


中小企業のオーナーが亡くなった場合、その会社の株式(非上場株式)は相続財産として相続税の課税対象になります。非上場株式は市場で取引されないため、預貯金や上場株式のように時価が明確ではなく、複雑な評価計算が必要です。評価方法を誤ると、本来より高い相続税を払うことになりかねません。
この記事では、非上場株式の評価方法を決めるフロー、類似業種比準方式と純資産価額方式の計算手順、5パターンのケース別シミュレーション、事業承継税制による納税猶予の活用、株価を下げる節税対策まで、順序立てて解説します。相続発生後は申告期限(10か月)が迫るため、早めに全体像を把握しておくことが重要です。
▼ この記事の3行まとめ

相続税の計算では、財産の種類ごとに決められた評価方法があります。非上場株式は「取引相場のない株式」として分類され、上場株式とはまったく異なる評価の手順が定められています。まず基本的な定義と特徴を確認しましょう。
上場株式は株式市場で取引されているため、相続発生日の株価(または相続発生月・前後2か月の平均株価のうち最も低いもの)をそのまま評価額として使います。評価方法が単純で、証券会社の残高証明書を取得すればほぼ確認できます。
一方、非上場株式には市場で決まる価格がありません。そのため、会社の財務内容・事業規模・株主構成などをもとに、国税庁が定める評価方法(財産評価基本通達)に従って評価額を算出します。
| 比較項目 | 上場株式 | 非上場株式 |
|---|---|---|
| 評価の基礎 | 市場の取引価格(株価) | 会社の財務数値から計算 |
| 評価の複雑さ | 低い(株価参照のみ) | 高い(複数のステップが必要) |
| 評価額の幅 | 一意に決まる | 評価方式によって数倍変わる |
| 専門家の必要性 | 低い | 非常に高い |
評価方式の選択によって非上場株式の評価額は最大4倍程度変わることがあります。正しい評価方式を選ぶことが、相続税を適正な水準に抑えるための最重要ポイントです。
税法上、非上場株式は「取引相場のない株式」と呼ばれます。具体的には、金融商品取引所(東証・名証など)や店頭市場(JASDAQ等)に上場していない会社の株式を指します。日本の法人の99%以上は中小企業であり、その多くが非上場です。中小企業オーナーの相続では、自社株式の評価が相続税全体の中で最も大きな比重を占めるケースが少なくありません。
会社が利益を上げていたり、資産が多かったりすると、株式の評価額も高くなります。遺産総額が基礎控除を大きく上回り、相続税が数千万円〜数億円になるケースも珍しくありません。
非上場株式の評価は会社の決算書・株主名簿・定款などの資料が必要になります。相続発生後は速やかにこれらを収集することが必要です。
中小企業オーナーの相続では、一般的な相続(不動産・預貯金が中心)と比べて以下の点が複雑になります。
これらの複雑な要素が絡み合うため、非上場株式の相続税申告は相続税の対応実績がある税理士に依頼することが強く推奨されます。

非上場株式の評価方法は、3つのステップを経て決定します。どの評価方式を適用するかによって最終的な税額が大きく変わるため、このフローを正確に理解することが重要です。
まず、株式を相続する人が「同族株主」に該当するかどうかを判定します。同族株主かどうかによって適用する評価方式(原則的評価方式 or 配当還元方式)が決まります。
同族株主の判定基準
同族株主とは、株主の1人およびその同族関係者(配偶者・親族・関連会社など)の議決権の合計が、会社の議決権総数の30%以上を占める株主グループに属する株主をいいます。
| 状況 | 同族株主の判定 | 適用する評価方式 |
|---|---|---|
| 議決権30%以上の同族グループに属する | 同族株主 | 原則的評価方式(類似業種比準・純資産価額) |
| 筆頭株主グループが50%超を保有し、その グループに属さない | 少数株主 | 配当還元方式(特例的評価方式) |
