


相続人の1人が行方不明でも、相続税の申告期限は延びません。亡くなったことを知った日の翌日から10か月です。
行方不明者を除いた遺産分割協議は無効なので、分割がまとまらないまま期限を迎えることになります。
このとき使うのが未分割申告です。法定相続分で分けたものとして申告し、いったん納税します。
問題は、未分割だと配偶者の税額軽減も小規模宅地等の特例も使えないことです。遺産1億円のケースでは、本来60.0万円で済んだ相続税が630.0万円になります。
この570.0万円の差は、申告書と一緒に分割見込書を出しておけば取り戻せます。出し忘れると取り戻せません。
行方不明の状態を解消する方法は2つです。不在者財産管理人を選任するか、失踪宣告を申し立てるかです。失踪宣告が認められると、相続開始日そのものがさかのぼります。
この記事では、申告期限の考え方、2つの手続きの使い分け、相続開始日がさかのぼる場合の扱い、未分割申告のやり方、行方不明者の相続税を誰が納めるか、分割後の更正の請求、税額の試算、申告書への記載方法、やってはいけないことまでを解説します。
▼ この記事の3行まとめ

最初に押さえるべきなのは期限です。相続人が行方不明であることは、申告期限が延びる理由になりません。
相続税法27条1項は、申告期限を相続の開始があったことを知った日の翌日から10か月以内と定めています。相続人の事情による例外は書かれていません。探している間も期限は進むため、間に合わない前提で準備を始めることになります。
起算点は亡くなった日ではなく亡くなったことを知った日です。同居していれば当日ですが、連絡が遅れれば起算点も後ろにずれます。疎遠だった親族の相続では、この違いが実務上の意味を持ちます。
この起算点は相続人ごとに判定します。行方不明者が後から見つかって死亡を知った場合、その人の期限だけがそこから10か月になります。他の相続人の期限は動かないので、先に申告した人と後から申告する人が分かれることになります。
| 状況 | 起算点 | 申告期限 |
|---|---|---|
| 同居していて当日に知った | 亡くなった日 | その翌日から10か月 |
| 連絡を受けて3か月後に知った | 知らせを受けた日 | その翌日から10か月 |
| 行方不明者が2年後に見つかった | その人が死亡を知った日 | その人だけ翌日から10か月 |
| 行方不明者を探している間 | 他の相続人が知った日 | 延びない |
重要ポイント:探している間も期限は進みます。見つからないまま10か月を迎えるなら、未分割で申告することになります。申告しないまま放置すると無申告加算税と延滞税がかかります。
申告期限の数え方と土日・月末の扱いは、下記の記事で解説しています。

遺産分割協議は相続人全員が参加しなければ成立しません。1人でも欠いていれば、その協議は無効です。
連絡が取れないからといって、残りの相続人だけで決めることはできません。後から行方不明者が現れれば、協議をやり直すことになります。不動産の名義変更まで終えていた場合は、登記も戻すことになります。登録免許税も司法書士の報酬も、やり直しの分だけ二重にかかります。
注意点:金融機関も相続人全員の署名がない遺産分割協議書では預金を払い出しません。手続きが物理的に進まないため、行方不明の状態を解消するしかありません。被相続人の口座も凍結されたままになります。
遺産分割から相続税の申告までの流れと期限は、下記の記事で解説しています。

遺産分割協議書の書き方と必要な署名は、下記の記事で解説しています。

10か月という期限のなかで動く順番があります。相続人の確定を最優先にしてください。
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重要ポイント:不在者財産管理人の選任は申し立てから選任まで数か月かかります。相続開始から半年を過ぎてから動き始めると、期限までに遺産分割まで終えることはできません。
相続税申告の全体の流れと10か月の逆算スケジュールは、下記の記事で解説しています。

探す手段は限られています。相続人であれば取得できる公的な書類から住所をたどります。
| 調べ方 | 分かること | 取得できる場所 |
|---|---|---|
| 戸籍の附票 | 住民票の移動の記録(最後の住所) | 本籍地の市区町村 |
| 戸籍謄本 | 婚姻・離婚・出生などの身分の変動 | 本籍地の市区町村 |
| 住民票の除票 | 転出先の住所 | 最後の住所地の市区町村 |
| 探偵・弁護士への依頼 | 公的書類で追えない場合の調査 | 費用は数十万円かかることもある |
重要ポイント:戸籍の附票は相続人であることを示せば取得できます。本人の同意は必要ありません。住民票の移動が記録されているため、最後に住んでいた場所が分かります。
注意点:住民票を移さずに転居していると公的書類では追えません。その場合は不在者財産管理人の選任に進むことになります。探すことに時間をかけすぎると、選任の申立てが間に合わなくなります。

