


不動産を相続したときの相続税は、土地をいくらと評価するかでほとんど決まります。
その評価額は一つに定まりません。形や道路との関係などの個別事情で下げられる決まりがあるためです。
下げられる事情に気づくかどうかは、担当する税理士によって違います。ここが税額の差になります。
遺産1億円(うち土地8,000万円)で土地の評価が20%下がると、相続税の総額は630万円から400万円になります。
ただし、すべての土地で差が出るわけではありません。整った形で道路に面した土地なら、誰が評価しても同じ金額です。
先に確かめるべきは、自分の土地が差の出るタイプかどうかです。当てはまらなければ、費用をかけて事務所を探す必要はありません。
この記事では、10項目の判定、依頼前に用意する書類、不動産があると費用が変わる理由、専門家の役割分担、分けにくい不動産、申告後の見直しまでを解説します。
▼ この記事の3行まとめ

預貯金は残高がそのまま金額になります。一方で土地には決まった値段がなく、国が定めた手順に当てはめて計算した金額を使います。
その手順には、土地ごとの事情に応じて評価を下げる決まりが多数あります。どの事情に当てはまるかを見つけ出す作業が、税理士によって差が出るところです。
ここでは、なぜ金額が動くのか、動くとどれだけ税額が変わるのかを順に見ていきます。細かい計算式ではなく、差が生まれる構造をつかんでください。
土地の評価は、道路につけられた価格に面積をかけるところから始まります。ここまでは誰が計算しても同じ金額になります。
差が出るのはその後です。形がいびつ、道路に接する幅が狭い、線路が近いといった事情があれば、使いにくさの分だけ評価を下げてよいことになっています。
この下げる決まりは国税庁の通達に定められており、当てはめれば誰でも使えます。特別な交渉が要るわけではありません。
問題は、当てはまるかどうかが現地と書類を調べないと分からない点です。机の上の地図だけで済ませると、下げられるはずの事情が見落とされます。
【シナリオ】被相続人は父、相続人は母と子2人の3人。遺産は土地8,000万円とその他の財産2,000万円の合計1億円です。土地の評価が下がった場合を並べます。
| 土地の評価が下がる割合 | 土地の評価額 | 課税価格 | 相続税の総額 | 総額の差 |
|---|---|---|---|---|
| 0% | 8,000万円 | 1億円 | 630万円 | — |
| 5% | 7,600万円 | 9,600万円 | 570万円 | △60万円 |
| 10% | 7,200万円 | 9,200万円 | 510万円 | △120万円 |
| 20% | 6,400万円 | 8,400万円 | 400万円 | △230万円 |
| 30% | 5,600万円 | 7,600万円 | 300万円 | △330万円 |
表の見方:左端は土地の評価額が何%下がったかです。土地以外の財産と相続人の数は変えていません。動いているのは土地の評価額だけです。
重要ポイント:土地の評価が20%下がると相続税の総額は230万円減ります。評価額の下げ幅1,600万円に対して税額が230万円動くのは、超えた分に高い税率がかかるためです。
計算ロジック:基礎控除は3,000万円+600万円×3人で4,800万円。課税価格から基礎控除を引いた額を法律で決まった割合(母2分の1・子4分の1ずつ)で分け、それぞれに税率をかけて合計しています。母が2分の1を取得した場合の納める額は、この総額の半分です。
相続税そのものの計算手順は、下記の記事で解説しています。

評価を下げる決まりは公開されていて、どの税理士も同じものを使えます。知識の差というより、手間をかけるかどうかの差です。
現地に行って高低差や道路の幅を確かめ、役所で建築の制限を調べれば、下げられる事情が見つかります。この調査を省く事務所では、机の上の数字がそのまま申告額になります。
逆に言えば、調べても何も出てこない土地もあります。整った四角形で道路にきちんと面している宅地なら、誰が担当しても同じ金額です。
だからこそ、先に自分の土地がどちらなのかを判定する価値があります。次の章でその判定を行います。

