


貸付金とは、亡くなった人が家族や会社、知人に貸していたお金のことです。返してもらう権利は相続財産になり、元本と利息の合計額に相続税がかかります。
返してもらえる見込みが薄くても、原則として評価額は下がりません。評価から外せるのは、相手が破産した場合など、回収できないことがはっきりしている場合に限られます。
特に多いのが、会社を経営していた人が自分の会社に貸していたお金です。会社の決算書では「役員借入金」と書かれ、長年の積み重ねで数千万円になっていることもあります。
会社への貸付金は、生前に債権放棄すれば相続財産から外せると説明されることがあります。しかし会社の株価が上がるため、相続税が減るのは会社が債務超過の場合だけです。
親族への貸付金は、契約書や返済の記録がないと、貸したのではなくあげたもの(贈与)と判断されることがあります。相続人の1人が借りていた場合の扱いにも注意が必要です。
貸付金は通帳や借用書を見ないと気づきにくく、申告漏れが起きやすい財産です。相続が始まったら、まず貸付金がないかを確かめます。
この記事では、貸付金の相続税評価、回収できない場合の扱い、会社への貸付金を減らす方法と債権放棄で相続税がいくら減るかの試算、親族への貸付金の注意点を解説します。
▼ この記事の3行まとめ

亡くなった人が誰かに貸していたお金は、返してもらう権利(貸付金債権)として相続財産になります。まだ返してもらっていなくても、元本と利息の合計額に相続税がかかります。
この章では、貸付金が相続財産になる理由と、貸した相手ごとの違い、申告書への書き方を整理します。
相続税は、亡くなった人が持っていたお金に換算できる財産すべてにかかります。現金や預金と同じように、貸したお金を返してもらう権利も財産です。
返済の期限がまだ来ていなくても、返済が止まっていても、相続財産であることに変わりはありません。相続人は、亡くなった人に代わってその貸付金を返してもらう権利を引き継ぎます。
貸付金は、誰に貸していたかで、注意すべき点が変わります。金額が大きくなりやすいのは、自分の会社への貸付金です。
| 貸した相手 | よくある例 | 主な注意点 |
|---|---|---|
| 経営していた会社 | 運転資金や赤字の穴埋めに社長が会社へ入れたお金 | 金額が大きい。会社が赤字でも元本で評価される |
| 親族 | 子の住宅資金、事業資金の貸し付け | 契約書や返済がないと贈与と判断されることがある |
| 知人・第三者 | 知人への個人的な貸し付け | 相続人が存在を知らず、申告から漏れやすい |
表の見方:どの相手への貸付金も、評価の仕方は元本と利息の合計で同じです。違うのは、会社への貸付金は対策の方法が多く、親族への貸付金は贈与との区別が問題になる点です。
預金だけなら基礎控除以下でも、貸付金を加えると基礎控除を超えることがあります。貸付金を見落とすと、申告そのものが漏れることになります。
| 項目 | 貸付金を見落とした場合 | 貸付金を含めた場合 |
|---|---|---|
| 預金 | 3,000万円 | 3,000万円 |
| 子への貸付金 | ― | 2,000万円 |
| 相続財産の合計 | 3,000万円 | 5,000万円 |
| 相続税(子2人・基礎控除4,200万円) | 0円(申告不要) | 80万円(申告必要) |
計算ロジック:5,000万円−4,200万円=800万円を2人で分け、400万円×10%×2人=80万円です。申告しないまま税務調査で見つかると、80万円に加えて無申告加算税と延滞税がかかります。
亡くなった親が子にお金を貸していて、その子が相続人になることがあります。この場合も、貸付金は相続財産として申告します。
子が貸付金を相続すると、返す側と返してもらう側が同じ人になり、法律上は債権が消えます(混同、民法520条)。しかし相続税は亡くなった時点の財産で計算するため、消える前の貸付金に相続税がかかります。
借りていた子以外の相続人が貸付金を相続した場合は、借りていた子はその相続人に返済します。遺産分割で、誰が貸付金を相続するかを決めておきます。
知人や取引先に個人的に貸していたお金は、家族が存在を知らないことが多い貸付金です。相続人は、亡くなった人に代わって返済を求めることができます。
まず借用書や通帳の記録で、貸した金額と返済の状況を確かめます。相手に連絡するときは、相続人であることを示す戸籍謄本などを用意し、誰が貸付金を相続したかを伝えます。
相手が返済に応じない場合は、内容証明郵便で請求したり、弁護士に相談したりします。返してもらえるかどうかにかかわらず、相続税の申告では元本と利息で評価します。
貸付金は、相続税の申告書の第11表に記入します。種類は「その他の財産」、細目は「貸付金」として、相手ごとに記入します。
会社への貸付金は、会社の決算書の「役員借入金」の残高と一致しているかを確かめます。金額が合わないと、税務調査で指摘される原因になります。

