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積立NISA・新NISA死亡時の相続税|評価方法・手続き・売却時の税金を解説

積立NISA_死亡時_相続税

積立NISAや新NISAで運用していた人が亡くなった場合、「NISAは非課税だから相続税もかからない」と思っている方が少なくありません。

しかしこれは誤解です。NISAの「非課税」とは所得税・住民税が非課税という意味であり、相続税はまったく別の税金です。死亡時点のNISA口座内の資産は相続財産として相続税の課税対象になります。

この記事では、NISAの非課税と相続税の関係、相続税評価の計算方法、NISA口座が死亡時に終了する仕組み、5パターンのケース別シミュレーション、相続後に売却した場合の税金(取得費加算の特例を含む)、手続きフローまで、順序立てて解説します。

新NISAの普及により「知らなかった」では済まない問題になっているため、早めの理解と対策が重要です。

▼ この記事の3行まとめ

  • NISAの「非課税」は所得税・住民税の話であり、相続税は別の税金なのでNISA口座内の資産も相続財産として相続税の課税対象になる
  • NISA口座は死亡と同時に終了し、相続人のNISA口座への移管はできないため、課税口座(特定口座等)に移管した上で相続税申告が必要
  • 課税口座への移管後の取得費は相続時の時価が基準になるため、NISA保有中の含み益分には所得税がかからないという実質的なメリットがある

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NISAの非課税と相続税の関係|よくある誤解を整理する

「NISAは非課税だから相続税もかからない」という誤解は非常に多く見られます。しかし税制上、NISAの非課税と相続税は全く別の話です。まずこの点を正確に理解することが、NISA相続の出発点です。

NISAの「非課税」は所得税・住民税の話であり相続税は別

NISAとは「少額投資非課税制度」の略で、NISA口座内で発生した運用益(売却益・配当・分配金)に対して所得税・住民税がかからない制度です。通常の課税口座では売却益に約20.315%(所得税15%+住民税5%+復興特別所得税0.315%)の税金がかかるところ、NISA口座ではゼロになります。

一方、相続税は「亡くなった人の財産を受け継ぐ際にかかる税金」です。所得税・住民税とは全く別の税制です。NISAの非課税制度は所得税・住民税を対象としており、相続税には影響を与えません。

税金の種類NISAの非課税の対象か備考
所得税(売却益・配当)対象(非課税)NISA口座内の運用益はゼロ
住民税(売却益・配当)対象(非課税)同上
相続税対象外(課税される)NISA口座の資産も相続財産
贈与税(生前贈与の場合)対象外(課税される)NISA資産の生前贈与は贈与税あり

「NISA口座の資産は相続税がかからない」という情報は誤りです。死亡時点のNISA口座内の株式・投資信託・ETFはすべて相続財産として相続税の課税対象になります。申告漏れを防ぐために必ず相続税申告書に計上してください。

死亡時点のNISA資産は相続財産として相続税の課税対象になる

被相続人(亡くなった方)がNISA口座で保有していた金融資産は、死亡日時点の時価で相続財産として評価され、他の財産(現金・不動産・普通口座の株式等)と合算して相続税の計算対象になります。

NISA口座の残高が多い場合、相続財産の総額が大きくなり相続税の負担が増す可能性があります。特に新NISAでは年間360万円・生涯1,800万円まで積み立てられるため、長期保有していた場合には相当な残高になっているケースがあります。

資産の種類NISA口座での扱い相続税の扱い
上場株式・ETF運用益が非課税死亡日の時価で相続財産に計上
投資信託(積立NISA等)分配金・売却益が非課税死亡日の基準価額で相続財産に計上
現金(NISA預金)利息が非課税残高で相続財産に計上

NISA口座の残高が大きい場合、相続税の課税対象財産が増加します。NISA残高も含めた相続財産の総額を生前から把握しておき、相続税対策の一環として検討することが重要です。

NISAの有利な点|含み益が実質的に非課税になる仕組み

NISAには相続税の節税効果はありませんが、「相続時点で含み益にかかる所得税が実質的にゼロになる」という有利な点があります。この仕組みを正確に理解することが重要です。

