


限定承認とは、亡くなった人の借金を、相続した財産の範囲内でだけ引き継ぐ相続の方法です。借金が財産より多くても、相続人が自分のお金で払う必要はありません。
限定承認をしても、相続税はなくなりません。財産が基礎控除を超えれば、通常どおり申告と納税が必要です。さらに、土地や株式などの値上がり益に、亡くなった人の所得税がかかることがあります。
限定承認は、借金がどれだけあるかわからないときや、自宅など残したい財産があるときに検討されます。
税金の面では、限定承認をすると、亡くなった日に財産を時価で売ったものとみなされます。そのため、値上がりした土地があると、相続しただけで数百万円の所得税が出ることがあります。
一方で、死亡保険金がある家庭では、相続放棄より限定承認のほうが相続税が少なくなる場合があります。相続放棄した人は、保険金の非課税枠を使えないためです。
どの方法が得かは、借金の額、保険金、値上がりした財産の有無、相続した財産を売るかどうかで変わります。判断の期限は3か月しかないため、早めに税額を比べる必要があります。
この記事では、限定承認でかかる税金の種類、所得税の計算方法、準確定申告の期限、相続税の計算、単純承認・相続放棄との手元に残る額の比較、相続後の税金と手続きを解説します。
▼ この記事の3行まとめ

限定承認は借金の負担を限る制度で、税金をなくす制度ではありません。相続税は単純承認とほぼ同じように計算され、加えて亡くなった人の所得税がかかることがあります。
この章では、限定承認の仕組みと、かかる税金の全体像、単純承認・相続放棄との違いを整理します。
相続人は、相続を知った日から3か月以内に、単純承認・限定承認・相続放棄のどれかを選びます。限定承認は、相続した財産で払える範囲までしか借金を返さなくてよい方法です。
たとえば財産が3,000万円、借金が5,000万円なら、財産の3,000万円を借金の返済にあて、残りの2,000万円は払わずに済みます。逆に財産が多ければ、借金を返した残りを相続できます。
限定承認は、相続人全員がそろって家庭裁判所に申し出る必要があります(民法923条)。1人でも反対すれば使えません。
限定承認が選ばれるのは、相続放棄では困る事情がある場合です。借金がありそうでも、残したい財産があるなら限定承認を検討する価値があります。
どの場面でも、税金の面では値上がりした財産の有無が判断を左右します。値上がり益が大きい財産があると、限定承認をした時点で所得税が先に出るためです。
限定承認に関わる税金は、誰に、いつかかるかで3つに分けると整理できます。同じ土地でも、亡くなった人の所得税と相続人の税金は別々に計算します。
| 税金 | 誰の税金か | いつ申告するか | 払う範囲 |
|---|---|---|---|
| 亡くなった人の所得税(みなし譲渡を含む) | 亡くなった人 | 知った日の翌日から4か月以内(準確定申告) | 相続した財産の範囲まで |
| 相続税 | 相続人 | 知った日の翌日から10か月以内 | 相続人が自分で払う |
| 相続後の家賃や売却にかかる税金 | 相続人 | 翌年の確定申告 | 相続人が自分で払う |
表の見方:限定承認で「相続した財産の範囲まで」で済むのは、亡くなった人から引き継ぐ税金だけです。相続税や相続後の税金は相続人自身の税金なので、全額を払います。
限定承認をしても、相続税の基礎控除(3,000万円+600万円×法定相続人の数)や税率は変わりません。財産から借金を引いた額が基礎控除を超えれば、相続税の申告が必要です。
違いが出るのは、借金を差し引ける額と、亡くなった人の所得税を差し引ける点です。どちらも相続税の額を左右するため、この記事で順に説明します。
3つの方法は、借金の扱いだけでなく、税金の扱いも違います。特に保険金の非課税枠と、値上がり益への所得税の有無が分かれ目です。
| 項目 | 単純承認 | 限定承認 | 相続放棄 |
|---|---|---|---|
| 借金 | 全額を引き継ぐ | 相続した財産の範囲まで | 引き継がない |
| 手続き | 不要 | 相続人全員で家庭裁判所へ | 1人ずつ家庭裁判所へ |
| 値上がり益への所得税 | かからない(売ったときに相続人に課税) | 亡くなった日にかかる | かからない |
| 保険金の非課税枠 | 使える | 使える | 使えない |
| 相続税で借金を差し引く | 全額 | 相続した財産の範囲まで | できない |
重要ポイント:相続放棄をすると、次の順位の人(親や兄弟姉妹)が相続人になります。限定承認なら、次の順位の人に借金の判断を回さずに済みます。
参照元:裁判所 相続の限定承認の申述

限定承認をすると、亡くなった人が亡くなった日に、財産を時価で相続人に売ったものとみなされます(所得税法59条1項1号)。実際には売っていなくても、値上がり益に所得税がかかります。
