遺留分に相続税はかかる?計算方法と申告期限の前後で変わる手続きを解説

遺留分_相続税

遺留分とは、きょうだいなどを除く相続人に法律で保障された最低限の取得分です。遺言でこれを下回る配分にされた人は、足りない分を金銭で請求できます。

この金銭を受け取ると相続税の対象になります。遺産の総額が基礎控除を超えていれば、受け取った側に納税義務が生じます。

つまずくのは金額の計算ではなく、遺留分がいつ決まったかで手続きが変わる点です

申告期限までに決まればその内容で申告し、決まらなければ遺言どおりに配分されたものとして申告します。

期限を過ぎてから決まった場合は、支払った側と受け取った側で別の手続きになります。支払った側の期限は4か月と短く、見落とすと払いすぎたままです。

見落としやすい負担もあります。金銭ではなく不動産で渡すと別の税金がかかり、弁護士費用は相続税から引けません。

この記事では、相続税がかかる条件、2019年の民法改正で変わった点、申告期限の前後で変わる3つの手続き、自宅の土地を8割減らせる制度への影響、支払う側の2つの負担、計算例までを解説します。

▼ この記事の3行まとめ

  • 遺留分として受け取った金銭は相続税の対象。遺産の総額が基礎控除を超えていれば受け取った側に納税義務が生じる
  • 手続きは金額が決まった時期で3つに分かれる。期限後に決まった場合、支払った側の更正の請求は確定を知った日の翌日から4か月以内と短い
  • 2019年の改正で遺留分は金銭請求になったため、財産そのものは遺言どおりに移る。自宅の土地を8割減らせる制度は遺言で取得した人がそのまま使える
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遺留分を受け取ると相続税がかかる|課税される条件

遺留分として受け取った金銭は、相続で財産を取得したものとして扱われます。遺産の総額が基礎控除を超えている場合だけ相続税がかかります

基礎控除を超えるかどうかで決まる

相続税は、遺産の総額が基礎控除を超えた部分にかかります。基礎控除は3,000万円に法定相続人1人あたり600万円を加えた金額です。

法定相続人の数 基礎控除 この金額以下なら
1人 3,600万円 遺留分を受け取っても相続税は0円
2人 4,200万円 同じ
3人 4,800万円 同じ
4人 5,400万円 同じ

表の見方:判定に使うのは遺産の総額であって、自分が受け取った遺留分の額ではありません。遺留分が500万円でも、遺産の総額が基礎控除以下なら相続税はかかりません。

重要ポイント:法定相続人の数は遺言で財産をもらえなかった人も含めて数えます。遺留分を請求した人も相続人なので、基礎控除の計算に入ります。

基礎控除の判定でつまずきやすいのは、法定相続人の数え方です。養子や相続を放棄した人をどう扱うかを含めて、下記の記事で解説しています。

相続税がかかる2つのパターン

遺留分を受け取ったことで相続税に影響が出るのは、次の2つの場合です。どちらに当たるかで、後で取るべき手続きが変わります。

【遺留分で相続税が動く2つの場合】

  • 新しく申告義務が生じる|遺言では財産をもらえず申告が不要だったのに、遺留分を受け取ったことで取得額が出て申告が必要になる
  • 納める税額が増える|すでに申告していたが、遺留分を受け取って取得額が増えた

どちらの場合も、支払った側は逆に取得額が減るので税額が下がります。

相続税の総額そのものは遺産の総額で決まるので、遺留分の授受では変わりません。変わるのは相続人どうしの負担の配分だけです

相続税の総額は変わらず、負担の配分だけが動く

遺留分を受け取った側は税額が増え、支払った側は減ります。合計は変わらないため、当事者間で税額を移し合う形になります。

立場 取得する財産 相続税額 取るべき手続き
受け取った側 増える 増える 修正申告または期限後申告
支払った側 減る 減る 更正の請求
相続人全体 変わらない 相続税の総額は変わらない

表の見方:全体の税額は変わらないので、当事者どうしで払いすぎと不足が同時に生じます。どちらか一方だけが手続きをすると、片方が損をしたままになります。

重要ポイント:支払った側の手続きには4か月という短い期限があります。受け取った側の手続きに期限の定めはありません。この差が後で問題になります。

注意:相続税の総額は変わりませんが、請求したのが配偶者なら税額軽減が効くため、実際に納める合計額は下がります。誰が請求するかで結果が変わります。

遺留分がある人・ない人

遺留分はすべての相続人にあるわけではありません。きょうだい(および甥・姪)には遺留分がありません

相続人 遺留分 割合(相続人が複数なら人数で分ける)
配偶者 ある 遺産の4分の1(配偶者と子の場合)
子・孫 ある 遺産の4分の1(配偶者と子の場合)
父母・祖父母のみ ある 遺産の3分の1
きょうだい・甥・姪 ない 遺言があれば取得できない

表の見方:配偶者と子がいる場合、遺留分は全体で遺産の2分の1で、その中を法定相続分で分けます。配偶者と子1人なら各4分の1です。

注意:薄赤の行のとおり、きょうだいには遺留分がないため、遺言で財産をもらえなければ請求できません

きょうだいが相続人になる場合は、遺留分がないうえに相続税が2割加算されます。この2つが重なるとどうなるかは、下記の記事で解説しています。

2019年の改正で遺留分は「お金で請求するもの」に変わった

2019年7月1日以降に発生した相続では、遺留分は金銭を請求する権利になりました。財産そのものを取り戻すのではないため、相続税の申告内容にも影響します。

改正前と改正後の違い|財産の共有から金銭の請求へ

改正前は、遺留分を請求すると不動産などが自動的に共有になりました。改正後は、財産は遺言どおりに移り、足りない分を金銭で受け取る形に変わりました。

2019年6月30日までの相続 2019年7月1日以降の相続
請求の中身 財産そのものを取り戻す 金銭の支払を請求する
不動産の扱い 請求した人との共有になる 遺言で取得した人のものになる
登記 共有の登記が必要 共有にならないので不要
相続税を申告する人 共有した全員 遺言で取得した人

表の見方:変わったのは請求の中身です。金銭の請求になったため、不動産が勝手に共有になることがなくなりました。事業用の不動産や自宅を分断せずに承継できるようにするための改正です。