ここが判断の分かれ目です。当てはまる項目が1つもなければ、税理士による評価額の差はほとんど出ません。逆に複数当てはまるなら、調べる力のある事務所を選ぶ価値があります。
10項目はいずれも、国税庁が評価を下げてよいと定めている事情です。専門知識がなくても、登記の書類と現地の様子で見当がつきます。
まず表で当てはまるものを数え、そのあと該当数ごとの目安と、判定に使う書類を確認してください。
上から順に、自分の土地に当てはまるかを確かめてください。複数の土地がある場合は、土地ごとに数えます。
| こんな土地ではないか | 評価が下がる理由 | 根拠 | |
|---|---|---|---|
| □ 形がいびつ(三角形・旗のような形・奥に細長い) | 使いにくい分を差し引ける | 国税庁 No.4604 | |
| □ 道路に接している幅が狭い | 建て替えや車の出入りに制限が出る | 国税庁 No.4604 | |
| □ 広い(三大都市圏で500平方メートル以上、それ以外は1,000平方メートル以上) | 分譲するときに道路を作る必要がある | 国税庁 No.4609 | |
| □ 道路にまったく接していない | 建物を建てられない | 国税庁 No.4620 | |
| □ 敷地の一部が通り抜けの道になっている | 自由に使えない部分がある | 国税庁 No.4622 | |
| □ 高低差がある・がけがある・線路や高圧線が近い | 使い勝手が落ちている | 国税庁 No.4617 | |
| □ 人に貸している土地、アパートや貸家の敷地 | 借りている人の権利の分を差し引ける | 国税庁 No.4614・No.4613 | |
| □ 借りた土地の上に家を建てている | 土地そのものではなく借りる権利を評価する | 国税庁 No.4611 | |
| □ 1つの土地を複数の使い方で使っている(自宅と駐車場など) | 使い方ごとに分けて評価する | 国税庁 No.4603 | |
| □ 接している道路に価格がついていない | 税務署に価格を設定してもらう手続きが要る | 国税庁 No.4607 |
表の見方:右端は国税庁が公開している解説の番号です。当てはまるかどうか迷った項目は、その番号のページで条件を確認できます。
重要ポイント:7番目と8番目は人に貸している場合の項目で、該当すると評価が大きく下がります。アパートや駐車場を持っている場合は必ず確認してください。
参照元:国税庁 No.4617 利用価値が著しく低下している宅地の評価
それぞれの下げ方の計算は、下記の記事で解説しています。

数えた結果で、次に取るべき行動が変わります。0個なら急いで事務所を探す必要はありません。
【0個の場合】
【1〜2個の場合】
【3個以上の場合】
数が多いほど調べる手間は増えますが、前の章の表のとおり下がった分はそのまま税額に返ってきます。手間をかける価値があるかどうかは、この数で判断できます。
机の上でできる確認と、現地でしかできない確認があります。依頼前でも次の方法でおおよそ分かります。
| 確かめたいこと | 見るもの | 入手先 |
|---|---|---|
| 土地の形と面積 | 公図・地積測量図 | 法務局 |
| 道路に接している幅 | 地積測量図・現地の実測 | 法務局・現地 |
| 所有している土地の一覧 | 名寄帳 | 市区町村 |
| 道路の価格がついているか | 財産評価基準書 | 国税庁のサイト |
| 高低差・がけ・線路との距離 | 現地の写真 | 現地 |
| 貸しているかどうか | 賃貸借契約書 | 手元の書類 |
表の見方:上4つは役所やインターネットで取れる書類です。下2つだけは現地を見る必要がありますが、写真を撮っておけば足ります。
重要ポイント:道路の価格は国税庁のサイトで誰でも無料で調べられます。接している道路に価格がついていない場合は、10番目の項目に当てはまります。
道路の価格の調べ方と見方は、下記の記事で解説しています。