これを「みなし譲渡」といいます。この章では、対象になる財産、税額の計算方法と税率、計算例を示します。
通常の相続(単純承認)では、相続人が亡くなった人の買った値段と持っていた期間を引き継ぎ、売ったときに初めて税金がかかります。限定承認では、亡くなった時点で値上がり益を清算します。
値上がり益は亡くなった人の所得になるため、相続人が代わりに、亡くなった人の確定申告(準確定申告)をします。払った所得税は、相続税の計算で借金として差し引けます。
借金が多い場合でも、この所得税は相続した財産の範囲で払えば足ります(国税通則法5条1項)。相続人が自分のお金で払う必要はありません。
みなし譲渡の対象は、売れば譲渡所得になる財産です。預貯金や現金は対象にならないため、財産が預金だけなら所得税はかかりません。
| 財産 | みなし譲渡の対象か | 確かめること |
|---|---|---|
| 土地・借地権 | 対象 | 買った値段と、亡くなった日の時価 |
| 建物 | 対象 | 減価償却後の値段と時価 |
| 上場株式・投資信託 | 対象 | 買った値段と、亡くなった日の終値など |
| 非上場株式 | 対象 | 会社の財務内容から時価を出す |
| 金地金・ゴルフ会員権・美術品 | 対象 | 買った値段と買取価格 |
| 預貯金・現金 | 対象外 | ― |
| 貸付金などのお金の請求権 | 対象外 | ― |
| 家具・衣類など生活用の動産 | 対象外 | ― |
表の見方:対象になる財産でも、亡くなった日の時価が買った値段以下なら、値上がり益がないので所得税はかかりません。親が昔に買った土地ほど、値上がり益が大きくなりやすいです。
所得税は「亡くなった日の時価−買った値段」に税率を掛けて計算します。亡くなった年の所得には住民税がかからないため、税率は通常の売却より5〜9%低くなります。
| 財産 | みなし譲渡の税率(所得税+復興特別所得税) | 相続人が売るときの税率(住民税込み) |
|---|---|---|
| 土地・建物(持っていた期間5年超) | 15.315% | 20.315% |
| 土地・建物(持っていた期間5年以下) | 30.63% | 39.63% |
| 上場株式など | 15.315% | 20.315% |
重要ポイント:住民税は1月1日に住んでいる人にかかるため、亡くなった年の所得には翌年の住民税がかかりません。土地・建物の5年超・5年以下は、亡くなった年の1月1日時点で、亡くなった人が持っていた期間で判定します。
買った値段がわからない場合は、時価の5%を買った値段とみなせます。この場合、値上がり益が時価の95%になり、所得税が大きくなります。
親が昔に300万円で買った土地が、亡くなった日に時価6,000万円になっていた場合で計算します。限定承認をすると、この土地だけで約873万円の所得税がかかります。
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 亡くなった日の時価 | 6,000万円 |
| 買った値段 | 300万円 |
| 値上がり益 | 5,700万円 |
| 所得税(15%) | 855万円 |
| 復興特別所得税(所得税の2.1%) | 17万9,550円 |
| 合計(持っていた期間5年超) | 872万9,550円 |
表の見方:亡くなった人が5年を超えて持っていた土地の例です。5年以下なら税率が30.63%になり、所得税は1,745万9,100円まで増えます。
重要ポイント:時価は相続税評価額(路線価など)ではなく、実際に売れる値段です。不動産会社の査定や鑑定で根拠を残します。
計算ロジック:【前提】令和8年中に亡くなった場合。値上がり益5,700万円×15%=855万円、855万円×2.1%=17万9,550円。特別控除や売却費用は考えない単純化した計算です。
みなし譲渡の時価は、財産の種類ごとに決め方が違います。上場株式は、亡くなった日の取引価格を基準に時価を決めます。
| 財産 | 時価の決め方の目安 |
|---|---|
| 上場株式 | 亡くなった日の取引価格(終値など) |
| 投資信託 | 亡くなった日の基準価額をもとにした解約・買取の価額 |
| 土地・建物 | 不動産会社の査定や不動産鑑定 |
| 非上場株式 | 会社の財務内容と株主構成から算定(所得税の通達に沿って計算) |
重要ポイント:相続税の評価では、上場株式は亡くなった日の終値と、その月以前3か月の毎日の終値の月平均のうち最も低いものを選べますが、みなし譲渡の時価とは別物です。2つの金額を混同しないよう、資料を分けて残します。
みなし譲渡の所得税は、値上がり益があるときだけかかります。財産が預金だけの家庭や、時価が買った値段より下がった土地しかない家庭では、みなし譲渡の所得税は0円です。