重要ポイント:どちらのルールが適用されるかは亡くなった日で決まります。請求した日ではありません。2019年7月1日以降に亡くなった場合が新しいルールです。

参照元:e-Gov法令検索 民法(第1046条・遺留分侵害額の請求)

財産は遺言どおりに移るので、申告する人も遺言どおり

金銭の請求に変わったことで、遺留分を請求されても財産の名義は動きません。不動産を相続税の申告書に載せるのは、遺言で取得した人です。

請求した側が申告するのは、受け取った金銭に対応する分だけです。土地や建物を自分の取得財産として申告するわけではありません。

【申告書への載せ方】

  • 遺言で取得した人|不動産や預金をそのまま自分の取得財産として申告し、支払う金銭を差し引く
  • 遺留分を請求した人|受け取る金銭の額を自分の取得財産として申告する

この区分は、後で出てくる自宅の土地を8割減らせる制度の使い方に直結します。

請求できるのは1年以内|過ぎると受け取れない

遺留分を請求できる期間には制限があります。相続の開始と遺留分を侵害する遺言があったことを知った時から1年です

この1年を過ぎると請求権そのものが消えます。相続税の申告期限である10か月より後ですが、余裕があるとはいえません。

1年
相続の開始と、遺留分を侵害する遺贈・贈与があったことを知った時から1年で時効により消滅する

10年
知らなかった場合でも、相続開始から10年を過ぎると請求できなくなる

重要ポイント:相続税の申告期限は10か月、遺留分の請求期限は1年です。申告期限までに金額が決まらないケースが構造的に発生します。この場合の申告方法は後の章で解説します。

参照元:e-Gov法令検索 民法(第1048条・遺留分侵害額請求権の期間の制限)

遺留分はいくら請求できる?計算方法の4ステップ

遺留分の金額は、相続税の計算より先に決める必要があります。割合を出し、もとになる財産の額を出し、差し引くものを引くという順で進めます。

ステップ1|遺留分の割合を出す

遺留分の全体の割合は、相続人が誰かで決まります。父母や祖父母だけが相続人なら3分の1、それ以外は2分の1です。相続人が複数いる場合は、この全体の割合に自分の法定相続分を掛けて一人分を出します。

相続人の組み合わせ 遺留分の全体 一人あたりの遺留分
配偶者のみ 2分の1 配偶者 2分の1
配偶者と子1人 2分の1 配偶者 4分の1・子 4分の1
配偶者と子2人 2分の1 配偶者 4分の1・子 各8分の1
子2人のみ 2分の1 子 各4分の1
父母のみ 3分の1 父母 各6分の1
きょうだいのみ なし 請求できない

表の見方:配偶者と子1人なら、全体の2分の1に法定相続分の2分の1を掛けてそれぞれ4分の1になります。子が2人なら子の4分の1をさらに2人で分けます。

重要ポイント:父母や祖父母だけが相続人の場合は全体が3分の1に下がります。薄赤の行のとおり、きょうだいには遺留分がありません。

参照元:e-Gov法令検索 民法(第1042条・遺留分の帰属及びその割合)

ステップ2|計算のもとになる財産の額を出す

遺留分の計算に使う財産の額は、相続税の課税価格とは別に計算します。生前贈与を加え、借入金などの債務は全額を引きます

計算の要素 扱い 注意点
亡くなった時点の財産 加える 相続税と違い、生命保険金や死亡退職金は原則として含めない
生前贈与(相続人以外へ) 加える 相続開始前1年以内のものに限る
生前贈与(相続人へ) 加える 10年以内かつ結婚・養子縁組・生活の元手のためのもの
借入金・未払金などの債務 全額を引く 相続税と違い、葬式費用は引かない

表の見方:相続人への贈与は10年もさかのぼります。親から子へ住宅資金を渡していた場合など、相続税では加算されない古い贈与が遺留分の計算では加わることがあります。

重要ポイント:相手が遺留分を持つ人に損害を与えると知って贈与していた場合は、1年より前の贈与も加えます。争いになりやすい部分で、金額が確定するまで時間がかかる原因になります。

計算ロジック:もとになる財産の額=亡くなった時点の財産+加算対象の生前贈与−債務の全額(民法1043条・1044条)。相続税の課税価格とは加算・控除の範囲が違うため、同じ相続でも2種類の財産額を計算します

参照元:e-Gov法令検索 民法(第1043条・第1044条)

ステップ3|遺留分の額を出す

ステップ2で出した財産の額に、ステップ1の割合を掛けます。これがその人に保障された最低限の金額で、遺言の内容に関係なく確保できる下限になります。

【遺留分の額を出す】

  • 計算式|もとになる財産の額 × 遺留分の割合 = その人の遺留分
  • |もとになる財産1億円・配偶者と子1人 → 各2,500万円

この段階では「保障された金額」が出ただけで、請求できる額はまだ確定しません。

ステップ4|実際に請求できる額を出す

遺留分の額から、すでに自分が受け取るものを差し引きます。遺言で少しでも財産をもらっていれば、その分は請求できません

計算の要素 扱い
ステップ3で出した遺留分 出発点
自分が受けた遺贈・生前贈与 引く
自分が取得する遺産の額 引く
自分が引き継ぐ債務の額 足す
差引後の金額 実際に請求できる額

表の見方:債務だけが足し算です。借金を背負う分だけ手元に残らないため、その分を上乗せして請求できます

計算ロジック:請求できる額=遺留分−受けた遺贈・贈与−取得する遺産+引き継ぐ債務(民法1046条2項)。【前提】もとになる財産1億円・配偶者と子1人・遺言で子に全額。配偶者の遺留分は2,500万円です。

あてはめ:取得する遺産0円・債務0円なので、差し引くものがありません。請求できる額は2,500万円になります。

重要ポイント:請求を受けるのは遺言で財産をもらった人です。遺贈を受けた人が先に負担し、複数いれば取得額の割合で分けて負担します

参照元:e-Gov法令検索 民法(第1046条・第1047条)

遺留分にかかる相続税の計算方法|3ステップ

遺留分を受け取った人の相続税は、単独では計算できません。先に相続人全員分の相続税の総額を出し、それを取得額の割合で分けます。自分の受取額に税率を掛ける方式ではない点が、最もつまずきやすいところです。