通常の課税口座でも、被相続人が取得した資産を相続人が引き継ぐ場合、相続人の取得費は「相続時の時価」になります。被相続人が保有していた期間の含み益部分(取得価額→相続時の時価)には所得税がかかりません(被相続人が売却せずに亡くなったため)。この点はNISAでも通常の課税口座でも同じです。

NISAの追加的な有利点は「NISA口座内で保有していた期間の配当・分配金がすべて非課税だった」という点です。

比較項目通常の課税口座NISA口座
保有中の配当・分配金約20.315%課税非課税(NISA内の期間)
含み益(死亡時まで)所得税なし(相続人が引き継ぐため)非課税(相続人の取得費が相続時の時価)
相続税死亡時の時価で課税死亡時の時価で課税(同じ)
移管後の売却益課税(相続時の時価が取得費)課税(相続時の時価が取得費)

NISA口座から課税口座に移管後の取得費は「相続時の時価」が基準になります。例えば100万円で購入した投資信託が相続時に300万円になっていた場合、課税口座に移管後の取得費は300万円です。300万円で売却しても譲渡益はゼロとなり所得税はかかりません。

相続税評価の計算方法|NISA内の金融商品の評価

NISA口座内の金融商品の相続税評価は、通常の課税口座の金融商品と同じ評価方法を使います。金融商品の種類によって評価方法が異なるため、それぞれを確認しましょう。

上場株式・ETFの評価|4つの株価のうち最も低いものを採用

上場株式(国内株式・ETFなど)の相続税評価額は、次の4つの株価のうち「最も低いもの」を採用できます。

  1. 相続開始日(死亡日)の終値
  2. 相続開始日の属する月の毎日の終値の平均額
  3. 相続開始日の前月の毎日の終値の平均額
  4. 相続開始日の前々月の毎日の終値の平均額

4つの価格の中で最も低い価格を使えるため、評価額を最小化できます。月の途中で相続が発生した場合、その月の平均終値と前月・前々月の平均終値を比較して最も有利な評価を選べます。

具体例金額
死亡日(2025年6月15日)の終値1,500円/株
6月の終値平均1,450円/株
5月(前月)の終値平均1,400円/株 ← 最低
4月(前々月)の終値平均1,420円/株
採用する評価額1,400円/株(4つのうち最低値)

上場株式の評価は相続発生月・前月・前々月の終値平均を比較し、最も低い値を採用できます。株価が変動している場合は必ず4パターンを計算して最低値を確認してください。

投資信託(積立NISA等)の評価|基準価額から費用を差し引く

投資信託(積立NISA・新NISAの積立投資枠で購入したインデックスファンド等)の相続税評価は以下の計算式で行います。

評価額 =(相続開始日の1万口当たりの基準価額 − 信託財産留保額)× 保有口数 ÷ 1万

「信託財産留保額」は解約時に差し引かれる費用です。多くのインデックスファンドでは0円に設定されていますが、ファンドごとに異なるため目論見書で確認してください。

計算例数値
死亡日の基準価額(1万口当たり)25,000円
信託財産留保額0円(多くのインデックスファンドは0)
保有口数2,000万口
評価額25,000円 ×(2,000万口 ÷ 1万)= 5,000万円

上場株式と異なり、投資信託は「最も低い価格を選ぶ」という選択肢がなく、相続開始日の基準価額を使います。ただし、証券会社から「残高証明書」と「相続開始日の基準価額証明書」を取得して申告書に添付する必要があります。

積立NISAなどの投資信託は相続開始日の基準価額で評価します。証券会社から残高証明書と基準価額証明書を取得し、申告書の添付書類として保管してください。

評価の基準日|相続開始日の時価で計算する

相続税評価の基準日は「相続開始日(被相続人が亡くなった日)」です。相続人が申告書を提出する時点(死亡から10か月以内)の時価ではなく、あくまでも「死亡日の時価」で評価します。

死亡日以降に株価・基準価額が大きく変動した場合でも、評価額の基準は死亡日の価格です。死亡後に株価が下落しても相続税評価額は下がりません(逆に上昇しても増えません)。

新NISAと旧積立NISAの相続税上の違い

2024年から新NISAが始まりましたが、旧つみたてNISA・旧一般NISAと新NISAでは制度の詳細が異なります。相続税上の基本的な扱いは同じですが、規模・運用できる商品に違いがあるため確認しておきましょう。

