


相続財産を国や公益法人などに寄付すると、その寄付した財産には相続税がかからなくなります。
これは租税特別措置法第70条による「非課税特例」で、一般に「相続税の寄附金控除」と呼ばれる制度の中心です。
正確にいうと、所得税で使う「寄附金控除」と、相続税がかからなくなる「非課税特例」は別の制度です。
この2つを混同したまま調べると、要件や手続きを取り違えてしまいがちです。
さらに、相続財産の寄付には遺言による寄付・相続人による寄付・ふるさと納税という3つの方法があり、それぞれ課税の扱いが違います。
不動産や株式を寄付すると、所得税(みなし譲渡課税)がかかる思わぬ落とし穴もあります。
本記事では、相続税の非課税特例の仕組み、適用の3要件、所得税・住民税の控除との併用を解説します。
▼ この記事の3行まとめ

最初に、言葉の整理をしておきましょう。「相続税の寄附金控除」という呼び方は便宜的なもので、実際は2つの別制度が組み合わさっています。ここを分けて理解すると、以降がすっきり入ります。
| 制度 | 正式名称 | 効果 |
|---|---|---|
| 相続税の非課税特例 | 租税特別措置法第70条 | 寄付した相続財産に相続税がかからない |
| 寄附金控除 | 所得税・住民税の寄附金控除 | 寄付した人の所得税・住民税が安くなる |
表の見方:相続財産の寄付で中心になるのは黄色の「非課税特例」です。この2つは併用でき、同じ寄付で相続税・所得税・住民税の3つが軽くなることもあります。
相続税の非課税特例は、公益のための寄付を後押しする趣旨で設けられています。
相続した財産を国や公益法人などに寄付すれば、その分の財産が相続税の課税対象から外れます。
課税される財産が減るため相続税が下がり、金額によっては適用される税率まで下がることもあります。
この「非課税特例」と「寄附金控除」の2つは、名前が似ているうえに一緒に語られることが多く、混同のもとになっています。
本記事ではまず相続税の非課税特例(措置法70条)を主役に据え、所得税・住民税の寄附金控除は「あわせて使える制度」として整理します。
あわせて、寄付した相続人自身の所得税・住民税も、寄附金控除で軽くなります。社会貢献をしながら税負担も抑えられる、というのがこの制度の骨格です。
この制度が設けられた背景には、公益活動を税金で後押しする狙いがあります。国が本来集めるはずだった相続税を免除する代わりに、その財産が公益のために使われる、という交換関係です。
だからこそ、寄付先は「公益に資する団体」に限られ、宗教法人のように公益目的が限定される団体は対象から外れています。制度の趣旨を知ると、対象先のルールも理解しやすくなります。
知りたいことに応じて、次の順で読み進めてください。
先に言っておくと、寄付は「手元にお金を残す節税策」ではありません。あくまで「寄付したい財産の税負担を最適化する」制度だと捉えてください。

相続と寄付の話がややこしくなるのは、寄付の方法が複数あるからです。誰が・いつ・どう寄付するかで、課税の扱いがまったく変わります。まず3つを整理しましょう。
| 寄付の方法 | 寄付する人 | 相続税の扱い |
|---|---|---|
| 遺言による寄付(遺贈寄付) | 被相続人(遺言で指定) | 寄付分は相続財産に含まれず課税されない |
| 相続人による寄付 | 財産を相続した相続人 | 措置法70条の要件を満たせば非課税 |
| ふるさと納税 | 相続人(自治体へ寄付) | 措置法70条の対象+所得税・住民税も控除 |
表の見方:本記事の主役は黄色の「相続人による寄付(措置法70条)」です。「相続税の寄附金控除」で調べる人の多くが想定しているのは、この相続人による寄付です。
遺言による寄付(遺贈寄付)は、亡くなった方が「この財産を○○に寄付する」と遺言で指定するものです。
この場合、寄付された財産はそもそも相続人が受け取らないため、相続財産に含まれず相続税の対象になりません。
ただし、この寄付は「相続人による寄付」ではないため、措置法70条の特例とは別の扱いになります。
また、遺言による寄付で寄付先が法人だと、含み益に対して被相続人にみなし譲渡課税がかかることがあります(後述)。
遺言による寄付には、相続人の手続きが不要という利点があります。相続人が寄付を実行しなくても、遺言の効力で自動的に寄付されるため、期限に追われることもありません。
一方、遺言の内容によっては相続人の遺留分(最低限の取り分)を侵害することもあります。全財産を寄付する遺言などは、相続人とのトラブルにつながりかねないため、生前の設計が重要です。
遺言による寄付(遺贈)と通常の相続との税務上の違いは、下記の記事で解説しています。

