不動産を相続するとき、多くの方が最初に気にされるのが「相続税がいくらかかるのか」「自宅や実家を手放さずに済むのか」という点です。
とくに40〜50代の方は、ご自身の親世代から自宅や実家、アパートなどの不動産を相続する場面が現実的になりつつあり、早めの情報収集が重要になります。
本記事では、不動産にかかる相続税の仕組みや評価方法、具体的な計算手順、よく利用される特例・対策までを一通り整理します。
そのうえで、トラブルが起きやすいポイントや、困ったときの相談先についても解説します。
不動産を相続した際にかかる可能性のある税金
不動産を相続したときにかかる税金は「相続税」だけではありません。
実務では、相続の段階 → 不動産の所有段階 → 不動産の売却段階とフェーズが変わるごとに異なる税金が発生する可能性があります。
どの税金がいつ発生し、どのくらいの負担になるのかを正しく理解することで、相続後の資金計画や不動産の活用判断が大きく変わります。
以下では、不動産を相続した際に発生する可能性がある税金を紹介します。
不動産を相続した際に発生する可能性のある税金一覧表
| 税金の種類 | 発生タイミング | 概要 | 課税対象・ポイント |
|---|---|---|---|
| 相続税 | 相続発生直後 | 遺産総額が基礎控除(3,000万+600万×相続人)を超えた場合に課税 | 不動産評価額が高いと相続税が発生しやすい。小規模宅地等の特例で最大80%減可能 |
| 登録免許税 | 相続登記(名義変更)時 | 不動産の所有者を変更するための税金 | 固定資産税評価額×0.4%(相続の場合)/相続登記の義務化で必須 |
| 不動産取得税 | (相続の場合は非課税) | 不動産取得時に発生する税金だが、相続では免除 | 生前贈与、買い替えの場合は課税(3〜4%)/相続時はかからない |
| 固定資産税 | 所有期間中 毎年 | 不動産を所有している限り毎年発生 | 固定資産税評価額×1.4%が標準。都市部の土地は負担大 |
| 都市計画税 | 所有期間中 毎年 | 市街化区域内の不動産に課税 | 固定資産税評価額×0.3%(最大)/場所により課税有無が異なる |
| 所得税(不動産所得) | 相続後に賃貸にした場合 | 取得した不動産を貸した場合、家賃収入が課税対象に | 収入−経費=不動産所得。減価償却費の扱いに注意 |
| 住民税(不動産所得に伴う) | 賃貸収入がある場合 | 不動産所得が発生すると住民税も課税 | 所得税と同じく収益が出ると負担増 |
| 譲渡所得税 | 不動産を売却したとき | 相続した不動産を売った場合の利益に課税 | 長期所有なら約20%、短期は約39%/取得費計算が相続特有で複雑 |
| 復興特別所得税 | 譲渡所得・所得税に上乗せ | 所得税額に対して2.1%上乗せ | 譲渡所得税にも適用されるため注意 |
| 相続空き家の3,000万円特別控除に伴う調整税 | 空き家売却時(条件付き) | 相続した空き家を売却する際の特別控除。条件を満たさないと課税増の可能性 | 適用条件が厳格。誤ると控除不可 → 譲渡税が高額に |
相続税
不動産を相続した際、もっとも大きな税負担になり得るのが相続税です。不動産は評価額が高くなりやすく、“相続税発生の引き金”になりやすい財産です。
▼ 相続税がかかるケース
- 遺産総額が 基礎控除額(3,000万円+600万円×法定相続人) を超える場合
- 都市部の土地・自宅の評価が高い場合
- 不動産を複数所有している場合
- 生命保険金・預貯金などが多い場合
▼税額を大きく下げられる制度
- 小規模宅地等の特例(自宅最大80%減)
- 配偶者の税額軽減(最大1億6,000万円非課税)
- 生命保険の非課税枠(500万円×法定相続人)
登録免許税(名義変更時に必要)
不動産の名義を被相続人 → 相続人に変更する際に発生します。令和6年から相続登記は義務化し、放置すると過料(罰金)がかかる可能性があります。
▼税率
固定資産税評価額 × 0.4%(相続登記の場合)
▼計算例
評価額2,000万円の土地を相続した場合
→ 8万円の登録免許税が必要。
不動産取得税(相続では非課税)
相続による不動産取得は、不動産取得税が非課税です。
ただし、生前贈与による不動産取得では不動産取得税(3〜4%)がかかるので注意が必要です。
固定資産税・都市計画税(毎年かかる税金)
相続後、不動産を所有している限り毎年発生する税金です。自宅か空き家か、賃貸かによって軽減措置が変わります。
▼固定資産税
固定資産税評価額 × 1.4%(標準)
▼都市計画税
固定資産税評価額 × 0.3%(最大)
(市街化区域のみ)
所得税・住民税(不動産を貸した場合)
賃貸にした場合、得た家賃は「不動産所得」として課税される税金です。黒字なら所得税・住民税が発生します。
▼計算式
家賃収入 - 必要経費(修繕費・管理費・減価償却費など)= 不動産所得
譲渡所得税・復興特別所得税(売却益の税金)
相続した不動産を売却して利益が出ると課税される税金です。
譲渡所得税=所得税+住民税で構成されており、この所得税部分に復興特別所得税が上乗せされます。
▼譲渡所得税の税率
- 長期(所有期間5年超)
所得税15%+住民税5%=20% - 短期(所有期間5年以下)
所得税30%+住民税9%=39%
▼復興特別所得税の税率
- 長期(所有期間5年超)
所得税15% × 2.1%= 0.315% - 短期(所有期間5年以下)
所得税30% × 2.1%= 0.63%
▼譲渡所得税の合計税率(所得税+復興税+住民税)
- 長期:20.315%
- 短期:39.63%
空き家の3,000万円控除(条件付きで税負担ゼロ級に)
要件を満たすと、相続した空き家の売却益から 3,000万円控除 が可能です。条件が厳しく、要件違反で適用不可となりやすいため注意が必要です。
▼主な条件
- 相続した実家が「旧耐震基準(昭和56年5月31日以前)」
- 相続人が誰も住んでいない
- 一定期間内(3年+α)に売却
- 耐震リフォーム or 更地にして売る
相続税の基礎控除と不動産の関係
相続税がかかるかどうかを判断するうえで、まず押さえておきたいのが「基礎控除」と「不動産評価額」の関係です。
相続税は、遺産総額が基礎控除額を超えたときにのみ課税される仕組みになっています。
基礎控除額の具体的な計算式