貸付金の評価額は、返してもらうべき元本と、亡くなった日までにたまった利息の合計です(財産評価基本通達204)。相手の返済能力にかかわらず、原則として額面のまま評価します。
この章では、計算式と利息の扱い、評価額を確かめる資料を整理します。
貸付金の評価額は、元本と利息を足すだけのシンプルな計算です。利息は、亡くなった日までの期間に対応する分を加えます。
【貸付金の評価額】
評価額=元本の残高+亡くなった日までにたまった利息(既経過利息)
【元本の残高】
貸した金額から、亡くなった日までに返してもらった金額を引いた額です。
参照元:国税庁 第3節 定期金に関する権利(財産評価基本通達204・205を掲載)
子に1,000万円を年1%で貸し、毎年100万円ずつ返してもらっていた親が、4回目の返済の3か月後に亡くなった例です。評価額は601万5,000円になります。
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 貸した金額 | 1,000万円 |
| 返してもらった元本(100万円×4回) | −400万円 |
| 元本の残高 | 600万円 |
| たまった利息(600万円×1%×3か月÷12か月) | 1万5,000円 |
| 評価額 | 601万5,000円 |
計算ロジック:【前提】利息は年1回、元本の返済と同時に払う契約。最後の返済日から亡くなった日まで3か月分の利息がたまっていた想定です。
社長が経営する会社に、利息を取らずに貸していた場合の例です。会社の決算書の役員借入金が5,000万円なら、評価額は5,000万円です。
直近の決算日から亡くなった日までに、社長が会社にさらに200万円を入れ、会社から100万円の返済を受けていれば、評価額は5,000万円+200万円−100万円=5,100万円になります。決算書の数字だけでなく、亡くなった日までの動きを足し引きします。
親族や自分の会社への貸付金は、利息を取らない約束になっていることが多くあります。利息を取らない約束なら、加えるのは元本だけです。利息の約束があるのに受け取っていなかった場合は、未払いの利息も加えます。
ただし個人間で利息を取らずに大きな金額を貸していると、払わずに済んだ利息の分が借りた人への贈与とされることがあります。金額が大きい場合は、相続とは別に贈与税の問題になる点に注意します。
亡くなった人が他人の借金の保証人になり、代わりに返済していた場合は、本人に返済を求める権利(求償権)があります。この求償権も、貸付金と同じように相続財産になります。
評価も貸付金と同じく、返してもらうべき金額で行います。ただし保証人として払う相手は、返済に困っていることが多いため、評価から外せる事実がないかもあわせて確かめます。
貸付金の残高は、契約書だけでなく、実際のお金の動きで確かめます。返済の一部が抜けると、評価額が実際より高くなります。
| 資料 | 確かめること |
|---|---|
| 金銭消費貸借契約書・借用書 | 貸した金額、利率、返済方法 |
| 亡くなった人の通帳 | 貸したときの出金、返済の入金 |
| 会社の決算書・勘定科目内訳明細書 | 役員借入金の残高 |
| 亡くなった人の確定申告書 | 受け取った利息の申告 |
重要ポイント:会社への貸付金は、会社の決算書の役員借入金の残高と、亡くなった日の残高が一致しているかを確かめます。決算日と亡くなった日の間の入出金も反映します。

貸した相手にお金がなく、返してもらえそうにない貸付金もあります。評価から外せるのは、回収できないことが客観的にはっきりしている場合に限られます(財産評価基本通達205)。
この章では、評価から外せる事実と、外せない典型例、相続後に回収できなかった場合の扱いを整理します。
亡くなった時点で、貸した相手に次のような事実が起きていれば、その貸付金は評価に含めません。抵当権などの担保で守られている部分は、外せません。
| 貸した相手に起きた事実 | 評価から外せる部分 |
|---|---|
| 手形交換所の取引停止処分 | 担保のない部分 |
| 会社更生手続・民事再生手続の開始決定 | 担保のない部分 |
| 特別清算の開始命令 | 担保のない部分 |
| 破産手続の開始決定 | 担保のない部分 |
| 業績不振などで事業を廃止、または6か月以上休業 | 担保のない部分 |
| 再生計画などで債権の切り捨てが決まった | 切り捨てられる部分など |
表の見方:これらの事実がなくても、「回収が不可能または著しく困難」と見込まれれば外せる余地はあります。ただし認められるのは、事業や資産の状況が破綻していることが明らかな場合に限られます。
貸付金に抵当権などの担保を付けている場合は、相手が破産しても、担保で回収できる部分は評価から外せません。外せるのは、担保で回収できない部分だけです。