| どの同族グループも30%未満の場合で15%未満のグループに属する | 少数株主 | 配当還元方式(特例的評価方式) |
配当還元方式は原則的評価方式より大幅に低い評価額になります。少数株主であれば配当還元方式が適用されるため、株主区分の判定は評価額を左右する最初の重要ポイントです。
同族株主に該当した場合(原則的評価方式を適用する場合)、次に「特定会社」に該当するかどうかを確認します。特定会社に該当すると、通常の会社規模判定ではなく、純資産価額方式のみが適用されます。
特定会社の主な種類
| 特定会社の種類 | 該当する条件 | 評価方式 |
|---|---|---|
| 株式等保有特定会社 | 総資産に占める株式等の割合が50%以上 | 純資産価額方式のみ(S1+S2方式も選択可) |
| 土地保有特定会社 | 総資産に占める土地等の割合が一定割合以上(大会社70%・中小会社90%) | 純資産価額方式のみ |
| 比準要素数1の会社 | 配当・利益・簿価純資産の3要素のうち2つがゼロ | 純資産価額方式のみ(または類似業種比準25%+純資産75%も選択可) |
| 開業後3年未満の会社 | 設立後3年が経過していない | 純資産価額方式のみ |
| 休廃業中の会社 | 事業を休止または廃業している | 純資産価額方式のみ |
持株会社や不動産管理会社は「株式等保有特定会社」や「土地保有特定会社」に該当することが多く、純資産価額方式のみが適用されます。これらの会社は一般に評価額が高くなりやすいため、生前対策が特に重要です。
特定会社に該当しない場合、会社規模を「大会社・中会社・小会社」に判定します。会社規模によって類似業種比準方式と純資産価額方式の配分割合が変わります。
会社規模は、①従業員数、②取引金額(売上高)、③総資産価額の3要素で判定します。
| 会社規模 | 類似業種比準割合 | 純資産価額割合 | 判定の目安 |
|---|---|---|---|
| 大会社 | 100%(純資産価額も選択可) | — | 従業員70人以上 または 売上・総資産が大規模 |
| 中会社の大 | 90% | 10% | 大会社と中会社の中の間 |
| 中会社の中 | 75% | 25% | 中規模の会社 |
| 中会社の小 | 60% | 40% | 中会社の中と小会社の間 |
| 小会社 | — | 100%(類似50%+純資産50%も選択可) | 従業員5人以下 または 売上・総資産が小規模 |
類似業種比準方式は一般に純資産価額方式より評価額が低くなります。そのため、会社規模が大きいほど(大会社に近いほど)、類似業種比準方式の割合が高くなり、評価額が低くなる傾向があります。会社規模の境界線付近にある会社は、従業員数の増減・資産構成の変化で判定が変わることがあるため、事前に確認することが重要です。

原則的評価方式には「類似業種比準方式」と「純資産価額方式」の2つがあります。それぞれの計算の仕組みと、会社規模に応じた使い分けを理解しましょう。
類似業種比準方式は、評価する会社と業種が似ている上場会社の株価を基準に、配当金額・利益金額・純資産価額(簿価)の3つの要素を比較して評価額を算出する方法です。
計算式
1株当たりの類似業種比準価額 = 類似業種株価 × {(D/D’ + E/E’ + F/F’)÷ 3}× 斟酌率
| 記号 | 意味 | 計算の基礎 |
|---|---|---|
| D | 評価会社の1株当たり配当金額 | 直前2期の平均 |
| E | 評価会社の1株当たり利益金額 | 直前期または直前2期の平均 |
| F | 評価会社の1株当たり簿価純資産 | 直前期末の純資産÷発行済株式数 |
| D’・E’・F’ | 類似業種の各数値 | 国税庁が毎月公表 |
| 斟酌率 | 規模別の調整率 | 大会社0.7・中会社0.6・小会社0.5 |
類似業種比準方式のポイントは、評価会社の利益が低いほど(または無配当であるほど)、評価額が下がる点です。利益が多く出ている会社ほど評価額が高くなります。
