


相続では、葬儀費用や登記費用、税理士報酬など、さまざまな費用がかかります。
これらの費用が税金から引けるかどうかは、「相続税」と「所得税」で扱いが分かれます。
「相続にかかった費用は、当然すべて相続税から引けるはず」と考える人は少なくありません。
しかし相続税で引けるのは、実は「債務控除」という限られた費用だけです。
登記費用や税理士報酬など、相続後にかかった費用の多くは相続税では引けません。
一方で、それらが所得税の経費になるケースもあり、扱いを混同すると損をします。
本記事では、相続税で控除できる費用・できない費用の一覧と、所得税の経費になるもの、費用以外の控除、弁護士費用や登記費用の扱いを解説します。
▼ この記事の3行まとめ

相続でかかった費用は、どの税金から引けるかで3つに分かれます。相続税で引けるのは亡くなった方の債務と葬式費用だけで、それ以外の多くは所得税で引けるか、どこでも引けないかのどちらかです。
相続税の計算で財産から差し引けるのは、亡くなった方の債務と葬式費用の2種類です(相続税法13条)。この2つをまとめて債務控除といいます。
「相続のためにかかったお金なら何でも引ける」わけではありません。借入金や未払いの税金、葬儀の費用を漏れなく集めることが、相続税を抑える第一歩です。
相続登記の費用、戸籍の取得費、税理士報酬、遺産分割の弁護士費用は、どれも相続人が亡くなった後に負担する費用です。
亡くなった時点で存在した「亡くなった方の債務」ではないため、相続税では引けません。迷ったら「亡くなる前からあった支払いか」を確かめてください。
相続税で引けない費用も、あきらめるのは早すぎます。相続した不動産を賃貸したり売却したりするなら、登記費用などは所得税の経費や取得費になります。
同じ費用でも「相続税では×、所得税では○」になることがあります。費用ごとに、相続税と所得税の両方で行き先を確認してください。