行方不明の状態を解消する手続きは2つあります。生死が分からない期間の長さで使い分けます。
どちらも家庭裁判所への申し立てが必要です。税務上の扱いが大きく違うため、選び方で相続税の計算そのものが変わります。相続人の数が変わるか変わらないかという点で、基礎控除にも影響します。
不在者財産管理人は行方不明者を生きているものとして扱い、代理人を置く制度です。
失踪宣告は行方不明者を法律上死亡したものとみなす制度です。生死不明の期間が7年以上必要で、事故や災害に遭った場合は1年で申し立てられます。相続人から完全に外れるため、遺産分割そのものが不要になります。
| 不在者財産管理人 | 失踪宣告 | |
|---|---|---|
| 根拠 | 民法25条 | 民法30条・31条 |
| 行方不明者の扱い | 生きている | 死亡したものとみなす |
| 必要な期間 | なし(すぐ申し立てられる) | 7年(危難の場合は1年) |
| 申立てから成立まで | 数か月 | 1年程度(公告期間がある) |
| 行方不明者の相続分 | 管理人が受け取って管理する | 相続人から外れる |
| 相続税への影響 | 相続人の数は変わらない | 相続人の数が減り、相続開始日も変わる |
表の見方:7年経っていなければ選べるのは不在者財産管理人だけです。申告期限に間に合わせたい場合も、こちらを選ぶことになります。
参照元:裁判所 不在者財産管理人選任
参照元:裁判所 失踪宣告
参照元:e-Gov 法令検索 民法(第25条・第30条・第31条)
誰が法定相続人になるかの範囲と人数の数え方は、下記の記事で解説しています。

管理人が選任されると管理人が行方不明者に代わって遺産分割協議に参加します。
ただし管理人が勝手に相続分を譲ることはできません。遺産分割は財産を処分する行為にあたるため、家庭裁判所の権限外行為許可が必要になります。許可の申立てから審査までにも1〜2か月かかります。
【管理人が参加する遺産分割の制約】
重要ポイント:管理人が参加しても行方不明者は相続人のままです。法定相続人の数は変わらないので、基礎控除も変わりません。行方不明者の分の相続税も発生します。
注意点:管理人には報酬が必要です。選任の申立て時に予納金として数十万円を納め、報酬は行方不明者の財産から支払われます。財産が少なければ申立人の負担になることもあります。
失踪宣告が確定すると行方不明者は死亡したものとみなされ、相続人から外れます。
死亡とみなされる時期が被相続人より前であれば、その人は最初から相続人ではなかったことになります。ただし行方不明者に子がいれば、その子が代襲相続人になります。孫の所在も分からなければ、問題が次の世代に移るだけになります。
| 死亡とみなされる時期 | 相続人になるか | 相続税への影響 |
|---|---|---|
| 被相続人より前 | ならない | 法定相続人の数が減る。子がいれば代襲相続 |
| 被相続人より後 | なる(その後に相続が発生) | 数次相続として扱う |
重要ポイント:失踪宣告は相続人の顔ぶれを変えてしまいます。行方不明者に子がいれば代襲相続人になり、人数は減りません。子がいなければ法定相続人が1人減り、基礎控除が600万円下がります。
代襲相続で相続人がどう変わるかは、下記の記事で解説しています。

7年待たずに動きたい場合は不在者財産管理人を選任するのが唯一の方法です。生死不明の期間が要件になっているため、失踪宣告は選べません。
危難失踪にあたる場合は1年で申し立てられますが、事故や災害に遭ったことを示す資料が必要です。単に音信不通というだけでは認められません。
注意点:失踪宣告の申立てから確定までは公告期間があるため1年程度かかります。7年が経過していても、申告期限までに間に合うとは限りません。まず不在者財産管理人で分割を成立させ、後から失踪宣告を検討する順序になることが多いです。

