


「相続税対策はしなければと思っているが、何から手をつければよいかわからない」という方は多いでしょう。生前対策は種類が多く、いつ・何を・どの順番でやるべきかが複雑なため、後回しにしてしまいがちです。
本記事では、相続税の生前対策を分野別チェックリスト・年代別優先順位・財産種類別の整理という3つの軸で体系化しました。
2024年の贈与税改正(7年加算ルール)も反映した最新版のチェックリストをもとに、今日から取り組める対策を具体的に解説します。
▼ この記事の3行まとめ

相続税の生前対策とは、被相続人(将来財産を渡す側)が生きているうちに行う、相続税負担の軽減や相続トラブルの防止のための行動全般を指します。
対策の種類は「節税」「納税資金の確保」「争続防止」の3つに大別されます。
ここでは、なぜ生前に対策をする必要があるのか、いつ始めるべきかを整理します。
相続税は、相続が発生した時点の財産の評価額をもとに計算されます。
亡くなった後に遺族側ができる対策は「特例の選択」「申告内容の見直し」など限られており、財産そのものを減らす・移す・評価を下げるといった本質的な節税は生前にしかできません。
生前対策が必要な主な理由を整理します。
| 理由 | 具体的な内容 |
|---|---|
| 財産を減らす | 生前贈与で毎年少しずつ財産を移転し、相続時の課税対象を減らす |
| 評価額を下げる | 現金を不動産・生命保険に換えることで相続税評価額を圧縮する |
| 非課税枠を活用する | 生命保険の非課税枠(500万円×法定相続人数)を使い切る |
| 納税資金を確保する | 相続税の納付は10ヶ月以内に現金一括が原則。事前に準備する |
| 争続を防ぐ | 遺言書・家族信託で財産の分け方を明確にしておく |
生前贈与であれば、毎年110万円を10人の子・孫に贈ると年間1,100万円・10年で1億1,000万円の資産移転が可能です。
これを相続発生後に行うことは一切できないため、対策は早ければ早いほど効果が大きくなります。
生前対策には「節税」「納税資金の確保」「争続防止」の3つの目的があります。節税だけを追求した結果、相続税の納税資金が不足して相続人が困るケースや、節税のために不動産を購入したが相続人間で分割できず争続になるケースも実際に起きています。3つの目的をバランスよく進めることが、理想的な生前対策の姿です。
生前対策を後回しにすることの最大のリスクは「認知症」です。
認知症と診断されると、法的な判断能力がないとみなされる場合があり、生前贈与・遺言書の作成・家族信託の設定など多くの対策が実施できなくなります。
認知症発症の前後で対策の可否がどう変わるかを整理します。
| 対策の種類 | 認知症発症前 | 認知症発症後 |
|---|---|---|
| 生前贈与(暦年・精算課税) | ○ 可能 | × 原則不可 |
| 遺言書の作成・変更 | ○ 可能 | × 原則不可 |
| 家族信託の設定 | ○ 可能 | × 不可 |
| 生命保険の契約・受取人変更 | ○ 可能 | △ 保険会社の判断による |
| 不動産の売却・組み換え | ○ 可能 | × 成年後見人が必要 |
| 養子縁組 | ○ 可能 | × 原則不可 |
65歳以上の認知症有病率は約15〜20%とされており、70代後半〜80代になるとさらに高まります。
「いつか対策しよう」と思っているうちに認知症が発症し、すべての手が打てなくなるケースが実際に多く発生しています。
少なくとも70代に入ったタイミングで、税理士への相談と優先度の高い対策の着手を強くお勧めします。
相続税の対策を「生前」と「相続発生後」に分けて整理すると、対策の幅と節税効果に大きな差があります。
| 区分 | 生前対策(相続前) | 相続後対策(相続発生後) |
|---|---|---|
| 財産の移転 | ○ 生前贈与で段階的に移転可能 | × 基本的に不可 |
| 評価額の圧縮 | ○ 不動産購入・保険活用で圧縮可能 | △ 申告時の評価方法選択のみ |
| 特例の選択 | ○ 事前に要件を整えておける | ○ 申告時に選択(要件充足が前提) |
| 争続防止 | ○ 遺言・家族信託で明確化 | △ 遺産分割協議で解決を図る |