ただし、亡くなった人に年金や給与などの所得があれば、みなし譲渡とは別に準確定申告が必要な場合があります。限定承認かどうかに関係なく、所得の有無を確かめます。
相続で所得税がかかる場面の全体像は、下記の記事で解説しています。


みなし譲渡の所得税は、亡くなった人の確定申告(準確定申告)で申告します。期限は、相続を知った日の翌日から4か月以内です。
限定承認を決める期限(3か月)とほぼ同時に来るため、両方を並行して準備する必要があります。この章では、期限の関係と注意点を整理します。
限定承認をする家庭は、3つの期限を同時に管理します。3か月の判断期限を過ぎると、自動的に単純承認になります。
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参照元:国税庁 No.2022 納税者が死亡したときの確定申告(準確定申告)
3か月の判断期限は、家庭裁判所に申し立てれば延ばせます。しかし、準確定申告の4か月の期限は、判断期限を延ばしても延びません。
限定承認をするかどうかが決まらないまま4か月を過ぎると、みなし譲渡の所得税が期限後の申告になり、延滞税や無申告加算税がかかる可能性があります。
期限内に申告することが、財産の処分にあたって単純承認とみなされないかという問題もあります。判断が分かれる点なので、弁護士と税理士に同時に相談して進め方を決めてください。
みなし譲渡を含む準確定申告では、通常の準確定申告より多くの資料が必要です。時価と買った値段の根拠は、申告の前にそろえてください。
【集める資料】
買った値段の資料が見つからない場合は、時価の5%を買った値段とします。古い土地ほど資料が残っていないことが多いため、相続が始まったらすぐ探し始めます。
みなし譲渡の所得税は亡くなった人の税金なので、相続人は相続した財産の範囲で払えば足ります(国税通則法5条1項)。財産が足りなくても、相続人が自分の預金から払う必要はありません。
ただし、税金は借金の返済より優先して払う扱いになることがあります。清算の順番を誤ると、他の債権者との関係で相続人が責任を問われるおそれがあるため、税額は清算の計画に早めに入れます。
準確定申告の手順と必要書類は、下記の記事で解説しています。


限定承認をしても、相続税の基本的な計算は単純承認と同じです。違いは、借金を差し引ける額と、亡くなった人の所得税を差し引ける点の2つです。
この章では、相続税の計算で限定承認ならではの注意点と、保険金がある場合に相続税がかかる仕組みを説明します。
基礎控除は3,000万円+600万円×法定相続人の数で、子2人なら4,200万円です。財産から借金を引いた額がこれ以下なら、相続税はかかりません。
税率も、法定相続分に応じた取得金額に10〜55%を掛ける通常の計算です。配偶者の税額軽減など、ほかの特例も単純承認と同じように使えます。
相続放棄をした人がいても、法定相続人の数は放棄がなかったものとして数えます。限定承認かどうかで、基礎控除の額は変わりません。
みなし譲渡の所得税は、亡くなった人の税金なので、相続税の計算で借金として差し引けます(相続税法14条2項)。所得税を払った分だけ、相続税が少なくなります。
| 項目 | 単純承認 | 限定承認 |
|---|---|---|
| 預金 | 5,000万円 | 5,000万円 |
| 土地(相続税評価額) | 4,800万円 | 4,800万円 |
| 借金 | −1,000万円 | −1,000万円 |
| 亡くなった人の所得税(みなし譲渡) | ― | −872万9,550円 |
| 相続税(子2人) | 590万円 | 459万400円 |
表の見方:所得税を差し引けるため、相続税は約131万円少なくなります。ただし所得税を約873万円払うので、税金の合計は限定承認のほうが多くなります。
計算ロジック:【前提】土地は時価6,000万円・買った値段300万円・持っていた期間5年超。課税価格は単純承認8,800万円、限定承認7,927万円(千円未満切捨て)。基礎控除4,200万円を引き、法定相続分2分の1ずつで税率を掛けています。
相続税で差し引ける借金は、相続人が実際に負担する額です(相続税法基本通達13-3)。限定承認では、借金を払うのは相続した財産の範囲までなので、差し引ける額もその範囲までになると考えられます。
単純承認なら、借金が財産より多くても全額を差し引けます。その結果、保険金などの課税分まで借金で打ち消せることがあります。限定承認では、ここに差が出ます。
みなし譲渡の所得税は「時価」で、相続税は「相続税評価額」で計算します。同じ土地でも、2つの税金で違う金額を使うのが正しい計算です。
土地の相続税評価額は、路線価が公示価格の8割程度を目安に決められているため、時価より低くなるのが一般的です。所得税の計算に相続税評価額を使うと、値上がり益を少なく申告することになります。