本記事で解説する非課税特例は、相続人が自分で受け取った財産を寄付する場合です。
相続財産は本来、相続人が受け取った時点で相続税の対象になります。しかし、申告期限までに対象の寄付先へ寄付すれば、その財産だけ相続税がかからなくなります。
「一度は自分が相続したが、税負担が生じる前に寄付する」という流れです。次章から、この特例を詳しく見ていきます。
ふるさと納税も、この「相続人による寄付」の一種です。寄付先が自治体になるだけで、措置法70条の対象になる点は同じ。加えてふるさと納税独自の税優遇も乗るため、後の章で詳しく扱います。
3つの寄付は、目的や状況に応じて使い分けます。
【遺言による寄付が向く人】
自分の意思で特定の団体へ確実に寄付したい人。相続人に手続きの負担をかけず、生前に寄付先を指定できます。子がいないなど、財産を社会へ還元したい場合の定番です。
【相続人による寄付が向く人】
相続した後で「一部を寄付したい」と考える相続人。相続税の非課税に加え、自分の所得税・住民税も軽くなります。金額や寄付先を相続人が自由に決められます。
【ふるさと納税が向く人】
社会貢献しつつ返礼品も受け取りたい人。所得税・住民税の優遇が手厚く、少額から気軽に取り組めます。ただし高額寄付では返礼品の一時所得に注意が必要です。
「誰の意思で・いつ・どこへ」寄付するかで最適な方法は変わります。まず自分がどのパターンかを見極めてください。

制度の中身を具体的に見ていきましょう。「寄付した財産は相続税の課税対象から外す」というシンプルな仕組みですが、効果は思いのほか大きくなります。
相続や遺贈で取得した財産を、申告期限までに国・地方公共団体・特定の公益法人などへ寄付すると、その財産は相続税がかかりません。
【前提】相続財産6,000万円のうち、1,000万円を認定NPO法人へ寄付したシナリオです。
課税対象は6,000万円ではなく、寄付分を除いた5,000万円になります。寄付した1,000万円には相続税がかかりません。
財産評価から寄付分を丸ごと引ける、分かりやすい仕組みです。
寄付するのは相続財産の一部でかまいません。「1,000万円のうち300万円だけ寄付する」といった一部寄付でも、寄付した300万円分だけが非課税になります。
寄付する財産の種類も自由です。現金・預貯金はもちろん、上場株式や不動産、みなし相続財産である保険金の一部など、相続で得たものなら幅広く対象になります。
相続税は、課税される金額が大きいほど税率が高くなる累進課税です。
そのため寄付で課税財産が減ると、単に寄付分の税金が消えるだけでなく、残りの財産に適用される税率まで下がることがあります。
たとえば税率の区切りをまたぐ額を寄付すれば、寄付分の非課税に加えて、全体の税率が1段階下がる効果も期待できます。
この累進緩和の効果があるため、寄付の金額設計は税額に敏感に効いてきます。
ただし、この累進緩和の効果は寄付額が大きく、遺産総額も大きい場合に顕著です。基礎控除ぎりぎりの相続では、寄付で税率区分をまたぐことは少なく、効果は寄付分の非課税にとどまります。
自分のケースでどれだけ税率が動くかは、遺産総額と相続人の数によって変わります。金額を決める前に、寄付ありとなしの税額を試算しておくと納得感が違います。
寄付する金額は、あらかじめ決めておくとスムーズです。遺産分割の段階で「この財産は寄付する」と決めておけば、寄付先とのやりとりや証明書の手配も早く進みます。
反対に、寄付額を後から増やそうとすると、申告期限に間に合わなくなることがあります。寄付は「早めに決めて、早めに実行する」のが失敗しないコツです。
特例の対象は、現金や不動産などの本来の相続財産だけではありません。
死亡保険金や死亡退職金といった「みなし相続財産」を寄付した場合も、非課税特例の対象になります。
受け取った保険金の一部を公益団体へ寄付する、といった使い方も可能です。
ただし、生前贈与加算の対象になった財産や、相続時精算課税で贈与を受けた財産は対象外です。この点は次章の要件でも触れます。
現金で受け取る死亡保険金は、後述するみなし譲渡課税の問題も起きません。寄付しやすい財産のため、「保険金の一部を社会貢献に」という設計は実務でも取り組みやすい選択肢です。
ただし、非課税枠(500万円×法定相続人)の範囲内で相続税がかからない保険金を寄付しても、相続税の節税効果はありません。もともと課税されない財産だからです。
非課税枠を超えて課税対象になる保険金を寄付すれば、その分だけ相続税が非課税になります。寄付による効果があるのは「課税対象になる財産」を寄付した場合だ、という基本を押さえておきましょう。
みなし相続財産の全体像は、下記の記事で解説しています。

