| 家賃収入から経費を引いた額 | 1,200万円 | 1,200万円 |
| 本人の所得 | 1,200万円 | 600万円 |
| 配偶者の所得 | — | 300万円 |
| 子の所得 | — | 300万円 |
| 3人合計の所得税と住民税 | 約320万円 | 約175万円 |
表の見方:黄色の行のとおり同じ1,200万円でも年145万円の差が出ます。10年で1,450万円です。
重要ポイント:役員報酬には給与所得控除が使えるため、同じ金額でも課税対象が小さくなります。不動産所得のままでは、この控除がありません。所得を分けることと控除が増えることの2つが効いています。
計算ロジック:役員報酬は職務の内容に見合った金額でなければ、経費として認められません。名前だけの役員に高額な報酬を払うと否認されます。実際に管理業務を担ってもらい、議事録と業務記録を残してください。
参照元:国税庁 No.5211 役員に対する給与(平成29年4月1日以後支給決議分)
所得税の話に見えて、相続税にもつながります。個人に家賃収入が積み上がると、そのぶん相続財産が増えていきます。法人に受け皿を作ると、この積み上がりが止まります。
【20年間で見た差】
子を役員にして報酬を払うことは、生前贈与に近い効果があります。ただし贈与とは違い、業務に見合った金額であれば贈与税はかかりません。
生前贈与と組み合わせた対策の全体像は、下記の記事で解説しています。


設計を誤ると効果が消えてしまう論点が4つあります。3年の期間、土地保有特定会社、維持コスト、やめるときの費用です。設立の前に確認してください。
法人が取得してから3年以内は、株式の評価で不動産を時価で評価します。固定資産税評価額ベースの低い評価が使えないため、株式の評価が跳ね上がります。子を株主にしていれば、この問題は起きません。
| 法人が建物を取得してからの期間 | 株式評価で使う建物の価額 |
|---|---|
| 3年以内 | 通常の取引価額(時価) |
| 3年経過後 | 相続税評価額(固定資産税評価額ベース) |
表の見方:薄赤と黄色の差が効果そのものです。時価は固定資産税評価額の1.3倍から1.5倍になることが多いため、3年以内だと個人で持っていたほうが有利になります。
重要ポイント:起点は法人が取得した日です。設立した日ではありません。設立してから建物の移転が遅れると、その分3年の起算も遅れます。
法人の資産が土地に偏ると類似業種比準価額方式が使えなくなります。純資産価額方式だけで評価することになります。
| 会社の規模 | 土地保有割合の基準 | 該当すると |
|---|---|---|
| 大会社 | 70%以上 | 純資産価額方式のみで評価する |
| 中会社 | 90%以上 | 同じ |
| 小会社 | 総資産が一定額以上のものだけが判定の対象になる | 対象外なら該当しない |
表の見方:基準は大会社が70%、中会社が90%です。会社の規模によって基準が違います。
重要ポイント:建物だけを法人に移す設計では、法人の資産に土地が入らないため、この問題は起きにくいです。土地も法人に移す場合に注意が必要になります。
計算ロジック:土地保有割合は相続税評価額ベースの土地の価額 ÷ 総資産の価額で計算します。該当を避けるには、金融資産や事業用の資産を法人に持たせて分母を大きくします。
参照元:国税庁 財産評価基本通達 189(特定の評価会社の株式)
法人を1つ持つと年間30万〜80万円が毎年かかります。赤字の年でも払わなければならない税金が含まれます。
| 費目 | 金額の目安 | 備考 |
|---|---|---|
| 法人住民税の均等割 | 年7万円〜 | 赤字でも払う |
| 税理士の顧問料と決算報酬 | 年20万〜50万円 | 法人の申告が必要になる |
| 社会保険料 | 役員報酬の額に応じて発生 | 役員報酬を払う場合 |
| 登記の変更費用 | 役員の変更などで1万円〜 | 2年ごとの役員改選など |
表の見方:黄色の2つは必ず発生します。家賃収入がゼロの年でも、最低30万円前後はかかります。
重要ポイント:初期費用も別に必要です。設立登記と専門家報酬で50万〜150万円かかります。これに建物の移転にかかる不動産取得税と登録免許税が加わり、固定資産税評価額の5%前後になります。固定資産税評価額1億5,000万円なら750万円前後です。
始めるときの費用は調べても、たたむときの費用は見落とされがちです。法人を解散するには手続きと税負担が生じます。一度作ると簡単には戻せません。
【解散するときに発生すること】
建物を個人に戻す場合、法人が取得した時より価額が上がっていれば法人税がかかります。入るときより出るときのほうが費用が大きくなることがあります。
