相続税の申告を税理士に頼まず自分で行うことは、制度上「可能」です。日本の税制は納税者自身が税額を計算して申告する「申告納税制度」を採用しているため、独占業務として税理士に限定されているわけではありません。
相続税申告を行う人のうち約14%前後の方は、税理士に依頼せず自分で申告を行っているというデータがあります。
財務省が公表している「国税庁実績評価書」のデータに基づく、相続税申告を税理士に依頼せず自分で行った人の割合(過去5年分)は以下の通りです。
| 年度(事務年度) | 自分で行った割合 | 税理士関与割合 |
|---|---|---|
| 令和5年度 | 13.7% | 86.3% |
| 令和4年度 | 14.1% | 85.9% |
| 令和3年度 | 13.9% | 86.1% |
| 令和2年度 | 13.9% | 86.1% |
| 令和元年度 | 14.3% | 85.7% |
- 全申告件数から税理士関与件数を引いた割合を指します。
- 令和5事務年度 国税庁実績評価書(PDF)
ただし、相続財産の種類や金額によっては計算が非常に複雑になり、税務調査のリスクや特例適用のミスが生じる可能性があります。
しかし、誰でも簡単にできるわけではなく、資産の状況によって難易度が大きく異なります。ご指定の3つのパターン(出来る・出来ない・頼まなくても良い)に分けて、それぞれの実情を解説します。

相続税申告を税理士に頼むまでもない、自分でも申告可能なケース
相続税の申告を自分で行うことが現実的に「出来る」のは、計算ミスや解釈の誤りが起きにくい、非常にシンプルな資産状況の場合です。一般的に、以下の条件が揃っている場合は、一般の方でも税務署の手引きや国税庁のウェブサイトを活用して申告を完了させることが可能です 。
- 遺産総額が基礎控除以下である場合
- 遺産の総額が「3,000万円+(600万円×法定相続人の数)」の基礎控除額を超えない場合は、そもそも申告自体が不要
- 財産の内容がシンプル(預貯金・上場株式が中心)
- 遺産のほとんどが預貯金や上場株式、生命保険金である場合、残高証明書などで金額が明確なため、評価の計算が簡単
- 土地の評価が簡単(または土地がない)
- 不動産がない、あるいは自宅の土地が1ヶ所のみで、形が整っている(正方形や長方形)場合は、路線価に面積をかけるだけの計算で済むことが多く、難易度が低くなります。
- 「配偶者の税額軽減」で納税額が0円になることが確実な場合
- 配偶者は1億6,000万円(または法定相続分)まで非課税になる「配偶者の税額軽減」があります。計算の結果、明らかに納税額が0円になる場合は、多少の評価ミスがあっても追徴課税のリスクが低いため、自分で申告するハードルが下がります。※納税額が0円でも申告書の提出は必須です。
- 時間に余裕があり、事務処理が得意な場合
財産総額が「基礎控除額」をわずかに超える程度のケース
相続税には「3,000万円 +(600万円 × 法定相続人の数)」という基礎控除があります。遺産総額がこの金額以下なら申告自体が不要ですが、これをわずかに超える場合(例えば基礎控除が4,200万円で、遺産が4,500万円など)は、自分で申告するのに適しています。
税務署の調査が入るリスク(税務調査の実地率)は、一般的に遺産額が大きく、納税額が高額な事案ほど高くなります。基礎控除をわずかに超える程度の少額納税案件であれば、計算上の軽微なミスが合ったとしても、追徴課税の額は少額に留まることが多いため、過度にリスクを恐れる必要がありません。また、特例を使わずにシンプルに計算しても税額が低いため、専門家への報酬を支払うよりも自分でやったほうが経済的メリットが大きいと言えます。
【注意点】
「ギリギリ基礎控除以下だから申告しなくていいだろう」という自己判断は危険です。預貯金の計上漏れなどで後から基準を超えていたことが発覚すると、無申告加算税が課されます。「超えるか超えないか微妙」なラインであれば、あえて申告書を提出しておく(あるいは税務署に相談する)方が安全です。
相続人間で遺産分割が円満にまとまっている場合
誰がどの財産を取得するかが明確であれば、申告書の記載自体は事務作業の範疇に収まります。法定相続人の数が少なく、戸籍収集などの事前準備に平日時間が割ける方であれば、税理士報酬(一般的に遺産総額の0.5%〜1%程度)を節約するメリットは大きいでしょう 。
現在は国税庁の「相続税の申告書作成コーナー」などを利用すれば、画面の案内に従って入力を進めることで、自動計算された申告書を作成する環境も整っています 。ただし、資料収集(過去の預金移動の調査など)から作成・提出までには数ヶ月を要することが多いため、期限(相続を知った日から10ヶ月以内)までに十分な時間を確保できることが絶対条件となります。
相続人全員で「法定相続分通り」に分けるケース
遺言書がなく、相続人全員の話し合いで「法律で定められた割合(法定相続分)」通りにきっちりと財産を分けることに合意している場合は、申告書の作成が非常にスムーズです。
相続税の総額計算は、そもそも「遺産を法定相続分で分けたと仮定」して算出します。実際に誰がどう相続するかによって、各人が負担する税額が配分されます。実際の分割割合も法定相続分通りであれば、計算のロジックと実際の分割が一致するため、計算が非常に分かりやすくなります。
預貯金であれば1円単位まで、株式であれば株数で、きっちりと法定相続分(例:妻1/2、子供2人が各1/4)で割る形で遺産分割協議書を作成します。不動産を共有名義にするのは後のトラブルの元になるため推奨されませんが、売却して現金を法定相続分で分ける(換価分割)場合などは、このケースに当てはまり、処理が明快です。
【注意点】