参照元:国税庁 No.4114 相続税の課税対象になる死亡保険金
ここまでの内容を、寄付できる財産とできない財産に整理します。
同じ財産でも、取得の経緯や現物か現金かで扱いが変わる点がポイントです。
| 区分 | 財産の例 |
|---|---|
| 寄付できる (相続で取得したもの) |
現金・預貯金/上場株式/不動産/死亡保険金・死亡退職金などのみなし相続財産 |
| 寄付できない (対象外) |
相続財産を売却して現金化したお金/生前贈与加算された財産/相続時精算課税で贈与を受けた財産 |
表の見方:ポイントは「相続で取得した財産そのものか」です。売却して現金にした時点で、その財産は特例の対象から外れます。
重要ポイント:生前贈与で持ち戻した財産や精算課税の財産は「相続で取得した財産」ではないため対象外です。同じ財産に見えても取得の経緯で判断します。
迷ったときは「相続でそのまま受け取った財産か」を基準に考えてください。売却や贈与が絡む財産は対象外になりやすい、と覚えておくと安全です。

非課税特例には、3つの要件があります。1つでも欠けると特例は使えないため、寄付の前に自分のケースを確認しましょう。
重要ポイント:3つすべてにチェックが付いて、初めて特例が使えます。とくに「財産そのまま」と「申告期限内」の2つは、うっかり外しやすい要件です。
寄付するのは、相続で取得した財産そのものである必要があります。
不動産なら不動産のまま、株式なら株式のまま寄付します。相続した不動産を売却し、その代金を寄付した場合は特例の対象外になります。
「売って現金にしてから寄付する方が団体も助かるのでは」と考えがちですが、税務上はこれが落とし穴です。
また、相続開始前の生前贈与で持ち戻された財産や、相続時精算課税で贈与を受けた財産も、この特例の対象にはなりません。
これらは「相続で取得した財産」ではなく「生前に贈与で取得した財産」だからです。同じ財産に見えても、取得の経緯で特例の可否が分かれる点に注意してください。
また、寄付には遺産分割の完了も前提になります。誰がその財産を相続したかが確定していないと、寄付する権利者も定まりません。分割協議を先に済ませることが実務上の第一歩です。
寄付は、相続税の申告期限までに完了している必要があります。
期限は、相続開始を知った日の翌日から10ヶ月以内。申告するだけでなく、寄付そのものが期限内に終わっていなければなりません。
不動産の寄付は名義変更などに時間がかかるため、期限から逆算して早めに動く必要があります。相続登記を経てから寄付先へ移転登記する、という二段階の手続きが必要になることもあります。
10ヶ月という期限は、遺産分割や財産調査を済ませた後に寄付まで行うにはタイトです。寄付を考えるなら、相続開始からできるだけ早い段階で寄付先と財産を決め、逆算したスケジュールで動くことが欠かせません。
寄付先が発行する受領証明書の取得にも数週間〜1ヶ月かかることがあります。証明書は申告に必須のため、この時間も見込んでおきましょう。
寄付先は、法律で定められた対象に限られます。
見落としやすいのが、宗教法人(お寺や神社)は対象外という点です。菩提寺への寄付は、この特例では非課税になりません。
また、寄付を受けた法人が2年以内にその財産を公益目的に使わない場合や、寄付で寄付者本人や親族が特別な利益を受ける場合も、特例は適用されません。
寄付先が対象かどうか不明なときは、その団体に「措置法70条の対象になる証明書を発行できるか」を確認するのが確実です。
大手の公益団体や認定NPO法人は、相続財産の寄付を受け付けた経験が豊富で、相続税申告用の証明書もスムーズに出してくれます。寄付先の実績も、確認のポイントになります。
なお、寄付を受けた法人が「その財産を2年以内に公益目的に使わない」場合は、さかのぼって特例が取り消されます。寄付する側にはコントロールが難しい要件ですが、実績のある団体を選べばリスクは下がります。
参照元:国税庁 No.4141 相続財産を公益法人などに寄附したとき
寄付先が対象かどうかは、寄付を実行する前に必ず確認しておきましょう。
対象外の団体に寄付してしまうと、あとから特例を使えず相続税がかかります。
確認の方法は、寄付先の種類によって次のように分かれます。
重要ポイント:最も確実なのは、寄付先に直接尋ねることです。「相続税の非課税特例(措置法70条)に使える証明書を発行できますか」と聞けば、対象かどうかがその場で分かります。
相続財産の寄付を受け慣れた大手の公益団体や認定NPO法人は、この質問に即答でき、申告用の証明書も定型様式で用意しています。
逆に「証明書は出せない」と言われた団体は、対象外の可能性が高いと考えられます。寄付先選びの段階で、この一点を確認しておくと失敗を防げます。
要件を裏返すと、特例が使えないケースが見えてきます。実務で多い失敗を整理しておきましょう。
どれも「良かれと思って」やった結果、要件を外してしまうパターンです。寄付の実行前に、3要件をもう一度確認してください。