書類がそろっていると、見積りの精度が上がります。不動産の情報が曖昧なまま見積りを取ると、どの事務所も安全側に振った高い金額を出してくるためです。
また、書類は前の章の判定にもそのまま使えます。依頼先を決める前に集めておけば、判定と見積りの両方に使い回せます。取得にかかる費用は全部そろえても数千円程度です。
ここでは、何を・どこで・いくらで取れるかを一覧にしたうえで、取る順番と、見落としやすい土地の拾い方を確認します。
不動産に関する書類は、法務局で取るものと市区町村で取るものに分かれます。登記に関するものは法務局、税額に関するものは市区町村と覚えると迷いません。
| 書類 | 何が分かるか | 入手先 | 費用と日数の目安 |
|---|---|---|---|
| 登記事項証明書 | 所有者・地目・地積・抵当権 | 法務局・オンライン | 1通600円前後・即日 |
| 公図 | 土地の配置と隣接関係 | 法務局・オンライン | 1通450円前後・即日 |
| 地積測量図 | 正確な形と間口の幅 | 法務局 | 1通450円前後・即日(無い土地もある) |
| 固定資産税の課税明細書 | 固定資産税評価額・所在 | 毎年届く通知 | 無料・手元にある |
| 名寄帳 | 同じ市区町村にある土地の一覧 | 市区町村 | 数百円・即日〜数日 |
| 固定資産評価証明書 | 評価額の証明 | 市区町村 | 1通400円前後・即日 |
| 賃貸借契約書 | 貸している条件と賃料 | 手元の書類 | 無料 |
| 現地の写真 | 高低差・がけ・接道の状況 | 現地 | 無料・半日 |
表の見方:上3つが法務局、次の3つが市区町村です。登記事項証明書と公図はオンラインでも請求でき、窓口へ行くより1通あたり100円ほど安く取れます。
重要ポイント:地積測量図は存在しない土地もあります。古くから所有している土地では作られていないことが多く、その場合は現地で間口の幅を測った記録が代わりになります。
最初に取るべきは名寄帳です。その市区町村にある不動産が一覧で出てくるため、本人も家族も知らなかった土地がここで見つかります。
見落としが起きやすいのは、私道の持分と、住んでいる場所と離れた市区町村にある土地です。私道は固定資産税がかからないことがあり、課税明細書に載ってきません。
名寄帳は市区町村ごとに請求するため、複数の場所に土地がある場合はそれぞれに取る必要があります。被相続人の本籍地や出身地に土地が残っていないかも確認してください。
重要ポイント:申告に含めなかった土地が後から見つかると、修正申告に加えて加算税と延滞税がかかります。名寄帳は費用数百円で漏れを防げる書類なので、必ず取ってください。
全部そろうまで相談を待つ必要はありません。課税明細書と現地の写真だけでも見積りは取れます。税理士はその2つから評価額のおおよその見当をつけられます。
むしろ期限のほうが重要です。申告期限は亡くなったことを知った日の翌日から10か月しかなく、書類集めに何か月もかけると評価と申告書の作成が間に合わなくなります。
書類の取得を税理士に代行してもらうこともできます。その場合は実費に加えて手数料がかかるため、自分で取れるものは取っておくほうが費用を抑えられます。
申告期限の数え方は、下記の記事で解説しています。

アパートや駐車場、他人に貸している土地がある場合は、書類が一段増えます。貸している事実を示せないと評価を下げられないためです。
3つ目が特に重要です。アパートの評価は入居している割合で変わるため、亡くなった時点で何室が埋まっていたかを示す資料が要ります。
空室が続いていた部屋は、事情によって扱いが変わります。募集を続けていたことを示せるかどうかで判断が分かれるため、募集の広告や仲介会社とのやり取りも残しておいてください。
重要ポイント:これらの書類は相続が起きた後には作れません。被相続人が管理していた場合、どこに保管されているかを早い段階で探しておく必要があります。
貸している不動産の評価の下げ方は、下記の記事で解説しています。


相続税の申告報酬は、遺産総額の0.5〜1.0%が目安です。ただしこれは基本の部分で、不動産があると別枠の加算が乗ります。
加算される理由は、土地の数だけ評価の作業が増えるからです。預貯金は口座がいくつあっても残高を足すだけですが、土地は1つずつ形も条件も違うため、それぞれ計算し直す必要があります。
ここでは、何の作業が増えるのかと、見積りを取るときに不動産について何を確認すべきかを見ていきます。金額の相場そのものは別の記事で扱います。
見積書に並ぶ加算項目は、裏を返すとそのまま作業の一覧です。何に対してお金を払っているのかが分かると、高いか安いかの判断がしやすくなります。
| 増える作業 | 内容 | 報酬に乗る形 |
|---|---|---|
| 土地ごとの評価 | 使い方の単位ごとに評価を計算し直す | 1単位ごとに加算 |
| 現地調査 | 高低差・接道・利用状況を見に行く | 加算または交通費の実費 |
| 役所調査 | 都市計画・建築制限・道路の種類を調べる | 調査の加算に含む |
| 税務署への申出 | 価格のついていない道路の価格を設定してもらう | 別途加算になることが多い |
| 特例の判定 | 自宅や貸地に使える特例の要件を確認する | 基本報酬に含む |
| 申告書への説明の添付 | 評価を下げた根拠を書面で示す | 別途加算(4万〜6万円が目安) |
表の見方:上から4つが不動産特有の作業です。下の2つは不動産以外でも発生しますが、土地があると判定する項目が増えるぶん手間が大きくなります。
重要ポイント:土地は登記上の筆数ではなく「使い方の単位」で数えます。自宅と隣接する駐車場は、登記が1筆でも2単位として数えるのが原則です。見積りの段階で、何単位として数えているかを確認してください。
費用の相場・早見表・見積書の見方は、下記の記事で詳しく解説しています。

