アパート建築は相続税対策になる?節税の仕組みと2027年の5年ルール・建て替えの注意点

相続税_対策_アパート

持っている土地にアパートを建てれば相続税が下がる、という話は昔から知られています。現金のまま持つより評価額が下がるためです。ところが2027年1月1日から、この仕組みに条件がつきます。令和8年度税制改正で「5年ルール」が入るためです。

亡くなる前の5年以内に取得または新築した賃貸用不動産は、原則として通常の取引価額で評価されます。従来の評価減がその期間だけ効かなくなります。

ただし経過措置があり、もともと5年以上前から持っている土地に建てる場合は救済されます。自分の土地に建てる地主は、条文の読み方次第で結論が変わります。

2026年9月18日には国税庁が通達案を公表し、経過措置の範囲や「建築中」の意味が具体的になりました。経過措置に間に合わせても、相続開始時に建築中なら評価減は使えない点にも注意が必要です。

建て替えについても同じです。築古アパートの建て替えは評価額を下げるどころか、上げる方向に働く場合があります。

この記事では、節税の仕組みと効果、5年ルールの中身と経過措置の判定、建築中に相続が起きたときの評価、建てるか待つか建てないかの判断、建て替えの注意点までを解説します。

▼ この記事の3行まとめ

  • アパート建築は今も相続税対策になるが、2027年1月1日以後の相続では「取得・新築から5年以内」は評価減が効かない
  • 経過措置で救われるのは、5年以上前から持つ土地か5年以内に相続・贈与で取得した土地に、通達の制定日までに新築(建築中を含む)した場合
  • 建築中に相続が起きると費用現価の70%+土地は自用地評価になり、完成後より税額が612万円高くなる
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結論|アパート建築は今も対策になるが2027年から条件がつく

結論から示します。アパート建築による相続税対策は2027年以降も有効ですが、条件を満たすかどうかで結果が大きく変わります。分かれ目は土地をいつから持っているかです。まず節税の仕組みを押さえてから、改正で何が変わるかを見てください。

節税の仕組みは土地・建物・借入金の3つ

アパートを建てると相続税が下がる理由は3つあります。それぞれ根拠となる評価方法が違います。

下がる対象 評価方法 減額のイメージ
土地(貸家建付地) 自用地評価額 −(自用地評価額 × 借地権割合 × 借家権割合 × 賃貸割合) 借地権割合60%なら18%減
建物(貸家) 固定資産税評価額 ×(1 − 借家権割合 × 賃貸割合) 満室なら30%減
借入金 債務控除(相続財産から差し引く) 残債の全額

表の見方:借家権割合は全国一律30%です。建物の減額は「固定資産税評価額の70%になる」のではなく、借家権割合30%を差し引いた結果です。結果は同じでも根拠が違います。

重要ポイント:建物はそもそも建築費より固定資産税評価額が低くなります。建築費8,000万円なら評価額は4,800万円程度(60%)で、そこから30%減額されます。

参照元:国税庁 No.4614 貸家建付地の評価

効果の目安|現金1億8,000万円とアパートの比較

実際にどれだけ下がるかを1つのモデルで示します。前提は自用地1億円の土地に建築費8,000万円のアパートを建て、相続人は子2人、土地は300㎡、借地権割合60%、満室とします。

持ち方 土地の評価 建物の評価 課税価格 相続税の総額
現金のまま — — 1億8,000万円 2,740万円
アパート(特例なし) 8,200万円 3,360万円 1億1,560万円 1,072万円
アパート+小規模宅地等の特例 5,466万円 3,360万円 8,826万円 593万円

表の見方:現金のままとアパート+特例を比べると、相続税は2,740万円から593万円へ2,146万円下がります。課税価格の圧縮と特例の両方が効いています。

重要ポイント:この数字は満室が前提です。空室が出れば賃貸割合が下がり、土地と建物の減額幅がどちらも小さくなります。

計算ロジック:【前提】自用地1億円・建築費8,000万円・固定資産税評価額は建築費の60%(4,800万円)・借地権割合60%・借家権割合30%・賃貸割合100%・土地300㎡・相続人は子2人(基礎控除4,200万円)。

土地は1億円×(1−0.6×0.3×1.0)=8,200万円、建物は4,800万円×(1−0.3×1.0)=3,360万円。

特例は貸家建付地評価8,200万円のうち200㎡分を50%減額し、8,200−8,200×(200/300)×50%=5,466万円です。

参照元:国税庁 No.4155 相続税の税率

2027年1月1日から「5年ルール」が入る

この効果に条件がつくのが令和8年度税制改正です。亡くなる前の5年以内に対価を払って取得または新築した貸付用不動産は、通常の取引価額で評価されます。従来の評価減が効きません。

先ほどのモデルで5年ルールが適用されると、建物が取得価額を基にした評価に変わります。課税価格は1億4,305万6,000円、相続税は約1,632万円で、従来評価の1,072万円より約560万円増えます。

ただし経過措置があり、5年以上前から持っている土地や、5年以内に相続・贈与で取得した土地に通達の制定日までに建てる場合は適用されません。ここが最大の分かれ目です。

3分でわかる自己判定フロー

自分がどの立場かを4段階で確認してください。

STEP1
土地をいつ・どうやって取得したかを確認する
登記事項証明書で取得日と登記原因を見ます。5年以上前から所有している土地か、相続・贈与で取得した土地なら経過措置の対象になり得ます。5年以内に買った土地やこれから買う土地は対象外です。

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STEP2
相続までの見込み期間を考える
新築から5年以上が見込めるなら、5年ルールを自然に通過できます。健康状態や年齢から現実的な期間を見てください。

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STEP3
賃貸需要があるかを確かめる
空室が出れば賃貸割合が下がり、評価減も収益も落ちます。需要のない土地では節税だけを理由に建てないでください。

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STEP4
納税資金と分割方法を決める
評価額が下がっても納税は現金です。相続人が複数なら誰が引き継ぐかも先に決めてください。

貸家建付地と貸家の評価額の計算方法は、下記の記事で解説しています。

「5年ルール」で何が変わるのか

改正の中身を条文で確認します。令和8年度税制改正の大綱が方針を示し、2026年9月18日に国税庁が具体的な通達案を公表しました。市場価格と相続税評価額の差が大きすぎるという問題意識が背景にあります。

大綱の原文と3つの変更点

5年ルールの出発点は大綱の「相続税等の財産評価の適正化」で、評価の基準・期間・対象の3点が変わります。

令和8年度税制改正の大綱(4)相続税等の財産評価の適正化:相続税法の時価主義の下、貸付用不動産の市場価格と相続税評価額との乖離の実態を踏まえ、その取引実態等を考慮し、次の見直しを行う。