相続税の非課税特例に加えて、寄付した相続人自身の所得税・住民税も軽くできます。同じ寄付で3つの税金が下がる、というのが最大のメリットです。
国・地方公共団体・特定の公益法人などへの寄付は、寄付した相続人の所得税・住民税の「寄附金控除」の対象にもなります。
相続税は「亡くなった方の財産への税金」、所得税・住民税は「寄付した相続人自身の税金」で、別々に効きます。
ただし、所得税・住民税の控除を受けるには、相続税の申告とは別に、寄付した相続人が確定申告をする必要があります。
相続税の申告は「亡くなった方の財産」について税務署へ、所得税の確定申告は「寄付した自分の所得」について翌年に行います。手続きの時期も窓口も別なので、片方だけで満足しないよう注意してください。
所得税の寄附金控除(所得控除)は、次の式で計算します。
【前提】所得税率20%の相続人が、相続財産から100万円を認定NPO法人へ寄付したシナリオです。
控除額は100万円−2,000円=99万8,000円。所得税は約20万円軽くなる計算です。
認定NPO法人や政党などへの寄付は、所得控除ではなく「税額控除」を選べる場合もあります。税額控除の方が有利になることが多いため、両方を比べて選びます。
所得控除は「所得を減らしてから税率をかける」方式、税額控除は「計算した税額から直接引く」方式です。所得税率が低い人ほど、税額控除の方が有利になりやすい傾向があります。
どちらを選ぶかは確定申告のときに決められます。認定NPO法人などへ寄付する場合は、両方式で税額を計算し、有利な方を選択してください。
住民税でも、寄付先が対象なら控除を受けられます。
住民税の控除は、寄付先を自治体が条例で指定しているかどうかで変わります。国への寄付は住民税の対象外など、寄付先ごとに扱いが異なる点に注意してください。
自分の住む自治体が、その寄付先を控除対象に指定しているかは、市区町村の窓口やホームページで確認できます。同じ団体でも、都道府県は指定し市区町村は指定していない、という違いも起こります。
住民税の控除は、所得税の確定申告をすれば自動的に反映されます。確定申告の情報が市区町村へ共有される仕組みのため、住民税だけの手続きを別に行う必要はありません。
所得税・住民税の寄附金控除には、それぞれ上限があります。
所得税の控除対象になる寄付額は、その年の総所得金額等の40%までです。住民税の基本控除も、総所得金額等の30%が上限になります。
つまり、所得に対して多すぎる寄付をしても、超えた分は控除に反映されません。
相続財産で高額の寄付をする場合、寄付した相続人の所得によっては控除枠を使い切れないことがあります。所得税・住民税の優遇を最大化したいなら、寄付する相続人の所得規模も考慮に入れましょう。
もっとも、相続税の非課税(措置法70条)にはこうした所得ベースの上限はありません。寄付した相続財産は、金額にかかわらず相続税の対象から外れます。3つの税で上限の考え方が違う点に注意してください。
所得税・住民税の控除を受けるには、寄付した翌年の確定申告(原則3月15日まで)が必要です。相続税の申告期限(10ヶ月)とは時期が違うため、2つの申告を分けて管理しましょう。
確定申告を忘れると、相続税は非課税でも所得税・住民税の控除だけ取りこぼす事態になります。受領証明書を保管し、翌年の申告を忘れないようにしてください。
参照元:国税庁 No.1150 一定の寄附金を支払ったとき(寄附金控除)