2024年以降の新NISAの特徴

新NISAは2024年1月に開始された制度で、旧NISAから大幅に拡充されました。

比較項目旧つみたてNISA旧一般NISA新NISA
年間投資上限40万円120万円360万円(積立120万+成長240万)
生涯投資上限800万円600万円1,800万円
非課税保有期間最長20年最長5年無期限
対象商品長期積立に適した投資信託株式・投資信託等両方(枠ごとに対象商品が異なる)
相続税の扱い死亡時の時価で課税同左同左(変化なし)

新NISAでは生涯投資上限が1,800万円と大幅に拡大されたため、長期積立を続けた場合の残高が旧制度より大きくなりやすく、相続財産に占めるNISA資産の割合が高まる可能性があります。

新NISAは生涯1,800万円まで積み立てられるため、若いうちから積立を続けた場合には相続発生時に数千万円の残高になっているケースもあります。相続税の計算に含めることを念頭に置いた資産管理が重要です。

旧積立NISA・旧一般NISAとの相続税上の扱いの違い

旧NISAと新NISAで相続税の基本的な扱いは同じです。死亡時の時価で評価され、相続財産として相続税の課税対象になります。口座が終了して課税口座に移管される点も同じです。

ただし旧NISAにはロールオーバーの制度がありましたが、新NISAではロールオーバーは廃止されています。旧NISAからの継続保有は経過措置として認められているため、旧NISAの残高がある場合はその扱いを証券会社に確認してください。

成長投資枠と積立投資枠の評価方法の違い

新NISAは「成長投資枠」(年間240万円まで)と「積立投資枠」(年間120万円まで)の2種類の枠があります。相続税評価の方法は保有する金融商品の種類によって決まり、枠の種類(成長投資枠・積立投資枠)によって変わるわけではありません。

保有商品の種類評価方法主にどちらの枠か
上場株式・ETF・REIT死亡日前後3か月の終値平均のうち最低値成長投資枠
投資信託(インデックスファンド等)死亡日の基準価額(信託財産留保額控除後)積立投資枠・成長投資枠

NISA口座が死亡時に終了する仕組み

NISA口座は名義人固有の口座であり、名義人が死亡した時点で口座自体が終了します。相続人がそのまま引き継いで使い続けることはできません。

非課税口座は死亡と同時に終了する

NISA口座(非課税口座)は本人の死亡と同時に非課税の効力を失います。厳密には「非課税口座開設者死亡届出書」を証券会社に提出した日以後、その口座への受け入れができなくなります。死亡届の提出前に発生した配当・分配金は非課税で処理されます。

死亡届を提出後、NISA口座内の金融商品は被相続人の課税口座(特定口座または一般口座)に移管され、その後相続人の口座に移転する手続きが行われます。

NISA口座の死亡届を提出した後に発生した配当・分配金は課税扱いになります。死亡届の提出タイミングによって課税の扱いが変わる可能性があるため、証券会社に手続きのタイミングについて確認することをお勧めします。

相続人のNISA口座への移管はできない

被相続人のNISA口座内の金融商品を、相続人自身のNISA口座に直接移管することはできません。NISA口座は一人一口座(一金融機関)という原則があり、相続で別人のNISA口座に移管することは制度上認められていません。

この点が多くの方が誤解するポイントです。「NISAの非課税枠を相続できる」ということはなく、相続人は自分の年間投資枠の範囲で新たにNISAで積み立てるしかありません。

よくある誤解正しい扱い
被相続人のNISA口座を相続人が引き継いで使える不可。口座は終了する
被相続人のNISA口座の資産を相続人のNISA口座に移せる不可。課税口座にのみ移管できる
相続人のNISAの非課税枠が増える増えない。相続人は自分の年間枠を使うのみ
NISA口座内の資産に相続税がかからないかかる。通常の財産と同様に相続税対象

課税口座(特定口座・一般口座)への移管が必要

被相続人のNISA口座内の金融商品は、まず被相続人の課税口座(特定口座または一般口座)に移管されます。その後、相続人が自身の課税口座に移管します。

重要な点として「同一の証券会社でないと移管できない場合がある」という制限があります。被相続人がA社でNISAを保有していた場合、相続人もA社の口座に移管する必要があります(別の証券会社への直接移管は原則不可ですが、証券会社によって対応が異なる場合があります)。