たとえば1,000万円の貸付金に、600万円の価値がある不動産の抵当権を付けていて、相手が破産した場合、評価に含めるのは600万円です。残りの400万円は評価から外せます。
会社が赤字で、負債が資産を上回っている(債務超過)というだけでは、貸付金を評価から外せません。事業を続けていて、返済が止まっていなければ、元本のまま評価されます。
国税不服審判所の裁決でも、会社の借入金が年商の約8倍あった事例で、返済が滞っておらず事業を続けられる状態だったことから、回収が困難とは認められませんでした。
「社長の貸付金は返ってこないお金だから0円」と自己判断して申告すると、税務調査で指摘され、追加の相続税と加算税がかかります。外せるかどうかは、事実と資料をそろえて判断します。
回収できない貸付金を評価から外せるかは、亡くなった時点の事実で判断します。次の項目を確かめ、当てはまるものを資料で示せるようにしてください。
重要ポイント:最後の2つ以外に当てはまらない場合、評価から外すのは難しいのが実情です。自己判断で外さず、税理士に事実関係を確認してもらってください。
回収できない貸付金を評価から外す場合も、申告書には貸付金があることを記入します。外した理由がわかる資料を、申告書に添付してください。
破産手続の開始決定の通知、休業を示す資料、再生計画の写しなどが添付資料になります。何も書かずに外すと、申告漏れと区別がつかず、税務調査で確認を受ける原因になります。
相続税は、亡くなった日の時点で評価した財産にかかります。相続した後に相手が破産して回収できなくなっても、すでに払った相続税は戻りません。
回収の見込みが心配な貸付金は、申告の前に相手の状況を確かめ、外せる事実がないかを調べます。亡くなった時点ですでに休業していたなど、外せる事実が後から見つかった場合は、更正の請求で相続税を取り戻せる可能性があります。

中小企業の社長は、会社の資金が足りないときに自分のお金を会社に入れることがよくあります。会社の決算書の「役員借入金」は、社長から見れば会社への貸付金で、相続財産になります。
この章では、役員借入金がたまる理由と、相続のときに起きる問題を整理します。
役員借入金は、意識して貸したものだけでなく、日々の資金のやりくりで少しずつ積み上がります。何十年も経営していると、社長本人も金額を把握していないことがあります。
どれも会社の帳簿では社長からの借入金として記録されます。決算書の勘定科目内訳明細書を見ると、役員借入金の相手と金額がわかります。
社長が亡くなると、役員借入金の残高がそのまま社長の相続財産になります。会社に返すお金がなくても、相続人は額面で相続税を払う必要があります。
貸付金はお金で戻ってこないため、相続税の納税資金が足りなくなりがちです。会社の株式も相続財産になるため、社長の相続は財産の多くがすぐ現金にできないものになりやすいのが特徴です。
役員借入金を相続した人は、会社に返済を求める権利を持ちます。後継者以外の相続人が相続すると、会社に返済を求められ、資金繰りが苦しくなることがあります。
| 誰が相続するか | 起きやすいこと |
|---|---|
| 後継者 | 会社に返済を急がずに済むが、相続税の納税資金が別に必要 |
| 後継者以外の相続人 | 会社に返済を求め、会社の資金繰りや経営に影響する |
| 複数の相続人で分ける | 返済の時期や方法で相続人の意見が分かれる |
重要ポイント:役員借入金は、会社の株式と一緒に後継者が相続するのが一般的です。その分の相続税をどう払うかを、遺産分割と合わせて決めておきます。
役員借入金と似た言葉に、役員貸付金があります。お金の流れが逆なので、相続税での扱いも逆になります。
| 項目 | 役員借入金 | 役員貸付金 |
|---|---|---|
| お金の流れ | 社長が会社に貸した | 会社が社長に貸した |
| 社長にとって | 貸付金(財産) | 借入金(債務) |
| 相続税での扱い | 相続財産に加える | 債務として差し引ける |
重要ポイント:両方がある会社では、社長と会社の間で相殺して残高を整理できる場合があります。相殺する場合は、契約や議事録で記録を残します。
会社の帳簿の役員借入金と、社長の通帳から会社に入れたお金の合計が合わないことがあります。相続税の申告では、会社の帳簿と社長個人の記録を突き合わせて、正しい残高を確かめます。
社長が立て替えた経費を帳簿に記録していなかったり、逆に会社から社長に払ったお金を返済として処理していなかったりすると、残高がずれます。決算期ごとの勘定科目内訳明細書をさかのぼって確かめます。
非上場株式の相続税には、一定の条件で納税を猶予する事業承継税制があります。猶予の対象は株式で、会社への貸付金は対象になりません。
株式の相続税は猶予されても、貸付金の分の相続税は期限内に払う必要があります。後継者が株式と貸付金をまとめて相続する場合は、貸付金の分の納税資金を別に用意します。
