


賃貸不動産とは、アパートやマンション、貸しビルなど、他人に貸して家賃収入を得ている不動産のことです。
賃貸経営をしている方や、親から賃貸物件を相続する方にとって、身近な財産といえます。
この賃貸不動産は、相続税の計算上、自分で使う不動産や現金よりも評価額が低くなり、相続税を大きく抑えられます。
相続税は、財産の「評価額」に対してかかる税金です。
同じ1億円でも、現金のまま持つか、賃貸不動産として持つかで、相続税評価額は大きく変わります。
賃貸不動産は「貸家建付地」や「貸家」としての評価減、小規模宅地等の特例など、複数の仕組みで評価額を下げられるのです。
ところが、これらの評価減を正しく適用できず、本来より高い評価額のまま相続税を納めてしまうケースは少なくありません。
賃貸不動産の評価は判断が複雑で、相続を専門としない税理士では見落としも起こりがちです。
本記事では、賃貸不動産の評価額が下がる仕組みと計算方法を具体的な数値で解説したうえで、空室の影響、既存物件の評価見直し、令和9年改正の注意点までをお伝えします。
▼ この記事の3行まとめ

賃貸不動産は、相続税の計算において評価額が大きく下がる財産です。
「不動産は相続税対策になる」と言われるのは、この評価減の仕組みがあるためです。
その理由は、他人に貸していることで所有者が自由に使えないという「利用の制限」が評価に反映されるためです。
自分で使う不動産よりも、賃貸に出している不動産の方が評価が低くなります。
この評価減の仕組みを理解することが、賃貸不動産の相続税対策の第一歩になります。
賃貸不動産は「他人に貸している」という理由で評価額が下がるのです。
現金は額面がそのまま相続税評価額になりますが、不動産は時価より低い評価額になります。
1億円の現金は相続税評価額も1億円ですが、不動産は評価額が時価を下回るのが一般的です。
建物は固定資産税評価額(時価の6〜7割程度)で評価され、さらに賃貸に出すと評価が下がります。
土地も、賃貸建物の敷地は「貸家建付地」として評価減の対象になります。
つまり、現金を賃貸不動産に換えるだけで、相続税評価額を大きく下げられるのです。
現金1億円より、賃貸不動産1億円の方が相続税評価額は大幅に低くなるのです。
賃貸不動産の評価額を下げる仕組みは、大きく3つの柱に整理できます。
それぞれ土地・建物・特例に対応しており、重ねて使えるのが特徴です。
この3つを知っているかどうかで、評価額の下がり方が大きく変わります。
【評価減の3つの柱】
これらを組み合わせることで、評価額を大きく圧縮できます。
1つだけでなく複数を重ねて使えるからこそ、賃貸不動産は節税効果が高いのです。
貸家建付地・貸家・小規模宅地の3つを組み合わせて評価を下げるのが基本です。
賃貸不動産の評価減は、相続税額に大きな影響を与えます。
現金で持つより評価額が数千万円下がることもあり、その差に相続税率を掛けた分だけ節税になります。
財産規模が大きいほど、この評価減の効果も大きくなります。
相続税は財産が多いほど税率が上がるため、資産家ほど賃貸不動産による節税メリットが大きくなります。
とりわけ、現金や預金を多く持つ方は、賃貸不動産への組み替えで大きな節税が期待できます。
評価額の削減は、数百万円単位の相続税の差に直結するのです。
賃貸不動産は必ずしも節税になるとは限りません。
状況によっては、評価減の効果が小さかったり、かえって損をしたりすることもあります。
【節税になりやすいケース】
【節税になりにくいケース】
節税効果だけでなく、賃貸経営の実態や収支まで含めて判断することが重要です。
賃貸不動産は満室・長期保有なら節税効果が大きいが、空室や赤字では逆効果になります。

賃貸建物が建っている土地は「貸家建付地」として、自分で使う土地より評価額が下がります。
これは、賃貸不動産の相続税評価で最も基本となる仕組みです。
賃貸不動産の土地の評価を考えるうえで、必ず押さえておくべきポイントです。
計算式と、評価に使う3つの割合を理解しておきましょう。
賃貸建物の敷地は貸家建付地として評価が下がるのです。
貸家建付地とは、自分の土地に自分が建てた賃貸建物があり、それを他人に貸している場合の土地です。
アパートやマンションの敷地が、典型的な貸家建付地にあたります。
戸建てを賃貸に出している場合も、その敷地は貸家建付地として扱われます。
賃借人がいることで土地の自由な利用が制限されるため、その分だけ評価が下がります。
たとえば入居者がいる限り、所有者は自由に土地を使ったり売ったりできません。
この「自由に処分できない」という制約が、評価額を下げる根拠になっています。
この利用の制限が、貸家建付地としての評価減につながっているのです。
同じ土地でも、自分で使う場合と賃貸に出す場合で評価額が変わるのはこのためです。