相続財産を使ってふるさと納税をすることもできます。3つの税優遇に加えて返礼品ももらえる一方、思わぬ課税の落とし穴もあります。
ふるさと納税は、自治体(地方公共団体)への寄付です。
相続した現金でふるさと納税をすれば、措置法70条による相続税の非課税に加えて、所得税・住民税の控除も受けられます。
自治体は措置法70条の対象先のため、要件を満たせば相続税がかからず、さらにふるさと納税ならではの手厚い住民税の特例控除も使えます。
お世話になった自治体や、被相続人ゆかりの地域への寄付として選ばれることもあります。被相続人の故郷や、生前に縁のあった地域を選ぶ相続人も少なくありません。
ふるさと納税が有利なのは、住民税の「特例控除」が上乗せされる点です。通常の寄付金控除に加えて、自己負担2,000円を除いた全額が控除される仕組みが働くため、実質的な負担がほぼ返礼品のみになることもあります。
ふるさと納税の返礼品は、税務上「一時所得」として扱われます。
返礼品の金額(おおむね寄付額の3割相当)が、他の一時所得と合わせて年間50万円を超えると、超えた分に所得税がかかります。
返礼品が寄付額の3割相当とすると、返礼品だけで50万円に達するのは寄付額が約167万円のときです。これを超える多額のふるさと納税をすると、返礼品への課税を意識する必要が出てきます。
相続財産で多額のふるさと納税をして返礼品を大量に受け取ると、返礼品自体が課税対象になり得ます。
生命保険の満期金など他の一時所得がある年は、返礼品と合算されるため特に注意が必要です。多額の寄付を考えるなら、返礼品のない寄付や返礼品の少ない自治体を選ぶのも一案です。
ふるさと納税には、確定申告が不要な給与所得者向けの「ワンストップ特例」もあります。
ただし相続財産の寄付で所得税・住民税の控除を受けるには確定申告が必要なため、この場合はワンストップ特例を使えず、通常の確定申告で寄付金控除もあわせて申告します。
高額の寄付を避けたい場合は、複数年に分ける方法もあります。ただし相続税の非課税(措置法70条)を使えるのは、申告期限までに実行した寄付分に限られます。
また、相続税の非課税とふるさと納税の税優遇を両取りするには、寄付する相続人自身に十分な所得税・住民税の負担があることが前提です。所得が少ない相続人が寄付しても、控除しきれず優遇を活かせないことがあります。
そのため、相続人が複数いる場合は「誰が寄付するか」も検討の余地があります。所得の高い相続人が寄付すれば、所得税・住民税の控除枠を大きく使えるためです。
ただし、寄付するのは自分が相続した財産に限られます。他の相続人が取得した財産を寄付することはできないため、誰がどの財産を相続するかという分割の設計とあわせて考える必要があります。
参照元:国税庁 No.1490 一時所得

3つの税金がどれだけ軽くなるか、1つのケースで通して計算してみます。ただし、寄付額そのものは手元から出ていく点も同時に確認しましょう。
【前提】課税価格の合計6,700万円・法定相続人1人(基礎控除3,600万円)・相続税率15%の相続で、100万円を対象の公益法人へ寄付。寄付した相続人の所得税率は20%のシナリオです。
⬇
⬇
計算ロジック:3税を合わせた軽減額は約45万円です(2026年時点・税率は例示)。ただし寄付した100万円は手元に戻りません。差し引き55万円は純粋に減った資産です。
寄付額を変えると、軽減される税金と手元流出はどう動くのでしょうか。
同じ前提で寄付額だけを変えた3パターンを比較すると、関係がはっきり見えます。
| 寄付額 | 軽くなる税金の合計(概算) | 実質の手元流出 |
|---|---|---|
| 100万円 | 約45万円 | 約55万円 |
| 300万円 | 約135万円 | 約165万円 |
| 500万円 | 約225万円 | 約275万円 |
表の見方:寄付額が増えれば軽減額も比例して増えます。しかし、どの金額でも「手元流出>軽減額」の関係は変わりません。
重要ポイント:所得税・住民税の控除には上限があります。高額の寄付では控除枠を使い切れず、軽減額の割合が表より下がることもあります。
計算ロジック:相続税率15%・所得税率20%・住民税10%(控除上限内)を前提に、軽減率を寄付額の約45%として概算しています。実際は所得や遺産規模で変わります。
この計算が示すとおり、寄付は「手元にお金を残す節税策」ではありません。
100万円寄付して軽くなる税金は45万円。手元資産だけを見れば55万円のマイナスで、寄付しない方が現金は多く残ります。
この「軽くなる税金より寄付額の方が大きい」という関係は、税率がどれだけ高くても変わりません。相続税・所得税・住民税を合わせた実効的な軽減率が100%を超えることはないためです。
だからこそ、寄付を「税金が戻ってくるお得な制度」と誤解しないことが大切です。あくまで寄付が主で、税優遇はそれに伴う副次的な効果、という順序で理解してください。
この制度が向いているのは、「もともと寄付したい」「社会貢献に使ってほしい」という意思がある人です。その寄付にかかる税負担を最適化する制度、と理解するのが正確です。
たとえば「子どもがおらず、財産を社会に還元したい」「被相続人が生前に応援していた団体へ役立ててほしい」というケースは、この制度の趣旨にぴったり合います。
手元資産を守りながら相続税を抑えたいなら、寄付以外の対策が中心になります。
これらは「財産を家族に残しながら税を抑える」対策で、寄付とは目的が異なります。
寄付は「財産を家族以外へ渡す」前提の制度です。両者は競合するものではなく、目的に応じて使い分けるものと考えてください。家族に残したい財産は別の対策で、社会へ還元したい財産は寄付で、という整理が自然です。
手元資産を減らさずに相続税を抑えたいなら、生命保険の非課税枠の活用など、別の対策を検討すべきです。
寄付以外の控除・節税制度の全体像は、下記の記事で解説しています。