相続でかかる費用を、相続財産から引けるものと引けないものに分けて一覧にしました。引けない費用でも、所得税の経費や取得費になるものがあるので、右の列まで確認してください。
相続財産から引けるのは、亡くなった時点で支払うことが確実だった債務と、葬式費用です。亡くなった後に相続人が払ったものでも、もとが亡くなった方の負担なら引けます。
| 費用 | 相続税 | 条件・注意 |
|---|---|---|
| 金融機関・個人からの借入金 | ○ | 個人からの借入は借用書や返済の記録が必要。団信付きの住宅ローンは× |
| 未納の所得税・消費税(準確定申告分) | ○ | 1月1日から亡くなった日までの所得にかかる分。相続人の遅れで生じた延滞税は× |
| 未納の住民税 | ○ | 亡くなった年の1月1日に住んでいた市区町村の、その年度分 |
| 固定資産税 | ○ | 亡くなった年の1月1日時点の所有者として課された、その年度分 |
| 未払いの医療費・介護施設の利用料 | ○ | 亡くなる前の分。生前に相続人が立て替えた介護費用も、証拠があれば○ |
| 未払いの公共料金・クレジットカードの利用分 | ○ | 亡くなった方が使った分 |
| 事業の買掛金・未払金 | ○ | 個人事業を営んでいた場合 |
| 賃貸物件の入居者から預かった敷金 | ○ | 退去時に返す義務があるため |
| 連帯債務 | ○ | 亡くなった方が負担する割合の分だけ |
| 保証債務 | 原則× | 主たる債務者が返せず、亡くなった方が払うことが確実で、取り戻せない分だけ○ |
| 生前に依頼した弁護士・税理士への未払い報酬 | ○ | 亡くなった時点で報酬が発生していた分 |
| 通夜・告別式・火葬・納骨の費用 | ○ | 葬式費用として引ける |
| お布施・読経料・戒名料・心付け | ○ | 領収書がなければ日付・相手・金額をメモに残す |
表の見方:上から11行目までが亡くなった方の債務、下の2行が葬式費用です。黄色の2行は、引ける範囲が限られるので特に注意してください。
重要ポイント:固定資産税と住民税は、亡くなった日までの日割りではありません。1月1日時点で課されたその年度分の全額が、亡くなった方の債務になります。
次の費用は、相続の場面でかかっても相続財産からは引けません。このうち登記費用だけは、賃貸や売却をすれば所得税で引けます。
| 費用 | 相続税 | 所得税 | 理由 |
|---|---|---|---|
| 団信付きの住宅ローン | × | — | 保険金で完済され、返す債務が残らない |
| 墓石・墓地・仏壇の未払い代金 | × | — | 非課税財産を買うための債務 |
| 香典返し | × | × | 受け取った香典に相続税がかからないため |
| 初七日・四十九日などの法要 | × | × | 葬式そのものの費用ではない |
| 相続登記の費用(登録免許税・司法書士報酬) | × | ○(賃貸・事業なら経費、売却なら取得費) | 相続人が亡くなった後に負担する費用 |
| 戸籍・住民票などの取得費 | × | × | 同上 |
| 相続税申告の税理士報酬 | × | × | 同上 |
| 遺産分割・遺留分の弁護士費用 | × | × | 同上 |
| 遺言執行者への報酬 | × | × | 葬式費用にも亡くなった方の債務にも当たらない |
| 遺品整理・空き家の管理費用 | × | ×(賃貸用なら経費) | 相続人が亡くなった後に負担する費用 |
| 相続人が手続きに使った交通費 | × | × | 同上 |
| 相続人の遅れで生じた延滞税 | × | × | 亡くなった方の債務ではない |
| 相続税そのもの | — | ×(売却時は取得費加算あり) | 所得税の必要経費にはならない |
表の見方:黄色の行は「相続税では×、所得税では○」になる代表例です。自宅に住むだけなら引けませんが、賃貸や売却をすれば所得税で取り戻せます。
重要ポイント:相続を放棄した人や、相続人以外で特定の財産だけを遺贈された人は、亡くなった方の債務を引けません。誰が引けるかは「負担者で変わる」の章で整理しています。
一覧にない費用は、次の3つの問いに順に当てはめると判断できます。どれにも当てはまらない費用は、どの税金でも引けない自己負担です。
計算ロジック:相続税で引けるかは「亡くなった方の負担か」で決まり、所得税で引けるかは「収入を生む財産に対応するか」で決まります。判断の軸が別なので、1つの費用を両方の軸で確かめます。
参照元:国税庁 No.4129 相続財産から控除できる葬式費用

「相続税から控除できるもの」には、費用のほかに、非課税枠・基礎控除・税額控除があります。どれも引く場所が違うので、どの段階で効くかを分けて押さえると、計算を間違えません。
相続税は、財産を集めてから税額を出すまでの4つの段階で、それぞれ別のものを引きます。債務と葬式費用は2段階目、基礎控除は3段階目、配偶者控除などは4段階目です。
| 段階 | 引けるもの | 主な中身 |
|---|---|---|
| 1 財産から除く | 非課税財産 | 墓地・仏壇、生命保険金と死亡退職金のうち500万円×法定相続人の数 |
| 2 財産から引く | 債務・葬式費用(この記事) | 借入金・未納の税金・未払いの医療費・葬儀の費用 |
| 3 遺産全体から引く | 基礎控除 | 3,000万円+600万円×法定相続人の数 |
| 4 税額から引く | 税額控除 | 配偶者の税額軽減・未成年者控除・障害者控除・相次相続控除・贈与税額控除・外国税額控除 |
表の見方:1〜3は「課税される財産の額」を減らし、4は「計算した税額」を減らします。自宅の土地の評価を最大80%下げる小規模宅地等の特例は、1の前に財産の評価額そのものを下げる制度です。
計算ロジック:【前提】遺産1億円、借入金1,000万円、葬式費用200万円、相続人は子3人。債務と葬式費用を引かないと相続税の総額は約630万円、引くと課税される財産が8,800万円になり約450万円です(基礎控除4,800万円・自社の計算エンジンで算出)。
2段階目の債務と葬式費用を漏れなく引くだけで、相続税の総額は約180万円下がります。
基礎控除の計算方法と、いくらまで相続税がかからないかは、下記の記事で解説しています。