貸家建付地は「自分の土地に建てた賃貸物件の敷地」を指すのです。
貸家建付地の評価額は、次の計算式で求めます。
少し複雑に見えますが、「自用地評価額から一定割合を差し引く」というシンプルな考え方です。
【貸家建付地の計算式】
貸家建付地の評価額 = 自用地評価額 −(自用地評価額 × 借地権割合 × 借家権割合 × 賃貸割合)
計算に使う3つの割合は、それぞれ次の意味を持ちます。
この3つの割合を掛け合わせた分だけ、自用地評価額から減額されます。
【3つの割合】
借地権割合・借家権割合・賃貸割合の3つで減額幅が決まるのです。
具体的な数値で、貸家建付地の評価額を計算してみましょう。
自用地評価額1億円、借地権割合70%、借家権割合30%、賃貸割合100%(満室)のケースで計算します。
| 項目 | 金額・割合 |
|---|---|
| 自用地評価額 | 1億円 |
| 減額割合(70%×30%×100%) | 21% |
| 減額される金額 | 2,100万円 |
| 貸家建付地の評価額 | 7,900万円 |
表の見方:自用地なら1億円の土地が、賃貸建物を建てて貸すことで7,900万円まで下がります。減額割合は「借地権割合×借家権割合×賃貸割合」で決まります。
重要ポイント:借地権割合が高い地域(都市部など)ほど減額幅が大きくなります。また、満室であれば賃貸割合100%で減額を最大化できます。
計算ロジック:1億円 ×(70% × 30% × 100%)= 2,100万円が減額されます。自用地評価額1億円から2,100万円を差し引き、貸家建付地の評価額は7,900万円となります。借地権割合は路線価図で地域ごとに確認します。
借地権割合70%の地域なら、土地評価が約21%下がる計算になるのです。
貸家建付地の減額幅は、借地権割合によって大きく変わります。
借地権割合は、国税庁が公表している「路線価図」で調べることができます。
路線価図では、道路ごとに路線価とアルファベット(A〜G)が記載されています。
路線価図は国税庁のホームページで、誰でも無料で閲覧でき、過去の年分もさかのぼって確認できます。
【借地権割合の記号】
路線価の数字の後ろに付くアルファベットが借地権割合を示す。A=90%、B=80%、C=70%…と続き、都市部ほど割合が高い傾向。
借地権割合が高い都市部の土地ほど、貸家建付地としての減額幅が大きくなります。
借地権割合は路線価図のアルファベットで確認でき、都市部ほど高いのです。
「貸家建付地」と似た言葉に「貸宅地」がありますが、両者は異なる概念です。
貸家建付地は「自分の建物を貸している土地」、貸宅地は「土地そのものを他人に貸している土地」です。
【貸家建付地と貸宅地の違い】
貸宅地は借地権の分だけ評価が下がり、貸家建付地よりも減額幅が大きくなる傾向があります。
どちらに該当するかで計算方法が変わるため、まず自分の土地の種類を正しく把握することが大切です。
貸家建付地と貸宅地は別物で、評価の下がり方も異なる点を押さえておきましょう。

賃貸に出している建物は「貸家」として、自分で使う建物より評価額が下がります。
土地の貸家建付地とあわせて、建物でも評価減を受けられます。
土地と建物の両方で評価が下がるからこそ、賃貸不動産は節税効果が大きいのです。
さらに小規模宅地等特例まで重ねられるため、トータルの減額幅は非常に大きくなります。
建物評価の基本と計算方法を確認しましょう。
賃貸中の建物は貸家として評価が下がり、土地とあわせて節税できるのです。
建物の相続税評価額は、原則として固定資産税評価額と同じです。
固定資産税評価額は、市区町村から届く固定資産税の納税通知書で確認できます。
固定資産税評価額は、一般に建築費の6〜7割程度になります。
つまり、1億円で建てた建物でも、評価額は6,000万〜7,000万円程度に下がります。
この時点で、現金で持つより数千万円の評価減になっているのです。
建てた瞬間に評価額が下がるため、現金を建物に換えるだけで相続税対策になります。
建物は建てた時点で、評価額が建築費の6〜7割に下がるのです。
賃貸に出している建物は、固定資産税評価額から借家権割合の分だけさらに評価が下がります。
これは、賃借人がいることで建物を自由に使えないという制限が反映されるためです。
土地の貸家建付地と同じ考え方が、建物にも適用されると理解すると分かりやすいでしょう。
【貸家の計算式】
貸家の評価額 = 固定資産税評価額 −(固定資産税評価額 × 借家権割合30% × 賃貸割合)
借家権割合は全国一律30%なので、満室であれば固定資産税評価額の30%が減額されます。
土地の借地権割合とは異なり、建物の借家権割合は地域を問わず30%で一定です。
貸家は固定資産税評価額から30%減額されるのです。