ステップ1|遺産の総額から相続税の総額を出す

まず遺産の総額から基礎控除を引き、残った額を法定相続分で分けて税率を掛けます。この段階では遺言や遺留分の内容は一切使いません

計算の順番 内容 例(遺産1億円・配偶者と子1人)
①課税価格の合計 遺産の総額から債務・葬式費用を引く 1億円
②基礎控除 3,000万円+600万円×法定相続人の数 4,200万円
③課税される遺産 ①−② 5,800万円
④法定相続分で分ける 配偶者2分の1・子2分の1 各2,900万円
⑤税率を掛ける 2,900万円×15%−50万円 各385万円
⑥相続税の総額 ⑤を合計する 770万円

表の見方:④で使うのは法定相続分です。遺言で子が全部取得していても、計算上はいったん2分の1ずつに分けます。誰がいくら取得したかは次のステップで反映します。

計算ロジック:【前提】遺産1億円・相続人は配偶者と子1人・債務と葬式費用なし。1億円−4,200万円=5,800万円を法定相続分で2,900万円ずつに分けます。

あてはめ:2,900万円に税率15%・控除額50万円を適用して各385万円。合計770万円が相続税の総額です(税率は2026年8月時点)。

参照元:国税庁 No.4152 相続税の計算

参照元:国税庁 No.4155 相続税の税率

ステップ2|遺留分を反映した取得割合で分ける

相続税の総額を、実際に取得した財産の割合で分けます。遺留分として受け取る金銭も、ここで取得財産として数えます

立場 取得する財産 取得割合 按分後の税額
遺留分を請求した配偶者 2,500万円 25% 192万5,000円
遺言で取得した子 7,500万円(1億円−2,500万円) 75% 577万5,000円
合計 1億円 100% 770万円

表の見方:子の取得額は1億円から支払う2,500万円を引いた7,500万円です。支払う金銭は子の取得財産から差し引きます

重要ポイント:按分に使うのは遺言の内容ではなく、遺留分の支払を反映した後の実際の取得額です。遺言どおりの割合で按分すると、双方の税額を間違えます。

計算ロジック:各人の税額=相続税の総額×その人の課税価格÷課税価格の合計。770万円×2,500万円÷1億円=192万5,000円、770万円×7,500万円÷1億円=577万5,000円。合計は770万円のまま変わりません

ステップ3|控除と加算を反映する

按分した税額に、その人ごとの控除や加算を適用します。遺留分を請求したのが配偶者なら、税額軽減で0円になることが多いです。

制度 対象 遺留分を請求した場合の効き方
配偶者の税額軽減 配偶者 1億6,000万円か法定相続分までは税額0円
2割加算 孫・きょうだいなど 遺贈で財産をもらった孫が遺留分を負担する側になることがある
未成年者控除 18歳未満の相続人 10万円×18歳になるまでの年数を引く
障害者控除 障害のある相続人 10万円または20万円×85歳までの年数を引く
相次相続控除 10年以内に相続税を払っている場合 前回納めた税額の一部を引く

表の見方:配偶者の税額軽減は申告しないと使えません。遺留分を受け取って税額が0円になる場合でも、申告書の提出が必要です。

重要ポイント:先ほどの例では配偶者の按分後の税額192万5,000円が税額軽減で0円になります。子の577万5,000円はそのまま納付します。

参照元:国税庁 No.4158 配偶者の税額の軽減

参照元:国税庁 No.4157 相続税額の2割加算

遺留分を配偶者が請求すると、納める合計額が下がる

相続税の総額は遺産の総額で決まるので、遺留分の授受では変わりません。ただし控除は人ごとに効くため、誰が請求するかで実際に納める合計額は変わります

請求なし(子が全部取得) 配偶者が2,500万円請求 子が2,500万円請求
相続税の総額 770万円 770万円 770万円
請求した人の税額 192万5,000円 → 0円 192万5,000円
遺言で取得した人の税額 770万円 577万5,000円 577万5,000円
実際に納める合計 770万円 577万5,000円 770万円

表の見方:配偶者が請求した場合だけ合計が下がります。配偶者の税額軽減が192万5,000円分効くためです。子が請求した場合は軽減がないので、合計は変わらず配分だけが動きます。

重要ポイント:差額は192万5,000円です。配偶者が遺留分を請求するかどうかは、感情面だけでなく納税額の観点でも検討する価値があります。

計算ロジック:【前提】遺産1億円・相続人は配偶者と子1人(子が請求する列は子2人)・遺言で全額を1人に取得させたケース。配偶者の税額軽減は1億6,000万円まで税額が出ないため、取得2,500万円なら按分後の192万5,000円が全額控除されます。

申告期限までに遺留分が決まった場合|そのまま反映して申告する

相続税の申告期限は、亡くなったことを知った日の翌日から10か月です。この期限までに遺留分の金額が決まっていれば、申告は1回で終わります。後から手続きをやり直す必要がありません。

支払う側の書き方|取得財産から支払う金銭を引く

遺言で財産を取得した人は、その財産をすべて自分の取得財産として申告します。そこから支払う遺留分の金額を差し引いた額が課税価格になります。

項目 金額 説明
遺言で取得した財産 1億円 不動産・預金など遺言に書かれた財産の合計
支払う遺留分 △2,500万円 相手に渡す金銭の額
課税価格 7,500万円 この金額で申告する

表の見方:不動産の名義は動かないので、土地や建物は引き続き自分の取得財産として申告します。差し引くのは支払う金銭の額だけです。

重要ポイント:支払う金銭を差し引き忘れると取得していない財産に相続税を払うことになります。申告書の債務控除欄ではなく、取得財産の額から直接控除する形になります。

受け取る側の書き方|受け取る金銭を取得財産に計上する

遺留分を請求した人は、受け取る金銭の額を自分の取得財産として申告します。遺言では財産をもらっていなくても、申告義務が生じます

【受け取る側が申告書に書くもの】

  • 取得財産|受け取る遺留分の金額(例:2,500万円)
  • 書かないもの|不動産や預金そのもの(名義は遺言で取得した人のままなので計上しない)
  • 使える控除|配偶者の税額軽減・未成年者控除などは通常どおり使える

