


換価分割とは、相続した不動産や株式を売って現金にし、その代金を相続人で分ける遺産分割の方法です。
相続税は売れた価格ではなく、相続開始時の評価額で計算します。各相続人の取得額は、代金を分ける割合で按分します。
換価分割では、相続税と、売って利益が出たときの譲渡所得税の2つがかかります。相続税は相続人全員で10か月以内に申告し、譲渡所得税は代金を受け取った人がそれぞれ翌年に申告します。
代表者1人の名義で売っても、譲渡所得税を申告するのは代金を受け取った相続人全員です。代表者がまとめて申告したり、遺産分割協議書に分け方を書かなかったりすると、贈与税の問題が起きます。
売る時期と分け方でも税額は変わります。同居していた子の持分を申告期限より前に売ると、小規模宅地等の特例が使えなくなります。
実家を6,000万円で売る子2人の家庭では、分け方を変えるだけで相続税と譲渡所得税の合計に約218万円の差が出ます。
本記事では、換価分割の相続税の計算、申告書と遺産分割協議書の書き方、譲渡所得は誰が申告するか、使える特例、代償分割とどちらが得かを解説します。
▼ この記事の3行まとめ

換価分割は、遺産を売って代金を分ける方法です。相続税は売れた価格ではなく、相続開始時の評価額で計算します。
換価分割をしても、相続税の計算のしかたは変わりません。売る前の財産を、代金を分ける割合で取得したものとして計算します。
| 項目 | 換価分割での扱い |
|---|---|
| 財産の評価 | 相続開始時の相続税評価額(路線価など)。売れた価格は使わない |
| 各相続人の取得額 | 評価額×代金を分ける割合 |
| 申告書の書き方 | 代金を分ける割合で、各相続人がその財産を取得したものとして書く |
| 売って出た利益 | 相続税ではなく、譲渡所得税(所得税・住民税)の対象 |
表の見方:評価額4,000万円の実家を5,000万円で売っても、相続税は4,000万円で計算します。売れた価格との差額1,000万円は、売った相続人の譲渡所得として扱われます。
重要ポイント:代金を分ける割合は、法定相続分でなくても構いません。相続人全員の合意で、長男6割・次男4割のように決められます。
遺産の分け方には、現物分割・代償分割・換価分割があります。換価分割は、誰も自分のお金を出さずに公平に分けられる方法です。
| 分け方 | やり方 | 税金の特徴 |
|---|---|---|
| 現物分割 | 不動産は長男、預金は次男のように、そのままの形で分ける | 売らなければ譲渡所得税はかからない |
| 代償分割 | 1人が不動産を取得し、他の相続人にお金(代償金)を払う | 取得した1人だけが、売ったときに譲渡所得税を申告する |
| 換価分割 | 売った代金を相続人で分ける | 代金を受け取った全員が譲渡所得税を申告する |
重要ポイント:代償分割は、取得する人に代償金を払うお金が必要です。換価分割は売った代金で分けるので、自分のお金を出す人はいません。
代償分割の代償金の決め方と相続税の計算は、下記の記事で解説しています。

換価分割は公平に分けやすい反面、売る手間と、売った利益への税金がかかります。
| メリット | デメリット |
|---|---|
| 1円単位で公平に分けられる | 相続人全員が売ることに合意しないと進まない |
| 代償金を用意する必要がない | 希望の価格で売れるとは限らない |
| 相続税の納税資金を作れる | 仲介手数料などの費用がかかる |
| 空き家の管理や固定資産税の負担がなくなる | 売って利益が出ると、各自に譲渡所得税がかかる |
重要ポイント:譲渡所得税は、特例の使い方によって相続人ごとに金額が変わります。同居していた相続人と別居していた相続人では、同じ割合で分けても手取りが違うことがあります。
換価分割が向いているのは、誰もその不動産を使う予定がなく、代償金を払える人もいない場合です。
重要ポイント:相続人の1人が実家に住み続けたいなら、代償分割の方が税金も少なくなることがあります。どちらが得かは、相続税と譲渡所得税を合わせて比べます。
換価分割は、遺産分割協議で売ることと分ける割合を決めてから、登記・売却・分配・申告の順に進めます。
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重要ポイント:相続税の申告期限までに売れなくても、換価分割で分けることは決められます。申告は売る前の評価額で行うため、売却の完了を待つ必要はありません。

