「相続税を少しでも減らしたい」――親の相続を控えた方なら誰もが考えることです。
令和5年分の統計では相続税の課税割合は過去最高の9.9%に達し、被相続人1人あたりの平均税額は約1,930万円にのぼります(参照:国税庁|令和5年分 相続税の申告事績の概要)。
つまり、相続税はもはや富裕層だけの問題ではなく、自宅と預貯金を持つ一般家庭にも身近な税金になっています。
一方で、相続税は正しい知識と事前の準備によって大幅に減らせる余地がある税金でもあります。
本記事では、生前対策から相続発生後にできる方法まで15の節税手法を解説したうえで、「遺産5,000万円」「遺産1億円」「遺産2億円」の3パターンで具体的に税額がいくら変わるかをシミュレーションします。
さらに、2024年の税制改正で変わったポイントや、やってはいけないNG対策も紹介。あなたの状況に合った最適な節税プランがわかる実践ガイドです。
- 相続税を減らす方法は「財産を減らす」「評価額を下げる」「控除・特例を使う」の3軸で整理できる
- 遺産額帯別に優先すべき節税対策の組み合わせは異なる
- 生前対策だけでなく相続発生後にできる節税方法もあり、二次相続まで見据えた設計が重要
相続税を減らす3つの基本戦略

相続税を減らす方法は数多くありますが、整理すると3つの基本戦略に分類できます。
この3つの枠組みを理解しておくと、個別の節税手法がどの戦略に属するのかが明確になり、自分に必要な対策を選びやすくなります。
戦略①:相続財産の総額を生前に減らす
最もシンプルな節税の考え方は、相続税の計算の基礎となる遺産総額そのものを減らすことです。
生前に贈与や消費を通じて財産を移転・使用しておけば、相続時の財産が減り、課税対象額が小さくなります。暦年贈与や各種の非課税贈与特例、生命保険の活用、墓石・仏壇の購入などがこの戦略に該当します。
戦略②:財産の評価額を下げる(現金→不動産など)
同じ経済的価値を持つ財産でも、相続税の計算では財産の種類によって評価方法が異なります。
たとえば、現金1億円はそのまま1億円と評価されますが、その1億円で不動産を購入すると、相続税評価額は一般的に時価の7〜8割程度に下がります。
さらに賃貸に出せば「貸家建付地」として評価が下がります。このように、財産の「形」を変えることで評価額を圧縮するのが2つ目の戦略です。
戦略③:控除・特例を最大限に活用する
相続税には、配偶者の税額軽減、小規模宅地等の特例、未成年者控除、障害者控除など、さまざまな控除や特例が用意されています。これらを適切に活用することで、計算上の相続税額を直接減らすことができます。
特に配偶者の税額軽減と小規模宅地等の特例は節税効果が極めて大きく、多くの相続で活用されています。
【生前対策】相続財産を減らす7つの方法

ここからは、3つの基本戦略に沿って具体的な節税方法を解説します。まずは戦略①「生前に相続財産を減らす」に該当する7つの方法です。
方法①:暦年贈与(年110万円の基礎控除を活用)
贈与税には年間110万円の基礎控除があり、1年間の贈与額が110万円以下であれば贈与税はかかりません
(参照:国税庁|No.4402 贈与税がかかる場合)。

この控除枠を利用して、毎年コツコツと子や孫に財産を移転していくのが暦年贈与です。
たとえば、子2人と孫2人の計4人に毎年110万円ずつ10年間贈与すれば、合計で4,400万円を贈与税ゼロで移転できます。この分だけ相続財産が減るため、相続税の大幅な節税につながります。
ただし、注意点があります。相続人への暦年贈与は、被相続人の死亡前3年〜7年以内(2024年税制改正で段階的に延長)のものが相続財産に加算されるため、できるだけ早い時期から始めることが重要です。
また、毎年同額・同日の贈与を繰り返すと「定期贈与」と判断され、まとめて贈与税が課されるリスクがあるため、金額や時期を変えるなどの工夫が必要です。
方法②:相続時精算課税制度(累計2,500万円+年110万円の基礎控除)
相続時精算課税制度は、60歳以上の父母・祖父母から18歳以上の子・孫への贈与について、累計2,500万円まで贈与税が非課税になる制度です(参照:国税庁|No.4103 相続時精算課税の選択)。
2,500万円を超えた部分には一律20%の贈与税がかかりますが、贈与者が亡くなったときに贈与した財産を相続財産に加算して相続税を計算し、すでに納めた贈与税は相続税から差し引かれます。