被相続人がNISA口座を持つ証券会社に相続人が口座を持っていない場合、まず口座開設が必要になります。手続き期限を逃さないよう、相続発生後は速やかに証券会社に連絡を取ることが必要です。

相続税計算3ステップ|NISA資産がある場合

NISA資産がある場合の相続税計算の基本的な流れは通常の相続と同じです。NISA資産も他の財産と合算して計算します。

STEP1|NISA資産を含む全財産の評価額を算出する

被相続人のすべての財産を洗い出してNISA資産の評価額を算出します。証券会社から「残高証明書」と「相続開始日の基準価額証明書(投資信託の場合)」を取得します。

  • NISA口座内の上場株式:4つの終値のうち最低値 × 保有株数
  • NISA口座内の投資信託:(基準価額 − 信託財産留保額)× 口数 ÷ 1万
  • NISA口座内のETF:上場株式と同じ方法で評価

NISA口座の残高証明書は証券会社に「相続発生」を連絡した後に取得できます。相続税申告の重要な添付書類になるため、早めに取得手続きを進めてください。

STEP2|基礎控除を差し引いて課税遺産総額を求める

NISA資産を含むすべての相続財産の合計から基礎控除を差し引きます。

基礎控除 = 3,000万円 + 600万円 × 法定相続人の数

参照元:国税庁 No.4152 相続税の計算

NISA資産の残高が大きい場合、課税遺産総額が増えて相続税が高くなることがあります。特に新NISAで長期積立を続けた場合は、残高が数百万〜数千万円になっているケースもあり注意が必要です。

STEP3|各人の相続税額を確定する

課税遺産総額を法定相続分で按分し、速算表の税率を掛けて相続税の総額を計算します。

参照元:国税庁 No.4155 相続税の税率

配偶者の税額軽減・小規模宅地等の特例など通常の特例も活用できます。NISA資産に対して特別な特例はありませんが、他の財産への特例適用を最大化することでトータルの税負担を抑えることができます。

ケース別シミュレーション5パターン|NISA相続の税額を試算

NISA残高の規模・家族構成・他の財産との組み合わせによって相続税額は異なります。5つのパターンで具体的な数字を確認しましょう。なお試算は概算です。

パターン1|積立NISA残高500万円(含み益200万円)を相続するケース

前提条件

  • 被相続人:父 / 相続人:配偶者・子1人(計2人)
  • 積立NISA残高:500万円(取得原価300万円・含み益200万円)
  • 他の財産:預貯金3,000万円 / 合計3,500万円

計算の流れ

  • NISA評価額:500万円(死亡日の基準価額で計算)
  • 基礎控除:3,000万円 + 600万円 × 2人 = 4,200万円
  • 課税遺産総額:3,500万円 − 4,200万円 = 0円(課税なし)

NISA残高500万円を含む遺産3,500万円が基礎控除以下のため相続税はかかりません。ただしNISA残高が含み益分(200万円)だけ評価額を押し上げている点に注意が必要です。

パターン2|新NISA残高2,000万円(含み益1,000万円)を相続するケース

前提条件

  • 被相続人:父 / 相続人:配偶者・子2人(計3人)
  • 新NISA残高:2,000万円(取得原価1,000万円・含み益1,000万円)
  • 他の財産:預貯金5,000万円・自宅不動産3,000万円 / 合計1億円

計算の流れ(特例なし)

  • 基礎控除:3,000万円 + 600万円 × 3人 = 4,800万円
  • 課税遺産総額:1億円 − 4,800万円 = 5,200万円
  • 配偶者(1/2):2,600万円 → 350万円(15%−50万円)
  • 各子(各1/4):1,300万円 → 145万円(15%−50万円)
  • 相続税の総額:350万円 + 145万円 × 2 = 640万円
  • 配偶者控除で:子2人合計290万円の納税

新NISAの2,000万円が相続財産に含まれることで課税遺産総額が増加しています。NISAがなければ(8,000万円で計算)課税遺産総額は3,200万円になり、税額は大幅に低くなります。