不動産を法定相続分で「共有」として登記してしまうと、将来その不動産を売却したり、次の相続が発生したりした際に、権利関係が複雑になり処分が難しくなるリスクがあります。相続税申告の手続き自体は簡単ですが、将来の資産管理の観点からは、安易な共有化は避けたほうが良い場合もあることは知っておくべきです。
相続財産が「現金・預貯金」のみ、または大半を占めるケース
相続財産の中に不動産や非上場株式などが少なく、その大半が現金や預貯金である場合は、自分で申告をするハードルが最も低いケースと言えます。
最大の理由は「評価額の計算が不要」だからです。土地や建物であれば、路線価を調べたり、建物の固定資産税評価額を確認して補正計算を行ったりする必要がありますが、現金や預貯金は「額面そのもの」が評価額となります。1,000万円の預金は、相続税評価額も1,000万円です。複雑な計算式や減額特例の適用などを検討する必要がないため、計算ミスが起こりにくいのが特徴です。
銀行や証券会社から、相続開始日(亡くなった日)時点の「残高証明書」と「既経過利息の計算書」を取り寄せるだけで、財産額の確定がほぼ完了します。複数の金融機関に口座がある場合でも、この作業を繰り返すだけなので、手間はかかりますが専門知識はさほど必要ありません。
【注意点】
唯一の注意点は「名義預金」です。亡くなった方の家族(妻や子供、孫)名義の口座であっても、実質的に亡くなった方が管理・入金していたお金であれば、それは相続財産として計上する必要があります。これを漏らすと税務調査で指摘される可能性が高いため、家族名義の通帳も確認し、原資が誰のものかを整理しておくことが重要です。
配偶者の税額軽減を使えば納税額がゼロになるケース
配偶者が財産を相続する場合、「配偶者の税額軽減(配偶者控除)」という非常に強力な特例が使えます。これは、配偶者が取得した遺産額が「1億6,000万円」または「法定相続分」のいずれか多い金額までは、相続税がかからないという制度です。
この特例を適用して計算上の税額がゼロになることが明らかな場合、厳密な節税対策や、1円単位での高度な土地評価の減額を追求する必要性が薄れます(もちろん過大評価は避けるべきですが)。「とりあえず特例を適用して申告書を出し、納税額をゼロにする」というゴールが明確であるため、心理的なプレッシャーも少なく、手続きを進めやすいケースです。
国税庁のウェブサイトにある「相続税の申告書作成コーナー」や市販のソフトを使用すれば、配偶者の取得額を入力するだけで自動的に控除額が計算されます。重要なのは、「納税額がゼロでも申告書の提出は必須」ということです。この特例は申告書を提出して初めて適用されるため、期限内に提出することを忘れてはいけません。
参考サイト: No.4158 配偶者の税額の軽減|国税庁
【注意点】
遺産分割協議が整っていることが適用の条件です。配偶者が何をどれだけ相続するか決まっていない(未分割の)状態ではこの特例を使えません。したがって、家族間で円満に遺産分けの話し合いが完了していることが前提となります。
相続人が「一人」だけのケース(単独相続)
亡くなった方の配偶者がすでに他界しており、子供が一人だけの場合や、身寄りがなく兄弟姉妹の一人が相続する場合など、相続人が一人しかいないケースは、手続きが非常にシンプルになります。
相続税申告で最も時間と労力を要するプロセスの一つが「遺産分割協議」です。誰がどの財産をもらうかで揉めたり、全員の実印を集めて遺産分割協議書を作成したりする必要があります。しかし、相続人が一人の場合は、すべての財産をその一人が引き継ぐことが確定しているため、遺産分割協議書を作成する必要がありません。また、財産をどう分けるかによる税額のシミュレーション(誰がどの特例を使うかなど)も不要です。
すべての財産を自分が取得するものとして申告書に記入するだけです。銀行の解約手続きや不動産の名義変更(相続登記)においても、他の相続人の印鑑証明書や同意書が不要なため、申告と並行して行う名義変更手続きもスムーズに進みます。
【注意点】
過去に認知した子供や、前妻・前夫との間の子供など、把握していない他の相続人がいないかを念のため戸籍謄本(出生から死亡まで)でしっかり確認することが必要です。万が一、申告後に他の相続人が現れると手続きがやり直しになるため、戸籍の収集と解読だけは慎重に行う必要があります。
「隠れ資産」や「みなし相続財産」で判断は分かれる
死亡保険金や死亡退職金も、一定の非課税枠を超えた分は相続財産に含まれます。また、借入金などの「債務」があれば、それを財産から差し引いた純資産額で判定します。これらを正しく計算した結果、基礎控除以下であれば、堂々と「頼まなくて良い」と判断できます。
注意点として、前述の「小規模宅地等の特例」や「配偶者の税額軽減」を使うことで税額がゼロになる場合は、「申告は必要」です。この場合、「税金は出ないが申告手続きは必須」となるため、先述の「出来る・出来ない」の判断基準に戻って検討する必要があります。
「税金が出ないから何もしなくて良い」と勘違いし、申告期限を過ぎてしまうと特例が使えなくなるため、基礎控除の枠内かどうかの判定は慎重に行う必要があります 。
参考サイト: No.4124 小規模宅地等の特例|国税庁
相続税申告を自分では出来ない、税理士に依頼すべきケース
制度上は「出来る」としても、実務上は「出来ない(やらない方が身のためである)」ケースが存在します。無理に自分で行うと、過大な税金を払うことになったり、逆に計算ミスでペナルティ(加算税)を課されたりするリスクが高まります 。
不動産(土地)を多く所有している場合
土地の評価額(路線価や倍率方式)は、単に地図上の数字を掛けるだけではありません。土地の形状(不整形地)、道路付け、高低差、他人に貸しているかどうかなど、無数の減額補正要素が存在します。税理士であれば数百万円単位で評価を下げられる土地を、知識のない方が評価すると、本来不要な高額な税金を納める「払い過ぎ」のリスクが非常に高くなります 。