生命保険金・死亡退職金の非課税枠は、下記の記事で解説しています。

4つの段階を順に当てはめると、相続税がどこまで下がるかが分かります。何も引かない場合と比べ、相続税の総額は約380万円下がります。
| 段階 | 引く額 | 残る額 |
|---|---|---|
| 財産の総額(うち死亡保険金2,000万円) | — | 1億円 |
| 1 非課税枠(500万円×3人) | −1,500万円 | 8,500万円 |
| 2 債務・葬式費用 | −1,200万円 | 7,300万円 |
| 3 基礎控除(3,000万円+600万円×3人) | −4,800万円 | 2,500万円(課税遺産総額) |
| 相続税の総額 | — | 約250万円(何も引かないと約630万円) |
表の見方:1と2を漏れなく引くと、課税遺産総額は5,200万円から2,500万円まで縮みます。子3人で分けると1人あたり約833万円で、税率は10%の帯に収まります。
計算ロジック:【前提】子3人が法定相続分どおりに取得。2,500万円を3人で分け、1人あたり約833万円×10%=約83万円、3人で約250万円です(自社の計算エンジンで算出)。
4段階目の税額控除は、決まった順番で差し引きます。前の控除で税額が0円になると、後ろの控除は使われずに消えるものがあります。
| 順番 | 税額控除 | 主に使う人 |
|---|---|---|
| 1 | 暦年課税分の贈与税額控除 | 亡くなる前の贈与が足し戻された人 |
| 2 | 配偶者の税額軽減 | 配偶者(1億6,000万円か法定相続分の多い方まで) |
| 3 | 未成年者控除 | 18歳未満の相続人 |
| 4 | 障害者控除 | 85歳未満の障害者の相続人 |
| 5 | 相次相続控除 | 10年以内に前の相続で相続税を納めた人から相続した人 |
| 6 | 外国税額控除 | 海外の財産に外国で相続税を課された人 |
| 7 | 相続時精算課税分の贈与税額控除 | 精算課税で贈与税を納めていた人(引ききれない分は還付) |
重要ポイント:未成年者控除と障害者控除は、本人の税額から引ききれない分を、扶養している家族の税額から引けます。相次相続控除は、引ききれない分が消えます。
配偶者の税額軽減の計算と、申告が必要なケースは、下記の記事で解説しています。