経営者の相続税対策の全体像は、下記の記事で解説しています。


会社への貸付金は、生前に減らしておけば相続財産を小さくできる可能性があります。ただし方法によっては、相続財産が減らなかったり、会社や他の株主に税金がかかったりします。
この章では、5つの方法の仕組みと注意点を整理します。相続税がいくら減るかは、次の章で試算します。
役員報酬を減らし、その分の資金で会社から社長に返済してもらう方法です。返済されたお金は社長の預金になるため、使わなければ相続財産の額は変わりません。
役員報酬が減ると、社長の所得税と住民税は減ります。一方で会社の利益は増えるため、会社の法人税が増えることがあります。返済で受け取ったお金を生活費や生前贈与に回して、初めて相続財産が減ります。
社長が会社に「返さなくてよい」と伝え、貸付金を消す方法です。貸付金は消えますが、会社の負債が減るため株価が上がります。
会社には、免除された金額の利益(債務免除益)が出て、法人税の対象になります。過去の赤字(繰越欠損金)があれば、その範囲で利益と差し引けます。他に株主がいれば、株価が上がった分が社長からの贈与とされることがあります。
貸付金を会社の株式に振り替える方法で、デット・エクイティ・スワップ(DES)と呼ばれます。貸付金は消えますが、代わりに社長の持つ株式が増えます。
会社が債務超過のときは、貸付金の時価が額面を下回ると考えられ、その差額が会社の利益(債務消滅益)とされることがあります。資本金が増えると、法人住民税の均等割などが上がる場合もあります。
貸付金そのものを、後継者などに生前贈与する方法です。贈与した貸付金は、贈与税の対象になります。
贈与税の評価も、相続税と同じく元本と利息の合計です。暦年贈与で毎年110万円以内ずつ贈与すれば贈与税はかかりません。ただし亡くなる前の一定期間の贈与は相続財産に加算され、その期間は令和6年以後の贈与から段階的に7年まで延びます。
貸付金を後継者に贈与するとき、相続時精算課税を選ぶと、累計2,500万円まで贈与税がかかりません。ただし亡くなったときに、贈与した貸付金は贈与時の価額で相続財産に加算されます。
相続時精算課税では、毎年110万円の基礎控除の部分は加算されません。基礎控除を超える部分は加算されるため、相続税を減らす効果は限られます。会社の株価が上がる見込みがある場合など、目的を確かめて選びます。
事業を続ける予定がない場合は、会社を清算して残った財産で貸付金を返してもらう方法があります。財産が足りずに返してもらえなかった部分は、清算の結了とともに消えます。
会社を続けたい場合には使えません。清算には時間と費用がかかるため、事業の承継をしないことが決まっている場合の選択肢です。
社長が退任するときの退職金を、現金で払う代わりに貸付金と相殺する方法もあります。会社は手元のお金を減らさずに、退職金の支払いと貸付金の返済を同時に済ませられます。
退職金は、受け取った社長の退職所得として所得税がかかりますが、勤続年数に応じた控除があり、給与より税負担が軽くなる仕組みです。ただし金額が高すぎると、会社の経費として認められない部分が出ます。
5つの方法を、相続財産が減るかどうかと、その他の税金の観点で比べます。相続財産を確実に減らせる方法は限られています。
| 方法 | 貸付金 | 相続財産 | 他にかかりうる税金 |
|---|---|---|---|
| 返済(役員報酬の減額) | 減る | 預金に変わるだけ | 会社の法人税が増えることがある |
| 債権放棄 | 消える | 株価が上がる分は減らない | 会社の法人税、他の株主への贈与税 |
| 資本への振り替え(DES) | 消える | 株式に変わる | 会社の法人税(債務消滅益) |
| 後継者に贈与 | 移る | 減る(亡くなる前の一定期間は加算) | 贈与税 |
| 会社の清算 | 回収か消滅 | 回収できない分は減る | 清算の費用 |
表の見方:債権放棄とDESは、貸付金が消えても株価に跳ね返ります。どれだけ相続財産が減るかは、会社が債務超過かどうかで決まります。
どの方法が向いているかは、会社の状態と、会社を続けるかどうかで決まります。まず会社の純資産がマイナスかどうかを確かめてください。
| 会社の状態 | 向いている方法 | 理由 |
|---|---|---|
| 債務超過で、事業を続ける | 債務超過額の範囲で債権放棄 | 相続財産が減り、他の株主への贈与も生じにくい |
| 資産超過で、事業を続ける | 返済・後継者への贈与 | 債権放棄やDESでは相続財産が減らない |
| 事業を続ける予定がない | 会社の清算 | 回収できない分は清算で消える |
| 社長が退任する予定 | 退職金との相殺 | 会社の現金を減らさずに整理できる |
表の見方:複数の方法を組み合わせることもできます。たとえば債務超過額までは債権放棄し、残りは後継者に少しずつ贈与する方法です。