同じ土地でも事務所によって見積りが変わるのは、数え方と調査の範囲が違うためです。次の3つを聞けば、金額の違いがどこから来ているか分かります。
確認1:土地を何単位として数えているか単位の数え方が違えば加算額も変わります。「土地1単位ごとに4万〜6万円」のように単価と単位数を分けて示す事務所のほうが、後からの追加請求が起きにくいと判断できます。
確認2:現地調査と役所調査を行うか前の章の判定で当てはまる項目があったなら、この調査の有無が評価額に直結します。行う事務所のほうが、下げられる事情を拾えると判断できます。
確認3:評価を下げた根拠を申告書に添えるか下げた理由を書面で示しておくと、税務署から問い合わせを受けにくくなります。添付を業務範囲に入れている事務所のほうが、申告後のやり取りまで見込んで動いていると判断できます。
3つとも、専門知識がなくても聞けば答えが返ってくる質問です。答えを濁す事務所は、その作業を想定していない可能性があります。
税理士費用を誰が払うかに決まりはなく、相続人の1人がまとめて払っても、全員で分けても構いません。ただし誰が払うかで手取りが変わる場合があります。
また、相続税の申告報酬は相続財産から差し引ける債務にはあたりません。亡くなった後に発生した費用は債務控除の対象外だからです。一方で、貸家の準確定申告の報酬など例外もあります。
どちらも判断を誤ると税額が変わるため、見積りの段階で負担の方法を決めておくと後の手戻りがありません。
負担の決め方と、経費にできる例外は下記の記事で解説しています。



不動産の相続では複数の専門家が関わりますが、それぞれができることは法律で分かれています。誰に何を頼むかを知らないと、二重に費用を払うことになります。
順番も重要です。先に税理士に相談しないまま名義変更や売却を進めると、使えたはずの特例を落とすことがあります。取り返しがつかない場面もあるため、動く前に確認してください。
ここでは、4者の役割と頼むタイミングを整理したうえで、順番を間違えやすい場面と、鑑定士を使う判断を見ていきます。
役割が重なって見えるのは税理士と司法書士ですが、税金の計算と申告は税理士、登記は司法書士と完全に分かれています。両方を扱う事務所もありますが、内部で担当が分かれています。
| 専門家 | 任せること | 頼むタイミング | 費用の出どころ |
|---|---|---|---|
| 税理士 | 相続税の計算・土地の評価・申告書の作成・特例の判定 | 相続開始から2か月以内 | 相続人が負担 |
| 司法書士 | 不動産の名義変更の登記・登記に必要な戸籍の収集 | 分け方が決まった後 | 取得する人が負担 |
| 不動産鑑定士 | 通達どおりでは実態に合わない土地の鑑定評価 | 税理士が必要と判断したとき | 相続人が負担 |
| 不動産会社 | 売るときの査定と仲介 | 売ると決めた後 | 売却代金から支払う |
| 弁護士 | 分け方でもめたときの交渉と調停 | 話し合いが止まったとき | 依頼した人が負担 |
表の見方:3列目が動き出す順番です。税理士が最も早く、不動産会社が最も後になります。費用の出どころが違う点も、負担を考えるうえで重要です。
重要ポイント:税理士だけは相続開始から2か月以内に動いてください。申告期限まで10か月ありますが、評価と分け方の設計に時間がかかるため、実際の猶予は見た目より短くなります。
誰に相談すべきかの判断は、下記の記事で解説しています。

相続人が良かれと思って先に動いた結果、選べたはずの道がなくなることがあります。よくあるのは次の3つです。
【場面1】先に名義変更を済ませてしまった
【場面2】先に不動産会社に売却を依頼した
【場面3】評価が高いと感じて先に鑑定士へ依頼した
共通しているのは、分け方が決まる前に外から手を入れると選択肢が減るという点です。迷ったら、動く前に税理士へ一報を入れてください。
土地の評価は原則として国税庁の通達に従って計算します。鑑定士による評価を使うのは、通達どおりに計算すると実際の価値と大きくかけ離れる場合だけです。
典型的なのは、広い土地で形が悪く、道路づけも悪いために実際には売れない土地です。通達の計算では下げきれない使いにくさがある場合に、鑑定評価を根拠として使うことがあります。
ただし鑑定評価を使えば必ず認められるわけではありません。税務署が通達による評価を相当と判断すれば、そちらで課税されることもあります。
費用も数十万円単位でかかるため、下がる税額と費用を比べて判断することになります。その判断ができるのは、通達での評価額を先に出した後です。
税理士・司法書士・不動産会社をグループで抱える事務所もあります。まとめて頼めば窓口が1つで済みますが、それぞれの得意分野が揃っているとは限りません。
| まとめて頼む | 別々に頼む | |
|---|---|---|
| 手間 | 窓口が1つで楽 | 同じ説明を何度もする |
| 費用 | 割引がある場合がある | 各事務所の相場で比べられる |
| 質 | グループ内の水準に揃う | 分野ごとに強い先を選べる |
| 売却の提案 | 自社で売る前提の提案になりやすい | 売る前提のない助言を受けられる |
| 向いている場合 | 判定10項目が0〜1個で、早く済ませたい | 判定10項目が3個以上ある |
表の見方:判断の分かれ目は最下段です。前半の判定で当てはまる項目が多いほど、評価を専門に扱う事務所を選ぶ意味が大きくなります。
重要ポイント:売却まで自社で扱うグループでは、売る前提の提案になりやすい点に注意してください。持ち続ける選択肢も含めて比べたい場合は、売却の仲介をしない事務所の意見も聞いておくと判断材料が増えます。