名義預金の判断が必要な場合
亡くなった方の口座だけでなく、家族名義の口座であっても「実質的に故人の財産」とみなされるものは課税対象になります。この判断は税務調査で最も厳しく追及されるポイントであり、素人判断で申告から漏らすと、後から重加算税などの重い処分を受ける可能性があります 。
小規模宅地等の特例や配偶者税額軽減を使って税額をゼロにする場合
これらは「申告要件」といって、正しい申告書を提出して初めて適用される特例です。自分で申告して不備があり、特例の適用が否認されると、数百万円、数千万円単位の納税がいきなり発生する恐れがあります。確実な適用を受けるためには、専門家の署名がある申告書の方が安全性が高いと言えます。
- 土地の形がいびつ(不整形地)、道路に面していない、広大であるといった場合、評価額を減額できる可能性がありますが、専門知識が必要
- 土地の評価額を最大80%減額できる「小規模宅地等の特例」は要件が複雑で(特に別居親族が継ぐ「家なき子特例」や老人ホーム入居のケースなど)、適用ミスがあると多額の追徴課税が発生
名義預金や生前贈与がある場合
亡くなった方の家族名義の預金(名義預金)や生前贈与は、税務調査で最も指摘されやすい項目の一つです。税務署は職権で過去10年分以上の銀行口座の入出金履歴を調査できるため、単に名義が家族であるからといって相続財産から除外すると、申告漏れを指摘されるリスクが高まります。
特に、専業主婦の配偶者や未成年の孫の口座に多額の残高がある場合や、贈与契約書がなく実質的な管理を被相続人が行っていた場合は「名義預金」として相続財産に計上すべき可能性が高いです。また、相続開始前3年(改正により順次7年に延長)以内の贈与は相続財産への持ち戻し計算が必要です。
これらが適正な贈与か、あるいは名義預金に該当するかを法的に正しく判断し、証拠書類を揃えて申告するには、専門的な知識と経験を持つ税理士のサポートが不可欠です。
非上場株式や海外資産がある場合
非上場株式や海外資産は評価の難易度が極めて高く、自分での申告は避けるべき典型的なケースです。取引相場のない非上場株式は、その会社の資産内容や利益、類似業種の株価などを基に複雑な計算式で評価額を算出する必要があり、高度な会計知識がないと正確な評価は困難です。
計算を誤ると、過少申告によるペナルティや、逆に過大な納税に繋がる恐れがあります。
また、海外資産についても、現地の法律や為替レートの換算など専門的な対応が求められます。近年、国税庁は海外資産の把握(CRSや国外送金調書等)を強化しており、申告漏れに対する監視が厳しくなっています。
これらの資産がある場合、評価ミスによる税務リスクを回避するためにも、国際相続や株価評価に精通した税理士への依頼が強く推奨されます。
二次相続まで見据えた節税をしたい場合
「配偶者の税額軽減」を使えば、配偶者は1億6,000万円まで無税で相続できますが、目先の節税だけで判断するのは危険です。今回(一次相続)で配偶者が多くの財産を相続すると、将来その配偶者が亡くなった時の「二次相続」で、配偶者控除が使えず、かつ法定相続人が一人減るため基礎控除額も下がり、結果として子供世代が負担する税金が跳ね上がる可能性があります。
トータルの税負担を最小限にするためには、一次相続の段階で、二次相続時の財産額や税額をシミュレーションし、誰がどの財産をどれだけ相続するかを戦略的に決める必要があります。この「二次相続シミュレーション」は将来の資産変動や余命なども考慮する複雑な計算が必要なため、経験豊富な税理士に依頼し、家族全体での最適な遺産分割案を提案してもらうことが賢明です。
税務調査を避けたい場合
税務調査を避けたい場合、税理士への依頼は最も有効な対策です。自分で作成した申告書は、計算ミスや特例の適用誤りが生じやすく、税理士の署名がないため税務署から「申告漏れの可能性が高い」と見なされ、調査対象になりやすい傾向があります。実際、相続税申告の約86%は税理士が関与しており、自己申告は少数派であるため目立ちます。
特に「書面添付制度」を利用できる税理士に依頼すると、申告書の作成経緯や財産評価の根拠を詳細に記した書面が添付され、税務署からの信頼度が高まります。
これにより、実地調査の省略や、調査率の大幅な低下(一般的な調査率約10%に対し、書面添付ありの場合は1%程度など)が期待できます。精神的な負担を減らし安心を得る意味でも、専門家の活用が重要です。
相続人同士で揉めている場合は弁護士への相談がおすすめ
相続の手続きにおいて、もし相続人間で意見の対立や感情的なしこりがあり、少しでも「揉めている」と感じるならば、税理士や司法書士ではなく、速やかに「弁護士」に相談すべきです。
その理由は、単に法律に詳しいからというだけではありません。弁護士だけが持つ特別な権限と、紛争解決のプロとしての役割があるからです。
代理人として相手と交渉できるのは弁護士だけ
相続の相談先として税理士や司法書士を思い浮かべる方も多いですが、彼らは「税金の計算」や「登記手続き」の専門家であり、依頼者の代わりに他の相続人と交渉することは法律(弁護士法)で禁止されています。
つまり、揉めている相手に対し「遺産をこう分けてほしい」と主張したり、相手の理不尽な要求を拒否したりする行為を代理で行えるのは弁護士だけなのです。もし弁護士以外の専門家に依頼してしまうと、結局は当事者同士で直接話し合わなければならず、問題は解決しません。
感情的な対立を遮断できる精神的なメリットもある
親族間の争いは、過去の怨恨や介護の苦労などが絡み合い、泥沼化しやすいものです。当事者同士で顔を合わせると、どうしても感情論になり、冷静な話し合いができません。