債権放棄は会社への貸付金を消す方法として紹介されることが多いですが、相続税が減るかどうかは会社の状態で決まります。株を純資産価額で評価する場合、減るのは会社が債務超過のときの、超過している額までです。
この章では、債務超過の会社と資産超過の会社で、債権放棄の前後の相続税を試算します。
社長が会社の株式をすべて持ち、株式を純資産価額で評価する場合で試算します。株式の評価額は、会社の資産から負債を引いた額で、マイナスにはならず0円が下限です。
| 項目 | 前提 |
|---|---|
| 相続人 | 子2人(基礎控除4,200万円) |
| 社長のほかの財産 | 預金など5,000万円 |
| 会社への貸付金 | 5,000万円 |
| 会社のほかの負債 | 1,000万円 |
| 会社の法人税 | 過去の赤字(繰越欠損金)で差し引け、0円 |
| 株式の評価 | 純資産価額(含み益なし)。社長が100%保有 |
重要ポイント:実際の株式の評価は、会社の規模によって類似業種比準価額との併用などになります。ここでは仕組みを示すため、純資産価額だけで評価しています。
会社の資産が3,000万円で、負債が6,000万円(社長からの借入金5,000万円+ほか1,000万円)の場合です。債権放棄で、相続税は770万円から320万円に減ります。
| 項目 | 何もしない | 3,000万円を放棄 | 5,000万円を全額放棄 |
|---|---|---|---|
| 会社への貸付金 | 5,000万円 | 2,000万円 | 0円 |
| 株式の評価額 | 0円 | 0円 | 2,000万円 |
| 預金など | 5,000万円 | 5,000万円 | 5,000万円 |
| 相続財産の合計 | 1億円 | 7,000万円 | 7,000万円 |
| 相続税の総額 | 770万円 | 320万円 | 320万円 |
表の見方:3,000万円を放棄すると、会社の資産と負債が同額になり、株価は0円のままです。全額放棄すると、残りの2,000万円は株価の上昇に変わり、相続財産は同じ7,000万円です。
計算ロジック:何もしない場合、株式は3,000万円−6,000万円=マイナスで0円。全額放棄後は3,000万円−1,000万円=2,000万円。相続税は相続財産から基礎控除4,200万円を引き、法定相続分2分の1ずつで計算しています。
会社の資産が1億円で、負債は同じ6,000万円の場合です。債権放棄をしても、相続税は1,560万円のまま1円も減りません。
| 項目 | 何もしない | 3,000万円を放棄 | 5,000万円を全額放棄 |
|---|---|---|---|
| 会社への貸付金 | 5,000万円 | 2,000万円 | 0円 |
| 株式の評価額 | 4,000万円 | 7,000万円 | 9,000万円 |
| 預金など | 5,000万円 | 5,000万円 | 5,000万円 |
| 相続財産の合計 | 1億4,000万円 | 1億4,000万円 | 1億4,000万円 |
| 相続税の総額 | 1,560万円 | 1,560万円 | 1,560万円 |
表の見方:放棄した金額と同じだけ株価が上がるため、相続財産の合計は変わりません。貸付金が株式に置き換わっただけです。
計算ロジック:何もしない場合の株式は1億円−6,000万円=4,000万円。全額放棄後は1億円−1,000万円=9,000万円です。会社に法人税がかかる場合は株価がその分下がりますが、会社が税金を払うだけで、家族全体の負担は減りません。
2つの試算から、債権放棄で相続財産が減る仕組みがわかります。株価は0円より下がらないため、債務超過の部分の貸付金だけが「消えても株価に戻らない」お金になります。
【債権放棄で減る相続財産】
減る額=放棄した額と、会社の債務超過額のうち、小さいほう
【例】
債務超過額3,000万円の会社で5,000万円を放棄しても、減るのは3,000万円です。資産超過の会社では、減る額は0円です。
債権放棄を考える前に、会社の決算書の純資産の部がマイナスかどうかと、その額を確かめます。マイナスでなければ、債権放棄で相続税を減らすことはできません。
債権放棄で相続税が減るかどうかは、会社の決算書でおおよそ判断できます。次の項目を確かめてから、放棄する額を決めてください。
重要ポイント:相続税の株式の評価では、土地を路線価で評価し直すなど、決算書の帳簿の金額とは違う数字を使います。帳簿上は債務超過でも、評価し直すと債務超過でないこともあるため、税理士に試算を依頼してください。
社長以外にも株主がいる会社で債権放棄をすると、株価が上がった分は、他の株主が社長から贈与を受けたものとされます(相続税法基本通達9-2)。ただし会社が債務超過の場合、債務超過額までの部分は贈与とされません(同9-3)。