2024年(令和6年)1月以降、この制度に年110万円の基礎控除が新設されました。この110万円以下の贈与は相続財産への加算対象にもならないため、暦年贈与と同様の節税効果が得られるようになりました。
この制度は、将来値上がりが見込まれる不動産や自社株を持っている場合に特に有効です。贈与時の価額で相続財産に加算されるため、値上がり分に対する相続税を回避できます。
方法③:住宅取得等資金の贈与(最大1,000万円非課税)
父母や祖父母から18歳以上の子や孫が住宅の新築・取得・増改築のための資金を贈与された場合、省エネ等住宅なら最大1,000万円、それ以外の住宅でも最大500万円まで贈与税が非課税になります(参照:国税庁|No.4508 直系尊属から住宅取得等資金の贈与を受けた場合の非課税)。
この特例の大きなメリットは、生前贈与加算の対象にならない点です。
つまり、贈与者が贈与後すぐに亡くなったとしても、この特例で非課税となった金額は相続財産に加算されません。子や孫の住宅購入を支援しつつ、確実に相続財産を減らせる効果的な方法です。
方法④:教育資金の一括贈与(最大1,500万円非課税)
30歳未満の子や孫に対し、教育資金として金融機関を通じて一括贈与する場合、受贈者1人あたり最大1,500万円(うち学校等以外への支払いは500万円が上限)まで贈与税が非課税になります(参照:国税庁|No.4510 直系尊属から教育資金の一括贈与を受けた場合の非課税)。
入学金、授業料、塾代、習い事の月謝など幅広い教育費が対象です。ただし、受贈者が30歳になった時点で使い残しがあると、その残額に贈与税が課されます。
また、贈与者が亡くなった時点の残額は相続財産に加算される場合があるため、計画的な利用が大切です。
方法⑤:結婚・子育て資金の一括贈与(最大1,000万円非課税)
18歳以上50歳未満の子や孫に対し、結婚や妊娠・出産・育児に関する資金を一括贈与する場合、受贈者1人あたり最大1,000万円(うち結婚費用は300万円が上限)まで贈与税が非課税になります(参照:国税庁|No.4511 直系尊属から結婚・子育て資金の一括贈与を受けた場合の非課税)。
挙式費用、新居の家賃、出産費用、保育料など、ライフイベントに関わる幅広い費用が対象です。
ただし、受贈者が50歳になった時点の残額には贈与税が課されるほか、贈与者死亡時の残額は相続税の課税対象になります。
方法⑥:生命保険の非課税枠(500万円×法定相続人の数)
被相続人が加入していた生命保険の死亡保険金には、500万円×法定相続人の数の非課税枠があります(参照:国税庁|No.4114 相続税の課税対象になる死亡保険金)。
たとえば、法定相続人が配偶者と子2人の計3人であれば、1,500万円までの死亡保険金は相続税がかかりません。
この非課税枠を活用するには、生前に生命保険に加入しておく必要があります。契約者(保険料負担者)と被保険者を被相続人、受取人を相続人にしておくのが基本的な契約形態です。
保険料として支払った現金は相続財産から減少し、受け取った保険金のうち非課税枠の分は課税されないため、二重の節税効果があります。
方法⑦:墓石・仏壇の生前購入(非課税財産への転換)
墓地、墓石、仏壇、仏具などの祭祀財産は、相続税の非課税財産に指定されています(参照:国税庁|No.4108 相続税がかからない財産)。
これらを生前に購入しておけば、現金(課税対象)が祭祀財産(非課税)に置き換わるため、その分だけ相続財産を減らすことができます。
たとえば、現金500万円で墓地・墓石を購入すると、500万円分の現金が相続財産から消え、墓地・墓石には相続税がかからないため、実質的に500万円の財産圧縮効果があります。
ただし、金の仏像や骨董的価値のある仏具など、投資目的と判断されるものは非課税にならない場合があります。
また、ローンで購入した場合、残債は債務控除の対象にならないため、生前に一括で支払いを終えておくことがポイントです。
【生前対策】財産の評価額を下げる4つの方法

次に、戦略②「財産の評価額を下げる」に該当する4つの方法を解説します。財産の経済的価値は変えずに、相続税の計算上の評価額だけを下げるアプローチです。
方法⑧:現金を不動産に組み換えて評価額を圧縮する
相続税の計算において、現金・預貯金はそのままの金額で評価されます。一方、不動産は路線価(時価の約80%)や固定資産税評価額(時価の約50〜70%)で評価されるため、同じ金額の財産でも不動産の方が評価額は低くなります。