弁護士に依頼すれば、すべての連絡窓口が弁護士になります。相手からの電話や手紙を直接受け取る必要がなくなり、嫌な相手と顔を合わせるストレスから解放されます。「弁護士対弁護士」、あるいは「弁護士対相手方」という構図を作ることで、議論を法的な土俵に戻し、冷静かつ事務的に解決を目指すことが可能になります。
法的に通る主張と通らない主張の選別が可能
相続の現場では「長男だからすべて継ぐべき」「介護をしたから多くもらう権利がある」といった主張が飛び交いますが、これらが法的に認められるハードルは意外に高いものです。弁護士は、証拠に基づき、裁判所が認めるであろう「寄与分」や「特別受益」の可能性を客観的に判断します。
無理な主張をして時間を浪費することを防ぎ、逆に本来もらえるはずの「遺留分」などの権利を確実に行使するための戦略を立てることができます。話し合いで決着がつかず、家庭裁判所での「調停」や「審判」に移行した場合でも、最初から代理人として同席し、裁判官(調停委員)に対して説得力のある主張を展開できるのは弁護士だけです。
相続争いは、長引けば長引くほど親族関係が修復不可能になり、遺産額以上の精神的ダメージを負うことになります。感情のもつれを感じたら、早期に弁護士という「交渉の盾」を持つことが、結果として最も自分を守ることにつながります。
相続税申告を税理士に頼まないことで被る5つのリスクについて
相続税の申告を税理士に依頼せず、自分で行うことには確かに費用の節約というメリットがありますが、その裏には金銭的・精神的に大きなリスクが潜んでいます。ここでは、自分で申告を行った場合に被る可能性が高い5つの主要なリスクについて、それぞれ解説します。
土地の評価を誤り、税金を「払いすぎる」リスク
相続税申告において最も難易度が高く、かつ税額に大きな影響を与えるのが「土地の評価」です。現預金とは異なり、土地には「唯一絶対の価格」が存在しません。国税庁が定める「路線価」に面積を掛ければ基本の数値は出ますが、そこから土地の形状、道路との接し方、騒音の有無、周囲の環境など、様々な「減額要因」を見つけて評価を下げるのがプロの仕事です。
自分で申告をする場合、これらの減額補正を正確に行うことは極めて困難です。「不整形地補正」や「無道路地」などの特殊な事情を考慮せず、単純に「路線価×面積」で計算して申告してしまうケースが後を絶ちません。これは税務署からすれば「多めに税金を払ってくれる」ことになるため、指摘されることはまずありません。
その結果、本来であれば数百万円単位で評価を下げられたはずの土地に対して、満額の評価で税金を計算してしまい、結果として数百万円、場合によっては一千万円以上も余分に税金を納めてしまうリスクがあります。
払いすぎた税金は、自分から気づいて「更正の請求」をしない限り戻ってきません。税理士報酬を惜しんだ結果、その何倍もの税金を失うという「本末転倒」が起こりやすいのがこのケースです。
特例適用の要件判断を誤り特例が否認されるリスク
相続税には、残された家族の生活を守るために、土地の評価額を最大80%減額できる「小規模宅地等の特例」や、配偶者の税額を大幅に軽減する「配偶者の税額軽減」など、強力な減税制度があります。しかし、これらの特例には非常に細かく厳格な適用要件が定められています。
例えば「小規模宅地等の特例」では、「同居」の定義一つとっても、住民票が同じなら良いわけではなく、生活の実態が重視されます。また、申告期限までに遺産分割が完了していることや、申告書の提出が必須であることなど、手続き上のルールも厳格です。自分では「要件を満たしている」と判断して特例を使って申告しても、後日税務署から「要件を満たしていない」と指摘(否認)されることがあります。
もし特例が否認されると、減額されていた80%分の評価額が元に戻り、本来の税額に加えて「過少申告加算税」や「延滞税」といったペナルティが課されます。当初ゼロだと思っていた納税額が、一転して数百万円の支払い命令に変わることも珍しくありません。
法令の解釈には専門的な知識が必要であり、ネットの情報を鵜呑みにして自己判断することは極めて危険です。
税務調査の対象に選ばれやすくなるリスク
税務署は、提出された申告書を見て「税務調査に入るかどうか」を選定します。この際、判断材料の一つとなるのが「税理士の署名があるかどうか」です。税理士が作成した申告書には、専門家としてのチェックが入っているという一定の信頼性がありますが、素人が作成した申告書は、計算ミスや財産の計上漏れが含まれている可能性が高いとみなされます。
特に、自分で行う申告で最も多いミスが「名義預金」の計上漏れです。亡くなった方が子供や孫の名義で作っていた預金通帳などは、実質的に亡くなった方の財産とみなされますが、一般の方は「名義が違うから関係ない」と判断して除外しがちです。税務署は過去の入出金履歴(KSKシステム)を把握しているため、こうした漏れを簡単に見抜きます。
税理士の署名がない「本人申告」は、税務署にとって「叩けば埃が出る可能性が高い案件」として映りやすく、税務調査のターゲットにされる確率が高まります。調査官が自宅に来て通帳やタンスの中身まで調べられる心理的ストレスや、それに対応する時間的拘束は甚大です。プロの「お墨付き」がない申告書は、それだけでリスク要因となり得るのです。

二次相続を考慮せず、トータルの税負担が増えるリスク
相続税対策は、今回の相続(一次相続)だけでなく、次に起こる配偶者の相続(二次相続)まで見据えて考える必要があります。例えば、父が亡くなり、母と子供が相続する場合、「配偶者の税額軽減」を使えば、母は1億6,000万円まで無税で相続できます。
自分で申告をする場合、目先の税金をゼロにすることだけを考えて、「とりあえず母に全財産を相続させよう」と判断しがちです。しかし、これにより母が大量の財産を持つことになります。その後、母が亡くなった時の「二次相続」では、配偶者控除のような大きな特例は使えず、さらに「父の時よりも法定相続人が一人減る(子供だけになる)」ため、基礎控除額が下がり、税率が跳ね上がります。