| 節税効果の大きさ | 大きい(10〜数千万円規模) | 限定的(数十〜数百万円規模) |
相続発生後は、遺産分割の方法・特例の選択・申告内容の見直しなど限られた範囲での対策になります。
節税効果の大きな対策のほとんどは生前にしか実施できないという事実を、まず認識することが重要です。

生前対策を始める前に、まず「自分に相続税がかかるかどうか」と「どの対策が優先されるか」を把握することが重要です。
ここでは3つの切り口で現状を確認します。
相続税がかかるかどうかは「基礎控除」と「財産総額」の比較で判断できます。
STEP1|法定相続人の数を確認する
基礎控除額の計算式は「3,000万円+600万円×法定相続人の数」です。
STEP2|財産の総額を概算する
現金・預金・不動産・株式・生命保険金・その他の財産をすべて合計します。
不動産は路線価や固定資産税評価額で概算できます。
STEP3|財産総額と基礎控除を比較する
| 比較結果 | 相続税の課否 | 生前対策の必要性 |
|---|---|---|
| 財産総額 ≦ 基礎控除 | 相続税なし | 節税対策より争続防止・手続き整備を優先 |
| 財産総額が基礎控除を100〜500万円超 | 相続税あり(少額) | 生命保険の非課税枠活用・特例の要件整備を優先 |
| 財産総額が基礎控除を500万円以上超 | 相続税あり(中〜高額) | 生前贈与・不動産活用・保険など複合的な対策が必要 |
| 財産総額が1億円超 | 相続税あり(高額) | 早急に相続税専門の税理士に相談することを推奨 |
相続税がかからないと思っていた方でも、不動産の評価額を正しく計算すると基礎控除を超えるケースは珍しくありません。
まずは大まかな財産の棚卸しを行い、課税の有無を確認することが出発点です。
具体的な試算例で確認しましょう。
| ケース | 財産総額 | 法定相続人 | 基礎控除 | 課税対象額 | 概算相続税 |
|---|---|---|---|---|---|
| ケース① | 5,000万円(自宅+預金) | 子2人 | 4,200万円 | 800万円 | 約80万円 |
| ケース② | 1億円(自宅+金融資産) | 配偶者+子2人 | 4,800万円 | 5,200万円 | 約770万円 |
| ケース③ | 3億円(不動産複数+自社株) | 配偶者+子3人 | 5,400万円 | 2億4,600万円 | 約5,460万円 |
ケース①のように「自宅と少しの預金」という比較的シンプルな相続でも、80万円の相続税が発生することがあります。
ケース③のように財産が多い場合は5,000万円超の相続税が発生するため、早期の対策設計が数千万円規模の節税効果をもたらします。
生前対策の必要性と優先度は、相続財産の規模によって異なります。
自分の財産規模に近いゾーンを確認し、対策の緊急度を把握してください。
| 財産総額(概算) | 緊急度 | 優先して取り組む対策 |
|---|---|---|
| 5,000万円未満 | 低〜中 | 遺言書の作成・生命保険の受取人確認・基礎控除の把握 |
| 5,000万〜1億円 | 中 | 生命保険の非課税枠活用・暦年贈与の開始・小規模宅地特例の要件確認 |
| 1億〜3億円 | 高 | 暦年贈与の計画的実施・不動産の評価圧縮・相続時精算課税の検討 |
| 3億〜5億円 | 非常に高い | 生前贈与の複数年計画・不動産の組み換え・家族信託・養子縁組の検討 |
| 5億円超 | 最優先 | 法人活用・持株会社設立・複合的な節税戦略の設計が必要 |
財産が多いほど対策の効果も大きくなりますが、財産規模が大きいほど対策設計が複雑になるため、専門家への早期相談が重要です。
生前対策の方向性は、家族構成によっても大きく異なります。
| 家族構成 | 特有の課題 | 優先すべき対策 |
|---|---|---|
| 配偶者あり・子あり(標準的な家庭) | 一次・二次相続の合計税額を最小化する必要がある | 二次相続を見据えた遺産分割設計・子への贈与開始 |
| 配偶者あり・子なし | 被相続人の兄弟姉妹が相続人になり2割加算が発生 | 配偶者への財産集中を避ける遺言・養子縁組の検討 |
| おひとりさま(独身・子なし) | 相続人の範囲が複雑・争続リスクが高い | 遺言書の作成・任意後見契約・死後事務委任の準備 |