類似業種の株価・配当・利益・純資産の数値は国税庁が毎月公表しており、相続発生月の数値を使って計算します。必ず相続発生月の数値を確認してください。
純資産価額方式は、会社が保有するすべての資産を「相続税評価額」で評価し直し、そこから負債と法人税等相当額を差し引いた純資産を発行済株式数で割って1株当たりの評価額を算出する方法です。
計算式
1株当たりの純資産価額 =(相続税評価額による総資産 − 負債 − 法人税等相当額)÷ 発行済株式数
法人税等相当額 =(相続税評価額による純資産 − 帳簿価額による純資産)× 37%
法人税等相当額は「含み益(相続税評価額 − 帳簿価額)」に対して37%を控除するものです。会社が保有する土地や株式に含み益がある場合、その37%が差し引かれることで評価額が抑えられます。含み益がなければこの控除はゼロです。
| 資産の種類 | 帳簿価額での評価 | 相続税評価額での評価 |
|---|---|---|
| 土地 | 取得価額(購入時の金額) | 路線価方式・倍率方式 |
| 建物 | 取得価額 − 減価償却累計額 | 固定資産税評価額 |
| 上場株式 | 取得価額 | 相続発生時の終値等の平均 |
| 売掛金・預金 | 帳簿価額 | 帳簿価額(同じ) |
純資産価額方式は会社の資産内容を相続税評価額で洗い替えるため、帳簿価額と相続税評価額の差(含み益)が大きい会社では評価額が高くなります。土地を多く保有している会社は特に注意が必要です。
中会社に分類された会社は、類似業種比準方式と純資産価額方式を一定の割合で組み合わせた「折衷方式」を使います。
折衷後の評価額 = 類似業種比準価額 × L + 純資産価額 ×(1 − L)
| 会社規模 | L(類似業種の割合) | 計算イメージ |
|---|---|---|
| 中会社の大 | 0.9 | 類似90% + 純資産10% |
| 中会社の中 | 0.75 | 類似75% + 純資産25% |
| 中会社の小 | 0.6 | 類似60% + 純資産40% |
小会社は純資産価額方式100%が原則ですが、「類似業種比準価額 × 0.5 + 純資産価額 × 0.5」を選択することも可能です。いずれか低い方を選択できるため、小会社でも類似業種比準方式を50%混在させる折衷を使うことで評価額を下げられる場合があります。必ず両方を計算して比較してください。
国税庁の調査(2020〜21年分)によると、純資産価額方式による評価額の中央値が約4万2,648円であるのに対し、類似業種比準方式は約1万1,622円と、約3.7倍の差がありました。これが「評価方式で税額が最大4倍変わる」といわれる根拠です。
| 評価方式 | 1株当たり評価額の中央値 | 特徴 |
|---|---|---|
| 類似業種比準方式 | 約1万1,622円 | 業界平均との比較のため低くなりやすい |
| 純資産価額方式 | 約4万2,648円 | 含み益も加味するため高くなりやすい |
この差が生まれる最大の理由は、純資産価額方式では「含み益(帳簿価額と相続税評価額の差)」が評価額に反映されるのに対し、類似業種比準方式では簿価ベースの純資産を使うためです。土地や株式の含み益が大きい会社では、評価方式の違いが税額に甚大な影響を与えます。

実際の相続では、会社規模・業種・財産構成・株主構成によって非上場株式の評価額と相続税額が大きく異なります。ここでは5つのパターンで具体的な税額を試算します。なお、試算は概算であり、実際の申告では詳細な計算が必要です。
前提条件
計算の流れ
純資産価額方式のみで評価した場合(30,000円×5,000株=1億5,000万円)と比べると、類似業種比準方式を使うことで非上場株式の評価額が3分の1になり、相続税も大幅に低減されます。大会社に分類された場合は類似業種比準方式100%が使えるため、会社規模の判定結果が節税に直結します。
前提条件
計算の流れ