結果として、一次相続と二次相続を合わせたトータルの納税額で見ると、最初に子供がある程度の財産を相続して税金を払っておいた方が、数百万〜数千万円も安かったというケースが多発しています。
税理士であれば、シミュレーションを行って「誰がどれだけ相続するのが最も有利か」を提案できますが、自分で行う場合はこの視点が抜け落ち、将来の子供たちに重い税負担を先送りしてしまうリスクがあります。
時間と労力の浪費および精神的負担のリスク
相続税の申告書作成は、単に数字を埋めれば終わるものではありません。戸籍謄本を出生から死亡まで遡って収集し、すべての銀行で残高証明書を取り寄せ、不動産の登記簿や公図を集め、それらを元に複雑な計算を行う必要があります。慣れない専門用語と格闘しながら、膨大な資料を整理する作業は、一般の方が想像する以上に過酷です。
平日の日中に役所や金融機関へ出向く必要があるため、仕事をしている人は有給休暇を何度も消化しなければなりません。また、申告期限は「10ヶ月以内」と決まっており、四十九日法要や納骨などで慌ただしい中、期限が迫ってくるプレッシャーは相当なものです。書類の不備で何度も役所と往復したり、計算方法が分からずに税務署の相談窓口に長時間並んだりと、費やされる時間は膨大です。
さらに、もし計算ミスや資料不足があれば、後から税務署とのやり取りが発生し、その対応にも追われます。プロに任せれば数回の打ち合わせで済むところを、自分でやるとなると数百時間の労働に匹敵するケースもあります。
「自分の時給」と「精神的平穏」を考えたとき、無理をして自分で行うことは、経済的メリット以上のコスト(見えない損失)を払う結果になりかねません。
相続税申告を自分で行う際におすすめの主要なサービス・ツール5選
それぞれの特徴と費用、メリット、他社との比較を踏まえて詳しく解説します。
| ツール名 | 費用 | 無料期間/体験 | 税理士相談 | 土地評価対応 | クラウド対応 | 難易度 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| AI相続 | 無料 (オプション有料) | 完全無料 | 有料オプション | 有料オプション | 対応 | 初心者向け |
| そうぞくん | 無料 | 完全無料 | 問い合わせ可 | 対応 | 対応 | 初心者向け |
| TASKI | 77,000円 | 計算まで無料 | 無料相談可 | 対応 | 対応 | 初心者向け |
| better相続 | 55,000円 | 14日間無料 | 無制限相談可 | 有料オプション | 対応 | 初心者~中級 |
| Excelで相続税申告書 | 18,000円 | 無料お試し版 | なし | 自分で計算 | 非対応 | 中級者向け |
AI相続

AI相続は、みなと相続コンシェルが運営する完全無料の相続税申告書作成ソフトです 。わかりやすい入力フォームに沿って被相続人・相続人・相続財産等の情報を入力するだけで、最新帳票に対応した相続税申告書を自動作成できます 。作成した申告書はプリントアウトして税務署へそのまま提出可能です。
- 基本機能は完全無料
- 土地評価明細書作成はオプション(有料)
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最大の利点はコストゼロで申告書を完成できることです 。令和7年度の帳票にも対応し、2025年10月時点で利用者数は20,000名を突破しており、実績も豊富です 。
必要に応じて土地評価など節税につながる部分だけを税理士に依頼することも可能なため、柔軟なサポート体制が整っています 。クラウドベースなので、複数の相続人が異なる場所から同時にアクセスして情報を共有・入力できる点も便利です。
TASKIやbetter相続が5~8万円程度の利用料が必要なのに対し、AI相続は基本無料で利用できる点が圧倒的な差別化ポイントです 。ただし、複雑な土地評価が必要な場合は有料オプションを検討する必要があります。
TASKI

TASKIは、TASKI株式会社が税理士法人ブライト相続と提携して提供するWebシステムです 。詳細なガイダンスに沿って必要事項を入力することで申告書を作成でき、相続専門税理士への無料相談や作成した申告書の税理士チェックが受けられます。
- 相続税の計算や遺産分割シミュレーションは無料
- 相続税申告書を出力する際に77,000円(税込)
申告書出力前までは無料で何度でも試算できるため、納得するまでシミュレーションが可能です 。また、作成した申告書について税理士による外形的なチェックを受けられる点が安心材料となります 。
万が一税務調査が行われる場合には税理士によるサポート(有料)も受けられるため、アフターフォロー体制が充実しています 。ガイダンス機能が充実しているため、初めて申告書を作成する方でも迷わず進められる設計になっています。
AI相続より高額ですが、税理士の無料相談やチェック機能がセットになっている点で差別化されています 。better相続と比較すると約2,000円安く、相続専門税理士へのアクセスが容易な点が特徴です。
better相続

better相続は、株式会社betterが辻・本郷ITコンサルティング株式会社と経営統合して提供している相続税申告書作成サービスで す。質問に答えるだけで申告書を作成でき、申告書チェックや節税などの相談を無制限で税理士に相談できるサービスがセットで提供されています。
- 定額55,000円(税込)
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- 14日間の無料体験が利用