建築費1億円、固定資産税評価額6,000万円、賃貸割合100%のケースで計算します。
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 建築費 | 1億円 |
| 固定資産税評価額(建築費の約6割) | 6,000万円 |
| 借家権割合による減額(30%) | ▲1,800万円 |
| 貸家の評価額 | 4,200万円 |
表の見方:1億円で建てた建物が、固定資産税評価額への引き下げと借家権割合の減額により、最終的に4,200万円まで下がります。現金で持つより5,800万円も評価額を圧縮できます。
重要ポイント:建物は「固定資産税評価額への引き下げ」と「借家権割合の減額」の二段階で評価が下がります。この二段階の減額が、賃貸建物の大きな節税効果につながります。
計算ロジック:建築費1億円が固定資産税評価額6,000万円になり、そこから借家権割合30%分の1,800万円が減額され、4,200万円となります。固定資産税評価額の割合は建物の構造や築年数で変わるため、実際の評価証明書で確認が必要です。
建築費1億円の建物が、貸家にすることで評価額4,200万円まで下がるのです。
アパート一棟だけでなく、分譲マンションの一室を賃貸に出している場合も評価減の対象です。
この場合、建物部分は貸家として、敷地の持ち分は貸家建付地として評価が下がります。
一室でも他人に貸していれば、その部屋に対応する評価減を受けられます。
複数の部屋を所有して貸している場合は、それぞれについて評価減が適用されます。
マンションは敷地全体を戸数で按分した「敷地権」を持つため、その持ち分に評価減が適用されます。
【2024年のマンション評価ルールに注意】
タワーマンションなどは2024年から評価ルールが変わり、市場価格との乖離を是正する補正が入る。従来ほど評価が下がらない場合がある。
分譲マンションの賃貸も評価減の対象だが、2024年の新ルールに注意が必要です。
建物の固定資産税評価額は、築年数が経つほど下がっていきます。
これは、建物が古くなるにつれて価値が下がることを反映しているためです。
【築年数と評価のポイント】
固定資産税評価額は経年で減少するが、一定の下限で下げ止まる。古い建物ほど評価額は低くなり、その分相続税も抑えられる。
古くから所有している賃貸建物は、評価額が下がっているため相続税の負担も軽くなります。
一方で、古い建物は修繕費がかさむため、評価額と維持コストの両面で判断が必要です。
築年数が経った賃貸建物は評価額が下がり、相続税の面では有利になるのです。

賃貸不動産の敷地は、小規模宅地等の特例によってさらに評価を下げられます。
この特例は、賃貸不動産の相続税対策の中でも特に効果の大きい制度です。
貸家建付地の評価減で下がった後の評価額を、さらに半分にできるイメージです。
2つの減額が重なることで、土地の評価額は大きく圧縮されます。
貸付事業用宅地として、200㎡まで評価額を50%減額できる制度です。
貸家建付地の評価減とあわせて使うことで、節税効果を最大化できます。
賃貸不動産の敷地は200㎡まで50%減額でき、節税効果が大きいのです。
小規模宅地等の特例のうち、賃貸不動産の敷地は「貸付事業用宅地等」に該当します。
この場合、200㎡までの部分について、評価額を50%減額できます。
200㎡を超える部分については、この特例による減額は受けられません。
たとえば200㎡で評価額4,000万円の敷地なら、2,000万円まで下がります。
自宅の敷地(特定居住用宅地)の80%減と比べると減額率は低いものの、大きな節税効果があります。
減額率50%でも、評価額の大きい土地では数千万円の減額になることもあります。
貸家建付地の評価減とこの特例を重ねられる点が、賃貸不動産の大きな強みです。
貸付事業用宅地は200㎡まで50%減額できるのです。
貸付事業用宅地の特例を使うには、いくつかの要件を満たす必要があります。
要件を満たさないと特例が使えず、評価額を下げられないため注意が必要です。
【主な適用要件】
相続後すぐに売却したり、賃貸をやめたりすると、特例が使えなくなります。
特例を使うつもりなら、申告期限までは賃貸を続け、売却も控える必要があります。
【要注意】相続開始前3年以内の貸付
相続開始前3年以内に新たに貸付事業を始めた不動産は、原則として特例の対象外。直前の駆け込みは認められない。
申告期限まで賃貸を継続・保有しないと特例は使えない点に注意が必要です。
自宅の土地(特定居住用宅地)と賃貸の土地(貸付事業用宅地)の両方がある場合は、限度面積の調整が必要です。
両方に特例を使うと、面積の合計に上限があるため、どちらを優先するかで節税額が変わります。
一般に、減額率の高い自宅(80%減)を優先した方が有利になりやすいですが、単価によって変わります。