① 被相続人等が課税時期前5年以内に対価を伴う取引により取得又は新築をした一定の貸付用不動産については、課税時期における通常の取引価額に相当する金額によって評価する。

変更点は3つに整理できます。

項目 現行 改正後
評価の基準 路線価・固定資産税評価額 通常の取引価額(時価)
対象になる期間 期間の制限なし 課税時期前5年以内に取得・新築したもの(時期は原則として引渡しの時で判定)
対象になる財産 — 借家権の目的になっている家屋とその敷地(土地だけを貸している場合は対象外)

表の見方:評価の基準そのものが変わります。路線価は時価の8割程度、建物の固定資産税評価額は建築費の6割程度なので、時価評価になると差が一気に消えます。

重要ポイント:5年を過ぎれば従来の評価方法に戻ります。恒久的に評価減が使えなくなるわけではありません。駐車場など土地だけの貸付は、通達案では対象に含まれていません。

参照元:財務省 令和8年度税制改正の大綱(2/9)

参照元:e-Gov パブリック・コメント 貸付用不動産の評価について(案)

対象は「対価を伴う取引により取得又は新築」

条文が限定しているのは、お金を払って取得または新築したものです。相続や贈与で取得したこと自体は、5年ルールのきっかけになりません。

ただし通達案は、5年以内に買った・建てた貸付用不動産を相続等で引き継いだ場合も対象に含めています。親が4年前に建てたアパートを相続し、その後まもなく自分も亡くなった場合は対象です。

相続で引き継いだアパートが従来の評価に戻るのは、元の所有者が買った・建てた時から5年が過ぎてからです。

逆に「新築」が明記されているため、自分の土地にアパートを建てる行為は正面から対象になります。土地を買わなくても関係します。

不動産特定共同事業契約や信託受益権にもとづく一定の貸付用不動産は、取得時期にかかわらず通常の取引価額で評価されます。小口化商品はさらに厳しい扱いです。

「通常の取引価額」と「取得価額×100分の80」の関係

時価評価と言われても、いくらになるのか分かりません。そこで通達案は、取得価額を基に計算する方法を土地と建物に分けて示しています。

区分 評価額 使える条件
原則 課税時期における通常の取引価額 —
土地(ただし書) 取得価額×地価変動率×80% 取得価額が取得時の通常の取引価額と認められる場合
建物(ただし書) (取得価額−償却費の合計)×80% 同上

表の見方:地価変動率は、課税時期と取得時の路線価(倍率地域は倍率方式の価額)の比です。償却費は定額法で、耐用年数は税法の耐用年数を使い、1年未満の端数は1年として数えます。

重要ポイント:5年以上前から持っている土地は、5年以内に取得したものではないため従来の貸家建付地の評価のままです。自分の土地に建てた場合、取得価額ベースに変わるのは建物だけです。

計算ロジック:【前提】5年以上前から所有する自用地1億円に、建築費8,000万円で木造アパート(耐用年数22年・償却率0.046)を新築し、1年目に相続。相続人は子2人で、通達の制定日より後に建てたため経過措置の対象外とします。

建物=(8,000万円−8,000万円×0.046×1年)×80%=6,105万6,000円、土地は貸家建付地8,200万円のまま。課税価格1億4,305万6,000円、相続税の総額は約1,632万円(1,631万6,600円)です。

従来評価(1億1,560万円・1,072万円)より課税価格は2,745万6,000円、税額は約560万円増えます。

参照元:e-Gov パブリック・コメント 貸付用不動産の評価について(案)

適用は令和9年1月1日以後の相続

いつから適用されるかは大綱に明記されています。令和9年(2027年)1月1日以後に相続等により取得をする財産の評価に適用されます。建てた日ではなく、相続が起きた日で判定します。

2026年内に相続が発生した場合は従来の評価です。2027年以降に相続が起きた場合に、そこから5年前までに取得・新築した不動産が対象になります。

改正後も使える評価減の手法は、下記の記事で解説しています。

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経過措置で救われるのはどんなケースか

5年ルールには経過措置があります。先祖代々の土地にアパートを建てる地主は、この経過措置で救われる可能性があります。条文の条件は2つで、両方を満たす必要があります。

経過措置の条文と2つの条件

経過措置は大綱の(注)に置かれ、9月18日の通達案で対象になる土地の範囲が具体的になりました。

令和8年度税制改正の大綱(注):…上記①の改正については、当該改正を通達に定める日までに、被相続人等がその所有する土地(同日の5年前から所有しているものに限る。)に新築をした家屋(同日において建築中のものを含む。)には適用しない。

条件を分解します。

条件 条文の文言 意味
①土地 イ 同日前5年以内に取得された土地等以外のもの/ロ 同日前5年以内に相続等により取得された土地等(通達案) 制定日の5年前より前から持っている土地、または5年以内に相続・贈与で取得した土地
②建物 通達制定日までに新築された家屋等(同日において建築中のものを含む。) 制定日までに完成、または契約・工事・支払いがそろった建築中

表の見方:両方を満たす場合だけ5年ルールの適用外です。土地を新しく買って建てる場合は①を満たさないため救済されません。

重要ポイント:「同日」はどちらも通達の制定日を指します。通達案では「令和8年●月●日」と空欄で、土地の所有期間も建物の新築・建築中も、この日から判定します。

参照元:財務省 令和8年度税制改正の大綱(2/9)

参照元:e-Gov パブリック・コメント 貸付用不動産の評価について(案)

「5年前から所有している土地」の意味

通達案では、制定日の5年前より前から持っている土地に加えて、5年以内に相続や贈与で取得した土地も経過措置の対象とされました。

土地の取得の仕方 例 経過措置
制定日の5年以上前に取得 先祖代々の土地、10年前に買った土地 ◎ 対象
制定日前5年以内に相続・贈与で取得 3年前に親から相続した土地 ◎ 対象
制定日前5年以内に売買で取得 2年前に買った土地 × 対象外