| 子が複数・不動産あり | 不動産の分割が難しく争続の原因になりやすい | 遺言書作成・代償分割の資金準備・家族信託の活用 |
| 事業オーナー・自社株あり | 事業承継と相続税の両立が必要 | 事業承継税制の活用・自社株評価引き下げ・後継者への株式移転 |
自分の家族構成に合った対策の方向性を把握してから、個別の手段を選択することが重要です。
一次相続(親の一方が先に亡くなる相続)において、配偶者はどれだけ財産を取得してもよいのか悩む方は多いでしょう。
配偶者の税額軽減は「1億6,000万円または法定相続分のどちらか大きい額まで非課税」という強力な制度ですが、使い過ぎると二次相続(配偶者が亡くなるときの相続)で子への課税が急増することがあります。
一次相続で配偶者に集中した場合と子に分散した場合の二次相続までの合計税額を比較します。
| 分割パターン | 一次相続税 | 二次相続税(推計) | 合計税額 |
|---|---|---|---|
| 配偶者が全財産(2億円)を取得 | 0円(配偶者控除) | 約3,340万円 | 約3,340万円 |
| 配偶者1億円・子1人1億円で分割 | 約1,220万円 | 約770万円 | 約1,990万円 |
この例では、配偶者に集中させると一次相続税はゼロになりますが、二次相続まで含めた合計税額は1,350万円も多くなります。
一次・二次の合計税額を最小化するには、配偶者の年齢・残余財産・二次相続時の推計財産額を考慮した分割設計が必要です。
この設計は個別事情によって答えが異なるため、相続税専門の税理士とシミュレーションを行った上で遺産分割方法を決定することをお勧めします。

生前対策を「贈与」「保険」「不動産」「遺言・信託」「特例・控除」の5分野に分けて、具体的なチェック項目を整理します。
未着手の項目が多いほど、早急に税理士への相談を検討することをお勧めします。
贈与は生前対策の中で最も即効性が高く、少額から始められます。
ただし、2024年の税制改正で7年加算ルールが変更されたため、計画の見直しが必要です。
暦年贈与を子2人・孫4人の合計6人に年間110万円ずつ行うと、年間660万円・10年で6,600万円の資産移転が可能です。
贈与は始めてから効果が出るまでに時間がかかるため、少しでも早く開始することが重要です。
なお、贈与を行う際は「名義預金」にならないよう注意が必要です。贈与契約書の作成・受取人名義の口座への振込・受取人が自分で管理できる状態の維持の3点が最低限の要件です。
定期贈与(毎年同額・同時期)とみなされないよう、金額や時期を意図的に変えることも重要な実務上のポイントです。
生命保険の死亡保険金には「500万円×法定相続人の数」の非課税枠があり、現金をそのまま相続させるより評価額を圧縮できます。
たとえば、法定相続人が3人の場合、現金1,500万円をそのまま相続させると評価額1,500万円がそのまま課税対象になります。
一方、一時払い終身保険に換えて被相続人が亡くなった場合は、同じ1,500万円が非課税で相続でき、課税対象から完全に外れます。
この差額1,500万円が課税対象から外れることで、税率が20%のケースでは300万円の相続税が節税できる計算になります。
また、生命保険は受取人固有の財産のため、遺産分割協議を経ることなく受取人が直接受け取れます。納税資金として確実に使えるという実務上のメリットも大きい対策です。
生命保険の活用で注意すべき点は「保険料の払い込みに使った現金の出所」です。被相続人の口座から保険料を支払い、被相続人が保険契約者・被保険者になっているケースが最も節税効果の高い形態です。契約形態によって課税関係(相続税・贈与税・所得税)が変わるため、設計前に税理士への確認をお勧めします。
現金をそのまま持つより不動産に換えると、路線価・固定資産税評価額で評価されるため相続税評価額が実勢価格より低くなります。さらに賃貸用不動産にすることで追加の評価減が適用されます。
たとえば路線価1億円の土地に賃貸マンションを建設した場合、土地は「貸家建付地」として1億円 × (1 – 借地権割合60% × 借家権割合30% × 賃貸割合100%) ≒ 8,200万円に評価が下がります。