もっとも、視点を変えれば「どうせ寄付するお金なら、税優遇を最大化して寄付できる」制度ともいえます。同じ100万円を寄付するなら、生前に自分の財布から出すより、相続財産から寄付する方が3つの税が軽くなるぶん効率的です。
大切なのは、目的が「節税」なのか「寄付」なのかを最初にはっきりさせることです。寄付が目的なら、この制度はきわめて有効な選択肢になります。

現物の寄付には、思わぬ所得税がかかることがあります。相続税は非課税でも、別に所得税を取られては本末転倒。ここは必ず押さえてください。
値上がりした不動産や株式を法人へ寄付すると、「みなし譲渡課税」がかかることがあります。
実際には売っていなくても、時価で売ったものとみなして、含み益に所得税が課される仕組みです。
【前提】親が2,000万円で買った土地(相続時の時価3,000万円)を公益法人へ寄付したシナリオです。
含み益1,000万円が譲渡所得とみなされ、寄付した人(または準確定申告で被相続人)に所得税がかかる可能性があります。
この仕組みは、値上がりした財産をタダで法人へ移すと、その時点で含み益への課税を清算させる、という趣旨です。個人から個人への寄付では起きず、法人への寄付に特有の論点になります。
重要ポイント:現金や預貯金の寄付ならこの問題は起きません。みなし譲渡課税は、値上がりした不動産・株式などを法人へ渡すときに特有の論点です。
このみなし譲渡課税は、租税特別措置法第40条の承認を受けることで非課税にできます。
国税庁長官の承認が必要で、寄付先の公益法人が財産を公益目的に使うことなど、一定の要件を満たす必要があります。
相続税の非課税(措置法70条)と所得税の非課税(措置法40条)は別の手続きです。現物を寄付するなら、両方をセットで検討しないと片方の税金が残ってしまいます。
40条の承認申請には、財産の評価資料や公益目的の疎明など専門的な書類が必要です。個人で準備するのは負担が大きいため、現物寄付は税理士のサポートを前提に考えるのが現実的です。
なお、株式のうち非上場株式は、そもそも寄付先が受け入れにくい財産です。換金性が低く、寄付を受けた法人にとっても扱いにくいため、現物寄付の対象になりにくい点も知っておきましょう。
上場株式なら、時価が明確で換金もしやすいため、公益団体が受け入れるケースもあります。ただし含み益があればみなし譲渡課税の論点は同じで、措置法40条の検討が必要になります。
みなし譲渡課税を避けようと現物を売却すると、今度は別の問題が生じます。
売却して得た現金を寄付すると、要件1(相続財産そのまま)を満たさなくなり、相続税の非課税特例が使えなくなります。
さらに、売却した時点で通常の譲渡所得税もかかります。「現物のまま寄付=みなし譲渡」「売却して寄付=特例が使えない」という板挟みです。
この板挟みを整理すると、次のようになります。現物のまま寄付して措置法40条の承認を取れば、相続税も所得税も非課税にできます。承認が取れないなら、みなし譲渡課税を覚悟して現物寄付するか、そもそも寄付しないかの選択です。
いずれにせよ、値上がりした不動産・株式の寄付は税務判断が複雑です。「良かれと思って寄付したら所得税で数百万円」という事態を避けるため、実行前に必ず税理士へ相談してください。
不動産・株式を寄付するなら、措置法40条の承認を前提に、現物のまま寄付するのが基本線になります。判断が難しいため、この種の寄付は必ず専門家に相談してください。
措置法40条の承認には審査があり、申請から承認まで時間がかかります。相続税の申告期限(10ヶ月)とは別のスケジュールで進むため、現物寄付を考えるなら早い段階から準備が必要です。
そもそも、寄付先の法人が不動産や株式の受け入れに対応していないこともあります。管理の手間や換金性の問題から、現金以外の寄付を受け付けない団体も少なくありません。寄付先の受け入れ可否も、事前に確認しておきましょう。
こうした複雑さから、現物の寄付はハードルが高いのが実情です。多くのケースでは、現金・預貯金の寄付が最もシンプルで確実な方法になります。
現物を寄付する場合、意識すべき締切が2つあります。
相続税の申告期限(10ヶ月)に加えて、措置法40条の承認申請という別の締切があるためです。
⬇
⬇
⬇
注意:2つの締切は起点が違います。40条の申請は「寄付日から4ヶ月」、相続税申告は「相続開始から10ヶ月」で、どちらか一方でも遅れると税金が残ります。
現物寄付を考えるなら、相続開始のできるだけ早い段階から、税理士とスケジュールを設計しておくことが欠かせません。
参照元:国税庁 No.4141 相続財産を公益法人などに寄附したとき