新NISAの残高が大きいほど相続財産が増え、相続税の負担が増加します。遺産総額が大きい場合は、NISA残高も含めた相続税対策の検討が重要です。

パターン3|相続後すぐに売却した場合の税金計算

前提条件

  • 積立NISA残高(相続時):500万円(相続人の取得費は500万円)
  • 相続直後に505万円で売却

売却時の税金計算

  • 譲渡所得:505万円 − 500万円(取得費)= 5万円
  • 所得税・住民税:5万円 × 20.315% ≒ 約1万円

取得費が「相続時の時価500万円」になるため、NISA保有中の含み益(取得原価から500万円までの値上がり分)には所得税がかかりません。相続後の値上がり分(5万円)にのみ課税されます。

これが「NISA口座の含み益は相続時に実質的に非課税になる」仕組みです。

パターン4|取得費加算の特例を活用して売却するケース

前提条件

  • 相続時のNISA資産(課税口座移管後):500万円(取得費500万円)
  • 相続税の申告期限から1年後に600万円で売却
  • 支払った相続税のうちNISA資産に対応する分:30万円

取得費加算の特例を使わない場合

  • 譲渡所得:600万円 − 500万円 = 100万円
  • 所得税・住民税:100万円 × 20.315% ≒ 約20万円

取得費加算の特例を使う場合

  • 加算できる取得費:30万円(相続税のNISA資産対応分)
  • 譲渡所得:600万円 − 500万円 − 30万円 = 70万円
  • 所得税・住民税:70万円 × 20.315% ≒ 約14万円
  • 節税額:約6万円

取得費加算の特例(租税特別措置法第39条)は、相続税の申告期限(10か月)から3年以内に売却した場合に適用できます。NISA口座から課税口座に移管した資産にも適用できるため、売却を急いでいる場合でも3年以内という期限を意識してください。

パターン5|NISA資産と他の財産を合わせた相続税計算

前提条件

  • 被相続人:父(70歳から積立NISA・新NISAを継続)
  • 相続人:配偶者・子2人(計3人)
  • 財産:新NISA残高1,500万円・積立NISA残高(2023年まで)300万円・預貯金4,000万円・自宅2,000万円 = 合計7,800万円

計算の流れ(小規模宅地等の特例あり)

  • 自宅の小規模宅地等の特例(仮に土地評価額1,500万円に適用):1,500万円 × 20% = 300万円
  • 特例後の財産合計:7,800万円 − 1,200万円(80%減額)= 6,600万円
  • 基礎控除:4,800万円
  • 課税遺産総額:6,600万円 − 4,800万円 = 1,800万円
  • 相続税の総額(概算):配偶者900万円 → 85万円 + 各子450万円 → 45万円 × 2 = 175万円
  • 配偶者控除で:子2人合計90万円の納税

NISA残高1,800万円が相続財産の約23%を占めており、相続税への影響が無視できない規模です。新NISAの積立額が増えるほど、相続税対策においてNISA残高を考慮することが重要になります。

NISA相続の手続きフロー

NISA口座を持つ被相続人が亡くなった場合、通常の相続手続きに加えてNISA口座特有の手続きが必要です。手続きが遅れると配当の課税処理や移管のタイミングに影響するため、速やかに進めましょう。

STEP1|証券会社に死亡届を提出する

相続発生後、速やかに被相続人がNISA口座を開設していた証券会社に連絡します。証券会社から「非課税口座開設者死亡届出書」などの必要書類を案内してもらい、提出します。

  • 連絡先:被相続人が口座を持つ証券会社のコールセンターまたは窓口
  • 伝えること:被相続人の氏名・口座番号・死亡日
  • 提出書類(証券会社によって異なる):死亡届出書・被相続人の戸籍謄本・死亡診断書のコピー等

被相続人がNISA口座を持つ証券会社を知らない場合、郵便物・通帳・スマートフォンのアプリなどを確認してください。証券会社が不明のまま放置すると手続きが遅延します。

STEP2|相続人の課税口座に移管する

被相続人のNISA口座内の金融商品は、まず被相続人の課税口座(特定口座・一般口座)に移管された後、相続人の課税口座に移管されます。

  • 同一証券会社内で移管するのが原則
  • 相続人が当該証券会社に口座を持っていない場合は口座開設が必要
  • 移管時の取得費:相続時の時価(死亡日の評価額)

移管後の課税口座の金融商品は、通常の課税口座として扱われます。売却すると譲渡所得税が発生します(ただし取得費が相続時の時価なので、相続後の値上がり分にのみ課税)。