遺産の総額が基礎控除以下なら、遺留分を受け取っても申告は不要です。

遺言で財産をもらえなかった人は、そもそも相続税の申告をしていないことが多いです。遺留分を受け取ると、その年に初めて申告書を出す立場になります

期限内に決めておくと、後の手続きが不要になる

期限内に決まるかどうかで、必要な手続きの数が変わります。期限後に決まると、当事者双方が別々に手続きをすることになります

期限までに決まった場合 期限後に決まった場合
申告の回数 1回 2回(当初申告+やり直し)
支払った側 反映して申告するだけ 払いすぎた分を返してもらう手続きが必要
受け取った側 反映して申告するだけ 後から申告書を提出する
期限の管理 10か月だけ 10か月+確定を知った日から4か月

表の見方:薄赤の行のとおり、期限後に決まると管理すべき期限が2つになります。後の4か月を逃すと、払いすぎた相続税が戻りません。

参照元:国税庁 No.4205 相続税の申告と納税

申告期限までに決まらない場合|遺言どおりに申告する

遺留分の話し合いが長引くことは珍しくありません。決まっていなくても申告期限は延びないため、いったん遺言どおりに申告します。請求されている事実を見込んで金額を減らすことはできません。

遺言がある財産は「分けられていない財産」ではない

財産が分けられていない場合は法定相続分で申告する決まりがありますが、遺言で誰が取得するか決まっている財産はこれに当たりません

2019年の改正で遺留分は金銭の請求になったため、請求されている段階でも財産の帰属は遺言どおりに確定しています。そのため遺言の内容で申告します。

状況 申告の内容 根拠
遺言があり、遺留分が未確定 遺言どおりに申告する 財産は遺言どおりに帰属している(民法1046条)
遺言がなく、話し合いが未了 法定相続分で申告する 相続税法55条
遺言があるが一部の財産に触れていない その財産だけ法定相続分で申告する 相続税法55条

表の見方:混同されやすい2つを分けています。遺言がある場合と、遺言がなく話し合いが終わっていない場合は扱いが違います

重要ポイント:遺言があるのに法定相続分で申告すると、取得していない財産を申告することになり、後で全員分の修正が必要になります。

参照元:e-Gov法令検索 相続税法(第55条・未分割遺産に対する課税)

遺留分を請求した人は、この時点では申告しない

金額が決まっていない段階では、請求した人の取得財産は0円です。遺言で何も取得していなければ、申告書を出す必要はありません

金額が決まった後で、初めて申告書を提出します。請求している事実を先に申告しておく制度はありません。

注意:遺言で一部の財産を取得している場合は、その財産の分だけで申告義務を判定します。請求中の遺留分は含めません。

未確定でも自宅の土地を8割減らせる制度は使える

財産が分けられていない場合、自宅の土地を8割減らせる制度は当初申告で使えません。しかし遺言がある場合は、遺留分が未確定でも遺言で取得した人がそのまま使えます

状況 当初申告での適用 期限後3年以内の分割見込書
遺言があり、遺留分が未確定 使える 提出は不要
遺言がなく、話し合いが未了 使えない 提出が必要

表の見方:この差は大きく、遺言があるだけで当初申告から8割減が使えます。話し合いが終わっていないケースと同じ扱いだと思い込むと、納めすぎた状態で申告することになります。

重要ポイント:「申告期限後3年以内の分割見込書」は分けられていない財産があるときに出す書類です。遺言で帰属が決まっている財産には提出する場面がありません。

財産が分けられていない状態での申告そのものは、下記の記事で解説しています。

申告期限を過ぎてから決まった場合|4か月以内の手続き

遺留分の金額が申告期限後に決まった場合、当事者それぞれが手続きをします。支払った側の期限は、確定を知った日の翌日から4か月しかありません。受け取った側には期限の定めがなく、この差が問題になります。

支払った側|払いすぎた相続税を返してもらう手続き

遺留分を支払うと取得財産が減るので、納めた相続税が多すぎた状態になります。税務署に減額を求める「更正の請求」という手続きで返してもらいます

期限
遺留分の金額が確定したことを知った日の翌日から4か月以内(相続税法32条1項3号)

出す先
亡くなった人の住所地を管轄する税務署。更正の請求書に確定を証明する書類を添える

添付書類
調停調書・和解調書・判決書・合意書など金額が確定したことがわかる書類

結果
認められれば納めすぎた相続税が還付される

重要ポイント:この4か月は確定を知った日から数えます。申告期限から4か月ではありません。調停が成立した日や判決が確定した日が起算点です。

参照元:e-Gov法令検索 相続税法(第32条・更正の請求の特則)

受け取った側|後から申告書を提出する

受け取った側は取得財産が増えるので、申告書を提出します。当初申告をしていなければ期限後申告、していれば修正申告です。

当初の状況 出す申告書 期限
申告していなかった 期限後申告書 定めなし
申告していた 修正申告書 定めなし
支払った側が減額を求めた 提出しないと税務署が課税する 請求から1年以内に処分される

表の見方:受け取った側の期限は法律で定められていません。しかし支払った側が減額を求めると、税務署が受け取った側に課税します。放置しても課税されない、という意味ではありません。

重要ポイント:税務署が処分できるのは支払った側の請求があった日から1年を経過した日までです。自分で提出しておけば、後から想定外の通知を受け取ることがなくなります。

修正申告と更正の請求の選び方は、下記の記事で解説しています。

この場合は延滞税がかからない

後から申告して納税すると延滞税を心配しますが、遺留分の確定による期限後申告・修正申告には延滞税がかかりません。納期限の翌日から申告書を出した日までは、計算期間から外れます。

ペナルティ 遺留分の確定による申告 通常の申告漏れ
延滞税 かからない 年2.4%〜8.7%程度
過少申告加算税 かからない(自主的な提出の場合) 10%〜15%
無申告加算税 自主的に提出すればかからない 15%〜30%
提出を放置した場合 税務署の処分で加算税がかかる 同じ

表の見方:遺留分は自分の意思で確定したものではないため、期限までに正しく申告できなかったことを責められない扱いになっています。相続税法51条2項が延滞税の計算期間から除外しています。

重要ポイント:薄赤の行のとおり、放置して税務署の処分を受けるとペナルティがかかります。確定したら自分から提出することが、負担を避ける唯一の方法です。

計算ロジック:相続税法51条2項1号ハにより、32条1項3号の事由による期限後申告書・修正申告書で納付すべき税額は、納期限の翌日から提出日までの期間を延滞税の計算の基礎となる期間に算入しません。提出日までは延滞税が発生しないという意味です。