換価分割でかかる税金は、相続税・譲渡所得税・登録免許税・印紙税の4つと、注意を怠ると課される贈与税です。金額が大きいのは相続税と譲渡所得税です。
それぞれの税金は、かかる時期も、誰が払うかも違います。
| 税金 | いつかかるか | 誰が払うか | 金額の目安 |
|---|---|---|---|
| 相続税 | 亡くなったことを知った日の翌日から10か月以内に申告 | 財産を取得した相続人 | 評価額の合計が基礎控除を超えた部分に10〜55% |
| 譲渡所得税(所得税・住民税) | 売った年の翌年2月16日〜3月15日に申告 | 代金を受け取った相続人全員 | 利益の20.315%(長期) |
| 登録免許税 | 売る前の相続登記のとき | 登記する相続人 | 固定資産税評価額の0.4% |
| 印紙税 | 売買契約書を作るとき | 売主(相続人) | 5,000万円以下の契約なら1万円(2027年3月31日まで) |
| 贈与税 | 分け方を書類で示せないとき | 多く受け取った相続人 | 代表者から他の相続人への贈与とみられた額 |
表の見方:贈与税は、遺産分割協議書に換価分割であることと分ける割合を書いておけば、かかりません。かかるのは書類に不備があったときだけです。
相続税を払った財産でも、売って利益が出れば譲渡所得税もかかります。2つは対象も申告先も別です。
| 比較項目 | 相続税 | 譲渡所得税 |
|---|---|---|
| 何にかかるか | 相続開始時の財産の評価額 | 売った利益(売却価格−取得費−費用) |
| 申告する人 | 相続人全員(共同で1通にまとめられる) | 代金を受け取った相続人それぞれ |
| 申告先 | 亡くなった人の住所地の税務署 | 各相続人の住所地の税務署 |
| 使える主な特例 | 小規模宅地等の特例・配偶者の税額軽減 | マイホーム・空き家の3,000万円控除、取得費加算 |
重要ポイント:2つは取得費加算の特例でつながっています。相続税を払った人は、払った相続税の一部を売るときの取得費に足せるため、譲渡所得税が下がります。
売る前には、亡くなった人の名義を相続人の名義に変える相続登記が必要です。登録免許税は固定資産税評価額の0.4%です。評価額3,000万円の土地なら、登録免許税は12万円です。相続人全員の共有名義にしても、代表者1人の名義にしても税額は同じです。
印紙税は売買契約書の金額で決まり、2027年3月31日までは軽減された税額です。1,000万円超5,000万円以下なら1万円、5,000万円超1億円以下なら3万円です。
重要ポイント:業務に使っていない土地建物の相続登記で払った登記費用は、売ったときの取得費に含められます。領収書を残しておいてください。
参照元:国税庁 No.7108 不動産の譲渡、建設工事の請負に関する契約書に係る印紙税の軽減措置
代表者1人の名義で売って代金を分けても、換価のための便宜の登記で、代金を決めたとおりに分ければ贈与税はかかりません。
贈与税の問題が起きるのは、遺産分割協議書に換価分割であることや分ける割合を書いていない場合です。決めた割合と違う額を渡した場合や、何年も分けずに放置した場合も同じです。
重要ポイント:代表者が他の相続人の譲渡所得税までまとめて払うと、その税金分が贈与とみられることがあります。譲渡所得税は各自で払ってください。
参照元:国税庁 遺産の換価分割のための相続登記と贈与税(質疑応答事例)

