相続税の負担を少しでも抑える方法として注目されているのが「生前贈与」です。
毎年110万円までは贈与税がかからない制度があるため、少しずつ財産を移しておけば、将来の相続税を軽くできるイメージを持っている方も多いのではないでしょうか。
ただ、近年は税制の見直しが続き、生前贈与が本当に相続税対策として有効かどうかは“使い方次第” になってきています。
特に2024年の改正では「死亡前加算ルール」が変わり、生前贈与の扱いが厳しくなった部分もあるため、正しい理解が欠かせません。
この記事では、生前贈与の基礎知識から相続税との関係、最新の税制改正ポイント、生前贈与を活用した節税方法、注意点などを網羅的に解説します。
生前贈与とは?相続との違いや制度のポイントを解説
生前贈与とは、贈与者が生存中に、子ども・孫・配偶者などの受贈者へ財産を移転する行為です。贈与の対象となる財産は、現金・預貯金・不動産・株式・投資信託、さらには自動車や貴金属など多岐にわたります。
生前贈与は「相続税対策の代表的手段」とされることが多く、特に相続税の課税対象となる可能性が高い家庭では、早い段階から検討されるケースが増えています。
その理由は、生前贈与により相続財産を計画的に減らせるため、将来の相続税の負担軽減が期待できることにあります。
しかし、実際には下記のような理由で、後に相続税の対象に戻されてしまうケースも少なくありません。
- 贈与と認められるための要件を誤っている
- 名義預金のリスクを理解していない
- 記録・証拠を残さずに行っている
まずは、生前贈与について正確な基礎知識を整理していきます。
生前贈与の基本的な考え方
生前贈与の基本となるのは、「双方の意思が一致していること」です。
贈与行為は、民法上「契約」に該当するため、一方的に財産を渡すだけでは成立しません。
▼贈与成立の三要件
- 贈与者の贈与意思の存在
贈与者が「財産を渡す意思」を持っていることが必要です。 - 受贈者が受け取る意思を示していること
意思表示が曖昧な場合、後の税務調査で「贈与とは認められない」と判断されることがあります。 - 財産の移転が実際に行われていること
現金・預貯金の場合は、口座振込記録などの客観的な証拠が重要です。
名義預金が問題視される理由
生前贈与で最も多いトラブルが 「名義預金」 です。
名義預金とは、
- 子ども名義の口座を親が管理
- 子どもは口座の存在すら知らない
- 印鑑・通帳は親が保管している
といった状態の預金のことです。
これは形式上は子ども名義であっても、実質的に親が管理しているため、親の財産として相続税の対象に含まれる可能性があります。
税務署は、「名義だけ子ども」の預金を非常に厳しく確認します。
そのため、生前贈与を確実に成立させるためには、下記の要件などを整え、客観的な証拠を揃えることが不可欠です。
- 贈与契約書
- 銀行振込による履歴
- 通帳・明細の保管
相続と生前贈与の違い
生前贈与と相続は、財産の移転時期や課税関係、控除制度が大きく異なります。特に、相続税と贈与税は制度設計の目的が異なるため、課税方式も別物です。
| 項目 | 生前贈与 | 相続 |
|---|---|---|
| 財産が移る時期 | 生前(任意の時期) | 被相続人の死亡時 |
| かかる税金 | 贈与税 | 相続税 |
| 主な控除 | 年間110万円の基礎控除 | 基礎控除3,000万円+600万円×法定相続人 |
| 課税の仕組み | 原則として毎年の贈与額に課税 | 相続財産を合計して課税 |
| 税率 | 贈与税は相対的に高い | 相続税は累進だが緩やか |
| 分配の自由度 | 高い(贈与者の意思で調整可能) | 低い(法定相続分などの制約あり) |
生前贈与の場合、贈与者の意向がより反映されるため、下記のようなメリットがあります。
- 争続(相続トラブル)の予防
- 生前のうちに財産を活用してもらえる
一方、相続では法定相続人や法定相続分が強く関与するため、配分をめぐって争いに発展するケースもあり、その意味でも生前贈与は有効な選択肢になります。
贈与が「成立した」とみなされる条件
贈与は「成立したと税務署が認めるかどうか」が非常に重要です。税務署は“形式より実質”を重視するため、以下のポイントが揃っているか確認されます。
▼贈与成立の具体的条件
- 贈与の意思が双方にあることが客観的に確認できるか
- 確実に財産の移転が行われているか
口座間の振込が最も強い証拠です。 - 受贈者が財産を自由に使える状況にあるか
名義口座であっても、実際には親が管理している場合は否認の対象です。
贈与が成立した際は、贈与契約書を作成しておくこともおすすめします。贈与契約書は贈与の事実を証明する重要資料です。
法的には「口頭での贈与契約」でも成立しますが、税務調査を考慮すると、下記を記載した書面があるほうが望ましいといえます。
- 日付
- 金額
- 贈与者・受贈者の署名
誰に贈与できる?家族間で起きがちな勘違い
生前贈与は、法律上、基本的に誰にでも行うことが可能です。ただし、家族間の贈与には特有の注意点があります。
①「子ども名義の預金=贈与」ではない
子ども名義でも、下記のような場合は、贈与ではなく親の財産と判断されます。
- 通帳・印鑑を親が管理
- 子どもは預金の存在を知らない
- 親がお金を自由に引き出している
②未成年への贈与は可能だが“管理方法”が問われる
未成年者への贈与は可能ですが、以下が整っている必要があります。
- 通帳は受贈者名義で作成されている
- 親が管理する場合でも、受贈者の財産として扱う運用がされている
- 贈与契約書や振込記録が残っている
管理状況が曖昧だと名義預金として扱われる可能性があります。