小会社でも折衷方式(類似50%+純資産50%)を選択できます。利益が出ている会社であれば折衷方式の方が低くなる場合があるため、両方を計算して比較することが重要です。
前提条件
計算の流れ
純資産価額方式100%で評価した場合(20,000円×3,000株=6,000万円)と比べると、折衷方式を使うことで評価額が3,300万円になり、相続税が大幅に減少します。折衷方式では類似業種比準価額と純資産価額の両方を正確に計算することが前提となります。いずれかを誤ると折衷後の評価額も変わります。
前提条件
同じ会社の株式でも、同族株主の評価(純資産価額方式)が1株20,000円の場合、少数株主の配当還元価額は1株50円となり、400分の1の評価額になります。これが配当還元方式の最大のポイントです。
ただし、少数株主の判定基準は厳密であり、形式上は少数株主でも実質的に経営に参画している場合は原則的評価方式が適用されるリスクがあります。株主区分の判定は必ず専門家に確認してください。
前提条件
特例措置適用後の納税額
事業承継税制(特例措置)を活用することで、後継者が取得した全株式の相続税を100%猶予し、最終的に免除を受けることができます。ただし適用には事前の認定申請・申告期限内の申請が必要です。相続発生後すぐに税理士へ相談することが必要です。

少数株主(同族株主以外の株主)が非上場株式を相続した場合、「配当還元方式」という特例的な評価方式が適用されます。この方式では評価額が原則的評価方式より大幅に低くなるため、自分が少数株主に該当するかどうかの確認は非常に重要です。
配当還元方式が適用されるのは「少数株主」に分類された場合です。少数株主とは以下のいずれかに該当する株主をいいます。
少数株主は会社の経営に実質的に関与できない立場にあるため、「配当を受け取る権利」だけが価値として評価されます。これが配当還元方式の考え方の基礎です。
形式上は少数株主でも、実際には経営判断に関与していたり、大株主と密接な関係にある場合は原則的評価方式が適用されるリスクがあります。判定には注意が必要です。
配当還元方式の計算式は以下の通りです。
1株当たりの配当還元価額 = 1株当たりの年間配当金額 ÷ 10%
1株当たりの年間配当金額 = 直前2期の平均配当金額 ÷(資本金等の額 ÷ 50円)
計算例:直前2期の平均配当金額が100万円、資本金が1,000万円(1株50円換算で20,000株)の場合
無配当(配当なし)の場合でも、最低評価額として「2円50銭 ÷ 10% = 25円」が設定されています。純資産価額方式の評価額が配当還元価額より低い場合は、純資産価額方式の価額が上限になります。
| 評価方式 | 評価額の傾向 | 税負担の目安 |
|---|---|---|
| 類似業種比準方式(大会社) | 市場類似株価の0.5〜0.7程度 | 中程度 |
| 純資産価額方式 | 相続税評価額ベースの純資産 | 高い |
| 配当還元方式 | 年間配当の10倍(非常に低い) | 非常に低い |
同じ会社の株式でも、同族株主(原則的評価方式)と少数株主(配当還元方式)では評価額に数十〜数百倍の差が生じることがあります。

事業承継税制(法人版)とは、後継者である相続人が、一定の要件を満たす中小企業の非上場株式等を相続した場合に、その相続税の納税を猶予し、最終的に免除される制度です。中小企業の事業継続を支援することを目的として設けられています。
参照元:国税庁 No.4148 非上場株式等についての相続税の納税猶予及び免除の特例等
| 比較項目 | 一般措置 | 特例措置(2018〜2027年) |
|---|---|---|
| 対象となる株式数 | 議決権株式の2/3まで | 全株式(上限なし) |
| 猶予割合 | 80% | 100% |
| 後継者の数 | 1人 | 最大3人 |
| 雇用確保要件 | 5年平均で8割維持が必要 | 未達成でも理由説明で猶予継続可 |
| 適用期限 | 期限なし | 2027年12月31日までに承継が必要 |