換価分割の相続税は、評価額の合計から相続税の総額を出し、各相続人が取得した割合で按分します。計算の手順は通常の相続と同じです。
評価額4,000万円の実家と預金2,000万円を、子3人が3分の1ずつ取得する例です。相続税の総額は120万円で、1人40万円です。
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 実家の評価額(売る前) | 4,000万円 |
| 預金 | 2,000万円 |
| 課税価格の合計 | 6,000万円 |
| 基礎控除(3,000万円+600万円×3人) | 4,800万円 |
| 課税遺産総額 | 1,200万円 |
| 相続税の総額 | 120万円 |
| 1人あたり(3分の1ずつ) | 40万円 |
計算ロジック:課税遺産総額1,200万円を法定相続分で分けると1人400万円で、税率10%をかけて1人40万円、総額120万円です(相続税法16条)。これを取得割合の3分の1ずつで按分します。
重要ポイント:実家が5,000万円で売れても、相続税は評価額の4,000万円で計算します。売れた価格で計算し直す必要はありません。
配偶者が代金の2分の1、子2人が4分の1ずつを受け取る例です。配偶者の分は配偶者の税額軽減で0円になり、納める相続税は子2人の60万円だけです。
| 相続人 | 取得割合 | 按分した相続税 | 納める相続税 |
|---|---|---|---|
| 配偶者 | 2分の1 | 60万円 | 0円(配偶者の税額軽減) |
| 子A | 4分の1 | 30万円 | 30万円 |
| 子B | 4分の1 | 30万円 | 30万円 |
計算ロジック:【前提】実家の評価額4,000万円・預金2,000万円、基礎控除4,800万円。課税遺産総額1,200万円を法定相続分で分けて税率をかけると、総額は120万円です。
重要ポイント:配偶者が多く受け取るほど一次相続の税金は減りますが、配偶者が亡くなったときの二次相続で増えます。分ける割合は二次相続まで含めて決めてください。
相続税は相続開始時の財産にかかる税金なので、その後に高く売れても安く売れても、相続税の額は変わりません。評価額より高く売れた差額は、売った人の譲渡所得として所得税・住民税の対象になります。評価額より安く売れても、相続税は減りません。
重要ポイント:申告期限より前に、評価額を大きく上回る価格で売った場合は、評価額が適正かを見直すことがあります。路線価より大幅に高く売れたときは、評価の根拠を税理士に確認してください。
亡くなった人と同居していた子が実家の敷地を取得すると、小規模宅地等の特例で330㎡まで評価額が80%下がります。ただし同居の子は、申告期限まで持ち続けて住み続けることが条件です。
換価分割で申告期限より前に売ると、同居の子の持分にも特例は使えません。配偶者が取得した持分は、持ち続ける条件がないため、期限前に売っても使えます。
| 実家の敷地を取得した人 | 申告期限前に売った場合 | 申告期限後に売った場合 |
|---|---|---|
| 配偶者 | 使える | 使える |
| 同居していた子 | 使えない | 使える(期限まで住み続けた場合) |
| 別居していた子(家なき子) | 使えない | 使える(要件を満たす場合) |
| その他の別居の子 | 使えない | 使えない |
計算ロジック:【前提】土地3,200万円(330㎡以内)・建物800万円・預金2,000万円、子3人で3分の1ずつ、長男が同居。期限前に売ると総額120万円、期限後に売ると長男の持分1,066.7万円が80%減って総額34.6万円です。
重要ポイント:同居の子がいるなら、売るのは申告期限の後にするだけで相続税が下がることがあります。売却の時期を決める前に、特例が使えるかを確かめてください。
参照元:国税庁 No.4124 相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例)
小規模宅地等の特例の要件と計算は、下記の記事で解説しています。

配偶者が換価分割で代金を受け取る場合も、配偶者の税額軽減は配偶者の取得割合に応じて使えます。1億6,000万円か法定相続分の多い方まで、配偶者の相続税はかかりません。
配偶者の軽減も小規模宅地等の特例も、申告期限までに分け方が決まっていることが前提です。売る前に遺産分割協議を終えておくと、どちらも使えます。
重要ポイント:配偶者にたくさん分けると、配偶者が亡くなったときの二次相続で税金が増えます。一次と二次の合計で分け方を決めてください。
配偶者の税額軽減の計算と上限は、下記の記事で解説しています。

申告期限までに分け方が決まらなければ、いったん法定相続分で取得したものとして申告します。小規模宅地等の特例と配偶者の税額軽減は、この時点では使えません。
申告書に「申告期限後3年以内の分割見込書」を付けておけば、3年以内に分けたときに特例を使えます。分けた日の翌日から4か月以内に更正の請求をします。
重要ポイント:分け方が決まらないまま売ってしまうと、売った時点で同居の子の持分には小規模宅地等の特例が使えなくなります。分け方と売る時期は、あわせて決めてください。
参照元:国税庁 No.4208 相続財産が分割されていないときの申告
未分割申告のやり方と特例の取り戻し方は、下記の記事で解説しています。

相続税は原則として申告期限までに現金で一括で納めます。売却代金を納税にあてるなら、申告期限までに売れるかを先に見込んでおきます。
| 状況 | 対応 |
|---|---|
| 申告期限までに売れる | 代金から各自の相続税を納める |
| 申告期限までに売れない | 手元の預金で立て替えるか、延納を申請する |
| 代金から他の相続人の相続税をまとめて納める | 各自の取得額から差し引いた形で記録を残す |
重要ポイント:延納は、申告期限までに申請書と担保の書類を出す必要があります。売れるまでのつなぎとして使う場合も、期限に遅れないでください。