③配偶者控除(おしどり贈与)という特例がある
婚姻期間20年以上の配偶者へ居住用の不動産(またはその購入資金)を贈与した場合、2,000万円までが非課税になる制度です。
制度を利用するには、下記などの条件があるため、事前確認が必要です。
- 実際に居住用として使用している
- 贈与を受けた年の翌年3月15日までに申告する
参照:国税庁「夫婦の間で居住用の不動産を贈与したときの配偶者控除」
贈与税の計算方法(基礎控除110万円と課税方式)
贈与税とは、1年間に受け取った財産の合計額に応じて課税される税金です。贈与税の計算は原則として以下の流れで行われます。
▼【贈与税の基本計算式】
(年間の贈与額 − 110万円) × 税率 − 控除額
この「110万円」が暦年課税における基礎控除であり、年間110万円以内の贈与であれば、原則として申告・納税の必要はありません。
▼暦年課税のポイント
- 毎年110万円が“1月1日〜12月31日”でリセット
- 贈与者が複数いても合計で110万円
- 110万円を1円でも超えると申告が必要
このため、毎年110万円以内でコツコツ財産移転する方法は、生前贈与では最も一般的な節税策です。
贈与税はなぜ高いのか?累進課税の仕組み
贈与税は相続税に比べて“高率”といわれますが、その背景には制度設計上の明確な意図があります。贈与税の税率は、10%〜55%の累進課税で、贈与額が増えるほど高い税率が適用されます。
| 課税価格(基礎控除後) | 税率 | 控除額 |
|---|---|---|
| 200万円以下 | 10% | — |
| 300万円以下 | 15% | 10万円 |
| 400万円以下 | 20% | 25万円 |
| 600万円以下 | 30% | 65万円 |
| 1000万円以下 | 40% | 125万円 |
| 1500万円以下 | 45% | 175万円 |
| 3000万円以下 | 50% | 250万円 |
| 3000万円超 | 55% | 400万円 |
贈与税が高く設定されているのは、「富の移転を生前に集中させてしまうことを抑制する目的」があるためです。
相続税との関係(どちらで課税されるのか?)
贈与税は生前の財産移転に対して課税される税金ですが、相続税は被相続人が死亡した時点で残っている財産全体に対して課税される税金です。
相続税計算の基礎となるのは、以下の「相続税の基礎控除」です。
▼【相続税の基礎控除額】
3,000万円 + 600万円 × 法定相続人の数
たとえば、
- 配偶者+子ども1人の場合 → 法定相続人は2人
→ 基礎控除は 3,000万円 + 600万円×2 = 4,200万円
この場合、相続財産が4,200万円を超えなければ相続税は原則として発生しません。
▼相続税の特徴
- 相続税の税率は10〜55%の累進課税
- ただし計算構造が複雑で、贈与税とは別体系
- 生命保険の非課税枠(500万円×法定相続人)など特例が多い
生前贈与は相続財産を減らす効果があるため、うまく使えば基礎控除内に収めることが可能となるケースもあります。
暦年課税と相続時精算課税の違い
贈与税には2つの課税方式があります。
▼暦年課税(110万円控除/一般的な方式)
- 年間110万円まで非課税
- 多くの人が利用する方式
- 長期的な相続税の圧縮が可能
- ただし「死亡前7年以内の贈与」は加算対象(2024年改正)
▼相続時精算課税制度(特別制度)
- 2,500万円まで贈与税が非課税
- 超えた部分は一律20%で課税
- 適用した贈与はすべて相続時に加算される
- 不動産贈与など、大きな財産移転に使われることが多い
- 一度選ぶと「暦年課税には戻れない」
相続時精算課税制度は便利に見えますが、「相続時に課税される」という点を理解していないと想定外の相続税が発生する場合があります。
参照:国税庁「贈与税の計算と税率(暦年課税)」
国税庁「相続時精算課税の選択」
税率が高くなるケース・軽くなるケース
生前贈与に適用される贈与税および相続時に適用される相続税は、いずれも累進課税によって計算されます。つまり、移転する財産の金額が大きくなればなるほど適用税率が上昇する仕組みです。
そのため、「どのタイミングで、どの金額を贈与・相続するか」によって、最終的な税負担に大きな差が生じます。
以下では、税率が高くなるケースと税率が低く済むケースを、具体的な例も交えて整理します。
税率が高くなるケース(負担が重くなるパターン)
税率が高くなるケースは下記のようなケースが考えられます。
高額な贈与を短期間で行う場合
贈与税の暦年課税は、受贈者が1年間に受け取った贈与額の合計で税率が決まります。
そのため、1年で多額の贈与を行うと、累進課税の影響で税率が急激に上昇します。
〔例〕
・1年で500万円の贈与 → 税率30%(控除65万円)
・1年で1,200万円の贈与 → 税率40%(控除125万円)
短期間に多額を贈るほど、税率は上がり、税負担は重くなります。
相続時精算課税を安易に選択した場合
相続時精算課税は2,500万円までの贈与が非課税となるため魅力的に見えますが、以下の注意点があります。
- 将来、相続の際に贈与財産が必ず合算される
- 評価が高い時点で贈与すると、相続時の課税対象額が大きくなる
- 一度選択すると暦年課税(110万円控除)には戻れない
結果として、想定していたより大きな相続税が発生するケースが多発しています。
死亡前加算(持ち戻し)期間に該当した場合
2024年の税制改正により、「死亡前3年以内→7年以内に延長」となる見込みです。
