


日本の相続税は、名目の最高税率が55%で、世界でも高い水準にあります。
ただし実際に納める割合(実効負担率)は財産額しだいで、多くの人が思うほど高くないのが実態です。
「相続税は高すぎる」という声は、よく聞かれます。
その多くは、最高税率55%という数字を、そのまま自分に当てはめた不安から来ています。
実際には基礎控除や配偶者の税額軽減があり、相続税がかかるのは全体の約1割にとどまります。
「高いかどうか」は名目の税率ではなく、あなたの資産額での実効負担率で判断する必要があります。
本記事では、名目税率と実効負担率の違い、資産帯別の実効負担率の早見表、世界との比較、そして「高い」と感じる5つの誤解を整理します。
▼ この記事の3行まとめ

まず結論です。日本の相続税は「名目の最高税率は世界トップ級、でも実際に払う負担は財産しだい」というのが正確な姿です。数字の意味を分けて見ていきましょう。
日本の相続税の最高税率は55%で、主要国のなかでも最も高い水準です。
ただしこの55%は、1人が法定相続分として6億円を超えて取得した部分にだけかかる税率です。
つまり55%が適用されるのは、ごく一部の超高額な相続に限られます。
相続税の税率は10%から55%までの8段階で、取得金額が大きいほど段階的に上がる累進課税です。
実際に55%が適用されるのは、資産が数十億円規模の相続などに限られます。
一般的な相続で使う税率は、多くが10%か15%の範囲に収まります。
そのため「最高税率55%」という数字は、多くの人にとって自分の負担とは大きくかけ離れています。
この数字だけが独り歩きして、実態以上の不安を広げているのが現状です。
本記事で、その不安を具体的な数字に置き換えていきましょう。数字さえ分かれば、必要以上に恐れずにすみます。
実際に納める相続税は、財産全体に対して1〜2割程度に収まることが多いです。
これは基礎控除や税額軽減によって、課税される金額が実際の財産より小さくなるためです。
「財産に対して実際に何%を納めたか」を示す割合を、実効負担率といいます。
この実効負担率と名目の最高税率55%とのギャップが、「高い」という印象の正体です。
ニュースなどで語られる「最高55%」は、あくまで税率表の上限の数字です。
自分の相続でその税率が使われるとは限らない、とまず押さえておきましょう。
| 見る数字 | 値 | 意味 |
|---|---|---|
| 名目の最高税率 | 55% | 6億円超の取得分にだけかかる上限の税率 |
| 実効負担率(例) | 数%〜十数% | 財産全体に対して実際に納める割合 |
表の見方:「高い」と語られるときの55%は上の名目税率です。自分の負担を知りたいなら、下の実効負担率で考えるのが正解です。
この記事のねらいは、名目税率のイメージを、あなたの実際の負担額に置き換えることです。
数字で見れば、「高い」という漠然とした不安は、具体的な見通しに変わります。
日本の相続税が「高い」と語られるのには、主に3つの理由があります。
1つ目は、名目の最高税率55%が主要国のなかで世界トップ級であることです。
2つ目は、課税が始まる基礎控除が3,600万円からと、諸外国に比べて低めであることです。
3つ目は、2015年の改正で基礎控除が下がり、課税される人が一気に増えたことです。
この3つが重なり、「相続税は誰にでも重くのしかかる」という印象が広がりました。
とくに2015年の改正は多くのメディアで取り上げられ、不安を後押ししました。
「相続税が身近になった」という報道が、実態以上の警戒感につながった面もあります。
一方で、実際の数字を見ると印象はかなり変わります。
相続税がかかるのは全体の約1割で、残りの9割はそもそもかかりません。
課税された人でも、財産全体に対する実効負担率は数%〜十数%にとどまるのが一般的です。
「高い」という印象と実際の負担には、大きなギャップがあります。
つまり「高い」という言葉には、事実の面と誤解の面が混ざっています。
この記事を読み終えるころには、自分にとって高いのかどうかを判断できるようになります。
本記事では、このギャップを1つずつ数字で埋めていきます。まずは印象の正体である「5つの誤解」から見ていきましょう。

「相続税は高すぎる」という不安の多くは、いくつかの誤解から生まれています。代表的な5つを分解すると、不安の正体が見えてきます。
もっとも多いのが、55%という最高税率を自分の相続に当てはめてしまう誤解です。
55%は6億円超を取得した部分だけの税率で、一般的な相続で使う税率は10〜20%程度です。
「財産の半分以上を持っていかれる」というイメージは、多くの人にとって過大な不安です。