土地の1㎡あたりの単価が高い方を優先した方が有利になるため、慎重な試算が必要です。
この併用調整は計算が複雑なため、税理士に試算してもらうのが確実です。
自宅と賃貸の両方がある場合は、どちらに特例を使うかで節税額が変わるのです。
賃貸アパートの敷地は特例の対象ですが、駐車場や空き地は扱いが異なります。
アスファルト舗装や構築物のある駐車場は、貸付事業用宅地として特例の対象になり得ます。
コインパーキングや立体駐車場など、設備を伴う駐車場が該当します。
自分の土地の駐車場がどちらに当たるかは、舗装や設備の状況で判断されます。
【対象にならないケース】
更地に車を停めているだけの「青空駐車場」は、構築物がないため特例の対象外になることが多い。砂利敷き程度でも認められない場合がある。
同じ土地の貸し方でも、舗装や構築物の有無で特例が使えるかが変わります。
駐車場は構築物があれば特例対象だが、青空駐車場は対象外になりやすいのです。

賃貸不動産の評価額削減の効果は、現金と比較すると一目で分かります。
ここまで解説した貸家建付地・貸家・小規模宅地等特例を、すべて組み合わせるとどうなるかを見てみましょう。
同じ1億円でも、現金のまま持つ場合と賃貸不動産にした場合で、相続税評価額は大きく変わります。
ここでは、貸家建付地・貸家・小規模宅地等特例をすべて適用したシミュレーションで比較します。
同じ1億円でも、現金と賃貸不動産では相続税評価額が数千万円変わるのです。
比較しやすいよう、次の前提でシミュレーションします。
【シミュレーションの前提】
この前提で、現金のまま持つ場合と賃貸不動産にした場合を比較します。
実際の評価は物件の立地や構造によって変わりますが、効果の大きさをイメージするのに役立ちます。
前提をそろえることで、賃貸不動産にする効果だけを純粋に比較できるのです。
現金1億円と、賃貸不動産にした場合の相続税評価額を比較します。
| 項目 | 現金のまま | 賃貸不動産 |
|---|---|---|
| 土地(5,000万円分) | 5,000万円 | 貸家建付地3,950万円 |
| 建物(5,000万円分) | 5,000万円 | 貸家2,100万円 |
| 小規模宅地等特例(土地50%減) | なし | ▲1,975万円 |
| 相続税評価額の合計 | 1億円 | 約4,075万円 |
表の見方:現金なら1億円がそのまま評価額ですが、賃貸不動産にすると約4,075万円まで下がります。貸家建付地・貸家・小規模宅地等特例の3つを重ねることで、評価額を約6割圧縮できます。
重要ポイント:評価額が約5,900万円下がるため、相続税率が30%なら約1,770万円もの節税につながります。ただし、これは満室で特例が使える理想的なケースの試算です。
計算ロジック:土地5,000万円は貸家建付地で21%減の3,950万円、さらに小規模宅地等特例で50%減の1,975万円を差し引きます。建物5,000万円は固定資産税評価額3,000万円に下がり、貸家で30%減の2,100万円。合計で約4,075万円となります。数値は前提条件による概算です。
3つの評価減を重ねると、1億円の評価額を約4,000万円まで圧縮できるのです。
賃貸不動産の建築や購入にローンを使うと、さらに相続税対策になる場合があります。
借入金は債務として相続財産から差し引ける(債務控除)ため、課税対象を減らせます。
手元の現金を残しながら、評価の低い不動産を取得できる点もメリットです。
ただし、令和9年改正や否認リスクもあるため、借入を使った対策は慎重な判断が必要です。
ただし、借入はあくまで返済義務のある負債であり、収支とのバランスが重要です。
家賃収入で返済できる範囲かどうかを、事前にしっかり見極める必要があります。
金利上昇や空室で返済が苦しくなるリスクも、あわせて考えておくべきです。
ローンの借入金は債務控除できるが、返済リスクとのバランスが必要です。
評価額の削減は、最終的な相続税額にどう影響するのでしょうか。
先ほどのシミュレーション(現金1億円 vs 賃貸不動産約4,075万円)をもとに、相続税額を比べてみます。
| 項目 | 現金のまま | 賃貸不動産 |
|---|---|---|
| 相続税評価額 | 1億円 | 約4,075万円 |
| 相続税(税率30%想定) | 約3,000万円 | 約1,222万円 |
| 節税額 | — | 約1,778万円 |
表の見方:評価額が約5,900万円下がることで、相続税額も約1,778万円減ります。評価額の削減が、そのまま大きな節税につながることが分かります。
重要ポイント:この試算は満室で特例が使える理想的なケースです。実際は空室状況や他の財産との合算、税率区分によって変わるため、正確な試算は税理士に依頼すべきです。