遺産の大半が不動産という家庭では、分け方そのものが難所になります。現金なら1円単位で分けられますが、土地と建物は物理的に分けられないためです。
この場面は競合の解説でもほとんど触れられていませんが、選んだ分け方によって税額も手取りも変わります。分け方を決めてから税理士に伝えるのではなく、決める前に相談してください。
ここでは、取れる分け方と税金の関係を整理したうえで、税理士に何を確認すべきか、よく起きる行き違いをどう防ぐかを見ていきます。
相続財産に占める不動産の割合が高いと、相続税を納める現金が手元に足りなくなることがあります。評価額は大きいのに、そこから現金は生まれないためです。
さらに分け方の問題が重なります。自宅を長男が継ぐと、他の相続人の取り分が現金だけになり、金額が釣り合わずに話し合いが止まることがよくあります。
この2つは同じ原因から来ています。納税と分割の両方に現金が要るのに、遺産の中に現金が足りないという構造です。
だからこそ、分け方を決める段階で税額まで見通しておく必要があります。分け方が決まってから税額を計算すると、納税資金が足りないと分かった時点で話し合いをやり直すことになります。
不動産を分ける方法は大きく3つです。それぞれ相続税の計算は同じですが、相続税以外にかかる税金と、後々の使いやすさが違います。
| 分け方 | 内容 | 相続税以外にかかる税金 | 注意点 |
|---|---|---|---|
| そのまま共有にする | 相続人全員の共有名義で登記する | なし | 売るにも貸すにも全員の同意が要る |
| 1人が相続して金銭を渡す | 不動産は1人が取得し、他の相続人へ現金を渡す | なし | 渡す側にまとまった現金が必要 |
| 売って現金で分ける | 不動産を売却し、代金を分ける | 売却益に所得税・住民税 | 買い手がつくまで分割が確定しない |
| 一部だけ共有 | 自宅は1人、収益物件は共有など | なし | 共有にした分は将来また同じ問題が起きる |
表の見方:3列目に注目してください。売って分ける方法だけは、相続税とは別に売却益への所得税と住民税がかかります。
重要ポイント:そのまま共有にする方法は、その場は簡単でも後で必ず困ります。売るにも貸すにも建て替えるにも全員の同意が要り、相続人の誰かが亡くなると共有者がさらに増えていきます。
計算ロジック:どの分け方を選んでも、相続税の総額は変わりません。変わるのは誰がいくら負担するかと、売った場合に追加でかかる所得税・住民税の有無です。
金銭を渡す方法と、売って分ける方法の計算は下記の記事で解説しています。


分け方を決める前に次の4点を確認しておくと、後から計算し直す事態を避けられます。いずれも試算してもらえば数字で答えが返ってくる質問です。
2番目が特に重要です。自宅の土地の評価を大きく下げる特例は誰がその土地を取得するかで使えるかどうかが変わります。分け方を変えると使えなくなることがあります。
4番目は見落とされがちです。配偶者に多く渡せば今回の相続税は下がりますが、その財産は次の相続で再び課税されます。2回分を合計して比べないと判断を誤ります。
参照元:国税庁 No.4124 相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例)
特例の要件と、次の相続まで見た配分は下記の記事で解説しています。


分け方をめぐる行き違いは、金額の認識がずれていることから起きます。実際にあった形を3つ挙げます。
【行き違い1】評価額と売れる値段を同じだと思っていた
【行き違い2】納税資金を計算せずに分け方を決めた
【行き違い3】とりあえず共有にして先送りした
確認しておく項目です。分け方を決める前に埋めてください。
重要ポイント:この6項目はいずれも、税理士に試算を頼めば数字で埋まります。埋まらないまま話し合いを始めると、後で必ずやり直しになります。