相続税で引ける1つ目は、亡くなった方の債務です。亡くなった時点で支払うことが確実だった債務なら、亡くなった後に相続人が払っても財産から差し引けます。
未払いの税金や医療費は、見落としやすい債務です。引けるのは亡くなった方が負担すべきだった分なので、どの期間の分かを確かめてください。
| 債務 | 引ける分 | 見落としやすい点 |
|---|---|---|
| 所得税(準確定申告) | 1月1日から亡くなった日までの所得にかかる税額 | 相続開始を知った日の翌日から4か月以内に申告・納税する |
| 住民税 | 亡くなった年度の全額(前年の所得にかかる分) | 亡くなった後に届く納税通知書の分も含む |
| 固定資産税 | 1月1日時点の所有者として課された、その年度分の全額 | 納付書が届く前でも引ける |
| 医療費・介護施設の利用料 | 亡くなる前の治療・利用の分 | 死亡後の精算分を領収書で残す |
重要ポイント:準確定申告で還付を受けた所得税は、反対に相続財産に加わります。納めた場合は債務、戻った場合は財産、と覚えてください。
個人からの借入金も引けますが、実態があることが前提です。借用書や返済の記録がないと、贈与と疑われて控除が認められないことがあります。
借金が残っていても引けない債務があります。とくに団信付きの住宅ローンは「残高があるから引ける」と誤解されやすい代表例です。
連帯債務は、亡くなった方が負担する割合の分だけを引きます。1,000万円の連帯債務で亡くなった方の負担が300万円なら、引けるのは300万円です。
亡くなる前の医療費や介護費用を、家族が立て替えることはよくあります。引けるかどうかは、亡くなった時点で亡くなった方に支払い義務が残っていたかで決まります。
| 払い方 | 相続税 | 理由 |
|---|---|---|
| 亡くなった後に、相続人が自分のお金で死亡前の分を払った | ○ | 亡くなった時点で未払いの債務だった |
| 生前に、相続人が自分のお金で立て替えて、返してもらっていない | ○(証拠があれば) | 亡くなった方が相続人に返す債務が残っている |
| 生前に、亡くなった方の預金から払った | × | 支払いが済んでいて債務が残っていない |
| 亡くなった後に、亡くなった方の預金から払った | ○ | 払った分の預金は財産に含め、同じ額を債務として引く |
重要ポイント:生前の立て替えは、親子の間では贈与や扶養と見られやすい支出です。領収書と、自分の口座から払った記録、返してもらう約束のメモをそろえてください。
亡くなった方の医療費は、払った日によって、引く税金が変わります。亡くなった日までに払った分は準確定申告の医療費控除、亡くなった後に払った分は相続税の債務控除です。
| 医療費の払い方 | 引く場所 |
|---|---|
| 亡くなった日までに、亡くなった方が払った | 準確定申告の医療費控除(亡くなった方の所得税) |
| 亡くなった後に、死亡前の入院・治療分を払った | 相続税の債務控除(準確定申告の医療費控除には入らない) |
重要ポイント:同じ医療費を、準確定申告と相続税の両方で引くことはできません。亡くなった日の前後で領収書を分けて整理してください。
参照元:国税庁 No.2022 納税者が死亡したときの確定申告(準確定申告)
債務と葬式費用を引くと、相続税がどれだけ下がるかを比べます。前提は遺産1億円、相続人は子3人です。
| 引かない場合 | 引いた場合 | |
|---|---|---|
| 財産の額 | 1億円 | 1億円 |
| 債務・葬式費用 | 0円 | 1,200万円(借入金1,000万円+葬式費用200万円) |
| 課税される財産 | 1億円 | 8,800万円 |
| 基礎控除 | 4,800万円 | 4,800万円 |
| 相続税の総額 | 約630万円 | 約450万円 |
表の見方:債務と葬式費用の1,200万円を引くと、相続税の総額は約180万円下がります。
重要ポイント:小さな未払い金でも、積み重なれば税額が変わります。通帳の引き落とし、カードの明細、病院や施設からの請求書を、亡くなった日を境に確認してください。
計算ロジック:課税遺産総額(課税される財産−基礎控除)を子3人の法定相続分で分け、それぞれに税率をかけて合計します。引かない場合は5,200万円、引いた場合は4,000万円です(自社の計算エンジンで算出)。
債務控除の対象かどうかは、ケースによって細かい判断が必要です。対象になる債務の条件と計算方法は、下記の記事で解説しています。