計算ロジック:評価額の差5,925万円(1億円−4,075万円)に相続税率30%を掛けると約1,778万円。これが賃貸不動産にしたことによる節税額の目安です。実際の税率は財産総額や相続人の数で変わります。
評価額を約5,900万円下げると、相続税も約1,778万円減る計算になるのです。

賃貸不動産の評価減は、満室であることを前提に最大化されます。
ここまでの計算例は、すべて賃貸割合100%(満室)を前提にしていました。
空室があると「賃貸割合」が下がり、評価減の効果も小さくなります。
空室の扱いは評価額を左右する重要なポイントです。
空室が多いと評価減が小さくなり、相続税が高くなるのです。
賃貸割合とは、建物全体のうち実際に貸している部分の割合です。
床面積を基準に計算し、満室なら100%、半分空室なら50%となります。
正確には戸数ではなく床面積で計算するため、広い部屋の空室ほど影響が大きくなります。
たとえば10戸のアパートで8戸が入居中なら、賃貸割合は原則80%です。
この賃貸割合が、貸家建付地と貸家の両方の評価減に影響します。
賃貸割合が下がると、土地・建物の両方で評価減が小さくなってしまいます。
賃貸割合は床面積で計算し、貸家建付地と貸家の評価減に直結するのです。
空室が多いほど賃貸割合が下がり、評価減の効果が小さくなります。
相続のタイミングでたまたま空室が多いと、思わぬ形で評価額が上がってしまいます。
日頃の入居率が、相続税の金額にまで影響してくるということです。
| 賃貸割合 | 状態 | 建物の評価減 |
|---|---|---|
| 100% | 満室 | 30%減(最大) |
| 50% | 半分空室 | 15%減 |
| 0% | 全室空室 | 減額なし |
表の見方:賃貸割合が下がるほど、評価減の効果は小さくなります。全室空室だと、そもそも貸家・貸家建付地としての評価減が受けられません。
重要ポイント:相続のタイミングで空室が多いと、評価減が小さくなり相続税が高くなります。日頃から満室経営を心がけることが、節税の面でも重要です。
相続時の空室は評価減を減らすため、満室経営が節税につながるのです。
相続のタイミングでたまたま空室でも、「一時的な空室」なら賃貸中として扱われることがあります。
賃貸経営では、入居者の入れ替わりで一時的に空室が生じるのは自然なことです。
この自然な空室まで評価に不利に働くのは実態に合わないため、一定の配慮がされています。
入居者の退去後すぐに募集をかけているなど、継続的に賃貸している実態があれば認められます。
逆に、長期間放置して募集もしていない空室は、一時的空室とは認められにくくなります。
この場合は空室として扱われ、その部分の評価減が受けられなくなります。
【一時的空室と認められるポイント】
一時的空室を認めてもらうには、募集の記録などの証拠を残しておくことが重要です。
不動産会社への募集依頼の記録や、募集広告の写しなどが証拠として役立ちます。
一時的な空室は、募集の証拠を残せば賃貸中として減額が認められるのです。
管理会社が建物を一括で借り上げる「サブリース」の場合も、賃貸割合の考え方が問題になります。
サブリースは、空室リスクを管理会社が引き受ける代わりに、家賃が相場より低めになる仕組みです。
サブリースでは、実際の入居状況にかかわらず、建物全体が借り上げられている状態です。
この場合、原則として賃貸割合100%として評価減を受けられると考えられます。
個々の入居者ではなく、管理会社に建物全体を貸している状態と捉えられるためです。
【サブリースのポイント】
管理会社との一括借り上げ契約があれば、実際の空室にかかわらず建物全体が賃貸中と扱われやすい。契約内容の確認が重要。
ただし、契約内容によって判断が変わるため、専門家に確認するのが確実です。
サブリース契約の形態はさまざまで、実態に応じた判断が求められます。
サブリースは建物全体が賃貸中と扱われやすく、評価減の面で有利になりやすいのです。

賃貸不動産の相続税評価は複雑で、専門家でも判断が分かれることがあります。
特に、貸家建付地・貸家・小規模宅地・賃貸割合など、判断すべき要素が多いのが特徴です。
そのため、すでに申告した賃貸不動産の評価額が、本来より高くなっているケースがあります。
相続を専門としない税理士が申告した場合、評価減の適用漏れが起きやすいものです。
特に賃貸不動産は判断すべき項目が多く、経験の差が評価額にそのまま表れます。
評価を見直すことで、納めすぎた相続税が戻ってくる可能性があります。
すでに申告した賃貸不動産も、評価の見直しで還付を受けられることがあるのです。
賃貸不動産の評価は、適用できる減額が多く、判断も複雑です。
減額の種類が多いということは、それだけ適用漏れが起きやすいということでもあります。