最後に、実際の手続きと押さえるべき注意点です。特例は「申告して初めて適用される」ため、手続きを飛ばすと非課税になりません。
⬇
⬇
⬇
非課税特例を受けるには、相続税申告書の第14表に寄付した財産の明細を記入します。
あわせて、寄付先が発行する「寄付金受領証明書」を添付します。証明書には、寄付を受けた年月日・財産の明細・使用目的などが記載されている必要があります。
学校法人や地方独立行政法人への寄付では、その団体が対象であることの証明書も追加で必要になります。
証明書は寄付先の団体が発行します。相続税の申告に使う旨を伝えて依頼すると、必要事項を記載した専用の様式で出してくれることが多いです。発行までの期間も、依頼時に確認しておきましょう。
認定NPO法人への寄付なら、その法人が認定を受けていることを示す書類も添えます。寄付先の種類によって必要書類が変わるため、寄付を決めた段階で「相続税の非課税に必要な書類は何か」を寄付先に確認するのが確実です。
証明書の発行には、団体によって数日から1ヶ月ほどかかります。申告期限の直前に依頼すると間に合わないおそれがあるため、寄付を実行したらすぐに証明書の発行を依頼しましょう。
また、寄付金受領証明書は所得税・住民税の確定申告でも使います。相続税の申告用と確定申告用で別々に必要になることもあるため、必要枚数を寄付先に伝えて発行してもらうと二度手間を防げます。
申告書第14表の書き方を含む、申告書全体の記入方法は下記の記事で解説しています。

寄付によって相続税が0円になる場合でも、相続税の申告は必要です。
特例は申告して初めて適用されるため、「0円だから申告しない」と非課税特例そのものが受けられません。
税務署は申告書と証明書で寄付の事実を確認します。申告を怠ると、寄付したのに相続税がかかる、という最悪の結果になりかねません。
また、寄付をしても遺産総額が基礎控除(3,000万円+600万円×法定相続人)以下なら、そもそも相続税はかかりません。この場合は非課税特例を使うまでもなく、申告自体が不要です。
自分が相続税の申告対象になるかどうかは、まず基礎控除との比較で判断します。寄付を検討する前に、そもそも相続税がかかる規模かを確認しておくと、手続きの要否がはっきりします。
寄付を検討する前段階として、まず「自分の相続に相続税がかかるのか」を確認しておくと、手続き全体の見通しが立ちます。相続税がかからないなら、寄付は純粋な社会貢献として考えればよく、税務手続きの心配はいりません。
これまでの要件を裏返すと、特例が使えない寄付も見えてきます。
次の3つは、良かれと思ってやっても非課税にならない典型例です。
とくに注意したいのが、親族が理事を務める公益法人や、家族が実質的に支配する団体への寄付です。
形式は公益法人への寄付でも、実質的に一族へ財産が残るケースは、不当減少として否認されるおそれがあります。
寄付先と寄付者側に特別な関係がある場合は、この論点に詳しい税理士へ事前に相談しておくと安心です。