さらに建物の評価は建築費の約50〜60%で評価されるため、合計で大きな評価減効果が生まれます。
具体的に試算します。建築費1億円で賃貸マンションを建設した場合、建物の相続税評価額は固定資産税評価額(建築費の約60%)× (1 – 借家権割合30%) ≒ 約4,200万円になります。土地と建物を合わせると「8,200万円 + 4,200万円 = 1億2,400万円」の評価になり、投資総額(土地1億円 + 建築費1億円 = 2億円)に対して約38%の評価圧縮が実現します。
ただし、不動産投資には空室リスク・建物維持費・ローン返済など事業上のリスクも伴います。相続税対策を優先するあまり、収益性の低い不動産に多額の借入をするケースは避けるべきです。節税効果だけでなく、不動産としての収益性も必ず検討してください。
節税対策だけでなく、相続人間の争いを防ぐための準備も生前対策の重要な柱です。
遺言書のない相続では、相続人全員の合意が必要な遺産分割協議が必要になります。
特に不動産が含まれる場合や相続人の関係が複雑な場合は、遺言書がないことで協議が長引き、最悪の場合は調停・裁判に発展することがあります。
家庭裁判所の統計によると、遺産分割の調停・審判事件の件数は年間1万件以上にのぼります。その多くは遺言書がないことが原因です。遺言書を作成しておくだけで、相続人の手続き負担と争続リスクを大幅に軽減できます。
公正証書遺言の作成費用は財産総額によりますが、数万円〜数十万円程度です。この費用と争続回避の価値を比べると、作成しない理由はほとんどないといえます。作成後も状況の変化に応じて定期的に内容を見直すことが大切です。
相続税の申告時に活用できる特例・控除は、事前に要件を整えておくことで確実に適用できます。
特例のうち最も節税効果が大きい「小規模宅地等の特例」は、要件を満たしていない状態で相続が発生すると適用できないため、生前の要件整備が不可欠です。
たとえば同居していないと居住用の特例が使えないケースが多いため、親の住まいの確認と相続発生前の対応が重要になります。
特定居住用宅地等の特例(330㎡・80%減額)を適用できるかどうかで、相続税額に数百万〜数千万円の差が出ることがあります。たとえば路線価1億円の自宅土地に80%の減額が適用されると、評価額が1億円から2,000万円に下がります。税率30%のケースでは2,400万円の節税効果になるため、要件の充足確認は最優先の生前対策のひとつです。

2024年(令和6年)から相続税・贈与税の制度が大きく変わりました。
旧ルールで組んだ生前贈与の計画は見直しが必要です。ここでは改正の要点と対応すべきチェックポイントを整理します。
2024年(令和6年)1月1日以降の贈与から、相続開始前の生前贈与の持ち戻し期間が「3年」から「7年」に延長されました。
つまり、亡くなる前7年間に行った暦年贈与は、相続税の課税対象に持ち戻されることになります。
| 項目 | 旧ルール(〜2023年) | 新ルール(2024年〜) |
|---|---|---|
| 持ち戻し期間 | 3年間 | 7年間(段階的に延長) |
| 延長分の緩和措置 | なし | 延長された4年間(4〜7年前)の贈与は合計100万円まで非課税 |
| 影響が大きいケース | 死亡直前の贈与が主な問題 | 死亡前7年間の贈与すべてが対象に |
改正後は7年以上前から贈与を開始することが、節税効果を確保する上での基本戦略になります。
「もう少し後で始めよう」と思っている方は、開始が遅れるほど節税効果が減少することを認識してください。
2024年改正では相続時精算課税制度にも大きな変更がありました。
従来は相続時精算課税を選択すると暦年贈与に戻れず、すべての贈与が相続税の課税対象になるデメリットがありました。
改正後は相続時精算課税の基礎控除として年間110万円の非課税枠が新設され、この110万円以内の贈与は相続税の課税対象にもなりません。
改正後の相続時精算課税の活用例を整理します。
| 活用パターン | 内容 | 節税効果 |
|---|---|---|
| 毎年110万円を非課税贈与 | 精算課税の基礎控除110万円を使い、相続・贈与税なしで資産移転 | 年110万円×年数分が課税対象外 |