たとえば債務超過の会社で債務超過額を超えて放棄すると、超えた部分で株価が上がり、他の株主に贈与税がかかることがあります。株主が家族に分かれている会社では、放棄する額を債務超過額の範囲に収めるのが安全です。
参照元:国税庁 相続税法基本通達 第9条《その他の利益の享受》関係
社長が株式をすべて持つ会社では、DESも債権放棄と同じ結果になります。貸付金が消え、会社の純資産が同じ額だけ増えるためです。
債務超過額3,000万円の会社で5,000万円をDESすると、株価は2,000万円になり、相続財産は債権放棄と同じ7,000万円です。資本金が増える分、会社の税金や手続きの負担が増える点が債権放棄との違いです。
債務超過の会社(債務超過額3,000万円)で、社長が株式の70%、子が30%を持つ場合です。債務超過額を超えて放棄すると、子の株の値上がり分600万円が贈与とされます。
| 項目 | 3,000万円を放棄 | 5,000万円を全額放棄 |
|---|---|---|
| 放棄後の株価(会社全体) | 0円 | 2,000万円 |
| 子の株の値上がり(30%) | 0円 | 600万円 |
| 子が社長から贈与を受けたとされる額 | 0円 | 600万円 |
| 子の贈与税(特例税率) | 0円 | 63万5,000円 |
表の見方:3,000万円までの放棄は債務超過額の範囲なので、贈与とされません。超えた2,000万円の放棄で株価が上がり、子の持ち分30%の600万円が贈与になります。
計算ロジック:贈与税は(600万円−110万円)×15%−10万円=63万5,000円(18歳以上の子が親から受けた贈与の税率)。この贈与は、亡くなる前の一定期間内なら相続財産に加算されるため、相続税を減らす効果も打ち消されます。
債権放棄は、社長と会社の間で、いつ・いくら放棄したかを書面で残して行います。記録がないと、税務調査で放棄があったと認められないことがあります。
放棄の時期は、会社の決算期と合わせて検討します。決算の直前に放棄すると、その期の利益と欠損金の関係を見ながら金額を調整しやすくなります。
債権放棄やDESをすると、会社には免除された金額の利益が出ます。過去の赤字(繰越欠損金)が足りなければ、会社に法人税がかかります。
債務超過の会社は過去の赤字が残っていることが多いものの、繰越欠損金を使えるのは原則として10年以内に生じた赤字です。期間が過ぎた赤字は差し引けないため、放棄の前に会社の申告書で残高を確かめます。
参照元:国税庁 No.5762 青色申告書を提出した事業年度の欠損金の繰越控除
非上場株式の評価方法は、下記の記事で詳しく解説しています。


親が子に住宅資金などを貸すことはよくあります。親族間の貸し借りは、貸したのではなくあげた(贈与した)と判断されやすい点に注意が必要です。
この章では、贈与と判断されないための条件と、相続のときの扱いを整理します。
親族間でお金を貸すときは、第三者に貸すのと同じように記録を残します。次の3つがそろっていないと、贈与と判断されることがあります。
【贈与と判断されないための条件】
返済がないまま年月が過ぎていると、貸したときに贈与があったとされ、借りた人に贈与税がかかることがあります。その場合、相続財産の貸付金とは別の問題になります。
親族間の金銭消費貸借契約書は、決まった書式はありませんが、書くべき項目は決まっています。返済期間と返済方法は、借りる人の収入で無理なく返せる内容にしてください。
【契約書に書く項目】
返済は現金の手渡しではなく、銀行振込で行い、通帳に記録が残るようにします。契約書を作っても返済が止まっていると、貸付金としての実態がないと判断されることがあります。
親が子に貸したお金を、途中で「もう返さなくてよい」と免除すると、免除した額は子への贈与とみなされます(相続税法8条)。免除した年に、子に贈与税がかかることがあります。
ただし子が借金を返せないほど資力を失っている場合は、返せない部分について贈与とされない扱いがあります。免除する前に、贈与税がかかるかを確かめます。
貸付金の一部を毎年110万円以内ずつ免除していく方法もあります。免除した額は贈与になりますが、年110万円以内なら贈与税はかかりません。免除の記録は書面で残します。
反対に、亡くなった親が子からお金を借りていた場合は、親の借金になります。返済が残っていれば、相続税の計算で債務として差し引けます。
差し引くには、借りていたことが確実である必要があります。契約書や子の通帳からの送金記録がないと、借金として認められず、差し引けないことがあります。
貸したお金と、あげたお金では、相続税の扱いが違います。貸したお金は、返してもらうまで相続財産に残ります。
| 項目 | 貸付金 | 贈与 |
|---|---|---|
| 渡した時点の税金 | なし | 贈与税(年110万円を超える部分) |