たとえば遺産1億円を子2人で相続しても、実効負担率は約7.7%にとどまります。
55%が使われるのは1人が6億円を超えて取得した部分だけで、ごく一部の相続に限られます。
税率と、実際に払う割合を同じものと考えてしまうのも典型的な誤解です。
税率は課税対象の一部にかかる数字で、財産全体に対する負担ではありません。
財産全体で見た実効負担率は、名目税率よりずっと低くなるのが普通です。
税率10%や15%といった数字も、基礎控除を引いた後の一部にかかるにすぎません。
遺産8,000万円を子2人で相続する場合、実効負担率は約5.9%にとどまります。
相続税には基礎控除があり、財産のうち一定額までは課税されません。
基礎控除は「3,000万円+600万円×法定相続人の数」で計算します。
相続人が1人でも3,600万円、3人なら4,800万円までは相続税がかかりません。
この控除を見落とすと、実際より重い負担を想像してしまいます。
たとえば遺産5,000万円で相続人が3人なら、基礎控除4,800万円を引いた200万円だけが課税対象です。
財産の全部に課税されるわけではない、という点を押さえておきましょう。
配偶者が財産を相続する場合、配偶者の税額軽減という大きな優遇があります。
配偶者は1億6,000万円か法定相続分のどちらか多い額まで、相続税がかかりません。
そのため配偶者がいる一次相続では、相続税がゼロになるケースも多くあります。
たとえば遺産1億円を配偶者がすべて相続すれば、1億6,000万円の枠に収まり相続税はゼロです。
ただし配偶者の税額軽減は二次相続では使えないため、配分の設計は慎重に行う必要があります。
2015年の改正で基礎控除が引き下げられ、課税される人が増えました。
この改正が「相続税は誰にでもかかる」という不安を広げた面があります。
それでも実際に課税されるのは全体の約1割で、9割はいまも相続税がかかりません。
「昔は関係なかったのに、いまは自分も対象かも」という漠然とした不安が、この誤解の正体です。
実際に対象かどうかは、基礎控除と自分の遺産額を比べれば、その場で判断できます。
改正の影響は次章以降の数字で、正確に確認していきましょう。
ここまでの5つの誤解を、正しい理解と並べて整理します。
| よくある誤解 | 正しい理解 |
|---|---|
| 最高税率55%が自分にかかる | 55%は6億円超の取得分だけ。一般的には10〜20% |
| 税率=実際の負担割合 | 税率は一部にかかる数字。実効負担率は数%〜十数% |
| 財産の全部に課税される | 基礎控除(3,600万円〜)以下は非課税 |
| 配偶者にも重く課税される | 配偶者は1億6,000万円まで非課税 |
| 2015年改正で誰でも課税される | それでも課税されるのは約1割 |
重要ポイント:5つの誤解に共通するのは「最悪のケースを自分に当てはめている」点です。正しい数字を知れば、不安の多くは解消します。
次章からは、あなた自身の資産帯での実際の負担を、具体的な数字で確認していきます。

ここが本記事の核心です。「高いか」は、あなたの資産帯での実効負担率を見れば具体的に分かります。一般的な相続の範囲で確認しましょう。
実効負担率とは、財産全体に対して実際に納めた相続税の割合です。
たとえば財産1億円で相続税が770万円なら、実効負担率は7.7%になります。
名目の最高税率55%とは別物で、実際の負担感を表すのはこちらの数字です。
給与の額面と手取りが違うのと同じで、税率と実際の負担は分けて考える必要があります。
相続税も、名目の税率より実効負担率で見るほうが、家計への影響を正しくつかめます。
財産が大きいほど累進で上がりますが、一般的な相続では数%〜十数%に収まります。
なぜ実効負担率は名目の税率より大きく下がるのでしょうか。
相続税の計算には、負担を下げる3段階の仕組みがあるためです。
1つ目は基礎控除です。財産から一定額を引いた「残り」だけが課税の対象になります。
2つ目は法定相続分での計算です。課税対象を相続人の人数で分けてから税率をかけるため、1人あたりの金額が小さくなり低い税率が適用されます。
3つ目は配偶者の税額軽減や各種の特例で、計算した税額からさらに差し引かれます。
この3段階の割引を経るため、財産全体に対する実効負担率は名目税率よりずっと低くなります。
たとえば遺産1億円を子2人で相続する場合を追ってみましょう。
基礎控除4,200万円を引いた5,800万円が課税対象で、これを2人に分けると1人2,900万円です。
2,900万円にかかる税率は15%で、最終的な税額の合計は770万円、実効負担率は約7.7%になります。