反対に、相続税の計算に時価を使う必要はありません。土地は路線価などで評価し、所得税の時価とは分けて資料を残します。
限定承認の清算は、相続税の申告期限(10か月)までに終わらないことがあります。その場合でも、期限内に申告と納付をする必要があります。
財産の分け方が決まっていないときは、法定相続分で財産を取得したものとして申告します(相続税法55条)。清算や分け方が決まった後に、実際の取得額との差を修正申告や更正の請求で直します。
ただし、分け方が決まっていない状態の申告では、配偶者の税額軽減や小規模宅地等の特例は使えません。申告期限から3年以内に分け方が決まれば、更正の請求でこれらの特例を後から使えます。
重要ポイント:特例を後から使うには、申告書と一緒に「申告期限後3年以内の分割見込書」を出しておく必要があります。清算が長引きそうなら、最初の申告で必ず提出してください。
受取人が決まっている死亡保険金は、受取人自身の財産なので、借金の返済にあてる必要はありません。一方で相続税では、保険金は相続財産とみなされて課税されます。
保険金には500万円×法定相続人の数の非課税枠があり、限定承認をした相続人も使えます。非課税枠を超えた保険金が基礎控除を超えると、借金が多い相続でも相続税がかかります。
借金がある相続での相続税の考え方は、下記の記事で解説しています。


3つの方法のどれが得かは、借金・保険金・値上がりした財産の組み合わせで変わります。同じ家庭でも、方法の選び方で手元に残る額が2,900万円以上違う例があります。
この章では、よくある2つのパターンで、税金を払った後に相続人の手元に残る額を比べます。最後に、自分のケースがどれに近いかを判定できる表を示します。
試算は、相続人が子2人、亡くなったのが令和8年中という前提です。弁護士費用や官報公告などの手続き費用は含めていないため、実際の判断ではその費用も差し引いて比べてください。
| 項目 | 前提 |
|---|---|
| 相続人 | 子2人(配偶者なし)、基礎控除は4,200万円 |
| 保険金の非課税枠 | 500万円×2人=1,000万円 |
| 手元に残る額 | 相続した財産+保険金−借金の返済−税金 |
| 土地の評価 | 時価と相続税評価額を別に設定(評価額は時価の8割) |
| 含めないもの | 弁護士費用・官報公告・鑑定などの手続き費用 |
預金2,000万円、借金5,000万円で、子2人が死亡保険金を合わせて6,000万円受け取る家庭です。単純承認より限定承認のほうが、手元に残る額が2,920万円多くなります。
| 項目 | 単純承認 | 限定承認 | 相続放棄 |
|---|---|---|---|
| 預金 | 2,000万円 | 2,000万円(借金の返済へ) | 受け取らない |
| 保険金(課税される額) | 5,000万円 | 5,000万円 | 6,000万円 |
| 差し引ける借金 | 5,000万円 | 2,000万円 | 0円 |
| 相続税 | 0円 | 80万円 | 180万円 |
| 相続人が払う借金 | 5,000万円 | 2,000万円(預金から) | 0円 |
| 手元に残る額 | 3,000万円 | 5,920万円 | 5,820万円 |
表の見方:単純承認では相続税は0円ですが、保険金から3,000万円を借金の返済にあてることになります。限定承認と相続放棄は保険金を守れますが、相続税がかかります。
重要ポイント:限定承認と相続放棄の差100万円は、保険金の非課税枠の有無から生まれています。限定承認の手続き費用が100万円を超えるなら、相続放棄のほうが手元に多く残ります。
計算ロジック:限定承認は2,000万円+5,000万円−2,000万円=5,000万円、基礎控除後800万円で400万円×10%×2人=80万円。相続放棄は6,000万円−4,200万円=1,800万円で900万円×10%×2人=180万円です。
保険金の非課税枠(500万円×法定相続人の数)は、受取人が相続人である場合に使えます。相続放棄をした人は相続人に含まれないため、保険金の全額が相続税の対象になります。
さらに相続放棄をした人は、相続税の計算で借金を差し引くこともできません。葬式費用を実際に負担した場合だけは、例外として差し引けます。
保険金の額が大きいほど、非課税枠の差が相続税の差になります。非課税枠1,000万円に掛かる税率が20%なら、差は200万円に広がります。
| 保険金の扱い | 単純承認 | 限定承認 | 相続放棄 |
|---|---|---|---|
| 保険金を受け取れるか | 受け取れる | 受け取れる | 受け取れる |
| 借金の返済にあてる必要 | なし(ただし借金は全額負担) | なし | なし |
| 非課税枠 | 使える | 使える | 使えない |
| 借金を差し引けるか | 全額 | 相続した財産の範囲まで | できない |