【評価誤りが起きやすいポイント】
相続を専門としない税理士が申告した場合、これらの減額を見落とすことがあります。
顧問税理士に頼んだものの、相続や賃貸不動産の経験が少なかったというケースは珍しくありません。
賃貸不動産は減額の適用漏れが起きやすく、評価が過大になりがちです。
評価の見直しで納めすぎが判明した場合、「更正の請求」で還付を受けられます。
更正の請求とは、納めすぎた税金の還付を税務署に求める手続きです。
更正の請求は、原則として相続税の申告期限から5年以内に行う必要があります。
期限内であれば、賃貸不動産の評価を見直して、納めすぎた相続税を取り戻せます。
期限を過ぎると還付を受けられなくなるため、早めの見直しが大切です。
申告期限から5年以内なら、更正の請求で納めすぎた相続税を取り戻せるのです。
評価の見直しは、賃貸不動産の評価に慣れた税理士に依頼するのが確実です。
もともと申告した税理士とは別の税理士に、セカンドオピニオンを求めるかたちになります。
賃貸不動産の評価は専門性が高く、見直しによって数百万円の還付につながることもあります。
「申告は終わった」という方も、一度評価を見直してもらう価値は十分にあります。
賃貸不動産の評価見直しは、専門の税理士に依頼するのが確実です。
実際に評価の見直しで還付につながりやすいのは、次のようなケースです。
【還付につながりやすいケース】
これらは賃貸不動産の評価で特に見落とされやすく、見直しで数百万円戻ることもあります。
特に、相続を専門としない税理士に依頼した場合は、見直しの価値が高いといえます。
「相続税を払いすぎているかもしれない」と感じたら、一度専門家に相談する価値があります。
空室・複数土地・減額漏れは、見直しで還付につながりやすい典型例です。

賃貸不動産の相続税評価は、令和9年(2027年)から一部が変わります。
これまでの評価減を利用した節税に、一定の制限がかかる重要な改正です。
特に、これから賃貸不動産の購入を検討している方には、大きく影響する内容です。
これから賃貸不動産で対策する方は、この改正を理解しておく必要があります。
知らずに従来の感覚で対策すると、期待した節税効果が得られない恐れがあります。
令和9年改正で、一部の賃貸用不動産は評価減が使いにくくなるのです。
令和8年度の税制改正により、令和9年1月1日以後の相続から評価方法が変わります。
これは、市場価格と相続税評価額の乖離を利用した節税に、歯止めをかける狙いがあります。
相続開始前5年以内に取得または新築した一定の賃貸用不動産は、通常の評価額ではなく時価に近い水準で評価されます。
時価に近い水準とは、取得価額をもとにした金額で、目安として約80%程度とされています。
これまでは、相続の直前に賃貸不動産を購入して評価を大きく下げる手法が使われてきました。
改正後は、こうした短期間の駆け込み対策が通用しにくくなります。
【改正のポイント】
取得から5年以内の賃貸用不動産は、貸家建付地や貸家の評価減ではなく、取得価額をもとにした時価(目安で約80%)で評価される。
これにより、「相続直前に賃貸不動産を購入して評価を下げる」という節税は効きにくくなります。
これまで富裕層の間で使われてきた節税手法に、大きな制限がかかることになります。
市場価格と評価額の乖離が大きいほど、改正による影響も大きくなります。
取得5年以内の賃貸用不動産は時価評価となり、直前対策が封じられるのです。
この改正の影響を受けるかどうかは、取得時期によって変わります。
すべての賃貸不動産が対象になるわけではない点を、正しく理解しておきましょう。
【影響の有無】
長く賃貸経営を続けている物件は、従来どおりの評価減が使えると考えられます。
先祖代々の土地でアパート経営をしているようなケースは、改正の影響を受けにくいといえます。
長期保有の賃貸不動産は、改正後も従来の評価減が使える見込みです。
令和9年改正を踏まえると、賃貸不動産による対策は早めに、かつ長期保有を前提に行うべきです。
「相続が近いから今すぐ購入」という短期の発想では、かえって不利になりかねません。
相続直前の駆け込み購入では、期待した評価減が受けられない可能性があります。
改正の詳細や自分への影響は、最新の情報をもとに税理士に確認するのが確実です。
賃貸不動産の対策は、早め・長期保有を前提に進めるべきです。
令和9年改正後も、賃貸不動産による相続税対策がすべて無効になるわけではありません。
「賃貸不動産の節税がすべて封じられた」という誤解もありますが、それは正しくありません。
あくまで「取得5年以内」の物件が対象で、長く保有している物件は従来どおりの評価減が使えます。
【改正後も有効な対策】
これからの賃貸不動産対策は、「短期の節税」から「長期保有を前提とした対策」へと考え方を変える必要があります。