「55%」とはかけ離れた水準であることが、計算を追うとよく分かります。
この3段階の仕組みは財産が大きくなっても働くため、実効負担率は名目より必ず低くなります。
子2人が相続する場合(配偶者なし)の相続税額と実効負担率をまとめます。
| 遺産総額 | 相続税の総額 | 実効負担率 |
|---|---|---|
| 5,000万円 | 80万円 | 約1.6% |
| 6,000万円 | 180万円 | 約3.0% |
| 8,000万円 | 470万円 | 約5.9% |
| 1億円 | 770万円 | 約7.7% |
| 1億5,000万円 | 1,840万円 | 約12.3% |
| 2億円 | 3,340万円 | 約16.7% |
表の見方:遺産1億円でも実効負担率は約7.7%です。名目の最高税率55%とは、まったく違う水準だと分かります。
重要ポイント:これは配偶者がいないケースの数字です。配偶者が相続すれば税額軽減が働き、実際の負担はさらに大きく下がります。
計算ロジック:基礎控除(3,000万円+600万円×2人=4,200万円)を引き、法定相続分で按分して税率をかけた総額です。2026年時点の税率表で算出しています。
表を見ると、遺産が2億円まで増えても実効負担率は2割以内に収まっています。
「財産の半分が税金で消える」というイメージとは、大きく違うことが分かります。
同じ遺産額でも、相続人が多いほど基礎控除が増え、負担は下がります。
相続人が1人増えるごとに、基礎控除は600万円ずつ大きくなるためです。
配偶者がいる一次相続なら、税額軽減で実効負担率が表の半分以下になることも珍しくありません。
まずは自分の遺産額と相続人の数を当てはめ、おおよその負担感をつかんでください。
配偶者が財産を相続する一次相続では、税額軽減で負担が大きく下がります。
配偶者と子2人で、配偶者が半分を相続したケースの実効負担率を見てみましょう。
| 遺産総額 | 相続税の総額 | 実効負担率 |
|---|---|---|
| 6,000万円 | 60万円 | 約1.0% |
| 8,000万円 | 175万円 | 約2.2% |
| 1億円 | 315万円 | 約3.2% |
| 1億5,000万円 | 748万円 | 約5.0% |
| 2億円 | 1,350万円 | 約6.8% |
表の見方:配偶者がいる一次相続では、実効負担率が子のみのケースの半分以下になります。遺産1億円でも約3.2%です。
計算ロジック:配偶者が法定相続分(2分の1)を取得し、配偶者の税額軽減をフルに使った前提です。相続税の総額から子が負担する分だけを納めます。
配偶者がいるかどうかで、これほど負担が変わるのが相続税の特徴です。
ただし一次相続の軽さだけで判断せず、二次相続まで見ることが大切です。
同じ遺産額でも、相続人の数で負担は大きく変わります。
遺産1億5,000万円を子だけで相続する場合の、人数別の実効負担率です。
| 相続人(子) | 相続税の総額 | 実効負担率 |
|---|---|---|
| 1人 | 2,860万円 | 約19.1% |
| 2人 | 1,840万円 | 約12.3% |
| 3人 | 1,440万円 | 約9.6% |
表の見方:同じ1億5,000万円でも、相続人が1人から3人に増えると実効負担率は約19%から約10%へ下がります。
家族構成は選べませんが、負担が人数で変わることは知っておく価値があります。
これは相続人が増えるほど基礎控除が増え、累進課税の税率も分散するためです。
同じ家庭でも、子が1人か3人かで負担がここまで変わります。
「高いか」を考えるときは、遺産額だけでなく相続人の数もあわせて見ることが大切です。
自分のケースに近い数字を見つけて、負担感の目安にしてください。
実効負担率を見るときに見落としがちなのが、二次相続の存在です。
二次相続とは、一次相続で財産を受け取った配偶者が亡くなり、子が相続する2回目の相続をいいます。
二次相続では配偶者の税額軽減が使えず、相続人も1人減るため負担が重くなります。
たとえば子2人が1億円を相続する二次相続では、実効負担率は約7.7%です。
同じ1億円でも、配偶者がいた一次相続の約3.2%と比べて負担が倍以上になります。
「一次相続で配偶者に多く相続させれば安心」とは限らない、ということです。
注意:一次相続で配偶者が財産を取りすぎると、二次相続で子の負担が跳ね上がることがあります。「高いか」を考えるなら、一次と二次を合計した負担で見るのが正確です。
目先の一次相続だけでなく、二次相続まで見通した設計が、トータルの負担を抑えるコツになります。