STEP3|相続税申告書に計上する

相続税申告書(第11表「相続税がかかる財産の明細書」)に、NISA口座内の金融商品を計上します。「有価証券」または「投資信託」として記載し、相続開始日の評価額を明記します。

申告期限:相続開始を知った日の翌日から10か月以内

NISA口座の資産を相続税申告書に計上しなかった場合、税務調査で発覚した際に過少申告加算税・延滞税が課される可能性があります。

必要書類チェックリスト

書類の種類取得先用途
非課税口座開設者死亡届出書証券会社NISA口座の終了手続き
相続上場株式等移管依頼書証券会社課税口座への移管手続き
残高証明書(死亡日時点)証券会社相続税申告の評価額確認
基準価額証明書(投資信託)証券会社・運用会社投資信託の評価額確認
被相続人の戸籍謄本・住民票除票市区町村役場死亡の事実確認
相続人全員の戸籍謄本・印鑑証明書市区町村役場相続人確認
遺産分割協議書または遺言書作成済みの書類移管先の確定

相続後にNISA資産を売却する場合の税金

NISA口座から課税口座に移管した後に売却する場合、通常の株式・投資信託の売却と同じ税率が適用されます。ただし取得費の扱いが有利であることを理解しておくことが重要です。

移管後の取得費は相続時の時価が基準

相続によって課税口座に移管した金融商品の取得費は、「相続時の時価(死亡日の評価額)」です。被相続人がNISA口座で購入したときの取得価額(元の購入価格)は引き継ぎません。

この仕組みにより、NISA口座内で積み上がった含み益(購入時から相続時までの値上がり分)には所得税がかかりません。

具体例金額
被相続人がNISA口座で購入した投信の取得原価200万円
相続発生時の時価(取得費として引き継がれる)500万円
相続後に課税口座で600万円で売却600万円
課税される譲渡所得600万円 − 500万円 = 100万円
所得税・住民税100万円 × 20.315% ≒ 約20万円
NISA保有中の含み益300万円への課税0円(取得費が相続時の時価500万円のため)

NISA口座で長期積立して含み益が大きいほど、「相続時に取得費がリセットされる」メリットが大きくなります。相続後すぐに売却しても、NISA保有中の含み益分には所得税がかかりません。

取得費加算の特例|申告期限から3年以内の売却で有利

相続税の申告期限(相続発生から10か月後)から3年以内に相続した資産を売却した場合、「取得費加算の特例」(租税特別措置法第39条)が適用できます。支払った相続税の一部を取得費に加算することで、譲渡所得を圧縮できます。

加算できる相続税額 = 支払った相続税の総額 × (売却した資産の相続税評価額 ÷ 相続財産の総評価額)

比較項目取得費加算なし取得費加算あり
NISA移管後の売却価格600万円600万円
相続時の取得費500万円500万円
加算できる相続税額(対応分)0円20万円
課税される譲渡所得100万円80万円
所得税・住民税約20万円約16万円
節税額約4万円

取得費加算の特例は申告期限(10か月)後3年以内という時間制限があります。売却を急ぐ場合でも、この特例が使えるかどうかを事前に税理士に確認してから売却のタイミングを決めることをお勧めします。

長期保有か早期売却か|どちらが有利か

課税口座に移管したNISA資産をすぐに売却するか、長期保有するかは状況によって判断が異なります。

比較項目相続後すぐに売却長期保有して売却
取得費の基準相続時の時価(変わらない)相続時の時価(変わらない)
取得費加算の特例3年以内なら使える3年超は使えない
課税される期間の運用益少ない(価格変動が小さい)多くなる(長期保有で値上がりすれば)
有利なケース今後値下がりが予想される・納税資金が必要長期で値上がりが期待できる

NISA相続の生前対策

NISA保有者が元気なうちにできる対策を確認しましょう。「知らなかった」「見つけられなかった」という相続人側の問題を防ぐための準備が重要です。

口座情報・残高の整理と家族への共有

NISA口座の存在・証券会社名・ログイン情報を家族に伝えておくことが最も重要な生前対策です。デジタル資産(オンライン証券のNISA口座)は特に把握されにくく、相続発生後に相続人が気づかないまま手続きが遅れるリスクがあります。