死亡前加算に該当すると、贈与税で課税された贈与であっても、相続財産に戻されて課税されるため、贈与税・相続税の二重負担が発生し得ます。
不動産評価や財産評価が高額な場合
不動産、株式、投資信託、預貯金などの合計評価額が大きいほど、累進課税の影響を受けて税率が高くなります。
特に下記などを含む場合、相続税の課税価格が急増し、上位の税率帯(最大55%)に該当するケースも少なくありません。
- 都市部の不動産
- 時価が高騰している株式
税率が軽くなるケース(負担が抑えられるパターン)
税率が低く済むケースは下記のようなケースが考えられます。
暦年課税を活用して毎年110万円以内で贈与する場合
年間110万円までの贈与は贈与税が課されません。
これを長期にわたり継続すると、相続財産を計画的に減少させられるため、相続税の節税効果が大きくなります。
〔例〕親が10年間、子に110万円ずつ贈与した場合〕
→ 累計1,100万円が無税で移転し、その分相続財産を減少させられる。
相続税の基礎控除を活用できる場合
相続税の基礎控除は以下の式で計算されます。
3,000万円 + 600万円 × 法定相続人の数
財産総額がこの基礎控除額以内で収まる場合、相続税は発生しません。
そのため、生前贈与により財産総額を基礎控除以内に減らせると税負担が大幅に軽減されます。
不動産の生前贈与で評価額が下がる場合
不動産は、下記の要素などで評価が決まります。
- 路線価
- 倍率方式
- 負担付贈与(借地権・借家権)
条件によっては、実勢価格(時価)より評価額が下がり、税負担が軽くなる場合があります。
ただし、登録免許税・不動産取得税の増加や管理負担も考慮が必要です。
特例制度を活用した場合(教育資金・結婚資金・配偶者控除等)
以下の非課税制度を使うことで、一時的に多額の贈与を行っても税負担を軽減できます。
- 教育資金の一括贈与の非課税制度
- 結婚・子育て資金の非課税制度
- 配偶者控除(おしどり贈与、2,000万円まで非課税)
これらの制度は要件が細かいものの、条件を満たせば非常に効果的です。
2024年税制改正のポイント(暦年贈与の見直し)
2024年税制改正では、贈与税と相続税をより密接に結びつけ、相続税の公平性を保つ目的で以下のような見直しが行われました。
▼従来:死亡前3年以内の贈与が相続財産に加算(持ち戻し)
以前は、亡くなる前3年以内の贈与について、
贈与税がかかっていても相続財産に戻して計算するというルールでした。
しかし、多くの家庭で「3年より前に贈与すれば節税になる」と捉えられ、長年課題とされてきました。
● 死亡前加算(持ち戻し)の期間が“7年”へ延長
最新の税制改正では、死亡前の贈与が相続税に加算される期間が 「3年 → 7年」 に延長されます(段階的に実施)。
新ルールの概要
- 死亡前 7年以内 の贈与は相続財産に加算
- 7年以上前の贈与については原則として加算の対象外
- 暦年贈与(110万円非課税)も加算対象になる場合がある
- 一部制度(相続時精算課税など)も影響を受ける
これにより、多くの家庭で生前贈与の開始時期・計画が重要になります。
死亡前加算が導入された背景(政策的意図)
死亡前加算期間が長期化した背景には、下記などの事情があります。
- 富の早期移転による税負担の偏り
- 暦年贈与の“抜け道化”
- 高齢化による贈与時期の高齢化(平均90歳前後)
これまでの制度では、「亡くなる直前にまとまった贈与」をすれば節税になるという歪みも存在していました。
新制度はこれを是正し、贈与と相続の一体課税による公平性の確保を目的としています。
加算対象となる贈与
死亡前加算の対象となるのは以下の贈与です。
▼加算される贈与
- 暦年贈与(110万円以内を含む)
- 金銭・預金の贈与
- 不動産や有価証券の贈与
- 子ども・孫などへの贈与全般
▼加算されないケース
一部、以下のように例外が存在します。
- 通常の生活費・教育費(必要性・社会通念上妥当な範囲)
- 特定の扶養義務の履行
- 要件を満たす教育資金贈与・結婚子育て資金贈与(※制度ごとの条件により異なる)
ただし、これらも記録が曖昧な場合は否認される可能性があります。
暦年贈与の効果が薄れる?制度改正の影響
110万円の非課税枠(暦年贈与)は引き続き利用可能です。しかし、死亡前加算期間の延長により、節税効果が大きく低下するケースがあります。
▼従来
「3年以上前から毎年110万円ずつ贈与すれば大きな節税になる」
▼改正後
「7年以上前から計画的に贈与を始めなければ節税効果が薄い」
このため、下記のような場合では、従来ほどの効果は期待できません。
- 贈与者が高齢になってから始める暦年贈与
- 贈与開始が遅いケース
名義預金や形式的な贈与はより厳しくチェックされる
改正により、税務署は生前贈与の正当性について、“形式よりも実質”を従来以上に重視する傾向が強まっています。
特に以下の点が懸念されます。
▼名義預金の典型例
- 子ども名義の口座を親が管理
- 通帳・印鑑は親が保管
- 子どもは口座の存在を把握していない
これらはすべて“生前贈与と認められない”可能性が高く、相続税申告時に相続財産として加算されることになります。
▼形式的な毎年同額の贈与も危険
毎年同じ金額・同じ時期に振り込むなど、行為が「贈与契約」ではなく「定期的な仕送り」に見える場合は否認されるリスクがあります。
不動産贈与も加算対象になるため、慎重な計画が必要
不動産を贈与した場合でも、死亡前7年以内であれば再度相続財産として加算される可能性があります。
不動産贈与は、下記などのコストが大きいため、加算対象となると負担が非常に重くなります。
- 登録免許税
- 不動産取得税
- 固定資産税