重要ポイント:相続放棄をしても保険金は受け取れますが、法定相続人の数は放棄がなかったものとして数えるため、非課税枠を使える人が減っても基礎控除は減りません。
参照元:国税庁 No.4114 相続税の課税対象になる死亡保険金
相続放棄をした場合の相続税の扱いは、下記の記事で詳しく解説しています。

限定承認と相続放棄の相続税の差は、保険金が大きいほど広がります。保険金4,000万円では差は0円ですが、2億円では300万円になります。
| 死亡保険金 | 限定承認の相続税 | 相続放棄の相続税 | 差 |
|---|---|---|---|
| 4,000万円 | 0円 | 0円 | 0円 |
| 6,000万円 | 80万円 | 180万円 | 100万円 |
| 8,000万円 | 320万円 | 470万円 | 150万円 |
| 1億円 | 620万円 | 770万円 | 150万円 |
| 1億5,000万円 | 1,560万円 | 1,840万円 | 280万円 |
| 2億円 | 3,040万円 | 3,340万円 | 300万円 |
表の見方:差は、保険金の非課税枠1,000万円に、その家庭でかかる税率を掛けた額にほぼ等しくなります。この差が限定承認の手続き費用より大きければ、限定承認のほうが手元に多く残ります。
計算ロジック:【前提】パターンAと同じ(預金2,000万円・借金5,000万円・子2人)で、保険金の額だけを変えています。限定承認では差し引ける借金を預金の2,000万円までとしています。
預金2,000万円、土地(時価6,000万円・買った値段300万円)、借金3,000万円の家庭です。土地を持ち続けるか、すぐ売るかで、有利な方法が逆転します。
| 項目 | 単純承認・持ち続ける | 単純承認・すぐ売る | 限定承認 |
|---|---|---|---|
| 亡くなった人の所得税(みなし譲渡) | 0円 | 0円 | 872万9,550円 |
| 相続人が売るときの税金 | 0円 | 1,157万9,550円 | 0円 |
| 相続税 | 0円 | 0円 | 0円 |
| 手元に残る額 | 5,000万円 | 3,842万450円 | 4,127万450円 |
表の見方:持ち続けるなら単純承認が873万円有利です。すぐ売るなら、限定承認のほうが285万円多く残ります。限定承認の所得税には住民税がかからないためです。
重要ポイント:限定承認では、相続人の買った値段が時価6,000万円に置き換わります。時価で売れば値上がり益がなく、相続人の税金は0円です。
計算ロジック:単純承認で売る場合は5,700万円×20.315%(住民税5%を含む)=1,157万9,550円。限定承認は5,700万円×15.315%=872万9,550円。相続税は、どちらも課税価格が基礎控除4,200万円以下で0円です。
この例は借金より財産が多い家庭ですが、借金の全体がわからず、限定承認で身を守りたい場合に起こりやすい形です。結果的に財産が残る場合の税金まで試算してから選んでください。
預金2,000万円、借金5,000万円、保険金3,000万円の家庭です。値上がりする財産がなく、保険金が非課税枠と基礎控除に収まるなら、限定承認と相続放棄で手元に残る額は同じです。
| 項目 | 単純承認 | 限定承認 | 相続放棄 |
|---|---|---|---|
| みなし譲渡の所得税 | 0円 | 0円 | 0円 |
| 相続税 | 0円 | 0円 | 0円 |
| 手元に残る額 | 0円 | 3,000万円 | 3,000万円 |
表の見方:単純承認では、預金で返しきれない借金3,000万円を、保険金など相続人自身のお金で払うことになります。限定承認と相続放棄は税金も手元の額も同じなので、手続きが簡単な相続放棄が向いています。
計算ロジック:相続放棄の場合、保険金3,000万円は基礎控除4,200万円以下なので相続税は0円です。限定承認でも、預金2,000万円+保険金2,000万円−借金2,000万円=2,000万円で0円です。
次の表で、自分の家庭の状況に近い行を探してください。最終的な判断は、手続き費用まで含めた試算で決めてください。
| 家庭の状況 | 税金面で有利になりやすい方法 | 理由 |
|---|---|---|
| 財産が借金より明らかに多い | 単純承認 | 限定承認をすると値上がり益に所得税がかかる |
| 借金が明らかに多く、保険金もない | 相続放棄 | 税金の差がなく、手続きが簡単 |
| 借金が多く、保険金が大きい | 限定承認(費用次第で相続放棄) | 保険金の非課税枠を使える |
| 借金の額がわからない | 限定承認 | 財産の範囲で借金を止められる |
| 値上がりした土地を相続後すぐ売る | 限定承認 | 住民税がかからない分、税金が少ない |
| 値上がりした土地を持ち続ける | 単純承認 | 売るまで所得税がかからない |