  • 証券会社名・支店名・口座番号をメモしておく
  • ログインID・パスワードを安全な方法で共有する
  • エンディングノート等に記載する

オンライン証券(ネット証券)のNISA口座は紙の通帳がないため、相続人に存在が伝わらないケースがあります。残高が大きい場合は特に、生前に家族への共有が必須です。

相続人への事前通知の重要性

NISA口座の手続きには期限があるわけではありませんが、手続きが遅れると以下のリスクがあります。

  • 死亡後の配当・分配金が適切に処理されないリスク
  • 相続税申告期限(10か月)内に評価額を確定できないリスク
  • 取得費加算の特例を使うための売却タイミングを逃すリスク

NISA口座を持つ場合は遺言書に「〇〇証券のNISA口座の資産は〇〇に相続させる」と明記しておくと、手続きがスムーズになります。

相続税対策との組み合わせ(生命保険・暦年贈与)

NISA残高が大きくなると相続財産が増加し、相続税の負担が重くなる可能性があります。NISA資産も含めた相続財産の総額を定期的に把握し、以下の対策と組み合わせることを検討してください。

  • 生命保険の活用:死亡保険金の非課税枠(500万円×法定相続人数)を活用して相続財産を圧縮
  • 暦年贈与:年間110万円以下の贈与でNISA以外の資産を生前に移転(孫への贈与は7年加算対象外)
  • NISA残高の定期チェック:残高が大きくなった段階で相続税対策を見直す

NISA相続こそ早めに税理士へ相談すべき理由

NISA口座の相続は、証券会社への手続き・相続税申告・売却時の税金計算など、複数の専門知識が必要な場面があります。特に新NISAの普及により残高が大きくなるケースが増えており、「知らなかった」では済まない問題が増えています。

相談すべき理由|NISA相続特有の複雑さ

  • 評価方法の確認:上場株式・ETF・投資信託それぞれの評価計算が異なる
  • 残高証明書の取得方法:証券会社ごとに手続きが異なる
  • 取得費加算の特例の適用判断:売却タイミングと特例の関係を正確に試算する
  • 申告書への計上方法:有価証券の記載方法は通常の財産と異なる場合がある
  • 相続税対策との連携:NISA残高の増加を踏まえた総合的な対策設計

NISA口座の相続は「証券会社の手続き」と「相続税申告」という2つの手続きが並行して必要です。どちらか一方を忘れると申告漏れや手続き遅延のリスクがあります。

相談するメリット|正確な評価と節税機会の最大化

  • 評価額の正確な計算:上場株式の4つの終値平均比較・投資信託の正確な評価
  • 申告漏れの防止:見落としやすいNISA資産を確実に相続税申告書に計上
  • 取得費加算の特例の最大活用:売却タイミングの最適設計
  • 相続後の売却シミュレーション:課税口座移管後の売却時の税金を事前に試算
  • 生前対策との連携:NISA残高を考慮した総合的な相続税対策の提案

相談しなかった場合のリスク

リスクの種類具体的な内容金銭的な影響の目安
NISA資産の申告漏れ相続税申告書にNISA口座残高を計上しなかった追徴課税+過少申告加算税(10〜15%)
評価方法の誤り上場株式で最低値を選ばず高い評価額を使った数万〜数十万円の過払い相続税
取得費加算特例の失権3年以内の売却が条件と知らず期限を過ぎた数万〜数十万円の節税機会の喪失
手続き漏れNISA口座の存在に気づかず申告から漏れた追徴課税+重加算税(35〜40%)のリスク

費用対効果の試算|税理士報酬 vs 節税・リスク回避効果

項目金額の目安
NISA資産を含む相続税申告の税理士報酬30〜80万円程度(財産規模・複雑さによる)
上場株式の最低評価額選択による節税数万〜数十万円(株価変動幅による)
取得費加算の特例活用による節税数万〜数十万円(NISA残高・相続税額による)
申告漏れペナルティの回避追徴本税の10〜40%のリスク回避

初回相談で確認すべき質問リスト

  • □ 被相続人がNISA口座を持つ証券会社への連絡・手続きのサポートをしてもらえますか?
  • □ NISA口座内の上場株式・投資信託の相続税評価額を計算してもらえますか?
  • □ 上場株式の評価で4つの終値平均を比較して最低値を選ぶ計算をしてもらえますか?
  • □ 課税口座に移管した後の売却で取得費加算の特例が使えますか?使えるとすれば節税額を試算してもらえますか?
  • □ NISA資産を含む相続税申告書の作成から提出まで依頼できますか?
  • □ 今後のNISA積立を考慮した相続税対策(生命保険・暦年贈与等)を提案してもらえますか?