失踪宣告でとくに見落とされやすいのがここです。死亡とみなされるのは宣告が確定した日ではありません。
生死不明の期間が満了した時点にさかのぼって死亡したものとみなされます。相続開始日が過去に動くため、財産の評価時点もそこを基準に決まります。数年前の路線価や残高証明をそろえることになります。
民法31条は、7年の期間が満了した時に死亡したものとみなすと定めています。危難に遭った場合は危難が去った時です。
2016年4月から行方不明で、2026年に失踪宣告が確定したとします。死亡とみなされるのは2023年4月で、宣告が確定した2026年ではありません。3年前に死亡していたものとして扱われるため、その年の税制と路線価で計算します。
| ケース | 行方不明になった時期 | 死亡とみなされる日 | 根拠 |
|---|---|---|---|
| 普通失踪 | 2016年4月 | 2023年4月(7年後) | 民法30条1項・31条 |
| 危難失踪(船舶の沈没など) | 2025年6月に遭難 | 2025年6月(危難が去った時) | 民法30条2項・31条 |
| 誤りやすい理解 | - | 宣告が確定した日ではない | - |
重要ポイント:死亡とみなされる日が被相続人が亡くなった日より前かどうかで結論が変わります。前なら最初から相続人ではなく、後なら数次相続として扱います。
相続開始日が動くと財産の評価時点も申告期限もその日を基準に決まります。
行方不明だった人自身が被相続人になる場合、その人の財産は死亡とみなされた日の評価額で計算します。宣告が確定した時点の評価額ではありません。地価が上がっていれば過去の低い評価額で済み、下がっていれば逆になります。
| 項目 | 基準になる日 | 注意点 |
|---|---|---|
| 財産の評価時点 | 死亡とみなされた日 | 路線価もその年分を使う |
| 相続税の申告期限 | 失踪宣告の確定を知った日の翌日から10か月 | 死亡とみなされた日からではない |
| 法定相続人の判定 | 死亡とみなされた日 | その時点で生きていた人が相続人になる |
| 基礎控除の金額 | 死亡とみなされた日 | その年の税制が適用される |
重要ポイント:評価は過去にさかのぼるのに、申告期限は宣告の確定を知った日から10か月です。2つの日付が違うため、数年前の路線価や残高証明を集めることになります。
注意点:死亡とみなされた日が数年前だと、その時点の預金残高を証明する書類の取得に時間がかかります。金融機関の取引履歴の保存期間は10年程度なので、失踪宣告が確定したら早めに動いてください。
失踪宣告で死亡とみなされた人に死亡退職金が支給される場合の扱いを国税庁が示しています。
退職給与規程で支給額が決まる従業員なら、実際の支給が死亡から3年を経過した後でも相続税の課税対象になります。規程によって支給額が自動的に確定すると解されるためです。失踪宣告は確定までに時間がかかるため、この場面は実際に起こります。
| 支給を受ける人 | 規程の有無 | 課税される税目 |
|---|---|---|
| 従業員の遺族 | 退職給与規程がある | 相続税(退職手当金等) |
| 役員の遺族 | 規程がなく株主総会の決議で決まる | 所得税(一時所得) |
計算ロジック:規程がある場合は退職と同時に支給額が確定するため、相続税法3条1項2号の退職手当金等に該当します。規程がなく死亡後3年を経過してから決議された場合は、退職手当金等に該当せず遺族の一時所得になります。
重要ポイント:相続税なら500万円×法定相続人の数までは非課税です。一時所得になると非課税枠は使えないため、どちらに該当するかで手取りが変わります。
参照元:国税庁 質疑応答事例 失踪宣告が行われたことに伴い死亡退職金の支払いがあった場合の課税関係

行方不明者がいると、多くの場合10か月以内に遺産分割は終わりません。不在者財産管理人の選任だけで数か月かかるためです。
そのときは未分割で申告します。ただし未分割のままだと使えない特例があり、それを後から取り戻すための書類を出し忘れると損失が確定します。提出する書類は1枚ですが、影響する金額は数百万円になります。
未分割申告では実際には分けていない財産を、法定相続分で取得したものとして計算します。
行方不明者の分も、その人が法定相続分を取得したものとして申告します。実際には1円も渡っていなくても、課税価格に含めることになります。財産を受け取っていない人に納税義務が生じるという状態です。
重要ポイント:納税も同じです。行方不明者が納めない分は、他の相続人が立て替えることになりがちです。税務署は相続人ごとに納付を求めるため、納めない人がいれば連帯納付義務の問題に発展します。
参照元:国税庁 No.4208 相続財産が分割されていないときの申告
未分割申告のやり方と提出書類は、下記の記事で詳しく解説しています。

未分割申告でいちばん重いのは配偶者の税額軽減と小規模宅地等の特例が使えないことです。
どちらも財産を取得した人が確定していないと適用できません。誰がその土地を取得するのか、配偶者がいくら取得するのかが決まらないためです。制度の設計上、取得者が決まらなければ判定そのものができません。
| 制度 | 未分割申告 | 分割後に取り戻せるか |
|---|---|---|
| 配偶者の税額軽減 | 使えない | 取り戻せる(分割見込書が必要) |
| 小規模宅地等の特例 | 使えない | 取り戻せる(分割見込書が必要) |
| 農地等の納税猶予 | 使えない | 取り戻せる |
| 基礎控除 | 使える | - |
| 未成年者控除・障害者控除 | 使える | - |
| 債務控除・葬式費用 | 使える | - |
表の見方:使えなくなるのは誰が取得したかで決まる制度です。人数で決まる基礎控除や、本人の属性で決まる控除は影響を受けません。
配偶者の税額軽減の上限と申告後に適用する方法は、下記の記事で解説しています。