基礎控除額は、以下の計算式で求めます。
3,000万円 + 600万円 × 法定相続人の数
たとえば、被相続人に「配偶者」と「子ども2人」がいて、合計3人が法定相続人となるケースでは
- 3,000万円 + 600万円 × 3人 = 4,800万円
となり、遺産総額が4,800万円までは相続税がかからない(申告不要となるのが原則)ラインになります。
参照:国税庁「相続税の計算」
不動産が相続税発生の要因になる場合がある
預貯金は通帳を見れば残高が分かりますが、不動産は「いくらの価値があるのか」が直感的には分かりません。
相続税では、不動産の「相続税評価額」を使って遺産総額を計算しますが、この評価額が基礎控除のラインを押し上げる大きな要因になります。
- 都心部・駅近など路線価が高いエリアの土地
- 面積の大きい自宅敷地・駐車場
- 賃貸アパート・賃貸マンションを複数所有しているケース
こうした不動産は、相続税評価額だけで基礎控除額を超えてしまうことも珍しくありません。
反対に、不動産の評価額がそこまで高くなければ、下記の結果になるケースもあります。
- 預貯金や有価証券を加えても基礎控除額に届かない
- 結果として相続税はかからない(申告も不要)
不動産評価額と基礎控除のイメージ例
イメージしやすいように、簡単な例で整理してみましょう。
- 法定相続人:配偶者+子ども2人(合計3人)
- 基礎控除額:4,800万円
- 財産の内訳(相続税評価額ベース)
- 自宅土地・建物:3,000万円
- 預貯金:1,000万円
- その他の金融資産:500万円
この場合、遺産総額は
3,000万円 + 1,000万円 + 500万円 = 4,500万円
となり、基礎控除額4,800万円の範囲内に収まるため、相続税はかからない可能性が高い、と判断できます。
一方で、自宅土地の評価額が高く、たとえば以下のようなケースではどうでしょうか。
- 自宅土地・建物:5,000万円
- 預貯金:1,000万円
- その他の金融資産:500万円
合計は
5,000万円 + 1,000万円 + 500万円 = 6,500万円
となり、基礎控除4,800万円を1,700万円オーバーしているため、相続税の申告・納付が必要になる可能性が高くなります。
「評価額ベース」で見ることの重要性
ここで重要なのは、実際に売れる値段(実勢価格)ではなく、相続税評価額(路線価・固定資産税評価額などをもとに算定)を基準に考える点です。
「古い家だからそんなに価値はないはず」と感覚的に考えていると、相続税評価額が予想以上に高く、結果として基礎控除を超えていた…というケースも少なくありません。
不動産が複数ある場合の注意点
不動産が自宅1件にとどまらず、下記のようなケースでは、すべての不動産について評価額を把握したうえで合算しなければ、正確な判定ができません。
- 実家と別に、貸家・駐車場・別荘などがある
- 住所の違う土地・建物を複数保有している
「1件1件の評価はそこまで高くないが、合計すると基礎控除額を超えていた」という結果になることもあり得ます。
このため、「うちはそれほど資産家ではないから大丈夫」という思い込みだけで判断せず、一度は評価額ベースで棚卸しをすることが望ましいと言えます。
不動産の相続税を抑えられる主な制度
不動産の相続税対策は、「評価額を適正に下げられる制度」をどこまで活用できるかで大きく変わります。
ここでは、実務で利用頻度が高く、相続税額を大きく左右する4つの制度を詳しく解説します。
小規模宅地等の特例(自宅・事業用土地の評価を大幅減額)
不動産の相続税対策として最重要と言われるのが「小規模宅地等の特例」です。一定の条件を満たす場合、土地の評価額を 最大80%減額 できる強力な制度です。
特例が使える土地の種類(主に3つ)
- 特定居住用宅地(自宅)
→ 最大330㎡まで 評価額80%減 - 特定事業用宅地(事業用)
→ 最大400㎡まで 評価額80%減 - 貸付事業用宅地(アパート・駐車場)
→ 最大200㎡まで 評価額50%減
自宅と事業用を組み合わせることも可能で、要件を満たすと非常に大きな節税効果を発揮します。
特例が適用されるための主な要件(自宅の場合)
特に利用されるのは「自宅(特定居住用宅地)」ですが、要件は細かく、誤解も多いポイントです。
▼ 主な要件(いずれか)
- 配偶者が取得する場合
→ 無条件で適用(居住要件なし) - 同居していた子が取得する場合
→ 相続開始時点で「同居していた」ことが必要 - 別居している子(持ち家でない)が取得する場合
→- 被相続人に配偶者がいない
- 相続人自身や配偶者が“持ち家に住んでいない”
- 相続開始後も継続して住む意思がある
これらを満たす必要があります。
適用漏れで多い“落とし穴”
- 「同居ではなく、介護のために週5で通っていた」→ 同居扱いにならない
- 「別居していたけど、相続後に住む予定」→ 生前に持ち家がある場合は適用不可
- 「名義変更を後回しにしていた」→ 申告期限内の申請が必須
- 「家を売却してしまった」→ 一定期間内に売却すると適用要件を満たさない場合がある
小規模宅地の特例は“使えれば大幅減税、使えなければ相続税額が跳ね上がる”ため、相続対策では最優先で検討すべき項目です。
自宅が300㎡以上あるケースの判断ポイント
330㎡を超える分は通常どおり評価されます。
そのため、都市部の大きな自宅では、面積の振り分け方を工夫することで税負担が変わる場合があります。
- 一部を貸駐車場にしている
- 分筆して道路側と奥側に分ける
- 同じ敷地内に複数の建物がある
など、利用状況に応じた「最適な評価区分」が必要になります。
配偶者の税額軽減(最大1億6,000万円まで非課税扱い)
配偶者が相続する財産には、「配偶者の税額軽減」が適用されます。これは“実質的に相続税がかからない”制度といえるほど強力です。
配偶者が非課税で受け取れる金額は、次のうち、大きい方までになります。
- 法定相続分相当額
- 1億6,000万円
つまり、配偶者が自宅や預金を含めて1億6,000万円まで取得しても、相続税は課税されません。
「二次相続」に備える視点が重要
ここでよくある誤解が、下記の発想。
「配偶者に全部相続させれば税金はかからないから安心」
たしかに一次相続(父の相続など)では税金がほぼゼロになりますが、配偶者が亡くなったとき(二次相続)に、相続税が重くなることが多いのが実務です。