| 2,500万円の特別控除を使った大型贈与 | 住宅購入資金など大型の一時的贈与に活用(相続時に精算) | 贈与時の贈与税ゼロ・現金の早期移転 |
| 収益不動産の早期移転 | 将来値上がりが見込まれる不動産を早期に子へ移転 | 値上がり分が相続財産から外れる |
改正によって相続時精算課税の活用場面が広がったため、以前「デメリットが大きい」と判断して選択しなかった方も、改めて検討する価値があります。
7年加算ルールの変更を受けて、生前贈与で避けるべきポイントも変わっています。
改正後に特に注意すべき点は以下の通りです。
改正後の贈与計画は、専門家のアドバイスのもとで設計・記録管理を行うことが安全です。
特に「2023年以前から暦年贈与を行っていた方」は、旧ルール(3年加算)を前提に組んだ計画を2024年以降のルール(7年加算)に合わせて見直す必要があります。たとえば「70歳になったら贈与を開始しよう」と考えていた方は、相続発生が77歳以前であれば7年以内の贈与はすべて持ち戻しになるため、計画の前倒しを検討すべき状況です。また、相続時精算課税に新設された年110万円の基礎控除は、2024年1月以降の贈与から適用されます。精算課税を選択済みの方は、この控除をすでに活用できている状態です。未選択の方は、控除の活用と精算課税のデメリット(申告義務・相続時の精算)を天秤にかけた上で選択を検討してください。

生前対策は「いつ始めても同じ」ではなく、年代によって取り組むべき対策の優先順位が異なります。
自分の年代に合ったアクションを確認してください。
50代はまだ時間的余裕があるため、長期間にわたって効果が大きい対策から着手できます。
最優先で取り組むべき3つの対策は以下の通りです。
50代で対策を始めると、70代で相続が発生した場合に最大20年分の贈与効果が積み上がります。
この20年間の差が、相続税額に数千万円の差をもたらす可能性があります。
50代でよくある失敗は「財産がまだ少ないから対策は不要」と思い込むことです。50代は現役世代であり、退職金・相続(自身の親からの相続)・不動産の値上がりなどで60〜70代に財産が急増することが多くあります。その時点から対策を始めても、贈与の効果が十分に積み上がる前に相続が発生するリスクがあります。「将来の財産規模を見越した対策の着手」が50代に求められる最重要行動です。
60代は体力・判断力ともに充実しており、複雑な対策にも対応できる「ゴールデンタイム」です。
この時期に取り組む対策の量と質が、最終的な相続税額を大きく左右します。
60代で取り組むべき対策の優先順位は以下の通りです。
| 優先度 | 対策 | 理由 |
|---|---|---|
| 最優先 | 遺言書の作成(公正証書) | 70代以降は認知症リスクが高まり、内容の変更が難しくなる |
| 高 | 生前贈与の本格化(複数人・高額) | 7年加算の影響を受けない贈与の蓄積期間として最適 |
| 高 | 不動産の活用・組み換え検討 | 賃貸物件の建設・取得には体力と判断力が必要 |
| 中 | 家族信託の設定 | 70代に入る前に設定することで、認知症後の財産管理を円滑にする |
| 中 | 相続税専門の税理士との顧問契約 | 長期的な対策を継続的に見直すためのパートナーを確保する |
60代のうちに遺言書・家族信託・生前贈与の3点セットを整えておくことが、最も効果的な生前対策の形といえます。
60代でよくある失敗は「まだ時間があると思って先送りにする」ことです。60代後半になると70代が目前に迫り、不動産の活用・組み換えなど体力と判断力が必要な対策が難しくなります。また、親の介護が始まると時間的・精神的余裕がなくなり、自分自身の相続対策に手が回らなくなる方も多くいます。60代の前半・体力があるうちに着手することが、最もコストパフォーマンスの高い選択です。
70代は認知症リスクが急上昇する年代です。
「まだ大丈夫」と思っているうちに判断能力が低下し、対策の選択肢が急速に狭まります。
以下の項目は70代のうちに必ず完了させることを強くお勧めします。
これらの対策は認知症になると原則として実施できなくなります。
「後でやろう」と思って70代後半まで先送りすることが、最も多い失敗パターンです。