相続した不動産を売るかどうかは、後から決めればよいと思われがちです。ところが売ったときの税金は、相続の段階でどう分けたかに左右されます。
しかも相続税の一部を売却益から差し引ける仕組みには期限があります。知らないまま時間が過ぎると、使えたはずの制度が使えなくなります。
ここでは、売る可能性が少しでもあるなら申告の段階で決めておくべきことと、期限のある制度の押さえどころを見ていきます。税額そのものの計算は別の記事で扱います。
売ると決めていなくても、可能性があるなら次の4つは先に決めてください。いずれも後から変えると余計な税金がかかるか、そもそも変えられないものです。
| 申告の段階で決めること | なぜ申告前に決めるのか | 後から変えられるか |
|---|---|---|
| 誰の名義で相続するか | 売った人が売却益の税金を負担する | 変えると贈与とみなされる恐れ |
| 共有にするか1人にするか | 共有だと全員の同意がないと売れない | 持分の移転に税金がかかる |
| 自宅の特例を使うか | 使うと住み続ける条件が絡む場合がある | 申告期限後は原則として変えられない |
| いつまでに売るか | 相続税の一部を売却益から差し引ける期間に限りがある | 期間を過ぎると使えない |
表の見方:右端が後戻りのしやすさです。どれも「後から変えればよい」と考えると損をします。特に名義は、変えた時点で別の税金が発生します。
重要ポイント:共有にすると、売るときに全員の同意が必要になります。相続の時点では全員が売却に賛成していても、数年後に気が変わる人が出ると動かせなくなります。
相続した不動産を売ると、売却益に所得税と住民税がかかります。このとき、納めた相続税のうちその不動産に対応する分を差し引ける仕組みがあります。
使えるのは期間内に売った場合だけです。相続税の申告期限の翌日から3年を経過する日までが期限で、相続開始から数えるとおよそ3年10か月になります。
この期間を過ぎてから売ると、同じ不動産を同じ金額で売っても税額が増えます。売る意思があるなら、期限を意識して段取りを組んでください。
重要ポイント:期限は売買契約ではなく引き渡しの時期を基準に判断されることがあります。期限ぎりぎりの売却は避け、半年ほど余裕を見てください。
参照元:国税庁 No.3267 相続財産を譲渡した場合の取得費の特例
差し引ける金額の計算と、使えないケースは下記の記事で解説しています。

売却益への税金は、売った人にかかります。そのため誰が相続して誰が売るかで、家族全体で見た手取りが変わることがあります。
所得の高い相続人が売れば税率も高くなり、手取りが減ります。誰が売るかは、家族全体の手取りで判断するのが本来の考え方です。
また、相続した人が住んでいた家かどうかでも使える制度が変わります。空き家になっていた実家を売る場合には、別の控除が使えることがあります。
売却時にかかる税金の全体像は、下記の記事で解説しています。

売らない選択も当然あります。ただし持ち続ける場合にも、申告の段階で確認しておかないと後で困ることがあります。
まず維持にかかる費用です。固定資産税は毎年かかり、建物を取り壊して更地にすると税額が数倍に上がることがあります。空き家のまま放置する判断は、この負担を知ったうえで行ってください。
次に貸す場合です。人に貸すと土地の評価は下がりますが、それは次の相続のときの話です。今回の相続税は、亡くなった時点の状況で決まります。
さらに、貸したときの家賃収入には所得税がかかります。相続した年の分は確定申告が必要になるため、相続税の申告を頼む税理士に続けて依頼できるかを確認しておくと手間が減ります。
重要ポイント:持ち続けると決めた場合でも、3年10か月の期限だけは頭に入れておいてください。事情が変わって売ることになったとき、この期間内かどうかで税額が変わります。

申告を済ませた後でも、払いすぎた相続税は取り戻せます。土地の評価を下げられる事情が後から見つかった場合が典型です。
この手続きには期限があります。法定申告期限から5年以内であれば、税務署に対して税額を減らすよう求められます。
ここでは、見直しの期限と、見直しで下がりやすい土地の特徴、他の税理士に見てもらうかどうかの判断を見ていきます。
納めすぎた税金を返してもらう手続きを、更正の請求といいます。相続税の場合、法定申告期限から5年以内であれば請求できます。
相続開始から数えると5年10か月です。申告を済ませてから4年以上が経っていても、期限内であれば見直す価値があります。
なお、遺産分割がまとまったことなど後から生じた事情による場合は、その事実が起きた日から4か月または2か月以内という別の期限になります。評価の見直しは5年のほうを使います。
参照元:国税庁 B1-27 相続税及び贈与税の更正の請求手続
どの申告にも見直しの余地があるとは限りません。下がる可能性が高いのは、この記事の前半で挙げた10項目に当てはまる土地です。
特に多いのは、現地を見ていれば分かった事情が反映されていないケースです。高低差、がけ、道路との段差、隣地との境界の食い違いなどは、地図の上では分かりません。
逆に、整った形の宅地1つだけという申告では、見直しても結果が変わらないことがほとんどです。費用をかけて依頼する前に、10項目で当てはまるかを確認してください。
重要ポイント:申告を担当した税理士に見直しを頼むのは難しい場合があります。自分の評価を否定することになるためです。別の事務所に意見を求める道があることを知っておいてください。
戻る金額の目安と、見直しの進め方は下記の記事で解説しています。