相続税では「時価」と「路線価」などで評価が異なる
生前贈与を活用した相続税対策の代表パターン
生前贈与は、相続税対策として非常に有効な手段となり得ますが、その効果は“どの方法を採用するか”によって大きく変わります。
ここでは、一般によく利用される生前贈与の代表的なパターンを整理し、それぞれのメリット・注意点を含めて詳しく解説します。
110万円の非課税枠(暦年贈与)を活用する方法
暦年贈与は、年間110万円までの贈与が非課税となる最も基本的な制度です。
この方法は、多くの家庭で相続税対策として利用されており、贈与の中でも王道といえる手段です。
▼【特徴・メリット】
- 毎年110万円以内であれば贈与税がかからない
- 長期間継続すれば、相続財産の圧縮効果は非常に大きい
- シンプルで運用しやすい
例:10年継続した場合 → 合計1,100万円の財産移転が可能
相続税が発生する可能性が高い家庭では、この積み重ねが大きな節税につながります。
▼【注意点】
- 名義預金として扱われるリスクがあるため記録が重要
- 贈与者が高齢の場合、“死亡前加算”の対象となる可能性
- 110万円を超えると贈与税申告が必要
- 毎年の贈与としての形式(契約書・振込記録)が求められる
暦年贈与は非常に有用ですが、税制改正により死亡前加算の期間が延びるため、「いつから贈与を始めるか」というタイミングがより重要になります。
具体例:毎年110万円ずつの贈与を20年間続けたケース
- 贈与者:父(70歳)
- 受贈者:子(40歳)
- 方法:毎年110万円を銀行振込
- 継続期間:20年間
→ 合計:2,200万円を無税で移転
この結果、父の相続財産が 2,200万円圧縮され、相続税の基礎控除(3,000万円+600万円×法定相続人)内に収まる可能性が高まりました。
また、子どもが受け取った資金は住宅取得の頭金に充てられ、「生前に役立つ資金」というメリットも得られます。
教育資金の一括贈与を利用する方法(非課税制度)
教育資金の一括贈与制度は、祖父母から孫へ教育資金を一括で贈与できる制度で、一定の金額まで非課税となります。
▼【制度の概要】
- 銀行・信託銀行などを通じた専用口座で管理
- 私立学校の学費、教育関連費などが対象
- 非課税限度額:最大1,500万円(学校教育部分)
▼【メリット】
- 多額の資金移転を一度に行える
- 教育費として使用する限り非課税で処理可能
- 若い世代への早期支援として有効
▼【注意点】
- 使途が「教育関連費」に限定される
- 領収書の提出など記録管理が必要
- 受贈者が30歳になる時点で余りがあると課税の可能性
制度の利便性は高いものの、運用の手間と制限が大きいため、目的が明確な場合に適している方法です。
具体例:私立中学〜大学まで教育費負担が重い家庭のケース
- 贈与者:祖父(65歳)
- 受贈者:孫(10歳)
- 贈与額:1,500万円(信託銀行の専用口座へ)
- 利用用途:私立中学・高校・大学の学費
▼【効果】
- 多額の教育費を非課税で贈与できた
- 子の教育費負担が大幅に軽減
- 相続財産を早期に減らすことができた
祖父母の資産を若年世代の教育費に振り向けられるため、「教育費負担を見据えた家庭」で非常に効果的です。
結婚・子育て資金の非課税制度を利用する方法
結婚・出産・育児にかかわる資金についても、一定額まで贈与税が非課税となる制度があります。
▼【制度の概要】
- 銀行等に専用口座を開設
- 結婚式費用・不妊治療費・保育料など幅広い用途で利用可能
- 非課税限度額:最大1,000万円(うち結婚費用は300万円まで)
▼【メリット】
- 生前贈与の一括実行により、効果的な資産移転が可能
- 幅広い費用に適用できるため使い勝手が良い
▼【注意点】
- 受贈者が一定年齢に達すると残額が課税対象
- 不正使用がないよう領収書管理が必要
- 制度自体が期限付きのため、最新情報の確認が必要
制度の利用には手続きが必要ですが、ライフイベント支援と相続税対策を両立できる点が魅力です。
具体例:不妊治療と出産費用の負担が重い夫婦を支援したケース
- 贈与者:母(70歳)
- 受贈者:娘(35歳)
- 贈与額:700万円
- 使用用途:不妊治療費・出産費用・保育料
▼【効果】
- 実際の支出分はすべて非課税
- 出産・育児の経済的負担が大幅に軽減
- 母の相続財産が圧縮され相続税減額
育児・医療に関する支出は大きいため、若い家庭にとって特に効果が高い制度です。
不動産を生前贈与する方法(相続時精算課税との併用も含む)
不動産の生前贈与は、相続税対策として特に効果が大きくなるケースがあります。不動産は評価方法が多岐にわたり、時価よりも低い評価で贈与できる可能性があるためです。
▼【メリット】
- 借家権割合などにより評価額が下がる可能性
- 将来的な値上がりリスクを回避できる
- 相続時精算課税との併用で高額贈与がしやすい
▼【注意点】
- 登録免許税、不動産取得税などのコストが発生
- 固定資産税の負担が受贈者側に移る
- 将来の売却時に譲渡所得税が高くなるケースもある
- 相続時精算課税制度を選択すると戻れない
不動産は評価額・税金・管理など検討事項が多いため、生前贈与を行う際には特に専門家の助言が求められます。
具体例:収益物件を早期に子へ贈与し、将来の相続税負担を軽減したケース
- 贈与者:父(60歳)
- 財産:賃貸マンション(評価2,000万円)
- 贈与方法:相続時精算課税を利用(2,500万円以内)
- 贈与後:家賃収入を子が取得し、父の財産増加を抑制
▼【効果】
- 評価額2,000万円を非課税で贈与
- 将来の値上がりリスクを回避
- 父の相続財産から2,000万円分を早期移転