70代でよくある失敗は「認知症の初期症状が出ているのに専門家への相談を先送りにする」ことです。家族が「まだ大丈夫」と思っていても、軽度認知症の段階では遺言書や家族信託の設定が難しくなる場合があります。後から「あのとき対策しておけばよかった」という後悔は取り返しがつきません。70代前半のうちに相続税専門の税理士に相談し、残り時間での対策の優先順位を整理することを強くお勧めします。
80代であっても、判断能力がある状態であれば多くの対策が実施可能です。
「もう遅い」と諦めるのではなく、まず現状を専門家に確認してもらうことが重要です。
80代でも取り組める対策の例は以下の通りです。
一方、80代から始めても効果が限定的になる対策もあります。
80代でも「何もできない」ことはありません。今すぐできることを専門家と一緒に確認することが大切です。
80代でよくある失敗は「遺言書を作っていなかったために相続人が対立した」ケースです。「うちは子どもたちが仲良いから大丈夫」と思っていても、財産の多寡や介護への貢献度をめぐって相続後に関係が悪化するケースは少なくありません。遺言書の作成だけは、判断能力がある状態のうちに必ず実行することを強くお勧めします。公証人が自宅・老人ホームなどへ出張して作成できる公正証書遺言であれば、外出が困難な方でも対応可能です。

相続財産の種類によって最適な対策が異なります。
自分の財産構成に合わせて、取り組むべき対策を確認してください。
現金・預金は相続税評価額がそのまま時価になるため、評価を下げる工夫が特に重要です。
現金1億円をそのまま相続させると評価額1億円ですが、一時払い終身保険(法定相続人3人)に換えれば1,500万円が非課税になります。
また、現金・預金が多い方は名義預金への注意も必要です。「子や孫の名義で口座を作って預けているが、実際には自分が管理している」というケースは、相続税の税務調査で最も指摘されやすいパターンのひとつです。名義人本人が自由に使える状態になっていない預金は、被相続人の相続財産として課税されます。
不動産は相続税評価額が実勢価格より低くなるため、現金よりも節税効果があります。さらに特例・補正を活用することで評価額をさらに下げることができます。
不動産が多い方は、生前に「整理すべき不動産」と「残すべき不動産」を仕分けておくことも重要です。遠方にある更地・収益性の低い山林・接道不良の土地などは、相続後に処分しようとしても買い手が見つからず、子に管理コストと固定資産税だけが残ることがあります。こうした活用しにくい不動産は、被相続人が元気なうちに売却・贈与・交換などで整理しておくことが大切です。
自社株の相続は事業承継との一体設計が必要です。評価額が高い場合は早急な対策が求められます。
事業承継税制は要件が複雑なため、早期に専門の税理士に相談することが特に重要です。
自社株を相続すると相続税額が数千万円〜数億円になることがあり、後継者が納税資金を用意できず事業を継続できないケースが実際に起きています。事業承継税制の贈与税・相続税の納税猶予制度は、適切に活用することで自社株の相続税を事実上ゼロにできる強力な制度です。ただし要件が非常に厳格で、認定・申告・継続要件のいずれかを満たせなくなると猶予税額が一括で納付になるリスクもあります。制度を利用するかどうかも含めて、事業承継に精通した税理士への早期相談が不可欠です。
生命保険金は「みなし相続財産」として課税対象になりますが、非課税枠を最大限に活用することで節税できます。
生命保険の受取人設定は、特に注意が必要なポイントです。「受取人が被相続人自身」になっている場合は相続財産として遺産分割の対象になりますが、「受取人が子」になっていれば相続人固有の財産として遺産分割の対象外になります。非課税枠の活用だけでなく、争続防止の観点からも受取人の設定を正確に確認することが重要です。
また、株式・投資信託については「相続発生時の評価方法」をあらかじめ把握しておくことで、申告時の混乱を防げます。上場株式は相続開始日の終値・月間平均値などから最も低い価格を選択できるため、申告時に最も有利な評価方法を選ぶことが節税につながります。

生前対策を選ぶ際に参考にできる、各対策のコスト・所要時間・難易度の比較です。