取得の時期は、原則として引渡しの時で判定します。まず登記事項証明書で、所有権の取得日と登記原因(売買・相続・贈与)を確認してください。

注意:通達案は意見公募中の案です。確定版で文言が変わる可能性があるため、着工の判断は確定した通達で確かめてください。

「同日において建築中のものを含む」の射程

②の条件は、制定日までに完成していなくてもかまいません。ただし通達案は「建築中」を次の3つがそろう状態と定めています。

  • 制定日までに、請負契約など新築の契約を結んでいる
  • 制定日に、新築の工事が行われている
  • 建築費の全部または一部を支払っている

契約だけで工事が始まっていない、または支払いがまだという状態では建築中に当たりません。工事請負契約書、着工日が分かる工事写真、支払いの記録を保管してください。

自分のケースを判定できる表

土地の取得の仕方と建てる時期を組み合わせて判定します。

土地の状況 制定日までに新築・建築中 制定日より後に新築
制定日の5年以上前から所有 ◎ 経過措置で従来評価 △ 新築から5年は建物だけ取得価額ベース
制定日前5年以内に相続・贈与で取得 ◎ 経過措置で従来評価 △ 新築から5年は建物だけ取得価額ベース
制定日前5年以内に売買で取得 × 対象外(土地は取得から、建物は新築から5年) × 対象外(同左)
これから土地を買う × 対象外 × 対象外

表の見方:◎になるのは、売買で5年以内に取得した土地以外に、制定日までに完成または建築中の状態にした場合です。

重要ポイント:△は「対策が無効になる」という意味ではありません。新築から5年が経過すれば従来の評価に戻るため、相続まで5年以上の見込みがあるなら問題は生じません。

計算ロジック:【前提】判定は通達案の経過措置による。①土地=制定日前5年以内に取得した土地以外、または5年以内に相続等で取得した土地、②建物=制定日までに新築または建築中であること。

両方を満たす場合だけ5年ルールが適用されず、従来の貸家建付地・貸家の評価が使えます。

売買で取得した土地は、土地自体も取得から5年は取得価額ベースの評価です。着工時期にかかわらず経過措置の対象になりません。

通達案は9月18日に公表|制定日はまだ決まっていない

国税庁は2026年9月18日、5年ルールを定める財産評価基本通達の改正案を公表し、10月18日まで意見を募集しています。

時期 出来事 5年ルールとの関係
2025年12月 令和8年度税制改正の大綱 5年ルールと経過措置の方針
2026年9月18日 通達案の公表(意見公募) 評価方法・経過措置の範囲・建築中の定義
2026年10月18日 意見公募の締切 —
令和8年●月●日 通達の制定日(案では空欄) 経過措置の基準日
2027年1月1日 適用開始 この日以後の相続・遺贈・贈与で取得した財産

表の見方:経過措置の基準日は通達の制定日です。案では「令和8年●月●日」と空欄で、いつまでに建築中にすれば間に合うかはまだ決まっていません。

重要ポイント:案に「令和8年」とあるため2026年中の制定が想定されます。ただし日付も文言も確定版で変わり得ます。

経過措置を狙うなら、制定日までに契約・工事・支払いの3つをそろえる必要があります。確定版を待ってから動き出すと、契約から着工までの期間で間に合わない場合があります。

参照元:e-Gov パブリック・コメント 貸付用不動産の評価について(案)

土地の評価額そのものの計算手順は、下記の記事で解説しています。

建築中に相続が起きたときの評価

経過措置は「建築中のものを含む」ので、制定日に工事中であれば間に合います。ところが相続開始時にまだ建築中だと、そもそも評価減が使えません。間に合わせることと評価減を受けることは、まったく別の話です。ここを混同すると計算が大きく外れます。

建築中の家屋は費用現価の100分の70

建築中の建物には固定資産税評価額がまだ付いていません。そのため別の評価方法が定められています。

財産評価基本通達91(建築中の家屋の評価):課税時期において現に建築中の家屋の価額は、その家屋の費用現価の100分の70に相当する金額によって評価する。

費用現価とは、課税時期までに投下された建築費用を課税時期の価額に置き換えた金額です。工事の進捗に応じて評価額が積み上がっていきます。

完成後の家屋は固定資産税評価額で評価されます。建築費の6割程度に落ちるのは、完成して評価が付いてからです。

参照元:国税庁 第3章 家屋及び家屋の上に存する権利

貸家の評価減も貸家建付地も使えない

建築中は、まだ人に貸していません。ここから2つの帰結が生まれます。建物は貸家ではないため、借家権割合30%の減額が適用されません。費用現価の70%がそのまま評価額です。

土地も原則として貸家建付地になりません。貸家建付地は「貸家の敷地の用に供されている宅地」なので、貸家が存在しない段階では自用地評価です。つまり建築中は、土地と建物の両方で評価減を取り逃がします。

建て替え中の状況 裁決の判断 土地の評価
旧建物の入居者が新建物に引き続き入居する(立退料なし)、または権利金の授受と賃貸借契約が済んでいる 平成4年12月9日裁決 その部分は貸家建付地
新建物の入居について予約契約を結んでいるだけ 平成7年11月14日裁決 自用地

重要ポイント:例外が認められたのは、建て替え後も同じ入居者に貸すことが確定していたケースです。入居予定があるだけでは自用地評価になります。

参照元:国税庁 No.4602 土地家屋の評価

参照元:公表裁決事例(平4.12.9、裁決事例集No.44 284頁)

参照元:公表裁決事例(平7.11.14裁決、裁決事例集No.50 235頁)

完成後と建築中の評価を比較した表

同じモデルで、完成後と建築中を並べます。

相続開始時の状態 土地の評価 建物の評価 課税価格 相続税の総額
完成・満室 8,200万円(貸家建付地) 3,360万円(貸家) 1億1,560万円 1,072万円
建築中(進捗50%) 1億円(自用地) 2,800万円(費用現価×70%) 1億2,800万円 1,320万円
建築中(進捗80%) 1億円(自用地) 4,480万円(費用現価×70%) 1億4,480万円 1,684万円
建築中(進捗100%・未入居) 1億円(自用地) 5,600万円(費用現価×70%) 1億5,600万円 2,020万円

表の見方:進捗が進むほど評価額が上がります。完成間近で相続が起きるのが最も不利で、税額は2,020万円になります。現金のまま持っていた場合の2,740万円に近い水準です。

重要ポイント:進捗80%の時点で相続が起きると、完成・満室の場合より税額が612万円高くなります。内訳は土地1,800万円(自用地と貸家建付地の差)と建物1,120万円の評価差です。