たとえば、現金1億円をそのまま持っていれば相続税評価額は1億円ですが、この1億円で土地と建物を購入すると、一般的に相続税評価額は7,000万〜8,000万円程度に下がります。
差額の2,000万〜3,000万円分の相続税が軽減される計算です。
ただし、不動産は流動性が低く、売却に時間がかかる場合があります。また、相続人が複数いる場合は分割が難しくなるデメリットもあるため、不動産への組み換えは慎重に判断する必要があります。
方法⑨:賃貸アパート・マンション経営で「貸家建付地」評価にする
所有する土地に賃貸アパートやマンションを建てると、その土地は「貸家建付地」として評価され、更地よりも評価額が下がります。これは、入居者の権利(借地権・借家権)によって土地の利用が制限されるためです。
貸家建付地の評価額は、おおむね更地の約80%程度になります。さらに、建物も「貸家」として評価されるため、建物の固定資産税評価額からさらに借家権割合(30%)分が減額されます。
加えて、建築資金を借入金でまかなった場合、その借入金は債務控除として相続財産から差し引くことができます。
ただし、空室リスクや建物の維持管理費用、経年による資産価値の下落といったデメリットもあります。節税効果だけでなく、不動産経営としての採算性を十分に検討したうえで判断してください。
方法⑩:小規模宅地等の特例で土地の評価額を最大80%減額する
小規模宅地等の特例は、被相続人が住んでいた土地や事業に使っていた土地について、一定の条件を満たすと評価額を大幅に減額できる制度です。減額割合と限度面積は土地の用途によって異なります。
| 宅地の区分 | 限度面積 | 減額割合 |
|---|---|---|
| 特定居住用宅地等(自宅) | 330㎡ | 80% |
| 特定事業用宅地等(個人事業) | 400㎡ | 80% |
| 貸付事業用宅地等(賃貸等) | 200㎡ | 50% |
※参照:国税庁|No.4124 相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例)
たとえば、自宅の土地の評価額が4,000万円の場合、この特例を適用すれば評価額は800万円まで下がります。3,200万円分の評価減により、相続税が数百万円単位で変わることも珍しくありません。
適用を受けるには、配偶者が相続するか、被相続人と同居していた親族が申告期限まで住み続けるといった要件があります。いわゆる「家なき子特例」(別居の子でも一定要件を満たせば適用可能)もありますが、要件が複雑なため、必ず税理士に確認してください。
方法⑪:養子縁組で法定相続人を増やし基礎控除を拡大する
法定相続人の数が増えると、基礎控除額(3,000万円+600万円×法定相続人数)、生命保険の非課税枠(500万円×法定相続人数)、退職手当金の非課税枠(500万円×法定相続人数)がそれぞれ増えます。
養子縁組によって法定相続人を1人増やすと、基礎控除が600万円、生命保険の非課税枠が500万円、合計で1,100万円分の非課税枠が拡大します。孫を養子にするケースが一般的です。
ただし、相続税法では法定相続人に含められる養子の数に制限があります。被相続人に実子がいる場合は1人、実子がいない場合は2人までです(参照:国税庁|No.4170 相続人の中に養子がいるとき)。
また、節税目的だけの養子縁組と判断された場合は否認される可能性があるため、養子にも適切な財産を相続させることが必要です。
【相続発生後】遺産分割と申告で税額を減らす4つの方法

相続税対策は「生前にやるもの」というイメージが強いですが、相続が発生した後でも税額を減らせる方法は複数あります。
申告期限(死亡日の翌日から10ヶ月以内)までに適切な対応をすることで、合法的に税負担を軽減できます。
方法⑫:配偶者の税額軽減(1億6,000万円まで非課税)を活用する
配偶者が相続した財産については、法定相続分または1億6,000万円のいずれか大きい金額まで相続税がかかりません(参照:国税庁|No.4158 配偶者の税額の軽減)。
これは配偶者の税額軽減と呼ばれ、相続税の節税手法のなかで最も効果が大きい制度のひとつです。
たとえば、遺産総額が2億円で配偶者の法定相続分が1億円の場合、配偶者は1億6,000万円まで非課税となるため、1億円の相続に対しては相続税がゼロになります。