| 次の順位の親族に負担を回したくない | 限定承認 | 相続放棄のように相続権が移らない |
重要ポイント:複数の行に当てはまる場合は、それぞれの方法で手元に残る額を試算して比べます。3か月の期限内に試算できるよう、財産と借金の資料を早く集めてください。

限定承認で相続した財産を後で売ったり貸したりすると、相続人自身に税金がかかります。単純承認とは、買った値段・持っていた期間・使える特例が違います。
この章では、相続後に財産を売るとき・貸すときの税金の扱いを整理します。
限定承認で相続した財産は、相続人が亡くなった日の時価で買ったものとみなされます(所得税法60条4項)。みなし譲渡で課税済みの値上がり益に、もう一度課税されることはありません。
売るときは、この時価を買った値段として計算します。親が買った値段で計算すると、同じ値上がり益に二重に税金を払うことになるため注意してください。
時価を決めた査定書や鑑定書は、準確定申告だけでなく、相続人が売るときの資料にもなります。売るまで保管しておきます。
単純承認なら、相続人は亡くなった人が持っていた期間を引き継ぎます。限定承認では、持っていた期間は亡くなった日から数え直します。
| 項目 | 単純承認 | 限定承認 |
|---|---|---|
| 買った値段 | 亡くなった人の買った値段 | 亡くなった日の時価 |
| 持っていた期間の起点 | 亡くなった人が買った日 | 亡くなった日 |
| 相続後すぐ売った場合の税率(土地・建物) | 20.315%(5年超が多い) | 39.63%(5年以下) |
重要ポイント:限定承認の後、亡くなった日より値上がりしてから売ると、その値上がり分に39.63%の高い税率がかかります。売った年の1月1日時点で5年を超えると、20.315%に下がります。
限定承認で相続した土地が、亡くなった日の時価より安くしか売れないこともあります。この場合、相続人の側では売却損になり、税金はかかりません。
ただし土地・建物の売却損は、原則として給与など他の所得と差し引きできません。みなし譲渡で払った所得税も、後から値下がりしたことを理由に戻ってくるわけではありません。
時価を高く見積もりすぎると、所得税を多く払ったうえ、売るときに損が出るだけになります。時価は根拠のある査定で決めることが大切です。
単純承認なら、相続税を払った人が相続後3年10か月以内に財産を売ると、払った相続税の一部を買った値段に加算できます。限定承認で相続した財産には、この特例は使えません(租税特別措置法39条7項)。
限定承認では買った値段がすでに時価に置き換わっているため、相続税を加算する仕組みの対象から外されています。相続税がかかる家庭では、この差も試算に入れます。
参照元:国税庁 No.3267 相続財産を譲渡した場合の取得費の特例
限定承認で相続したアパートなどの家賃は、相続人の不動産所得として課税されます。限定承認をしても、相続した後の家賃の扱いは単純承認と同じです。
家賃は相続分に応じて各相続人の所得になり、翌年の確定申告が必要です。一方、家賃のお金は借金の返済にあてられることもあるため、納税資金を別に確保しておきます。
自宅を売ったときの3,000万円の特別控除は、子や配偶者など身内への売却には使えません。みなし譲渡は相続人への売却とみなされるため、この控除は使えないと考えて計画するのが安全です。
この点を明確に示した国税庁の事例は見当たらず、専門家の間でも使えないとする見方が有力です。控除を前提に資金計画を立てないでください。
相続した不動産を売るときの税金と特例は、下記の記事で解説しています。


限定承認は、家庭裁判所への申し出から、債権者への公告、財産の換金、借金の返済まで、相続人が自分で清算を進める手続きです。清算には数か月から1年以上かかることがあります。
この章では、税金と関係する部分を中心に、手続きの流れを整理します。
限定承認は、相続人全員がそろって、亡くなった人の最後の住所地の家庭裁判所に申し出ます。相続を知った日から3か月以内に、財産目録を付けて申し出てください。
【申し出に必要なもの】
相続放棄をした人は初めから相続人でなかったことになるため、残りの相続人全員で申し出ます。1人だけ放棄して、残りで限定承認をすることもできます。
申し出が受理された後は、債権者を集めて財産を分ける清算に入ります。財産を勝手に使ったり売ったりすると、単純承認とみなされるおそれがあります。
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参照元:e-Gov法令検索 民法
限定承認をした後でも、相続財産を隠したり、勝手に使ったりすると、単純承認をしたものとみなされます(民法921条3号)。そうなると、借金を全額引き継ぐことになります。
【やってはいけないこと】