計算ロジック:【前提】自用地1億円・建築費8,000万円・固定資産税評価額4,800万円・借地権割合60%・借家権割合30%・賃貸割合100%・相続人は子2人。

完成後は土地1億円×(1−0.6×0.3)=8,200万円、建物4,800万円×(1−0.3)=3,360万円。

建築中は評基通91により建物=費用現価×70%で、進捗80%なら8,000万円×0.8×0.7=4,480万円、土地は貸家がないため自用地1億円のままです。

経過措置に間に合っても評価減は別問題

経過措置に間に合うかと、評価減を実際に受けられるかは、別々に判定する必要があります。

【経過措置に間に合うか】

制定日までに契約・工事・支払いがそろっていれば、5年ルールを避けられます。建築中でも構いません。

【評価減を実際に受けられるか】

相続開始時に完成して賃貸されていることが必要です。建築中なら貸家にも貸家建付地にもなりません。

【両方を満たすには】

制定日までに建築中の状態にし、かつ相続開始前に完成させて入居者を入れておく必要があります。

駆け込みで着工しても、完成前に相続が起きれば節税効果は出ません。健康状態から相続までの見込み期間が読めない場合、着工を急ぐ判断そのものを見直すべきです。

注意:木造アパートの工期は着工から4〜6か月が一般的です。完成後さらに入居者が入るまでの期間も必要なので、評価減が効き始めるまで半年以上を見込んでください。

地主が取るべき対策の優先順位は、下記の記事で解説しています。

建てるか・待つか・建てないかの判定

ここまでの内容を意思決定に落とします。選択肢は「通達前に建てる」「通達後に建てる」「建てない」の3つです。どれが有利かは土地の所有期間と相続までの見込み期間で決まります。

3つの選択肢のトータル比較

建てる時期と相続までの期間で相続税がどう変わるかを、同じモデルで比べます。前提は5年以上前から所有する自用地1億円、建築費8,000万円、相続人は子2人です。

選択肢 相続までの見込み 課税価格 相続税の総額 主なリスク
通達前に建てる いつでも 1億1,560万円 1,072万円 完成前に相続が起きると1,684万円
通達後に建てる 5年以上 1億1,560万円 1,072万円 5年内に相続が起きると約1,632万円
通達後に建てる 5年未満 1億4,305万6,000円 約1,632万円 建物の評価減が消える(土地の評価減は残る)
建てない(現金のまま) — 1億8,000万円 2,740万円 税額は最大だが空室・修繕・分割の負担なし

表の見方:最も有利なのは通達前に建てて完成させ、入居者を入れたうえで相続を迎える場合です。建てない場合との差は1,668万円です。

重要ポイント:2行目と3行目は同じ「通達後に建てる」ですが、相続までの期間で結論が反転します。5年を越えれば通達前に建てた場合と同じ結果です。急ぐ必要があるのは5年が読めない人だけです。

計算ロジック:【前提】自用地1億円・建築費8,000万円・固定資産税評価額4,800万円・借地権割合60%・借家権割合30%・賃貸割合100%・小規模宅地等の特例は適用しない・相続人は子2人(基礎控除4,200万円)。

従来評価は土地8,200万円+建物3,360万円です。

5年ルール適用時は土地8,200万円のまま、建物が(8,000万円−償却費368万円)×80%=6,105万6,000円(木造・1年目)。建築中(進捗80%)は自用地1億円+費用現価6,400万円×70%=1億4,480万円です。

「通達前に建てる」が有利な人

次の3つがそろっている場合は、通達前の着工に合理性があります。

【条件1】5年以上前から所有している土地がある

経過措置の①を満たします。登記事項証明書で取得日を確認してください。

【条件2】相続までの見込みが5年を下回る

5年を越える見込みがあるなら急ぐ必要はありません。年齢や健康状態から現実的に判断します。

【条件3】賃貸需要があり、完成まで待てる

着工から完成・入居まで半年以上かかります。この期間に相続が起きると評価減は使えません。

3つのうち1つでも欠けるなら、通達前の駆け込みは推奨できません。特に条件3を満たさない場合、着工しても効果が出ないまま負債だけが残ります。

「通達後でも問題ない人」

相続までの期間が5年以上見込めるなら、通達を待ってから判断して構いません。5年ルールは恒久的に評価減を封じる制度ではありません。新築から5年が経過すれば従来の評価に戻ります。

むしろ通達の内容を確認してから設計や規模を決めたほうが、判断材料がそろいます。この場合は賃貸需要の調査や資金計画に時間を使うほうが、節税効果より大きな差を生みます。

「建てない」を選ぶべき人

建てない判断が正しいケースもあります。ハウスメーカー系の解説では出てこない選択肢です。

建てないほうがよいケース

  • 周辺に賃貸需要がなく、完成後の入居率が読めない
  • 相続人が複数で、アパートを誰が引き継ぐか決まっていない
  • 納税資金を現金で用意できておらず、換金性の低い資産を増やすと納税に困る
  • 相続人がアパート経営を続ける意思がない
  • 自己資金で建てるため債務控除が使えず、評価額の圧縮だけが目的になっている

節税額と経営リスクは別に評価してください。相続税が1,668万円下がっても、20年間の赤字が同額を超えるなら意味がありません。

土地から新規に買う場合は救済されない

経過措置から外れるのは、制定日前5年以内に売買で取得した土地と、これから買う土地です。土地とアパートをセットで取得する方法は対象外です。

この場合は取得・新築から5年が経過するまで、土地も建物も通常の取引価額(または取得価額を基にした80%の評価)で評価されます。相続直前に土地を買ってアパートを建てる手法は、実質的に封じられます。

不動産特定共同事業契約や信託受益権にもとづく小口化商品は、取得時期にかかわらず通常の取引価額です。こちらは経過措置すらありません。

節税対策の全体像と優先順位は、下記の記事で解説しています。

アパートの建て替えは相続前と相続後どちらが得か

すでにアパートを持っている人の悩みは、新築ではなく建て替えです。築古アパートの建て替えは、相続税を下げるどころか上げる方向に働く場合があります。理由は、古い建物の固定資産税評価額がすでに下がりきっているためです。

相続前に建て替える場合

建て替えると建物が新しくなり、固定資産税評価額が上がります。評価額が上がれば相続税も上がります。築古と建て替え後を比べました。前提は自用地1億円、借地権割合60%、満室、相続人は子2人、自己資金で建て替える場合です。

建物の状態 固定資産税評価額 建物の評価(貸家) 課税価格 相続税の総額
築古のまま(築40年) 300万円 210万円 8,410万円 531万円
築古のまま(築30年) 800万円 560万円 8,760万円 584万円
築古のまま(築20年) 2,000万円 1,400万円 9,600万円 710万円
建て替え後(自己資金8,000万円) 4,800万円 3,360万円 1億1,560万円 1,072万円

表の見方:築40年のアパートを自己資金で建て替えると、相続税は531万円から1,072万円へ541万円増えます。手元の現金8,000万円が評価額3,360万円の建物に変わる一方で、古い建物の低い評価を失うためです。