ただし、配偶者に多くの財産を集中させると、二次相続(配偶者が亡くなったとき)の税負担が重くなるリスクがあります。
二次相続では配偶者の税額軽減が使えず、法定相続人も1人減るため基礎控除も小さくなります。一次相続の税額だけでなく、二次相続も含めたトータルの税負担で判断することが重要です。
方法⑬:遺産分割の工夫で家族全体の税負担を最小化する
相続税の総額は法定相続分で計算されますが、実際の遺産の分け方によって各相続人の納税額は変わります。
特に、配偶者の税額軽減や小規模宅地等の特例の適用は遺産分割の内容に左右されるため、「誰がどの財産を取得するか」は節税の観点で極めて重要です。
具体的には、配偶者の取得割合を調整して一次相続と二次相続のトータル税額を最小化する方法や、小規模宅地等の特例が適用できる相続人に自宅の土地を取得させる方法などがあります。
遺産分割協議では感情的な対立が生じやすいため、税理士を交えてシミュレーションを行い、数字に基づいた分割案を検討することをおすすめします。
方法⑭:相続税に強い税理士を選び土地評価を適正に下げる
相続財産のなかで最も評価が難しいのが土地です。同じ土地でも、税理士の評価手法によって数百万〜数千万円単位で評価額が変わることがあります。
たとえば、不整形地の補正、セットバック部分の減額、都市計画道路予定地の減額、地積規模の大きな宅地の評価減など、適用可能な減額要素を見落とさずに評価できるかどうかは、税理士の経験と専門性に大きく依存します。
相続専門の税理士に依頼することで、土地の評価額を適正に下げ、結果として相続税を減らせる可能性があります。税理士報酬がかかりますが、報酬以上の節税効果が得られるケースは少なくありません。
方法⑮:未分割申告→更正の請求で特例を後から適用する
申告期限(10ヶ月)までに遺産分割がまとまらない場合でも、いったん法定相続分で分割したと仮定して申告を行うことができます(未分割申告)。
この段階では配偶者の税額軽減や小規模宅地等の特例は適用できませんが、「申告期限後3年以内の分割見込書」を提出しておくことで、遺産分割が確定した後に更正の請求を行い、特例を適用して税額の還付を受けることが可能です。
遺産分割が難航している場合でも、この方法を使えば節税の機会を逃さずに済みます。ただし、手続きが複雑なため、税理士と相談しながら進めることをおすすめします。
【遺産額別シミュレーション】対策前後で相続税はいくら変わる?

「結局、節税対策をするとどれくらい税額が変わるの?」という疑問にお答えするため、遺産額の異なる3つのケースで、対策前と対策後の相続税額を試算します。
いずれも法定相続人は配偶者+子2人(基礎控除4,800万円)を前提とし、配偶者が法定相続分(1/2)を取得するものとします。
ケース①:遺産5,000万円(配偶者+子2人)の場合
| 項目 | 対策なし | 対策あり |
|---|---|---|
| 課税遺産総額 | 200万円 | 0円 |
| 相続税額(配偶者控除適用後) | 約10万円 | 0円 |
| 主な対策 | なし | 暦年贈与(数年間)、生命保険の非課税枠活用 |
遺産5,000万円は基礎控除4,800万円をわずかに超える水準です。暦年贈与を数年間行うか、生命保険の非課税枠を活用するだけで、課税遺産総額をゼロにでき、相続税を完全にゼロにできる可能性があります。
ケース②:遺産1億円(配偶者+子2人)の場合
| 項目 | 対策なし | 対策あり |
|---|---|---|
| 課税遺産総額 | 5,200万円 | 約2,200万円 |
| 相続税額(配偶者控除適用後) | 約315万円 | 約30万〜50万円 |
| 主な対策 | なし | 暦年贈与10年(計2,000万円)、生命保険1,500万円、小規模宅地等の特例 |
| 節税額 | — | 約265万〜285万円 |
遺産1億円のケースでは、複数の対策を組み合わせることで相続税を約8〜9割削減できる可能性があります。自宅の土地に小規模宅地等の特例が適用できる場合は特に効果が大きく、暦年贈与と生命保険と合わせることで大幅な節税が実現します。
ケース③:遺産2億円(配偶者+子2人)の場合
| 項目 | 対策なし | 対策あり |
|---|---|---|
| 課税遺産総額 | 1億5,200万円 | 約8,200万円 |