相続税で引ける2つ目は葬式費用です。葬式費用は亡くなった方の債務ではありませんが、特別に財産から引けます。ただし、葬儀に関係する出費でも引けないものがあります。
通常の葬儀にかかる費用は、幅広く引けます。お布施や心付けのように領収書が出ないものも、日付・相手・金額のメモを残せば引けます。
| 引ける費用 | 具体例 |
|---|---|
| 通夜・告別式の費用 | 式場使用料・祭壇・棺・霊柩車など |
| 火葬・埋葬・納骨の費用 | 火葬料・埋葬料・納骨費用 |
| 飲食費 | 通夜ぶるまい・精進落としなど |
| 宗教者への謝礼 | お布施・読経料・戒名料 |
| その他 | 会葬御礼・遺体の搬送費・死亡診断書の発行費・心付け |
重要ポイント:会葬御礼は、式場で参列者に渡すお礼の品で、引けます。後日、香典をくれた人に送る香典返しは引けません。同じお礼でも、渡す時期と相手で扱いが変わります。
葬儀の前後にかかっても、葬儀そのものに必要とはいえない費用は引けません。「葬儀に関係する出費だから引ける」と思い込まないでください。
墓石や仏壇は、生前に買っておけば、その分の現金が相続税のかからない財産に変わります。亡くなった後に買うと、この効果はなく、代金も引けません。
葬式費用は、金額が社会通念上相当な範囲であることが前提です。通常の葬儀であれば、幅広く認められます。領収書は必ず保管し、申告書の第13表に、支払先・日付・金額・誰が負担したかを書きます。
葬式費用200万円を引くと、その200万円にかかるはずの相続税が減ります。税率20%の帯なら、約40万円の軽減です。
計算ロジック:【前提】葬式費用200万円、その相続で最も高い税率が20%。200万円×20%=約40万円。税率は、課税遺産総額を法定相続分で分けた金額で決まります。
葬式費用を引けるのは、実際に負担した人です。喪主が全額を払ったなら喪主の取得財産から、分担したならそれぞれの負担額を引きます。
葬式費用は誰が負担すると相続税が安くなるか、対象・対象外の一覧は、下記の記事で解説しています。

参照元:国税庁 No.4129 相続財産から控除できる葬式費用

ここからは相続税で引けない費用です。登記や申告のように相続に欠かせない手続きの費用でも、相続税からは引けません。理由は「亡くなった方の債務ではない」からです。
相続登記には、登録免許税(固定資産税評価額の0.4%)と、司法書士に頼んだ場合の報酬がかかります。これらの登記費用は、相続税の債務控除の対象になりません。
戸籍謄本や住民票の取得費も同じです。ただし登記費用は、相続した不動産を賃貸したり売ったりすれば、所得税で引けます。
| 不動産の固定資産税評価額 | 登録免許税(0.4%) |
|---|---|
| 土地1,000万円+建物500万円 | 6万円 |
| 土地2,000万円+建物500万円 | 10万円 |
| 土地5,000万円+建物1,000万円 | 24万円 |
計算ロジック:登録免許税=固定資産税評価額×0.4%。土地2,000万円+建物500万円なら、2,500万円×0.4%=10万円です。司法書士に頼めば、これに報酬が加わります。
弁護士費用が引けるかどうかは、費用の名前ではなく、亡くなった時点で亡くなった方の債務だったかで決まります。死亡後に相続人が依頼した費用は、遺産から払っても引けません。
| ケース | 相続税 | 理由 |
|---|---|---|
| 亡くなった方が生前に依頼し、死亡時点で未払いの報酬 | ○ | 亡くなった時点で確実にあった債務 |
| 死亡後に相続人が遺産分割の協議・調停を依頼した | × | 相続人が自分のために負担する費用 |
| 遺産分割の弁護士費用を遺産から払った | × | 何から払ったかではなく、誰の債務かで決まる |
| 弁護士が遺言執行者になった場合の報酬 | × | 葬式費用にも亡くなった方の債務にも当たらない(平成13年12月25日裁決) |
| 遺留分侵害額請求の弁護士費用 | × | 請求する側・される側どちらも相続人の費用 |
重要ポイント:生前の依頼分を引くときは、委任契約書と請求書で、亡くなる前に発生した報酬の額を示します。亡くなった後の業務が含まれる場合は、その分を分けてください。
相続税申告を税理士に頼んだ報酬や、遺産整理を専門家に頼んだ費用も、相続税では引けません。どれも相続開始後に、相続人の判断で発生した費用だからです。ただし、亡くなった方の準確定申告を税理士に頼んだ報酬など、扱いが分かれる例外もあります。
税理士費用が控除できない理由と例外、費用負担の考え方は、下記の記事で解説しています。

基準は「亡くなった時点で存在した、亡くなった方の債務か」の1本です。次の費用は、この基準に当てはまらないため引けません。
引けない費用でも、賃貸や売却をする財産のためのものなら、所得税で引ける場合があります。次の章で確認します。