- 子の所得分散にもなり、家計全体の税負担軽減
収益物件の贈与は、所得分散の効果も加わり、節税メリットが大きい代表的なパターンです。
高齢の贈与者が早期に贈与を開始するパターン
生前贈与は、開始時期が早いほど節税効果が高まりやすい制度です。
特に死亡前加算の期間(事実上、7年内の贈与が相続財産に加算される)が延長されるため、早期開始の重要性は高まっています。
▼【メリット】
- 長期間の暦年贈与(110万円)で大きな節税が可能
- 名義預金のリスク管理がしやすい
- 家族間で財産承継を計画的に進められる
▼【注意点】
- 贈与者が高齢だと、短期間での贈与効果が限定される
- 判断能力の低下により、贈与契約の有効性が争われるリスク
- 死亡前加算に該当しやすくなる
早期の生前贈与は大きなメリットがあるものの、長期計画の設計と確実な証拠管理が前提となります。
具体例:60代前半から毎年贈与を実施したケース
- 贈与者:父(63歳の時に開始)
- 方法:毎年110万円+住宅取得資金の特例贈与
- 期間:12年間継続
▼【効果】
- 暦年贈与:110万円×12年=1,320万円を無税で移転
- 父の死亡時、6年分は死亡前加算に該当せず(=節税効果が残る)
- 子の住宅ローン負担も軽減
- 生前から財産承継の準備が進んだ
“60代で始める” だけでも、7年ルールに対応しやすい優れたタイミングです。
生前贈与のメリット・デメリット
生前贈与は、相続税対策の方法として広く活用されている一方、その効果やリスクは贈与の方法・時期・対象によって大きく異なります。
生前贈与の内容によっては、節税となるどころか、贈与税や将来の相続税負担が増加するケースすらあります。
本章では、生前贈与の代表的なメリットとデメリットを整理し、特に注意すべき「落とし穴」を具体的に解説します。
実務でも頻繁に問題となる項目を中心に、制度の理解と計画立案に役立つ内容をまとめます。
生前贈与のメリット
生前贈与は下記ようなメリットがあります。
計画的に相続財産を減らし、相続税負担を軽減できる
生前贈与の最大のメリットは、相続財産をコントロールしながら減らし、相続税を軽減できる可能性がある点です。
特に暦年贈与(毎年110万円以内の贈与)を長期間継続すると、下記のように大きな相続財産の圧縮が可能です。
- 10年で1,100万円
- 20年で2,200万円
- 30年で3,300万円
これにより、下記などの効果が期待できます。
- 相続財産を基礎控除以内に抑えられる
- 累進課税による高税率帯への突入を防げる
財産の分配を生前に調整でき、家族間トラブルを防ぎやすい
相続では、法定相続分や遺留分などが関係するため、遺産の分け方をめぐって家族間で争いが生じることがあります。
生前贈与を活用すれば、贈与者の意思で財産を事前に分配でき、相続発生後のトラブルを予防しやすくなるというメリットがあります。
また、生前に分配の理由を家族に説明することで、相続後の誤解や不信感を軽減する効果も期待できます。
若い世代が早い段階で財産を活用できる
生前贈与を行うことで、若い世代のライフイベントを支援できます。
- 教育費
- 結婚・子育て資金
- 自宅購入資金など
相続よりも早期に財産を移転できることは、次世代の生活基盤を整えるうえで大きなメリットとなります。
不動産の値上がりリスクを回避できる
不動産は将来値上がりする可能性があります。生前贈与を行うことで、評価額が上昇する前に財産を移転できる場合があります。
また、不動産には評価額が実勢価格より低くなる要素(借地権割合・借家権割合など)があり、相続時より低評価で贈与できるケースもあります。
生前贈与のデメリット
生前贈与で考えられるデメリットは下記です。
贈与税・登録免許税などの負担が大きくなる可能性
贈与税は相続税に比べて税率が高く設定されており、下記を行うと、贈与税の負担が過大になることがあります。
- 高額贈与
- 一度にまとまった贈与
また、不動産贈与の場合は以下のような費用も発生します。
- 登録免許税
- 不動産取得税
- 測量費・司法書士費用
- 固定資産税(受贈者が引き継ぐ)
これらを合計すると、想像以上の負担になることがあります。
相続税との二重課税となるリスク(死亡前加算)
2024年以降、死亡前加算が3年から7年に延長されるため、死亡前7年以内の贈与は相続財産に戻されます。
つまり、贈与税を支払った贈与であっても、
相続税の対象に再度含まれる(=実質的に二重課税)
という状況が発生する可能性があります。
特に、下記の場合は、節税効果が薄いどころか逆効果になるケースがあります。
- 高齢になってから暦年贈与を始める
- 短期間で多額の贈与を行う
譲渡所得税が高額になる場合がある(不動産贈与の落とし穴)
不動産の贈与を受けた受贈者が、その不動産を将来売却する場合、取得費が低く算定されるため、譲渡所得税が高額になることがあります。
【例】
- 親が1,000万円で取得した不動産を、時価3,000万円で贈与
→ 受贈者が売却する際の取得費は “親の取得費(1,000万円)” を引き継ぐ
→ 売却時の課税所得が大きくなり、譲渡税負担が跳ね上がる
生前贈与の代表的な“見落としポイント”のひとつです。
判断能力の低下による無効リスク
贈与契約は「意思能力」が必要であり、認知症などで判断能力が不十分と判断されると、贈与契約自体が無効になる可能性があります。
また、名義変更後にトラブルになると、法律上の争いに発展しやすい点もデメリットのひとつです。
生前贈与の“落とし穴”(実務でよく起きる問題)
以下のポイントは、実務でも特に問題となる項目です。
名義預金と判断されるケース