参照元:e-Gov法令検索 相続税法(第51条・延滞税の特則)

申告漏れがあった場合のペナルティ全般は、下記の記事で解説しています。

自宅の土地を8割減らせる制度は誰が使える?遺留分との関係

自宅や事業用の土地の評価額を最大8割減らせる制度があります。遺留分を請求されても、この制度は遺言で土地を取得した人がそのまま使えます。請求した側は金銭を受け取るだけなので使えません。

制度の中身|4つの区分と減らせる割合

対象になる土地は4種類あり、区分ごとに減額の割合と面積の上限が違います

区分 主な内容 面積の上限 減額の割合
特定居住用宅地等 亡くなった人の自宅の土地 330㎡ 80%
特定事業用宅地等 個人事業に使っていた土地 400㎡ 80%
特定同族会社事業用宅地等 同族会社に貸していた土地 400㎡ 80%
貸付事業用宅地等 アパート・駐車場などの土地 200㎡ 50%

表の見方:自宅の土地なら330㎡まで8割減です。評価額5,000万円の土地が1,000万円になるため、相続税額への影響が大きい制度です。

重要ポイント:この制度は申告期限までに申告書を出さないと使えません。遺留分でもめていても、申告期限が延びるわけではありません。

どの区分に当てはまるかで結果が大きく変わります。区分ごとの細かい要件と計算方法は、下記の記事で解説しています。

参照元:国税庁 No.4124 相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例

遺言で土地を取得した人がそのまま使える

2019年の改正で遺留分は金銭の請求になったため、土地の名義は遺言で取得した人のまま動きません。制度を使う人も変わりません。

請求されて支払う金銭が発生しても、土地の評価額を8割減らす計算はそのまま行います。支払う金銭を引くのはその後で、8割減を適用した後の取得財産から差し引きます

計算ロジック:【前提】自宅の土地の評価額5,000万円(330㎡以内)・その他の財産5,000万円・遺言で子が全部取得・遺留分2,500万円を支払うケースです。

あてはめ:8割減で土地は1,000万円になり、課税価格は1,000万円+5,000万円−2,500万円=3,500万円です。順序を逆にしないことが大切です。

遺留分を受け取った側は使えない

請求した人が受け取るのは金銭です。土地を取得していないため、8割減らせる制度は使えません

立場 取得するもの 8割減の制度 理由
遺言で土地を取得した人 土地 使える 対象の土地を取得している
遺留分を請求した人 金銭 使えない 土地を取得していない

表の見方:改正前は請求すると土地が共有になったため、請求した側も8割減を使える可能性がありました。2019年7月1日以降の相続では使えません。

重要ポイント:この違いは請求する側の判断に影響します。土地の共有を得るのではなく、金銭しか受け取れません。自宅に住み続けたい場合は、遺留分の請求では目的を達成できません。

土地を1人が取得していれば、ほかの相続人の同意書は不要

この制度を使うときは、原則として対象の土地を取得した全員の同意を証する書類が必要です。ただし例外があります。

対象の土地を1人が全部取得している場合は、同意を証する書類の添付が不要になります。遺留分を請求されていても、請求した人は土地を取得していないため人数に入りません。

状況 同意を証する書類 根拠
遺言で1人が対象の土地を全部取得 不要 措置法施行令40条の2第5項ただし書き
複数人が対象の土地を取得 必要 同項3号(取得した全員の同意を証する書類)
遺留分を請求されている 請求した人の同意は不要 金銭の請求なので土地を取得していない

表の見方:もめている相手から同意書をもらう必要はありません。遺留分でもめていても、8割減の制度は自分だけで申告できます

重要ポイント:この点を誤解して同意が得られないから制度を使えないと判断してしまうケースがあります。対象の土地を自分1人が取得しているなら、相手の協力は必要ありません。

参照元:e-Gov法令検索 租税特別措置法施行令(第40条の2第5項)

2019年6月30日までの相続は扱いが違う

改正前のルールが適用される相続では、請求によって土地が共有になります。この場合は請求した側も8割減の制度を使える余地があります

2019年6月30日までの相続 2019年7月1日以降の相続
土地の帰属 請求した人との共有 遺言で取得した人のもの
請求した側の8割減 共有持分について使える余地がある 使えない
同意を証する書類 共有者全員分が必要 取得者が1人なら不要

重要ポイント:適用されるルールは亡くなった日で決まります。古い相続の申告をやり直す場面では、当時のルールで判断します。

遺留分を支払う側にかかる2つの税負担

遺留分を支払う側は相続税が減りますが、別の税金がかかったり、費用を引けなかったりする落とし穴があります。金銭で支払えるかどうかが分かれ目になります。

不動産で渡すと譲渡所得税がかかる

手元に現金がなく、金銭の代わりに不動産を渡すことがあります。この場合、その不動産を時価で売ったものとして譲渡所得税がかかります。金銭の支払に代えて資産を渡す行為は「代物弁済」と呼ばれ、税法上は譲渡として扱われます。

支払い方 相続税 譲渡所得税 手取りへの影響
金銭で支払う 減る かからない 現金が減るだけ
不動産で渡す 減る かかる 相続税とは別に所得税・住民税を納める

表の見方:薄赤の行が不利です。相続税が減っても、譲渡所得税が上回れば負担は増えます。不動産で渡す前に、両方を計算して比べる必要があります。

計算ロジック:【前提】時価3,000万円・取得費が不明な土地を遺留分の支払に代えて渡すケースです。取得費が不明な場合は収入金額の5%を取得費とします。

あてはめ:譲渡所得は3,000万円−150万円=2,850万円。所有期間5年超なら税率20.315%で約578万円の所得税・住民税がかかります。

重要ポイント:不動産を渡すのは現金がないときの最後の手段です。売却して金銭で支払う場合と、そのまま渡す場合の税負担を比べてから決めてください。

参照元:国税庁 No.3105 譲渡所得の対象となる資産と課税方法

売却して現金に換えてから支払う方法もあります。その場合にかかる税金と使える特例は、下記の記事で解説しています。

弁護士費用は相続税から引けない

遺留分でもめると弁護士費用がかかりますが、この費用を相続税の計算で差し引くことはできません。調停や裁判の費用も同じ扱いです。

相続税から差し引けるのは、亡くなった時点で存在していた本人の借入金などです。相続人が後から負担した費用は対象になりません。

費用 相続税から引けるか 理由
亡くなった人の借入金・未払金 引ける 亡くなった時点で存在していた本人の債務
葬式費用 引ける 債務ではないが特別に認められている
弁護士費用・調停の費用 引けない 相続人が後から負担した費用
遺言の執行にかかる費用 引けない 同じ
相続財産の管理費用 引けない 同じ