重要ポイント:それでも現金のまま持つより有利です。現金8,000万円をそのまま残せば課税価格は1億6,410万円、相続税は2,263万円になります。比べるべきは「建て替え前」ではなく「その現金を何に変えるか」です。

計算ロジック:【前提】自用地1億円・借地権割合60%・借家権割合30%・賃貸割合100%・相続人は子2人(基礎控除4,200万円)・小規模宅地等の特例は適用しない。土地は貸家建付地として1億円×(1−0.6×0.3)=8,200万円で共通。

建物は固定資産税評価額×(1−0.3)。築古は評価額が下がりきっているため課税価格が小さく、建て替えで新しい評価額が付くと課税価格が増えます。

借入金で建て替えるなら結論が変わる

借入金を使えば債務控除が働き、建て替えは有利に転じます。

建て替えの資金 相続時のローン残債 課税価格 相続税の総額
自己資金 0円 1億1,560万円 1,072万円
借入金8,000万円 4,000万円 7,560万円 404万円
借入金8,000万円 6,000万円 5,560万円 136万円
借入金8,000万円 8,000万円(直後に相続) 3,560万円 0円

表の見方:ローン残債が多い時期に相続が起きるほど税額は下がります。残債8,000万円なら基礎控除4,200万円を下回り、相続税は0円です。

重要ポイント:ただし返済が進むほど効果は薄れます。また団体信用生命保険で残債が完済される契約なら、その債務は債務控除の対象になりません。契約内容を先に確認してください。

参照元:国税庁 No.4126 相続財産から控除できる債務

建て替え中に相続が起きるリスク

建て替えには、新築にはない固有のリスクがあります。旧建物を解体した後の期間です。

解体すると貸家が存在しなくなるため、土地は原則として貸家建付地ではなく自用地で評価されます。

旧建物の入居者が新建物に引き続き入居することが確定している場合は、貸家建付地と認めた裁決があります。解体から新築完成までの数か月は、土地の評価が1,800万円分高い状態が続きます。

新しい建物も建築中なら費用現価の70%で、貸家の減額は使えません。土地と建物の両方で評価減を失う期間です。

小規模宅地等の特例も、貸付事業が中断している間は適用の判断が難しくなります。建て替えの前に、貸付事業の継続性をどう説明するかを整理してください。

参照元:国税庁 No.4614 貸家建付地の評価

判断の分岐表

築年数と相続の見込み時期で判断します。

築年数 相続まで5年以上の見込み 相続まで5年未満の見込み
築30年以上・空室が多い 借入金で建て替える 建て替えず売却も検討
築20〜30年・稼働は安定 修繕で延命し、時期を見て建て替え 建て替えない(現状維持)
築20年未満 建て替えない 建て替えない

表の見方:建て替えが推奨されるのは左上の1マスだけです。相続まで5年未満なら、建て替え中の相続リスクが節税効果を上回ります。

重要ポイント:築30年以上で空室が多く相続も近い場合は、建て替えより売却して納税資金に充てるほうが合理的なことがあります。収益性が回復しない物件を相続人に残すと負担になります。

マンション(区分所有)の評価と節税は、下記の記事で解説しています。

相続税の一括相談・見積りは相続税理士ナビ
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小規模宅地等の特例が使えるかの判定

アパートの敷地には小規模宅地等の特例が使えます。貸家建付地の評価減と重ねられるため、効果は最も大きい部分です。ただし3年以内に貸付を始めた土地は原則として対象外です。この例外規定を知らないと判断を誤ります。

貸付事業用宅地等は200㎡まで50%減

アパートの敷地は貸付事業用宅地等に当たります。減額の枠は200㎡・50%です。

先ほどのモデルでは、貸家建付地評価8,200万円の土地300㎡のうち200㎡分が50%減額され、5,466万円になりました。この特例だけで相続税が478万円下がっています。

適用には2つの要件があります。被相続人の貸付事業を相続税の申告期限までに引き継ぎ、申告期限までその貸付事業を行っていること(事業承継要件)と、その宅地等を申告期限まで有していること(保有継続要件)です。

参照元:国税庁 No.4124 相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例)

3年以内に貸付を始めた土地は原則対象外

ここが駆け込み対策の関門です。相続開始前3年以内に新たに貸付事業の用に供された宅地等は、貸付事業用宅地等から除かれます。

条文上は「3年以内貸付宅地等」と呼ばれます。アパートを建てて3年以内に相続が起きると、200㎡・50%の減額が使えません。

注意:この「3年」を「相続開始前3年以内の生前贈与が相続財産に加算されるルール」と混同した解説を見かけますが、別の制度です。アパートを建てる行為は贈与ではないため、生前贈与加算は関係しません。

特定貸付事業を3年超行っていれば除外されない

この3年ルールには重要な例外があります。条文の(注2)です。

国税庁 No.4124(注2):相続開始前3年以内に新たに貸付事業の用に供された宅地等であっても、相続開始の日まで3年を超えて引き続き特定貸付事業(貸付事業のうち準事業以外のものをいいます。

)を行っていた被相続人等のその特定貸付事業の用に供された宅地等については、3年以内貸付宅地等に該当しません。

特定貸付事業とは、貸付事業のうち準事業以外のものです。準事業は「事業と称するに至らない不動産の貸付け」なので、事業的規模での貸付けが特定貸付事業に当たります。

つまり3年を超えて事業的規模でアパート経営をしてきた人は、新しく建てた1棟でも3年ルールに引っかかりません。

これまでの貸付状況 新しく建てて3年以内に相続 200㎡・50%減の適用
3年超・事業的規模で貸付を継続 該当 ◎ 適用できる(注2の例外)
3年超だが事業的規模でない(準事業) 該当 × 適用できない
貸付事業をしていなかった 該当 × 適用できない
いずれでも 3年を超えてから相続 ◎ 適用できる

表の見方:「3年待たないと特例が使えない」は全員に当てはまりません。すでに事業的規模で経営している地主は、増築や新棟でも初日から適用できます。

重要ポイント:事業的規模の目安は所得税で使われる5棟10室基準です。ただし小規模宅地等の特例における特定貸付事業の判定は個別の事情によるため、判断が微妙な場合は税理士に確認してください。

併用するときの限度面積

自宅の敷地と併用する場合は、面積の調整計算が入ります。

区分 限度面積 減額割合
特定事業用宅地等(①)・特定同族会社事業用宅地等(②) 400㎡ 80%
特定居住用宅地等(⑥) 330㎡ 80%
貸付事業用宅地等(③④⑤) 200㎡ 50%
貸付事業用宅地等がある場合の調整式 (①+②)×200/400 + ⑥×200/330 +(③+④+⑤)≦ 200㎡