生前贈与のトラブルで最も多いのが名義預金です。
以下のような状態は贈与と認められにくく、相続時に“相続財産”として扱われます。
- 子ども名義の預金を親が実質管理している
- 子どもが口座の存在を知らない
- 通帳・印鑑が親側にある
- 定期的に親が勝手に入出金している
名義預金は税務調査でも最も厳しくチェックされるため、贈与契約書や振込記録など、形式と実質の両方を整える必要があります。
贈与契約書の欠如・不備
生前贈与は「契約」であるため、贈与契約書がない、または形式だけの契約書の場合、贈与と認定されない可能性があります。
必ず以下を押さえることが重要です。
- 日付(贈与日)
- 贈与金額・財産の内容
- 贈与者・受贈者の署名
- 実際の振込(履歴との整合性)
贈与の実態と記録が一致していない
税務署は「書面」より「実態」を重視します。
贈与契約書と振込額が一致しない、子どもが引き出せない状態であるなど、実際の運用が不自然な場合、贈与の有効性が疑われます。
生前贈与をしたものの管理が不十分
受贈者が未成年の場合、親が代理管理しますが、親の口座と混在させて管理すると贈与として認められにくくなります。
専用口座の開設、帳簿管理、書面保管が必要です。
不動産贈与の税負担や将来リスクを見誤る
不動産贈与は、複数の税金が関係するため、最適な方法は家庭によって異なります。
- 登録免許税
- 不動産取得税
- 固定資産税
- 贈与税
- 将来の譲渡所得税
単に「不動産を贈与すれば節税できる」と考えるのは危険です。
財産の整理から贈与の実行・記録・申告までの流れ
生前贈与を相続税対策として確実に成立させるためには、適切な手順を踏み、証拠を整え、継続的に記録を残す体制の構築が欠かせません。
単に財産を渡すだけでは贈与として認定されず、名義預金と判断される、死亡前加算の対象となるなど、節税効果が十分に得られない場合があります。
ここでは、生前贈与を行う際の実務手順を 「STEP1〜STEP6」 に分けて体系的に整理し、実務で特に重要なポイントを解説します。
STEP1:財産の棚卸し(贈与計画の前提となる基礎作業)
生前贈与の第一歩は、贈与者が保有する財産の内容と評価額を正確に把握することです。”財産の棚卸し” は、相続対策の出発点として最も重要な工程といえます。
▼棚卸しに含めるべき主な資産
- 現金・預貯金
- 上場株式・投資信託
- 社債・国債などの金融資産
- 不動産(自宅・土地・賃貸物件)
- 生命保険(解約返戻金)
- 事業資産
- 負債(借入金・ローン)
これらを一覧化することで、下記などが明確になります。
- 贈与に回せる余剰資金
- 相続税が発生する可能性
- どの財産から先に移転すべきか
財産の評価方法(特に不動産・株式)は専門的であるため、税理士の確認が推奨されます。
STEP2:贈与計画の作成(対象者・金額・期間の設計)
財産内容を把握したら、次は贈与計画を立案します。贈与は単発で行うのではなく、「何を」「誰に」「どのタイミングで」「何年かけて」贈与するかの計画性が極めて重要です。
▼贈与計画で検討すべき項目
- 贈与する財産の種類(現金・不動産・株式など)
- 贈与額と期間(暦年贈与を何年継続できるか)
- 贈与対象者(子ども・孫・配偶者など)
- 贈与者の年齢・健康状態
- 死亡前加算(7年)に該当するリスク
- 相続時精算課税を使うべきかどうか
- 不動産贈与の場合の将来コスト(固定資産税・管理費等)
▼贈与計画が重要な理由
- 記録の統一性が担保され、贈与の実質性が認められやすい
- 節税効果の最大化が期待できる
- 贈与者の健康状態・寿命リスクを踏まえた計画立案が可能
暦年贈与を活用する場合は、贈与者が高齢でも1日でも早く開始することが有利になる点も重要です。
STEP3:贈与契約書の作成(贈与の成立を証明する核心書類)
贈与契約は民法上の「契約」であり、贈与が成立したことを明確に示すためには 贈与契約書が必須 と考えるべきです。
▼贈与契約書に記載すべき項目
- 贈与者・受贈者の氏名・住所
- 贈与日
- 贈与する財産の内容(現金・不動産・株式など)
- 金額
- 贈与の意思を示す文言
- 贈与者・受贈者双方の署名・押印
▼紙と電子、どちらでも作成可能
- 紙で作成する場合は署名・押印
- 電子契約でも有効(ただし保存方法・電子署名は要確認)
税務調査では「契約書」と「実際の金銭移動」が一致しているかが厳密に確認されます。
STEP4:贈与の実行(銀行振込が最も証拠力が高い)
贈与契約書を作成したら、実際に財産を移転します。現金を手渡しする方法も理論上は可能ですが、証拠能力が極めて弱く、税務上は推奨されません。
▼推奨される贈与方法
- 銀行振込(最も証拠力が強い)
- 子ども・孫名義の銀行口座への振込
- 記録が残る形式(振込明細・通帳コピー)
▼避けるべき方法
- 現金手渡しのみ(証拠不十分)
- 親が通帳・印鑑を管理する“名義預金”状態
- 定期的に同額を自動送金(“仕送り”と疑われる)
贈与実行後は、必ず通帳のコピー・振込履歴を保管し、贈与契約書とセットで保管することが重要です。
STEP5:贈与税申告の要否確認(110万円超は申告が必要)
暦年課税の場合、年間110万円を超える贈与は贈与税申告が必要です。
▼贈与税申告の概要
- 申告期間:翌年2月1日〜3月15日
- 必要書類:贈与契約書、受贈者の口座明細書、財産の資料など
- 申告は受贈者(贈与を受けた人)が行う
- 相続時精算課税を選択する場合、初年度に届出が必要
贈与税の申告は相続税の申告と比較してシンプルですが、不備があると後に「贈与ではなく名義預金」と判断されることがあります。