依頼する前に、手元の申告書控えを見れば見込みの有無がある程度わかります。専門的な読み方は要らず、次の4か所を見るだけです。
| 申告書控えで見る場所 | 確認すること | 見直しの見込み |
|---|---|---|
| 土地の評価明細書があるか | 土地ごとに1枚ずつ付いているか | 無ければ簡易に済ませた可能性がある |
| 補正率の欄 | 1.00以外の数字が入っているか | すべて1.00なら下げる事情を拾っていない |
| 土地の数 | 名寄帳の筆数と評価の単位数が合っているか | 単位が少なければ分け方を検討していない |
| 現地調査の記録 | 写真や実測の記録が資料に残っているか | 無ければ机上だけで評価した可能性が高い |
表の見方:2行目の補正率が最も分かりやすい指標です。この欄に1.00以外の数字があれば、担当した税理士は下げる事情を検討したことになります。
重要ポイント:補正率がすべて1.00で、10項目に当てはまる土地があるなら、見直しで下がる可能性が高い組み合わせです。この2つがそろったときだけ、別の事務所に相談する価値があります。
申告書の控えが手元にない場合は、依頼した税理士に控えの交付を求めてください。作成した申告書の控えは通常、依頼者に渡されています。
評価の見直しを扱う事務所の多くは、戻ってきた税額に対する割合で報酬を決める形をとっています。戻らなければ報酬も発生しない仕組みです。
この形は依頼する側のリスクが小さい一方で、戻る金額が大きいほど報酬も大きくなります。割合が何%か、下限の金額があるかを契約前に確認してください。
また、鑑定評価を使う場合はその費用が別にかかることがあります。戻らなかった場合に誰が負担するのかも、契約の前にはっきりさせておく必要があります。

相続税の申告期限は、亡くなったことを知った日の翌日から10か月です。不動産があると、この10か月はかなり詰まった日程になります。
評価に時間がかかるだけでなく、分け方が決まらないと特例を使えないためです。評価と分割を並行して進める必要があります。
ここでは、10か月をどう配分するかを時系列で示したうえで、最初の2か月にやるべきことと、つまずきやすい時期を確認します。
逆算すると、実際に使える時間は見た目より短くなります。申告書の作成に1か月、分け方の確定にその前の1か月を見ておく必要があります。
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重要ポイント:最初の2か月で税理士を決められるかが全体を左右します。ここが遅れると評価の期間が圧迫され、現地調査を省いた申告になりやすくなります。
やることは多く見えますが、実際に手を動かすのは書類集めと見積り依頼の2つだけです。順番に進めれば2か月で終わります。
最後の項目は見落とされがちです。納税は現金で一度に行うため、不動産の割合が高い家庭では早い段階で資金の見通しを立てる必要があります。
見積りを取る時点で判定の結果を伝えておくと、返ってくる提案の中身が変わります。当てはまる項目を書き出して渡せば、それぞれをどう扱うつもりかが見積りの説明に表れます。
日程が崩れるのは決まった時期です。事前に分かっていれば手を打てます。
【3か月目】相続放棄の期限と重なる
【6か月目】分け方の話し合いが止まる
【9か月目】納税資金が足りないと分かる
重要ポイント:分けられないまま期限を迎えても、申告と納税は必要です。その場合は法律で決まった割合で計算して申告し、後から分けたときに修正する流れになります。
分けられないまま申告する場合の進め方は、下記の記事で解説しています。