表の見方:貸付事業用宅地等を選ぶと、自宅の330㎡枠がそのまま使えなくなります。自宅とアパートのどちらに枠を使うかで税額が変わるため、有利判定が必要です。

計算ロジック:【前提】貸付事業用宅地等を選択する場合の限度面積は、①②を400㎡枠、⑥を330㎡枠として200㎡に換算し、③④⑤と合算して200㎡以内に収める。

減額割合が80%の自宅を優先したほうが有利になるケースが多いため、1㎡当たりの評価額と減額割合を掛けて比較します。

貸付事業用宅地の要件と計算は、下記の記事で解説しています。

4類型の要件と併用の有利判定は、下記の記事で解説しています。

節税効果が消える5つの落とし穴

計算どおりの効果が出ないことがあります。節税額を打ち消す要因を、事例と対策で5つ整理します。どれも相続が起きてからでは手当てができません。

空室で賃貸割合が下がる|一時的空室は1か月程度

賃貸割合が下がると、土地と建物の両方で減額幅が縮みます。

賃貸割合 土地の評価 建物の評価 課税価格 相続税の総額
100%(満室) 8,200万円 3,360万円 1億1,560万円 1,072万円
80% 8,560万円 3,648万円 1億2,208万円 1,201万円
50% 9,100万円 4,080万円 1億3,180万円 1,396万円
0%(全室空室) 1億円 4,800万円 1億4,800万円 1,780万円

表の見方:満室と半分空室で税額の差は324万円です。全室空室なら708万円の差になり、評価減はほぼ消えます。

重要ポイント:賃貸割合は室数ではなく各独立部分の床面積の割合で計算します。部屋の広さが違う場合、単純な室数比では出せません。

ただし一時的な空室なら賃貸中として扱える取扱いがあります。国税庁が示す4つの事実関係です。

【イ】課税時期前に継続的に賃貸されてきたものであること

【ロ】賃借人の退去後速やかに新たな賃借人の募集が行われ、空室の期間中、他の用途に供されていないこと

【ハ】空室の期間が、課税時期の前後の例えば1か月程度であるなど、一時的な期間であること

【ニ】課税時期後の賃貸が一時的なものではないこと

目安として示されているのは「課税時期の前後の例えば1か月程度」です。長期の空室は一時的とは扱われません。募集を続けていた事実を示す資料は残してください。仲介業者への募集依頼の記録、募集広告、清掃や修繕の履歴が疎明資料になります。

参照元:国税庁 No.4614 貸家建付地の評価

キャッシュフローが赤字になる

節税と収益性は別の問題です。手残りがマイナスなら、相続人が自分の資産から補填し続けます。

事例1:地方の駅から徒歩20分の土地に8戸のアパートを建てたが、完成2年目に入居4戸まで低下。家賃収入が返済と管理費を下回り、年間60万円の赤字になった。

対策:建築前に周辺の空室率と募集賃料を実地で調べ、入居率70%でも収支が回る計画にする。ハウスメーカーの提示する満室想定の収支表だけで判断しない。

事例2:築15年で外壁塗装と屋上防水に480万円が必要になったが、修繕積立をしていなかったため借入れで対応。返済が二重になった。

対策:家賃収入の10〜15%を修繕積立に回す。大規模修繕は10〜15年ごとに数百万円単位で発生する前提で計画する。

遺産分割で揉める・共有名義にする

アパートは現金のように分けられません。相続人が複数いる場合は先に決めておく必要があります。事例1:長男が経営を続けたいと考え、次男は売却したいと主張。合意できず共有名義で登記したため、売却も建て替えもできなくなった。

対策:共有名義は避ける。1人が取得し、他の相続人には代償金を渡す代償分割にする。代償金の原資として生命保険を用意しておく。

事例2:遺言がなく、分割協議が申告期限までに終わらなかった。小規模宅地等の特例は原則として申告期限までの分割が要件のため、適用できなかった。

対策:遺言書でアパートの取得者を指定しておく。間に合わない場合は申告期限までに「申告期限後3年以内の分割見込書」を提出する。

納税資金が用意できない

評価額は下がっても、納税は現金です。アパートは換金性が低く、10か月で売却できるとは限りません。事例:相続税800万円に対して預貯金が300万円しかなく、アパートを売ろうとしたが買い手が見つからず、延納を選択して利子税が発生した。

対策:建築前に相続税額を試算し、不足分を生命保険で用意する。死亡保険金には「500万円×法定相続人の数」の非課税枠があり、口座凍結中でも数日で受け取れます。

相続時にローン残債が減っていて債務控除が小さい

借入金で建てた場合、返済が進むほど債務控除は小さくなります。建築直後に相続が起きれば残債8,000万円が全額控除され、先ほどのモデルでは相続税が0円になりました。しかし10年後には残債が半分程度まで減り、控除額も半減します。

団体信用生命保険で残債が完済される契約の場合、その債務は債務控除の対象になりません。契約内容を確認してください。

チェックリスト:着工前に確認する項目

  • □ 土地の取得日を登記事項証明書で確認した
  • □ 入居率70%でも収支が回る計画になっている
  • □ 家賃収入の10〜15%を修繕積立に回す前提で試算した
  • □ アパートを誰が引き継ぐか決めて遺言書に書いた
  • □ 相続税額を試算し、納税資金の不足額を把握した
  • □ 生命保険で納税資金と代償金の原資を確保した
  • □ 団信の有無と債務控除の扱いを確認した

重要ポイント:7項目のうち1つでも未確認なら着工を止めてください。建ててしまうと後戻りができず、相続人が20年以上その判断を引き継ぎます。

ローンと債務控除・団信の扱いは、下記の記事で解説しています。

納税資金が足りないときの選択肢と順序は、下記の記事で解説しています。

アパート以外も含めた相続税対策の失敗事例は下記の記事で解説しています。

建てた後・相続が起きた後にやること

建てただけでは終わりません。相続が起きた後に要件を満たし続けないと、小規模宅地等の特例が取り消されます。期限のある手続きも並行します。

申告期限までに満たす2つの要件

貸付事業用宅地等の特例には、相続後の継続要件があります。

要件 内容 やってしまうと失うこと
事業承継要件 被相続人の貸付事業を申告期限までに引き継ぎ、申告期限までその貸付事業を行っていること 申告期限前に賃貸をやめる/自分で住む
保有継続要件 その宅地等を相続税の申告期限まで有していること 申告期限前に売却する