相続税申告書では、売る前の財産を、代金を分ける割合で各相続人が取得したものとして書きます。代表者1人の名義で登記していても同じです。
財産の明細は第11表に書きます。換価分割した財産は、同じ財産を相続人ごとの行に分け、それぞれの取得額を書きます。
| 欄 | 書く内容(評価額3,000万円の土地を長男・長女で2分の1ずつ換価分割した例) |
|---|---|
| 種類・細目・所在場所など | 通常の相続と同じように書く |
| 価額 | 3,000万円 |
| 取得した人の氏名・取得財産の価額(1行目) | 長男 1,500万円 |
| 取得した人の氏名・取得財産の価額(2行目) | 長女 1,500万円 |
| 遺産の分割状況 | 「全部分割」に印を付け、分割の日を書く |
重要ポイント:国税庁の記載要領に換価分割専用の欄はありません。共有で取得した財産と同じように、取得割合で行を分けて書くのが実務の書き方です。
代表者の名義で売った場合でも、代表者が取得して代償金を払ったと書くのは誤りです。代償分割として申告すると、事実と違う分け方になります。
| 書き方 | 相続税 | 譲渡所得税 | 問題点 |
|---|---|---|---|
| 換価分割として取得割合で書く | 各自の取得額で計算 | 代金を受け取った全員が申告 | なし |
| 代表者が取得し代償金を払ったと書く | 代償金を差し引いて計算 | 代表者だけが申告 | 事実と違い、他の相続人への贈与とみられるおそれ |
重要ポイント:申告書と遺産分割協議書の内容をそろえてください。協議書に換価分割と書いたのに申告書を代償分割の形で書くと、税務署から説明を求められます。
法定相続分で未分割申告をした後に換価分割が決まったら、決まった割合で相続税を計算し直します。税額が減る人は更正の請求、増える人は修正申告をします。
更正の請求は、分割が決まった日の翌日から4か月以内です。分割見込書を出していれば、このときに小規模宅地等の特例と配偶者の税額軽減も使えます。
重要ポイント:相続税の計算をし直しても、すでに売った不動産の譲渡所得の申告割合は変わりません。分けずに売ったときの譲渡所得は、法定相続分のまま確定することがあります。
換価分割の場合も、遺産分割協議書の写しを申告書に付けます。小規模宅地等の特例や配偶者の税額軽減を使うときは、協議書が必要です。
重要ポイント:申告書を提出した後で売れた価格が分かっても、相続税の申告をやり直す必要はありません。相続税と譲渡所得税は別の申告です。
相続税申告に必要な書類の一覧は、下記の記事で解説しています。


遺産分割協議書には、換価分割であることと、代金を分ける割合を必ず書きます。この2つがないと、代金を分けたことが贈与とみられるおそれがあります。
換価分割の協議書には、次の4つを書いておくと、手続きでも税金でも困りません。
重要ポイント:譲渡所得税の申告と納税を各自が分ける割合で行うことも書いておくと、代表者がまとめて払ってしまう失敗を防げます。
共有名義にすると、売るときに相続人全員の署名と印鑑証明書が必要になります。その代わり、代表者に任せることによるトラブルは起きにくくなります。
【記載例】
第○条 下記の不動産は、換価分割を目的として、相続人A、相続人B及び相続人Cがそれぞれ3分の1の割合で共有取得する。
第○条 相続人A、B及びCは、共同して前条の不動産を売却し、売却代金から仲介手数料その他売却に要した一切の費用を控除した残額を、前条の持分割合に従って取得する。
重要ポイント:共有名義の持分割合は、代金を分ける割合と同じにします。持分と分ける割合が違うと、その差が贈与とみられます。
代表者の名義にすると、売る手続きを代表者だけで進められます。その代わり、便宜上の登記であることと分ける割合をはっきり書きます。
【記載例】
第○条 下記の不動産は、換価分割を目的として売却するため、便宜上、相続人Aの単独名義に相続登記をする。
第○条 相続人Aは前条の不動産を速やかに売却し、売却代金から売却に要した一切の費用を控除した残額を、A・B・C各3分の1の割合で分配する。売却に係る所得税・住民税は、各相続人が同じ割合で申告し納付する。
重要ポイント:代表者の名義のまま何年も売らずにいると、代表者が取得したものとみられるおそれがあります。売る時期の目安も話し合っておいてください。
遺産分割協議書の書き方とひな形は、下記の記事で解説しています。