ここまで見てきたとおり、不動産の相続税は土地の評価をどこまで詰められるかで金額が変わります。同じ土地でも、調べる範囲が違えば結論が変わります。
しかも判断する場面が多く、分け方・名義・売る時期のように後戻りできないものが含まれます。評価だけでなく、その先の設計まで扱えるかが問われます。
相続税の対応実績がある税理士に早い段階で相談し、複数の事務所から見積りを取って比べることをおすすめします。
不動産のある相続で差がつくのは、計算の速さではありません。下げられる事情を探しに行くかどうかと、分け方まで設計できるかです。経験の少ない事務所では、この2つが抜け落ちます。
【実績のある税理士が押さえていること】
金額で見ると差ははっきりします。【シナリオ】被相続人は父、相続人は母と子2人。遺産は土地8,000万円とその他2,000万円の合計1億円です。
差は230万円です。追加でかかった調査の手間に対して、戻ってくる金額のほうがはるかに大きくなります。
計算ロジック:基礎控除は3,000万円+600万円×3人で4,800万円。課税価格から基礎控除を引いた額を法律で決まった割合(母2分の1・子4分の1ずつ)で分け、それぞれに税率をかけて合計しています。動かしているのは土地の評価額だけで、他の条件は同じです。
不動産のある相続では、見積書に事務所の姿勢がそのまま表れます。3〜5の事務所から取れば、評価に対する構えの違いが読み取れます。
判定ポイント1:土地を何単位として数えているかA税理士は「土地一式」とだけ書き、B税理士は「土地3単位×4万〜6万円」と単価と単位数を分けて示してきた。→ B税理士の方が、評価の作業量を具体的に見積もっていると判定できます。
判定ポイント2:現地調査と役所調査が業務範囲に入っているか見積書に調査の項目があるか、無い場合は「必要なら行うか」を聞いて回答を比べる。→ 行う事務所の方が、下げられる事情を拾えると判定できます。
判定ポイント3:分け方の提案が何案あるかA税理士は法律で決まった割合の1案だけ、B税理士は納税資金と次の相続まで含めて4案を出してきた。→ B税理士の方が、申告の先まで見て設計していると判定できます。
3つとも、同じ資料を渡したうえで比べてください。渡す資料が違うと、返ってくる見積りも比べられなくなります。
見積りの比べ方は、下記の記事で詳しく解説しています。

1つの事務所だけで決めると、その評価額が妥当かどうかを判断する材料がありません。高いのか安いのかを知らないまま申告することになります。
【相談しないまま進めたときに起きること】
金額で言えば、評価を20%下げられる土地で調査を省くだけで230万円を余分に納めることになります。申告報酬の何倍にもなる金額です。
重要ポイント:この負担は、同じ資料を複数の事務所に渡して比べれば避けられます。見積りの段階で、現地を見に行くかどうかを必ず確認してください。
相談から依頼までの流れです。相続開始から7か月以内に依頼先を決めることを目安にしてください。
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重要ポイント:STEP2で不動産の情報をできるだけ具体的に書いてください。所在地と広さがあるかないかで、返ってくる見積りの精度が変わります。
土地の評価をどこまで下げられるかで決まります。この記事の例では、遺産1億円(うち土地8,000万円)で評価が20%下がると、相続税の総額は630万円から400万円になりました。
ただし、どの土地でも差が出るわけではありません。整った形で道路にきちんと面した宅地なら、誰が評価しても同じ金額です。この記事の10項目で当てはまるものがあるかを先に確認してください。
できます。必要なのは登記事項証明書・公図・地積測量図と、現地の写真です。いずれも法務局と現地で手に入り、費用は全部そろえても数千円程度です。
形がいびつ、道路に接する幅が狭い、高低差がある、人に貸しているといった事情は専門知識がなくても分かります。当てはまる項目を書き出して見積り依頼に添えると、返ってくる提案が変わります。
いいえ。相続税の評価では「使い方の単位」で数えます。登記が1筆でも、自宅部分と駐車場部分に分かれていれば2単位です。逆に、2筆でも一体で自宅として使っていれば1単位になります。
この数え方は報酬の加算にも影響します。見積りを取るときに、何単位として数えているかを確認してください。数え方が違えば、評価額も報酬も変わります。
見直せます。納めすぎた相続税を返してもらう手続きがあり、法定申告期限から5年以内であれば請求できます。相続開始から数えると5年10か月です。
見込みがあるかどうかは、申告書の控えで確認できます。土地の評価明細書の補正率の欄がすべて1.00で、この記事の10項目に当てはまる土地があるなら、下がる可能性があります。
相続税の申告報酬は遺産総額の0.5〜1%が目安で、これに土地の単位ごとの加算が乗ります。評価を下げた根拠を申告書に添える場合も別途かかります。
増える理由は作業量です。預貯金は残高を足すだけですが、土地は1単位ずつ形も条件も違うため、それぞれ計算し直す必要があります。金額の相場と見積書の見方は、費用を扱った記事で解説しています。
納めた相続税の一部を売却益から差し引ける仕組みを使うなら、相続税の申告期限の翌日から3年を経過する日までに売る必要があります。相続開始から数えるとおよそ3年10か月です。
期限は引き渡しの時期で判断されることがあるため、ぎりぎりの売却は避けて半年ほど余裕を見てください。また、誰の名義で相続するかによって売却時の税額が変わります。
不動産の相続で税額に差が出るのは、土地の評価を下げられる事情を拾えるかどうかです。ただし差が出るのは、そうした事情を持つ土地に限られます。
今すぐ取るべき行動
※本記事は2026年9月時点の法令・税率に基づいて作成しています。税制改正や個別の事情により取り扱いが異なる場合があります。具体的な手続きについては税理士または税務署にご相談ください。