この点も含めて長く続ける前提で設計してください。数年で解散する見通しなら、法人化は選ばないほうが無難です。
法人が不動産を売却したときの税金と個人との違いは、下記の記事で解説しています。

実態がない法人化は、経費や評価が否認されることがあります。書類の形だけを整えても、中身が伴っていなければ通りません。否認された場合、過少申告加算税と延滞税が加わります。
【否認されやすい4つのパターン】
いずれも書面と実績で説明できるかどうかが分かれ目になります。議事録・賃貸借契約書・管理業務の記録・振込の記録を毎年残してください。
とくに役員報酬は指摘が多い項目です。入居者の対応や修繕の手配を実際に担当していることを示せる記録を残しておいてください。報酬の額を決めた根拠として、業務の内容と時間を議事録に書いておくと説明しやすくなります。
参照元:e-Gov 法人税法(第34条 役員給与の損金不算入)
土地の扱いでもうひとつ見落とされるのが特例です。建物を法人に移すと、土地に使える小規模宅地等の特例の種類が変わります。減額の割合が下がる場合があるため、法人化の効果と合わせて確認してください。
| 土地の使い方 | 使える区分 | 限度面積と減額割合 |
|---|---|---|
| 個人が自分で賃貸経営をしている土地 | 貸付事業用宅地等 | 200㎡まで50%減 |
| 法人に相当の対価で貸している土地(建物は法人所有) | 貸付事業用宅地等 | 200㎡まで50%減 |
| 法人に無償で貸している土地(使用貸借) | 対象外 | 減額なし |
| 法人が不動産貸付業を営んでいる場合 | 特定同族会社事業用宅地等は使えない | 400㎡・80%減は適用できない |
表の見方:薄赤の4行目が誤解の多い点です。同族会社に貸していても、その法人が不動産貸付業なら400㎡・80%減は使えません。
重要ポイント:薄赤の3行目も重大です。地代を取らずに法人に使わせていると、貸付事業に当たらず特例そのものが使えません。土地の評価が下がらないうえに特例も失うため、二重の損失になります。相当の対価を得て継続的に貸す形を整えてください。
計算ロジック:更地価額1億円・200㎡の土地なら、貸付事業用宅地等が使えれば無償返還の届出による80%評価8,000万円からさらに50%減の4,000万円になります。
あてはめ:特例が使えない場合は8,000万円のままです。4,000万円の差が生まれるため、地代の設定は必ず整えてください。
参照元:国税庁 No.4124 相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例)
小規模宅地等の特例の要件と限度面積は、下記の記事で解説しています。


実際に法人化を進める場合、設立してから建物を移すまでに3か月から6か月かかります。順番を間違えると余分な税負担が生じるため、全体の流れを先に確認してください。
手続きは4つの段階に分かれ、無償返還の届出書は建物の移転と同時に済ませるのが要点になります。
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重要ポイント:STEP2の株主の決め方がもっとも重要です。本人が株主になると、株式そのものが相続財産になり効果が半減します。子や孫を株主にして、設立の時点から次の世代に持たせてください。
STEP3でつまずきやすいのが借入の扱いで、金融機関の承諾がないと建物を法人に移せません。抵当権が設定されている建物は、無断で名義を変えると契約違反になります。
重要ポイント:借換えの条件が悪くなると、金利の上昇分が節税額を食いつぶすことがあります。複数の金融機関に相談して、条件を比べてから移転の時期を決めてください。
資産管理会社では合同会社が選ばれることが多いです。設立費用が安く、役員の任期がないため維持の手間が少ないためです。外部から資金を集める必要がないので、株式会社である必要が薄いという理由もあります。
| 株式会社 | 合同会社 | |
|---|---|---|
| 設立時の登録免許税 | 15万円から | 6万円から |
| 定款の認証費用 | 3万〜5万円 | 不要 |
| 役員の任期 | 最長10年で改選と登記が必要 | 任期なし |
| 持分の相続 | 株式として相続される | 定款の定めがないと相続されない |
| 決算公告 | 必要 | 不要 |
表の見方:黄色の行が維持の手間の差です。株式会社は最長10年ごとに役員の改選と登記が必要になります。
重要ポイント:合同会社を選ぶ場合は定款に注意してください。持分を相続できる旨を定款に定めておかないと、社員が亡くなったときに持分が払い戻しになります。相続対策で作るのに相続できない設計になっては意味がありません。設立の段階で定款に相続の定めを入れてください。