▼ 二次相続で税負担が増える要因
- 相続人が「母+子」→「子のみ」になり、基礎控除額が減る
- 母に集中した財産がそのまま子へ渡ると、課税対象が一気に増える
そのため、配偶者への集中相続は、下記を慎重に設計する必要があります。
- どこまで移転するか
- どの財産を子に残すか
相続時精算課税制度(生前贈与とセットで検討する制度)
生前贈与を活用して不動産を早めに移しておきたい場合に使われる制度です。
▼制度の概要
- 親 → 子・孫へ
- 2,500万円まで非課税で贈与できる
- 将来の相続の際に「相続財産として合算して精算」する仕組み
かんたんに言えば、
「生前に大きく移転できるが、最終的な税金計算は相続時にまとめて行う」
という制度です。
▼メリット
- 不動産を早めに子へ移転でき、将来の管理コストを軽減
- 将来値上がりしそうな不動産を早めに移せる
- 相続対策として、家族間の資産移転を前倒しできる
▼デメリット(ここが特に重要)
- 一度選択すると暦年課税に戻れない
- 相続時に必ず合算されるため節税にならないケースも多い
- 移転後の不動産は子の名義となり、売却やローン利用が制約されることがある
- 不動産の名義変更費用(登録免許税・不動産取得税)が発生
「精算課税=節税になる」と誤解されがちですが、実務では“節税目的だけでの利用は危険”とされています。
値上がりが確実な土地や、将来の空き家リスクを避けるためなど、目的がはっきりしている場合にのみ検討する制度です。
生命保険の非課税枠と不動産相続の組み合わせ
不動産を相続した場合の問題として非常に多いのが、下記ケースです。
現金がないため相続税が払えない
これを補えるのが生命保険の非課税枠です。
▼非課税枠の金額
- 500万円 × 法定相続人の数
法定相続人が配偶者+子2人=3人の場合
→ 1,500万円まで非課税
不動産相続ととくに相性が良い理由
- 不動産は現金化しづらく、納税資金が不足しやすい
- 売る予定がない不動産を守りたい場合に、現金部分を補える
- 不動産を相続する子と、現金を渡したい子との調整(代償分割)に使える
つまり、生命保険は
- 納税資金の確保
- 温度差のある相続人どうしの調整
- 不動産の“手放さない相続”を可能にする資金手当て
として非常に有効です。
実務でよくある有効パターン
- 自宅(評価5,000万円)を長男が相続
- 預金は1,000万円しかない
- 相続税が発生するが、現金が足りない
→ 生命保険1,500万円がそのまま納税資金に充てられる
このように、不動産相続では生命保険が“納税の生命線”になるケースが多くあります。
不動産を相続したときにまず確認したいポイント
不動産の相続が発生したとき、「何から手をつければよいかわからない」という声は非常に多く聞かれます。
ここでは、初動で押さえておきたいチェックポイントを、実務的な観点から整理します。
1. 相続人は誰か(戸籍で「法定相続人」を確定する)
はじめに行うべきは、相続人の範囲を確定することです。
ここを曖昧なまま手続きを進めると、のちに「本来相続人であった人が漏れていた」などのトラブルにつながるおそれがあります。
- 被相続人の出生から死亡までの連続した戸籍(除籍・改製原戸籍を含む)を取得
- 配偶者の有無、子どもの有無・認知の有無
- 先に亡くなった子がいる場合、その子の子(孫)が代襲相続人になるかどうか
といった点を、戸籍の記録をもとに確認していきます。
「戸籍謄本を数通集めれば足りる」と思われがちですが、実際には本籍地の変更や改製などにより、複数の役所から取り寄せが必要になるケースも多く見られます。
2. 不動産の基本情報(所在地・登記内容・利用状況)
次に、相続の対象となる不動産がどこに・どのような形で存在しているかを整理します。
- 所在地(市区町村・番地・マンション名・部屋番号等)
- 登記簿上の名義(被相続人単独か、共有か)
- 地目(宅地、田、畑、山林など)
- 利用状況(自宅、空き家、賃貸中、駐車場として賃貸など)
これらは、下記などの資料をもとに確認していきます。
- 登記簿謄本(登記事項証明書)
- 固定資産税の納税通知書
- 管理会社からの明細書(賃貸物件の場合)
「とりあえず実家の話だけ」を考えがちですが、被相続人が過去に購入した投資用マンションや、相続で取得してそのままになっている地方の土地など、相続人が把握していない不動産が見つかることも少なくありません。
3. 評価の基礎となる資料(固定資産税評価額・路線価の有無)
相続税がかかるかどうかの判断材料とするために、不動産の評価のもとになる情報も早めに集めておきます。
- 固定資産税評価額
→ 固定資産税の納税通知書で確認可能 - 路線価の有無・路線価図の確認
→ 国税庁の路線価図で、道路に付された評価単価を確認 - 評価上のポイント(角地、間口が狭い、不整形地、私道負担など)
これらをもとに、税務上の評価がどの程度になりそうかの「目安」をつかみます。
専門的な評価はあとから税理士に依頼するとしても、「そもそも相続税がかかるゾーンにいるのかどうか」を早い段階で把握しておくことは重要です。
4. 不動産以外の財産・債務も含めた「全体像」の把握
不動産の相続税を考える際でも、不動産だけを切り出して考えるのではなく、遺産全体を一度俯瞰することが不可欠です。
- 預貯金(普通預金・定期預金)
- 有価証券(株式・投資信託等)
- 生命保険(死亡保険金)
- 自動車、貴金属、骨董品など
- 貸付金・売掛金 など
同時に、マイナスの財産である
- 住宅ローンや事業用借入金
- クレジットカードの未払残高
- 医療費・税金などの未払い
についても把握し、**プラスとマイナスを差し引いた「正味の遺産額」**をイメージします。
不動産の評価額だけでは基礎控除額を超えない場合でも、金融資産を加えると基礎控除を超えることがあります。逆に、ローン残高が大きい場合には、不動産評価額を差し引いても基礎控除内に収まるケースもありえます。
相続税・相続登記の期限に注意
不動産の相続は、感情面の整理も含めて時間がかかりやすい手続きですが、期限があるものも存在します。
- 相続税の申告・納付期限
→ 相続開始(被相続人の死亡)を知った日の翌日から10か月以内 - 相続登記の申請期限(原則義務化)
→ 相続開始を知った日から3年以内 など