相続税で引けない費用も、所得税では経費になることがあります。相続した不動産を賃貸したり、事業を引き継いだりする場合がその代表です。収入を生む財産にかかった費用は、その収入から引けます。
相続した不動産を賃貸に出すと、家賃は不動産所得として所得税の対象になります。相続登記の登録免許税は「租税公課」、司法書士報酬は「支払手数料」として必要経費にできます。
自宅部分と賃貸部分がある建物なら、面積などで按分して、賃貸部分の分だけを経費にします。
亡くなった方の事業や農業を引き継いだ場合も、考え方は同じです。事業用の資産の登記費用は、事業所得の必要経費にできます。反対に、自分が住むだけの自宅の登記費用は、収入を生まないため所得税でも経費になりません。売却するときの取得費として使います。
相続した不動産を賃貸する場合、経費にできるのは登記費用だけではありません。家賃収入を得るためにかかる次の費用は、毎年の確定申告で経費になります。
登記費用は、払った年の不動産所得の必要経費にします。相続した年の分は、翌年3月15日までの確定申告で入れ忘れないようにしてください。
| 場面 | 経費にできる額 |
|---|---|
| 賃貸アパート1棟の登記費用10万円 | 10万円(全額) |
| 自宅と賃貸の併用住宅(賃貸部分が床面積の40%)の登記費用10万円 | 4万円(賃貸部分だけ) |
| 自宅だけの登記費用 | 0円(売るときの取得費に回す) |
計算ロジック:【前提】所得税20%+住民税10%の人。賃貸アパートの登記費用10万円を経費にすると、10万円×30%=約3万円の税金が減ります。
重要ポイント:納めた相続税そのものは、所得税の必要経費になりません。相続した財産を売る場合だけ、取得費加算の特例で相続税の一部を取得費に足せます。
相続をきっかけに所得税がかかる場面は、ほかにもあります。準確定申告や相続財産から生じる所得など、所得税の全体像は下記の記事で解説しています。

参照元:国税庁 No.1370 不動産収入を受け取ったとき(不動産所得)

相続した財産を売る場合も、費用の扱いがポイントです。売却益(譲渡所得)を計算するとき、登記費用などを取得費として差し引けます。相続ならではの取得費加算の特例もあります。
相続した不動産や株式を売ると、「売却額−取得費−譲渡費用」の売却益に所得税がかかります。相続登記の費用は取得費に含められるので、自宅など住むだけの不動産でも、売るときには使えます。
亡くなった方が買ったときの代金や当時の登記費用も取得費です。分からない場合は売却額の5%を取得費にできますが、資料があるほうが有利なことが多いです。
相続税の申告期限の翌日から3年以内(相続開始から約3年10か月以内)に売れば、納めた相続税の一部を取得費に足せます。足せるのは、売った財産に対応する相続税の分です。期限を1日でも過ぎると使えないので、売る予定があれば早めに動いてください。
取得費加算の計算方法と要件は、下記の記事で解説しています。

不動産を1人が相続し、代わりに他の相続人へ現金を払う代償金は、所得税の経費にも取得費にもなりません。大きな金額を払っても経費にならない点に注意してください。
代償金は財産の分け方の調整で、相続税の計算では、払った人の取得額から差し引いて各人の税額を出します。
参照元:国税庁 No.3267 相続財産を譲渡した場合の取得費の特例

