障害者が遺産を相続する際は、障害者控除として相続税の軽減措置を受けられます。
しかし、相続は人生で何度もあることではありません。
初めて相続を経験する方の中には、障害者控除をどのように利用したらいいのかわからず悩んでいる方も多いでしょう。
そこで本記事では、障害者控除についての要件や計算方法、障害者控除を利用するための方法や注意点について解説します。
相続税の障害者控除とは?概要と目的
相続税の障害者控除とは、相続人が障害者である場合に、相続税の額から一定の金額を控除する制度(税額控除)のことをいいます。
相続税は、そもそも富の再分配を通じて貧富の差を是正することを目的としています。
そのため、相続人が未成年者である場合や、配偶者が相続人である場合など、一定の場合には相続税の軽減措置が取られるのです。
障害者は、健常者と比べて十分な収入を得ることができない、生活をするのに費用がかかる、療養看護に家族がつきっきりになるなど、日常生活で多くの負担がかかります。
そのため、障害者が相続人となっている場合は、相続税の軽減措置を受けられるのです。
相続税の障害者控除を受けるための3つの要件

相続又は遺贈により財産を取得した人が相続税の障害者控除を受けるための要件を確認しましょう。
相続税の障害者控除には、一般障害者と特別障害者の2種類があり、それぞれ控除される税額が異なります。
一般障害者として障害者控除を受けるための要件
一般障害者として障害者控除を受けるための要件は次の3つです。
1.相続時に日本国内に住所があること
一つ目の要件は、相続時に日本国内に住所があることです。
外国に住所がある場合には、障害者控除を受けることができません。
また、日本国内に住所がある場合でも、一時居住者で、かつ、被相続人が外国人被相続人または非居住被相続人である場合には、やはり障害者控除を受けることができません。
2.相続時に85歳未満で、一般障害者と判定されていること
二つ目の要件は、相続時に85歳未満で障害者と判定されていることです。
一般障害者の場合の控除額は「(85歳-相続開始時点の年齢)×10万円」で計算します。
そのため、相続開始時に85歳を超えている場合には利用できません。
また、障害者と判定されていることが必要で、一般障害者として認定を受けるためには相続税法基本通達19の4-1に規定されているいずれかに該当する必要があります。
相続税法基本通達19の4-1に該当する場合として、次のようなケースが挙げられます。
- 児童相談所、知的障害者更正相談所、精神保健福祉センターもしくは精神保健指定医の判定によって知的障害者とされた(重度と認定されている場合は後述の特別障害者)
- 精神障害者保健福祉手帳に2級または3級と記載されている
- 身体障害者手帳に3~6級と記載されている
- 常に寝たきりで介護が必要な人のうち、1.または3.に準ずるとして市区町村長等の認定を受けている
- 65歳以上で障害の程度が1.または3.に準ずるとして市区町村長等の認定を受けている
これらの状態にあるかどうかを判断するのは、相続開始時です。
但し、相続開始後にこれらの認定を受けた場合でも、相続開始の時点で障害者手帳の申請中のような場合には、医師の診断書を証拠書類として障害者控除が認められる余地があります。
3.法定相続人であること
障害者控除を受ける人が法定相続人であることも必要です。
相続税は、相続のほかにも遺贈・生前贈与・生命保険金の受取などによっても申告・納税する義務が発生します。
障害者控除が認められているのは、被相続人による援助を受けられなくなることによる負担を軽減するためです。
そのため、たとえ障害者であっても、法定相続人ではないにも関わらず遺贈や生前贈与で受け取ったような場合には、障害者控除は適用されません。
なお、相続放棄によって相続人ではなくなったとしても法定相続人であれば障害者控除を受けることができます。
つまり、相続放棄をしても生命保険金を受け取って相続税の納税義務者になる場合は、障害者控除を使うことができます。
特別障害者として障害者控除を受ける要件
一般障害者よりも重い特別障害者として障害者控除を受けるためには、85歳未満であることに加え、特別障害者として特別障害者相続税法基本通達19の4-2に規定されている状態であることが必要です。
相続税法基本通達19の4-2に該当する場合として、次のようなケースが挙げられます。
- 児童相談所、知的障害者更正相談所、精神保健福祉センターもしくは精神保健指定医の判定によって重度の知的障害者とされた
- 精神障害者保健福祉手帳に1級と記載されている
- 身体障害者手帳に1級または2級と記載されている