初動段階で、下記の見通しを持っておくことで、期限に追われることなく手続きを進めやすくなります。
- 「相続税がかかりそうかどうか」
- 「不動産の名義変更(相続登記)がどの程度のボリュームになりそうか」
- 「遺産分割の話し合いに時間がかかりそうか」
「自力で進める範囲」と「早めに相談したい範囲」を切り分ける
初動の段階で下記の切り分けをしておくと、その後の動きがスムーズになります。
- 戸籍収集や財産一覧表の作成など、自分たちで進められる部分
- 不動産評価・相続税計算・特例適用の判断といった、専門的な判断が必要な部分
とくに、不動産の評価が高額になりそうな場合や、不動産の数が多い場合、相続人どうしの利害が食い違いそうな場合には、早い段階で税金・法律に詳しい相談先につないでおくことで、余計な手戻りを防ぎやすくなります。
不動産の相続税評価額の決まり方
不動産は、相続税の計算でもっとも評価が難しい資産のひとつです。
同じ広さの土地であっても、下記の条件によって評価額は大きく変わってきます。
- 場所
- 接する道路の種類
- 用途地域(商業地・住宅地など)
- 実際の利用状況
ここでは、不動産の相続税評価額がどのように決まるのかを、実際の評価実務に近い形で順序立てて解説します。
土地の評価(路線価方式・倍率方式)
土地の相続税評価額は、**「路線価方式」と「倍率方式」**のいずれかで行います。
どちらが使われるかは、地域によって異なります。
1. 路線価方式(市街地中心部で最も一般的)
市街地・住宅街・商業地など、道路に「路線価」が設定されているエリアでは、路線価方式で評価します。
評価額は、以下のような式で求めます。
評価額 = 路線価 × 土地面積 × 各種補正率
補正率には、次のような項目があります。
- 奥行補正率(奥行が深すぎる、短すぎる場合に調整)
- 間口狭小補正率(間口が極端に狭い場合)
- 不整形地補正率(三角形や台形など、整形でない土地)
- 角地補正率(二方向の道路に接している土地は、プラス補正)
- がけ地補正率(がけ地や高低差がある土地はマイナス補正)
同じ路線に面している土地でも、下記のような特徴があるだけで、評価額が2~3割変わることも珍しくありません。
- 間口が狭い
- 奥行きが極端に深い
- L字型・三角形などの不整形
▼実務でよくある誤解
「路線価 × 面積 = そのままの評価額」…ではありません。必ず複数の補正が入り、最終評価は現実の使い勝手に応じて調整されます。
2. 倍率方式(地方の住宅地・農地などで採用)
一方、路線価が設定されていない地域では、倍率方式を使います。
評価額 = 固定資産税評価額 × 国税庁が定めた倍率
固定資産税評価額は、市区町村が3年ごとに評価する金額で、納税通知書から確認できます。
倍率方式は、路線価方式に比べて計算は簡易ですが、下記などにより、最終評価額は地域差が大きくなることがあります。
- 固定資産税評価額が実態より高い/低い
- 倍率が地域ごとに大きく異なる
参照:国税庁「土地家屋の評価」
自宅(土地・建物)の評価
- 路線価がある → 路線価方式
- 路線価がない → 倍率方式
を使いますが、ポイントは「必ずしも固定資産税評価額とリンクしない」という点です。
路線価は、実勢価格(市場価格)の8割が目安と言われていますが、これはあくまで平均的な話で、実際には市場価格と大きく乖離する地域も多くあります。
自宅の建物:固定資産税評価額を使用
自宅の建物については、原則として固定資産税評価額=相続税評価額となります。
- 木造住宅 → 経年劣化で評価が下がりやすい
- RC造マンション → 経年劣化がゆるやかで評価額が比較的高めに残る
など、構造による違いも反映されています。
「小規模宅地等の特例」を見越した評価も重要
特に自宅の評価では、後から使える可能性のある、下記の適用余地があるかどうかが極めて重要です。
- 小規模宅地等の特例(80%減額)
評価額が3,000万円の土地でも、80%減額が適用されれば600万円まで下がるため、「相続税が発生するかどうか」が一気に変わるケースがあります。
「どの評価方法でいくらになるか」だけでなく、「後でどの特例が使えそうか」まで見越した評価が実務ではポイントになります。
賃貸アパート・貸家建付地などの評価
賃貸不動産は、自宅よりも評価ルールが複雑になります。
賃貸建物(貸家)の評価
貸家の建物は、以下のように評価します。
評価額 = 固定資産税評価額 ×(1 - 借家権割合 × 賃貸割合)
一般的な借家権割合は30%(地域差あり)。
賃貸部分が100%なら、
- 固定資産税評価額 ×(1-0.3)= 70%
つまり、固定資産税評価額の30%分が評価減になります。
貸家建付地(賃貸建物が建つ土地)の評価
賃貸建物が建つ土地は、さらに以下のような評価になります。
貸家建付地の評価額 = 自用地としての評価額 ×(1-借地権割合 × 借家権割合 × 賃貸割合)
借地権割合は地域ごとに異なり、60%~90%が一般的。
たとえば、借地権割合70%、借家権割合30%なら、
70% × 30% = 0.21(21%)
つまり、土地評価額の21%が評価減になります。
賃貸不動産は“自然と評価が下がる”構造になっている
賃貸物件は、下記により構造的に評価額が下がりやすい仕組みになっています。
- 建物評価 → 借家権により30%程度評価減
- 土地評価 → 借地権×借家権で15〜25%程度評価減
そのため、不動産投資が「相続税対策で有効」とされる理由のひとつでもありますが、空室や老朽化などのリスクも抱えるため、“節税だけ”で購入するのは危険です。
評価額をざっくり把握する簡易チェック方法
専門家に依頼する前の段階でも、おおよその評価額を把握することは可能です。
以下、実際の相続税申告業務で用いられる「概算チェック」の方法を紹介します。
1. 固定資産税納税通知書を用意する
土地・建物それぞれに下記項目が記載されているので確認する。これが評価の第一歩です。
- 固定資産税評価額
- 土地の地目
- 土地の地積(面積)
2. 路線価図を国税庁サイトで確認
「路線価図」から、下記を確認します。
- 接している道路の路線価
- 借地権割合
- 奥行補正の有無
特に注意したいのは、
- 道路によって路線価がまったく違う
- 間口が狭いと小規模宅地の計算に影響する
- 私道持ち分があるかどうか
など、現地の状況を把握しないと評価を誤りやすい点です。