債務控除や葬式費用は、誰でも引けるわけではありません。相続での立場によって、引ける人と引けない人が分かれます。
債務控除を使えるのは、相続人と、財産を包括的に引き継ぐ包括受遺者です。相続人以外で特定の財産だけを遺贈された人は、債務を引き継がないため使えません。
| 立場 | 債務 | 葬式費用 |
|---|---|---|
| 相続人・包括受遺者 | ○ | ○ |
| 相続を放棄した人 | × | ○(実際に負担し、保険金などで財産を取得した場合) |
| 相続人以外で、特定の財産だけを遺贈された人 | × | × |
| 制限納税義務者(国外に住む人など) | △(国内の財産に関する債務だけ) | × |
重要ポイント:相続人が特定の財産を遺贈で受け取った場合は、相続人として債務控除を使えます。「特定遺贈なら使えない」のは、相続人でない人の場合です。
相続を放棄した人は、亡くなった方の債務を引き継がないため、債務は引けません。ただし実際に葬式費用を負担し、生命保険金などで相続税がかかる場合は、その葬式費用を引けます。
放棄した人が喪主を務めることは多く、その負担を考えた扱いです。「放棄したから何も引けない」と思い込まないでください。
債務や葬式費用は、実際に負担した人の取得財産から引きます。誰がいくら負担したかで引ける人が決まるため、負担額の記録を残してください。
借入金を相続人で分けて引き継ぐなら、それぞれの負担分を引きます。第13表には負担者と負担額を書くので、相続人の間で先に整理しておくとスムーズです。
申告期限までに遺産分割が決まらないと、誰が債務を負担するかも決まりません。その場合は、法定相続分(遺言があれば指定された相続分)で負担したものとして、各人の財産から引きます(相続税法基本通達13-3)。
| 場面 | 債務・葬式費用を引く人 |
|---|---|
| 遺産分割で負担する人を決めた | 決めた人が、決めた額を引く |
| 遺産分割が決まっていない | 法定相続分で按分して各人が引く |
| 分割が決まって負担する人が変わった | 修正申告または更正の請求で、各人の額を直す |
重要ポイント:遺産の預金から葬式費用を払っても、その預金は亡くなった日の残高で財産に入ります。払った分を誰が負担したかを分割協議で決め、その人が葬式費用として引きます。
債務と葬式費用は、相続税の申告書の第13表「債務及び葬式費用の明細書」に書きます。負担する人の氏名と金額を1件ずつ書くので、誰がどの費用を負担したかを先に決めておいてください。
第13表で負担者ごとに出した合計額は、第1表の「債務及び葬式費用の金額」の欄に移して、各人の課税価格を計算します。

最後に、間違えやすい費用と手続きの注意点をまとめます。多くの失敗は「相続にかかった費用なら引ける」という思い込みから起きます。
次の3つは、引けそうに見えて引けない代表例です。計上する前に、一覧表で「亡くなった方の債務か」を確かめてください。
債務と葬式費用を引いて財産が基礎控除以下になれば、相続税はかからず、申告も要りません。ただし小規模宅地等の特例や配偶者の税額軽減を使って0円になる場合は、申告が必要です。
申告が要らないケースと、0円でも申告が必要なケースは、下記の記事で解説しています。

引けない費用を債務控除に入れて申告すると、税額が足りなくなります。税務調査の通知が来る前に自分から修正申告すれば、過少申告加算税はかかりません。
| いつ直したか | 追加の相続税 | 過少申告加算税 |
|---|---|---|
| 調査の通知の前に、自分から修正申告した | 30万円 | 0円 |
| 調査の通知の後、指摘される前に修正申告した | 30万円 | 1万5,000円(5%) |
| 調査で指摘されてから修正申告した | 30万円 | 3万円(10%) |
計算ロジック:【前提】遺産1億円・子3人。債務と葬式費用1,200万円に加え、引けない費用200万円を誤って計上した。正しい課税される財産は9,000万円で、相続税の総額は約450万円から約480万円になります。ほかに延滞税がかかります。
反対に、引ける債務や葬式費用を申告に入れ忘れた場合は、払いすぎた相続税を取り戻せます。申告期限から5年以内に、税務署へ更正の請求をしてください。
準確定申告の所得税や、亡くなった年の住民税・固定資産税は、申告の後に金額が決まって入れ忘れやすい債務です。
参照元:国税庁 B1-27 相続税及び贈与税の更正の請求手続
控除のもれや誤りを防ぐため、次の項目を確認してください。相続税で引けない費用も、所得税で取り戻せないか一度確かめましょう。
重要ポイント:判断に迷う費用は、計上する前に税理士に確認してください。引けない費用を計上すると、税務調査で否認されて過少申告加算税がかかることがあります。
費用を確実に引くには、証拠になる記録が欠かせません。領収書が出ない費用は、日付・相手・金額のメモを残せば認められます。賃貸や売却で使う登記費用の資料は、売るときまで何年も保管が必要です。誰がどの費用を負担したかも記録しておきましょう。