税理士には得意分野があり、相続財産の寄付という論点に詳しい事務所は限られます。依頼するなら、相続税の対応実績がある税理士に絞って一括相談・見積りで比較するのが確実です。
相続財産の寄付は、相続税・所得税・住民税の3つの税目にまたがる複雑な論点です。
たとえば値上がりした不動産を公益法人へ寄付するケース。経験の浅いA税理士は、相続税の非課税特例(措置法70条)だけを見て「相続税がかからないので有利」と説明しました。
相続財産の寄付に詳しいB税理士は、みなし譲渡課税のリスクに気づき、措置法40条の承認までセットで手続き。相続税だけでなく所得税の課税も回避し、寄付者の負担を最小に抑えました。
片方の特例しか知らないと、相続税は非課税でも所得税で数百万円取られる、という事態になりかねません。税目をまたぐ判断こそ、実績の差が出ます。
相続税の対応実績がある税理士から複数の見積りを取ると、次の3つの判定ポイントで実務力を比較できます。
判定ポイント1:3つの税目を通して見るか。相続税の非課税だけでなく、所得税・住民税の控除やみなし譲渡課税まで踏まえて提案するか → 税目を横断できる税理士の方が、トータルの負担を減らせると判定できます。
判定ポイント2:寄付先の対象判定と要件確認を行うか。寄付先が措置法70条の対象か、証明書が取れるか、2年以内の公益供用要件を満たすかを確認するか → 要件を詰める税理士の方が、否認リスクを防げると判定できます。
判定ポイント3:期限から逆算した段取りを示すか。不動産の名義変更や証明書の発行にかかる時間を見込み、10ヶ月の期限に間に合う計画を立てられるか → 段取りできる税理士の方が、期限切れの失敗を防げると判定できます。
顧問税理士や知人の紹介など、1社だけに相談すると、その提案が最善かどうかを測る物差しがありません。
相続財産の寄付に不慣れな事務所では、みなし譲渡課税の見落としや、寄付先の対象判定の誤りがあっても、誰も気づかないまま手続きが進みます。
寄付は期限内に実行する必要があり、後から「やり直し」がききません。
複数の実績ある税理士の提案を並べることが、寄付の失敗を防ぐ最短ルートです。
| チェック項目 | 確認する内容 |
|---|---|
| 提案内容 | 相続税・所得税・住民税を通した提案と、寄付先の要件確認があるか |
| 試算相続税額 | 寄付を反映した相続税額と、みなし譲渡課税の有無が示されているか |
| 報酬額 | 寄付の手続き支援・確定申告を含めた総額か |
重要ポイント:相続税の申告と所得税の確定申告は、別料金のことが多くあります。寄付が絡む場合は、両方を頼んだ場合の総額で比較してください。
⬇
⬇
⬇
重要ポイント:「相続財産の寄付の申告を扱ったことがありますか」という質問への答えは、実務力を見極める分かりやすいサインです。初回相談で率直に聞いて構いません。
重要ポイント:寄付の相談では、寄付したい財産と寄付先が具体的だと話が早く進みます。寄付先が対象団体かどうかの判定も、初回相談でめどが立ちます。
寄附金控除は所得税・住民税を軽くする制度、非課税特例(措置法70条)は寄付した相続財産に相続税をかけない制度です。
2つは別の制度ですが併用でき、同じ寄付で相続税・所得税・住民税の3つが軽くなることもあります。
国・地方公共団体・独立行政法人・国立大学法人・特定の公益社団法人や公益財団法人・学校法人・社会福祉法人・認定NPO法人などです。
認定を受けていない一般のNPO法人や、宗教法人(お寺・神社)は対象外です。寄付先が対象かどうかは、団体に証明書を発行できるか確認するのが確実です。
対象です。ふるさと納税は自治体への寄付のため、相続財産で行えば措置法70条の非課税に加えて、所得税・住民税の控除も受けられます。
ただし返礼品は一時所得として扱われ、他の一時所得と合わせて年間50万円を超えると課税対象になる点に注意してください。
できますが注意が必要です。値上がりした不動産を法人へ寄付すると、含み益にみなし譲渡課税(所得税)がかかることがあります。
措置法40条の承認を受ければこの所得税を非課税にできます。相続税と所得税の両方の手続きが必要なため、専門家への相談が必須です。
必要です。非課税特例は相続税申告書を提出して初めて適用されます。申告しないと、寄付したのに相続税がかかってしまいます。
申告書の第14表に寄付の明細を記入し、寄付金受領証明書を添付して提出してください。
相続税の寄附金控除(非課税特例)について、重要なポイントを整理します。
【3つの寄付と制度】
【適用の要件】
【手続きと考え方】
【今すぐ取るべき行動】
※本記事は2026年7月時点の法令・情報に基づいて作成しています。税制改正により、内容が変更となる可能性があります。最新の制度については国税庁の公式サイトや税理士にご確認ください。