もともと持っている賃貸不動産を、いかに適正に評価してもらうかも重要になります。
改正後は「長期保有を前提とした賃貸不動産対策」が基本になるのです。

賃貸不動産による相続税対策には、注意すべき点もあります。
「節税になるから」という理由だけで賃貸経営を始めると、後悔することもあります。
節税効果だけに注目すると、思わぬ落とし穴にはまることがあります。
否認リスク・空室・収支の3つの注意点を押さえておきましょう。
賃貸不動産の対策は、節税だけでなくリスクも踏まえて判断すべきです。
相続直前に、節税だけを目的として賃貸不動産を購入すると、否認されるリスクがあります。
実態の伴わない、行き過ぎた節税策は、税務署に認められないことがあるのです。
節税は「実態を伴う範囲で」行うことが、否認を避ける基本になります。
【否認リスク】
令和4年の最高裁判決では、相続直前に借入で購入した不動産の評価減が否認された。行き過ぎた節税は認められないことがある。
令和9年改正とあわせて、直前の節税目的の購入はますます効きにくくなります。
「相続税を減らすためだけ」の不動産購入は、今後さらにリスクが高まると考えるべきです。
相続直前の節税目的の購入は、否認されるリスクが高いのです。
賃貸経営は、節税になっても収支が赤字では意味がありません。
相続税を数百万円減らせても、毎年の赤字が続けば、いずれ節税分を上回る損失になります。
賃貸経営は数十年にわたる事業であり、目先の節税だけで判断するものではありません。
相続税対策としてだけでなく、事業として成り立つかどうかを冷静に見極めることが大切です。
空室や家賃下落、大規模修繕などで、キャッシュフローがマイナスになることもあります。
築年数が経つほど家賃は下がりやすく、修繕費は増えていく傾向があります。
大規模修繕は10〜15年ごとに数百万円かかることもあり、資金計画が欠かせません。
節税額と収支のバランスを、長期的な視点で判断することが重要です。
節税になっても収支が赤字では本末転倒。事業性の判断が欠かせないのです。
賃貸不動産を複数の相続人で共有すると、後々のトラブルの原因になります。
家賃収入の分配や、修繕費の負担をめぐって、相続人同士で意見が対立しやすくなります。
売却や建て替えに共有者全員の同意が必要になり、意思決定が難しくなります。
さらに、共有者が亡くなると持ち分が次の相続人に引き継がれ、権利関係が複雑になります。
分けにくい賃貸不動産は、代償分割などで単独所有にする方法も検討すべきです。
誰か1人が引き継ぎ、他の相続人には金銭で調整する方が、後々の管理がスムーズになります。
賃貸不動産の共有は将来のトラブルを招くため、慎重に判断すべきです。
賃貸不動産を相続したら、税務手続きと並行して賃貸経営を引き継ぐ手続きが必要です。
入居者への対応が遅れると、家賃の未回収などのトラブルにつながります。
相続人が賃貸人としての地位を引き継ぐため、入居者へ速やかに通知することが大切です。
賃貸借契約・入居状況の把握
賃貸借契約書やローンの契約内容、家賃の入金状況を確認する。
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準確定申告
被相続人の不動産所得について、相続人が準確定申告を行う。
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遺産分割・相続税申告・名義変更
取得者を決めて相続税を申告し、家賃振込先の変更や相続登記を行う。
賃貸不動産の相続は、税務手続きと賃貸経営の引き継ぎを並行して進める必要があります。

賃貸不動産の相続税評価は複雑で、税理士の力量によって評価額が数百万円変わります。
貸家建付地・貸家・小規模宅地等特例・賃貸割合の判断は、経験の差がそのまま結果に表れます。
だからこそ、1社だけで決めず、複数の税理士から一括で相談・見積りを受けて比較することが重要です。
賃貸不動産の相続税こそ、複数の税理士を比較して選ぶべき分野です。
賃貸不動産の評価は、税理士の経験によって大きく変わります。
賃貸不動産に強い税理士は、各種の評価減や一時的空室の判断を漏れなく行い、評価額を適正に下げます。
一方、賃貸不動産の経験が浅い税理士は、評価減の適用漏れで評価が過大になることがあります。
賃貸不動産の評価力は税理士によって差が大きく、比較する価値が高いのです。
【メリット1】複数の評価・提案を比較できる
各税理士の評価額や節税提案を比べることで、最も評価を下げられる税理士が見つかる。
【メリット2】報酬と提案の質を横並びで比較できる
報酬額だけでなく、評価減の提案内容や令和9年改正への対応もあわせて比較できる。
【メリット3】賃貸不動産に強い税理士を選べる