換価分割で売って利益が出たら、代金を受け取った相続人全員が、それぞれ自分の分の譲渡所得税を申告して払います。代表者1人の名義で売っても同じです。
税金の上では、各相続人が代金を分ける割合で不動産を取得し、それぞれ売ったものとして扱います。登記の名義は関係ありません。
| 登記の名義 | 売る手続きをする人 | 譲渡所得税を申告する人 |
|---|---|---|
| 相続人全員の共有 | 相続人全員 | 相続人全員(持分で) |
| 代表者1人の名義 | 代表者 | 代金を受け取った相続人全員(分ける割合で) |
重要ポイント:代表者が全員分の譲渡所得税をまとめて申告・納税すると、他の相続人の税金を肩代わりしたことになり、贈与とみられるおそれがあります。必ず各自で申告してください。
分け方を決めないまま売ると、原則として法定相続分の割合で申告します。後から分け方が決まっても、売った時点の持分は変わらないためです。
| 状況 | 申告する割合 |
|---|---|
| 売る前に代金を分ける割合を決めていた | 決めた割合 |
| 決めずに売り、所得税の申告期限までに分けて、全員がその割合で申告した | 分けた割合(認められる) |
| 決めずに売り、所得税の申告期限までに分けられなかった | 法定相続分 |
重要ポイント:法定相続分で申告した後に分け方が決まっても、それを理由に更正の請求や修正申告はできません。売る前に分ける割合を決めておくのが確実です。
参照元:国税庁 未分割遺産を換価したことによる譲渡所得の申告とその後分割が確定したことによる更正の請求、修正申告等(質疑応答事例)
譲渡所得税の確定申告は、売った年の翌年2月16日から3月15日までです。各相続人が自分の住所地の税務署に出します。
重要ポイント:売買契約書や領収書は代表者の手元に1通しかないことが多いため、写しを全員に配ってください。売った代金は全体の額を書き、自分の割合を掛けて計算します。
代表者が売る場合は、立て替えた費用を差し引いてから、残りを決めた割合で分けます。分ける前に、誰がいくら立て替えたかを一覧にしておきます。
| 項目 | 扱い |
|---|---|
| 仲介手数料・印紙税・測量費 | 売却代金から差し引き、各自の譲渡費用として割合で分ける |
| 相続登記の費用 | 割合で負担し、各自の取得費に加える(業務に使っていない土地建物の場合) |
| 固定資産税・管理費 | 譲渡費用にはならない。協議書で負担の割合を決めておく |
| 代金の振込 | 協議書の割合どおりに、各相続人の口座へ振り込む |
重要ポイント:代金を受け取る専用の口座を作り、入出金の記録を残しておくと、分け方の説明や確定申告の計算が楽になります。
譲渡所得の内訳書には、不動産全体の金額と、自分の持分の割合を書きます。共有者の欄には、ほかの相続人の氏名と持分も書きます。
| 欄 | 書き方 |
|---|---|
| 譲渡(売却)された不動産 | 所在地・面積・用途。共有者の氏名と持分も書く |
| 譲渡価額 | 全体の売却代金×自分の割合 |
| 取得費 | 亡くなった人の購入価格×自分の割合。相続登記の費用も加える |
| 譲渡費用 | 仲介手数料などの合計×自分の割合 |
| 取得の日 | 亡くなった人が買った日(相続した日ではない) |
重要ポイント:取得の日を相続した日にすると、短期譲渡と誤って税率が約2倍になります。登記簿で亡くなった人が買った日を確かめてください。
参照元:国税庁 No.3202 譲渡所得の計算のしかた(分離課税)
利益が出たのに申告しないと、申告しなかった相続人に無申告加算税と延滞税がかかります。代表者が売ったので自分は関係ないと思い込み、申告しないケースがあります。
| ペナルティ | 税率 |
|---|---|
| 無申告加算税(納める税額50万円以下の部分) | 15% |
| 無申告加算税(50万円超300万円以下の部分) | 20% |
| 無申告加算税(300万円超の部分) | 30% |
| 延滞税(納期限の翌日から2か月以内) | 年2.8%(2026年) |
| 延滞税(2か月を超える期間) | 年9.1%(2026年) |
重要ポイント:税務署の調査の通知を受ける前に自分から申告すれば、無申告加算税は5%に下がります。不動産の売却は登記で税務署に分かるため、気づいたらすぐに申告してください。
上場株式を売って分ける場合も、代金を受け取った相続人がそれぞれ譲渡所得を申告するのが原則です。取得費は亡くなった人の取得価額を引き継ぎます。
代表者の源泉徴収ありの特定口座に移して売ると、税金が代表者の口座でまとめて差し引かれます。他の相続人に分けたときの申告のしかたは、売る前に税理士に確認してください。
重要ポイント:取得価額が分からないと売却価額の5%しか取得費にできません。証券会社の取引報告書や顧客勘定元帳で確かめてください。
売れた価格が取得費と費用の合計を下回ると、譲渡所得税はかからず、確定申告も原則として不要です。相続した不動産を売った損失は、給与や年金などほかの所得と相殺できません。同じ年に別の土地や建物を売って利益が出ていれば、その利益とは相殺できます。
重要ポイント:取得費と費用は全員が同じ割合で分けるので、通常は全員が利益か損失のどちらかにそろいます。