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無制限の税理士相談が含まれているため、不安を感じながら進める必要がなく、専門家の知見を活用しながら自分で申告できる点が最大の強みです 。2025年4月時点での利用者数は3,000名と実績も十分です。
TASKIより約2万円安価でありながら、無制限の税理士相談が含まれる点がコストパフォーマンスに優れています 。AI相続は無料ですが、税理士相談は別料金なので、相談を重視する方にはbetter相続が適しています。
Excelで相続税申告書

「Excelで相続税申告書」は、今村圭一税理士事務所が開発・提供するエクセルベースの相続税申告書作成サービスです 。計算式や関数が予め設定されたエクセル上で、必要な情報を入力することで申告書を作成できます。
一般の方が自分の申告のみに使う場合は18,000円(税込)、正規版は25,000円(税込)です 。無料のお試し版も用意されています。
ソフトのインストールや会員登録が不要で、エクセルを利用できる環境があればどこでも使用できる手軽さが特徴です 。帳票ごとにエクセルのタブが分かれており、手書きで申告書を作っていく感覚で操作できるため、エクセルに慣れている方には直感的に使えます 。
令和7年度の帳票にも対応しており、常に最新の法令に準拠した申告書を作成できます 。クラウドサービスではなくエクセルファイルなので、インターネット環境がなくても作業できる点も利点です。
AI相続より高額ですが、無料サービスより丁寧な設計で税理士監修の信頼性があります 。TASKIやbetter相続と比較すると大幅に安価でありながら、エクセルの自由度を活かした柔軟な編集が可能です 。ただし、クラウドサービスのような自動更新やAIサポートはないため、ある程度の知識が必要です。
そうぞくん

「そうぞくん」は、株式会社SAMURISEが運営する、Web上で完全無料で相続税申告書を作成できるサービスです 。公認会計士の白井佑弥氏が代表を務め、相続業務に携わる専門家が監修・サポートしており、誰でも簡単な入力だけで相続税申告書の作成から提出まで完了できます。
- 無料で提供
- 専門家のサポートを受ける場合は、別途費用が発生する可能性あり
最大の利点は、会員登録後にWeb上の入力だけで申告書の出力まで完全無料で完結できることです 。相続シミュレーション機能により、家族構成と財産額を入力すれば相続税額の大まかな試算が可能で、計算結果はメールで送信または会員登録で保存できます 。
申告に必要な資料がリスト形式で表示され、すべての資料に入手方法や注意点が記載されているため、初めての方でも何を準備すればよいか迷うことがありません 。申告までのスケジュールや手続きが確認できる機能もあり、進捗管理がしやすい設計です。インターネット環境があれば、パソコンでもスマートフォンからでも利用できる点も便利です 。公認会計士が運営する専門家監修のサービスであるため、信頼性も高いと言えます。
相続税申告を税理士に依頼する場合の失敗しない選び方
相続税の申告において、税理士選びは納税額だけでなく、その後の税務調査のリスクを大きく左右する重要なプロセスです。日本では登録されている税理士が約8万人存在しますが、その多くは法人税や所得税を主軸としており、相続税の申告経験が豊富な税理士は限られています。
失敗しないための税理士選びのポイントを5つ解説します。
相続税の年間受任件数と専門性の確認
税理士であれば誰でも相続税の計算ができると思われがちですが、実態は大きく異なります。日本の年間相続税申告件数は約15万件(令和4年分)に対し、税理士数は約8万人です。単純計算で税理士一人あたり年間2件弱となり、一度も相続税申告を行ったことがない税理士も少なくありません。相続税は他の税目と異なり、財産評価や遺産分割の判断に高度な専門性が求められるため、事務所全体の受任件数ではなく、担当する税理士個人の実績を確認することが肝要です。
具体的には、年間10件以上の相続税申告を継続的に行っているかどうかが一つの目安となります。経験豊富な税理士は、最新の改正(例えば、令和6年1月からの生前贈与加算の期間延長など)に精通しているだけでなく、過去の裁決事例や判例を熟知しており、納税者に有利な解釈を導き出すことができます。依頼前には「過去にどのような複雑な事案を解決したか」といった具体的な実績をヒアリングすることで、その専門性を見極めることが可能です。
- 参考サイト: 税理士制度|国税庁
- 参考サイト: No.4161 贈与財産の加算と税額控除(贈与税額控除)|国税庁
相続税専門あるいは資産税部門を持つ税理士であるか
税理士選びで最も重要なのは、「専門分野」の確認です。医師に「外科」や「眼科」などの専門があるように、税理士にも得意分野があります。実は、日本の税理士の9割以上は企業の決算や確定申告を行う「法人税・所得税」がメインであり、相続税の申告は「数年に一度やるかどうか」というケースが珍しくありません。
相続税の申告には、法人税とは全く異なるノウハウが必要です。特に不動産(土地)の評価は非常に専門性が高く、地図や公図を読み解き、現地調査を行い、役所で法規制を確認するといった不動産鑑定士に近い知識が求められます。普段、会社の記帳代行ばかりしている税理士に依頼すると、土地の減額要因を見落とし、「形式的に路線価を掛けただけ」の高い評価額で申告されてしまうリスクがあります。
ホームページに「相続税専門」と明記されているか、事務所内に「資産税(相続税)専門チーム」があるかを確認しましょう。単に「対応可能」と書かれているだけでは不十分です。会社経営者の顧問税理士であっても、相続税に関しては別の「専門税理士」を紹介してもらうか、セカンドオピニオンを求めた方が安全な場合が多いのが実情です。
現地調査を伴う精緻な土地評価能力