複数の税理士と接することで、賃貸不動産の評価実績を比較し、信頼できる相手を選べる。
複数比較により、評価力・報酬・相性のすべてで納得のいく選択ができるのです。
【1社だけのリスク】
評価減の適用漏れがあっても気づけない、一時的空室を空室扱いされる、報酬が妥当か判断できない、といったリスクがある。
特に賃貸不動産は評価の判断が多く、税理士によって評価額に大きな差が出ます。
1社だけの判断は、評価減の取りこぼしに気づけないリスクがあります。
複数の税理士に依頼した場合の、評価額と報酬の違いを試算してみましょう。
| 項目 | A税理士(評価減が甘い) | B税理士(賃貸に強い) |
|---|---|---|
| 税理士報酬 | 70万円 | 90万円 |
| 賃貸不動産の評価額 | 6,000万円 | 4,075万円 |
| 相続税(税率30%想定) | 約1,800万円 | 約1,222万円 |
| 報酬+相続税の総額 | 約1,870万円 | 約1,312万円 |
表の見方:報酬はB税理士が20万円高いものの、評価減を漏れなく適用することで評価額が約1,925万円下がり、相続税も大きく抑えられます。
重要ポイント:報酬の安さより、評価をどこまで下げられるかで税理士を選ぶべきです。この比較は、複数の税理士から見積りを取って初めて可能になります。
計算ロジック:A税理士は評価減の適用が甘く評価額6,000万円、相続税約1,800万円。B税理士は貸家建付地・貸家・小規模宅地等特例を漏れなく適用し評価額4,075万円、相続税約1,222万円。報酬差20万円を差し引いても、総額で約558万円お得になります。
報酬の安さより、評価をどこまで下げられるかで税理士を選ぶべきです。
賃貸不動産の概要を整理する
物件の所在地・種類(アパート・マンションなど)・戸数・入居状況、その他の財産、相続人の人数を整理する。
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一括相談・見積りサービスに依頼する
希望内容(賃貸不動産の相続税申告・評価見直しなど)を指定し、複数の税理士(目安3〜5社)に同時に打診する。フォーム入力は5分程度で、物件情報を正確に伝えると精度が上がる。
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見積りと初回相談を受ける
各税理士から評価方針・試算相続税額・報酬額が届く。気になる事務所と初回相談を行い、評価減の提案や実績を確認する。
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税理士を選定・正式依頼する
「評価力」「報酬の納得感」「賃貸不動産の実績」で最適な事務所を選ぶ。申告期限に余裕を持って早めに動く。
評価は税理士で数百万円変わるため、早めの一括相談で比較すべきです。
初回相談では、次の質問で賃貸不動産への対応力を必ず見極めるようにしましょう。
見積りは金額だけでなく、評価の範囲まで必ず確認して比較することが大切です。
A:土地は貸家建付地として15〜21%程度、建物は貸家として30%程度下がります。さらに小規模宅地等特例(200㎡まで50%減)も使えば、満室のケースで1億円の資金が評価額4,000万円台まで下がることもあります。
A:はい。空室があると賃貸割合が下がり、貸家建付地や貸家の評価減が小さくなります。ただし、退去後すぐに募集しているなどの「一時的な空室」であれば、賃貸中として減額が認められる場合があります。募集の記録を残しておくことが重要です。
A:はい。相続税の申告期限から5年以内であれば、更正の請求で評価を見直し、納めすぎた相続税の還付を受けられる可能性があります。賃貸不動産は評価減の適用漏れが起きやすいため、一度見直してもらう価値があります。
A:令和9年(2027年)1月1日以後の相続から、取得5年以内の一定の賃貸用不動産は、評価減ではなく時価に近い水準(目安約80%)で評価されます。相続直前に購入して評価を下げる節税が効きにくくなるため、早め・長期保有を前提に対策する必要があります。
A:賃貸不動産の評価は複雑で、税理士の力量によって評価額が数百万円変わります。賃貸に強い税理士は評価減を漏れなく適用し、令和9年改正も踏まえた対策を提案できます。一括相談で複数の税理士を比較すると、評価力と報酬を客観的に判断できます。
賃貸不動産の評価額削減の基本
損をしないためのポイント
今すぐ取るべき行動
※本記事は2026年7月時点の相続税法令・税率に基づいて作成しています。令和9年の税制改正をはじめ、評価方法や特例の要件が変更される可能性があります。個別の賃貸不動産の評価や相続税対策については、最新の制度を確認のうえ、税理士などの専門家にご相談ください。