表の見方:薄赤の3つは実際に出ていくお金ですが、相続税の計算には反映されません。争いが長引くほど、税務上は救済されない出費が積み上がります。

重要ポイント:弁護士費用は遺留分として受け取る金額からも引けません。受け取った金銭の全額が課税対象になり、そこから弁護士費用を払う形になります。

参照元:国税庁 No.4126 相続財産から控除できる債務

支払う資金が足りないときの選択肢

遺留分は金銭で支払うのが原則です。現金が用意できない場合は、期限の猶予や不動産の売却を検討します

【資金が足りないときの3つの手段】

  • 裁判所に支払期限の猶予を求める|民法1047条5項により、裁判所は支払について相当の期限を許与できる
  • 不動産を売却して金銭で支払う|相続税の申告期限の翌日から3年以内の売却なら、納めた相続税の一部を取得費に加算できる
  • 相続税を分割で納める|一定の要件を満たせば延納が認められる

いずれも早めの判断が必要です。遺留分の請求期限は1年、相続税の申告期限は10か月と、動ける時間は限られています。

重要ポイント:売却して支払う場合は申告期限の翌日から3年以内に売ると相続税の一部を取得費に加算できます。この期間を過ぎると使えないため、もめている間に期限が来ないよう注意してください。

遺留分にかかる相続税の計算例|4つのパターンで比べる

同じ遺産でも、誰が請求するか・いつ決まるかで結果が変わります。4つのパターンで、納める相続税と必要な手続きを比べます。自分がどのパターンに当てはまるかを確認してください。

共通の前提:遺産は自宅の土地5,000万円(330㎡以内)と預金5,000万円で合計1億円。遺言で子1人に全部取得させる内容。自宅の土地は8割減が使えるため相続税の課税価格は6,000万円、相続税の総額は180万円です。

計算ロジック:遺留分の金額は民法上の財産の価額で計算するため、8割減の影響を受けません。1億円×4分の1=遺留分は2,500万円。一方で相続税の課税価格は8割減を反映した6,000万円で計算します。2つの金額を混同しないことが計算の鍵です。

パターンA|配偶者が請求し、申告期限までに決まった場合

4つの中でもっとも負担が軽くなるパターンです。配偶者の税額軽減が効くため、実際に納める合計額が下がります。期限内に決まったので手続きも1回で終わります。

  • 配偶者:遺留分2,500万円を金銭で受け取る
  • 子:自宅の土地と預金を取得し、2,500万円を支払う
  • 申告期限までに調停が成立し、金額が確定した
課税価格 按分後の税額 控除 納付額
配偶者 2,500万円 75万円 税額軽減 0円
3,500万円 105万円 105万円
合計 6,000万円 180万円 105万円

表の見方:子の課税価格は8割減後の6,000万円から支払う2,500万円を引いた3,500万円です。配偶者の75万円が税額軽減で消えるため、合計は105万円になります。

重要ポイント:期限内に決まったので申告は1回で完結します。後から返してもらう手続きも、追加で申告する手続きも必要ありません。

計算ロジック:180万円×2,500万円÷6,000万円=75万円、180万円×3,500万円÷6,000万円=105万円。配偶者は1億6,000万円まで税額が出ないため75万円が全額控除されます。

パターンB|遺留分を請求しなかった場合

遺言どおりに子が全部取得し、配偶者は何も受け取らないケースです。配偶者の税額軽減が使えないため、パターンAより75万円多く納めることになります

  • 配偶者:何も受け取らない
  • 子:自宅の土地と預金をすべて取得する
課税価格 按分後の税額 控除 納付額
配偶者 0円 0円 0円
6,000万円 180万円 180万円
合計 6,000万円 180万円 180万円

表の見方:薄赤の行のとおり、配偶者が受け取らないと税額軽減の枠が丸ごと使われずに終わります。パターンAとの差は75万円です。

重要ポイント:配偶者が高齢で二次相続が近い場合は、あえて受け取らない選択が有利になることもあります。配偶者が受け取った財産は、次の相続でもう一度課税されます。

パターンC|子が請求した場合

請求したのが子の場合は配偶者の税額軽減がありません。納める合計額は変わらず、兄弟の間で負担が移るだけです。請求しても全体の税額は減りません。

  • 相続人は子2人(配偶者はすでに亡くなっている)
  • 長男:自宅の土地と預金を取得し、2,500万円を支払う
  • 次男:遺留分2,500万円を金銭で受け取る
課税価格 按分後の税額 控除 納付額
次男(請求した人) 2,500万円 75万円 75万円
長男(支払った人) 3,500万円 105万円 105万円
合計 6,000万円 180万円 180万円

表の見方:合計はパターンBと同じ180万円です。請求によって全体の税額が減るのは、配偶者が請求した場合だけです。

重要ポイント:次男は受け取った2,500万円から75万円を納税することになります。受け取る金額をそのまま使えるわけではないため、納税資金を差し引いて考えてください。

パターンD|申告期限を過ぎてから決まった場合

話し合いが長引き、申告期限を過ぎてから金額が決まったケースです。最終的な負担はパターンAと同じでも、手続きが3回に増えます

  • 申告期限までに決まらず、子が遺言どおり6,000万円で申告して180万円を納付
  • 申告期限から8か月後に調停が成立し、遺留分2,500万円が確定
  • 子が減額を求め、配偶者が後から申告書を提出する
段階 子(支払った側) 配偶者(受け取った側)
当初申告 180万円を納付 申告しない
確定後の手続き 減額を求める(4か月以内) 申告書を提出する
手続き後の税額 105万円 75万円 → 税額軽減で0円
差額 75万円が還付される 納付なし