- 常に寝たきりの状態で複雑な介護が必要な人のうち、1.または3.に準ずるとして市区町村長等の認定を受けている
- 65歳以上で障害の程度が1.または3.に準ずるとして市区町村長等の認定を受けている
障害者控除による相続税控除額の計算方法

障害者控除の要件に該当する場合の相続税控除額はどのようにして計算されるのでしょうか。
以下で詳しく解説します。
相続税の障害者控除額を求める計算式
相続税の障害者控除を求める計算式は次のとおりです。
- 一般障害者:10万円×(85歳−相続開始日の年齢)
- 特別障害者:20万円×(85歳−相続開始日の年齢)
相続は被相続人が亡くなったときに開始するので、計算は被相続人が死亡した日で計算をします。
また、1年未満の期間については切り上げて計算するので、たとえば84歳11か月の人が相続をした場合でも1年で計算をします。
障害者控除額の計算例
障害者控除額の計算例は次のとおりです。
| 一般障害者の場合 | |
|---|---|
| 前提条件 | 相続人が50歳7ヵ月で相続をした場合 |
| 計算例 | 10万円×(85歳-50歳 ※7ヵ月については切り上げ=35)=350万円 |
| 特別障害者の場合 | |
|---|---|
| 前提条件 | 相続人が40歳3ヵ月で相続した場合 |
| 計算例 | 20万円×(85歳-40歳 ※3ヵ月については切り上げ=45)=900万円 |
障害者控除額>相続税額を超えるときは扶養義務者分からも差し引く
障害者控除によって控除される額が、相続税額を上回る場合には、扶養義務者分の相続税額も差し引くことができます。
たとえば、障害者となる人の相続分から計算される相続税額が300万円であり、障害者控除として控除される額が400万円であるとします。
この場合、障害者である相続人の相続税負担はなくなります。
しかし、本来控除されるべき400万円のうちの100万円分は、相続人である障害者本人の相続税からこれ以上控除することはできません。
そのため、控除される額のうちの100万円分については、相続人のうち障害者の扶養義務を負っている人の税額も控除できるのです。
たとえば、子A・B・Cで相続をする場合にCの相続税額が300万円で障害者控除400万円を受ける場合、Cから見ると兄弟姉妹であるA・Bは扶養義務があるので、Cの障害者控除としてA・Bの相続税額の控除も可能です。
上記のケースのように扶養義務者が複数いる場合には、控除する金額は当事者で自由に決定可能です。
話し合いで決める、相続割合によって決めるなど明確に決めるようにしましょう。
なお、扶養義務は民法に定めがあるとおり、直系血族及び兄弟姉妹には扶養義務があり、そのほか3親等内の親族に対して家庭裁判所が扶養義務を負わせることができます。
二次相続の場合は計算式が異なる
扶養義務者の相続税額を差し引いてもまだ余りがある場合には、二次相続に繰り越せることになっています。
二次相続に障害者控除を適用した場合には、通常と計算式が異なります。
たとえば、Aが亡くなり子であるBと障害者Cが相続したあとに、Bが亡くなり兄弟であるCが相続するような場合が二次相続に該当します。
この場合、次の額のうちいずれか少ないものが障害者控除の額になります。
- 10万円※×(85歳−相続開始日の障害者の年齢)
- 1.で計算した金額+(前回の相続から今回の相続までの年数)×10万円−前回の相続時の障害者控除額
※特別障害者の場合は10万円が20万円となります。
なお、最初の相続のときには一般障害者だったものの、その後障害が重くなり二次相続では特別障害者となった場合には、1.は20万円で計算することになります。
相続税の障害者控除を利用する方法

相続税の障害者控除は、どのような方法によって利用するのでしょうか。
ここからは、相続税の障害者控除を利用する方法を紹介します。
障害者控除によって相続税が0円の場合は原則として申告不要
まず、障害者控除をすると相続税が0円となる場合、原則として申告は不要です。
相続税控除の制度としてよく知られる小規模宅地等の特例や配偶者控除については、相続税額が0円になる場合でも、相続税申告が必要とされています。
しかし、障害者控除については申告を要件としていないため、相続税額が0円になる場合には原則として申告は必要ありません。
これは、障害者本人はもちろん、扶養義務者の相続税額が0円になる場合も同様に申告が不要となります。
しかし、障害者控除を利用しても相続税額が0円にはならず、相続税の納税が必要な場合には相続税の申告が必要です。
これは、障害者の扶養義務者の相続税を控除する場合も同様です。
障害者控除で相続税が0円になっても申告義務がある場合とは?