葬儀費用の支払いや、財産の価値を保つための管理は、通常は問題になりにくい行為です。判断に迷う支出は、弁護士に確認してから行ってください。
限定承認では、財産は原則として競売にかけられます。ただし、家庭裁判所が選んだ鑑定人の評価額を相続人が払えば、競売を止めて自宅などを残せます(民法932条ただし書)。
残すための資金を、保険金や相続人自身の預金から用意する家庭もあります。自宅に値上がり益があれば、みなし譲渡の所得税もかかるため、鑑定額と所得税の両方を資金計画に入れます。
鑑定人は、相続人が家庭裁判所に申し立てて選んでもらいます。鑑定の費用もかかるため、残したい財産の価値と比べて判断します。
鑑定額と、みなし譲渡で使う時価は、評価の目的が違うため一致するとは限りません。どちらの資料も残しておきます。

限定承認は、選んだ後に取り消すことが原則としてできません。3か月の期限内に、財産・借金・値上がり益を一覧にしてから決めてください。
この章では、申し出の前に確かめる項目と、限定承認が向いている人・向かない人を整理します。
次の項目を確かめると、どの方法で税金がいくらかかるかの試算ができます。特に、土地や株式の買った値段の資料は早めに探してください。
重要ポイント:買った値段の資料がないと、時価の5%を買った値段とみなすことになり、みなし譲渡の所得税が大きくなります。売買契約書や通帳の記録を探してください。
財産や借金の調査が3か月で終わらない場合は、家庭裁判所に判断期限の延長を申し立てられます(民法915条1項ただし書)。申し立ては3か月の期限が過ぎる前に行ってください。
延長が認められるかと、その長さは、家庭裁判所が事情を見て決めます。延長しても、準確定申告の4か月と相続税の10か月の期限は延びない点に注意が必要です。
延長した期間は、税額の試算にも使えます。3つの方法で手元に残る額を比べてから判断すると、後悔が少なくなります。
限定承認は、相続人全員でしか選べません。1人でも単純承認をしたり、財産を使ってしまったりすると、他の相続人も限定承認ができなくなります。
反対する相続人がいる場合、その人が相続放棄をすれば、残りの相続人で限定承認ができます。話し合いには時間がかかるため、相続が始まったらすぐに意向を確かめます。
限定承認は手続きの負担が大きいため、向いている状況は限られます。税金と手続き費用を合わせて、単純承認や相続放棄より得になるかで判断してください。
| 向いている人 | 向かない人 |
|---|---|
| 借金がどれだけあるかわからない | 財産が借金より明らかに多い |
| 借金が多いが、残したい自宅や事業用の財産がある | 相続人の意見がまとまらない |
| 保険金が大きく、非課税枠を使いたい | 値上がりした土地を長く持ち続けたい |
| 次の順位の親族に相続を回したくない | 清算を担う人の時間や費用を確保できない |
表の見方:左右の両方に当てはまる場合は、どちらの影響が大きいかを金額で比べます。迷う場合は、判断期限の延長を家庭裁判所に申し立てて調査の時間を確保します。

限定承認は、家庭裁判所の手続きと税金の申告の両方が必要です。手続きは弁護士・司法書士、税金は税理士と、専門家の役割が分かれます。
この章では、誰に何を頼むかと、相談のタイミングを整理します。
限定承認では、家庭裁判所への申し出と、税金の申告を別々の専門家が担うことが多いです。税額の試算は、限定承認を選ぶかどうかを決める前に税理士へ頼んでください。
| やること | 主な依頼先 |
|---|---|
| 限定承認の申し出・清算・債権者対応 | 弁護士 |
| 申述書の作成・相続登記 | 司法書士 |
| 3つの方法の税額比較・時価の確認 | 税理士 |
| 準確定申告(みなし譲渡の所得税) | 税理士 |
| 相続税の申告 | 税理士 |
重要ポイント:弁護士と税理士が連携していないと、清算の計画に所得税が入らず、返済の順番を誤るおそれがあります。両者に同じ財産目録を渡し、情報を共有してください。
限定承認を選ぶかどうかは、税額の試算がないと判断できません。相続が始まってから1か月以内に税理士へ相談すると、3か月の期限に間に合いやすくなります。
税理士には、財産と借金の一覧、買った値段の資料、保険金の金額を渡して、3つの方法で手元に残る額を比べてもらいます。所得税と相続税の両方を扱える税理士を選びます。
限定承認では、家庭裁判所の手続きと税金の申告を別の専門家に頼むため、費用も別々にかかります。見積りを取るときは、両方の費用を合わせた総額で比べてください。
手続きの費用には、専門家の報酬のほか、官報公告の掲載料、不動産の鑑定費用、競売の予納金などがあります。税理士の費用には、準確定申告と相続税申告の報酬がかかります。
これらの総額が、限定承認で守れる金額や、相続放棄との相続税の差より大きければ、限定承認を選ぶ意味は薄れます。費用の見積りは、方法を決める前に取ります。