表の見方:納税資金が足りないからと申告期限前にアパートを売ると、200㎡・50%の減額が使えなくなります。売却は申告期限を過ぎてからにしてください。

重要ポイント:申告期限は相続の開始を知った日の翌日から10か月です。この10か月間は賃貸を続け、名義も動かさないのが原則です。

参照元:国税庁 No.4124 相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例)

相続発生から申告までの月別チェックリスト

アパートがある場合に特有の手続きを時系列で示します。

〜1か月
家賃の振込先を変更し、入居者へ通知する
被相続人の口座は凍結されます。相続人代表者の口座へ切り替えないと家賃が回収できません。管理会社にも連絡してください。

⬇

〜3か月
ローンと敷金を洗い出す
団信の有無を確認し、預かっている敷金の総額を集計します。敷金は返還義務があるため債務控除の対象です。相続放棄をするなら3か月以内に家庭裁判所へ申述します。

⬇

〜4か月
準確定申告を行う
1月1日から死亡日までの家賃収入について、相続人が代わって所得税を申告します。期限は相続の開始を知った日の翌日から4か月以内です。

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〜8か月
賃貸割合の資料をそろえ、分割協議をまとめる
死亡日時点の入居状況、空室があれば募集の記録を集めます。誰がアパートを引き継ぐかを決めないと特例が使えません。

⬇

〜10か月
相続税を申告・納付し、相続登記を行う
小規模宅地等の特例は申告書に適用を受ける旨と明細書を添付して初めて使えます。相続登記は2024年4月から義務化されています。

重要ポイント:分割協議が申告期限までに終わらない場合は、申告書とあわせて「申告期限後3年以内の分割見込書」を提出してください。提出しないと後から特例を適用できません。

参照元:国税庁 No.4208 相続財産が分割されていないときの申告

相続後に売却するなら取得費加算

相続したアパートを売る場合、譲渡所得の計算で相続税の一部を取得費に加算できます。適用できるのは相続税の申告期限の翌日以後3年を経過する日までの譲渡です。相続開始から数えると3年10か月が期限です。

ただし小規模宅地等の特例の保有継続要件があるため、申告期限前に売ると特例を失います。申告期限を過ぎてから3年10か月までの間に売るのが、両方を成立させる窓です。

参照元:国税庁 No.3267 相続財産を譲渡した場合の取得費の特例

評価が争いになりやすい論点

アパートの申告では、税務調査で次の3点が確認されやすくなります。

指摘を受けやすい論点

  • 賃貸割合の計算=室数比で計算していて床面積比になっていない
  • 一時的空室の判断=長期の空室を賃貸中として扱っている
  • 特定貸付事業の判定=事業的規模といえるか
  • 借地権割合の適用=路線価図の記号を取り違えている
  • 敷金の債務控除=計上を忘れている

賃貸借契約書、入退去の履歴、募集の記録は申告後も保管してください。評価の根拠を示せるかどうかで結論が変わります。

相続税の一括相談・見積りは相続税理士ナビ
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アパートの相続税対策は相続税の対応実績がある税理士へ|一括相談・見積り

アパート建築の判断は、税理士によって結論が変わります。2027年の改正をどう織り込むかで提案内容が分かれるためです。複数の事務所から見積りを取れば、方針と報酬を比べられます。

相続税の対応実績がある税理士が必要な理由

アパートの評価は判断の余地が大きく、同じ物件でも申告する税理士によって評価額が変わります。

実績がある税理士に依頼すべき理由

  • 5年ルールと経過措置の適用可否を、土地の取得日から正しく判定できる
  • 建築中に相続が起きた場合の評価まで織り込んだ試算ができる
  • 特定貸付事業に当たるかを判断し、3年ルールの例外を使える
  • 一時的空室として認められる範囲を、疎明資料の準備から組み立てられる
  • 自宅とアパートのどちらに小規模宅地等の枠を使うか有利判定ができる
  • 建て替えが評価額を上げる方向に働く場合を見抜き、建てない提案もできる

具体例で示します。自用地1億円・300㎡の土地に、事業的規模で20年間アパートを経営してきた人が新棟を建て、2年後に相続が発生したケースです。

A税理士は「3年以内に貸付を始めた土地だから小規模宅地等の特例は使えない」と判断し、課税価格1億1,560万円で申告して相続税1,072万円になりました。

B税理士は特定貸付事業を3年超行っていた点を主張して特例を適用し、課税価格8,826万円・相続税593万円で申告しています。差額は479万円です。同じ事実でも、条文の例外を知っているかどうかで結果が動きます。

一括見積りで比較するメリット

「不動産に強い」という言葉だけでは判断できません。何を比べれば実務力が見えるかを示します。

判定ポイント1:2027年の5年ルールを踏まえた提案かを確認します。改正に触れずに「アパートを建てれば下がります」と言う事務所と、土地の取得日を聞いてから答える事務所があります。→ 取得日を確認してくる事務所のほうが、経過措置の判定ができると判定できます。

判定ポイント2:試算のパターン数を比べます。「建てる/建てない」の2案しか出さない事務所と、「通達前に着工/通達後/建て替え/売却」の4案以上を出す事務所があります。→ パターンが多い事務所のほうが、意思決定の材料をそろえられると判定できます。

判定ポイント3:賃貸割合と一時的空室の扱いを説明できるかを聞きます。「満室想定で計算します」で終わる事務所と、死亡日時点の入居状況と募集記録の準備まで案内する事務所があります。→ 資料の準備を案内できる事務所は、調査を見据えた申告ができると判定できます。

3つとも具体的に答えられる事務所を選んでください。

相談しないまま進めるリスク

ハウスメーカーの収支計画だけで着工すると、税務の判断が抜けたまま進みます。

相談せずに進めた場合に起きること

  • 土地を新規取得してから建て、経過措置の対象外になっていることに気づかない
  • 完成前に相続が起きて費用現価70%+自用地評価になり、節税効果がゼロになる
  • 特定貸付事業の例外を知らず、使えたはずの200㎡・50%減を取りこぼす
  • 誰が引き継ぐかを決めずに建て、共有名義になって売却も建て替えもできなくなる
  • 納税資金を用意しないまま換金性の低い資産を増やし、延納で利子税が発生する
  • 築古アパートを自己資金で建て替えて、かえって課税価格を増やす

金額で示します。自用地1億円・建築費8,000万円のモデルで、着工が完成前の相続に当たった場合は税額1,684万円、経過措置の対象外で5年ルールが適用された場合は約1,632万円です。