譲渡所得は、売れた価格から取得費と売るための費用を引いた利益を、代金を分ける割合で分けて計算します。
相続した不動産の取得費と取得日は、亡くなった人が買ったときのものをそのまま引き継ぎます。相続したときの時価にはなりません。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| ①売れた価格 | 全体の売却価格×自分の割合 |
| ②取得費 | 亡くなった人の購入価格(建物は減価償却後)×自分の割合。分からなければ売却価格の5% |
| ③譲渡費用 | 仲介手数料・測量費・売るための解体費などを、自分の割合で分ける |
| 譲渡所得 | ①−②−③(特例があればさらに控除) |
| 税率 | 長期(亡くなった人が買ってから売った年の1月1日まで5年超)20.315%、短期39.63% |
重要ポイント:業務に使っていない土地建物なら、相続登記の登録免許税や司法書士報酬など、相続人が払った登記費用も取得費に加えられます。
参照元:国税庁 No.3270 相続や贈与によって取得した土地・建物の取得費と取得の時期
建物は年数とともに価値が減るため、亡くなった人が買った価格から減価償却費を引いた額が取得費です。引いた後の額を、各自の割合で分けます。
| 建物の構造 | 計算に使う耐用年数 | 償却率 |
|---|---|---|
| 木造 | 33年 | 0.031 |
| 軽量鉄骨(骨格材の厚さ3mm以下) | 28年 | 0.036 |
| 鉄筋コンクリート | 70年 | 0.015 |
計算ロジック:減価償却費=建物の購入価格×0.9×償却率×経過年数です。事業に使っていない建物は、法定耐用年数を1.5倍にした年数で計算します。購入価格の95%が上限です。
親が買った価格が分からず、概算取得費(5%)で計算した場合の1人あたりの税額です。5,000万円で売って2人で分けると、1人約465万円の税金になります。
| 売却価格 | 2人で分けた場合の税額 | 2人の場合の手取り | 3人で分けた場合の税額 | 3人の場合の手取り |
|---|---|---|---|---|
| 3,000万円 | 約279万円 | 約1,168万円 | 約186万円 | 約779万円 |
| 5,000万円 | 約465万円 | 約1,949万円 | 約310万円 | 約1,299万円 |
| 8,000万円 | 約745万円 | 約3,120万円 | 約496万円 | 約2,080万円 |
| 1億円 | 約931万円 | 約3,901万円 | 約621万円 | 約2,601万円 |
表の見方:手取りは、売却価格から仲介手数料と税額を引いて人数で割った1人あたりの額です。相続税は含んでいません。
計算ロジック:【前提】長期譲渡、取得費=売却価格×5%、仲介手数料=(売却価格×3%+6万円)×1.1、特例なし。【計算式】5,000万円の場合、(5,000万円−250万円−171.6万円)÷2人=2,289.2万円、×20.315%で約465万円。
重要ポイント:親が買った価格が分かると、税額は大きく下がります。売買契約書や当時の通帳、住宅ローンの書類を探してください。
換価分割に限らず、相続した不動産を売ったときの税額は、取得費と特例の有無で大きく変わります。
売却価格別の税額や、取得費が分からないときの調べ方は、下記の記事で解説しています。


売却の特例は、不動産全体ではなく、相続人ごとに使えるかを判定します。同じ割合で分けても、手取りが相続人によって違うことがあります。
換価分割で使える主な特例は3つです。誰が使えるかは、その人が住んでいたか、相続税を払ったかで決まります。
| 特例 | 使える相続人 | 効果 | 期限 |
|---|---|---|---|
| マイホームの3,000万円控除 | その家に自分が住んでいた相続人だけ | 利益から最大3,000万円を引く | 住まなくなった日から3年を経過する日の属する年の12月31日まで |
| 空き家の3,000万円控除 | 家と敷地を相続した各相続人(同居の家族がいなかった家に限る) | 利益から1人最大3,000万円(相続した人が3人以上なら2,000万円) | 相続開始から3年を経過する日の属する年の12月31日まで(制度は2027年12月31日の売却まで) |
| 取得費加算 | 相続税を払った各相続人 | 自分が払った相続税の一部を取得費に加える | 相続税の申告期限の翌日以後3年を経過する日まで |
重要ポイント:空き家の控除は、亡くなった人と同居していた家族がいた家には使えません。同居の家族がいた家では、その家族がマイホームの控除を使い、他の相続人は取得費加算を検討します。
参照元:国税庁 No.3306 被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例
実家を4,000万円で売って兄弟で2分の1ずつ分け、取得費と費用の合計が1,000万円の例です。同居していた長男は0円、別居の次男は約305万円の税金です。
| 相続人 | 利益 | 使える特例 | 税額 |
|---|---|---|---|
| 長男(亡くなった親と同居) | 1,500万円 | マイホームの3,000万円控除 | 0円 |
| 次男(別居) | 1,500万円 | なし(取得費加算は相続税を払っていれば使える) | 約305万円 |
計算ロジック:(4,000万円−1,000万円)÷2人=1人1,500万円。長男は3,000万円控除で0円、次男は1,500万円×20.315%=約305万円です。
重要ポイント:同じ1,500万円の利益でも、手取りに約305万円の差がつきます。公平に分けたつもりでも不満が残ることがあるため、分ける割合を決める前に各自の税額を試算してください。
空き家の控除は、相続人それぞれが自分の持分について使えます。ただし売却代金1億円以下の判定は、ほかの相続人が売った分も合わせて行います。
2024年以後の売却で、家と敷地を相続した人が3人以上いると、控除は1人2,000万円です。2人以下なら1人3,000万円です。
重要ポイント:各相続人が自分で市区町村に「被相続人居住用家屋等確認書」を申請します。売る前から準備を始めてください。
空き家の控除の要件と相続税は、下記の記事で解説しています。