難易度・コストが低いものから着手し、複雑なものは専門家に相談しながら進めることをお勧めします。
| 対策 | コスト | 開始までの時間 | 難易度 | 節税効果 |
|---|---|---|---|---|
| 暦年贈与(年110万円) | ほぼゼロ(贈与契約書作成費用程度) | 即日 | ★☆☆☆☆ | 中(継続で大きくなる) |
| 生命保険の非課税枠活用 | 保険料(一時払いなら数百万〜) | 1〜2週間 | ★★☆☆☆ | 中(枠の使い方次第) |
| 遺言書の作成(公正証書) | 数万円程度(公証人費用) | 1〜2ヶ月 | ★★☆☆☆ | 節税ではなく争続防止 |
| 相続時精算課税の選択 | 贈与税申告の税理士費用 | 1〜2ヶ月(申告が必要) | ★★★☆☆ | 中〜大(早期移転の効果) |
| 家族信託の設定 | 数十万〜100万円程度(司法書士・弁護士費用) | 2〜3ヶ月 | ★★★★☆ | 節税より認知症対策 |
| 収益不動産の取得・建設 | 数千万〜数億円 | 半年〜2年 | ★★★★☆ | 大(評価圧縮効果) |
| 養子縁組による基礎控除増加 | 数万円(家庭裁判所) | 1〜3ヶ月 | ★★★☆☆ | 中(600万円の控除増) |
| 事業承継税制の活用 | 税理士費用(数十万〜) | 数ヶ月〜1年 | ★★★★★ | 大(自社株の納税猶予) |
難易度・コストが低い「暦年贈与」と「生命保険の見直し」は今すぐ始められる対策であり、ほとんどのケースで最初の一手として有効です。
複雑な対策(家族信託・事業承継税制など)は専門家とともに進めることで、適切な設計と確実な実行が可能になります。
「今すぐ始めた場合」と「5年後に始めた場合」の贈与節税効果の差を比較します。
| 開始時期 | 贈与先 | 年間贈与額 | 70歳(相続発生想定)までの移転総額 | 節税効果(税率20%) |
|---|---|---|---|---|
| 55歳から開始 | 子2人・孫2人(計4人) | 440万円 | 6,600万円(15年間) | 約1,320万円 |
| 60歳から開始 | 子2人・孫2人(計4人) | 440万円 | 4,400万円(10年間) | 約880万円 |
| 65歳から開始 | 子2人・孫2人(計4人) | 440万円 | 2,200万円(5年間) | 約440万円 |
開始時期を10年早めるだけで、節税効果に880万円の差が生まれます。
「始めるのが早いほど節税効果は大きい」という事実を、具体的な数字で確認してください。

生前対策は「いつか始めよう」と思っているうちに選択肢が狭まります。
特に認知症・急な病気・相続の発生など、突発的な出来事で対策の機会が失われるリスクがあります。
早期に相続税専門の税理士に相談することが、最も確実な対策への近道です。
生前対策は個人の財産規模・家族構成・年齢・事業の有無など、個別事情によって最適な組み合わせが異なります。
「一般的に効果的とされる対策」が自分の状況では逆効果になることもあるため、専門家による個別設計が不可欠です。
特に専門家の判断が必要なケースは以下の通りです。
相続税専門の税理士に依頼することで得られる主なメリットは以下の通りです。
税理士への相談・顧問費用は年間数十万円程度が一般的ですが、対策によって節税できる相続税は数百万〜数千万円規模になることが多く、費用対効果は非常に高いといえます。
また、生前対策を進める中で「どの対策から始めれば効果的か」「自分の状況には何が当てはまるか」という判断は、個人の財産構成・家族関係・健康状態などによって大きく異なります。チェックリストを参考にしながら、最終的な判断は必ず専門家に相談することをお勧めします。初回相談を無料で受け付けている税理士事務所も多いため、まず「話を聞いてもらうだけ」という気軽な姿勢で相談を始めることが、対策を前に進める第一歩になります。
生前対策を後回しにした場合・専門家に相談せず自己流で進めた場合のリスクは以下の通りです。
| リスクのパターン | 具体的な影響 | 想定される損失 |
|---|---|---|
| 認知症になってから対策に気づいた | 遺言書・家族信託・贈与ができなくなる | 対策していれば節税できた数百万〜数千万円が課税対象に残る |