特例措置は2027年12月31日までに承継(相続または贈与)を行うことが要件です。期限が迫っているため、事業承継を検討している場合は早急に対応する必要があります。
先代経営者(被相続人)の要件
後継者(相続人)の要件
会社の要件
猶予された相続税が最終的に「免除」になる主な条件は以下の通りです。
| 免除の条件 | 内容 |
|---|---|
| 後継者が死亡した場合 | 猶予税額が全額免除 |
| 次の後継者に贈与税の特例措置で承継した場合 | 猶予税額が免除 |
| 破産・解散等をした場合 | 一定の条件のもとで免除 |
猶予を継続するためには、相続税の申告後も毎年「継続届出書」を税務署に提出する義務があります。提出を忘れると猶予が取り消され、猶予税額と利子税を一括納付しなければならなくなります。
事業承継税制は強力な節税ツールですが、以下のリスクも伴います。

非上場株式の評価額は、会社の財務状況・配当・利益によって変動します。相続が発生する前に計画的に対策を打つことで、評価額を引き下げ、相続税の負担を軽減することが可能です。
類似業種比準方式で評価される会社(大会社・中会社)の場合、配当・利益・純資産の3つの要素を下げることで評価額を引き下げることができます。
| 対策の種類 | 具体的な方法 | 効果が出やすい会社 |
|---|---|---|
| 利益の圧縮 | 役員報酬の増額、設備投資、含み損の実現 | 利益が多い会社 |
| 配当の調整 | 配当を抑制または無配にする | 高配当の会社 |
| 純資産の圧縮 | 不要な資産の処分、退職金の支払い | 内部留保が多い会社 |
| 含み益の圧縮 | 含み益のある資産を処分して含み損を活用 | 土地・株式を多く保有する会社 |
株価引き下げ対策は、相続発生の2〜3年前から計画的に実施することが効果的です。直前に急激に利益を圧縮する行為は税務調査で否認されるリスクがあります。
株価が低い時期(業績不振・利益圧縮後)に後継者へ株式を生前贈与することで、相続財産から株式を減らすことができます。
| 贈与方法 | 非課税枠 | 特徴 |
|---|---|---|
| 暦年贈与 | 年間110万円まで非課税 | 少額を毎年贈与して株式を移転。相続発生前7年以内の贈与は相続財産に加算(2024年以降) |
| 相続時精算課税 | 累計2,500万円まで贈与税ゼロ | 大量の株式を一度に贈与できる。相続発生時に相続財産に加算されるが、贈与時の評価額で固定される |
| 事業承継税制(贈与版) | 全株式の贈与税を猶予 | 後継者への株式贈与で贈与税を猶予・免除。相続発生時の引継ぎで相続税も猶予 |
相続時精算課税制度は、贈与時に株価が低い時期に活用することで効果を最大化できます。贈与後に株価が上昇しても、贈与時の低い評価額で相続財産に加算されるため、株価が下がっている時期の贈与が有利です。
「名義株式」とは、形式上は他の人(子・孫など)の名義になっているが、実質的には被相続人が出資・管理・議決権行使を行っている株式を指します。名義株式は相続発生時に被相続人の相続財産として課税されます。
| 名義株式と判断される主なケース | 対策 |
|---|---|
| 株式の取得資金を被相続人が出した | 名義人が自己資金で取得した実態を証明する書類を整備 |
| 配当金を被相続人が受け取っていた | 配当金を名義人の口座に振り込む形にする |
| 名義人が株主として行動していない | 株主総会への参加・議決権行使の記録を残す |
| 名義人が株式の存在を知らない | 正式な贈与手続きを行い名義を整理する |
名義株式は税務調査で最も問題になりやすい項目の一つです。相続発生前に正式な贈与手続きを完了させ、贈与税の申告を行うことで名義株式問題を解消することが重要です。

非上場株式を相続した後、その株式をどう処理するかは相続人にとって重要な選択です。会社に関与し続けるか、株式を換金するかによって税負担が異なります。