一次と二次を合わせて考えると、配偶者に寄せすぎない配分が有利になることもあります。
この見極めは複雑なため、心配なら専門家に試算してもらうのが確実です。

実効負担率の前に、もっと大事な事実があります。そもそも相続税がかかる人は、全体の約1割にすぎません。9割はゼロです。
亡くなった人のうち、相続税がかかったのは近年で約10%です。
令和6年分で課税割合は10.4%、つまり10人に1人程度しか課税されていません。
2015年の改正前は約4%でしたが、改正後は8〜10%程度に増えました。
それでも「大多数には相続税がかからない」という基本は変わっていません。
「相続税は資産家の税金」という言葉は、いまも大筋で当てはまります。
改正で対象がやや広がったとはいえ、9割の人には直接関係のない税金です。
遺産の総額が基礎控除以下なら、そもそも相続税はかからず申告も不要です。
基礎控除は「3,000万円+600万円×法定相続人の数」で計算します。
相続人が3人なら4,800万円まで、財産がこの額以下なら相続税はゼロです。
現金や預金だけでなく、不動産や株式も合計してこの基礎控除と比べます。
まずは財産の合計額を出し、基礎控除と比較するのが判断の第一歩です。
ただし小規模宅地等の特例などを使って税額をゼロにする場合は、申告が必要になります。
課税割合は、2015年の改正を境に大きく上がりました。
| 時期 | 課税割合 |
|---|---|
| 2014年(改正前) | 約4.4% |
| 2015年(改正後) | 約8.0% |
| 2022年 | 約9.6% |
| 2024年(令和6年) | 約10.4% |
重要ポイント:改正で課税割合は倍以上になりました。それでも約9割の相続は、いまも相続税がかかっていません。
「対象が増えた」ことが不安を広げましたが、依然として大多数には無縁の税金です。
推移を知ると、「対象が増えた」ことと「大多数には無縁」が両立していると分かります。
9割が課税されない最大の理由は、基礎控除の存在です。
遺産の総額が基礎控除以下なら、それだけで相続税はかかりません。
たとえば遺産4,000万円で相続人が2人なら、基礎控除4,200万円を下回り課税されません。
日本の平均的な相続財産は、多くが基礎控除の範囲に収まります。
都市部の持ち家など一部を除けば、そもそも課税ラインに届かない相続が大半です。
さらに、基礎控除を超えても配偶者の税額軽減や小規模宅地等の特例で、税額がゼロになるケースもあります。
これらの制度が重なることで、実際に相続税を納めるのは一部の人に限られているのです。
「相続税がかかる」と思っていた人が、試算すると対象外だったというケースも珍しくありません。
まずは基礎控除と特例を確認することが、不安を解消する近道になります。
不安を解消する第一歩は、自分が課税される1割に入るかを確認することです。
【確認の手順】
遺産の総額(プラスの財産から借金・葬式費用を引いた額)を概算し、基礎控除と比べます。基礎控除以下なら、相続税の心配は基本的にいりません。
まず「かかるかどうか」を確認すれば、多くの人の不安はこの段階で解消します。
約1割の課税対象になりやすいのは、都市部に持ち家がある家庭です。
土地の評価額が高く、預貯金と合わせると基礎控除を超えやすいためです。
たとえば都市部で自宅の土地評価が5,000万円、預金が2,000万円あれば、それだけで7,000万円になります。
相続人が2人(基礎控除4,200万円)なら、この時点で課税の対象に入ります。
2015年の改正で課税対象が増えたのは、まさにこうした都市部の持ち家世帯でした。
ただし、自宅の土地には小規模宅地等の特例があります。
一定の要件を満たせば自宅の土地評価が最大80%減額され、課税されなくなることもあります。
「持ち家があるから必ず高い相続税がかかる」とは限らない、ということです。
持ち家世帯こそ、特例が使えるかを含めて実際の負担を試算する価値があります。
土地の評価額は、路線価などからおおよその見当をつけられます。
自宅の評価と預貯金を足して基礎控除と比べれば、課税されるかどうかが見えてきます。
相続税がかかるかどうかの詳しい判定方法は、下記の記事で解説しています。


ここからは世界と比べます。名目の最高税率で見ると、日本はたしかに世界トップ級です。ただし数字の背景も一緒に押さえましょう。
直系親族への相続にかかる最高税率を、主要国で並べると次のようになります。
| 国 | 最高税率 |
|---|---|
| 日本 | 55% |
| 韓国 | 50% |
| フランス | 45% |
| イギリス・アメリカ | 40% |