STEP6:贈与記録の保管と継続管理(税務調査で最重要)
生前贈与は一度実行したら終わりではなく、毎年の贈与を継続し、記録を体系的に保管することが極めて重要です。
▼保管すべき資料
- 贈与契約書(毎年)
- 振込記録・通帳コピー
- 受贈者側の通帳コピー
- 贈与税申告書の控え(申告した場合)
- 不動産贈与の場合は登記関係書類
- 教育資金等の特例を利用した場合の利用明細・領収書
▼記録管理が重要な理由
- 税務調査で「形式ではなく実質」が問われる
- 名義預金と判断されるリスクが減少
- 死亡前加算の対象判定に必要
- 相続人間のトラブル防止につながる
- 長期間の贈与でも一貫性を証明できる
記録の欠如は、生前贈与における最も重大なリスクのひとつと言えます。
他の相続・贈与対策と比較:節税対策の効果的な組み合わせ
生前贈与は相続税対策として有効な手段のひとつですが、相続対策は複数の制度を組み合わせることで、より効果的に進めることができます。
特に、下記は、生前贈与と並んで相続対策の柱となる制度です。
- 生命保険(非課税枠の活用)
- 家族信託(認知症リスクの管理)
- 小規模宅地等の特例(不動産評価の大幅減)
ここでは、生前贈与とこれらの制度を比較しながら、どのように組み合わせるべきか、実務上の観点から詳しく解説します。
生前贈与 × 生命保険(非課税枠の活用)
生命保険は、相続対策として極めて有効な手段です。特に、相続税計算における 500万円 × 法定相続人の数 の非課税枠は、制度として非常に強力です。
▼生命保険を活用するメリット
・相続税の非課税枠を活かせる
生命保険金には以下の非課税枠があります。
500万円 × 法定相続人の人数
例:法定相続人が配偶者+子ども2人
→ 500万円 × 3 = 1,500万円まで非課税
生前贈与では現金の移転はすぐ課税対象になり得ますが、生命保険は非課税枠があり、相続税発生時の税負担を大きく削減できます。
・現金を確実に遺せる
生命保険は、相続時に「確実に現金で受け取れる」点が大きな特徴です。
不動産中心の遺産の場合、下記のような問題が起こりやすいですが、保険金でこれを補えます。
- 相続税の納税資金が不足
- 物納や売却の必要が生じる
・遺産分割トラブルの防止
生命保険金は基本的に受取人固有の財産となるため、他の相続財産と混ざらず、特定の相続人へ確実に遺す手段としても有効です。
生前贈与と生命保険の比較・相性
| 項目 | 生前贈与 | 生命保険 |
|---|---|---|
| 税負担 | 贈与税が重い場合あり | 非課税枠が強い |
| 財産移転時期 | 生前 | 死亡時 |
| 効果の即効性 | 高い | 相続発生時に発揮 |
| 若年層支援 | 可能 | 不向き |
| トラブル防止 | 可 | 非常に強い |
結論:両者を組み合わせることで、現金の生前移転と相続時の納税資金対策を同時に実現できる。
生前贈与 × 家族信託(認知症対策に不可欠)
家族信託は、近年急速に増えている相続対策手法です。特に認知症による“財産凍結”のリスクを回避するため、実務での活用が進んでいます。
▼家族信託の特徴(相続対策での役割)
・認知症対策として非常に有効
高齢者が認知症になると、銀行口座の引き出しや不動産売却が困難になり、生前贈与や資産管理が事実上不可能になります。
家族信託を設定しておけば、下記を受託者(家族)によって継続できるため、財産が凍結されません。
- 財産の管理
- 不動産の売却
- 生活費の支払い
・柔軟な財産承継設計ができる
遺言では1代限りの承継しか指定できませんが、家族信託は“次の次”の承継先まで指定可能です。
例:「妻 → 長男 → 長男の子ども」という承継設計も可能。
生前贈与と家族信託の比較・補完関係
| 項目 | 生前贈与 | 家族信託 |
|---|---|---|
| 目的 | 財産を先に移す | 財産を守り管理を任せる |
| 税務効果 | 相続税対策になる | 単独では節税効果は限定的 |
| 認知症対策 | 不向き | 非常に強い |
| 手続き難度 | 低い | 高い(専門家必須) |
結論:高齢の贈与者の場合、生前贈与+家族信託の組み合わせが実務上もっとも安全。
生前贈与 × 小規模宅地等の特例(不動産における最大級の節税策)
不動産を所有している家庭では、相続時に適用される 小規模宅地等の特例 が極めて強力な節税効果を持ちます。
小規模宅地等の特例は、一定の条件を満たす宅地について、相続税評価額を大幅に減額できる制度です。
参照:国税庁「相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例)」
▼減額割合の例
- 居住用宅地:最大80%減
- 貸付事業用宅地:最大50%減
この制度があるため、むやみに不動産を生前贈与すると、相続時に適用できた特例が使えず損をするケースがあります。
また、小規模宅地等の特例が適用できる場合、相続のほうが評価額が大幅に下がるため、節税額は生前贈与を大きく上回ることがあります。
生前贈与と小規模宅地の比較
| 項目 | 生前贈与 | 小規模宅地等の特例 |
|---|---|---|
| 評価額 | 贈与税評価(負担増も) | 大幅減額(最大80%) |
| 費用 | 多数(登記税・不動産取得税) | 申告のみ |
| 適用範囲 | 広い | 要件が多い |
| 節税効果 | 財産圧縮で間接的 | ダイレクトに強い |
結論:自宅不動産は原則として生前贈与せず、相続時に特例適用するほうが有利なことが多い。
専門家に相談するべきタイミング
生前贈与は、相続税対策として大きな効果を生む一方で、税務・法務・財務が複雑に絡む高度な領域です。