最善の1,072万円と比べると約560万円から612万円の差になります。着工前に複数の税理士から見積りを取れば避けられる差です。

一括相談・見積りの手順|STEP1〜STEP4

相談から依頼までの流れを4段階で示します。

STEP1
相続の概要を整理する
資産の内容と概算額、相続人の構成と年齢、遺言の有無を整理します。アパートを建てる土地の登記事項証明書を取り、取得日を確認しておいてください。既存のアパートがあれば築年数と入居率もまとめます。

⬇

STEP2
一括見積り・相談サービスに依頼する
希望内容として「アパート建築の可否判定」「5年ルールと経過措置の適用判定」「相続税の試算」を明記し、相続税の対応実績がある税理士3〜5の事務所へ同時に打診します。所有している不動産は所在地と広さを記載してください。財産の種類と相続人の人数を正確に伝えると見積り精度が上がります。フォーム記入は5分程度です。

⬇

STEP3
見積りと初回相談を受ける
各事務所から「提案内容」「試算相続税額」「報酬額」が記載された見積りが届きます。気になる事務所と初回相談を行い、土地の取得日を確認してきたかどうかを比べてください。

⬇

STEP4
税理士を選定・正式依頼する
提案内容の質、説明の丁寧さ、報酬の納得性で選びます。建築の契約を結ぶ前に税理士を決めてください。着工後では選べる手が減ります。

アパートの相続税対策に関するよくある質問(FAQ)

Q1. 2027年からアパート建築は相続税対策にならなくなるのですか?

なくなりません。令和8年度税制改正で入る5年ルールは、亡くなる前の5年以内に取得・新築した貸付用不動産を通常の取引価額で評価する制度です。新築から5年が経過すれば従来の貸家建付地・貸家の評価に戻ります。

また5年以上前から所有している土地に通達に定める日までに新築した場合は、経過措置により5年ルールが適用されません。

Q2. 通達に定める日はいつですか?

まだ決まっていません。国税庁は2026年9月18日に通達案を公表し、10月18日まで意見を募集していますが、制定日は「令和8年●月●日」と空欄です。

案に「令和8年」とあるため2026年中の制定が想定されます。経過措置を狙うなら、制定日までに契約・工事・支払いの3つをそろえる必要があります。

Q3. 相続で取得した土地でも経過措置の対象になりますか?

9月18日の通達案では対象とされています。制定日前5年以内に相続・贈与で取得した土地に、制定日までに新築(建築中を含む)した家屋は、5年ルールが適用されません。

対象外になるのは、制定日前5年以内に売買で取得した土地です。通達案は意見公募中の案なので、確定版の文言も確かめてください。

Q4. 建築中に相続が起きたらどう評価されますか?

建物は財産評価基本通達91により費用現価の100分の70で評価され、土地は貸家がまだ存在しないため自用地評価になります。貸家の借家権割合30%の減額も、貸家建付地の減額も使えません。

自用地1億円・建築費8,000万円のモデルで進捗80%のときに相続が起きると、課税価格1億4,480万円・相続税1,684万円となり、完成して満室の場合の1,072万円より612万円高くなります。経過措置に間に合うことと評価減を受けられることは別の話です。

Q5. すでにアパートを経営していれば3年ルールは関係ないのですか?

事業的規模で3年を超えて経営していれば関係しません。小規模宅地等の特例では相続開始前3年以内に新たに貸付事業の用に供された宅地等が除かれますが、相続開始の日まで3年を超えて引き続き特定貸付事業(貸付事業のうち準事業以外のもの)を行っていた場合は除外されません。

事業的規模の目安は5棟10室ですが、特定貸付事業に当たるかの判定は個別の事情によるため税理士に確認してください。

まとめ

アパート建築は今も相続税対策として有効ですが、2027年1月1日以後の相続では条件がつきます。分かれ目は土地をいつから持っているかです。

もっとも大きな落とし穴は、経過措置に間に合わせても相続開始時に建築中なら評価減が使えないという点です。急いで着工することが答えにならない場合があります。

▼ この記事の要点

  • 節税の仕組みは3つ。貸家建付地の減額、貸家の借家権割合30%減、借入金の債務控除
  • 自用地1億円・建築費8,000万円のモデルで、現金のまま2,740万円 → アパート+特例で593万円
  • 令和8年度税制改正で、課税時期前5年以内に対価を伴う取引で取得・新築した貸付用不動産は通常の取引価額で評価(適用は令和9年1月1日以後の相続)
  • 代替として取得価額を基に計算した価額の100分の80での評価も認められる
  • 経過措置で救われるのは、5年以上前から持つ土地か5年以内に相続・贈与で取得した土地に、制定日までに新築(建築中を含む)した場合
  • 通達案は2026年9月18日に公表。制定日は未定で、建築中は契約・工事・支払いの3つがそろった状態
  • 自分の土地に建てて5年ルールが適用されても、取得価額ベースになるのは建物だけで土地は貸家建付地のまま
  • 建築中に相続が起きると建物は費用現価×70%、土地は自用地評価。進捗80%なら税額が612万円高い
  • 相続まで5年以上の見込みがあるなら急ぐ必要はない。5年を越えれば従来評価に戻る
  • 築古アパートを自己資金で建て替えると課税価格が増える。借入金なら債務控除で有利に転じる
  • 3年以内貸付宅地等でも、特定貸付事業を3年超行っていれば200㎡・50%減は使える
  • 一時的空室として賃貸中と扱えるのは「課税時期の前後の例えば1か月程度」が目安

今すぐ取るべき行動

  • 登記事項証明書を取り、アパートを建てる土地の取得日を確認する
  • 取得日が5年以上前、または5年以内でも相続・贈与で取得した土地なら経過措置の候補、5年以内に買った土地やこれから買う土地は対象外と整理する
  • 相続までの見込み期間が5年を上下どちらかを、年齢と健康状態から現実的に見積もる
  • 着工から完成・入居まで半年以上かかる前提で、完成前に相続が起きた場合の税額も試算する
  • 周辺の空室率と募集賃料を実地で調べ、入居率70%でも収支が回るかを確かめる
  • すでに事業的規模でアパート経営をしているなら、特定貸付事業として3年ルールの例外が使えるか確認する
  • アパートを誰が引き継ぐかを決め、遺言書に書く。代償金の原資として生命保険を検討する
  • 建築の契約を結ぶ前に、相続税の対応実績がある税理士3〜5の事務所へ一括で見積りを依頼し、土地の取得日を確認してくるかどうかを比べる

※本記事は2026年10月時点の法令、税制改正の大綱、9月18日公表の通達案にもとづいています。確定した通達で取扱いが変わる場合があります。最新の制度は国税庁の公表資料をご確認いただき、個別の判断は税理士にご相談ください。

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