| ドイツ | 30% |
表の見方:名目の最高税率だけを見れば、日本は主要国のなかで最も高い水準です。「世界一高い」と言われる根拠はここにあります。
税率だけでなく、どこから課税されるか(基礎控除)も国で大きく違います。
アメリカは基礎控除が非常に高く、2026年時点で約15億円を超えます。
そのため米国で実際に相続税がかかるのは、ごく一部の超富裕層に限られます。
イギリスの基礎控除は約6,000万円、日本は3,600万円からと、日本は課税の入口が低めです。
つまり同じ財産でも、日本では課税されアメリカでは対象外、ということが起こります。
税率の高さに加えて基礎控除が低いため、日本は「課税される人が多い」という特徴があります。
各国の相続税は、大きく2つのタイプに分かれます。
アメリカやイギリスは「ごく一部の超富裕層にだけ重く課税する」タイプです。
基礎控除が数億円から十数億円と高く、一般層はそもそも対象になりません。
一方の日本は「広い層に薄く課税する」タイプで、大衆課税とも呼ばれます。
課税される人が約1割いるのは、先進国のなかでは多いほうです。
この「対象になる人が多い」ことが、「相続税は高い」という声が広がる一因です。
ただし対象が広いぶん、1人あたりの負担率はそれほど高くありません。
「多くの人が少しずつ負担する」のが日本、「少数が重く負担する」のが米英という違いです。
この構造を知ると、「自分も対象かも」という不安と、実際の負担の軽さが両立する理由が見えてきます。
「対象になる人は多いが、1人あたりの負担は重すぎない」というのが、日本の相続税の実像です。
相続税の課税の仕方は、大きく2つの方式に分かれます。
遺産課税方式は、亡くなった人の遺産全体に課税する方式で、アメリカやイギリスが採用しています。
遺産取得課税方式は、財産を受け取った人ごとに課税する方式で、ドイツやフランスが採用しています。
受け取った人ごとに、続柄に応じた控除や税率を適用するのが特徴です。
同じ遺産額でも、誰が何を受け取るかで税額が変わる仕組みです。
日本はこの取得課税の要素も取り入れており、単純な国際比較が難しい制度になっています。
日本は両者を組み合わせた方式で、単純な税率比較だけでは負担の実態はつかめません。
最高税率だけでは見えない、各国の制度の特徴を整理します。
【アメリカ】遺産税・基礎控除が桁違いに高い
遺産全体に課税する遺産税で、最高40%です。基礎控除が2026年で約15億円超と非常に高く、実際に課税されるのは超富裕層に限られます。配偶者間の相続は非課税です。
【イギリス】一律40%で累進がない
基礎控除(約6,000万円)を超えた部分に一律40%で課税します。日本のような累進はありません。死亡前7年以内の贈与は相続財産に加算されます。
【フランス・ドイツ】取得した人ごとに課税
財産を受け取った人ごとに課税する遺産取得課税方式です。血縁が近いほど控除が大きく税率も低くなり、配偶者は非課税や大きな控除が受けられます。
【韓国】日本に近く最高50%
制度は日本に近く、最高税率は50%です。日本と韓国が、世界のなかでも相続税率が高い国として並んでいます。
課税方式も控除の仕組みも国ごとに違うため、税率だけの比較には意味がありません。
同じ「相続税」でも、課税する対象も控除の額もまったく異なります。
ランキングの順位だけを見て「日本は高い」と結論づけるのは、早計だといえます。
日本で「課税される人が多い」のは、税率の高さに加えて基礎控除が低いことが理由です。
税率と計算方法の詳細は、下記の記事で解説しています。

参照元:財務省 相続税など(資産課税等)に関する資料(国際比較)

最高税率では日本が1位でも、実効負担率で比べると景色が変わります。財産額によっては、日本より負担が重い国もあるのです。
課税価格3億円のケースで実効負担率を比べた試算があります。
| 国 | 実効負担率(課税価格3億円の例) |
|---|---|
| イギリス | 約14.1% |
| 日本 | 約9.5% |
| フランス | 約8.2% |
| ドイツ | 約1.9% |
| アメリカ | 0% |
表の見方:3億円クラスではイギリスの方が日本より負担が重く、日本は世界一ではありません。基礎控除の差でアメリカは0%です。
計算ロジック:配偶者2分の1・子2人が残りを均等取得という共通条件での試算例です。前提が変われば数値も変わります。
3億円クラスでイギリスの負担が日本より重くなるのには、理由があります。
イギリスは累進課税ではなく、基礎控除を超えた部分に一律40%で課税します。
基礎控除も約6,000万円と日本並みに低いため、中規模の相続でも一律40%が効いてきます。