3. 簡易評価(概算)を試算する
最も簡単な方法は以下の式です。
- 路線価方式エリア
→ 路線価 × 面積 × 0.9(補正をざっくり織り込む) - 倍率方式エリア
→ 固定資産税評価額 × 倍率
これはあくまで“ざっくりとした計算”ですが、基礎控除額を超えそうかどうかの判断材料には十分使えます。
不動産を相続したときの相続税計算の流れ
不動産を含む相続財産の相続税は、「まず遺産全体を評価 → 控除や特例で調整 → 最後に各相続人へ割り振る」という段階的なプロセスで計算します。
このプロセスを正確に理解しておくと、どこで税額が大きく動くのかが見えてきます。
ここでは、実務的な視点から、相続税の計算手順をステップごとに詳しく説明します。
Step1:遺産総額を正確に把握する
相続税計算の出発点は「遺産総額の一覧化」です。不動産だけを見るのではなく、すべての財産をリストアップする必要があります。
▼相続財産として評価される主なもの
- 土地・建物
(自宅、賃貸物件、駐車場、別荘など) - 預貯金
(普通・定期・ネット銀行含む) - 金融資産
株式、投資信託、外貨預金、社債など - 生命保険金(みなし相続財産)
- 自動車・貴金属・骨董品・宝飾品
- 法人からの退職金(死亡退職金)
- 貸付金・敷金返還請求権など
生命保険や死亡退職金は「みなし相続財産」として課税対象になる点を誤解しがちなので要注意です。
不動産は“評価方法によって金額が大きく動く”
不動産は市場価格ではなく、下記がベースになります。
- 土地 → 路線価方式 or 倍率方式
- 建物 → 固定資産税評価額
さらに、
- 賃貸不動産は評価減
- 小規模宅地の特例適用で最大80%減
など、後の特例により金額が大幅に変わる可能性があるため、「現時点では仮の評価」でOK。全体像の把握が優先です。
Step2:債務・葬儀費用など控除できる項目を差し引く
相続税では、遺産総額から一定のものを差し引いて良いことが決められています。
▼相続税で控除できる主な債務
- 住宅ローン
- 金融機関への借入金(事業資金含む)
- 未払いの医療費・税金
- クレジットカードの未払残高
- 葬式費用(会場費、火葬料、読経料など)
法律上、「相続開始時点で確定している負債」は控除対象になります。
▼控除できないものの例
- 香典返し代
- 法事(四十九日・一周忌など)の費用
- 墓石・仏壇などの購入費
ここは誤解が多いポイントです。
「葬儀費用だから全部控除できる」と思われがちですが、税務上、“葬式そのものに直接必要な費用のみ”が控除対象です。
不動産にローンが残っている場合の重要ポイント
不動産価値が5,000万円あっても、住宅ローン残高が2,000万円あるなら下記として扱われます。
正味3,000万円の価値
不動産単体では高額でも、ローンが重いケースでは相続税が発生しないこともあります。
Step3:課税遺産総額 → 相続税総額の計算
ここから、実際に税額を求める計算フェーズに入ります。
① 課税価格の合計を計算
遺産総額(不動産評価額+金融資産など)から債務と葬式費用を差し引き、課税価格の合計を求めます。
② 基礎控除額を差し引き「課税遺産総額」を求める
基礎控除額は
3,000万円 + 600万円 × 法定相続人の数
法定相続人が配偶者+子2人=3人なら
→ 基礎控除は 4,800万円
課税価格の合計 - 基礎控除額 = 課税遺産総額
ここで 課税遺産総額が0以下なら、相続税はゼロ(申告不要・特例適用の必要なし)
③ 法定相続分に応じて“仮の取得額”を計算する
(これが相続税計算の最重要ポイント)
相続税は、実際の遺産分割ではなく、「法定相続分で分けたシミュレーション」にもとづいて計算します。
例:
配偶者1/2
子2人は各1/4ずつ
この按分を課税遺産総額にかけて、各相続人の“仮の相続額”を算出します。
④ 各人の仮の相続額に税率を適用する
相続税は累進税率で、金額が大きいほど税率が上がります。
- 1,000万円以下:10%
- 1,000万円超~3,000万円:15%
- 3,000万円超~5,000万円:20%
- …と段階的に上昇(最高税率55%)
仮の相続額ごとに税率をかけ、さらに「控除額」を差し引きます。
⑤ すべての相続人の税額を合計
= 相続税の総額
この「総額」をもとに、次のステップで実際の相続分に合わせて各相続人に割り振ります。
Step4:実際の遺産分割に合わせて税額を按分する
ここで行うのは、
「実際に誰がどの財産を取得したか」に合わせて税額を割り振る作業です。
実務ではここで税額が大きく変わるケースが多いです。
- 自宅を長男が取得
- 預貯金を次男が多く取得
- 配偶者が一部の金融資産を取得
など、実際に各相続人が取得する財産によって負担すべき税額が異なります。
このステップで適用される主な税額控除
- 配偶者の税額軽減
- 未成年者控除
- 障害者控除
- 相次相続控除(短期間で相続が続いた場合)
特に配偶者の税額軽減は強力で、実質1億6,000万円までは非課税となるため、配偶者が取得する財産が多い場合には税額が大きく減ることもあります。
不動産を中心に取得すると税額が上がることも
不動産は「評価額が大きい」「現金化が難しい」ことから、特例が使えない場合は特定の相続人の税負担が跳ね上がることもあります。
特に注意が必要なのが、
- 共有名義にする場合
- 小規模宅地が使えない場合
- 不動産の評価額が高く、現金が少ない場合
このようなケースでは「代償分割」(不動産を取得する人が他の相続人へ現金を払う)が必要になることもあります。
参照:国税庁「相続税の計算」
【具体例】自宅+預貯金を相続したケースの相続税計算
長男が自宅を相続し、次男・配偶者が預貯金を分ける場合
▼ 家族構成
- 被相続人:父
- 相続人:母・長男・次男(合計3人)
よって、基礎控除額=3,000万円+600万円×3人=4,800万円
▼ 財産の内訳(相続税評価額ベース)
| 財産 | 評価額 |
|---|---|
| 自宅土地 | 4,000万円(路線価評価) |
| 自宅建物 | 400万円(固定資産税評価額) |
| 預貯金 | 1,200万円 |
| 株式・投資信託 | 400万円 |
| 生命保険金(受取人:母) | 500万円(みなし相続財産) |
▼財産総額(控除前)
→ 4,000+400+1,200+400+500 = 6,500万円