よくある質問(FAQ)

Q. NISAは非課税なのに相続税がかかるのはなぜですか?

NISAの「非課税」とは所得税・住民税が非課税という意味であり、相続税は全く別の税金だからです。所得税は「儲けた収益に対してかかる税金」であり、相続税は「亡くなった人の財産を受け継ぐ際にかかる税金」です。NISA制度は所得税・住民税を免除する制度であり、相続税については何も規定していません。

Q. 被相続人のNISA口座を相続人のNISA口座に移管できますか?

できません。NISA口座は一人ひとりが開設する個人口座であり、相続によって別人のNISA口座に移管する制度はありません。被相続人のNISA口座内の金融商品は課税口座(特定口座・一般口座)に移管されます。相続人は自分のNISAの年間投資枠の範囲で新たに積み立てるしかありません。

Q. 相続後に課税口座でNISA資産を売却すると税金はかかりますか?

売却益(売却価格 − 相続時の時価)に対して所得税・住民税(約20.315%)がかかります。ただし取得費は「相続時の時価」が基準になるため、NISA口座内で積み上がった含み益(購入時から相続時までの値上がり分)には所得税がかかりません。相続後の値上がり分にのみ課税されます。

Q. NISA口座の手続きには期限がありますか?

法的な期限はありませんが、相続税の申告期限(死亡を知った日の翌日から10か月以内)までに評価額を確定して申告書に計上する必要があります。また「取得費加算の特例」を使う場合は申告期限後3年以内に売却する必要があります。手続きが遅れるほど申告期限が迫るリスクがあるため、相続発生後は速やかに証券会社に連絡することをお勧めします。

Q. 新NISAで運用中に亡くなった場合、現在の含み益は課税されますか?

NISAの含み益自体は死亡時に所得税の課税対象にはなりません(死亡後は売却していないため)。ただし死亡日時点の時価が相続税の評価額になるため、含み益分だけ評価額が高くなり相続税の負担が増えることがあります。一方、課税口座に移管後に売却した場合の取得費は相続時の時価なので、NISA保有中の含み益には所得税がかかりません。

まとめ|NISA口座の相続は評価・手続き・売却の3段階で対策する

NISAと相続税の基本

  • NISAの「非課税」は所得税・住民税の話であり、相続税は別の税金のため、NISA口座内の資産も相続財産として相続税の課税対象になる
  • 死亡日時点の時価で相続税評価を行い(上場株式は4つの終値平均のうち最低値・投資信託は基準価額から費用控除後)、通常の財産と合算して相続税を計算する
  • NISA口座は死亡と同時に終了し、課税口座に移管される。相続人のNISA口座への移管はできない

有利な点と活用できる特例

  • 課税口座移管後の取得費は相続時の時価が基準のため、NISA保有中の含み益分には所得税がかからないという実質的なメリットがある
  • 申告期限後3年以内の売却で「取得費加算の特例」が使え、支払った相続税の一部を取得費に加算して譲渡所得税を圧縮できる
  • NISA資産の残高が増えるほど相続財産が増加するため、生命保険・暦年贈与等の相続税対策との組み合わせが重要

今すぐ取るべき行動

  • 相続が発生した場合は、被相続人がNISA口座を開設している証券会社に速やかに連絡し、残高証明書・基準価額証明書を取得した上で、相続税専門の税理士に相談して評価計算と申告書の作成を依頼してください
  • 現在NISAで積立中の方は、残高が増えるにつれて相続財産に占める割合が大きくなることを念頭に置き、証券会社・ログイン情報・残高を家族と共有しておくことをお勧めします

※本記事は2025年12月時点の法令・税率に基づいて作成しています。税制は改正されることがありますので、申告前には必ず税理士または税務署へご確認ください。本記事の内容は一般的な情報提供を目的としており、個別の税務相談に代わるものではありません。

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