一方の日本は累進課税で、低い金額帯には低い税率が適用されます。
そのため数億円程度の相続では、日本の実効負担率のほうが低くなるのです。
「累進があるかないか」が、中規模の相続での負担の差を生んでいます。
財産額が大きくなると、累進課税の効果で日本の負担率は上がっていきます。
課税価格が9〜11億円を超えるあたりで、日本の実効負担率は世界トップになります。
つまり「日本が世界一高い」が当てはまるのは、ごく一部の超高額な相続です。
具体的には、課税価格が10億円を超えるような相続で、ようやく日本の負担が世界トップになります。
多くの家庭の相続は、この水準にはるかに届きません。
ここまでを整理すると、どの国が高いかは財産額によって入れ替わります。
数千万円〜数億円の一般的な相続では、日本の負担は特別に重いわけではありません。
むしろ中規模の相続では、イギリスのように日本より負担が重い国もあります。
「日本の相続税は世界一」という言葉は、超富裕層の話として理解するのが正確です。
先ほどの表で、アメリカは3億円クラスでも負担率0%でした。
理由は、アメリカの基礎控除が桁違いに大きいことにあります。
アメリカでは2026年時点で約15億円を超えるまで、遺産税がかからないためです。
数億円程度の相続なら、そもそも課税の土俵に上がりません。
同じ財産額でも、日本では課税されアメリカでは無税、ということが起こります。
これは「税率の差」ではなく「どこから課税するかの差」です。
日本は税率が高いだけでなく、課税の入口が低いために負担を感じやすい構造だといえます。
ここまでの国際比較をまとめると、答えはシンプルです。
数千万円〜数億円の一般的な相続では、日本の負担は世界的に見て特別重くはありません。
「高いか」は国のランキングではなく、あなたの財産額と家族構成で決まります。
だからこそ、世界の最高税率よりも自分の実効負担率を見ることが大切なのです。
国際比較は参考にはなりますが、最後に効いてくるのは自分のケースの数字です。
参照元:財務省 相続税など(資産課税等)に関する資料(国際比較)

「相続税がない国もある」という話もよく聞きます。事実ですが、移住すれば日本の相続税を逃れられる、という単純な話ではありません。
世界には相続税を持たない国が数多くあります。
オーストラリア・カナダ・シンガポール・香港・スウェーデンなどは、相続税がありません。
調査によっては、世界の国のうち相続税がない国が多数を占めるとされます。
これらの国の多くは、かつてあった相続税を廃止しています。
| 国・地域 | 相続税の状況 |
|---|---|
| オーストラリア | 1979年に廃止 |
| カナダ | 1972年に廃止 |
| スウェーデン | 2005年に廃止 |
| 香港 | 2006年に廃止 |
| シンガポール | 2008年に廃止 |
表の見方:先進国でも相続税を廃止した国は少なくありません。「相続税がある国」はむしろ世界では多数派とは言えません。
廃止の背景には、富裕層や資本を国内に呼び込みたいという狙いがあります。
相続税があると、資産家が税負担の軽い国へ移ってしまう懸念があるためです。
また、稼いだときに所得税を払った資産に再び課税する「二重課税」への批判も、廃止の理由とされます。
一方の日本は、格差の固定を防ぎ富を再分配する狙いから、相続税を維持・強化してきました。
同じ「相続税がある・ない」でも、国ごとに事情や狙いは大きく異なります。
他国にないからといって、日本の相続税だけが不当に重い、とは言い切れません。
相続税がない国でも、まったく無税というわけではありません。
多くの国では、相続した資産を売却したときにキャピタルゲイン税(資産の値上がり益への税)がかかります。
「相続税はないが、別の名前の税金で負担する」という構造の国が多いのです。
たとえば相続した不動産や株式を売却すると、その値上がり益にキャピタルゲイン税がかかります。
「相続の瞬間は無税でも、売ったときに課税される」ため、生涯を通じた負担は一概に軽いとは言えません。
相続税がない国が「税金の楽園」とは限らない、ということです。
制度の一部だけを取り出して比べても、本当の負担は見えてきません。
海外移住による相続税回避は、制度上とても難しくなっています。
被相続人と相続人がともに10年を超えて海外に住むなど、厳しい条件を満たす必要があります。
加えて、一定の資産を持つ人が出国する際には、国外転出時課税(出国税)もかかります。
移住による節税は現実的なハードルが高く、一般的な相続税対策にはなりません。
移住で日本の相続税を逃れるには、次の3つの壁があります。