▼ 債務・葬儀費用
- クレジットカード未払い:20万円
- 葬儀費用(控除対象分):100万円
合計:120万円
Step1:課税価格の合計
6,500万円 − 120万円 = 6,380万円
Step2:基礎控除判定
基礎控除額:4,800万円
課税遺産総額=6,380万円 − 4,800万円 = 1,580万円
→ 基礎控除を超えているため、相続税の申告が必要。
Step3:法定相続分で“仮の相続額”を計算
法定相続分:
- 母:1/2
- 子(長男・次男):各1/4
▼ 各相続人の仮の取得額
- 母:1,580万円 × 1/2 = 790万円
- 長男:1,580万円 × 1/4 = 395万円
- 次男:395万円(同上)
Step4:仮の相続額に相続税率を適用
相続税率(1,000万円以下 → 10%・控除0)
- 母:790万円 ×10%=79万円
- 長男:395万円 ×10%=39.5万円
- 次男:39.5万円
▼ 合計(相続税総額)
158万円
Step5:実際の遺産の分け方に合わせて按分
家族の合意で以下のように分けたとします。
- 長男 → 自宅(4,400万円)
- 母 → 預貯金600万円+生命保険500万円=1,100万円
- 次男 → 預貯金600万円+株式400万円=1,000万円
ここで適用できる控除を踏まえて税額を調整します。
母 → 配偶者の税額軽減(超強力な制度)
配偶者は法定相続分相当額 or 1億6,000万円まで非課税
母の取得額は1,100万円のため
→ 税額0円(全額軽減)
長男 → 自宅を相続
長男に対応する相続税の総額では
→ 39.5万円
ここで、「小規模宅地等の特例」が使えるかがカギですが、今回は同居していた設定として、土地330㎡部分について 80%減 が使えるとすると…
- 自宅土地4,000万円のうち
80%減後 → 800万円に評価減
結果として、長男の最終取得額の課税対象が大きく圧縮され、相続税はほぼゼロ〜数万円程度まで下がるケースが一般的です。
※実務では建物・敷地面積・同居要件などの条件により変動
次男 → 預貯金+金融資産を取得
次男の仮の税額:39.5万円
実際の取得額(1,000万円)と比較しても、税額区分は変わらないため、
→ 納税額は 39.5万円(調整後もほぼ同額)
最終的な相続税の負担額(具体例のまとめ)
| 相続人 | 税額 |
|---|---|
| 母 | 0円(配偶者の税額軽減) |
| 長男 | ほぼ0円(小規模宅地等の特例適用時) |
| 次男 | 約39.5万円 |
| 合計 | 約39.5万円 |
※ 特例の適用により、相続税総額158万円 → 実質ほぼ4分の1以下に減額
▼この具体例でわかるポイント
- 土地評価が高いと、基礎控除を簡単に超える
- ただし「小規模宅地等の特例」が入ると税額が劇的に下がる
- 配偶者の税額軽減は強力で、ほとんど課税されない
- 最終的な税額は“実際の分け方”で大きく変わる
- 不動産中心の相続は、特例の適用有無がすべてを左右する
不動産を活用した相続税対策
不動産を活用した相続税対策は、「やれば必ず節税になる」ものではありません。
効果が出るケースと逆効果になるケースの差が非常に大きいため、制度の理解だけでなく“ご家族の資産状況・将来の利用方針”まで含めた総合判断が必須です。
ここでは、生前〜相続発生前に検討できる主要な対策を、実務で重視される観点とともに詳しく整理します。
生前贈与を使った不動産対策(慎重に使うべき代表例)
生前に不動産や現金を移転することで、将来の相続財産を圧縮する方法です。
しかし、不動産は贈与税・評価・維持コストなどの問題が絡むため、現金の生前贈与以上に慎重な判断が必要です。
▼生前贈与のメリット(うまくハマると強い)
- 相続財産の圧縮
→ 生前に移転すれば、将来の相続財産の総額が減る - 不動産を早めに子へ移転し、管理問題を解消できる
→ 空き家・老朽化の対策を前倒しできる - 将来値上がりが見込まれる土地に有効
→ 価格上昇分を子に移せる(評価額の固定化)
▼デメリット(実務ではこちらが超重要)
1. 贈与税は相続税より高い
不動産を贈与すると、下記の費用がかかり、税負担が相続より重くなるケースが多い。
- 贈与税(累進55%)
- 登録免許税(固定資産評価額×2%)
- 不動産取得税(3%〜)
2. 生活資金確保のリスク
不動産を贈与=親から資産を早く切り離すため、将来の介護費用・医療費が不足するリスクが高まる。
3. 子の離婚・破産などで不動産が巻き込まれる可能性
贈与後は子の財産なので、下記が発生した際に不動産が巻き込まれることがある。
- 離婚時の財産分与
- 破産時の差し押さえ
4. 小規模宅地の特例が使えなくなる恐れ
自宅を生前贈与すると、特定居住用宅地の80%減額(超強力な特例)を失う
→ 結果として“贈与しないほうが税額が安かった”という逆転が起きる。
▼生前贈与が有効になる代表ケース
- 将来確実に値上がりする都市部の土地
- すでに親が別の不動産に居住していて、“今贈与しても特例の影響がない”ケース
- 管理が困難な空き家を早めに子が処分したい場合
- 親が高齢で後々の不動産管理が難しくなることが明らか
“節税目的”だけでなく、“家族の事情・不動産の利用方針”が明確なときにのみ有効です。
不動産の買い替え・建て替えで評価額を最適化する方法
不動産は使い方・形・利用状況によって相続税評価額が変わるため、生前に見直すことで“自然に評価額を下げられる”ことがあります。
買い替え(大きい土地→コンパクトな土地)
▼ 効果
評価額の大きい広い土地を手放し、適正規模の自宅に買い換えることで、土地評価額を自然に圧縮できる。
▼ 向いているケース
- 一戸建てを維持するメリットが薄い
- 親が高齢で大きな家の維持が難しい
- もともと土地が広すぎて小規模宅地の330㎡を超える部分が高額になっている
▼ 注意点
- 売却益に譲渡所得税がかかる可能性
- 仲介手数料・引越し費用・新居の諸経費
- 新居が小規模宅地の対象外になる場合もある
“税金だけで動くと失敗しやすい対策”であることは肝に銘じておきたい。
建て替え(老朽化した自宅・賃貸物件)
建物は経年劣化で固定資産税評価額が下がるが、**建て替えると評価額が上がる(=節税にはならない)**ので注意。
ただし、賃貸部分を設けるなど“相続税評価額を下げる配置”に変えることは可能。