| 名義預金が発覚した | 贈与の効果がなく、相続財産として課税される | 贈与したと思っていた金額がそのまま課税対象 |
| 二次相続を考慮せずに配偶者に集中させた | 二次相続で子への税負担が急増する | 一次・二次の合計税額が最適化より数百万円以上多くなる |
| 小規模宅地等の特例の要件を満たさなかった | 相続発生時に特例が使えない | 80%減額が受けられず数百万〜数千万円の追加課税 |
いずれのリスクも、相続税専門の税理士に早期相談することで回避または最小化できます。
特に「何もしなかった場合のリスク」を具体的な金額で把握することで、対策を始める動機づけになります。たとえば財産2億円で適切な生前対策を何もしなかった場合、本来節税できた相続税が1,000万円以上になることも珍しくありません。「いつか対策しよう」と思っている間に、その1,000万円が失われていきます。
生前対策の設計に税理士を活用した場合の費用対効果の目安です。
| 財産規模 | 対策なしの相続税(目安) | 対策後の相続税(目安) | 節税効果 | 税理士費用(年間) |
|---|---|---|---|---|
| 5,000万円 | 160万円 | 50〜80万円 | 80〜110万円 | 20〜40万円/年 |
| 1億円 | 770万円 | 300〜500万円 | 270〜470万円 | 30〜60万円/年 |
| 3億円 | 5,460万円 | 2,000〜3,500万円 | 1,960〜3,460万円 | 50〜100万円/年 |
年間の顧問料が数十万円であっても、長期的な対策によって節税できる金額はその数十倍〜数百倍になるケースがほとんどです。
税理士への初回相談時に確認しておくべき質問を以下にまとめます。
相続税の生前対策の実績が豊富な専門税理士を選ぶことが最も重要です。
生前対策と相続税申告の両方に精通している税理士であれば、将来の申告まで見据えた最適な対策設計が可能です。
「税理士に相談するのはハードルが高い」と感じる方も多いですが、初回相談は多くの事務所で無料・60〜90分程度で対応しています。「まずは現状を把握したい」「何から始めればいいか教えてほしい」という相談から始めることで、専門家との信頼関係を築きながら自分のペースで対策を進めることができます。
早いほど効果が大きくなるため、相続税がかかりそうと気づいた時点で始めることをお勧めします。特に生前贈与は7年以上の継続で最大の節税効果が得られます。認知症になると多くの対策ができなくなるため、70代に入った方は緊急度が高いとお考えください。まずは相続税の試算と財産の棚卸しから始めることが第一歩です。
節税対策は不要ですが、争続防止のための遺言書作成や手続き整備は必要です。また、今後の財産の増加(不動産の値上がり・相続の積み重ね等)で将来的に課税対象になる可能性もあります。まずは正確な財産評価を行い、本当に相続税が不要かどうかを確認することをお勧めします。
適正な手続きを踏んでいれば問題ありません。注意すべきは「名義預金」「定期贈与」と認定されるリスクです。贈与契約書の作成・振込による送金・受取人が自由に使える口座の維持・毎年同額にならないよう金額を変えるなどの管理が重要です。不安な場合は税理士に贈与の設計と記録管理を依頼することをお勧めします。
認知症の程度によります。軽度の認知症であれば遺言書の作成や贈与が可能な場合もありますが、後から法的に争われるリスクが高まります。中度以上になると原則としてほとんどの対策ができなくなります。「少し物忘れが気になる」と感じた段階で早急に専門家に相談し、できる対策を急いで実施することが重要です。
見直しが必要なケースがあります。2024年1月以降の暦年贈与は7年加算の対象になるため、相続発生の7年以内に行う贈与の効果が限定されます。一方で相続時精算課税に年110万円の基礎控除が新設されたため、精算課税の活用場面が広がりました。現在の贈与計画が最適かどうかを税理士に確認することをお勧めします。
生前対策の基本
今すぐ取り組むべきこと
今すぐ取るべき行動
※本記事は2025年4月時点の法令・税率に基づいて作成しています。税制改正により内容が変わる場合があります。個別の相続については、必ず相続税専門の税理士にご相談ください。