どれだけ違うのかを金額で見ます。遺産1億円(土地5,000万円・預貯金5,000万円)、相続人は母と子2人で、子の1人が行方不明というケースです。
| ①分割できた場合 | ②未分割の場合 | |
|---|---|---|
| 小規模宅地等の特例 | 使える(土地5,000万→1,000万) | 使えない(5,000万のまま) |
| 課税価格 | 6,000万円 | 1億円 |
| 基礎控除 | 4,800万円 | 4,800万円 |
| 相続税の総額 | 120.0万円 | 630.0万円 |
| 配偶者の税額軽減 | 使える(母の分は0円) | 使えない |
| 納める相続税 | 60.0万円 | 630.0万円 |
計算ロジック:①では土地に特例を適用して課税価格が6,000万円になり、総額120.0万円のうち母が取得した2分の1が軽減で消えて60.0万円です。②では特例も軽減も使えないため、課税価格1億円に対する630.0万円を全額納めます。
重要ポイント:差は570.0万円です。行方不明の相続人が1人いるだけで、これだけの資金を先に用意することになります。
参照元:国税庁 No.4124 相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例)
小規模宅地等の特例の要件と適用できる人の範囲は、下記の記事で解説しています。

この570.0万円は取り戻せます。申告書と一緒に申告期限後3年以内の分割見込書を提出しておくことが条件です。税務署のホームページから入手できる1枚の書類です。
3年以内に分割がまとまれば、その時点で特例を適用して更正の請求ができます。ただし分割見込書は申告書と同時に出さなければ意味がなく、後から提出することはできません。税務署から出し忘れを指摘してくれることもありません。
【分割見込書を出し忘れると起きること】
重要ポイント:行方不明者がいる相続では未分割申告になる可能性が高いと最初から想定してください。分割見込書は税務署のホームページからダウンロードできる1枚の書類です。
3年以内に分割できない場合でも道はあります。やむを得ない事情があれば、期限を延ばす承認申請ができます。
行方不明者を探している、不在者財産管理人の選任を申し立てている、失踪宣告の審判を待っているといった事情が該当します。申請は3年を経過する日の翌日から2か月以内に行います。認められれば、事情が解消してから4か月以内に分割すれば特例を使えます。
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注意点:承認申請の期限は3年を経過する日の翌日から2か月以内です。3年が過ぎてから思い出しても間に合いません。申告のときに、3年後の日付を控えておいてください。
参照元:国税庁 No.4208 相続財産が分割されていないときの申告

未分割申告では行方不明者の分も課税されます。その人が納めないとき、他の相続人が代わりに納める義務を負います。
相続税法が定める連帯納付義務です。この仕組みを知らないまま申告すると、自分の分を納めたのに督促が来ることになります。行方不明者がいる相続では、必ず起こりうる問題として扱ってください。
相続税法34条1項は、同一の被相続人から財産を取得したすべての人が互いに連帯納付の責めに任ずると定めています。
限度は、その相続で受けた利益の価額に相当する金額です。自分が取得した財産の範囲内であれば、他の相続人が納めなかった相続税を負担することになります。相続で得た財産を超える負担にはなりませんが、その範囲では逃れられません。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 誰が負う | 同一の被相続人から財産を取得したすべての人 |
| 限度 | その相続で受けた利益の価額に相当する金額 |
| 連帯の対象 | 他の相続人が納めるべき相続税 |
| 自分の申告・納付が済んでいても | 免れない |
| 期間の制限 | 申告期限から一定期間を過ぎると消える |
重要ポイント:自分の相続税を納め終えても他の相続人の未納分について責任が残ります。行方不明者が納付できるはずもないため、実質的に他の相続人が負担することになります。
遺産1億円、相続人は子3人でそのうち1人が行方不明というケースです。1人あたりの相続税は210.0万円になります。
| 課税価格 | 相続税 | 納付の状況 | |
|---|---|---|---|
| 長男 | 約3,333万円 | 210.0万円 | 納付済み |
| 次男 | 約3,333万円 | 210.0万円 | 納付済み |
| 三男(行方不明) | 約3,333万円 | 210.0万円 | 未納 |
| 合計 | 1億円 | 630.0万円 | 420.0万円しか納付されない |
計算ロジック:基礎控除は3,000万円+600万円×3人=4,800万円です。課税遺産総額5,200万円を法定相続分3分の1ずつで分け、それぞれに税率をかけて合計すると総額630.0万円になります。
表の見方:未分割申告では法定相続分どおりに按分するため、1人あたり210.0万円です。三男が納めなければ、納付されるのは420.0万円だけになります。
重要ポイント:三男が納めない210.0万円について、長男と次男が連帯して納付を求められます。自分の210.0万円を納めていても関係ありません。取得した財産の範囲内であれば負担することになります。
不在者財産管理人が選任されていれば管理人が行方不明者の財産から相続税を納めます。
管理人は行方不明者の財産を管理する立場なので、その財産から納税することができます。連帯納付の問題を避けるうえでも、管理人の選任は有効です。予納金の負担はありますが、他の相続人が数百万円を立て替える事態は避けられます。
重要ポイント:管理人を選任するかどうかは遺産分割のためだけでなく、納税のためにも判断材料になります。選任しなければ、他の相続人が行方不明者の相続税まで負担する可能性が残ります。
注意点:行方不明者の取得分が預貯金であれば納税に充てられますが、不動産だけを取得した場合は納税資金がありません。遺産分割の段階で、行方不明者の取得分に現預金を含めておくのが実務的です。
相続税が払えないときの選択肢と優先順位は、下記の記事で解説しています。