| 相続のとき | 残高が相続財産になる | 亡くなる前の一定期間(最長7年)の分は相続財産に加算 |
| 記録 | 契約書と返済の記録が必要 | 贈与契約書があると安全 |
表の見方:貸付金のまま亡くなると、残高全部に相続税がかかります。少しずつ返済を受けるか、残高の一部を毎年贈与に切り替えると、相続財産を減らせます。
相続人の1人が親から借りていた場合、その貸付金を誰が相続するかで、相続人の間の公平さが変わります。借りていた本人がその貸付金を相続すると、返済の義務は消えます。
お金を貸すことなどで生じる債権は、原則として相続人が法定相続分で当然に分けて引き継ぐとされています。ただし相続人全員が合意すれば、遺産分割の対象に含めて、借りていた本人に相続させることもできます。
借りていた本人が相続した貸付金の額は、その人が受け取った遺産として扱われます。他の相続人とのバランスを、預金や不動産の分け方で調整します。
親族間のお金の動きが名義預金とされる場合は、下記の記事で解説しています。


長年返してもらっていない貸付金は、時効によって請求できなくなることがあります。ただし時効の期間が過ぎても、それだけで自動的に相続財産から外れるわけではありません。
この章では、時効の期間と、相続税での扱いの考え方を整理します。
お金を返してもらう権利は、返済を求められる時から一定期間が過ぎると時効にかかります(民法166条)。令和2年4月1日以後の貸し付けは、原則として5年です。
| 時効の数え始め | 期間 |
|---|---|
| 返済を求められることを知った時から | 5年 |
| 返済を求められる時から | 10年 |
重要ポイント:どちらか早いほうで時効になります。令和2年3月31日以前の貸し付けには改正前の民法が適用され、期間が異なることがあります。
時効は、借りた人が「時効なので返さない」と主張して(時効の援用)、初めて効果が生じます。援用されていない貸付金は、亡くなった時点で権利が残っているため、相続財産として扱うのが基本です。
返済の一部を受けたり、借りた人が借りていることを認めたりすると、時効の進行はやり直しになります(民法152条)。時効を理由に申告から外す前に、返済や確認の記録を確かめ、税理士に判断を仰いでください。
返済が長く止まっている貸付金は、時効が近づいていることがあります。相続した貸付金を守りたい場合は、時効が完成する前に相手に請求してください。
相手に借りていることを書面で認めてもらったり、一部でも返済を受けたりすると、時効の進行はやり直しになります。裁判所への請求も、時効を止める方法の一つです。
参照元:e-Gov法令検索 民法

貸付金は、預金や不動産と違い、通知や明細書が届かないため気づきにくい財産です。相続が始まったら、まず貸付金がないかを洗い出してください。
この章では、洗い出しの方法と、相続の進め方を整理します。
貸付金の手がかりは、亡くなった人の書類とお金の動きに残っています。特に会社への貸付金は、会社の決算書で金額を確かめます。
重要ポイント:税務調査では、通帳の大きな出金の行き先を確かめられます。貸付金を申告から漏らすと、追加の相続税に加えて加算税がかかります。
貸付金を相続した人は、借りた人に返済を求める権利を持ちます。回収の見込みや、借りた人との関係を考えて、相続する人を決めます。
会社への貸付金は、会社の経営を続ける後継者が相続すると、返済の時期を会社の状況に合わせられます。
後継者以外の相続人が貸付金を相続する場合は、返済の時期と方法も遺産分割協議書で決めておくと揉めにくくなります。親族への貸付金は、借りていた本人に相続させると、返済の手間がなくなります。
貸付金はすぐにお金に替えられないため、相続税の納税資金が不足しがちです。現金で一度に払えない場合は、分割払い(延納)を申請できます。
延納には担保と利子税が必要です。また、相続税を不動産や株式などの財産で納める物納もありますが、物納に使える財産は国債・不動産・上場株式などに限られ、貸付金は使えません。
会社への貸付金を相続した後継者は、会社から少しずつ返済を受けて納税資金に充てる方法もあります。会社の資金繰りと相続税の期限を合わせて計画します。
相続税を申告した後に、申告していなかった貸付金が見つかることがあります。気づいたら、税務署から調査の通知が来る前に修正申告をしてください。
| 修正申告の時期 | 過少申告加算税 |
|---|---|
| 調査の通知が来る前に自分で修正 | かからない |
| 調査の通知の後、調査の前に修正 | 原則5% |
| 調査で指摘されてから修正 | 原則10%(多額の部分は15%) |
表の見方:どの場合も、増えた相続税に加えて延滞税がかかります。早く修正するほど、追加の負担は小さくなります。
貸付金は、相手と金額を特定して遺産分割協議書に書きます。利息がある場合は、利息も含めて誰が相続するかを書きます。
【記載例】