| 相続税額(配偶者控除適用後) | 約1,670万円 | 約500万〜700万円 |
| 主な対策 | なし | 暦年贈与10年(計4,000万円)、生命保険1,500万円、不動産組換え、小規模宅地特例 |
| 節税額 | — | 約970万〜1,170万円 |
※上記シミュレーションは一定の前提条件に基づく概算です。実際の税額は財産構成や遺産分割の内容によって異なります。参照:国税庁|No.4152 相続税の計算
遺産2億円クラスでは、適切な対策により約1,000万円前後の節税が可能です。暦年贈与を複数の子・孫に対して長期間行うことに加え、不動産への組み換えや小規模宅地等の特例を組み合わせることが鍵になります。
一次相続と二次相続のトータルで考えるべき理由
上記のシミュレーションは一次相続(最初の相続)のみの計算ですが、実際には配偶者が亡くなったときの二次相続も考慮する必要があります。
一次相続で配偶者に多くの財産を集中させると、配偶者の税額軽減により一次相続の税額は大幅に下がります。
しかし、二次相続では配偶者控除が使えず、法定相続人も1人減るため、基礎控除額は「3,000万円+600万円×2人=4,200万円」に縮小します。結果として、一次相続で節税した以上に二次相続で税負担が増えるケースも起こり得ます。
このため、遺産分割は一次相続の税額だけで判断するのではなく、一次+二次のトータルの税負担を最小化する視点で設計することが重要です。
具体的な配分は家族構成や財産内容によって異なるため、税理士にシミュレーションを依頼してください。
2024年税制改正で変わった相続税・贈与税のポイント

2024年(令和6年)1月以降の贈与から、相続税・贈与税に関する重要な税制改正が適用されています。この改正は節税戦略に大きな影響を与えるため、必ず押さえておきましょう。
生前贈与加算が「3年→7年」に段階的に延長
これまで、被相続人から相続人への暦年贈与は死亡前3年以内のものだけが相続財産に加算されていました。
しかし、2024年1月以降の贈与から、この加算期間が段階的に最大7年に延長されます(参照:国税庁|No.4161 贈与財産の加算と税額控除(暦年課税))。
具体的には、2031年1月1日以降に相続が発生した場合に、死亡前7年以内の暦年贈与が加算対象となります(2024年〜2030年は経過措置あり)。
ただし、延長された4年間(4〜7年前)の贈与については、合計100万円までは加算対象外とする緩和措置が設けられています。
この改正により、暦年贈与による節税効果を得るためには、これまで以上に早い段階から贈与を始める必要があります。
被相続人が高齢になってから始めた暦年贈与は、7年加算によって節税効果が薄れる可能性があるため注意してください。
相続時精算課税に年110万円の基礎控除が新設
2024年1月以降、相続時精算課税制度を選択した場合にも年110万円の基礎控除が新たに認められるようになりました(参照:国税庁|No.4103 相続時精算課税の選択)。
しかも、この110万円以下の贈与は相続財産への加算対象にもならないため、暦年贈与と同様の「贈与税も相続税もかからない」非課税贈与が可能になりました。
これまで相続時精算課税には基礎控除がなく、1円でも贈与すれば申告が必要でした。この改正により、使い勝手が大幅に向上しています。
改正後の暦年贈与と精算課税、どちらが有利か
税制改正後、暦年贈与と相続時精算課税のどちらが有利かは、贈与者の年齢や相続までの見込み期間によって変わります。
贈与者が比較的若く(60〜70代前半)、相続まで10年以上の猶予がある場合は、暦年贈与が引き続き有効です。
7年の加算期間を差し引いても、それ以前の贈与は相続財産に加算されないため、長期間続けるほど効果が大きくなります。
一方、贈与者が高齢(80代以上)で、相続まで数年以内と見込まれる場合は、相続時精算課税の方が有利になるケースが増えます。
年110万円の基礎控除が加算対象にならないため、暦年贈与の7年加算に比べて確実に非課税効果を得られます。
どちらを選ぶべきかは家族ごとに異なるため、税理士に相談して個別にシミュレーションすることを強くおすすめします。
やってはいけない相続税対策5つのNG事例

相続税対策は適法な範囲で行う「節税」であり、脱税とは全く異なるものです。
しかし、やり方を間違えると税務調査で否認されたり、かえって税負担が増えたりするリスクがあります。ここでは、よくあるNG事例を5つ紹介します。