連帯納付義務は無期限ではありません。相続税法34条1項のただし書きが期間の制限を定めています。
申告期限から5年が経過し、その間に税務署から連帯納付義務者としての納付通知書が届いていなければ、その相続税について連帯納付の責任を負わなくなります。期限後申告や修正申告をした場合は、その提出の日が起算点になります。
【連帯納付義務が消える場合】
重要ポイント:期間が経過するまでは納付通知書が届く可能性が残ります。行方不明者の分が未納のままなら、自分の申告と納付を終えても数年は注意が必要です。
注意点:納付通知書が届いたあとは期間の経過による免除は使えません。届いた時点で納付するか、本来の納税義務者から回収する方法を考えることになります。

行方不明の状態が解消して遺産分割が成立したら、更正の請求で払いすぎた相続税を取り戻します。
期限が短いため、分割が成立した時点で動き始める必要があります。手続きの流れと期限を確認します。未分割申告から数年が経っていることも多く、書類の準備にも時間がかかります。
更正の請求ができるのは分割が成立した日の翌日から4か月以内です。
この期限を過ぎると、特例を適用した税額との差額は戻ってきません。未分割申告のときに分割見込書を出していても、この4か月を守らなければ意味がなくなります。分割が成立した日を記録しておいてください。
| きっかけ | 請求の期限 | 取り戻せるもの |
|---|---|---|
| 遺産分割が成立した | 分割の日の翌日から4か月以内 | 配偶者の税額軽減・小規模宅地等の特例 |
| 失踪宣告が確定して相続人が減った | 確定を知った日の翌日から4か月以内 | 基礎控除の差額など |
| 行方不明者が現れて分割をやり直した | 分割の日の翌日から4か月以内 | 同じ |
重要ポイント:4か月は短い期間です。分割協議書に署名した日を起点に、すぐ税理士へ連絡してください。必要書類をそろえるだけで1か月以上かかることがあります。
参照元:国税庁 No.4208 相続財産が分割されていないときの申告
先ほどの例なら630.0万円を納めた後、60.0万円との差額570.0万円が還付されます。
還付されるのは特例を適用したことによる差額です。納めすぎていた期間の利息にあたる還付加算金も付きます。数年分になると、還付加算金も無視できない金額になります。
計算ロジック:未分割申告で納めた630.0万円に対し、分割後に小規模宅地等の特例と配偶者の税額軽減を適用すると60.0万円になります。差額570.0万円が還付の対象です。
注意点:更正の請求は相続人がそれぞれ行います。代表者がまとめて請求することはできないため、全員に手続きを促す必要があります。
失踪宣告の後に本人が生きていることが分かれば、家庭裁判所は宣告を取り消さなければなりません(民法32条)。
取り消されると、その人は最初から死亡していなかったことになります。相続人の顔ぶれが変わるため、遺産分割も相続税の申告もやり直しになります。基礎控除の人数も戻るので、納めた税額も変わります。
| 取消しの影響 | 内容 |
|---|---|
| 遺産分割 | やり直しになる(その人が相続人に戻る) |
| 相続税の申告 | 法定相続人の数が変わるため修正申告または更正の請求 |
| すでに受け取った財産 | 現に利益を受けている限度で返還する |
| 善意で行った行為 | 影響を受けない(民法32条1項ただし書き) |
注意点:取消しの可能性があるため、失踪宣告に基づく遺産分割では財産を処分しないほうが安全です。不動産を売却してしまうと、取り消されたときの精算が複雑になります。