会社の経営に引き続き関与する場合や、株式を換金する必要がない場合は保有継続が選択されます。この場合、追加的な税金は発生しません(毎年の配当所得に対しては所得税がかかります)。
ただし、後継者問題や他の相続人との共有によるトラブルが将来発生するリスクがあります。また、保有し続けることで次の相続時(二次相続)に再び非上場株式の評価額が問題になります。
保有継続する場合も、次世代への承継計画を早期に立てることが重要です。後継者不在のまま放置すると、相続のたびに株式が分散し、経営権が不安定になります。
後継者がいない場合や、事業を廃止したい場合は第三者(M&A)への売却が選択肢になります。売却益(譲渡所得)には申告分離課税が適用されます。
非上場株式の譲渡所得税率 = 所得税15% + 住民税5% = 20.315%
売却価格から取得費(相続税評価額)と譲渡費用を差し引いた利益が課税対象です。なお、相続で取得した株式の取得費は原則として相続税評価額が使われます。
相続税の申告期限から3年以内にM&A等で株式を売却した場合、支払った相続税の一部を取得費に加算できる「相続税の取得費加算の特例」(租税特別措置法第39条)が使えます。売却を検討している場合は3年以内という期限を意識することが重要です。
会社自身が相続人から株式を買い取る「自己株式の取得(金庫株)」という方法もあります。相続人が現金化できると同時に、オーナー家以外への株式分散を防ぐことができます。
| 比較項目 | 第三者への売却(M&A) | 会社への売却(金庫株) |
|---|---|---|
| 税率 | 20.315%(譲渡所得) | 原則20.315%(ただし配当課税になるケースあり) |
| 株式の行き先 | 第三者が株主になる | 会社が自己株式として保有 |
| 経営への影響 | 経営権が移転する可能性 | 経営権を維持しやすい |
| 会社の資金 | 関係なし | 会社に買取資金が必要 |
金庫株の場合、買取価格が相続税評価額を超える部分は「みなし配当」として総合課税(最高55%)になるケースがあります。取引価格と税負担を慎重に検討してください。
非上場株式の相続税申告は複雑なため、税務調査で問題が発覚するケースが少なくありません。特に問題になりやすい3つのポイントを把握しておきましょう。
前述の通り、形式上は他の人名義でも実質的には被相続人の株式であると税務署が認定した場合、申告漏れとして追徴課税されます。追徴課税には本税に加えて、重加算税(35〜40%)と延滞税が課される可能性があります。
税務調査では以下の点が確認されます。
名義株式問題は相続発生後では解決が困難です。生前に正式な贈与手続きを完了させ、贈与税申告を行っておくことが最善の対策です。
非上場株式の評価計算は複雑であるため、評価方式の選択誤り・計算式の適用ミス・使用する数値の取り違えなどが発生しやすいです。税務調査で評価誤りが発覚した場合、修正申告と追徴課税が必要になります。
評価で間違いが起きやすい主なポイントを確認しましょう。
| ミスが起きやすいポイント | 正しい取り扱い |
|---|---|
| 株主区分の判定誤り | 同族関係者の範囲・議決権割合を正確に確認する |
| 類似業種の業種分類の選択 | 国税庁公表の業種目表で正しい業種を選択する |
| 1株当たりの資本金等の額の計算 | 発行済株式数の基準(1株50円換算)を正確に適用する |
| 純資産価額の計算(法人税等37%の適用) | 含み益がある場合のみ37%控除を適用する |
| 特定会社の判定漏れ | 株式保有割合・土地保有割合を確認する |
非上場株式に関して税務調査で申告漏れが発覚しやすいパターンを確認しましょう。
非上場株式の相続税申告の調査率は一般的な相続よりも高い傾向にあります。申告前に税理士による完全なチェックを受けることが不可欠です。

非上場株式の相続は、評価計算・事業承継税制の活用・節税対策・税務調査リスクのすべてにおいて高度な専門知識が必要です。相続発生後に早めに税理士へ相談することが、節税と申告ミス防止の両面から極めて重要です。