NG①:名義預金で贈与したつもりになっている
子や孫名義の銀行口座に毎年お金を振り込んでいるものの、通帳・印鑑を贈与者が管理し、受贈者がその口座の存在を知らない――こうしたケースは「名義預金」と判断され、贈与が認められません。
名義預金は被相続人の相続財産として課税対象になります。
贈与を成立させるには、受贈者が口座を管理・使用できる状態にすること、贈与契約書を作成すること、受贈者が贈与の事実を認識していることが必要です。
NG②:毎年同額・同日の定期贈与で否認されるリスク
毎年12月25日に110万円ずつ、同じ相手に10年間贈与し続けたような場合、税務署から「当初から1,100万円の贈与を分割して行う約束だった(定期贈与)」とみなされるリスクがあります。
定期贈与と認定されると、1,100万円全体に贈与税が課される可能性があります。
対策としては、毎年の贈与額を変える(100万円、108万円、115万円など)、贈与の時期を変える、その都度贈与契約書を作成するなどの工夫が有効です。
NG③:亡くなる直前の駆け込み贈与は加算対象になる
被相続人の体調が悪化してから慌てて贈与を行っても、死亡前3年〜7年以内の贈与は相続財産に加算されるため、節税効果は得られません。
さらに、意識が不明瞭な状態での贈与は、贈与の意思能力を欠くとして無効とされるリスクもあります。
相続税対策は「元気なうちに、早く始める」が鉄則です。
NG④:タワーマンション節税は2024年から通達改正で厳格化
かつて、タワーマンションの高層階を購入し、市場価格と相続税評価額の大幅な乖離を利用して節税する手法が広まりました。
しかし、2024年(令和6年)1月以降、マンションの相続税評価に関する通達が改正され、市場価格との乖離が大きい場合は評価額が引き上げられる仕組みが導入されました。
これにより、タワマン節税の効果は大幅に縮小しています。新たにタワーマンションを購入して節税を図る場合は、改正後の評価方法を踏まえたシミュレーションが不可欠です。
NG⑤:節税に偏りすぎて納税資金が不足するケース
不動産への組み換えや生前贈与を行いすぎた結果、相続発生時に現金が不足し、相続税を期限内に納付できなくなるケースがあります。
相続税は原則として現金で一括納付する必要があるため、節税と同時に納税資金の確保も計画に組み込む必要があります。
目安として、相続財産のうち最低でも相続税額の1.5倍程度は現金・預貯金で確保しておくことが望ましいでしょう。不動産ばかりで現金が少ない場合は、生命保険で納税資金を準備する方法も有効です。
節税対策をいつから始める?時間軸別ロードマップ

「いつから始めるべきか」は相続税対策の成否を左右する重要なポイントです。残り時間に応じて取れる対策は大きく異なります。
10年以上前から始められる場合の対策
時間的余裕がある場合は、暦年贈与の効果を最大化できます。子・孫など複数人に毎年110万円ずつ贈与を続ければ、10年で数千万円規模の財産移転が可能です。
7年の加算期間を差し引いても十分な節税効果が得られます。不動産への組み換えや賃貸経営、生命保険の加入もこの段階で始めるのが理想です。
5年前〜3年前から始める場合の対策
暦年贈与の加算期間(7年)を考慮すると、贈与の一部は加算対象になる可能性があります。
この段階では、住宅取得等資金贈与や教育資金贈与などの加算対象にならない非課税贈与を優先的に活用するのが合理的です。相続時精算課税の年110万円基礎控除も有力な選択肢になります。
1年前〜直前に駆け込みでできる対策
暦年贈与は加算対象となるため効果が限られます。ただし、生命保険の非課税枠は加算対象にならないため、まだ加入していなければ検討の余地があります。
また、墓石・仏壇の生前購入もこの段階で可能な対策です。相続時精算課税の年110万円基礎控除も活用できます。
相続発生後(10ヶ月以内)にやるべき対策
生前対策の機会は失われていますが、遺産分割の工夫、配偶者の税額軽減や小規模宅地等の特例の適切な適用、相続税に強い税理士による土地評価の見直しなど、相続発生後にできることは少なくありません。
特に税理士選びは相続税額に大きく影響するため、相続専門の税理士に依頼することが最も効果的な「相続発生後の節税対策」といえます。
よくある質問(FAQ)
Q1. 相続税を減らす最も効果的な方法は何ですか?