相続人Aは、被相続人が株式会社○○(所在地○○)に対して有する貸付金債権○○万円及びこれに付随する一切の権利を取得する。
会社への貸付金を後継者が相続した場合は、会社にも相続人が変わったことを伝え、帳簿の役員借入金の相手を変更してもらいます。
亡くなった人に借金も多い場合は、相続放棄も選択肢になります。回収できない貸付金を額面で相続し、借金だけを確実に引き継ぐことになる場合は、相続放棄が有利なことがあります。
相続放棄は、相続を知った日から3か月以内に家庭裁判所に申し出ます。貸付金を回収したり、相続財産を使ったりすると放棄できなくなるおそれがあるため、判断が終わるまで手を付けないでください。
借金がある相続での判断は、下記の記事で解説しています。


貸付金の相続税は、評価から外せるか、債権放棄で減らせるかの判断で、数百万円の差が出ます。相続税の対応実績がある税理士なら、会社の決算書まで見て、貸付金と株式をまとめて評価できます。
税理士によって同族会社の相続の経験や報酬が違うため、複数の事務所の見積りを比べるのが確実です。この章では、相談する意味と手順を整理します。
会社への貸付金は、株式の評価と切り離して考えられません。片方だけを見て対策すると、相続税が減らないどころか、会社や他の株主に税金がかかることがあります。
【実績がある税理士が必要な理由】
具体例で見ます。債務超過額3,000万円の会社に5,000万円を貸していた社長の相続で、何も対策をしないまま亡くなると、相続税の総額は770万円です。
生前に税理士が債務超過額の範囲で3,000万円の債権放棄を提案していれば、相続税は320万円になり、450万円の差が出ます。
計算ロジック:【前提】この記事の債務超過の会社の試算と同じ(子2人、ほかの財産5,000万円、株式は純資産価額で評価、会社の法人税は繰越欠損金で0円)。
見積りと初回相談の内容から、同族会社の相続の経験が豊富かどうかを読み取れます。次の3点を同じ質問で比べます。
判定ポイント1:会社の決算書を見たがるか/役員借入金があることを伝え、何の資料が必要かを聞きます。
→ 決算書や勘定科目内訳明細書を求める事務所のほうが、貸付金と株式を正しく評価できると判定できます。
判定ポイント2:債権放棄の効果を株価まで含めて説明できるか/「債権放棄で相続税は減りますか」と聞きます。
→ 会社が債務超過かどうかで答えが変わると説明する事務所のほうが、実務に強いと判定できます。
判定ポイント3:非上場株式の評価が報酬に含まれるか/株式の評価にかかる費用が別料金かを確かめます。
→ 先に示す事務所のほうが、後から総額が膨らむ心配が少ないと判定できます。
この3点は複数の事務所に同じ質問をすれば必ず差が出ます。1つの事務所だけでは、その回答が標準なのか判断できません。
【相談しないまま進めるリスク】
貸付金は、生前のうちに対策できる余地が大きい財産です。会社への貸付金がある場合は、元気なうちに税理士に試算を依頼してください。
相続税申告の見積りを比べる手順は、下記の記事で解説しています。

⬇
⬇
⬇
原則としてかかります。貸付金は元本と利息の合計で評価し、相手の返済能力では下がりません。評価から外せるのは、相手が破産や民事再生の手続きに入った、6か月以上休業しているなど、回収できないことがはっきりしている場合です。
債務超過というだけでは0円にできません。会社が事業を続けていて返済が止まっていなければ、元本のまま評価されます。国税不服審判所の裁決でも、借入金が多い会社への貸付金の評価減が認められなかった例があります。
株を純資産価額で評価する会社の場合、債務超過のときは債務超過額までの部分について相続税が減ります。資産超過の会社では、放棄した分だけ株価が上がるため、相続財産は減りません。
類似業種比準価額を使う会社では結果が変わるため、試算で確かめます。会社に法人税がかかることもあるため、放棄の前に試算が必要です。
貸付金は相続財産として申告します。借りていた子がその貸付金を相続すると返済の義務は消えますが、相続税は亡くなった時点の貸付金にかかります。遺産分割で、借りていた子の取り分として扱うのが一般的です。
時効の期間が過ぎただけでは外れません。時効は、借りた人が時効を主張して初めて効果が生じます。返済の一部を受けていると時効の進行はやり直しになるため、記録を確かめて税理士に判断を仰いでください。
貸付金は、返してもらえなくても元本と利息の合計で相続税がかかります。評価から外せるのは回収できないことがはっきりした場合だけで、会社が債務超過というだけでは外せません。
この記事で扱った内容を整理すると次のとおりです。
今すぐ取るべき行動
※本記事は2026年10月時点の法令等に基づいています。財産評価基本通達や相続税法の改正により内容が変わる場合があります。最新の制度については国税庁のウェブサイトまたは相続税の対応実績がある税理士にご確認ください。