相続財産の中で最も評価が難しく、かつ金額が大きくなるのが土地です。土地の評価は「路線価方式」または「倍率方式」によって行われますが、単に机上で計算するだけでは不十分です。国税庁の財産評価基本通達には、土地の形状や周囲の状況に応じた様々な減額補正が定められています。
例えば、不整形地、広大すぎる土地(地積規模の大きな宅地)、高低差がある土地、騒音や悪臭の影響を受ける土地などは、適切に評価を下げることで納税額を大幅に抑えられる可能性があります。
失敗しない税理士は、必ず現地に足を運び、役所調査(道路付けや都市計画法等の規制の確認)を行います。図面や公図だけでは判明しない「減額要素」を見つけ出す能力があるかどうかを確認してください。
逆に、現地調査を行わず、固定資産税評価額や路線価のみで算定しようとする税理士は、結果として納税者に過大な税負担を強いるリスクがあります。見積もり段階で「どのように土地評価を行うのか」というプロセスについて説明を求めることが大切です。
- 参考サイト: No.4602 土地家屋の評価|国税庁
- 参考サイト: 第2章 宅地及び宅地の上に存する権利|国税庁 財産評価
書面添付制度の活用と税務調査への対応力
相続税申告後の最大の懸念は、税務署による税務調査です。これを回避する有力な手段として「税理士法第33条の2の書面添付制度」があります。これは、税理士が「どのような資料を確認し、どのように判断して申告書を作成したか」を記載した書面を添付する制度です。
この書面が添付されていると、税務署は実地調査を行う前にまず税理士に意見を聴取しなければならず、内容に納得が得られれば実地調査が省略される(事実上の調査免除)こともあります。
この制度を利用するには、税理士側にも高い責任と膨大な作業負荷がかかるため、全ての税理士が対応しているわけではありません。依頼する際には「書面添付制度を標準的に行っているか」を必ず確認してください。
また、万が一税務調査が入った際に、税務署の主張を鵜呑みにせず、納税者の立場に立って法的根拠に基づき交渉してくれるかどうかも、過去の調査対応実績から判断すべきです。プロの税理士は、申告書を「出す」だけでなく、出した後の「防衛」までをセットで考えます。
- 参考サイト: 税理士法第33条の2第1項に規定する添付書面(新様式)|国税庁
- 参考サイト: 税理士の業務|国税庁
二次相続を見据えた分割案の提案力
今回の相続(一次相続)だけでなく、将来発生する配偶者の相続(二次相続)まで考慮した分割案を提示できるかどうかが、真に優れた税理士の条件です。例えば、一次相続で「配偶者の税額軽減」を最大限に利用して配偶者が多くの財産を相続すれば、目先の納税額はゼロになります。しかし、その配偶者が亡くなった際の二次相続では、子供たちの相続人数が減り(基礎控除額が下がる)、配偶者控除も使えないため、トータルの納税額が膨れ上がることが多々あります。
優秀な税理士は、専用のシミュレーションソフトを用い、配偶者の固有財産や今後の生活費、葬儀費用なども加味して、「一次と二次を合わせた家系全体のトータル納税額」が最小になる黄金比率を提案します。
また、納税資金の確保や、将来の資産管理を見据えた「遺産分割協議書」の作成支援も行います。単なる税金の計算だけでなく、家族のライフプランに寄り添ったコンサルティングができるかどうかを、初回面談時の提案内容から読み取ることが重要です。
- 参考サイト: No.4152 相続税の計算|国税庁
- 参考サイト: No.4158 配偶者の税額の軽減|国税庁
報酬体系の透明性と円滑なコミュニケーション
相続税の報酬は、一般的に遺産総額の0.5%〜1.0%程度が相場ですが、事務所によって算出基準は異なります。基本報酬以外に「土地の筆数」「相続人の数」「非上場株式の有無」などによる加算報酬が細かく設定されていることが多いため、契約前に必ず詳細な見積書の提示を求めてください。
特に、「税務調査への立会い費用」や「修正申告が必要になった際の追加報酬」が明確になっているかを確認することで、後々のトラブルを避けることができます。
また、相続税の手続きは戸籍収集から名義変更まで多岐にわたり、数か月から1年近くの付き合いになります。そのため、専門用語を多用せず分かりやすく説明してくれるか、進捗報告はこまめか、といった「コミュニケーションの相性」も軽視できません。
多くの相続案件を抱えすぎてレスポンスが遅い税理士や、高圧的な態度の税理士は避けるべきです。信頼できる税理士は、依頼者の不安を解消するために丁寧なヒアリングを行い、最適なスケジュールを共有してくれます。
- 参考サイト: 税理士に支払う報酬|国税庁(源泉徴収の解説)
- 参考サイト: 税理士の探し方|国税庁
相続税申告を税理士に依頼する際の費用について
相続税申告における税理士費用は、かつては税理士会によって報酬規定が定められていましたが、現在は自由化されており、事務所ごとに独自の料金体系が設定されています。一般的には「遺産総額」に比例する仕組みが主流ですが、具体的にどのような基準で変動するのかを把握しておくことが重要です。
相続実務に精通した税理士の視点から、費用の相場や内訳、安く抑えるポイントを詳しく解説します。

相続税申告における税理士費用の相場
相続税申告を税理士に依頼した際にかかる報酬の相場は、一般的に「遺産総額の0.5%〜1.0%」程度と言われています。遺産総額とは、基礎控除や債務控除を差し引く前の、プラスの財産の合計額を指します。例えば、遺産総額が1億円の場合、税理士報酬は50万円から100万円の間で推移するのが標準的です。
この金額の幅は、財産の内容(不動産の数や非上場株式の有無)や、依頼する事務所の規模・ブランド、提供されるサービスの範囲によって決まります。
最近では、財産構成がシンプルで手間がかからない場合に限り、0.5%を下回るような「格安プラン」を打ち出す事務所も増えていますが、一方で複雑な事案では追加料金が発生し、1.0%を超えることもあります。