表の見方:子が申告した後に減額を求めることで、納めすぎた75万円が戻ります。配偶者は後から申告書を出しますが、税額軽減で納付は0円です。

当初申告
子が課税価格6,000万円で申告し180万円を納付する。配偶者は取得財産0円なので申告しない

確定
調停成立により遺留分2,500万円が確定する。ここから4か月のカウントが始まる

子の手続き
減額を求める手続きにより課税価格を3,500万円に修正し、75万円が還付される

配偶者の手続き
課税価格2,500万円で申告書を提出。按分後の税額75万円は税額軽減で0円になる

結果
納付の合計は105万円。パターンAと同じ金額に落ち着く

重要ポイント:結果は同じでも4か月の期限を逃すと75万円が戻りません。子が手続きをしなければ180万円を納めたままになり、配偶者は税額軽減の枠を使わずに終わります。

計算ロジック:相続税法32条1項3号により、遺留分の金額が確定したことを知った日の翌日から4か月以内に減額を求めれば還付されます。同法51条2項により、配偶者が後から提出する申告書に延滞税はかかりません

4つのパターンの比較

4つを横に並べると構造が見えてきます。誰が請求するかで合計額が決まり、いつ決まるかで手続きの数が決まります

A 配偶者が請求(期限内) B 請求しない C 子が請求 D 期限後に確定
相続税の総額 180万円 180万円 180万円 180万円
請求した人の納付額 0円 75万円 0円
支払った人の納付額 105万円 180万円 105万円 180万円→105万円
申告・手続きの回数 1回 1回 1回 3回
管理すべき期限 10か月 10か月 10か月 10か月+4か月
実際に納める合計 105万円 180万円 180万円 105万円

表の見方:合計が下がるのはAとDだけです。どちらも配偶者が請求したケースで、差は手続きの回数です。BとCは合計180万円で変わりません。

重要ポイント:AとBの差は75万円です。配偶者が請求するかどうかは、二次相続まで含めて判断する必要があります。

計算ロジック:相続税の総額は課税価格の合計6,000万円で決まるため、4パターンすべて180万円です。変わるのは各人の控除だけで、配偶者の税額軽減が効くかどうかが合計額を分けます

遺留分と相続税で起きやすいトラブルと対策

遺留分がからむ相続税では、期限と金額の両方でつまずきます。実際に起きやすい4つの事例と対策を確認してください。どれも事前に知っていれば避けられるものです。

期限に関するトラブル

遺留分の請求期限と相続税の手続き期限は、それぞれ別に流れます。片方を守っても、もう片方を逃すと金銭的な損失が出ます

事例1:調停が成立してから半年後に税理士へ相談したところ、減額を求める4か月の期限をすでに過ぎていた。納めすぎた相続税75万円が戻らなくなった。

対策:調停や和解が成立したら、その日を起点に4か月のカウントを始めて税務署への手続きを予定に入れる。成立の日付が書かれた書面を必ず保管する。

事例2:遺言があることを知らないまま1年が過ぎ、遺留分そのものを請求できなくなった。遺言の内容を知った時点から1年で時効が完成していた。

対策:遺言の存在を知った日を記録し、相続税の申告期限10か月とは別に1年の期限を管理する。交渉が進まないときは内容証明で請求の意思を示しておく。

  • □ 遺言の内容を知った日を記録した
  • □ 遺留分の請求期限(1年)をカレンダーに入れた
  • □ 相続税の申告期限(10か月)を確認した
  • □ 金額が確定した日を書面で残した
  • □ 確定から4か月以内の手続きを予定に入れた

重要ポイント:3つの期限が同時に流れます。10か月・1年・確定から4か月の3つを別々に管理してください。相続税の申告期限だけを見ていると、後の2つを逃します。

金額に関するトラブル

遺留分の計算に使う財産の額と、相続税の課税価格はまったく別物です。同じ相続で2種類の金額を計算する必要があります

事例3:8割減を適用した後の6,000万円に4分の1を掛けて、遺留分を1,500万円と計算してしまった。正しくは減額前の1億円で計算するため2,500万円で、1,000万円も少なく請求していた。

対策:遺留分は民法上の財産の価額、相続税は評価減を反映した課税価格で計算する。1つの金額を両方に使い回さない。

事例4:支払う金銭を差し引かずに申告し、取得していない財産にまで相続税を納めていた。受け取った側は正しく申告していたため、支払った側だけが損をする形になった。

対策:申告書を出す前に、取得財産から支払う金銭を引いた額になっているか確認する。不動産の評価額と支払う金銭を混同しないよう内訳を分けて記録する。

重要ポイント:生前贈与の扱いも異なります。相続人への贈与は遺留分の計算では10年、相続税では最長7年です。同じ贈与が一方には入り、他方には入らないことがあります。

遺留分の相続税は相続税の対応実績がある税理士へ|一括相談・見積り

遺留分がからむ相続税は、期限の管理と2種類の金額の計算を同時に行う必要があります。当事者が対立しているため、双方が別の税理士に依頼するのが一般的です。

相続税の対応実績がある税理士が必要な理由

遺留分の案件では、申告した後にもう一度手続きをする前提で段取りを組む必要があります。当初申告だけを想定していると、後の4か月を逃します。

【相続税の対応実績がある税理士に依頼する理由】

  • 3つの期限を同時に管理できる|申告期限10か月・請求期限1年・確定から4か月を並行して押さえる
  • 2種類の金額を分けて計算できる|民法上の財産の価額と相続税の課税価格を混同しない
  • 8割減の制度を確実に使える|取得者が1人なら同意書が不要という判断ができる
  • 不動産で渡す場合の税負担まで比較できる|相続税と譲渡所得税を合わせて有利な方法を選ぶ
  • 相手方の申告内容とのずれを想定できる|双方の申告が食い違うと税務署から確認が入る

具体例で見てみます。相続財産1億円・遺留分2,500万円のケースで、A税理士は当初申告だけの見積りを出し、B税理士は確定後の手続きまで含めた見積りを出しました。報酬の差は20万円でした。

A税理士に依頼した場合、確定から4か月の期限を管理する人がいないため、75万円の還付を取り逃がすリスクがあります。報酬差20万円に対して55万円の損失です。

複数の税理士に相談するメリット

遺留分の案件では、税理士の実務経験の差が金額に直結します。次の3つを比べれば、実務力の差が見えます

判定ポイント1:見積りに確定後の手続きが含まれているか|当初申告だけの見積りか、減額を求める手続きと後からの申告まで含めた見積りか。→ 後者の方が、遺留分の案件を実際に処理した経験があると判定できます。