障害者控除によって相続税が0円になっても申告義務があるケースには、次のものが挙げられます。
- 小規模宅地等の特例と障害者控除を利用する場合
- 配偶者控除と障害者控除を同時に利用する場合
まず、小規模宅地等の特例を利用して、遺産の評価を減じて相続税額を計算して0円になる場合には、小規模宅地等の特例の利用が前提となります。
そのため、相続税の申告が必要です。
同様に、配偶者が障害者である場合、配偶者控除と障害者控除を両方利用することになるでしょう。
その結果、相続税額が0円になる場合にも、配偶者控除の利用について相続税の申告が必要です。
相続税申告時に必要書類を添付
障害者控除を受けるために相続税申告が必要な場合には、「未成年者控除・障害者控除額の計算書」を作成する必要があります。
申告書の様式は、国税庁ホームページの「相続税の申告書等の様式一覧」からダウンロード可能です。
また、相続税申告の際に添付書類として、一般障害者もしくは特別障害者のどれかに該当することがわかる書類の写しが必要です。
障害者手帳などの証明書類のコピーを添付して送りましょう。
なお、他の相続税申告・添付書類とあわせて相続開始を知ったときから10ヵ月以内におこなうべきことは、通常の相続税申告と変わりません。
関連記事相続税の申告手続きの手引き|知らないと損する控除制度まとめ
相続税の障害者控除についてよくある質問
相続税の障害者控除についてよくある質問とその回答を紹介します。
似たような悩みがある方は、ぜひ参考にしてください。
相続時に障害者手帳の申請中だった場合はどうなり」すか?
障害者控除を受けるための要件として、障害者手帳の交付を受けるなどしている必要があり、申請中の場合にはこれに該当しないようにも思えます。
しかし、相続税法基本通達19の4-3は、次の2つの要件を満たしていれば、障害者として取り扱うことができる旨を規定しています。
- 当該相続に係る法第27条の規定による申告書を提出する時において、これらの手帳の交付を受けていること又はこれらの手帳の交付を申請中であること
- 医師の診断書によって相続開始の時の現況において、明らかにこれらの手帳に記載される程度の障害があると認められる者であること
そのため、すでに障害者手帳の申請をしていて、医師による診断書によって手帳に記載される程度の障害があると認められれば、障害者と取り扱うことができるので、障害者控除の適用を受けることができます。
要介護認定の場合は障害者控除を受けられますか?
相続税における障害者控除を受けるためには、一般障害者であれば相続税法基本通達19 の4-1、特別障害者であれば相続税法基本通達19の4-2のいずれかに該当する必要があり、要介護認定を受けていることは規定されていません。
そのため、要介護認定を受けているだけでは、障害者控除を受けることはできません。
しかし、要介護認定となっている場合、すでに精神障害や身体障害が重度であり、相続税法基本通達19の 4-1や4-2の常に寝たきりで介護が必要な人・65歳以上の人のうち「市区町村長等の認定」を受けられる可能性があります。
これに該当すれば、障害者控除を受けることができます。
障害所控除を受けるために市区町村長等の認定を受けたい場合には、住民登録のある市区町村において、「障害者控除対象者認定書」を申請し、認定を受けます。
詳しくは市区町村の役所で相談しましょう。
療育手帳を交付されている場合は、障害者控除を受けられますか?
児童相談所、知的障害者更生相談所、精神保健福祉センター、精神保健指定医の判定によって知的障害があると認められると、療育手帳の交付を受けられます。
療育手帳の交付を受けているということは、相続税法基本通達19の 4-1、(重度の場合は、相続税法基本通達19の4-2)に規定している知的障害と認められ、障害者控除を受けることができます。
もし相続税申告が必要である場合、療育手帳は添付書類として写しを提出することになるので大切に保管しましょう。
祖父母から障害者である孫へ遺贈があった場合はどうなりますか?
障害者控除を受ける場合、その人は法定相続人である必要があります。
祖父母の相続において、孫は原則として法定相続人とはならないため、孫に遺贈があった場合でも、孫は障害者控除を利用できません。
しかし、孫の父母がすでに亡くなっている場合や相続欠格に該当する場合、推定相続人の廃除がされている場合には、代襲相続によって孫が法定相続人となることがあります。
この場合には、障害者控除の利用が可能です。
なお、父母が相続放棄をした場合には、孫は代襲相続により相続人となるわけではないので、障害者控除の利用はできません。
また、相続税対策などで孫を養子にすることがありますが、養子にした場合も法律上は子となるので障害者控除の利用が可能です。
まとめ
本記事では、相続税における障害者控除について解説しました。
富の再分配という機能を持つ相続税においても、配慮が必要な場合には特例が認められており、収入を得るのが難しい・生活にコストがかかる障害者への配慮から、障害者控除が認められています。
しかし、一般障害者・特別障害者に該当するかについては細かい要件があるうえ、控除が認められる場合に手続きが必要かどうか、扶養義務者の税額の控除ができるか、二次相続の場合はどうなるなかなど、内容は複雑です。
障害者控除の適用や相続税申告について疑問がある場合には、まずは税理士などの専門家に相談をするようにしましょう。
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当該相続に係る法第27条の規定による申告書を提出する時において、これらの手帳の交付を受けていること又はこれらの手帳の交付を申請中であること
医師の診断書によって相続開始の時の現況において、明らかにこれらの手帳に記載される程度の障害があると認められる者であること
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