| 遺産総額 | 報酬の相場(0.5%〜1.0%) |
|---|---|
| 5,000万円 | 25万円 〜 50万円 |
| 1億円 | 50万円 〜 100万円 |
| 3億円 | 150万円 〜 300万円 |
| 5億円 | 250万円 〜 500万円 |
報酬が極端に安い場合、土地の現地調査を省略したり、書面添付制度(税務調査率を下げる制度)が含まれていなかったりすることもあるため、単に金額だけで判断せず、どこまで対応してくれるかを確認することが不可欠です。
税理士費用の項目
税理士費用の体系は、大きく分けて「基本報酬」「加算報酬」「その他実費・オプション」の3つで構成されます。
基本報酬
基本報酬は、申告書作成のベースとなる料金で、多くの事務所が遺産総額に応じた段階的な料金表を採用しています。これには、戸籍等による相続人の確定、財産の概算評価、申告書の作成および提出、納付書の作成などが含まれます。遺産総額が増えるほど、税務上のリスクや計算の複雑さが増すため、基本報酬も高くなるのが一般的です。
加算報酬
事案ごとの「手間」の多さに応じて上乗せされる料金です。主な項目と相場は以下の通りです。
| 項目 | 加算報酬の目安 |
|---|---|
| 相続人の数 | 相続人が1名増えるごとに基本報酬の10%程度加算 |
| 土地の筆数 | 1区画(筆)ごとに5万円 〜 10万円程度 |
| 非上場株式の評価 | 1社につき15万円 〜 50万円程度(規模による) |
| 書面添付制度の利用 | 基本報酬の10%〜20%程度、または一律数万円 |
特に、土地の評価や非上場株式(同族会社)の評価は、税理士の高度な判断が必要となるため、加算項目として設定されるケースがほとんどです。
その他実費・オプション
実費には、役所や金融機関から取り寄せる戸籍謄本、登記簿謄本、残高証明書の発行手数料、交通費などが含まれます。また、オプションとして「遺産分割協議書の作成代行」や、相続発生から申告期限まで3ヶ月を切っている場合の「急ぎ案件(特急料金)」などが設定されることがあります。
税理士費用が高額になる場合
税理士報酬が相場よりも高くなるケースには、明確な理由があります。主に「財産の複雑性」「緊急性」「争いの有無」の3点が要因となります。
財産の評価が困難な場合
例えば、全国各地に多数の不動産を所有している、広大な大地主である、あるいは経営している会社の非上場株式を保有しているといったケースです。
これらの評価には、現地調査や複雑な数理計算が必要となり、膨大な工数がかかるため、加算報酬が積み上がります。海外資産がある場合も、現地の法律や通貨の調査が必要になるため、費用は跳ね上がります。
申告期限が迫っている場合
相続税の申告期限(10ヶ月)まで残り2〜3ヶ月を切ってから依頼する場合、事務所は他の案件を調整して集中的に作業を行う必要があるため、基本報酬の20%〜50%程度の「特急料金」が発生することが一般的です。
相続人間で遺産分割がまとまっていない場合
分割協議が難航し、税理士が何度もシミュレーションを出し直したり、話し合いに同席したりする場合、別途コンサルティング費用や調整費用が請求されることがあります。
税理士費用を安く抑える方法
税理士費用を抑えるためには、依頼者側の協力と、賢い事務所選びが重要です。
資料収集を自分で行う
税理士に戸籍謄本や金融機関の残高証明書の収集を丸投げすると、代行手数料が発生します。これらの書類を自分で集めて整理した状態で渡すことで、実費や手数料を削減できます。また、生前の通帳を整理し、過去の資金移動を説明できるメモを添えるなど、税理士の作業時間を減らす工夫が報酬交渉の材料になります。
相続専門の事務所で「パック料金」を利用する
相続を専門に扱う大規模な事務所では、財産構成がシンプルな場合に向けた「定額パック」や「格安プラン」を用意していることがあります。例えば、「相続人が一人、土地が一箇所、遺産総額が基礎控除内」といった条件下で、通常の半額程度の料金設定にしているケースがあります。
早めに相談し、複数の見積もりを比較する
特急料金を避けるため、四十九日が過ぎたら早めに相談を開始することが鉄則です。また、初回相談(多くの事務所が無料)を活用し、2〜3社の見積もりを比較しましょう。
その際、「提示された金額にどこまで含まれているか(書面添付や現地調査、税務調査対応の有無)」を確認することで、結果としてコストパフォーマンスの良い依頼先を見つけることができます。
参考サイト: 税理士の探し方(国税庁)
まとめ
相続税の申告を自分で行うか、税理士に依頼するか。その答えは、単なる「費用の損得」だけでは測れません。申告を終えた後に「本当にこの金額で正しかったのか?」と不安な日々を過ごすリスクや、数年後の税務調査に怯えるストレスをどう考えるかが重要な分岐点となります。
相続税申告は、いわば「やり直しのきかない一発勝負」です。
- 「とにかく1円も報酬を払いたくない、時間はいくらでもある」という方
- 「財産は預貯金のみで、基礎控除をわずかに超えるだけ」という方
であれば、自力での申告に挑戦する価値はあるでしょう。しかし、少しでも土地が含まれていたり、家族間での遺産分割に迷いがあったりする場合は、プロの門を叩くことを強くお勧めします。
税理士に支払う報酬は、多くの場合、「土地評価の減額」によって浮いた税金で相殺できてしまうのがこの業界の面白い(そして恐ろしい)ところです。結果として「プロに頼んだ方が、手元に残るお金が多かった」というケースは決して珍しくありません。
大切なのは、亡くなった方が残してくれた貴重な資産を、最も賢く、そして家族が笑顔で引き継ぐことです。そのためには、「専門家の知恵」を味方につけるという選択肢が、最も確実な近道になるはずです。