計算ロジック:初期費用の差は10万円前後です。維持の面では、株式会社の役員改選の登記が1回1万円から3万円かかります。30年で見ると合同会社のほうが20万円前後安くなります。

法人化は試算を誤ると数千万円の差が出る対策です。複数の税理士から見積りを取って、提案の内容を比べてください。
法人化の判断には相続税と法人税と所得税の3つをまとめて計算する力が必要です。どれか1つだけを見て判断すると、全体では損をすることがあります。
【相続税の対応実績がある税理士に相談すべき理由】
たとえば土地1億円・建物の固定資産税評価額1億5,000万円の賃貸マンションで、A税理士は親を株主にする設計を提案し、相続税は1,107万円下がるだけでした。
B税理士は子を株主にする設計と無償返還の届出書まで組み立て、相続税を2,790万円下げています。同じ法人化でも1,683万円の差です。株主を誰にするかという一点で結果が変わります。
比べるべきは提案の内容と試算の前提です。報酬の安さだけで選ぶと、設計の浅い提案を受けることになります。
判定ポイント1:試算のパターン数A税理士は法人化する場合の1パターンだけ、B税理士は法人化しない場合・建物だけ移す場合・土地も移す場合の3パターンを出しました。→ B税理士のほうが、比較して判断できる材料をそろえていると判定できます。
判定ポイント2:土地の扱いへの言及見積りに地代の水準と無償返還の届出書が書かれているかを見てください。→ 触れていない事務所は、建物の移転だけで終わらせる可能性があります。
判定ポイント3:見送りの選択肢を示すか規模が小さい場合に「法人化しないほうがよい」と言える事務所かどうかです。→ 必ず法人化を勧める事務所より、見送りも選択肢に置く事務所のほうが信頼できます。
自己判断で進めた場合に起きることには、設立してからでは元に戻せない失敗が含まれます。
【相談しないまま法人化した場合のリスク】
とくに親を株主にしたために効果が3分の1になるという失敗が多く見られます。設立の前に判断を確認しておけば避けられた負担です。
依頼から契約までは4つの段階で進み、フォームの記入は5分程度で終わります。
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年間の家賃収入が1,000万円以上、建物の相続税評価額が1億円以上、相続までに10年以上の見込みがあることが目安です。毎年30万円から80万円の維持コストがかかるため、この規模を下回ると費用倒れになりやすくなります。
個人の課税所得が900万円を超えているかどうかも判断材料になります。900万円を超えると所得税と住民税の税率が43%になり、法人の実効税率のほうが低くなるためです。
建物だけを移すのが基本です。土地を移すと譲渡所得税と不動産取得税の負担が大きく、法人の資産が土地に偏ると土地保有特定会社に該当して株式の評価方法が制限されます。
土地は個人が持ったまま法人に貸し、無償返還の届出書を出して更地価額の80%評価にします。ただし個人が自分で賃貸経営をしていても貸家建付地として約18%減になるため、法人化による上乗せは数%にとどまります。
子や孫などの後継者にします。本人を株主にすると法人の株式そのものが相続財産になるため、効果は38%の控除の分だけに縮みます。
本記事のケース1では、親を株主にした場合の軽減額が1,107万円、子を株主にした場合が2,790万円でした。設立の時点で後継者を株主にしておけば、法人に留保された利益も相続財産に加わりません。
親が株主の場合、法人が不動産を取得してから3年以内に相続が起きると、株式の評価でその不動産を通常の取引価額(時価)で評価します。固定資産税評価額は建築費の5割から6割にとどまるため、株式の評価が大きく上がります。
起点は法人が取得した日であり、設立した日ではありません。なお子を株主にしていれば、株式は親の相続財産ではないためこの3年のルールは影響しません。親が株主になる設計をとる場合だけ注意してください。
解散して清算することはできますが、費用と課税が生じます。解散と清算の登記費用、解散事業年度と清算事業年度の申告、建物を個人に戻す場合の法人税と不動産取得税がかかります。
残余財産を株主に分配するときは、みなし配当として所得税がかかります。入るときより出るときのほうが負担が大きくなることがあるため、長く続ける前提で設計してください。
不動産の法人化は、建物を法人に移すことで相続税の対象になる財産を組み替える対策です。効果が出る条件と、かえって不利になる条件がはっきりしています。
今すぐ取るべき行動
※本記事は2026年10月時点の法令にもとづいて作成しています。相続税法および法人税法の改正により内容が変わる場合があります。最新の制度については国税庁のホームページまたは税理士にご確認ください。