非上場株式の評価では、適用する評価方式の選択・会社規模の判定・計算に使う数値の取り方など、複数の判断が必要です。これらの判断は税理士によって異なることがあり、適切な評価方式を選択できるかどうかで税額が数百万〜数千万円変わるケースがあります。
| リスクの種類 | 具体的な内容 | 金銭的な影響の目安 |
|---|---|---|
| 評価方式の選択ミス | 有利な評価方式を見落として過大な税額を申告 | 数百万〜数千万円の過払い |
| 名義株式の申告漏れ | 税務調査で認定され追徴課税 | 追徴本税+重加算税(35〜40%)+延滞税 |
| 事業承継税制の申請失敗 | 要件未確認・期限超過で特例を使えなかった | 猶予されるはずだった相続税全額を納付 |
| 申告期限の超過 | 10か月の申告期限を過ぎた | 無申告加算税(5〜20%)+延滞税 |
| 特例措置の期限切れ | 2027年末までに承継が間に合わなかった | 特例措置が使えず一般措置のみ(猶予80%) |
| 項目 | 金額の目安 |
|---|---|
| 非上場株式を含む相続税申告の税理士報酬 | 50〜150万円程度(財産規模・複雑さによる) |
| 適切な評価方式選択による節税効果 | 数百万〜数千万円(評価額の差による) |
| 事業承継税制活用による猶予・免除効果 | 相続税額の全額(特例措置の場合100%猶予) |
| 名義株式問題の解消(重加算税回避) | 追徴本税の35〜40%のリスク回避 |
| 節税対策の事前実施(株価引き下げ) | 株価水準次第で数百万〜数千万円 |
非上場株式を含む相続では、税理士報酬を大幅に上回る節税・リスク回避効果が得られるケースがほとんどです。相続税の対応実績があり事業承継に詳しい税理士を選ぶことが重要です。
理論上は自分で計算することも可能ですが、株主区分の判定・会社規模の判定・類似業種の選択・純資産価額の算出など、複数のステップにわたる複雑な計算が必要です。計算ミスや評価方式の選択誤りが追徴課税につながるリスクが高く、また有利な評価方式を見落とす可能性もあるため、相続税の対応実績がある税理士への依頼を強く推奨します。
事業承継税制は後継者が会社を引き継いで代表者になることが要件です。後継者がいない場合は適用できません。後継者が見つからない場合は、M&Aによる第三者への売却か、会社の清算を選択することになります。清算の場合は残余財産が相続人に分配され、その額が相続税の課税対象になります。
赤字の会社でも純資産(資産−負債)がプラスであれば相続税の課税対象になります。純資産がマイナス(債務超過)の場合は株式の評価額がゼロになり、相続税はかかりません。ただし、会社が負債を抱えている場合でも、株式評価ゼロと判断されるまでには慎重な計算が必要です。
2027年12月31日までに特例承継計画の提出と承継(相続または贈与)が完了しなかった場合、特例措置は使えなくなり、一般措置のみが適用されます。一般措置では猶予割合が80%(特例は100%)、対象株式数が議決権の2/3まで(特例は全株)という制限があります。期限が迫っているため、早急に税理士に相談することをお勧めします。
非上場株式は市場で自由に売買できないため、一般的に買い手を見つけることは困難です。選択肢としては、①他の株主(同族株主)への売却、②会社自身への売却(自己株式取得・金庫株)、③M&A仲介業者を通じた第三者への売却があります。会社の業績・財務内容によって買い手の関心度が変わるため、M&Aアドバイザーや税理士に相談することをお勧めします。
非上場株式の評価方法の基本
節税・特例活用のポイント
相続後の処理と注意点
今すぐ取るべき行動
※本記事は2025年12月時点の法令・税率に基づいて作成しています。税制は改正されることがありますので、申告前には必ず税理士または税務署へご確認ください。本記事の内容は一般的な情報提供を目的としており、個別の税務相談に代わるものではありません。