ケースバイケースですが、効果が大きい方法として、小規模宅地等の特例(土地の評価額を最大80%減額)、配偶者の税額軽減(1億6,000万円まで非課税)、長期間にわたる暦年贈与の3つが挙げられます。
特に自宅の土地がある場合は小規模宅地等の特例の効果が極めて大きく、数百万〜数千万円の節税につながることがあります。
Q2. 相続税は自分で対策できますか?税理士に相談すべきですか?
暦年贈与や生命保険の加入など、シンプルな対策は自分で始められます。
ただし、不動産の評価、特例の適用判断、二次相続を含めたシミュレーションなど、専門的な判断が必要な場面では税理士への相談をおすすめします。
税理士報酬を差し引いても、適切な対策によって報酬以上の節税効果が得られるケースがほとんどです。
Q3. 生前贈与は年間いくらまで非課税ですか?
暦年贈与の場合、受贈者1人あたり年間110万円まで贈与税がかかりません。
また、住宅取得等資金贈与は最大1,000万円、教育資金の一括贈与は最大1,500万円、結婚・子育て資金の一括贈与は最大1,000万円の非課税枠があります。
それぞれ適用要件が異なるため、利用前に確認が必要です。
Q4. 相続税がかからないのはいくらまでですか?
相続税の基礎控除額は「3,000万円+600万円×法定相続人の数」です。
たとえば、配偶者と子2人が法定相続人であれば4,800万円、配偶者と子1人であれば4,200万円までは相続税がかかりません。遺産総額がこの金額以下であれば、申告も不要です。
Q5. 相続が発生した後でも相続税を減らす方法はありますか?
あります。相続発生後にできる主な方法は、配偶者の税額軽減の活用、小規模宅地等の特例の適用、遺産分割の工夫による家族全体の税負担最小化、相続専門の税理士による土地の適正評価の4つです。
特に税理士選びは重要で、土地評価の精度によって税額が数百万円単位で変わることがあります。
まとめ|あなたの状況に合った節税プランを見つけるために
相続税を減らす方法は「財産を減らす」「評価額を下げる」「控除・特例を使う」の3つの戦略に集約されます。
本記事で紹介した15の節税方法のうち、どれが最も効果的かは遺産の規模、財産の構成、家族構成、そして残された時間によって異なります。
最後に、今すぐ取り組むべきアクションを3つに整理します。
1. まず自分の相続税額を概算で把握する
節税対策の第一歩は、現状で相続税がいくらかかるかを知ることです。遺産の総額、法定相続人の数、財産の構成を整理し、基礎控除額と照らし合わせてみてください。国税庁のサイトや税理士事務所が提供する相続税シミュレーションツールを活用するのも有効です。
2. 遺産額と残り時間から優先すべき対策を絞り込む
遺産が基礎控除額をわずかに超える程度であれば、暦年贈与や生命保険の非課税枠だけで相続税をゼロにできる可能性があります。遺産が1億円を超える場合は、不動産の活用や小規模宅地等の特例など、複数の対策を組み合わせる必要があります。残り時間が短い場合は、加算対象にならない方法を優先しましょう。
3. 相続専門の税理士に相談する
相続税の節税は、制度の理解だけでなく、個別の状況に応じた判断が求められます。特に、二次相続を含めたトータルの税負担最小化や、土地の適正評価、税制改正への対応は専門家の知見が不可欠です。早い段階で相続に強い税理士に相談することが、最も確実な節税への近道です。
※本記事の情報は2026年3月時点のものです。税制は改正される可能性があるため、具体的な対策にあたっては最新の情報を確認し、税理士にご相談ください。