取得費加算は、その相続人が払った相続税を、自分が取得した財産の割合で取得費に足す特例です。相続税を払っていない相続人は使えません。
| 次男の項目 | 金額 |
|---|---|
| 払った相続税 | 90万円 |
| 実家の評価額(次男の持分)÷次男の課税価格 | 2,250万円÷3,000万円 |
| 取得費に加える額 | 67.5万円 |
| 譲渡所得税(加算なし→加算あり) | 約558万円→約545万円 |
計算ロジック:加算額=その人の相続税額×売った財産の相続税評価額(自分の持分)÷(その人の課税価格+債務控除額)です。
重要ポイント:空き家の控除と取得費加算は、同じ持分にはどちらか一方しか使えません。マイホームの控除とは併用できます。
参照元:国税庁 No.3267 相続財産を譲渡した場合の取得費の特例
取得費加算の計算方法は、下記の記事で解説しています。


換価分割・代償分割・共有のどれを選ぶかで、相続税と譲渡所得税の合計が変わります。同居していた相続人がいるときは、とくに差が出ます。
評価額4,500万円の実家(土地3,600万円・建物900万円)と預金1,500万円を、子2人で同じ額ずつ分ける例です。代償分割にすると、期限前に換価分割するより税金が約218万円少なくなります。
| 分け方 | 相続税 | 譲渡所得税 | 税金の合計 |
|---|---|---|---|
| A 換価分割・申告期限前に売る | 180万円 | 約545万円(次男) | 約725万円 |
| B 換価分割・申告期限後に売る | 36万円 | 約555万円(次男) | 約591万円 |
| C 代償分割(長男が取得し、期限後に売る) | 0円 | 約507万円(長男) | 約507万円 |
表の見方:Bは長男の持分に小規模宅地等の特例が使えるため、相続税が下がります。Cは長男が土地全体に特例を使い、さらにマイホームの3,000万円控除も全体に使えるため、合計が最も少なくなります。
計算ロジック:【前提】長男が同居し申告期限まで住み続ける、土地は330㎡以内、取得費は概算5%、仲介手数料204.6万円、長期譲渡。Cは長男が預金1,500万円を次男に渡し、代償金1,500万円を払う。次男の譲渡所得税は取得費加算後の額。
亡くなった人が一人で住んでいた家なら、換価分割にすると空き家の控除を相続人の人数分使えます。代償分割で1人が取得すると、控除は1人分だけです。
| 分け方 | 空き家の控除 | 譲渡所得税 |
|---|---|---|
| 換価分割(子2人で2分の1ずつ) | 1人3,000万円×2人 | 0円 |
| 代償分割(子1人が取得して売る) | 1人3,000万円 | 約507万円 |
計算ロジック:【前提】売却6,000万円、取得費は概算5%、仲介手数料204.6万円、1981年5月31日以前の建物を取り壊して売る。
計算式:換価分割は1人2,747.7万円の利益が控除で0円です。代償分割は5,495.4万円から3,000万円を引いた2,495.4万円に20.315%をかけます。
重要ポイント:家と敷地を相続した人が3人以上になると、控除は1人2,000万円です。また売却代金1億円以下などの要件をすべて満たす必要があります。
代償分割が有利になるのは、同居していた相続人が取得し、申告期限まで住み続けてから売る場合です。小規模宅地等の特例とマイホームの控除を1人で全体に使えるためです。
重要ポイント:上の例でCの長男の手取りは、代償金を払っても次男より多くなります。手取りをそろえるには代償金を増やす必要があり、その分を話し合いで決めます。
代償金を不動産の時価をもとに決めると、相続税の計算では、代償金を評価額の割合に縮めて差し引きます。時価のまま差し引くと、取得した人の課税価格が小さくなりすぎるためです。
| 項目 | 金額(国税庁の例) |
|---|---|
| 土地の評価額/代償分割時の時価 | 4,000万円/5,000万円 |
| 支払った代償金 | 2,000万円 |
| 相続税で使う代償金の額 | 2,000万円×4,000万円÷5,000万円=1,600万円 |
| 取得した人の課税価格 | 4,000万円−1,600万円=2,400万円 |
| 受け取った人の課税価格 | 1,600万円 |
重要ポイント:この調整は、代償金を時価で決めたことが協議書で分かる場合に行います。代償分割を選ぶときは、代償金の決め方も協議書に書いてください。
参照元:国税庁 No.4173 代償分割が行われた場合の相続税の課税価格の計算
換価分割で利益を受け取ると、翌年の国民健康保険料や後期高齢者医療の保険料が上がることがあります。代償金を受け取っただけの相続人には、所得税も保険料の上乗せもかかりません。
売った利益は、その年の合計所得金額に入ります。2026年分は合計所得金額が62万円を超えると、税金の扶養から外れます。
重要ポイント:自営業の相続人や高齢の相続人がいる場合は、保険料の増加も含めて分け方を比べてください。
遺産の相続が年収や扶養に与える影響は、下記の記事で解説しています。