これらの壁から、海外移住による相続税回避は一部の資産家でも簡単ではありません。
節税だけを目的に生活基盤を海外へ移すのは、コストとリスクに見合わないのが実情です。
一般的な相続では、移住を検討するより国内の制度を正しく使うほうが、はるかに現実的です。
資産を国外に移すだけでは、日本の相続税から逃れられないのが実情です。
「海外に出れば節税できる」という話は、多くの人にとって当てはまらないと考えてよいでしょう。
海外移住と相続税の関係は、下記の記事で詳しく解説しています。

参照元:財務省 相続税など(資産課税等)に関する資料(国際比較)

いまの相続税は、長い歴史のなかで形づくられてきました。とくに2015年の改正が、「高い」という感覚が広がる転機になりました。
日本の相続税は、意外にも100年以上の歴史があります。
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こうして少しずつ、課税の対象が広がり税率も上がってきました。
相続税が強化された背景には、戦後の「富の再分配」という考え方があります。
一部に富が集中しすぎないよう、大きな相続には応分の負担を求める設計が続いてきました。
2015年の改正は、多くの人に影響した大きな変更でした。
基礎控除は「5,000万円+1,000万円×人数」から「3,000万円+600万円×人数」へ4割縮小されました。
たとえば相続人が3人なら、基礎控除は8,000万円から4,800万円へと3,200万円も下がりました。
この結果、以前は対象外だった家庭も、新たに課税されるようになりました。
この結果、課税割合は改正前の約4%から、近年は約10%へと倍以上に増えました。
都市部に持ち家がある家庭などが新たに対象になり、「うちも関係あるかも」という不安が広がりました。
この改正が、「相続税は特別なお金持ちだけの税金ではない」という空気をつくりました。
ただし増えたとはいえ課税割合は約1割で、対象が一気に大衆化したわけではありません。
近年は、相続税と贈与税を一体的に扱う方向で改正が進んでいます。
2024年からは、亡くなる前の贈与を相続財産に加算する期間が、3年から段階的に7年へ延ばされています。
2026年中の相続はまだ加算3年ですが、2027年以降の相続から段階的に延び、2031年に7年で完成します。
駆け込みの生前贈与による節税は、以前より効きにくくなっている点に注意が必要です。
今後も相続税と贈与税を一体で捉える方向は、続くと見られています。
制度は変わり続けるため、対策は最新のルールを前提に考える必要があります。
特に生前贈与を使った対策は、加算期間の延長で以前ほど有利ではなくなっています。
相続税を廃止する国もあるなかで、日本はむしろ強化してきました。
背景には、いくつかの政策的な狙いがあります。
1つ目は、富が一部に集中し固定されるのを防ぎ、再分配する役割です。
2つ目は、所得税を補う役割です。生前に課税しきれなかった資産に、相続の機会に課税する考え方です。
3つ目は、少子高齢化で社会保障費が膨らむなか、安定した税収を確保する必要があることです。
こうした狙いから、日本の相続税が近い将来に大きく軽くなる可能性は低いと考えられます。
だからこそ「高い」と嘆くより、制度を前提に早めに備える発想が現実的です。
制度の仕組みを正しく理解し、使える控除や特例を活用することが、負担への最も確実な備えになります。
「高いから仕方ない」とあきらめるのではなく、正しい知識で備えることが負担を左右します。
本記事の内容を、自分の相続を見直すきっかけにしてください。

最後に、「高い」という思い込みが招く失敗と、負担への向き合い方を整理します。不安のまま動くと、かえって損をすることがあります。
相続税を実態以上に恐れると、次のような失敗が起こりがちです。
いずれも「高い」という思い込みから、行動を誤ってしまうパターンです。
どれも「高い」という思い込みが出発点です。まず正確な負担額を把握することが失敗を防ぎます。
不安を数字に変えるために、次の3ステップで自分の負担を把握しましょう。
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この3ステップで、「高いかどうか」を漠然とした不安から具体的な数字に変えられます。
数字が分かれば、対策が必要なのか、そもそも不要なのかも判断できます。
多くの人は、この試算の段階で「思ったより高くない」と安心します。
逆に負担が大きいと分かれば、そこで初めて具体的な対策を検討すればよいのです。
相続税の負担を抑えたいなら、次の順番で考えると無駄がありません。