費用の控除は、判断を誤ると税額が変わります。依頼するなら、相続税の対応実績がある税理士に絞って一括相談・見積りで比較するのが確実です。
どの費用を引けるかの判断は、相続税と所得税の両方の知識が必要です。債務控除のもれや、所得税で経費にできる費用の見落としは、そのまま税負担の差になります。経験の浅いA税理士は、賃貸不動産の登記費用を所得税の経費に入れ忘れました。
相続税の対応実績があるB税理士は、相続税では債務控除を、所得税では登記費用の経費計上を漏れなく行いました。同じ相続でも、税理士の実力しだいで最終的な負担が変わってきます。
相続税の対応実績がある税理士から複数の見積りを取ると、次の3つの判定ポイントで実務力を比較できます。
判定ポイント1:債務控除をもれなく拾うか。借入金・未払いの税金・医療費・葬式費用まで確認するか → もれなく拾える税理士のほうが、相続税を抑えられると判定できます。
判定ポイント2:相続税と所得税を通して見るか。相続税で引けない費用を所得税の経費や取得費で活かせるか提案するか → 両方を見られる税理士のほうが、トータルの負担を減らせると判定できます。
判定ポイント3:売却や賃貸まで見据えるか。取得費加算や不動産所得の経費まで含めて提案するか → 先を見据える税理士のほうが、将来の税金まで抑えられると判定できます。
1つの事務所だけに相談すると、その提案が最善かどうかを測る物差しがありません。費用の扱いに不慣れな事務所では、引ける費用を見落としたまま申告が進んでしまうこともあります。相続税の申告は一度きりで、後から気づいても取り返しにくいのが実情です。
複数の実績ある税理士の提案を並べることが、費用の取りこぼしを防ぐ最短ルートです。
| チェック項目 | 確認する内容 |
|---|---|
| 提案内容 | 債務控除のもれがなく、所得税での経費化まで提案があるか |
| 試算相続税額 | 債務・葬式費用を反映した相続税額が示されているか |
| 報酬額 | 相続税申告と、必要なら確定申告まで含めた総額か |
重要ポイント:賃貸や売却をする場合は、相続税だけでなく所得税の申告も関わります。両方をあわせて相談できる税理士だと安心です。
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重要ポイント:賃貸や売却の予定があるかは、所得税での節税に直結する重要な情報です。相談の際に必ず伝えましょう。
相続税で引けるのは、亡くなった方の債務と葬式費用の2種類(債務控除)だけです。相続登記の費用や税理士報酬など、相続後にかかった費用は相続税では引けません。
相続税では控除できません。ただし相続した不動産を賃貸・事業に使うなら、登記費用は所得税の必要経費になります。売却する場合は、譲渡所得の取得費に含められます。税理士報酬は相続税でも所得税でも原則引けません。
通夜・告別式・火葬・納骨の費用、お布施・戒名料、会葬御礼、遺体の搬送費などが引けます。一方、香典返し・墓石や仏壇の購入費・初七日などの法要費用・解剖費用は引けません。
いずれも引けません。香典返しは、受け取った香典に相続税がかからないため対象外です。墓石や仏壇は相続税がかからない非課税財産のため、その購入費用も引けません。
相続放棄した人は債務控除を使えませんが、葬式費用は例外です。実際に葬式費用を負担し、生命保険金などで相続税がかかる場合は、その葬式費用を差し引けます。
相続税で控除できる費用は、亡くなった方の債務と葬式費用の2種類だけです。それ以外の費用も、賃貸や売却をすれば所得税で引けることがあります。
▼ この記事の要点
今すぐ取るべき行動
※本記事は2026年10月時点の法令・情報に基づいて作成しています。税制改正により、内容が変更となる可能性があります。最新の制度については国税庁の公式サイトや税理士にご確認ください。