初回相談で税額の目安を出してもらうには、資料がそろっているほど正確になります。完全にそろわなくても、わかる範囲で持っていけば試算は始められます。
相談では、限定承認を検討していることと、3か月の期限がいつかを最初に伝えます。期限から逆算して、試算と申し出の段取りを組んでもらいます。
限定承認の手続きや清算にかかる費用は、相続財産から払える場合があります。ただし財産が足りなければ、相続人が自分で負担することになります。
相続財産から払う管理や清算の費用は、相続税の計算で借金として差し引けません(相続税法基本通達13-2)。専門家の報酬が相続税を減らすわけではない点も、比較の前提に入れます。
依頼先を探す方法は、下記の記事で解説しています。


限定承認を選ぶかどうかは、所得税と相続税の両方を試算しないと判断できません。相続税の対応実績がある税理士なら、3つの方法で手元に残る額を比べて示せます。
限定承認は利用が少ない手続きのため、税理士によって経験に差が出やすい分野です。複数の事務所に相談して比べるのが確実です。この章では、相談する意味と手順を整理します。
限定承認の税金は、亡くなった人の所得税と相続人の相続税が絡み合います。片方だけを見て決めると、手元に残る額で数百万円の差が出ることがあります。
【実績がある税理士が必要な理由】
具体例で見ます。値上がりした土地があり、相続後すぐ売る予定の家庭で、所得税を気にして単純承認を選ぶと、売るときに1,157万9,550円の税金がかかります。
税理士が3つの方法を比べて限定承認を勧めれば、所得税は872万9,550円で済み、手元に残る額は約285万円多くなります。
計算ロジック:【前提】この記事のパターンBと同じ(預金2,000万円・土地の時価6,000万円・買った値段300万円・借金3,000万円・子2人)。手続き費用は含めていません。
限定承認の経験は、見積りと初回相談の内容から読み取れます。次の3点を同じ質問で比べます。
判定ポイント1:3つの方法の比較を出せるか/「単純承認・限定承認・相続放棄で税金がいくら違うか試算できますか」と聞きます。
→ 手元に残る額まで比べて示す事務所のほうが、限定承認の実務に強いと判定できます。
判定ポイント2:準確定申告まで引き受けるか/みなし譲渡の所得税の申告を、相続税申告と一緒に頼めるかを確かめます。
→ 両方を一貫して扱う事務所のほうが、期限と金額の食い違いが起きにくいと判定できます。
判定ポイント3:弁護士との連携の経験があるか/清算の計画に税金をどう組み込むかを聞きます。
→ 具体的な進め方を説明できる事務所のほうが、手続きと税金のずれを防げると判定できます。
この3点は複数の事務所に同じ質問をすれば必ず差が出ます。1つの事務所だけでは、その回答が標準なのか判断できません。
【相談しないまま進めるリスク】
3つの方法の選択は、3か月を過ぎるとやり直せません。借金がありそうな相続は、判断の前に税理士に税額を試算してもらってください。
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かかる場合があります。限定承認でも相続税は免除されず、財産から借金を引いた額が基礎控除(3,000万円+600万円×法定相続人の数)を超えれば、相続税の申告が必要です。借金が多くても、死亡保険金が非課税枠と基礎控除を超えると相続税がかかります。
限定承認をすると、亡くなった人が亡くなった日に、財産を時価で相続人に売ったものとみなされるためです(所得税法59条)。土地や株式に値上がり益があれば、その益に所得税がかかり、4か月以内に準確定申告をします。
かかりません。みなし譲渡の対象は土地・建物・株式など売れば譲渡所得になる財産で、預貯金や現金は対象外です。ただし、亡くなった人に年金などの所得があれば、別に準確定申告が必要な場合があります。
死亡保険金がある場合は、限定承認のほうが安くなることがあります。相続放棄をした人は保険金の非課税枠(500万円×法定相続人の数)を使えないためです。ただし手続き費用は限定承認のほうがかかるため、費用を含めて比べます。
延びません。3か月の判断期限は家庭裁判所に申し立てれば延ばせますが、準確定申告の期限は相続を知った日の翌日から4か月のままです。期限を過ぎると延滞税などがかかる可能性があるため、早めに税理士へ相談してください。
限定承認は借金を相続した財産の範囲に限る制度で、相続税はかかります。値上がりした財産があれば、亡くなった人の所得税も加わります。一方で、保険金がある家庭では相続放棄より有利になることがあります。
この記事で扱った内容を整理すると次のとおりです。
今すぐ取るべき行動
※本記事は2026年10月時点の法令等に基づいています。相続税法・所得税法・民法の改正により内容が変わる場合があります。最新の制度については国税庁のウェブサイトまたは相続税の対応実績がある税理士にご確認ください。