判定ポイント2:8割減の制度の説明があるか|「相手の同意が必要」と説明する税理士と、「取得者が1人なら同意書は不要」と説明する税理士がいます。→ 後者の方が、条文を確認して判断していると判定できます。

判定ポイント3:支払い方の比較を提案してくるか|金銭で払う場合・不動産で渡す場合・売却して払う場合の3つを比較するか。→ 比較を提案する税理士の方が、譲渡所得税まで含めて設計できると判定できます。

見積りを取るだけなら費用はかかりません。3〜5社に同時に打診して、提案内容を横に並べて比べてください

相談しないまま進めるリスク

遺留分の案件を自分だけで処理すると、取り返せない期限を逃す形で損失が確定します

【相談しないまま進めた場合に起きること】

  • 4か月の期限を逃す|納めすぎた相続税が戻らなくなる。金額が大きいほど損失も大きい
  • 8割減の制度を使い損なう|相手の同意が得られないと思い込み、使えるはずの8割減を諦める
  • 2種類の金額を混同する|評価減後の金額で遺留分を計算し、請求額が少なくなる
  • 不動産で渡して譲渡所得税を払う|売却して金銭で払った方が有利だったケースで、余分な税金を納める
  • 相手方の申告と食い違う|双方の課税価格が合わず、税務署から確認や調査を受ける

どれも事前に相談していれば避けられるものです。争いの相手と同じ税理士に依頼することはできないため、早めに自分の側の窓口を決めてください。

一括相談・見積りの手順|STEP1〜STEP4

見積りを集めて比べる流れは4段階です。フォームの記入は5分程度で終わります

STEP1
相続の概要を整理する
亡くなった人の資産の内容と概算額、相続人の構成と年齢、遺言の有無と内容を書き出す。遺留分を請求する側か、請求される側かも明確にする

STEP2
一括見積り・相談サービスに依頼する
希望内容として「相続税申告・遺留分の確定後の手続き・準確定申告」などを明記し、3〜5社への同時打診を依頼する。不動産があれば所在地と広さを記載する。財産の種類と相続人の人数はできるだけ正確に伝える

STEP3
見積りと初回相談を受ける
各事務所から提案内容・試算した相続税額・報酬額が届く。気になる事務所と初回相談を行い、確定後の手続きまで含まれているかを確認する

STEP4
税理士を選定して正式に依頼する
提案内容の質・説明の丁寧さ・報酬の納得性で選ぶ。相続開始から7か月以内に決めれば、申告期限まで余裕を持って進められる

重要ポイント:遺留分でもめている場合は相続開始から7か月以内に依頼先を決めてください。交渉と申告準備を並行する必要があるため、通常の相続より前倒しで動く必要があります。

よくある質問

Q1. 遺留分を受け取ったら必ず相続税の申告が必要ですか?

遺産の総額が基礎控除を超えていなければ申告は不要です。基礎控除は3,000万円+600万円×法定相続人の数で、相続人が2人なら4,200万円です。判定に使うのは自分が受け取った金額ではなく、遺産の総額です。

超えている場合は、受け取った金銭を取得財産として申告します。配偶者の税額軽減で税額が0円になる場合でも、申告書の提出は必要です。

Q2. 遺留分を請求されたら相続税の申告期限は延びますか?

延びません。相続税の申告期限は、亡くなったことを知った日の翌日から10か月です。もめていても変わりません。

金額が決まっていない場合は、いったん遺言どおりに申告します。後で決まったら、減額を求める手続きで調整します。

Q3. 申告期限後に遺留分が決まったら延滞税がかかりますか?

かかりません。相続税法51条2項により、遺留分の確定を理由とする期限後申告と修正申告は、納期限の翌日から申告書を提出した日までの期間が延滞税の計算から外れます。

ただし放置して税務署から処分を受けた場合は、加算税がかかります。確定したら自分から提出することが負担を避ける方法です。

Q4. 遺留分として受け取ったお金に所得税もかかりますか?

かかりません。相続で取得した財産は所得税の対象外とされているため、課税されるのは相続税だけです。

ただし金銭の代わりに不動産を受け取り、それを後で売却した場合は譲渡所得税がかかります。受け取ること自体には所得税がかかりません。

Q5. きょうだいでも遺留分を請求できますか?

できません。民法1042条により、遺留分があるのはきょうだい以外の相続人です。甥や姪が代わりに相続人になる場合も同じで、遺留分はありません。

そのため、きょうだいに財産を渡したくない場合は、遺言を作ればそのとおりに実現できます。配偶者や子がいる場合はこの方法は使えません。

まとめ

遺留分として受け取った金銭は相続税の対象です。ただし金額の計算より、期限の管理でつまずくケースが目立ちます。

  • 遺産の総額が基礎控除を超えていれば、受け取った側に相続税がかかる
  • 相続税の総額は変わらず、当事者間で負担が移る。請求したのが配偶者なら税額軽減で納付合計が下がる
  • 2019年7月1日以降の相続では遺留分は金銭の請求。財産は遺言どおりに移る
  • 申告期限までに決まらなければ遺言どおりに申告する。遺言があれば分割見込書の提出は不要
  • 期限後に確定したら、支払った側は確定を知った日の翌日から4か月以内に減額を求める
  • 自宅の土地を8割減らせる制度は遺言で取得した人が使う。取得者が1人なら相手の同意書は不要
  • 不動産で渡すと譲渡所得税がかかり、弁護士費用は相続税から引けない

管理すべき期限は3つあります。相続税の申告期限10か月、遺留分の請求期限1年、金額の確定を知った日から4か月です。この3つを別々に押さえてください。

今すぐ取るべき行動

  • 遺言の内容を知った日を記録し、1年の期限を確認する
  • 遺産の総額を概算し、基礎控除を超えるかどうかを判定する
  • 自宅の土地があるか確認し、8割減の対象になるかを調べる
  • 金銭で支払えるか、不動産を売る必要があるかを検討する
  • 相続開始から7か月以内に、相続税の対応実績がある税理士へ相談する

※本記事は2026年8月時点の法令に基づいて作成しています。相続税法・民法の改正により内容が変わる場合があります。最新の制度については国税庁のウェブサイトまたは税理士にご確認ください。

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