金額を知らないまま手続きを進めると判断できません。家族構成と分割の状況ごとに税額を並べます。どこまで急ぐべきかが金額で見えてきます。
いずれも遺産1億円で、土地5,000万円と預貯金5,000万円という前提です。土地は被相続人と同居していた相続人が住み続ける自宅とします。小規模宅地等の特例を使えれば、この土地は1,000万円まで下がります。
配偶者がすでに亡くなっている場合です。配偶者の税額軽減が使えないため、未分割の影響は小規模宅地等の特例だけになります。それでも金額は500万円を超えます。
| 状況 | 課税価格 | 相続税の総額 | 1人あたり |
|---|---|---|---|
| 未分割(特例なし) | 1億円 | 630.0万円 | 210.0万円 |
| 分割でき特例を使えた | 6,000万円 | 120.0万円 | 40.0万円 |
計算ロジック:相続人が子3人なら基礎控除は4,800万円です。未分割では課税価格1億円に対し総額630.0万円、特例を使えれば課税価格6,000万円に対し120.0万円になります。差は510.0万円です。
重要ポイント:1人あたりで見ると210.0万円と40.0万円の差です。行方不明者の分も含めて、いったん630.0万円を用意することになります。
母が健在で、子2人のうち1人が行方不明という構成です。未分割だと配偶者の税額軽減も失うため、影響がさらに大きくなります。納める額は10倍以上の開きになります。
| 状況 | 課税価格 | 相続税の総額 | 実際に納める額 |
|---|---|---|---|
| 未分割(特例も軽減もなし) | 1億円 | 630.0万円 | 630.0万円 |
| 分割できたが特例は使えない | 1億円 | 630.0万円 | 315.0万円(母の分が軽減で0) |
| 分割でき特例も軽減も使えた | 6,000万円 | 120.0万円 | 60.0万円 |
計算ロジック:相続人が3人なので基礎控除は4,800万円です。母が2分の1を取得すれば、その分の税額は配偶者の税額軽減で0円になります。特例と軽減の両方を使えると60.0万円まで下がります。
重要ポイント:未分割の630.0万円と両方使えた場合の60.0万円では570.0万円の差です。行方不明者が1人いるだけで、この差額を先に納めることになります。
行方不明の子について失踪宣告が確定し、被相続人より前に死亡したものとみなされたケースです。
その子に子がいなければ法定相続人が1人減り、基礎控除も600万円下がります。一方で分割が成立するため、特例と軽減が使えるようになります。基礎控除が減るマイナスと、特例が使えるプラスのどちらが大きいかで判断します。
| 行方不明のまま未分割 | 失踪宣告で相続人が2人になった | |
|---|---|---|
| 法定相続人の数 | 3人 | 2人 |
| 基礎控除 | 4,800万円 | 4,200万円 |
| 小規模宅地等の特例 | 使えない | 使える |
| 課税価格 | 1億円 | 6,000万円 |
| 相続税の総額 | 630.0万円 | 180.0万円 |
計算ロジック:相続人が2人になると基礎控除は4,200万円に下がりますが、特例で課税価格が6,000万円まで下がるため総額は180.0万円になります。基礎控除が600万円減っても、特例の効果が大きく上回ります。
重要ポイント:失踪宣告は相続人の数を減らしますが、分割が成立して特例が使えるようになる効果のほうが大きいケースが多いです。ただし確定までに1年程度かかるため、まず未分割申告と分割見込書で時間を確保してください。
相続税に使える控除と特例の一覧、適用の順番は下記の記事にまとめています。


行方不明の相続人がいても申告書に専用の様式はありません。
通常の申告書のなかで、未分割であることと法定相続分で按分した金額を書き込みます。添付書類のそろえ方に注意が必要で、分割が済んでいる場合とは用意するものが変わります。
未分割申告では第11表に財産を書き、取得者を法定相続分で按分します。
| 表 | 書く内容 | 行方不明者がいる場合の注意点 |
|---|---|---|
| 第11表 | 相続税がかかる財産の明細 | 未分割の財産は法定相続分で按分して各人に配分する |
| 第1表 | 各人の課税価格と納める税額 | 行方不明者の欄も作り、その人の税額を計算する |
| 第2表 | 相続税の総額 | 法定相続人の数に行方不明者を含める |
| 第5表 | 配偶者の税額軽減 | 未分割では使えないので記載しない |
| 第11・11の2表の付表1 | 小規模宅地等の特例 | 同じく未分割では記載しない |
| 分割見込書 | 申告期限後3年以内の分割見込書 | 必ず添付する。後から出すことはできない |
重要ポイント:行方不明者の欄も作ります。財産を取得していないように見えても、法定相続分を取得したものとして扱うためです。欄を作らないと、課税価格の合計が合わなくなります。
相続税の申告書の書き方と提出までの流れは、下記の記事で解説しています。