▼ 建て替えで評価が下がる代表例
- 自宅の敷地の一部を貸家に変更
→ 貸家建付地として評価減 - アパートを新築し“貸家割合100%”にする
→ 建物・土地が賃貸減額対象になり、評価額を圧縮
▼建て替えの注意点
- 空室リスク → 節税より収益性のほうが重要
- 建設費高騰でキャッシュフロー悪化
- 高齢の親名義でローンが組めない(子の連帯が必要)
- 不動産の評価額だけ下がっても、実生活が苦しくなることもある
建て替えは“節税効果×収益性×資金計画”の3つがそろわないと成功しにくい。
賃貸用不動産(アパート・マンション)による評価減
不動産投資の世界でよく言われる“賃貸不動産は相続税対策になる”という話は、実務的にも一定の根拠があります。
▼賃貸不動産の評価額
建物
**借家権割合(一般的に30%)**により、
固定資産評価額 ×(1 − 借家権割合)= 70%評価
土地(貸家建付地)
借地権割合×借家権割合で15〜25%程度評価が下がる
(地域による)
▼数字で見ると節税効果がわかりやすい
例:建物1,000万円+土地4,000万円の物件
↓
- 建物:1,000万円 × 70% = 700万円
- 土地:4,000万円 ×(1 − 0.21)= 3,160万円
→ 合計5,000万円 → 約3,860万円へ圧縮
現金5,000万円を持っているより、賃貸不動産5,000万円を持っているほうが相続税評価額が低くなるわけです。
▼賃貸不動産が有効なケース
- 現金や預貯金が多く、評価替えしたい
- 土地を持っていて、収益物件化したほうが活かせる
- 後継者(子)が不動産管理に理解がある
- 空室リスクが低いエリアに土地がある
▼逆に危険なケース
- 節税目的“だけ”で購入する
- 収益性が低いエリアで無理に賃貸経営
- 修繕費・管理費・金利上昇の見通しが甘い
- 子が不動産管理に興味がない
- 借入を組んだ結果、老後資金が不足する
相続税が減っても家計が破綻したら意味がないため、“不動産投資”として成立するかどうかが大前提です。
節税目的だけで不動産を買う前に確認すべきリスク
この章の締めとして、“節税のためだけに不動産を買うのは危険”という点を強調します。
▼よくある勘違い
- 「不動産を買えば節税になる」
- 「賃貸にすれば評価が下がる」
- 「借金すれば相続税対策になる」
→ 半分正しくて半分間違い。
どれも条件が揃ったときのみ成立する理屈です。
▼不動産を買う前に必ず確認したいこと(実務で鉄則)
1. キャッシュフローがプラスで回るか
赤字になる物件は、節税になっても家計が崩壊します。
2. 賃貸需要が10年以上続くエリアか
人口流出・空室増加エリアは危険。
3. 金利上昇に耐えられる資金力があるか
長期の返済計画が重要。
4. 子が不動産を引き継ぐ意思があるか
相続後に誰も管理できないのは最悪のシナリオ。
5. 節税額より経費・リスクのほうが高くないか
評価減が効いても、修繕費や空室リスクで損するケースがある。
不動産の相続税で「税理士に相談するべき」ケース
不動産が関わる相続は、評価方法・特例・分割方法・納税資金など、専門的な判断が必要な要素が多く、“気づかないまま損をするリスク”が非常に高い分野です。
ここでは、税理士への相談が必須レベルのケースを“なぜ相談すべきなのか”まで含めて紹介します。
不動産の評価額が高い or 路線価の高い地域に不動産がある場合
相続税は“不動産の評価が押し上げ要因”になります。
そのため、都心・主要駅近・人気住宅地など路線価の高いエリアに土地がある場合は、評価額の見直しで数百万円単位の差が出る場合があります。
▼ 税理士が必要な理由
- 間口・奥行・不整形などの補正を正しく入れられる
- 路線価の読み違いが避けられる
- 境界・私道負担などの評価減を漏れなく反映できる
複数の不動産を相続する場合
自宅、実家、土地、賃貸物件など不動産が複数あると、以下の問題が複合的に発生する可能性があります。
- どれに小規模宅地の特例を適用すべきか
- どれを残し、どれを売るべきか
- 不動産同士の評価額バランスで税額が変動
- 賃貸物件や地目の違いで評価方法が複数発生
▼ 税理士が必要な理由
- 複数の不動産を組み合わせた“節税シミュレーション”が必須
- 特例が使える不動産と使えない不動産が混在する
- 遺産分割の仕方で税額が大きく変わる
小規模宅地等の特例(最大80%減)を使いたい・使えるか判断したい場合
小規模宅地等の特例は、「住んでいたか?」「持ち家があるか?」「どこに住民票があるか?」など、細かい要件が存在するため判断が難しくなります。
▼ 税理士が必要な理由
- 適用できるか否かの判断が非常に難しい
- 税務調査で争点になる最上位の項目
- 特例を誤ると“数百万円の追徴課税”になる
賃貸アパート・貸家・貸地など“賃貸系不動産”を相続した場合
賃貸物件の評価は特殊で、下記の項目が関るため間違いやすい分野です。評価ミスをすると相続税に直接影響がでます。
- 借家権割合
- 賃貸割合
- 借地権割合
- 地域ごとの評価ルール
▼ 税理士が必要な理由
- 空室の扱いひとつで評価額が大きく変動
- 一部賃貸・一部自宅など複合用途は評価が難しい
- 建物と土地の評価が別々のロジック
相続税がかかるかどうか「ギリギリ」のラインのとき
基礎控除を超えるかどうかの判断が難しい、下記のようなケースは評価の正確性が重要です。
“1円でも超えれば申告義務”があり、申告漏れがあれば延滞税・加算税のリスクが発生します。
- 遺産総額が4,000〜6,000万円台
- 地方の不動産+預貯金がそこそこある
- 自宅の評価が想像より高い可能性がある
▼ 税理士が必要な理由
- 素人の評価だと誤差が大きく、結果が変わる
- 生命保険の非課税枠や債務控除の扱いが難しい
- みなし相続財産の判断を誤りやすい
不動産が多く納税資金が足りないと感じたとき
納税資金をどう準備するかで、相続全体の戦略が変わるくらいの重要な項目です。
納税資金の判断ミスは、不動産を失う・延納不可になって追い込まれるなど深刻な結果を招く場合もあります。
▼ 税理士が必要な理由
- 延納(分割払い)の可否判断
- 納税額の精密シミュレーション
- 売却すべき不動産の選定
- 小規模宅地と売却の両立判断
不動産の相続税に関するよくある質問(Q&A)
Q1. 相続した不動産の評価額はどのように決まるのでしょうか?