売る時期は、小規模宅地等の特例・空き家の控除・取得費加算の3つの期限から逆算して決めます。2026年3月15日に亡くなった場合の例です。
| 期限 | 内容 | 2026年3月15日に亡くなった場合 |
|---|---|---|
| 相続税の申告期限 | 亡くなったことを知った日の翌日から10か月 | 2027年1月15日 |
| 同居の子が小規模宅地等の特例を使う | 申告期限まで持ち続けて住み続ける | 2027年1月15日より後に売る |
| 空き家の3,000万円控除 | 相続開始から3年を経過する日の属する年の12月31日(制度は2027年12月31日まで) | 2027年12月31日までに売る |
| 取得費加算 | 相続税の申告期限の翌日以後3年を経過する日 | 2030年1月15日までに売る |
重要ポイント:同居の子がいて空き家の控除を使わない家庭なら、申告期限の後から取得費加算の期限までが、売るのに有利な期間です。

換価分割は、分け方と売る時期で相続税も譲渡所得税も変わります。売る前に、税理士に分け方ごとの税額を試算してもらってください。
換価分割では、相続税と譲渡所得税を合わせて見られる税理士に頼むと、分け方の選び間違いを防げます。
【相続税の対応実績がある税理士に依頼する理由】
たとえば子2人・同居の長男がいて、評価額4,500万円の実家を6,000万円で売る家庭があります。A税理士は申告期限前に換価分割で売る案を示し、税金の合計は約725万円でした。
B税理士は長男が取得して期限後に売る代償分割を示し、合計は約507万円でした。分け方の提案だけで約218万円の差がつきます。
複数の税理士から見積りを取ると、次の3つの判定ポイントで実務力を比較できます。
判定ポイント1:分け方の比較。換価分割と代償分割の税額を並べて示すか → 並べて示す税理士の方が、遺産分割まで見通した経験が豊富と判定できます。
判定ポイント2:売る時期の提案。小規模宅地等の特例を使うために売る時期を助言するか → 助言できる税理士の方が、換価分割の申告に慣れていると判定できます。
判定ポイント3:確定申告まで対応するか。各相続人の譲渡所得税の申告まで見積りに入っているか → 入っている税理士の方が、相続後の実務まで任せられると判定できます。
換価分割を自分たちだけで進めると、売った後では取り戻せない損が出ることがあります。
【相談しないまま進めた場合に起きること】
どれも売る前と遺産分割の前に相談していれば避けられるものです。売る時期と分け方は、同時に決めてください。
見積りを集めて比べる流れは4段階です。フォームの記入は5分程度で終わります。
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ありません。相続税は相続開始時の評価額で計算し、売れた価格は使いません。評価額より高く売れた差額は、売った相続人の譲渡所得として所得税・住民税の対象になります。
いいえ。代金を受け取った相続人全員が、分ける割合でそれぞれ申告して払います。代表者が全員分をまとめて払うと、他の相続人の税金を肩代わりしたことになり、贈与とみられるおそれがあります。
遺産分割協議書に換価分割であることと分ける割合を書き、そのとおりに代金を分ければかかりません。協議書と違う額を渡したときや、分けずに放置したときは、贈与とみられることがあります。
書きません。売る前の不動産を、代金を分ける割合で各相続人が取得したものとして、第11表に評価額を割合で分けて書きます。代表者の名義で登記していても同じです。
同居していた相続人が取得して申告期限まで住み続けてから売る代償分割は、小規模宅地等の特例とマイホームの控除を全体に使えるため、税金が少なくなることがあります。誰も住んでいなかった家なら、空き家の控除を各自が使える換価分割が有利なこともあります。
換価分割の相続税申告と譲渡所得について、重要なポイントを整理します。
今すぐ取るべき行動
※本記事は2026年10月時点の法令・情報に基づいて作成しています。税制改正により、内容が変更となる可能性があります。最新の制度については国税庁の公式サイトや相続税の対応実績がある税理士にご確認ください。