相続人を証明する書類のうち行方不明者の分だけがそろわないことがあります。ただし未分割申告なら、必要な書類は分割済みの場合より少なくなります。
戸籍謄本は本人の同意がなくても取得できますが、印鑑証明書は本人しか取得できません。遺産分割協議書に押印できないため、未分割申告ではそもそも協議書を添付しません。そのため印鑑証明書も不要になります。
【未分割申告で必要な書類】
注意点:行方不明者の戸籍の附票は相続人であれば取得できます。最後の住所を確認する資料になるので、探す段階でも申告の段階でも取得しておいてください。
申告書を出す前に、行方不明者がいる相続で落としやすい項目を確認します。
チェックリスト:行方不明の相続人がいる申告で確認すること
重要ポイント:もっとも取り返しがつかないのは分割見込書を添付したかです。この1枚を忘れると、この記事の例では570.0万円が戻らなくなります。

行方不明者がいる相続では進めたつもりが後で無効になる行為が3つあります。いずれも実際に起きているものです。
いずれも急いで手続きを終わらせようとして起きます。結果として時間も費用も増えるため、先に知っておいてください。とくに3つ目は、申告を終えた後の期限管理の話になります。
相続人を1人でも欠いた遺産分割協議は無効です。署名を代筆したり、勝手に押印したりすれば私文書偽造にもなります。
金融機関も法務局も相続人全員の署名と印鑑証明書を確認します。通らないだけでなく、後から行方不明者が現れたときに協議のやり直しと登記の巻き戻しが必要になります。第三者に売却していれば、その精算まで問題になります。
注意点:行方不明者の相続分をとりあえず他の相続人の名義にしておくという処理もできません。実質的に贈与とみなされ、贈与税の対象になることもあります。
分割がまとまらないからといって申告しないまま期限を過ぎると加算税がかかります。
無申告加算税は納付すべき税額の15%から20%、延滞税は納期限の翌日から日割りでかかります。未分割でも申告はできるため、放置する理由はありません。分割が終わっていないことは、申告しない理由になりません。
| 対応 | 加算税・延滞税 | 特例の取り戻し |
|---|---|---|
| 期限内に未分割で申告する | なし | 分割見込書を出せば取り戻せる |
| 期限後に申告する | 無申告加算税15〜20%+延滞税 | 期限後申告でも分割見込書は出せるが、加算税は消えない |
| 申告しないまま放置する | 税務調査で重加算税の対象になることもある | 取り戻せない |
重要ポイント:未分割申告は分割が終わっていなくてもできる申告です。行方不明者を探している最中でも提出できます。
申告漏れが発覚したときの加算税の種類と税率は、下記の記事で解説しています。

行方不明者がいるから他の相続人が相続放棄をしても解決しません。
放棄をすれば自分は相続人から外れますが、行方不明者は相続人のままです。相続分が増えるだけで、遺産分割協議に参加してもらう必要は変わりません。放棄した人は財産も受け取れなくなるため、失うものだけが残ります。
| 誰が放棄するか | 結果 | 解決するか |
|---|---|---|
| 他の相続人が放棄する | 行方不明者の相続分が増えるだけ | しない |
| 行方不明者に放棄させる | 本人が家庭裁判所で手続きする必要があり、連絡が取れなければできない | できない |
| 全員が放棄する | 次の順位の相続人へ移る | 相続人が変わるだけで問題は残る |
重要ポイント:相続放棄は本人が自分の意思で家庭裁判所に申し立てる手続きです。不在者財産管理人が代わりに放棄することも、原則として認められていません。
注意点:放棄をしても法定相続人の数には放棄がなかったものとして数えます。基礎控除は変わらないので、放棄で相続税が増えることはありません。
未分割申告をしたあと3年という期限を意識しないまま時間が過ぎるのがもっとも多い失敗です。
3年以内に分割できなければ、3年を経過する日の翌日から2か月以内に承認申請をする必要があります。この2か月を逃すと、やむを得ない事情があっても特例は使えません。申告から3年も経つと、担当した税理士との契約も終わっていることが多いです。
【期限を逃すと起きること】
重要ポイント:申告した時点で3年後の日付と、その2か月後の日付を控えてください。行方不明者を探す手続きは長期化するため、この2つの日付を管理できるかどうかで結果が変わります。