大切なのは、この順番を守ることです。課税されるかも分からないうちから対策に走ると、無駄な費用がかかります。
重要ポイント:配偶者の税額軽減や小規模宅地等の特例は、負担を大きく下げる効果があります。「高い」と感じたら、まず使える制度があるかを確認してください。
最後に、不安を解消するためのチェックリストをまとめます。
重要ポイント:チェックが埋まらない項目があれば、そこが不安の残っているところです。判断に迷う項目は、専門家に確認すると確実です。
具体的な節税の方法は、下記の記事で解説しています。


「高いのでは」という不安を確実に解消するには、専門家の試算が近道です。依頼するなら、相続税の対応実績がある税理士に絞って一括相談・見積りで比較するのが確実です。
相続税の実際の負担は、特例の使い方しだいで大きく変わります。
たとえば自宅の土地に小規模宅地等の特例を使えるかどうかで、税額は数百万円単位で動きます。
経験の浅いA税理士は特例の適用に気づかず、相続税を1,800万円と試算しました。
相続税の対応実績があるB税理士は特例をフルに活用し、同じ相続で税額を約900万円まで下げました。差は約900万円です。
「高いかどうか」は、依頼する税理士の実力によっても変わる、ということです。
相続税の対応実績がある税理士から複数の見積りを取ると、次の3つの判定ポイントで実務力を比較できます。
判定ポイント1:実効負担率を試算してくれるか。名目税率ではなく、あなたのケースでの実際の税額を示すか → 試算できる税理士のほうが、負担の見通しを正確に立てられると判定できます。
判定ポイント2:使える特例をもれなく確認するか。配偶者の税額軽減や小規模宅地等の特例の適用可否を検討するか → 特例を詰める税理士のほうが、税額を下げられると判定できます。
判定ポイント3:二次相続まで見通すか。一次相続だけでなく、その後の二次相続まで含めたトータルの負担を示すか → 見通せる税理士のほうが、家族全体の負担を抑えられると判定できます。
顧問税理士や知人の紹介など、1社だけに相談すると、その試算が妥当かを測る物差しがありません。
相続に不慣れな事務所では、使えるはずの特例を見落とし、本来より高い税額のまま申告してしまうこともあります。
相続税の申告は一度きりで、後から「やり直し」がききません。
複数の実績ある税理士の試算を並べることが、負担を正しく把握する最短ルートです。
| チェック項目 | 確認する内容 |
|---|---|
| 提案内容 | 使える特例と、実効負担率を踏まえた提案があるか |
| 試算相続税額 | 特例を反映した税額と、二次相続まで見た試算があるか |
| 報酬額 | 申告や特例適用の手続きを含めた総額か |
重要ポイント:試算相続税額は、事務所によって差が出ます。「なぜその金額になるか」を説明できる税理士を選んでください。
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重要ポイント:財産の概算と相続人の構成が分かれば、初回相談で実効負担の目安が見えてきます。「うちは高いのか」を、その場で数字で確認できます。
最高税率は55%で、主要国のなかでは世界トップ級の水準です。
ただし55%が適用されるのは1人が6億円を超えて取得した部分だけで、一般的な相続で使う税率は10〜20%程度です。
いいえ。相続税がかかるのは全体の約1割で、9割にはかかりません。
遺産の総額が基礎控除(3,000万円+600万円×法定相続人の数)以下なら、相続税はかからず申告も不要です。
財産額によりますが、数千万円〜2億円程度の相続では、実効負担率はおおむね数%〜十数%です。
たとえば遺産1億円を子2人で相続する場合は約7.7%、配偶者がいる一次相続ならさらに下がります。
簡単ではありません。財産をあげる人ともらう人がともに10年を超えて海外に住むなど、厳しい条件があります。
加えて出国税もかかり、海外資産も税務署に把握されるため、移住による節税は現実的ではありません。
2015年の改正で基礎控除が4割引き下げられ、最高税率も50%から55%へ引き上げられました。
これにより課税される人が約4%から約8%へと倍増し、「相続税が身近になった」と感じる人が増えました。
日本の相続税が高いかどうかについて、重要なポイントを整理します。
【日本の相続税の実像】
【「高い」の正体と世界比較】
【今すぐ取るべき行動】
※本記事は2026年7月時点の法令・情報に基づいて作成しています。税制改正により、内容が変更となる可能性があります。最新の制度については国税庁の公式サイトや税理士にご確認ください。