特に、死亡前加算ルールの強化や名義預金問題、贈与方法の適正性といった論点は、専門家の視点なしに判断すると誤りやすく、結果的に相続税負担が増加するケースも少なくありません。
生前贈与を安全で効果的に進めるためには、以下のような “要所” において専門家への相談が強く推奨されます。
生前贈与を開始する「前段階」(最も重要な相談タイミング)
贈与の開始前こそ、専門家相談が最も重要になります。事前の相談により、以下の点が明確になり、間違った贈与計画を回避できます。
▼相談が必要な理由
- 財産の棚卸し(全体像)が正確にできていない
- 相続税が発生するかどうか判断が難しい
- 贈与してよい財産/してはいけない財産の判断が不明確
- 不動産の評価が自分では判断できない
- 家族構成・相続関係が複雑
- 生前贈与と保険・家族信託をどう組み合わせるか迷う
▼専門家による初期アドバイスの価値
- 相続税試算
- 生前贈与の最適額の提案
- どの財産を贈与すべきかの整理
- 小規模宅地特例が使えるか否かの判定
- 税制改正(死亡前加算)の影響分析
特に贈与開始前の相談は、将来の税負担を大きく左右するため、最優先すべきタイミングです。
不動産の生前贈与を検討するとき
不動産贈与は、税金・評価・手続きすべてが高度であり、個人判断で進めるのは非常に危険です。
▼専門家相談が必須な理由
- 贈与税評価は時価と異なり複雑
- 贈与税・登録免許税・不動産取得税が高額になることがある
- 贈与後の固定資産税の負担が受贈者に移る
- 将来の売却時に譲渡所得税が増大する可能性
- 小規模宅地等の特例が使えなくなるリスク
特に自宅不動産の場合、相続で取得した方が圧倒的に有利なケースが多く、専門家による判断が不可欠です。
相続時精算課税制度を検討するとき
相続時精算課税制度は大きなメリットもありますが、一度使うと暦年課税(110万円控除)に戻れない不可逆性が最大のリスクです。
この制度を使うかどうかは家庭で判断すべきものではなく、ほぼ必須レベルで専門家相談が必要です。
▼専門家が確認するポイント
- 適用すべきかどうかの慎重な判断
- 将来の相続税負担のシミュレーション
- 贈与財産の評価とタイミング
- 贈与者の年齢・健康状態
- 不動産贈与と併用する場合の最適プラン
特に高額不動産を贈与するケースでは、専門家の助言なしに利用を決めることは推奨されません。
贈与契約書の作成・贈与記録が不安なとき
生前贈与では「実態」が最も重視されます。形式だけ整えても、税務署に実質を否認されるケースは珍しくありません。
▼以下の不安が少しでもあるなら相談すべき
- 名義預金になっていないか不安
- 贈与契約書がこれで正しいか分からない
- 贈与の意図をどう記載すべきか迷う
- 振込記録や明細の管理方法が曖昧
- 毎年の贈与記録が乱雑になってきた
税務調査では、「契約書の整合性」+「通帳の動き」+「受贈者の実際の管理状況」が厳格に照合されます。
専門家の確認があれば、将来のトラブルを未然に防止できます。
贈与者が高齢になってきたとき(認知症リスクが高まる段階)
贈与契約は「意思能力」が必要です。認知症が進行すると、贈与契約の有効性が争われる危険があります。
▼認知症リスクが高まる場面
- 75歳を超えた
- 医師から軽度認知症の指摘があった
- 家族が財産管理に不安を感じはじめた
- キャッシュカードや通帳管理が難しくなってきた
この段階での相談は、以下の対策が間に合う最後のタイミングとなります。
▼専門家が検討する対策
- 家族信託の導入
- 成年後見が必要かどうか
- 贈与の継続可否
- 相続計画の見直し
認知症が進行すると、贈与も家族信託も一切行えなくなる可能性があるため、早期相談が極めて重要です。
家族間で財産の分配方針に不一致があるとき
生前贈与は、家族間のトラブルに発展するリスクもあります。とくに以下のような状況がある場合は、専門家の第三者的視点が必要です。
- 子ども間で不公平感がある
- 介護負担の有無で意見が分かれる
- 再婚・連れ子など複雑な家族構成
- 特定の財産の帰属をめぐる争いの懸念
税理士・弁護士が関与することで、客観的に公平なプランニングが可能となり、後日の争いを予防できます。
税制改正の影響が読みづらいとき
2024年以降の税制改正(死亡前加算7年など)により、これまで生前贈与が有利だったケースが覆ることもあります。
専門家に相談すべき状況は以下の通りです。
- 贈与開始時期が遅れている
- どこまでが加算対象になるか分かりにくい
- 不動産や高額資産が多く影響が大きい
- 暦年贈与と精算課税のどちらが有利か判断できない
制度が複雑化しているため、税理士によるシミュレーションは不可欠です。
まとめ:生前贈与は“早く・正しく・計画的に”が鍵
生前贈与は、相続税対策として広く活用される非常に有効な手段ですが、制度の仕組みや手続きが複雑で、誤った運用をすると「節税どころか負担が増える」ケースが少なくありません。
本記事で解説した通り、生前贈与は 税務・法務・財務が密接に結びつく高度な領域 であり、最新の税制改正(死亡前加算の延長など)が直接的に影響するため、慎重な判断が求められます。
また、生前贈与は単に税金の問題にとどまらず、下記のように家族全体の未来を整えるプロセスでもあります。
- 家族の将来の生活
- 財産管理の安全性
- 争続の防止
- 次世代の資産形成など
制度を正しく理解したうえで、計画的・継続的に進めれば、家族が安心して次世代へ資産を引き継げる、最適な相続準備となります。
「早く・正しく・計画的に」をキーワードとして、最適な対策を進めることをおすすめします。