行方不明の相続人がいる相続は書類1枚の提出漏れで数百万円が確定します。複数の税理士から見積りを取り、提案の中身を比べてください。
この相続では未分割申告・分割見込書・承認申請・更正の請求が連続します。どの段階で1つ落としても、そこで損失が確定します。
【相続税の対応実績がある税理士に相談すべき理由】
たとえば遺産1億円(土地5,000万円・預貯金5,000万円)、相続人は母と子2人で子の1人が行方不明という家庭を考えます。
A税理士は未分割で申告しましたが、分割見込書を添付しませんでした。納めた相続税は630.0万円で、後から分割が成立しても特例を使えないまま確定します。
B税理士は未分割申告と同時に分割見込書を提出しました。2年後に不在者財産管理人を選任して分割が成立し、小規模宅地等の特例と配偶者の税額軽減を適用して更正の請求をしました。税額は60.0万円まで下がり、570.0万円が還付されています。
比べるべきなのは未分割になる前提で設計しているかです。分割が終わっている前提の見積りでは、この相続に対応できません。
判定ポイント1:分割見込書の話が出てくるか初回相談で「分割がまとまらない場合は分割見込書を出します」と説明があるかどうかを見てください。→ 触れない事務所は、未分割申告の経験が少ない可能性があります。
判定ポイント2:3年後の期限管理まで含まれているか見積りに「更正の請求」「承認申請」が業務として入っているかを確認します。→ 申告までで終わる契約だと、3年後に自分で動くことになります。
判定ポイント3:行方不明者の納税資金に触れるか「行方不明の方の分の相続税はどう納めますか」と聞いてくるかどうかです。→ 連帯納付義務を知らないまま進めると、後から督促が来ます。
行方不明者がいる相続では期限が3重に設定されています。1つでも逃すと、そこで金額が確定します。
【相談しないまま進めた場合のリスク】
納めすぎた税金を取り戻すには更正の請求が必要で、期限を過ぎると請求できなくなります。複数の事務所から見積りを取っていれば、対応の差はその時点で見えます。
見積りはフォームの記入5分から始められます。
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重要ポイント:STEP1でいつから連絡が取れないかを整理しておくことが、提案の精度を大きく左右します。7年を超えていれば失踪宣告という選択肢が生まれるためです。
延びません。相続税法27条1項が、申告期限を相続の開始があったことを知った日の翌日から10か月以内と定めており、相続人の事情による例外はないためです。
期限までに遺産分割がまとまらない場合は、法定相続分で分けたものとして未分割申告をします。その際に申告期限後3年以内の分割見込書を添付してください。
できません。遺産分割協議は相続人全員が参加しなければ成立せず、1人でも欠いた協議は無効になります。
解消するには、家庭裁判所に不在者財産管理人の選任を申し立てるか、生死不明が7年を超えていれば失踪宣告を申し立てることになります。
配偶者の税額軽減と小規模宅地等の特例が使えなくなります。遺産1億円(土地5,000万円・預貯金5,000万円)で母と子2人が相続する場合、両方使えれば60.0万円で済む相続税が630.0万円になります。
この570.0万円は、分割見込書を添付しておけば分割成立後の更正の請求で取り戻せます。添付を忘れると取り戻せません。
生死が7年間明らかでないときです(民法30条1項)。船舶の沈没や災害などの危難に遭った場合は、危難が去った後1年で申し立てられます(同条2項)。
宣告が確定すると、7年の期間が満了した時または危難が去った時に死亡したものとみなされます。宣告が確定した日ではなく、さかのぼる点に注意してください。
不在者財産管理人が選任されていれば、管理人が行方不明者の財産から納めます。選任されていない場合は納付されないままになります。
その場合、他の相続人が相続税法34条1項の連帯納付義務を負います。自分の相続税を納め終えていても、その相続で受けた利益の価額を限度として負担を求められます。
行方不明の相続人がいる相続では、手続きを急ぐ前に期限を押さえることが先です。申告期限は延びず、分割は間に合わないという前提で組み立ててください。
この記事の要点をまとめます。
今すぐ取るべき行動
※本記事は2026年9月時点の法令等に基づいて作成しています。相続税法の改正により取り扱いが変わる場合があります。最新の制度については国税庁のホームページや税理士にご確認ください。