不動産の相続税評価額は、相続税法に基づいて評価されます。主に「路線価方式」と「固定資産税評価額方式」の2つの方法が使われます。
- 路線価方式: 不動産が所在する土地の前面道路の路線価を基に評価額が決まります。路線価は国税庁が毎年公表しており、地域ごとに異なります。
- 固定資産税評価額方式: 市町村が定める固定資産税評価額を基に評価される方法です。土地や建物の価値は、主に地価や建物の構造、築年数などで決まります。
これらの評価額に基づき、相続税額が算出されるため、相続する不動産の種類や立地、状況を考慮する必要があります。
参照:国税庁「土地家屋の評価」
Q2. 相続税の基礎控除は不動産にも適用されますか?
はい、相続税の基礎控除は不動産にも適用されます。基礎控除額は「3,000万円 + 600万円 × 法定相続人の数」で算出され、遺産に占める不動産の評価額も控除対象となります。
例えば、相続財産の中に高額な不動産が含まれていても、基礎控除を差し引いた後の金額が課税対象となります。
また、不動産の場合はその評価額が高くなる傾向があるため、基礎控除を適用した後でも相続税が発生する可能性が高いです。これを減らすためには、相続発生前に対策を講じておくことが重要です。
参照:国税庁「相続税の計算」
Q3. 相続税の申告をしないとどうなりますか?
相続税の申告を期限内に行わない場合、無申告加算税や延滞税が課されることになります。これにより、相続税額が大幅に増加する可能性があります。
また、税務署が相続税の未申告を発見した場合、過去7年間に遡って調査が行われることもあります。特に不動産が相続財産に含まれている場合、その評価額の適正な申告が求められます。
申告期限は相続開始を知った日の翌日から10ヶ月以内であり、この期限を守らなければ法的な問題を引き起こす恐れがあるため、早期に税理士に相談することが勧められます。
Q4. 相続税の支払い方法にはどんなものがありますか?
相続税の支払い方法には、以下の選択肢があります。
- 一括納付: 相続税の全額を一度に支払う方法です。
- 分割納付: 相続税額が高額で一度に支払うことが難しい場合、一定の条件を満たすと、税務署に申請して納付を分割で行うことができます。最大で10年の分割払いが認められる場合があります。
- 物納: 現金で支払いが難しい場合、不動産や株式などの財産を納付する方法です。ただし、物納には一定の制限があり、税務署の審査を受ける必要があります。
特に不動産の場合、分割納付や物納が選択肢として考えられることが多いため、詳細については税理士に相談することが重要です。
参照:国税庁「相続税の物納」
Q5. 相続した不動産を売却することで相続税が軽減されることはありますか?
不動産を売却することで相続税が軽減される場合もありますが、売却による所得税や譲渡所得税の負担が発生することを考慮しなければなりません。
売却時の利益に対して譲渡所得税がかかるため、税額の総額が軽減されるとは限りません。
また、売却して得た現金で相続税を支払う場合、その現金で納付する相続税が減少することになりますが、不動産を保有することによる相続税評価額の減額効果も検討する必要があります。
売却のタイミングや方法については、税理士に相談し、最適な戦略を立てることが重要です。
Q6. 生前に不動産を贈与することで相続税の負担を減らすことはできますか?
生前に不動産を贈与することで、相続税の負担を軽減する方法はありますが、贈与税が発生するため、慎重に検討する必要があります。
贈与税には基礎控除(年間110万円)がありますが、それを超える部分については贈与税が課されます。
また、贈与した不動産の評価額が高額な場合、贈与税の負担が大きくなるため、贈与を行う前に税理士に相談し、最適な方法を選ぶことが重要です。
生前贈与を通じて相続財産を減らすことは、相続税を減少させる一つの方法ですが、贈与税と相続税のトータルで見た負担を考慮することが求められます。
まとめ
不動産の相続税は、評価額の決定方法や適用される税制によって大きく変動します。
相続税の基礎控除や申告期限を守ることは非常に重要で、遺産の中に不動産が含まれている場合、その評価額を適切に申告し、必要な対策を講じることが求められます。
また、相続発生前に不動産の活用や生前贈与を検討することで、相続税の負担を軽減する方法もありますが、贈与税とのバランスを取ることが大切です。
不動産を相続した際には、適切な評価や申告、税の支払い方法を選ぶことが重要です。
税理士に相談することで、適切な対策を講じ、相続税を最小限に抑えることが可能になります。相続に関する複雑な税務処理については、専門家のサポートを強くおすすめします。


